■ご講演の内容

 今回の研究会では、独立行政法人国際協力機構(JICA)東・中央アジア部の篠﨑祐介さまをお招きし、ご講演をいただきました。冒頭では本日の講演内容に関しての概要と、これまでのご経歴を基に自己紹介をしていただきました。

 

〇なぜ国際協力を行うのか、ODAとは

 世界の人口の約8割が開発途上国で暮らしている状況であり、具体的にはどのような状況が発生しているのかをフィリピンのサイクロンの被災地、シリアなどの難民キャンプ、ナイジェリアの小学校、ザンビアの病院、タイの洪水、インドネシアの大渋滞などを例に、お話しいただきました。

 また、日本のエネルギー自給率は低く、海外から輸入している点、食料自給率も低くこちらも海外からの輸入を行っている一方で、日本の自動車や機械などの工業製品やマンガ・アニメ・観光などのサブカルチャーの輸出を行っており、日本と海外の繋がりは密接なものであるというお話をしていただきました。

 先進国から新興国・途上国への経済力シフトが進展しており、中国をはじめとするBRICSの急成長によって新興国・途上国の経済規模は総額ベースでいうと先進国を上回っている状況があること。加えて、2030年の世界では中国・インドの経済力拡大、アフリカの人口増大、日本の相対的国力の低下などが予測されているため、日本も新興国や途上国と結びつきを強め、その勢いを享受していく必要があるとお話をしていただきました。

 貧困撲滅という観点からは、極度の貧困は世界全体から見ると確かに減少していますが、減少しているのは東アジア地域などで、南アジア・サブサハラ・アフリカ地域では貧困層の割合の減少があまりみられないため、人道的な配慮は引き続き必要であるそうです。

 日本もかつてガリオア・エロア資金や世界銀行からの融資など返済義務が無いものも含め多くの支援を受けており、東海道新幹線、東名高速道路、黒部第四ダムなどはこれらの資金を利用して整備されました。援助で受けた資金の完済は1990年の7月であり、まだ約30年しか経っていません。

 借りた資金を有効活用しアメリカと並ぶ経済大国になった日本は、今や他国の援助を実施する国となりました。この経緯より、日本は援助における模範生とも呼ばれているそうです。

 多国間援助という複数の国家が連携して援助するという形態は、途上国での開発課題が多様化し国境を超えた問題も多々あり、一カ国の支援では解決できないことも多くなってきたため近年拡大してきています。また、人道的な観点からも、日本への影響の考慮という点からも、一か国で援助できない場合でも放置はできないため、このような方法は大切だということをソマリアの例を挙げてお話しいただきました。

 日本は軍事力を通じた支援などが出来ない点からも国際協力の場を通じて世界に貢献していくことは重要であるとのことでした。

 ODAとは政府開発援助のことで、日本の支援の特徴の一つは相手国のオーナーシップを重要視する点で、意見交換を通じながら相手国の自助努力を推進します。ODAの予算は1997年がピークで現在は減少、安倍政権以降微増していますが、2020年度各国のODA実績(総額)では日本は第4位です。いわゆる先進国は対GNI比0.7をODAに充てることが目標とされていますが、北欧や英国などの数カ国以外は未達成国が多く、日本も未達成です。日本国内における内閣府の調査では、ODAに対して国民は比較的好意的な意見が85%を占めており、貧しい国に対して援助すべきという意見は44%とのこと。これについて、当事者としては、これほど好意的に感じてくれているのか、事業を通じては見えづらいと感じられるそうです。

 ただ、こういった支援などで密接なかかわりを持っているため、東日本大震災の際には、100か国以上から日本への応援メッセージが寄せられたそうです。

 

〇JICAの役割と事業内容、身近な国際協力事例

 ODAの中には二国間援助と多国間援助という分類がありますが、JICAは二国間援助を担い、様々な経済開発、経済協力のスキームやメニューを持っています。

 JICAの正式名称は独立行政法人国際協力機構であり、2008年に国際協力銀行の海外経済協力業務(有償資金協力を行っていた部門)と統合、2008年10月から技術協力、無償資金協力、有償資金協力すべてを一元的に行う実施機関となりました。

 通常は、途上国の開発課題に対してどういった解決方法を提示できるか、相手国と共にその内容を考え、その後、実施段階では内容をモニタリングして次の政策に生かすPDCAサイクルを意識し援助を行っています。

 技術協力・有償資金協力・無償資金協力、全てにおいて相手国の課題背景を加味し、日本がもちうるリソースを用いて解決を目指すオーダーメイド式の支援を行っているそうです。

 活動の三本柱の一つである技術協力では、開発の担い手となる人材の育成のため、相手国の行政官や研修員の受け入れを行い、日本国内における行政の方法や技術を伝えています。

また、日本から技術者を派遣して専門的な知識の移転を実施することもあり、それにあわせて機材供与などを行うこともあるとマラウイの灌漑開発の事例などを提示しつつお話しいただきました。

 有償資金協力とは資金を緩やかな条件(低金利・長期返済期間)で貸し付ける形態の援助で、大規模な支援が行い易く、途上国の経済社会開発に必須なインフラ建設等の支援に効果的であるそうです。途上国に返済義務を課すことで自助努力を促す効果をもち、貸借関係があることで、その国と中長期にわたり安定的な関係を維持することも期待できます。例として、タイの空港やインドの鉄道、モンゴルの空港などをあげることができるそうです。

 無償資金協力とは開発途上国に資金を贈与する援助形態であり、有償資金協力に比べると小規模な援助となりますが、国際社会のニーズに迅速かつ機動的に対応するための有効な手段となります。目に見える形(ビジビリティ)の効果が期待できるそうです。

 緊急援助隊事業では、主に自然災害に対して派遣されることが多く、多様な関係者と連携も行いつつ支援を行うとのことでした。

 海外協力隊のようなボランティア事業もこの一環で、92カ国に派遣、約200以上の職があり、今までに45,000人以上が協力隊として活動しています。

 身近な国際協力の事例として、フィリピンのミンダナオにて平和と開発、南スーダンのスポーツを通じた平和構築、エジプトでの日本式教育の導入、チリにおける日本産サケ類移植プロジェクト、ブラジルのセラード開発があるそうです。

 

〇難民・国内避難民支援

 難民・国内避難民支援の具体例としてはシリア内戦、南スーダン不安定化等で難民が増加したとのこと。難民の84%は発展途上国が受け入れていますが、受入国側の負担も大きく、緊急・人道支援機関も予算が厳しい状況にさらされているそうです。JICAが難民を支援する場合には、紛争地帯での活動が難しいため、難民を受け入れている周辺の国家に対する行政支援や財政支援を行うことが多く、難民を対象にした人材育成など生計能力向上の支援や、難民を留学生として日本に受け入れる対応、周辺国家に対するインフラ支援なども駆使して出来うる支援を行っているとのことでした。実際の支援例としてはウガンダの南スーダン難民受入地域支援、ウクライナ難民にかかるモルドバでの支援、アフガニスタン支援などがあげられるそうです。これらの具体例について、詳細にお話しいただきました。

 

〇外国人材とODAの協働

 外国人労働者を技能実習生や特定技能として日本に受け入れ、日本の技術を学んで母国に戻った後にその技術を活かしてもらう枠組みがありますが、農業分野では日本で学ぶ技術のレベルが高すぎて母国で活用が出来ないことや、事前事後の研修なしに単純労働だけ行って帰っていくため技術が習得・更新されず、母国へ戻っても就労できないなどの問題点も多かったため、JICAではそれぞれの技能実習生に合った野菜の日本と途上国の産地間をマッチングさせる取り組みを発案したことをお話しいただきました。今までの制度は、日本の監理団体より途上国側に技能実習生を派遣して欲しい時期と人数を提示した依頼を出すと、途上国側の送出機関が人数を揃えこの依頼に応じ、監理団体と送出機関間で契約が成立すると技能実習生が日本へ送られてきますが、実習生のバックグラウンドを問わなかったため、技術の定着や成果の活用が難しい状況でした。JICAが提案した枠組みは人材のリストを作成し、バックグラウンドを加味して、産地間をマッチングさせて派遣するものです。現在、この枠組みは導入したばかりであるため今後の経過を見守りつつ、外国人材への支援を検討していく必要があるとお話しいただきました。

 

〇講義を踏まえての質疑応答・ディスカッション

 講義後のディスカッションでは、参加者の皆さんの質問を大まかに①ODAやJICAに関するご質問、②海外における協力事例に関するご質問、③日本国内での取り組みに関するご質問、④その他のご質問などの四種に分類し、順番に篠﨑さまにお答えいただきました。今回の参加者には教育に携わる方も多かったため、JICAに関わる方々のキャリアや専門性、国際関係に関して生徒にどのように教えていくのか、生徒たちも実感できるような支援上の具体例などはないか、JICAが支援する際にはどのような立場の人々と支援の折衝を行うのかなど教育に関連する質問等が多く挙がり、お答えいただきました。今回、篠﨑さまにお話しいただいた技術協力などに関して、関わっていないと想像できないようなお話がたくさんあり今後のキャリア学習などで役に立つのではないかと思いました。個人的には日本の母子手帳のシステムが海外で活用されているお話などは、生徒たちも身近に感じられるような実例として面白いと感じました。

 JICAと聞くと新興国・途上国を支援しているらしい、というところまでは生徒たちもなんとなく知っていることであるとは思いますが、実際にどのような活動をしているのか、どんな理念で、その結果どのような状況が齎されるのかまで想像することはあまりないと思います。実際に使われている技術やどのような影響が現れたのかを、開発協力の当事者に聞くことでより想像しやすく、また自身の視点との相違を意識しながら考え直すよいきっかけになっていくのではないかと思います。自身が授業を作る際の参考になる素晴らしい機会であったと思います。

 

 結びになりますが、ご講演いただきました篠﨑さま、ご参加いただきました皆さま、誠にありがとうございました。

 

文責・企業教育研究会 木口恵理子

2022年4月16日(土)に第148回千葉授業づくり研究会「緊迫する国際情勢に子どもと一緒に向き合うには?」を開催しました。前回同様、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止のため、オンライン会議ツールZoomを用いて実施しました。

 

■ご講演の内容

 今回の研究会では、朝日新聞社論説委員の沢村亙さまを講師にお招きし、ご講演をいただきました。講演冒頭では、論説委員の仕事内容や、海外での滞在歴、今までに取材に出向いた場所等についてお話しいただきました。お仕事の内容として、社説やコラムをお書きになっていること、1986年に朝日新聞社に入社されてからの半分以上を欧米などの海外で過ごされたこと、ユーゴスラビア紛争、チェチェン紛争などで、現地に赴き取材されてきたことなどのお話を頂きました。

 

〇欧州の歴史とそこから見るウクライナ侵攻の衝撃

 連日、ロシアのウクライナ侵攻が様々なメディアで報道されている中で、なぜこれほどまでに世界へ衝撃を与えているのか、その要因について、欧州の歴史を踏まえつつ、お話していただきました。欧州では歴史的な経緯から国と国の境目が複雑に入り組んでおり、1つの村に複数の国の国境線が通っていることもあるそうです。例えば、オランダとベルギーの境にある村では、店舗の中に国境があり、ある日はオランダ側から店に入り、また別の日にはベルギー側から入る事もできるというお話がありました。また、欧州では長い間、王や宗教権力による専制階級社会であることや、産業革命や世界大戦などの時代を経たことなどから、常に争いが絶えない地域であること、またそのような争いをどう協力して生き抜くかという考えから、欧州連合(EU)のように国境の垣根を低くしながら結びつきを強めてきたことについてお話しいただきました。このような隣国との結びつきが強い欧州の東部に位置しているウクライナに、突然大国であるロシアが侵攻したために、世界への衝撃やその影響力が大きいとお話しされていました。

 

〇欧州の分裂と統合

 欧州の歴史のお話に引き続き、欧州に着目し、欧州の分断と統合の背景についてお話しいただきました。欧州で分断が起きている要因としては、紛争、歴史、ナショナリズム、移民等への価値観の変容が挙げられていました。欧州は国と国の統合への反動として、言語や文化の独自性を担保したい地域や民族が不満を抱き、対立が起きてしまうこと、また一部の政治家が、過去に支配された国や民族の歴史や、ナショナリズム、民族主義を後から持ち出し、紛争につながる要因になってしまったこと、実際は富をめぐる経済的な理由から争いが起きてしまっていることなどを、お話ししていただきました。

 このような分断が起きていても、なお欧州の国々の結びつきが強い理由としては、標準化、グローバル課題への対処、安全保障、多様性といった観点からお話ししていただきました。27ヵ国が集まり、共通の決まりを作ることで、それを国際標準にしやすいこと、また、今まで培ってきた、多様な意見を1つに集約するという力を生かして、地球温暖化などのグローバルな課題への対処を行っていること、隣国との結びつきを強めることで、隣国に対する防衛費を減らせ、その分を社会保障等に回せること、様々な背景を持つ人と共生している多様性が豊かなこと等が、統合のメリットとしてお話しされていました。

 

〇アメリカの歴史と西側諸国の課題

 ここまで欧州に着目してお話しされていましたが、世界の中で大きな影響力を持つアメリカ合衆国について、次にお話ししてくださいました。アメリカは、対外に関与する外向きの外交と、アメリカ国内に閉じこもる内向きの外交を繰りかえしてきた歴史があり、またアメリカは国境を接している国が主にカナダとメキシコのみという、いわば「巨大な島国」のようなものとして、攻められにくい地形であると述べられていました。次に、沢村さまは、かつて冷戦でアメリカが勝利を収めたとする考え方があったことを述べ、一方でそれを懐疑的にみなす風潮にも触れながら、冷戦構造がアメリカに及ぼした様々な影響についてお話しされていました。まず、イラクやアフガニスタンなどで長期にわたる戦争を行い、多数の犠牲者と戦費を出してきたこと、リーマンショックをはじめとした金融危機やその時の富裕層への支援の強化、主に製造業での中国をはじめとしたアジアへの雇用流出等がもたらした経済格差の拡大、中国が軍事的に、特に科学技術分野や経済面で急成長していることへの危機感、人口構成比が変わっていること等を挙げられていました。また、このような背景からトランプ氏が大統領に選ばれ、アメリカ・ファーストを推し進め、多くの白人労働者層の支持を得るといった経緯があることをお話しされていました。また、そのような経緯を踏まえて、西側諸国で、政府や議会、メディアなどの組織・機関への信頼の喪失、陰謀論のようなものが出てきたこと、自由主義への不信などが、共通の課題として見られるとおっしゃっていました。

 

〇ロシアの国際的な役割や時代背景から見た、ロシアのウクライナ侵攻の衝撃

 ここまで主に欧米に着目して歴史と時代背景をお話しいただきましたが、現在ウクライナ侵攻を行っているロシアの国際的な地位、置かれた立場等に着目し、ウクライナ侵攻の背景やその衝撃の大きさについてお話ししてくださいました。ロシアは国連安保理の常任理事国として拒否権を持つ国であり、また核保有国として国際秩序の安定に努力すべき大きな責任を負うことを挙げ、それにもかかわらず今回の隣国への一方的な侵攻に踏み切ったことが衝撃的であると述べられていました。また、冷戦後にロシアへの西側諸国の関心が低下する一方で、ロシアがエネルギー資源を活用して、富と軍備を増強し、自信をつけたこと等があり、ウクライナへの侵攻に至ってしまったのではないかということなどをお話しされていました。

 

〇中国

 連日の報道で、中国のロシアに対する発言が度々報道されているように、ロシアと結びつきの強い中華人民共和国について、次にお話しされていました。当初、西側が期待していた経済発展による民主化は実現せず、一方で西側諸国の経済的・政治的な停滞により生じた民主主義に対する軽蔑の感情もあることから、民主的選挙のない中国では民意が反映されづらいという共産党一党体制の弊害も発生しているとおっしゃっていました。また、その他の課題としては、格差社会、少子高齢化、台湾をめぐる緊張の背景についてもお話ししてくださいました。

 

〇戦争・紛争をどう伝えるのか

上述の国々の歴史や、それを取り巻く時代背景、そして現在の国際情勢について、ここまで興味深いお話しをたくさんいただきました。それらを踏まえて、それらをどう「伝える」のかという観点で次にお話ししていただきました。ジャーナリズムは中立の立場を取り、たとえば英国のBBC放送が英軍について「我が軍」といった呼び方を使わないなどの公平性を保っていたり、時には人道など普遍的な価値観への攻撃に反対する役割を担ったりしてきたにもかかわらず、それが時代の流れの中で、ジャーナリズム自体が攻撃され、ジャーナリストが犠牲になるなどの事態も生じているという大きな変化が起こっているとお話しされていました。また、軍備などの技術の進歩により、戦争自体が見えにくくなっていること、昔は「軍と軍」の戦いであったのに対し、現在では軍とテロ組織などといった、「軍と軍以外の戦争」となるなど、戦争が非対称になっていること等の戦争の変化を挙げ、そうした状況で戦場で何をどのように伝えるべきかが重要な課題になっているとのお話を頂きました。

 

〇戦争・紛争をどう知るのか

 インターネットが普及している現代で偽の情報、フィルターバブルやエコチェンバーなどの、情報の受け手が好ましい情報のみを受け取るため情報が偏ってしまうこと、立場の違いによる主張の違いがあることなどを問題として挙げ、公正な情報に接すること、どうしたら戦争を防ぐことができるかを考えること、戦争という悲劇をより身近なものとして感じることなどが重要であるとお話しされていました。また、情報の受け手に戦争を身近に感じてもらうために、沢村さまは現地でストーリーを探すことを大切にし、たとえば難民の方には避難する直前にしていたことを聞くことなどで、日本人に親近感を持ってもらうなどの工夫をされていたとおっしゃっていました。

 

〇子どもにどのように戦争を伝えるのか

 講義の終盤に、NGOである、セーブ・ザ・チルドレンの方からの、子どもと戦争のことについて話し合う際には、あえて目を背けるようなことはせずに、子どもの気持ちに寄り添い、子どもと話すタイミングを大切にして、それぞれの年齢にあった説明をすること、助けたいという想いを子どもが持ったらその想いを応援すること等のアドバイスを紹介して下さいました。

 

■講義を踏まえての質疑応答・ディスカッション

 以上の沢村さまのご講演の後、質疑応答・ディスカッションを行いました。その中で、沢村さまの海外でのご経験や、紛争地域でのジャーナリズム活動、西側諸国の歴史、現代の社会情勢、教育にどのように活かしていくのか等について質疑応答や議論を行いました。その中でも、特にどう教育に活かしていくのかという点について、参加者の皆様と議論しました。沢村さまご自身のご経験や、ジャーナリストというお仕事の実情等を伺い、よりリアルなお話をお聞きすることで、子どもに戦争をどう理解してもらうか、またキャリア教育への応用への可能性、子どもの年齢や実情に合わせ、教員が公正・中立な立場から話すとはどういうことか、その出来事が起こった理由や時代背景について教えるなど、「知る」ことが大切であること、正しい情報を見極め、伝えることが大切であることなどが挙げられました。また、インターネット社会における情報の偏りを減らすためには、新聞やラジオなど、伝統的なメディアなど幅広く接することで新たな情報との偶発的な出会いを増やすことが大切であるのではないかとのご指摘もありました。

 筆者個人といたしましては、今回のご講演を通して、まずは戦争の現状・背景を正しく知ること、そしてそれを子どもの想い、年齢等を踏まえて、丁寧に伝えることの大切さを強く感じました。デリケートな話題だからといって、子どもに伝えることから目を背けるのではなく、まずは自分自身が、時には子どもと一緒に、戦争について公正な情報を得て、正しく理解すること、そしてそれを子どもの想いや実情を一番に考えて、伝えることが必要だと思います。そうすることで、戦争や平和について適切に理解し、想いを馳せたり、支援したりすることができるようになる大人になること、そしてそのような人を育てることにつながるのではないかと思います。そして、それはとても大切で、かつ素敵なことではないかと考えています。

 

 結びになりますが、ご講演いただきました沢村さま、ご参加いただきました皆さま、誠にありがとうございました。

 

文責・企業教育研究会 菅谷美玖

本年度より千葉大学大学院教育学研究科の「横断型授業づくり実践研究Ⅱ」の講義について、大学と企業教育研究会(以下ACE)が連携を取ることになりました。初年度の試みについて、授業の様子を紹介します。

 

■ 講義概要 ■

講義名:「横断型授業づくり実践研究Ⅱ

期間:2021年9月~2022年2月(後期・1時限分)

シラバス:教科・領域横断的な課題を扱う授業実践の開発及び実施の過程に参画することを通して、教育の方法及び技術のあり方を批判的に考察するとともに、情報機器や教材の活用を積極的に活用して新たな授業実践の開発に取り組む能力を育てる。この科目では特に、教材の開発や指導案の作成に重点を置く。

 

■ 講義目標 ■

教科・領域横断的な授業に資する教材開発の方法について理解できる。

教科・領域横断的な授業について、簡単な指導案作成ができる。

 

■ 講義内容 ■

ACEのパートナー企業の方々にご協力いただき、大学、企業、ACEとの三者連携で実施しました。

具体的には、パートナー企業が提供している出張授業を教材研究し、そこにアレンジを加えて新しい授業を作ってもらいました。学生と企業が直接やり取りをし準備を進め、集大成として千葉大学教育学部附属中学校で授業を行いました。現場体験が教育実習のみという大学院生も多いため、机上には留まらない経験を得ていただく機会になりました。

 
 
 

■ ACE協力内容 ■

ACE職員であり、同大学院博士課程にも属する明石さんが中心となり授業を担当しました。明石さんは博士課程の学生が授業を受け持つ制度であるTF(ティーチングフェロー)として、本講義を受け持っています。
 
ACEの役割として、まず協力いただけるパートナー企業を募り、学生との橋渡しをしました。また、企業と学生とのやり取りについては、明石さんが責任者としての立場で見守ることで、企業の方に安心して協力いただけるようにしています。
 
また、一部TFとしての立場も含まれますが、授業アレンジについては、職員として常日頃から授業を開発している立場を活かしアドバイスを行いました。外部とのやり取り、教具選定や情報収集については、授業準備の過程が経験できるようサポートしています。学生のみなさんがこれらの過程を経験することで、ゆくゆくは自立して授業を作ることができるようにという思いを持って関わったそうです
 
ACEは、この講義を通して学生の方々が社会との繋がりを意識し、既存の方法に捉われない新しい学びを取り入れてくれる教員、もしくは新しい学校教育に関心ある社会人となり、世に羽ばたいてくれることを期待しています。
 
 

■ 講義を通しての感想 ■

◆◆ACE担当・明石さんよりコメント(抜粋)

講義については、講義概要の説明以降は、NPO職員の立場で関わるよう意識しました。受講生とメールはTFの立場ではなくビジネス様式で連絡し、また、なるべく受講生が直接企業のとコンタクトをとる経験ができるように心掛けました。

 

社会とつながった学びの機会をつくる際、教師には実社会の情報を集めたり、学校での学びと関連づけられる点を研究したり、子どもにわかりやすい伝え方を考えたりすることが求められます。本講義の教材研究は、こうした準備の練習として重要な経験になると考えたため、私からは受講生に対して教材研究を深められそうな点をいくつか示すにとどめていました
 
授業アレンジについては、講義中心ではなく発問が工夫されているか、生徒の思考の流れに沿っているか、受講生がアレンジの方向性を見出した後は、その方向性に沿って、より実現可能な指導計画や生徒の学びやすさ・楽しさを高めるための工夫などをアドバイスするようにしました。
 
初めのうちは受講生から「授業案の理解が難しい」「どこをどうアレンジすればよいかわからない」といった声が上がっていました。けれども、自分たちなりに教材研究を深め、授業アレンジの方向性が定まると、どのグループも実現に向けてひたむきに取り組んでいました。
結果、授業当日も教師、生徒、企業の講師が上手く掛け合いながら授業を展開できたと思います。
 
本講義をきっかけに学校、企業、大学院の連携による授業づくりに興味を持つ人が増えれば、企業教育研究会が目指す「誰もが教育に貢献する社会」の実現に近づいていけるのではないかと考えているので、これからは今年度の実績をふまえて講義を改善し、継続的な取り組みにしたいです。

 

◆◆大学院生・古池さんの感想(インタビューより抜粋)

苦しい時もあったけれど、達成感のある講義でした。今までにない授業づくりが体験でき、また、企業の方のやり取りなど、そのためのスキルも身につく講義でした。
 
始めは、授業づくりに慣れていない中、アレンジをスタートすることは困難に感じました。
ただ、手取り足取り教えてもらうより、四苦八苦することでイメージしやすいアレンジに流れることなく、幅が広がったと感じています。
 
この講義を受けて、外の人(学校外の人)と授業をやってもいいんだという思いを持てるようになりました。
企業の方が積極的に前向き関わってくれたという体験は、会社の方と協力することに対する安心感を得られ、抵抗感が低くなりました。
 
今までは題材について、それを子供にどう伝えるかということしか考えていませんでしたが、企業の方々が、これを教えることにより、どう将来につなげていくのか。なぜ、その学びが必要なのかと問われ、子供の将来にまで視点を拡げることを教えていただきました。
 
学校だと、学校内で完結しがちですが、子どもは結局、社会に出ていくものなので、社会に出ていくことを見据えることが必要と具体的な体感をもって感じられました。
 
通常とは違う内容の授業を一つ作り上げる大変さも感じましたが、機会があれば、今後も企業の方とコラボなどしてみたいと感じます。
ただ、このような授業を作成するには、社会の外にも目を向けなければならず、面白い授業を作成するために世の中の動向を把握することも大切だと感じています。

 

◆◆担当教授・藤川先生より

私は、大学院の授業を担当する大学の教員であり、授業が行われる千葉大学教育学部附属中学校の校長であり、NPO法人企業教育研究会の理事長でもあります。
今回は、NPOで一緒に授業づくりをさせていただいてきた企業の皆様にご協力をいただいて、大学院生による授業を中学校で実施させていただくという貴重な企画を実施することができました。
 
千葉大学大学院教育学研究科では、附属学校と連携して、大学院生が実践的に学ぶ授業を開講しています。大学と附属学校が隣接していることを活かした取り組みです。
 
これまでの授業では大学院生は授業を観察することが中心だったのですが、今回は大学院生が数名ずつに分かれて、企業の方々と一緒に授業を企画し、実施することができました。
メールやオンライン会議で企業の方々と繰り返し相談をさせていただく経験は、学生たちにとって貴重な経験となったと思います。
 
また、千葉大学教育学部附属中学校では、発展的な内容を扱いやすい選択教科の時間を設定しており、今回の授業も選択教科の時間を活用して実践しました。
 
これからのデジタル社会のあり方に関心を持つ生徒たちが選択してくれたので、生徒たちにとっても、大学院生と企業の方が企画した授業に続けて参加することで、理解が深まり、発想が広がったことと思います。
 
附属学校でのこうした実践の成果を、多くの学校で活用していただけたらありがたいです。
 

◆◆各企業の皆様より感想です

企業さま向けアンケートより、どの企業様からも、改善点はあるものの、講義全般を通して協力した意義があったと回答いただきました。また、来年度以降の協力についても、前向きな回答をいただいています。協力企業の皆様には、ご多忙にもかかわらず、積極的にご協力いただき心より感謝します。
 
【 企業への皆様のアンケートより抜粋 】
・大学院生の新鮮な目線で授業内容を見直し実践をする様子拝見させていただいたこと、フィードバックをいただいたことが今後の活動に向けて参考になりました。アレンジ例が蓄積できたこともありがたいです。また他企業の取組も少しですが拝見することができたのがよかったです。
 
・授業後のフィードバックセッションでのご意見や、アンケート結果や大学院生のレポートを報告書にまとめてくださったことで、改めてこの授業の位置づけや意義を考えることができとても参考になりました。
 
・院生の方々が真摯に授業開発に取り組まれる姿勢を通し、企業の立場として出前授業で学校教育に携わることが出来る意義を再認識しました。
今後も学校現場に向けた弊社ソリューションを題材として授業開発を積極的に行っていきたいと言うモチベーションになりました。
 

◆◆各企業さまの大学連携講義紹介記事はこちら

◇⽇鉄ソリューションズ株式会社さま

https://k3tunnel.com/mission/009/teacher.html#case4

◇株式会社メルカリさま

https://education.mercari.com/case/2022/3/jr-chiba-u2021/

◇株式会社ソニー・インタラクティブエンタテイメントさま

https://www.sie.com/jp/blog/2022/02/09/guest-lectures-about-video-games/
 

■ 最後に ■

初めての試みでしたが、学生の方々にとって、たくさんの経験をしていただき、学びのある連携講義になったのではと思います。
(教員を目指す立場の)学生の皆さんが、自分でも授業を作ることができる!やってみたい!という思いを持っていただけたのなら、こんなに嬉しいことはありません。
 
ACEは、来年度以降も連携授業に協力する予定です。
 
連携講義への協力を通して、私たちが目指す「授業を受ける子どもたちにとって教育効果が高い授業を届ける」、「教師だけが子どもたちの教育に関わるのではなく、企業で働く人や大学生も教育に関わり、より多くの人が教育に関われる」ことに繋がればと考えています。

 企業教育研究会(以下、ACE)では、アクセンチュア株式会社と連携し、配布型教材「ひな社長の挑戦」を新たに開発しています。この教材は、ACEとアクセンチュア株式会社が提供している既存の出張授業「考え、議論する道徳・キャリア教育」の世界観に沿った内容になっています。既存の出張授業では、生徒がアニメーション教材のストーリーの中で架空の会社「天漁社」の社員となり、会社の経営課題の解決策を考え、議論します。新教材では「天漁社」が起業される時のストーリーに沿って、生徒が社会課題の発見、諸資料を活用した探究活動、解決策の考案までの一連の過程を体験し、今後の社会において求められる「現実的な課題を設定し、自ら思考して実行に移すことが出来る姿勢と能力・技能」を学びます。

 体験セミナーでは、「ひな社長の挑戦」を多くの学校で活用していただくため、まず最新の社会状況と、今後の社会で求められる能力・技能について先生方に講演を行い、その後、実際に教材の一部を体験していただく機会を設けました。

セミナー前半では、アクセンチュア株式会社の藤田学さまより、デジタル技術の発展や働き方の多様化、インクルージョン&ダイバーシティの促進といった日本の社会の変化と、それに伴い必要とされる次世代型人材についてのお話がありました。参加者の先生方からは、学校の中からでは気づきづらい実社会の最新状況を知ることができたという感想が寄せられました。その後、ACEの講師が教材の一部を用いた模擬授業を行い、先生方に授業を体験していただきました。模擬授業後のディスカッションでは、実際に先生方が教材を用いて授業を行う場面を想定した改善点や、より生徒が学びやすくなるための様々な立てが提案されました。

 今後は、セミナーで得た知見を活かして教材を改修し、学校への普及に向けて取り組んで参ります。

 ご講演いただいた藤田さま、参加者の皆さま、ありがとうございました。

2021年12月18日(土)に第147回千葉授業づくり研究会「子どもの自立的な職業観形成を促す、新しいキャリア教育のあり方とは!?」を開催しました。前回同様、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止のため、オンライン会議ツールZoomを用いて実施しました。

今回の研究会では、アクセンチュア株式会社のコーポレートシチズンシップ(企業市民)活動にて次世代の人材育成プログラムを推進する藤井篤之さまにご講演いただきました。

研究会前半は、デジタルテクノロジーの発展や、社会で求められる人材の変化について藤井さまにご講演いただきました。講演ではデザインシンキングによる実社会の課題解決事例や、サービスデザインのプロセスを学ぶ教育プログラムの事例をもとに、次世代に必要なスキルとキャリア形成について説明いただきました。後半は、「多様な働き方・生き方の中から自立的に自らのキャリアを形成していく力を育む」キャリア教育のあり方について、参加者の皆様と議論しました。

 

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【講演概要】

 

・アクセンチュア株式会社の概要

「テクノロジーと人間の創意工夫で、まだ見ぬ未来を実現する」という企業コンセプトや、変革を起こすための道筋の描き方、プロジェクトに携わる様々な業種、国内外にまたがる幅広い取り組み等についてお話いただきました。学校では触れることが難しい企業の最先端の取り組みを知り、参加者は新鮮な衝撃を受けていました。

 

・ビジネス環境の変化と日本の位置

昨今のビジネスでは「将来創出されるであろう価値(FV)」の重要性が高まっていることや、世界では持続可能性による新しい競争ルールができていること。一方で、日本企業ではFVの伸び悩みによる企業価値の伸び悩みの問題などについてお話しいただきました。日本で起業が少ない原因として「失敗に対する危惧」や「身近に起業家がいない」こと、「学校教育」などが指摘されているデータから、キャリア教育の問題にも言及されました。

 

・デジタルテクノロジーの発展

AIや、オンライン上のバーチャル空間の活用について、JALにおけるAIコンシェルジュや、TIKTOKのAI技術、ライブコマース市場の成長、バーチャル空間におけるコンサートなど、幅広いジャンルにおけるデジタルテクノロジーの活用事例をご提示いただきました。参加者はビジネス界で活用される事例から、情報化社会の最前線に触れることができました。

・求める・求められる人材の変化

AIの進化に伴う求められる人材の変化や、近年の価値観の変化に応じた働き方の多様化についてお話いただきました。藤井さまによれば、今後の社会では定型的な仕事はAIに代替され、AIの活用者が不足すると推定され、AIに代替可能な仕事とそうでない仕事の間の賃金格差が拡大する可能性があるそうです。このような社会では人間とAIの役割分担を意識した業務再設計が重要になると藤井さまはおっしゃっていました。また、NETFLIXの自由なカルチャーの事例から、参加者は働き方の多様化について具体的に知ることができました。

 

・次世代に必要なスキルとキャリア形成とは

今後の社会変化の中では「現実的な課題を設定し、自ら思考して実行に移すことが出来る姿勢と能力・技能」を持った次世代型人材が求められることを指摘した上で、課題解決の際の具体的な思考プロセスとしてサービスデザインアプローチについて事例を交えて紹介していただきました。また、中高生を対象とした教育プログラムの事例についても提示していただき、今後のキャリア教育へのヒントをいただきました。

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【質疑応答、意見交換】

 

 ビジネス環境の変化と日本の位置については、参加者から日本では「「失敗しないこと」を前提に動く人が多い」のはなぜかという質問が挙げられました。藤井さまからは、日本では「失敗しないこと」が重視される傾向があることや、「自分の考えを否定されることをネガティブに捉えがち」で「空気を読むことが重視される」文化であることが理由として示されました。また、藤井さまによると、グローバルコミュニケーションにおいて、空気を読むことに代表される日本人の特徴は否定的な見方をされるのではなく、尊重されるようになってきているそうです。学校ではグローバル社会で働くことを想定し、自分の意見をはっきり表現する力を育成することが重視されてきました。一方で、ビジネス界では様々な国の文化を互いに意識し合う動きが見られるということについて、参加者は新しい気づきを得ることができました。また、「どのような手段で日本は稼ぐ国を目指すべきか」という質問に対しては、藤井さまから「製造業は日本の強みであり続ける必要がある。また、日本はタブーが少なく色々なコンテンツを作ることができる。日本で生まれたコンテンツを世界に発信するプラットフォームができれば、コンテンツも産業の強みに出来る」というご意見をいただきました。また、藤井さまは、リアルとデジタルの組み合わせによって価値を生むチャンスも、重視していく必要があると指摘していました。

 デジタルテクノロジーの発展については、学校の先生方からAI活用の具体事例が知れて良かったという意見が挙がり、関心の高さが伺えました。

 求める・求められる人材の変化については、企業における社員育成のプロセスや、自己肯定感を高める工夫についての質問が挙がり、企業の教育プログラムから学校のキャリア教育へのヒントを得ることができました。また、「失敗を恐れない姿勢を育成することと、成功体験の機会をつくることの兼ね合いをどのように取れば良いか」という質問に対しては、藤井さまから「大人のサポートの枠組みを決め、子どもに成功させる部分と、失敗しても良いから子どもに任せる部分をつくる」という方法が提案されました。他にも「論理的思考を養うためにはどんな取り組みが良いと思いますか」という質問に対しては、「数学だけでなく、社会科や国語の時間で問いを分解していく活動が重要だと考えている。社会科や国語の裏にあるロジック、例えば社会の現象を数字に落としていくことでロジカルに分析することを学ぶ方法ができるのではないか」というアドバイスをいただくことができました。

 次世代に必要なスキルとキャリア教育については、次世代に求められるスキルと文部科学省が掲げる「基礎的・汎用的能力」との関連について議論を行いました。

 

今回の参加者は学校の教員が多く、社会の最新状況への関心の高さが窺えました。今回の研究会が先生方にとって企業の最先端の取り組みを知り、今後のキャリア教育の方向性を考えるきっかけとなれば幸いです。

ご講演いただきました藤井さま、ご参加いただきました皆さま、ありがとうございました。

 

文責・企業教育研究会 明石萌子

2021年11月20日(土)に第146回千葉授業づくり研究会「テクノロジーを活用した学校教育のアップデートを考えよう」を開催しました。今回も引き続き、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止のため、オンライン会議ツールZoomを用いての開催となりました。

今回の研究会では、学校教員を経て、現在はITエンジニアとして働きながら個人的な活動として、テクノロジーを活用した学校教育の改善方法を検討されている寺井省吾さまを講師にお招きし、ご講演いただきました。

研究会の前半では、寺井さまが開発された席替えメーカーを実際に参加者の皆様に体験していただいた後、寺井さまが考えるテクノロジーを活用した学校教育のアップデートについてお話ししていただきました。また後半では、席変えメーカーへのフィードバックや学校でのテクノロジーの活用の仕方について参加者の皆様と議論しました。

 

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講演では、主に以下の点についてお話をいただきました。

 

席替えメーカーについて

寺井さまは中学校教諭として働く中で学校現場には沢山の課題があることに気づき、課題解決をより幅広い方法で行うことを目指してエンジニアに転職され、現在は個人的に席替えメーカーなどの教員の業務を改善するWebアプリを開発されています。講演の冒頭では、まずこの席替えメーカーについてお話いただきました。

この席替えメーカーとは、席替えの「原案をつくる」アプリだそうです。特徴は、Webアプリのため日本中の教師が無料で使えること、また教師目線に立った細かな条件を指定できるという2つがあるとのことでした。教師目線というのは、例えば目が悪い子を前の列の席になるように配慮したり、授業中お喋りしてしまう子どもたちの席を離したりという条件を設定できるということだそうです。

参加者の皆様には、まずはアプリを使用しない普段の席替えを体験していただきました。その上で、実際に席替えメーカーを使用してもらい、アプリなしとありでどんな違いがあるのか考えていきました。参加者の方からは、アプリを使用することによって、一定の条件下で何度も試行錯誤ができることや、時間効率がよくなること等が挙げられました。

その後、寺井さまから、アプリなしで席替えを行う際の、原案をゼロから作ること、毎月考える必要があることという、人がやると大変なことは、実はコンピュータが得意なことだというお話をしていただきました。ただし、全てをコンピュータに任せるのではなく、「AとBを離す」「Cを最前列にする」といった生徒の条件を考えることや、全体を見て細かな人間関係を踏まえて席を調整することは、教師が行うことが大切なのだと仰っていました。コンピュータに任せるのは、最後に調整することが前提の座席の原案を作ることであり、それによって教師は効率的に時間を使うことができるとのことです。

 

・実現したい世界

寺井さまは、子どもたちのために日々頑張っている教師が、非効率な作業によって時間を奪われていることに問題意識を感じたそうです。そのため、寺井さまがアプリを開発する理由は、一人一人の子どもと向き合うことや授業準備など、本来教師が時間を費やしたいことに時間をかけられるような世界にしたいからとのことでした。これによって結果的に、教師の頑張りが最大限子どもに還元されることとなり、子どもにとっても教師にとってもみんなが幸せになることに繋がるのだと仰っていました。

 

・学校の中からできなかったのか

また、上記で述べた実現したい世界についてなぜ教師としてできなかったのかについてもお話ししていただきました。

寺井さまは教師だった時に、休校中のオンラインによるコンテンツ配信や、Slack等による教師同士の連絡を学校に提案したそうです。しかし、セキュリティや予算の問題から、上記のようなツール導入のハードルが高いことに気づいたとのことでした。

その時に、寺井さまは、いきなり学校全体に大きなシステムを入れるのではなく、クラスで導入できるレベルから始めることが大切だと思ったそうです。小さな成功体験を積むことによって、次第に学年・学校・都道府県・全国へと広まり、問題解決に繋がるのではないかと考えたとのことでした。そこで、日本中の教師が使えること、クラス単位で導入できること、できるだけセキュリティや個人情報の責任が発生しないような領域で使えるアプリ開発をすることを決断したそうです。

 

他にも席替えメーカーだけではなく、学校全体の時間割の原案を作るアプリ「教務時間割メーカー」や、席替えメーカーに班長を指定すると自動で班を分散させる「班機能」を持たせることなどのアイデアについてもご紹介いただきました。

また最後には、実際に教育現場で働かれている寺井さまの同級生の方が使っているツールについてもご紹介いただき、寺井さまの講演は終了しました。

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寺井さまからご講演をいただいた後、質疑応答や意見交換を行いました。

前半では、参加者の皆様から、席替えメーカーへの新たな機能の要望やフィードバックを行いました。参加者の方からは、席替えのみならず、グループ分けやチーム編成の際にも役立ちそうというご意見のほか、教師が使うのでなく生徒自身が席替えメーカーを使う事例についてもご紹介いただきました。

また後半には、テクノロジーの活用によって学校の仕事で改善したい点について中心に議論を行いました。参加者からは、「児童生徒が自身の学習ポートフォリオを作れるシステムが欲しい」という意見がありました。情報セキュリティの課題がありますが、こうした児童生徒の成長をテクノロジーで「見える化」することは一定のニーズがありそうです。この他、実際に学校で使っているおすすめのツールやアプリについての情報を参加者の皆さま同士で共有を行いました。中には、ご自身で開発されたアプリを紹介してくださる参加者もいらっしゃいました。このことをきっかけに、今後の社会では欲しいツールができるのを待つだけでなく、自ら作り出すことができるということを子どもたちに伝えることも重要ではないかというアイディアも出ました。

GIGAスクール構想の実現が進む中、テクノロジーをどう活用していくかが問われています。今回のご講演では、テクノロジーを恐れるのではなくむしろ、テクノロジーを活用することで、さらによりよい教育へアップデートすることの大切さを痛感しました。

ご講演いただきました寺井さま、ご参加いただきました皆さま、ありがとうございました。

 

文責・企業教育研究会 古池伶美

 2021年10月16日(土)に第145回千葉授業づくり研究会「記者・ディレクターから見る、メディアと社会情勢 〜高校「地理総合」で求められる社会的事象の見方、考え方の検討〜」を開催しました。今回も引き続き、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止のため、オンライン会議ツールZoomを用いての開催となりました。

 今回の研究会では日本放送協会(以下NHK)メディア開発企画センター 後藤亨さま、栗原岳史さま、報道局社会番組部 藤松翔太郎さまを講師にお招きし、ご講演いただきました。

 後藤さまには冒頭で今後取り組もうとされている教育現場への貢献について、栗原さまにはアメリカの最新の社会課題と社会情勢について、藤松さまには番組づくりについてお話ししていただきました。

 その後参加者の皆様と、メディアリテラシーに関する内容や学校でどのように社会課題や社会情勢を扱うことができるか議論しました。


今回の講演では、主に以下の2点についてお話をいただきました。

1.「2つのアメリカ」で見た日本の将来像 栗原さま

 栗原さまは、2021年まで3年間ワシントン特派員として取材され、アメリカの社会情勢などについてお話いただきました。
 アメリカは多様で地域間の格差も非常に大きいと感じたそうです。また日本から見えているアメリカの情報の多くが都市部のもので、都市部以外の情報はあまり見えていないのではないかと指摘されました。2016年の大統領選挙では、アメリカ中央部などのあまり見えていなかった有権者の動向が、トランプ氏勝利の背景にあったと考えられるということです。
 その後話題は社会の「分断」に移りました。アメリカでは保守層がより右傾化し、リベラル層がより左傾化する傾向がみられ、銃規制や人工妊娠中絶の是非など世論を二分する問題をめぐり対立が先鋭化しているそうです。メディアの間でも、リベラル寄りとされる伝統的なメディアと、右傾化した新興メディアなどの違いが際立っているということです。また、一部のメディアによって対立や分断が煽られているとも感じたそうで、こうした中で起きたのが、トランプ氏の支持者らによる連邦議会議事堂への乱入事件だったと、栗原さまはお話しされました。

2.テレビ、授業で、世の中を1ミリ変えてみる
  NHKと教師でつくる”能動的解決型授業” 藤松さま

 藤松さまは、NHKで10年間ディレクターをしており、番組づくりを通してなにか世の中を変えていきたいというお話をされました。

 藤松さまは番組制作をする中で、何のために番組を作っているのだろうかと感じることが増えていたそうです。
 さまざまな人との出会いから、テレビで「伝える」だけではなく、テレビを「使って変える」ということで世の中の役に立てるのではないかと考えたとおっしゃっていました。
 藤松さまが取り組んだ番組の例として、自転車事故を減らす取り組みについて紹介していただきました。さまざまな地域・職業・年齢層の人々に番組に参加してもらい、自転車事故を減らすためのアイディアを出し合う大喜利もしたということです。放送がきっかけとなり、実際にいくつかのプロジェクトが世の中で動き出しているそうです。

 番組を使って世の中を巻き込むのと同じように、学校の授業を、子どもたちに「教える」ことにとどまらず、「子どもたちが授業を使って世の中を変える」ものにしていく取り組みも可能ではないかとご提案いただき、藤松さまの講演は終了しました。


 講師の方々からご講演をいただいた後、質疑応答や意見交換を行いました。
前半は、特にメディアリテラシーに関する質問が多く行われました。エコーチェンバーの中から脱出するためにはどういった振る舞いが重要なのか参加者の方々と議論を深めました。講師の方からは、自分とは異なる意見を意識的にSNSで頻繁にみるようにしているというお話をいただき、能動的に行動しないとエコーチェンバーから逃れるのは難しいのではないかという意見が出ました。議論を通して、メディアに直接携わる方々とメディアリテラシーについて議論するだけでも子どもたちの学びにつながるのではないかと感じる場面でした。
 後半はお話いただいた社会情勢について、学校教育の中でどのように扱えるかという点を中心に議論が行われました。

 参加者からは「記者の方が肌で感じた世界各地の様子や現地の人の生の声を授業で話してほしい」「具体的な事例は教員が話しにくいからありがたい」などの意見が上がりました。現地に赴いた記者やディレクターだからこそできる生の話は、学校に需要がありそうです。ただし授業として成立させるために、カリキュラムをどのように組み立ていくのかという点についてはさまざまな意見があり、結論には至りませんでした。記者やディレクターの皆さんの経験を今後なんらかの形で授業に生かせないか、私どもも検討して参ります。
 ご講演いただきました講師の皆さま、ご参会いただきました皆さま、ありがとうございました。

2021年7月17日(土)に第144回千葉授業づくり研究会「多様化社会における主権者教育のアップデートを考えよう」を開催しました。今回も引き続き、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止のため、オンライン会議ツールZoomを用いての開催となりました。

今回の研究会ではNPO法人市民アドボカシー連盟代表理事である明智カイトさまを講師にお招きし、市民アドボカシー、ロビイング活動を議題にご講演いただきました。明智さまは『誰でもできるロビイング入門 社会を変える技術』(光文社新書、2015年)の著者でもあり、ご自身もアドボカシーに携わるほか、日本の市民がロビイング活動を学び、研究会を開かれるなど、日本にロビイング活動が根付くために様々な取り組みをなさっています。なお、アドボカシーとは権利擁護、政策提言などと訳され、主にマイノリティや社会的弱者の立場に立った政治的表明やキャンペーン活動を意味します。また、ロビイング活動とは、マイノリティの人々の声を拾い、政策実現に向けて関係各所に働きかけていく活動のことで、具体的には議員との面談等が挙げられます。アドボカシーを進めるために、ロビイング活動と世論喚起を進めていくという関係性になっています。

今回の講演では、主に以下の3点についてお話をいただきました。

 

1.ロビイング活動を始められたきっかけ

2.ロビイング活動の具体的な事例

3.アドボカシーでの「世論喚起」のコツ

 

1.ロビイング活動を始められたきっかけ

明智さまは中学生のころからクラスメイトに「ホモ」「オカマ」「女っぽい」と言われるなどのいじめに遭い、その後も辛い経験を重ね、自殺を図ったご経験もあるとのことでした。そうした性的マイノリティ、いじめ被害者、自殺を図ったことのある当事者として明智さまがロビイング活動を始められたのは、社会人になって以降のことでした。きっかけは、政治の世界に足を踏み入れ、様々なことを学ばれる中で違和感に感じる部分があったからだそうです。それは、どの政党にも政策を立案するための背景には圧力団体の存在があり、そうした団体に所属しなければ市民としての自身の意見を政策に反映することは難しいということを知ったからでした。

その後、ロビイング活動の方へと方向性を変えていくことになります。明智さまは、2010年に仲間の方々と「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」という性的マイノリティの子供や若者の自殺対策、いじめに関する政策提言や啓発活動を行なう団体を立ち上げました。そして、政策提言や啓発活動を地道に進められ、メディアへの情報発信などを戦略的に進めていきました。その結果、2012年の「自殺総合対策大綱」改正が閣議決定された際、性的マイノリティの自殺対策について具体的な言及がなされるところまでに至りました。内容は性的マイノリティの自殺の危険性が高いことを中心としたものでしたが、公的な文書に初めて「性的マイノリティ」という文言が明記され、政府・行政にその存在が認められたこと自体が大きな前進であり、喜ばしいことだったそうです。こうしたご経験から、日本にある様々な社会的な課題を解決していくためには、社会的な弱者である当事者の方達が中心となって、ロビイング活動を行っていく必要があると考えるようになり、『誰でもできるロビイング入門 社会を変える技術』の執筆や草の根ロビイング勉強会の立ち上げへとつながりました。政策を実現するために政治家になるという道もありますが、年齢や性別、選挙における当選回数などに左右されず、いつでも誰でもなれるロビイストという道を目指そうという思いがそうした活動には込められています。

 

2.ロビイング活動の具体的な事例

市民アドボカシー連盟の理事で、現役ロビイストの一般社団法人全国フードバンク推進協議会事務局長、米山広明氏が進められた食品ロス削減推進法の成立までの過程を事例として、ロビイング活動の具体的な流れをご紹介いただきました。2014年ごろから取り組みを始め、2020年に食品ロス削減推進法が制定されるまでの大まかな流れとして、①課題の整理と政策用語・事項の検討、②全国組織の立ち上げ、③法制化に向けたロビイング活動、④法律の成立後、審議会等でのロビイング活動、⑤予算要望に関するロビイング活動が挙げられました。ロビイストは、バランス感覚、判断力、行動力、人を説得する能力、立法活動に関する知識(国会の仕組み、予算要求等のスケジュール)、忍耐力(怒りの感情のコントロール)、議員との信頼関係、人脈、権威、社会的な認知度、代表性というこの10の資質が求められるそうです。これらは全て団体内部の人が持っていなければならないものではなく、なければ外部人材の協力を得ながら進めていけば良いものだといいます。米山氏は食品ロス削減推進法の早期の成立に向けて、1年間で議員会館を延べ30日訪れ、事務室訪問・国会議員面談回数が278回、国会議員本人との面談回数47回、秘書との面談回数231回を行ったそうです。数字から見てもその行動力の高さが伺えます。当然、回数だけでなく、事前に面談内容を伝えるために徹底して情報収集を行い、面談時には短い時間で要望事項を伝わるよう簡潔に説明し、事後にはアフターフォローや要望事項がどうなったのかの確認も怠らないなど、スピード感を持って隙のないロビイング活動を進めていたといいます。

 

3.アドボカシーでの「世論喚起」のコツ

 アドボカシーでの「世論喚起」のコツとして4つ挙げていただきました。①概念を作ること、②データをとること、③議連を作ること、④メディアを持つことの4つです。①は「セクハラ」に代表されるように新たな言葉を作ることで苦しんでいる人々がいることを世論に訴えかけやすくすることです。②は社会問題という形で数値化し、困っている人がどれだけいるのかを議員や役所、世論に伝えやすくすることです。③は特定の社会問題に関心のある議員を超党派で繋ぐことで、世論への問題提起にもつなげていくことです。④はメディアから取材を受けやすくしたり、同じ問題意識を持つ人から連絡をもらったりするためのものです。明智さまは、アドボカシー活動のポイントを「質」と「量」である、とまとめます。「質」、すなわち当事者自身が顔と名前をメディアに出し、苦悩や不利益を伝えることで、社会全体へ課題を共有していくことも重要です。しかし、それだけでなく、基礎的な調査を通じて、「個人問題」だと思われていたものを「社会問題化」するための「量」も必要だということです。

 

お話の最後に、これからの主権者教育に必要だと思うポイントについて挙げていただきました。「民主主義」とは何かを問うことが重要だといいます。政治参加は権利であると同時に責任であります。国民の代表を決めるための選挙で投票するだけでなく、もっと積極的に市民が議員と対話すれば、より良い社会に近づくのではないか。また、自らの生活に不満があり、生活の基盤を整えるための環境を整えなければならないと必要に迫られていくときにアドボカシー、あるいはロビイング活動できるような主権者を育てていくことが重要ではないか。こうしたお話をいただいて講演は締めくくられました。

 

以上の明智さまからご講演をいただいた後、質疑応答を行いました。特に市民の立場から多様な意見を政治に届ける技術を学ぶ新しい主権者教育のあり方について、現職の先生や大学院生などの参加者の皆さまと議論を交わしました。特に、学校教育に携わる先生方にまだまだアドボカシー活動というものの認知度が低い現状で、どのようにアドボカシーを学ぶ授業を広めていくかは大きな課題として挙げられました。今回の講演を通して、筆者は主権者教育の幅が広がったように感じました。多様化社会において、いつ自分や自分の大切な人が社会的弱者になるか分かりません。自身のアイデンティティや生活が守られないと感じた時に、いつ・どこに・誰に対して戦略的に働きかけるべきなのかが手探りにでもわかるような、そして情熱と行動力のある主権者を育てていくべきだと思います。ご講演いただきました明智さま、ご参会いただきました皆さま、ありがとうございました。

 

文責・企業教育研究会 小牧瞳

2021年6月19日(土)に第143回千葉授業づくり研究会「SHYHACKをヒントに、子どもの消極性を捉えなおそう」を開催しました。昨年度に引き続き、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止のため、オンライン会議ツールZoomを用いての開催となりました。

今回の研究会では神戸大学国際文化学研究科准教授、西田健志さまを講師にお招きし、消極性デザイン(SHYHACK)を議題にした講演を行っていただきました。西田さまは消極性研究会(www.sigshy.org)に所属しており、人や行動に関する消極性を研究しており、さまざまな方面でご活躍されております。

今回の講演では以下の3部構成で講演を進めていただきました。

  • 消極性研究会の紹介
  • 消極性デザイン 研究事例
  • 消極性デザインの応用に向けて

1.消極性研究会の紹介

はじめに消極性デザインについて教えていただきました。授業や講演会などで「質問がある方はいますか?」と問われて、手を挙げて質問をする人は積極的な性格の人(以後、積極側)で、質問があっても手を挙げない人は消極的な性格の人(以後、消極側)だと思われています。質問がない人は消極側には含めません。しかし、就職活動で面接官から質問があるか聞かれたときは、授業で質問をする人もしない人も、みんな質問をするのではないでしょうか。また、「留学先では積極的にたくさん話せたのに、日本に帰ってきたら話せなくなった」ということもあります。これらの例から分かることは、消極側の人の「性格を変えること」よりも、積極的にふるまうことができるように「環境を変えること」の方が簡単なのではないか?ということです。この発想に基づき、消極側が消極側のまま不自由なく生きていくことができる、積極的になれる環境や戦略を設計することが、消極性デザイン(英語ではSHYHACK)なのです。

いま世界に溢れているデザインは人間中心設計などと言われるほど、人間のために作られたものばかりですが、消極側のために作られたものはそう多くありません。例えば、懇親会などの場は、いわゆるコミュニケーション能力や行動力が必要不可欠であり、こうした場で新たに交流の輪を作ることは消極側にとってハードルが高く感じられます。そこで主催者は参加者の交流を促すための工夫を考えますが、主催者(積極側)が考える工夫は消極側にとってはかなりの積極性を要するものになりがちです。しかし、消極側のためだけに作られたシステムもそれはそれで、積極側の反感を買う上に、それを使うということは消極側として目立ってしまい使えないなどの問題も現れてしまいます。

上記のような問題を解決する有効な手段として、消極側が消極側のためのシステムを考えるという方法があります。とてもシンプルな話ですが、これが実は複雑なのです。消極側の人は、システムをデザインしたい!といった声を上げることは苦手です。また、消極側の人は、積極側の人が理解してくれないのではないか、など様々な可能性を考えて足踏みをしてしまうことがあるのです。このように消極側とは、物事を考えすぎる程よく考えている人と捉えることができると、西田さまはおっしゃいます。

2.消極性デザイン 研究事例

 西田さまは今までにさまざまな消極性デザインを考案しています。例えば、講演会での消極側のための席決めシステムや、匿名を利用したシステムである傘連判状機能付きのチャット、今回の講演会でも活用させていただいたOn-Air Forumなどがあげられます。このOn-Air Forumは軽いチーム戦要素もあり、匿名でも実名でもコメントでき、「いいね」機能や簡単な気持ちを表すシステムも備わっている、講演や授業などで活躍するコミュニケーション用のシステムです。今回の講演ではこのシステムを活用することにより、講演を聞きながら意見を出し合う参加者がいつにも増して多く、かなりの盛り上がりを見せていました。また、西田さまだけでなく、消極性研究会のメンバーの方々もさまざまなデザインを手がけ、開発されております。詳細は著書「消極性デザイン宣言~消極的な人よ、声を上げよ。……いや、上げなくてよい。」に収録されているそうなので、関心のある方は参考にされてはいかがでしょうか。

3. 消極性デザインの応用に向けて

 西田さまが今回の講演で一番伝えたかったことは、「消極的な人=よく考えている人」ということだそうです。これは、消極的であることとは、最悪な場合や、もし~だったら、もしかして~、などさまざまな考えを常に張り巡らせているために、中々行動に移せないということで、決して悪いことではないと教えていただきました。

 また、西田さま自身も消極側なので、パーティや懇親会ではカメラを首から下げることで、声をかけられず一人になってしまったときは、撮影係として一人で当たり前という雰囲気を出し、撮影係として写真撮ってほしいと相手から声をかけさせることで、実は参加者であるというところから話を広げるなど、消極側ならではの考えで生きやすい人生をデザインされています。

 最後に、消極側の子どもこそ、よりよい授業の設計の知恵を秘めている可能性を示唆し、皆さまとの質疑応答・議論の時間になりました。

 参加者に教員の方が多く、質疑応答では実際の教育現場で消極性デザインの考え方を活用することに関する質問が多く、西田さまの考えは一貫して、消極側の意見をしっかり聞くことを重視されていました。消極側の人は色々なことを考えていますが、そのために意見の表明に積極的になれないこともあり、積極側の人に意見を見落とされてしまいがちなので、消極側の意見へ耳を傾けることはやはり重要なのだと感じました。

 今回の講演で、「自分は消極的で何も出来ないのでは」と考えていた筆者も、「物事をしっかり考えている人」であるということに気付かされ、気持ちがとても楽になりました。また、今までは消極的で諦めていた講演会やパーティなどのその先(消極性デザイン)を考えることの楽しさにも気付けました。ご講演いただきました西田さま、ご参会いただきました皆さま、ありがとうございました。

文責・企業教育研究会 堀内誠太

2021年5月15日(土)に第142回千葉授業づくり研究会「ソーシャルデザインから学ぶ「正解のない問い」へのアプローチ」を開催しました。昨年度に引き続き、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止のため、オンライン会議ツールZoomを用いての開催となりました。

 

社会課題の解決方法には、唯一の正解はありません。社会の一人一人の知恵や経験を活かして様々なアイディアを引き出し、より良い解決策を創り出していくことが大切です。

解決策を創り出す方法のひとつにソーシャルデザインがあります。今回の研究会では株式会社cocoroéの田中美帆さまを講師にお招きし、講演や社会課題を題材にしたワークショップの体験を通してソーシャルデザインについて理解を深めました。その上で、ソーシャルデザインの知見を取り入れて「正解のない問い」へのアプローチを学ぶ方法について、参加者の皆さまと議論しました。

 

田中さまには、ソーシャルデザインの概略として4点お話いただきました。

 

1. ソーシャルデザインとは

 田中さまは、デザインそのものは、価値創造であるという思いが根底にあるとのことです。見た目や意匠だけではなく、多様な人々がそれぞれの視点から知恵を出し合い、ソーシャル・グッドなイノベーションを生み出す【場・関係・コミュニケーション】のデザインのことを指しています。

 

2. 21世紀のデザイン領域とソーシャルデザイン

 ソーシャルデザインの概念には、コンセプトマップとヘーゲルが提唱している弁証法の2つがあるそうです。

20世紀のデザイン領域は、グラフィック、プロダクト、アクション・サービスにとどまっていましたが、21世紀のデザイン領域は、システム、環境、生活、遊び、仕事、教育、組織、政府といった、さまざまな分野まで応用されているとのことです。21世紀のデザイン領域、つまりソーシャルデザインは、公益性・協働性・持続性の3つの特徴があり、さまざまな視点をもつ人がデザイナーと協力して作り出していくことが特徴です。


 ソーシャルデザインは各領域に分けると4つのオーダー「グラフィック」「プロダクト」「アクション」「システム・環境」があり、可視性や複雑性で分類することができます。これを事例とまとめて紹介していきます。

 「グラフィック」の具体的な事例に「I♡NY」があります。これは、1970年代のニューヨークの財政危機とデザインがかけ合わさってデザインされたそうです。

 「プロダクト」の具体的な事例にタイプライターがあります。これは、盲目の方が恋人にラブレターを送るためにデザインしたものだそうです。これは現在のキーボードに発展しているそうです。

 「アクション」の具体的な事例に認知症があります。認知症とデザインを掛け合わせ、スローショッピングというサービスが生まれたそうです。スーパーマーケットは毎週火曜日の午前中にこれを実施し、通路に椅子をおいたり、レジの音を消したり、認知症の方が不安になる事象を排除したそうです。

 4つ目に「システム・環境」の具体的な事例にまちづくりのデザインがあります。ドローンとデザインを掛け合わせ、海上人命救助をしたそうです。実際に海上で溺れてしまった少年2人をドローンが救助した実例があり、動画も残されています。

 

3. インクルーシブデザインとダブルダイアモンド

 従来のデザインの対象は、マジョリティ向けのものでした。ですが、インクルーシブデザインの対象設定は、障がい者や高齢者などの極端ユーザーだそうです。これの具体例は、前述したタイプライターやウォシュレットトイレなどがあります。

 デザイナーは、極端ユーザーにとって何が問題なのか・課題なのかがわかりません。そこで、デザインに関係する極端ユーザーの方々と会話を重ね、課題発見・課題定義を行なっていくそうです。リサーチの際には共感主導の人間中心リサーチという方法を使用し、マイノリティから小さな課題を聞き、デザインソリューションを見出していくといった流れが、ダブル・ダイヤモンドに示されているものです。

4. ソーシャルデザインの源 プリンシプル=「真・善・美」

 ソーシャルデザインの源は、一人ひとりが持っている道理や物事の筋道、主義などであり、これをプリンシプルと総称しているそうです。ここまであげられてきた事例のうち、ドローンの人命救助やスローショッピングは、それぞれひとりの思いから始まったものであり、それぞれの影響力から個や組織、社会そして地球はつながっているということがわかります。

 

講義の後は、ワークショップを体験させていただきました。活動は五感の課題出しワーク・五感の課題を整理して導き出すコンセプトづくりの2つに分類されていましたが、今回は時間の都合上、五感の課題出しワークのみを体験させていただきました。ワークのテーマは、「新型コロナウイルス感染症によって生じた問題について」です。ワークの流れとして、すでに他大学の学生が書き出した問題について、自分が共感できるものに印をつけていく。その中で得票数が多かったものをピックアップし、ソリューション案のアイデアを時間の限り出していくというものでした。

 

 

    ワークショップ体験後は、参加者との質疑応答を行いました。今回は、現職の先生や大学院生など様々なお立場の方にご参加いただいたこともあり、オンラインでの学習や動画の撮影・編集方法、既存の学習活動との繋がり、アンケートの取り方などについての質問などが飛び交いました。参加されたみなさんと共に、学校教育でのソーシャルデザインの扱い方や、ファシリテーションの方法、ソーシャルデザインの社会実装などについて意見交換することができ、今後の学びに繋がるアイディアをいただくことができた貴重な機会になりました。

    ご講演いただきました田中さま、ご参会いただきましたみなさま、ありがとうございました。

 

文責・企業教育研究会 郡司日奈乃

2021年4月17日(土)に第141回千葉授業づくり研究会「子どものクリエイティビティを目覚めさせる授業づくりを考える」を開催しました。昨年度に引き続き、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止のため、オンライン会議ツールZoomを用いての開催となりました。

 

社会には、様々な「正解のない問い」があります。このような問いには、予め決まった取り組み方はなく、創造力をはたらかせて解決策を考え、実行していくことが求められます。その中で、私たち一人ひとりが持っているクリエイティビティを発揮することが、より良い解決策を練り上げていく上で重要になるのではないでしょうか。今回の研究会では、今回の研究会では株式会社Inspire Highの杉浦太一様を講師にお招きし、世界で活躍している人々の取り組みを題材にしたオンライン動画教材についてお話いただきました。

 

  • 株式会社Inspire Highについて

「これまでの正解」に縛られずに生きている世界中の“かっこいいオトナたち”と出会い、答えのない問いに向き合う機会を提供されています。特に、Inspire Highが提供するものは「世界中の想像力と10代の若者を繋ぐライブ配信、あるいはオンラインの教材プログラム」になります。10代であれば、誰でも、どこからでも体験可能である点が特徴になっています。

杉浦様は学生の時にカルチャーメディアに関する会社を立ち上げており、アーティストの方々とお会いした時の言葉ひとつひとつに感動され、「10代のうちに聞いておきたかった…」と思った経験があるとのことでした。これらについては学校で知ることができなかったため、とっかかりになることを10代のうちに発見できたら面白いのではないかと思い、株式会社Inspire Highを立ち上げたとのことです。

オンライン教材の作成にあたり、世界中の教育現場に足を運び、主体的な学びに関して先進的な取り組みを行っている機関や人物に会いにいき、アドバイザーになってもらえないか打診するなど、世界中の教育者たちがバックアップしてくれる体制を築いたそうです。

 

  • 教材内容

現時点で30人以上の著名人が動画に出演されてきましたが、それらのテーマは“Expand Your Horizons” と一貫したものになっています。

独自に開発アプリで定期的に開催されるライブ配信セッションが教材のメインコンテンツになります。この配信動画を編集し、アーカイブ動画として残すことで、その時間に合わせて視聴することができなかった生徒にも内容が届くようになっています。配信およびオンライン教材の内容は3ステップに分かれています。

 

1. ガイドトーク(15分)

  動画に出演する著名人(ガイド)とインタビュアーによるやりとりを聞き、配信をみている生徒たちはコメントを送る時間

2. アウトプット(15分)

  著名人から投げ掛けられる「正解のない問い」に対して各生徒が手や頭を動かし、ワークを行う時間

3. フィードバック(10分)

  それぞれが投稿した作品やアイデアに対して、同じタイミングで参加している同年代から寄せられるフィードバックを確認する時間

 

また、実際の学校現場で使用することができる事前・事後学習用のワークシートを作成し、適宜配布しているとのことでした。

 

今回は、実際にInspire Highのセッションをすべての参加者が体験し、Inspire Highの双方向性を感じることができました。体験後は参加者との質疑応答を行いました。今回は、現職の先生や大学院生など様々なお立場の方にご参加いただいたこともあり、オンラインでの学習や動画の撮影・編集方法、既存の学習活動との繋がり、アンケートの取り方などについての質問などが飛び交いました。また、ご講演中のチャットも盛り上がり、参加者のみなさま同士も意見交換をすることができました。

 

今回は、新型コロナウイルス感染症の影響で大きく状況が変わった学校教育に合う形で展開されている教材の工夫や教材にかける思いを中心にご講演いただきました。参加されたみなさんは「正解のない問い」に取り組むことはこれからの教育にとって必要であるという共通認識を持った上で意見交換することができ、今後の学びに繋がるアイディアをいただくことができた貴重な機会になりました。

ご講演いただきました杉浦様、ご参加いただきましたみなさま、ありがとうございました。

 

文責・企業教育研究会 郡司日奈乃

2020年12月19日(土)に第140回千葉授業づくり研究会「子どもたちのInstagram利用の現状と安全に関する取り組みについて」を開催しました。前回に引き続き,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止のため、オンライン会議ツールZoomを用いての開催となりました。

近年、InstagramなどSNSを利用する子どもたちが増えています。今回の研究会では、Facebook Japan株式会社(以下、Facebook社)の栗原さあや様を講師にお招きし、子どもたちのInstagram等の利用状況や課題、それに対応するための企業の取り組みなどをお話いただきました。以下、ご講演の概要をご報告いたします。

  • Facebook社について

ファミリーアプリ(Facebook, Messenger, Instagram, WhatsApp, Workplace, Oculus )の利用者数は全世界で32億人を突破しており、グローバルにサービスを運営されています。多くの方が利用する中で、地域や文化に応じてどのように安心安全でわかりやすい環境を作っていくかということを日々考えているそうです。

会社のミッションとして「コミュニティづくりを応援し、人と人がより身近になる世界を実現する」を掲げており、ファミリーアプリの開発は常にこのミッションに沿って行われています。

  • Instagramとは

今回のテーマであるInstagramというSNS、利用されている方も多いのではないでしょうか。研究会の参加者も、半数近くの方が普段から利用されているとのことでした。

Instagramのミッションは「大切な人や大好きなこととあなたを近づける」だそうです。「インスタ映え」に代表されるように、きれいな写真や動画を共有する場としてのイメージが強いかもしれません。しかし近年では、「週末はどこに行こうかな」といったような日常生活でのアクションを考えるときに活用される場として進化しています。また、女性向けのSNSというイメージもありますが、実際は男性の利用者が40%以上いるそうです。

日本では2010年にサービスを開始し、2019年には3300万アカウントの利用がありました。日本ではストーリーズ(24時間で消える投稿機能)が特に人気で、多くの方に利用されています。なお、InstagramはFacebookと違い、実名でないアカウントを複数持つことができるため、用途ごとにアカウントを使い分ける人もいるそうです。

  • Instagramの機能

続いて、機能についてご紹介いただきました。代表的な新機能は以下のとおりです。

・ARカメラエフェクト

カメラに映る自分の顔や背景にイラストなどを合成し、さまざまな表現ができる。

・リール

短尺動画(最大30秒)を作成・投稿できる。

・IGTV

長尺動画(1分以上、最大1時間)の動画を作成・投稿できる。

・Instagramライブ

リアルタイムで視聴者からの意見や質問を受け付け、双方向のコミュニケーションができる。コロナ禍で対面イベントができない中、世界的に利用が増えた。

・QRコード(日本限定機能)

アカウント情報をQRコードで紹介できる。

昨年から製品開発チームが日本にも設置されたことで、QRコード機能をはじめとする日本独自の機能が続々と開発されているそうです。アメリカ国外で開発チームが置かれるのは日本が初だそうで、その背景には、日本でのInstagram利用の仕方がユニークなため、製品づくりに生かしていきたいという狙いがあるそうです。

日本でのユニークな利用例としては、「ハッシュタグ検索」が挙げられます。これは、「#〇〇」といった形で、同じカテゴリの投稿を検索できる機能です。日本でのハッシュタグ検索回数はグローバル平均の5倍にのぼっているそうです。日本ではハッシュタグを文章として書くなど、表現方法のひとつとしても活用されているのが特徴です。

  • 安心安全に関する取り組み

安心安全に関する取り組みとしては、まずFacebook社のポリシーについてお話しいただきました。許されない投稿としては、脅迫、自傷行為や性的暴力、テロに関するものなどが挙げられます。これらを含めたルールは、Facebookでは「コミュニティ規定」として、Instagramでは「コミュニティガイドライン」として規定されています。ルールを考える際に重視する点が3点あり、多様性を重視するといった「①原則に基づく」こと、ルールは実際に「②運用可能」であること、利用者に「③説明可能」であることだそうです。

ルール違反の検出には大きく2つの仕組みがあります。ひとつは利用者からの報告、もうひとつはAIや機械学習といった技術を用いて検出することです。技術を用いた検出では、投稿がされた瞬間、他の人の目に触れる前に検出・削除する対応も行われているそうです。しかし、検出技術には得意なコンテンツと不得意なコンテンツがあります。具体的には、ヌードなどの画像検出は得意ですが、ヘイトスピーチやいじめなどの文化・文脈背景の理解が必要なものは、自動判断がしづらいそうです。不得意なコンテンツでは、人の目での判断で補いながら対応しているそうです。

  • 管理機能(ツール)について

FacebookやInstagramの管理機能は、利用者が自分で管理できることを重視して設計されており、自分の投稿を誰に対して公開するか、誰からの投稿を表示するかなどを細かく管理できるようになっています。

安全に関するツールのひとつとして、不適切な投稿の報告機能があります。利用者が不適切だと思う投稿を「報告」ボタンからFacebook社に報告でき、Facebook社での調査後、報告に対する回答が利用者の「サポート受信箱」に送られるという仕組みになっています。

他にもInstagramのツールとして、以下のものをご紹介いただきました。

・コメント設定

投稿ごとに、誰がコメントできるかの設定や、特定のコメントの削除、報告ができる。

・不適切なコメントの非表示

非表示機能をONにすると、いじめコメントや性的表現を含むコメントなどが自動で非表示になる。また、非表示にしたいキーワードを自分で設定すると、そのキーワードが含まれるコメントが非表示になる。

・タグ付け管理

自分をタグ付けできる人の設定や、タグ付けを承認制にできる。

・お気に入りのコメントの固定

気に入ったコメントを上位に表示させることで、コメント欄をポジティブな雰囲気にできる。

・オーディエンスの管理

アカウントのブロック、フォローを外す、ストーリーズの非表示といった設定ができる。

・制限機能

特定のアカウントを制限することで、その人からのコメントを非表示にできる。アカウントのブロックをすると、自分の投稿が相手に表示されなくなるので、ブロックしたと気づかれることもある。ブロックせずに制限することで、相手に気づかれにくい形で、相手の嫌なコメントを見ずに済む。場合によっては非表示のコメントを表示させ、さらに他の人も見られるようにすることもできる。グローバルには「restrict」という名前で実装されている。

・親しい友達リスト

リストを作成し、特定アカウントだけにストーリーズを表示させる。

・問題を抱えている方へのサポート

辛い気持ちを表す単語の検索時や、サポートの必要性を匿名で報告されると、「助けが必要ですか」といったポップアップが表示される。リンクを押すと、当事者に役立つヘルプラインなどの情報が表示される。

グローバルでこれまでに3500万以上のInstagramアカウントが制限機能を使用しているそうで、需要の高さが窺えます。

  • 普及啓発活動について

以下のように、Facebook社で取り組んでいる様々な普及啓発活動をご紹介いただきました。

・保護者のためのInstagramガイド

保護者向けに、子どもの利用方法について話し合うためのアドバイス冊子を作成。

Instagram ヘルプセンター(https://help.instagram.com)から閲覧・ダウンロードできる(ヘルプセンター >プライバシーと安全>保護者のためのヒント)

・安全な使い方を楽しく学ぼう!みんなのInstagramガイド

青少年向けに、4コマ漫画で身近にありえるストーリーを描き、場面ごとの安全な使い方を紹介する冊子を作成。(参考URL:https://about.fb.com/ja/news/2019/12/teensafetyguide/)

・サポートページ運営

「ヘルプセンター」(https://www.facebook.com/help)と「安全に利用するために」(https://www.facebook.com/safety)といったページを運営。

  • 外部と連携した取り組み

Facebook社のみでの取り組みだけでなく、外部と連携した普及啓発活動も行なっているそうです。例えば、以下のものがあります。

・インスタANZENカイギ

UUUM株式会社と連携し、若年層の支持を集めるクリエイターと共に、実際の悩みや体験談をもとにした啓発コンテンツを制作・発信。コンテンツのひとつとして、誰でもストーリーズから参加して機能を学べるインスタANZENカイギクイズを実施。

・メンタルヘルスに関する取り組み

NPO法人あなたのいばしょと共に、メンタルヘルスに関する「まとめ」を公開。また、Buzzfeed Japanと共に、Instagramライブ「こころの不調は誰にでもあることだから。いま知りたい心のケア101」を実施。

・プライバシーに関する取り組み

人気クリエイターと連携し、「#マンガで学ぶプライバシー」キャンペーンを実施。

・教育プログラム「みんなのデジタル教室」

アジア太平洋地域全体で運営されているプロジェクト。幅広い世代のデジタルリテラシー向上のために、国ごとに様々な活動をしている。2020年内に8カ国で200万人以上の受講が目標で、これを達成。

日本では今年度、弊会と共同で中高生向けコンテンツを制作し、オフライン・オンラインで2つの授業を実施。「デジタル・アイデンティティを考える」では、一般的なイメージの個人情報だけでなく、履歴やシェアの蓄積もデジタル・アイデンティティを構成していることを学ぶ。「偽ニュースの見分け方」では、偽ニュースが発信される動機や受け取る側の視点を考える内容。授業のエッセンスをInstagram上で体験できるコンテンツ「タグでたどる物語」も公開した。

日本での他の取り組みとして、シニア向けの冊子「大人のためのFacebookガイドブック」も制作しており、ここでは実名制の利点を生かした使い方や追悼アカウントの設定方法などを盛り込んでいる。

・パートナーシップ

一般社団法人ソーシャルメディア利用環境整備機構を他事業者と連携して設立。ソーシャルメディア上の課題の傾向や対策に関わるノウハウを共有し、調査研究や啓発活動の強化を目的に活動。

・VR教育実証プロジェクト

NPO法人CAMVASと連携し、Facebook社が開発するVRデバイスOculusを活用して災害疑似体験コンテンツを開発。中学校で実施した授業では、廊下で煙が充満する様子や、校庭が浸水する様子を生徒たちが疑似体験できた。

VRプロジェクトについては今回の主題とはテーマが異なりますが、テクノロジーによって生じるネガティブな側面の解決だけでなく、ポジティブな面での新しい教育機会の提供も行なっていることの例としてご紹介いただきました。

意見交換では、オンラインツールを使用して質問・意見を一覧化しながら、活発な交流が行われました。

 

ご講演を通じて、InstagramをはじめとしたSNS機能は日々進化しており、コミュニケーションの幅が大きく広がり続けていることを改めて感じました。その一方で、新しい配慮やトラブル対応が企業と利用者双方に求められているのだということがわかりました。また、安心安全のための機能の多様さや開発背景を知ったことで、こうした機能を使いこなすための普及啓発の大切さを痛感しました。教育現場でのリテラシー教育につながる、示唆に富む時間になりました。

ご講演いただいた栗原様、ご参加いただいた皆様、ありがとうございました。

 

文責・企業教育研究会 樋口健

2020年11月14日(土)に第139回千葉授業づくり研究会「未来の主権者に必要なコミュニケーション能力とは!?」を開催しました。前回に引き続き,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止のため、オンライン会議ツールZoomを用いての開催となりました。

 

社会における変化や多様化に応じた政治を実現するためには、国民の様々な意見を政治や行政に届けることが重要です。しかし、日本では若い世代の選挙での投票率が低い状況が続いており、若者の政治離れが問題となっています。

学校教育では2016年に選挙年齢が18歳以上に引き下げられたこともあり、主権者教育の重要性が注目されてきました。若者の政治離れを解決するために、これからの主権者教育では投票を推奨するだけでなく、自分の意見を政治や行政に届ける方法について子どもたちと考えていくことが大切なのではないでしょうか。

今回の研究会ではマカイラ株式会社の藤井宏一郎様を講師にお招きし、アドボカシーやロビイングなどの政治に意見を届ける方法や、こうした活動に欠かせないコミュニケーション能力などについてお話いただきました。また、主権者教育に関心のある大学生・大学院生,教員のみなさんと未来の主権者を育てるための教育について議論しました。

 

こちらは、講演の録画です。

また、講演のスライド資料は、以下からダウンロードできます。

https://www.dropbox.com/s/cqt84ku4kk72c0j/

 

藤井様が代表取締役をつとめる「マカイラ株式会社」は,アドボカシーを中心としたパブリックアフェアーズのコンサルティング会社です。アドボカシーとは権利擁護,政策提言などと訳され,主にマイノリティや社会的弱者の立場に立った政治的表明やキャンペーン活動を意味します。パブリックアフェアーズとは社会性の高い問題について様々な立場の人に理解してもらうための戦略的コミュニケーションを意味します。「マカイラ株式会社」での仕事は,例えば,政治や社会問題に関して,実際に困っている人や問題提起をしようとしている人,法律の専門家や企業などが協力できる体制づくりをし,政策の実現まで持ち込むことを目的に様々な手法でキャンペーンを行うというものがあります。

 

政府に声を届ける方法として投票に限らず,様々な手法でキャンペーンがあるとのことですが,学校では政府に声を届ける方法をどのように児童生徒に教えていくべきなのでしょうか。現在の学習指導要領では司法参加,政治参加,公正な世論と経済活動への参加,請願権などがバランスよく書かれており,投票に偏った記述はありません。しかし,実際には模擬投票の実践が少なくないのが現状です。また,教科書においては「社会変革の手法」について散発的に記述されるにとどまり,体系だって教えることはできていません。すなわち,具体的にどのような行動から始めて問題解決に至ればよいのかが児童生徒には分からないのです。一方で,実際の社会では若手が中心となってベンチャー企業や社会起業家,NPOといった形で世の中を変えるケースが増えているそうです。こうした現状を踏まえると,児童生徒には今の政治システムをうまく利用する「新しいロビイング(アドボカシー)」や「パブリックアフェアーズ」という方法を学校教育の中でも取り上げていく必要があるのではないか,というお話がありました。

 

それでは,具体的に政治や社会問題に対して声をあげたいと思った時,どのような行動をすればよいのでしょうか。旧来のロビイングは陳情と言う形で政治や行政に働きかけることが主流でした。一方,新しいロビイングでは①マイノリティや弱者の声を拾い関係各所に働きかけていく草の根ロビー・市民アドボカシー,②新規事業を始めるにあたり必要な法整備や利害調整といったものを進めていくパブリックアフェアーズ/イノベーションアドボカシーのタイプがあり,二つを組み合わせたタイプも考えられます。いずれにしても,形式的に進めるだけでは大きなムーブメントは起きません。実質的に,努力を惜しまない行動と戦略的に物事を進めていく社会コミュニケーションスキルが必要だそうです。一人でも多くの味方を増やすために,誰にどのような方法でアプローチするのが良いのか,どのような情報を持っていけば良いのかを考え,広く社会を巻き込み,透明かつ公正に政策決定まで持ち込むことが求められます。

 

新しい市民ロビーの一般的な流れを5つに分けて紹介していただきました。

「①仲間づくり」では,アドボカシーの拠点となるNPO法人,場合によっては協議会や連絡会を立ち上げ,同じ問題意識を持った人々が集まれる団体を立ち上げます。自治体、企業、NPO、政府、財団など様々な立場の人を巻き込んで特定の社会問題を解決しようという「コレクティブ・インパクト」という考え方もあり,政策立案に関わる議員に対し,一個人の意見ではなく世論として認めてもらうためにも仲間づくりは重要な一歩です。

「②要望事項の整理」では,困っていることを解決するために,具体的に,どの法律・条例のどこを直して欲しいのか,どういう予算が必要か特定した政策提言書を作成します。味方となる行政職員や市議会議員と話して改善点のアイディアがもらったり,その問題を研究している大学の教授や研究室に協力を仰いだり,あるいは統計データやメディア記事の背景資料の準備をしたり,ということが提言書の作成と並行して行われます。

「③政策当局者への接触」では提言書を実際に国会議員や省庁の担当者に持っていきます。この段階は心理的なハードルが高いと思われがちですが,意外と話を聞いてくれるケースも多いそうです。どのような問題を解決するのかによって会うべき政策当局者は変わってきますが,政策提言書,背景資料,予定があれば今後のイベント案内を持参し,他に会っておくべき人の紹介の取り付けをお願いすると問題解決のための人脈も広がります。

「④世論への呼びかけ」では,ウェブサイト,ブログ,SNS,イベントといった特定の層へのアプローチと,新聞やマスメディアといった大衆向けのアプローチを進めていきます。広告をプロにお願いすることで,メディアが注目するようなコンテンツをつくり,世論が味方についてくれることもあります。政局を見守りながら,いつ誰に向けてどのような情報を出すのが効果的か考える必要があります。

「⑤政府内でのプロセス」は,政策立案に向けて動いてくれている議員を支援する段階です。反対派の議員への質疑応答のための資料提供や,味方になってくれる議員を増やすための呼びかけ,どこまでなら妥協するのかといった条件について仲間内での合意を得るなどやるべきことがいくつもあります。法案が通った後も,全国展開に向けてガイドライン制定まで丁寧に活動を進めていくことが求められます。

 

実際に「自殺対策推進法」「食品ロス推進法」「電話リレー法」といった法案の制定,学校における「ブラック校則」反対運動などが上記のような方法で実現されていきました。今の時代,社会変革キャンペーンに関わる方法はたくさんあることがわかります。我々は,国会,中央省庁,市議会議・市役所,国際機関などを対象に,ウェブ,メディアキャンペーン,署名サイト,クラウドファンディング,デモ行進といった様々な手法で,社会変革をもたらすことができるのです。そして社会変革をもたらす上で重要となるのが社会コミュニケーションスキルです。例えば,どうコアに動いてくれる仲間をつくるか,どう資金を集めるか,裏切りや駆け抜けにどう対応するか,どう味方を見極めるか,どう仲間内にしこりを残さず,誰に花を持たせるかなどが,社会コミュニケーションスキルの例です。これらのスキルはアドボカシーに参加する人のみならず,どのような組織に属していても必要なスキルであると言えます。

 

今回は,これからの主権者教育について,投票を推奨するだけでなく、自分の意見を政治や行政に届ける方法について子どもたちと考えていくための方法として,「新しいロビイング(アドボカシー)」があること,そして実際に問題解決を進めるにあたっては「社会コミュニケーションスキル」が求められるということをご講演いただきました。民主主義社会を生き抜く児童生徒に必要なスキルとは何か,質疑応答の時間にも大変充実した議論をすることができました。ご講演いただいた藤井様、ご参加いただいたみなさま、ありがとうございました。

 

文責・企業教育研究会 小牧瞳

2020年10月17日(土)に第138回千葉授業づくり研究会「インバウンド対応から学ぶ「変化をチャンスにつなげる力」」を開催しました。今回も、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止のため、オンライン会議ツールZoomを用いての開催となりました。

 

インバウンドの増加に伴い、社会には様々な変化が起きています。外国からの観光客が増加したことで、例えば地域の人の流れの変化や、街の様子や交通網などの変化、観光地の顧客ニーズの多様化などが起きています。観光業界では、こうした変化を受け止め、新しいニーズに応えているそうです。

近年の私たちの社会では、情報技術の発展などによってめまぐるしい変化が起きています。また、現在は新型コロナウイルスの影響による変化も様々なところで生じています。こうした社会では、変化に気づき、チャンスに変えていく力がますます大切になっています。

今回の研究会ではトリップアドバイザー株式会社の牧野友衛さまを講師にお招きし、近年の日本のインバウンドの現状や、観光業界におけるインバウンドへの対応、新型コロナウイルス感染症への対応などについてお話いただきました。以下、講演の内容を概略的に記録させていただきます。

 

牧野さまはTwitterやGoogleなどインターネット全般の企業でご活躍されていたこともあり、旅行業界とは別の立場で旅行やインバウンドというものを考え直していったそうです。

 

はじめに、トリップアドバイザーのご紹介およびインバウンドやコロナ対策についてご紹介いただきました。トリップアドバイザーは2000年にアメリカで設立された企業で、インターネットの初期段階から口コミを使用したプラットフォームを世界各国に提供しているとのことです。各地を特集している旅行者向け雑誌は、あくまでも編集者の手による評価になってしまいますが、トリップアドバイザーの口コミを見ると世界中の観光客が自身の基準で評価・写真投稿を行うことができるため、各国の言語の情報が集まっているそうです。また、マイナスの評価を隠そうとしている施設に対してはペナルティを課すなど、公平性が保たれるサイト運営をされているとのことでした。

 

インバウンドについて、元々の目的は少子高齢化による定住人口減少を埋めるべく交流人口を増やすことによって経済を回すことだったとのことです。日本への旅行者は年々と増加し、需要・消費額も伸びてきてはいるが、旅行業界としてはここからどのように伸ばしていくのかが課題であるとのことでした。インバウンドの旅行者を増加させるべく、必要な情報を出していく、ということが大切になってくるとのことでした。しかし、日本人が評価しているところと外国から来る人が評価している場所は異なり、各国で人気な地域が違うため、何が好きか・嫌いか、一辺倒に考えってしまうことはもったいないとのことです。ここで、牧野さまは日本の優れているところや改善の余地があるところについて、口コミを見て改めて考えてみたそうです。その中で各国の旅行者の傾向を見たところ、個人サイトや口コミサイトを見て旅行先を決定しているということがわかったそうです。このことから、旅行者が接触するすべてのメディアでの情報発信が大切であるため、今後はオンライン対応とブランドマネージメントが重要になってくるとのことでした。

 

続いて、新型コロナウイルス感染症に関する調査を基に、今後の対策や動きについてご説明いただきました。新型コロナウイルス感染症が収束次第、日本に行きたいと言ってくれている外国の方が多いそうですが、1年以上先になってしまうと答えている方が多数とのことでした。日本国内では国内旅行が増えていく一方で、アウトドアの旅行のニーズが高まってきているとのことでした。新型コロナウイルス感染症の影響により、旅行者数が昨年と同じ状況まで戻るためには2024年頃までかかる見込みではあるが、徐々に旅行者は日本へ戻ってくるだろう、とのことです。

今後、感染症対策も含めて、一辺倒な考え方ではなく柔軟に旅行者のニーズを考慮することが大切ということでした。このことは、変化をチャンスに変える上で大切だと考えられます。

 

牧野さまからご講演いただいた後、質疑応答を行いました。今回は、現職の先生や大学院生など様々なお立場の方にご参加いただいたこともあり、旅行に関するお話やサイトの運営についての質問などが飛び交いました。また、ご講演中のチャットも盛り上がり、参加者のみなさま同士も意見交換をすることができました。

 

その後のブレイクアウトセッションでは、以下のお題で議論を行い、様々な立場から考えるアイディアを共有しました。

①インバウンドを多くの人たちに自分ごととして考えてもらうために学校でできること

②これから異なる歴史や文化的背景を持つ人たちと違いを踏まえた上で、お互い理解しあうためのコミュニケーションが必要になります。そのような人たちを増やすためにできること

 

今回は、新型コロナウイルス 感染症の影響を大きく受けている旅行業界の今までとこれから、そしてインバウンド観光客に対するアプローチを中心にご講演いただきました。様々な立場を持つ方々と交流でき、今後のアイディアや学びのきっかけをいただけた貴重な機会でした。ご講演いただいた牧野さま、ご参加いただいたみなさま、ありがとうございました。

 

文責・企業教育研究会 郡司日奈乃

2020年7月25日(土)に第137回千葉授業づくり研究会「『寄付・社会的投資』とは?社会貢献教育について考えよう」を開催しました。今回も、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止のため、オンライン会議ツールZoomを用いて開催いたしました。

 

学校教育において、社会の課題を自ら解決する力の育成がますます重要になっています。

 

寄付や社会的投資が広がっていくことで、社会課題を解決するための新しいチャレンジが促進されます。また、誰かの役に立つことが自分の幸せにつながる社会を実現できることが期待されます。寄付文化を学ぶことは、社会の課題を見直し、自分にできることを考える大きなきっかけになるはずです。

 

そこで、今回の研究会では日本ファンドレイジング協会事務局長の小川愛様を講師にお招きし、日本の寄付市場や社会貢献教育についてお話いただきました。また、ワークショップを通して寄付・社会的投資を題材に、社会課題を解決する力をどのように子どもたちに育むことができるのか議論を行いました。以下、講演とワークショップの内容を概略的に記録させていただきます。

 

はじめに、小川愛様よりご挨拶を頂き、NPO法人日本ファインドレイジング協会についてご紹介をしていただきだきました。日本ファンドレイジング協会では、現在ファンドレイザー(民間非営利団体の活動資金を調達する専門家)の育成・市場の形成・政策を変えることの三つを主として事業をされています。

 

次に、日本の寄付市場について説明をしていただきました。日本の寄付額と外国の寄付額を比較すると、アメリカはほぼ40倍、イギリスはほぼ2倍、韓国はほぼ同額という結果になっています。GDPに占める割合で換算しても日本の割合は少なく、日本の寄付市場は伸びしろがあるといえます。日本の寄付総額の内訳は、3つのカテゴリーに分かれ、その中でもふるさと納税が1/3を占めています。寄付を年齢別にみると、高年齢にいくにつれて寄付率があがってくことが分かりました。寄付の動機は、寄付する場所によって異なっており、寄付を募る側はどこの人たちから寄付が欲しいのか、寄付を募るためにはどのようなターゲット層にメッセージングを行うのか等の検討が必要となります。寄付とボランティア活動の関係をみた場合には、「共感性」がキーワードとなっているそうです。

 

財源は、組織や事業を成長させるために必要であり、ファンドレイジング戦略とは、事業・組織・財源の一体的発展戦略です。ファンドレイジングスクールでは、ケーススタディを豊富に行っています。ファンドレイザーには、ファンドレイジングの知識とスキル・ファンドレイジングの実行・実践力、マネジメント・コーディネーション力、対人・コミュニケーション力、誇りと倫理を守る姿勢、誠実さの5つの能力が必要とされます。

 

一般の企業の活動では、投資したお金はその企業への経済的リターンとしてフィードバックされますが、寄付金を活用した活動の場合は、寄付したお金は受益者にフィードバックされます。そのため、寄付していただいた方々にきちんと活動報告やお礼を伝え、寄付金が正しく活用されていることをフィードバックすることが大切だということでした。

 

 続いて、これからの寄付のかたちと社会的投資についてお話をしていただきました。レガシーギフト(遺贈寄付)というものがあり、これは亡くなる時に遺言として、社会課題を解決する団体に寄付をすることだそうです。日本の遺贈寄付の状況は、アメリカはイギリスと比べると、額は低いですが、現在は少しずつ増えてきています。人生最後の社会貢献ができ、自分の意思を世の中に残すことができるということが利点とのことです。

 

 また、現在の新型コロナ禍でも、いくつかの団体が連携し、クラウドファンディングで集めたお金で助成金プロジェクトを行っているそうです。クラウドファンディングの利点は、街頭募金よりも集金収集力が高いことです。ただ、共感がもたれず、うまくいかない例もあるそうです。世の中の人が活動の目的に共感できるようなプロジェクトを考えることや、活動を多くの人に知ってもらう工夫が必要とのことでした。

 

 現在、社会的投資(社会的インパクト投資、インパクト投資)が注目を浴びています。社会的投資では、経済的リターンと社会的リターンの両方が求められるとのことでした。

 

その後、教育プログラムの説明を受け、社会貢献教育の体験ワークショップを行いました。日本ファンドレイジング協会が学校に提供する教育プログラムとして、「寄付の教室」や「社会に貢献するワークショップ」があります。上記の取り組みでは、以下の三つを目標としているそうです。

 

①子どもたちの自己肯定感を高める

②子どもたちの多様な価値観を認める

③子どもたちが達成感を得られる

 

「寄付の教室」では、どの団体にいくら寄付するかという寄付の模擬体験ができます。「社会に貢献するワークショップ」は、社会に貢献することを個人の経験に根差して考えるワークショップです。新しいかたちの授業で、「Learning by Giving」が実施されています。子どもたちが30万円を実際に寄付することを通じて、NPOや社会の課題を解決することを学ぶ実践プログラムです。子どもたちに社会の課題を解決する力を育成することや、社会課題への理解を深めることへの効果がとてもあり、責任感も感じることができます。

 

 「寄付の教室」体験では、グループワークを通して、30万円を3つのNPO団体に対し、どの団体にいくら寄付するのか決定し発表を行いました。4つのグループに分かれ実施しましたが、どのグループも分配額が異なり、選んだ視点は費用対効果や当事者意識、切実感など様々なものがあり、意見交換が盛り上がりました。小川様からは、「人によって色々な視点の考え方がある。正解はなく、思いをもって行動することが大切」というお話をしていただきました。

 

休憩を挟み質疑応答を行いました。学校現場と寄付教育の関りや、新型コロナ禍のクラウドファンディングについてなど、多岐にわたる視点から様々な質問がありました。

その後には、以下二つの議題についてブレイクアウトセッションを行いました。

 

①将来、社会課題解決の担い手として積極的に参加する大人になってもらうとしたら、今の社会貢献教育にさらに何を加えたらいいと思いますか。

②社会貢献教育をより学校に浸透させるためにはどういった工夫があるといいかと思いますか。

 

社会貢献をもっと身近な教育として、取り入れること。利他的になっていくこと。子どもたちの内から湧いてくる問を、どう社会の課題に結び付けるかなどの意見が上がっていました。

 

今回は、「寄付」という、まだあまり学校現場に浸透していない話題ではありましたが、これからの社会問題を考えるにあたり非常に重要なものであることが分かりました。最後に小川様から、社会貢献教育はこれから発展していく余地があることと、以下3つの大切な点をお伝えいただきました。

 

①地域の問題に気が付いて、社会のために貢献していくような機会を子ども達に提供していくことが大切。

②寄付を身近に体験する場として学校が重要であり、学校へのアプローチの仕方に工夫をしていくことが大切。

③身近なことから自分にできること、社会に貢献して一員になれることを意識することが大切。

 

ご講演頂いた小川様、ご参加いただいた皆様、ありがとうございました。

 

文責・企業教育研究会  立川さくら

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行に伴う一斉休校が解除され、ソーシャルディスタンスを維持しつつ話し合い活動などの人と関わる学習活動をどのように行うか、企業の出張授業などの社会とつながった学びをどのように維持するか、といったwith コロナ時代の学校教育の進め方が議論されています。こうした課題を考える上で、休校期間中に行われたオンラインツールを用いた実践を振り返り、オンラインコミュニケーションを活用した学校教育について議論することが重要だと考えられます。

今回の研究会では、一斉休校の開始直後からMicrosoft社のグループウェア「Teams」を導入し、先駆的な実践を重ねている千葉大学教育学部附属小学校の先生方4名からご講演いただきました。以下講演の内容を概略的に記録させていただきます。

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ご講演いただいた先生方のご紹介

・小池翔太先生:校内のICT主任・総合準専科。一斉休校要請直後・試行導入期・本格導入期と段階に分けて、Teams導入までの学校現場のリアルをご講演いただきました。

・永末大輔先生:専門教科は体育。今回は6年生に向けた「身体を通した対話」を大切にした授業実践についてご講演いただきました。

・田﨑優一先生:専門教科は理科で、現在は専科教員。休校中であっても、教材を手にして事象をしっかり見て欲しいという想いから作成された非同期型・動画教材についてご講演いただきました。

・本村徹也先生:今回ご講演いただいた4名の中で唯一の学級担任。休校期間中の学級づくりの一環として、分散登校をチャンスと捉えた道徳の授業実践についてご講演いただきました。

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はじめに、小池先生からTeams導入の経緯についてお話いただきました。休校後であっても、グループウェアで教室の「当たり前」を再現したかったという想いから、以下の内容が組み込まれているTeamsを使用されたそうです。

・いつでもだれでもビデオ通話

・チャットの記録が残る

・ファイル投稿とそれに対するコメントができる

・(限度はあるが)カジュアルなコミュニケーションもしやすい

千葉大学はMicrosoft社と包括契約を結んでいるため、一人ひとりの教職員・学生にアカウントが発行されています。今回はこれを利用し、附属小学校一人ひとりの児童へのアカウント発行を大学側に申請し、休講要請翌日に児童約650名分のアカウントが発行完了・配付されるなど、刻一刻を争う状況だったとのことでした。試行導入期(3月)は、Teamsへの参加は任意制で、あくまでもメインは学校HPに掲載される課題がメイン。本格導入期(4月)は、学校からデバイスを貸し出すなどの対応の上、児童全員がTeamsへ参加しオンライン上での学級開きが行われたとのことでした。

また、附属小学校全体で取り組んでいた情報活用能力育成の授業実践の経験も、今回のTeams導入に一役買っているとご紹介いただきましたので、こちらでURLを共有させていただきます。

 

令和元年度情報教育推進校(IE-School)成果報告集(千葉大学教育学部附属小学校)

http://www.el.chiba-u.jp/IEschool

 

次に、永末先生から「身体を通した対話」を大切にした体育の授業実践についてお話いただきました。コロナ禍では運動不足が問題になっているが、本当に児童は運動をする機会を体育の授業に求めているか調べたところ、「友達との関わりがほしい・コミュニケーションがしたい」という調査結果を見つけたとのこと。コミュニケーションを取りたいだけでは体育である必要はないと考え、身体を使いながら他者とコミュニケーションを図ることを大切にした授業を組み立てられたそうです。永末先生の実践は、以下の4つのフェーズで行ったそうです。

①非同期型オンデマンド(一方通行型)

②同期型リアルタイム(双方向型)

③子どもたちが動きや運動を考え、創造する(双方向型を超えた相互作用的な対話型)

④分散登校を見据え、学校での学習と家庭でのオンライン学習をつなぐ(ハイブリッド型)

今回の実践を通して、ただ運動を提供することは求められておらず、いま学校で求められている体育とは運動と対話であることがわかったため、今後はオンライン上での対話のしやすさを武器にした、学校とオンラインを繋ぐハイブリット型授業が求められるとのことでした。

 

続いて、田﨑先生から「非同期型動画教材」についてお話いただきました。理科で扱う題材を自分ごとの課題にしてもらうべく、教材を手にして事象をしっかり観察できるような動画づくりを目指したとのことでした。また、普段気にも留めなかった周囲の自然に目が向くようになってもらえるように先生ご自身が動画を作成されたとのことでした。これによって学校など身近な場所で撮影することができ、身近なものとして事象を捉えられる・自分が飼っているかのように感じさせられる、とのことでした。実際には、Microsoft Streamを使用し、自然の変化・季節の移り変わりを子どもたちに届けようと動画を何本も編集されたそうで、非同期型動画教材のメリットは、自分の端末で動画を何度も確認できるため児童のペースで進められることや、意見を述べる時に手元に動画という情報があること、だそうです。今回の取り組みを踏まえ、これからの課題は、非同期型から同期型になった時、どのようにしてモノを用いた対話や意見交換をするか、どのようにして児童自身が事象から不思議を発見して自分ごとにできるようにするか、とのことでした。

 

最後に、本村先生から休校期間中の「学級づくり」と分散登校をチャンスに捉えた授業実践についてお話いただきました。休校期間中はオンライン上で朝の会とまとめの会を行い、児童の「友達と話したい」を叶える取り組みを行っていたそうですが、児童からは「もっと話したい」「足りない」という声があったとのことです。この時たまたまネット上で見つけた「オンラインもくもく会」を学級にも導入し、参加希望者でのゆるやかな繋がりを作っていったとのことでした。また、分散登校が始まってからは、子どもにいま必要な学習を考え、「わくわく」ではなく、まずは「ほっと」することを大事にされたとのことでした。その一つの取り組みとして、道徳×学活の4コマ構成で「お互いのよさを見つけ合おう」という単元を展開されたとのことでした。また、分散登校では半分の児童のみが教室にいるため、教室で行う授業・オンライン上での同期型・自宅での非同期型の3つの方法を取り、ハイブリッド型授業を実践されたとのことでした。今後は、これまでも大切にしてきた授業改善の視点やオンラインならではの「話しにくさ」の改善、個の見取りが課題になるとのことでした。

 

以上4名の先生方からお話いただいた後、質疑応答を行いました。今回は現職の先生から民間企業にお勤めの方まで多岐にわたって参加いただいたため、現場レベルの話からTeamsの機能に関する質問など、さまざまな質問が飛び交いました。

その後のブレイクアウトセッションでは、「オンラインツールをこれからの学校教育に生かすアイディア」というお題のもと、8部屋のブレイクアウトルームで議論が行われ、様々な立場から考えるアイディアを共有しました。

今回は、本会にしては珍しく学校の先生にご講演いただきました。「出来る事を出来るだけやった」休校中の支援として、いち早く取り組まれた千葉大学教育学部附属小学校の事例を通して、これからの教育について考えを巡らせていきました。また、様々な業種の方と交流でき、今後のwithコロナ時代に向けたアイディアや学びのきっかけを頂けた機会でした。ご講演いただいた4名の先生方、ご参加いただいたみなさま、ありがとうございました。

 

文責・企業教育研究会  郡司日奈乃

 

2020年5月16日に第135回千葉授業づくり研究会「見えないものを可視化する」を、今回は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止のため、オンライン会議ツールであるZoomを用いて開催いたしました。

 

「見えないものを可視化する」ということで、可視化することにおいて必要不可欠なコンピューター・シュミレーション技術について、伊藤忠テクノソリューションズ株式会社の池田様にお話いただきました。

池田様は環境カウンセラーの経歴をお持ちで、環境教育とコンピュータ・シミュレーションの関係に精通しており、現在では科学・工学分野の解析、シミュレーション技術で社会を取り巻く様々な課題解決へ取り組んでいらっしゃいます。以下講演の内容を概略的に記録させていただきます。

 

はじめに、伊藤忠テクノソリューションズ株式会社(以下、CTC)や実際に行っている出前授業に関するご紹介を、CTC広報部 酒井様からいただきました。CTCはAI/IoTやクラウドサービス、SNSなどの分野で活躍している企業で、2015年に社会貢献活動として「未来実現IT教室」を、子ども向けのプログラミング教育として立ち上げました。その中で、現場の先生たちの「プログラミング教育ってどうやればいいのだろう?」という疑問に触れ、さらに現場のニーズに応えるために企業教育研究会と共同で「みんなでチャレンジ!ITエンジニア」という授業を2018年からはじめました。この授業では、プログラミングを教えることより、プログラミングの基礎である、論理的思考(プログラミング的思考)を養うことを大事にしたそうです。

 

次に、池田様から数値シミュレーションや環境教育などのお話をいただきました。数値シミュレーションとは、天気予報やCO2濃度分布、ウイルス飛散、設計(建築物や車の空気の流れや音など)などといった、私達の生活には欠かせないものに多く活用されており、目に見えないものを可視化するためになくてはならないものです。また、池田様は環境教育においてインタープリテーション(自然の解説)として、五感を使って感動を与えることや、体験を取り入れることを大事にしているそうです。環境教育においては、生物多様性と持続可能な開発目標について、「バイオミミクリー」を紹介しながら、今までたくさんの子どもたちに教えてきたそうです。バイオミミクリーとは「生物を模倣する」ことを意味し、例えば、ヨーグルトの蓋にヨーグルトがくっついていないのは、蓮の葉を模しており、蓮の葉には撥水性があり、そこからヒントを得て、ヨーグルトがくっつかない蓋が開発されたそうです。ほかにも500系の新幹線はカワセミの入水を模していたり、パンタグラフはフクロウの無音飛行を模していたりなど、とても興味深い内容でした。

これらの内容を踏まえ、数値シミュレーションと環境を組み合わせた教育プログラムの提案をいただきました。目的を満たすモデルを生き物からヒントを得て、プログラミング的思考で、試行錯誤して、見つけ出す力を養うことが目的だそうです。

 

休憩を挟んだ後の質疑応答では数値シミュレーションに関する質問が大多数を占めていました。数値シミュレーションの可能性や、初心者が扱うときのポイントについて、数値シミュレーションと子どもの学びへの繋がりなどの質問があり、それぞれ丁寧にお答えいただきました。中でも、バイオミミクリーを考えるにあたって、モノと生き物の関連性、例えば新幹線とカワセミはどのようにつながったのかなどを子どもたちに考えさせる必要があるが、そういった力をどのように考えさせるかという質問に対して、「なぜこの生き物は〇〇(速い、音がしないなど)なんだろう?」という視点を持ち、Whyを追求することが大切とおっしゃっており、まさに子どもたちに必要な力を養える教育コンテンツだと感じました。

 

最後に、グループに分かれてブレイクディスカッションを行いました。それぞれのグループに分かれて、今回の議題に関して様々なアイデアを考え、意見し合う場として、盛り上がりました。ここでも「どうすれば、学校の先生でも数値シミュレーションを授業に取り入れることができるのでしょうか?」という質問がありましたが、池田様いわく、簡単なソフトで計算をするとのことで、懸念が解消されたと思います。また、アート(黄金比)や感染拡大シミュレーション、暑い教室の効率よく冷やし方などといった様々な軸で授業が作れる可能性があり、日常とのつながりもあって、とても良い教育コンテンツだと思うといった意見が多くありました。

 

今回は、数値シミュレーションという、教育コンテンツとして可能性を秘めている内容でした。難しい内容ではありますが、子どもたちは自分自身でWhyを追求し、プログラミング的思考で試行錯誤して新たなモデルを開発し、もとよりいい結果を導き出すことで、今までにない感動を与えられるのではないかと感じました。

 

文責・企業教育研究会  堀内誠太

 

オンライン会議ツールであるZoomを用いて、各参加者のいる場所を繋いで実施しました。

2019年12月21日に第134回千葉授業づくり研究会「教育コンテンツ開発の秘訣とは!?」を開催しました。

 

学校の情報化やアクティブラーニングへの注目など、世の中のニーズが移り変わる中、制作されるコンテンツも変化していきます。今回は教育コンテンツを制作されているプロをお呼びし、対談形式で教育コンテンツについてご講演いただきました。

講師にはディレクションズ学習コンテンツ開発部プロデューサーの楢崎匡さま、すなばコーポレーション代表の門川良平さまの二名をお呼びしました。以下講演の内容を概略的に記録させていただきます。

 

はじめに、それぞれご自身の取り組みについてご紹介いただきました。

楢崎さまの所属するディレクションズ社は、子ども向けのコンテンツを多数制作する映像制作会社です。楢崎さまが在籍する学習コンテンツ開発部では、特に教育に特化したコンテンツを制作されており、Eテレの番組やベネッセコーポレーションの動画教材、教科書のデジタル教材の制作などを行っているそうです。

 

門川さまは、10年間勤めたベネッセコーポレーションを退職後に通信制大学で小学校教員免許を取得し、小学校の教員として2年間勤めた後、文響社を経て、個人会社のすなばコーポレーションの代表を務めていらっしゃいます。ベネッセでは進研ゼミ小学講座の教材開発に、文響社では、うんこ事業部うんこプロデューサーとして、大ヒットドリルシリーズ「うんこドリル」のキャラクターである「うんこ先生」を用いて、交通安全からSDGsまで、幅広い分野の教育コンテンツ作りに携わってこられました。現在は文響社から委託を受けている業務のほか、対戦型計算カードゲーム「ミーデン」を開発したり、「不登校からのキャリアデザイン」というイベントの主催をしたりと、オリジナルのSDGsワークショップを開発したりと多岐にわたる活躍をなさっているそうです。

 

パネルディスカッションでは、まずコンテンツ作りで大切にしていることをテーマにお話しいただきました。門川さまは、そのコンテンツが楽しいかどうかを大切にしているのだそうです。かたいものを飲み込みやすく柔らかくするのがコンテンツ化するということであると仰いました。授業の導入が上手くいくと、その後の授業展開も上手くいくという、自らの経験をもとに、コンテンツへの入り込みやすさが重要だと考えているそうです。それを踏まえて楢崎さまは、学びはそもそも楽しいものであり、コンテンツはその本質的価値に気付くための入り口に過ぎず、コンテンツ自体に付加価値を求めてはいけないのではないかと仰いました。コンテンツが楽しいことは重要だけれど、それをきっかけに学びの楽しさという本質的な価値に気付けるようにもしなければいけない、という言葉に参加者の多くが頷いていました。楽しい中でも、何を学ぶかが重要なのだと考えさせられるお話でした。

 

次に、どのようにコンテンツを作っているかをテーマにお話しいただきました。楢崎さまは、本質を突くコンテンツを作るには、まず制作者が十分学んでいる必要があると考えているそうです。勉強をして、どこが本質なのか、どこがポイントなのかをはっきり理解することが重要だと仰いました。一方、門川さまは思いついたことを形にして、それを世の中のニーズとすり合わせていくようにしているそうです。実際に作っていく中でまた新たに学んでいくことができ、それが意欲にもなっていると仰っていました。高くアンテナを張って、価値のありそうなものを逃さないことがコンテンツ作りのコツと仰っていました。自身の取り組みの中で紹介のあったカードゲーム「ミーデン」も、トランプのスピードのゲーム性と計算を組み合わせたらどうなるだろうと考えて出来たと仰っていました。身近にも多くのコンテンツ作りのヒントが隠されており、いかにそれに気付くことができるかがカギなのだと感じさせられました。

 

最後に、教育コンテンツを取り巻く課題をテーマにお話いただきました。楢崎さまは、コンテンツを作る側の視点として、制作したコンテンツがどのように運用されているかを見届けることができないことが悔やまれる点であると仰いました。コンテンツが制作者の意図と異なる解釈や運用をされてしまったり、使用感のフィードバックが取りにくかったりと、現場と制作者の分離が大きいのだそうです。教員の経験のある門川さまも、良い教材なのに使いにくいといったことを感じていたそうです。お二方とも、コンテンツ開発の中で、現場の声が反映されづらいことに課題を感じているそうで、使う人と作る人が一緒になってコンテンツを開発していきたい、現場の先生方を助けられるコンテンツを広く一般に使えるようにしていきたいと仰っていました。

 

質疑応答では、講演を聞いた感想をはじめ、コンテンツ作りの“黄金レシピ”のようなものはあるのか等、多くの質問が寄せられ、それぞれ丁寧にお答えいただきました。中には「教育コンテンツは所謂“意識低い系”の先生にはハードルが高いのではないか」という質問もありました。これに対して、教育コンテンツをわざわざ取り入れるより自分で授業をした方が楽と考える教員がまだ多いのではないかと分析したうえで、制作者はコンテンツに頼った方が楽だというアピールが必要かもしれない、“意識低い系”を相手取るよりも使ってくれる“意識高い系”の教員を増やすことの方が重要ではないかといったディスカッションが起こりました。皮肉ではありますが、教員の意識の高さに関係なく、子どもたちが学びの楽しさを感じられるというところは教育コンテンツの良さであると感じました。講義全体を通して、学ぶべき事柄が増えていく現代で、先生を助け、子どもたちが学びたいように学べる教育コンテンツはとても価値があると感じました。

 

文責・企業教育研究会  西村崇一郎

2019年11月16日に第133回千葉授業づくり研究会「PrivacyVisor開発物語〜プライバシー保護の先端技術の研究開発から社会実装へ」を開催しました。

今回は、国立情報学研究所より越前功教授をお招きしました。越前教授はカメラによる顔検出を防ぐメガネを自治体と共同開発されるなど、プライバシー保護に関する技術開発を精力的に行っていらっしゃいます。様々なプライバシー侵害が起こりうる現代のインターネット空間の実態と、越前教授が実践されてきた技術開発について、お話いただきました。当ブログでは、研究会での様子をレポートいたします。

ご講演では、はじめにインターネット空間でのプライバシー問題についてお話いただきました。近年、カメラ付き携帯端末が爆発的に普及したことで、個人が手軽に風景を撮影でき、SNSなどに投稿することが当たり前になりました。個人が撮影した画像は通りがかりの人の写り込みを含め、多くのプライバシー情報が含まれています。それをインターネットに上げることによって、悪意がなくとも他者のプライバシー情報を世界中に拡散してしまうことがあります。生体認証によるセキュリティ保護が普及する中、カメラとネットワークによって生体情報が拡散されてしまう恐れは深刻になりつつあるのだとおっしゃっていました。

続いて、PrivacyVisorというメガネ開発についてお話しいただきました。このメガネは、装着した状態で画像を撮られたとき、顔検出を防ぐ効果があります。

スマートフォンなどで写真を撮るとき、映った顔が四角形で囲まれるのを見たことがありませんか。それが顔検出されている状態です。顔検出は、画像の明るさの特徴を分析して、その特徴が顔のようであれば、顔だと判断するという仕組みなのだそうです。越前教授が分析した結果、目の周辺が暗いこと、鼻筋が明るいことが顔としての大事な特徴なのだとわかりました。従来のサングラスでは、この特徴は崩せず、顔検出されてしまいます。そこで、この特徴を崩すようなメガネを開発されました。

2012年、最初に開発したメガネは、目の周辺にLEDを配置して明るくするものだったそうです。見事、顔検出はできないようになりましたが、電源が必要なことから、日常での使用が難しいという課題がありました。そこで、材質を工夫して光を反射もしくは吸収させ、電源不要で顔検出を防止するメガネを開発されました。しかし、製品化にはデザインや普及の面で課題がありました。

そこで、建築家の方にデザインを依頼し、メガネ産業が盛んな福井県鯖江市に製造協力を募って、共同開発に至ったということでした。当時、鯖江市のメガネ製造企業で、3Dプリンターを利用した新しいメガネ開発に着手した企業があったそうです。その企業では機能性メガネのアイデアを必要としていました。そこで、越前教授の開発したメガネのアイデアを活用し、2014年に3Dプリンターモデルができあがりました。さらに、量産化モデルとして、チタンフレームを利用した製品を開発。鯖江市で運営されている地域密着型クラウドファンディングを活用して資金調達し、2016年に発売を実現させたのだそうです。

今回、研究会の参加者にはプラスチック製PrivacyVisorがプレゼントされ、休憩時間に多くの方がメガネの装着を体験していました。実際に、スマートフォンで顔検出ができなくなることが確かめられ、感嘆の声が上がっていました。

デザインは、日本の伝統的な文様を取り入れているそうです!

 

PrivacyVisorによって顔認証が阻害されました!

 

PrivacyVisorの社会実装に向けては、メディアでの発信、博物館や美術館での展示など、継続的な取り組みをされていらっしゃるそうです。そのひとつに、教育現場での活用実績をご紹介いただきました。PrivacyVisorを使用しながら、ネット社会における情報モラルを学ぶ授業をされたということでした。

続いて、指紋盗撮防止技術のご研究についてお話しいただきました。ピースをしている写真から指紋を分析し、複製をつくれる場合があるそうです。越前教授はその可能性を実験で明らかにし、それを防ぐためのご研究をされました。それが、指に装着可能な擬似指紋シールです。このシールを貼り付けると、指紋センサーでの指紋認証は可能ですが、写真に写った指からは指紋を判別できなくなります。機能性と利便性の両立を意識して開発されたそうです。

最後に、フェイクビデオを検知する研究開発についてご紹介いただきました。フェイクビデオとは、ある人物の見た目や声などの特徴を模倣することで、その人になりすまして情報を発信し、それを見た人々を騙そうとする動画のことで、近年問題視されています。この問題は、見た人が真偽を確かめられるような仕組みをつくることで対抗できるということでした。

実際に、合成によって作られた顔や、有名人の話し方を模倣して架空の話をさせる動画を見せていただきました。目視では、見た目や声が合成かどうか、ほとんど見分けがつきませんでした。しかし、これらの画像や動画に、越前教授が開発された検知システムを適用すると、瞬時に本物か偽物かが判定されます。研究では、システムを使えば高精度で真偽判定できることが証明されており、国内外のメディアで注目されているそうです。お話の中で、「これからの時代、『百聞は一見にしかず』は成り立たなくなる。」とおっしゃっていたのが忘れられません。

ご講演の後の質疑応答では、犯罪対策の最新事情や、個人でのインターネット利用時の注意点など、様々な質問がありました。中でも、教育現場でのプライバシー保護について、現職の先生方を交えての議論が巻き起こりました。生徒が写る画像の取り扱いや、成績などの個人情報の運用について、どんなリスクが潜んでいるか、どんな対応が適切かを考える機会になりました。また、印象的だったのは、写真や動画に関する注意点です。写真に映り込む人には事前に許可を取ること、インターネット上で共有するときは不要な写り込みをなくすこと、できるだけ不特定多数の人が見られる状態にしないことなどを学びました。生活に浸透している写真や動画というツールに対して、改めてプライバシー保護の意識をもって接することが必要だと感じました。

 

文責・企業教育研究会  樋口健

2019年10月26日に第132回千葉授業づくり研究会「クイズを通したコミュニケーション術とは!?」を開催しました。

今回は、クイズ作家の日髙大介さまをお招きし、クイズの作り手と解き手とのコミュニケーション術というテーマでご講演をいただきました。

日高さまは、最近話題の「クイズで学ぶ」というコンセプトのyoutubeチャンネル“quiz knock”などにもゲスト出演されていらっしゃいます。「クイズで学ぶ」というコンセプトは、日髙さまも昔から持っていたそうで、塾講師をしていた頃に、生徒に対し「クイズは勉強と一緒、勉強はクイズの一種」と子どもに教えていたそうです。クイズと教育を交え、授業にどのように生かしていくのかをクイズづくりの視点からお話ししていただきました。

現在、テレビでは「99人の壁」、「東大王」をはじめ、クイズ番組が毎日のように流れています。今日の日本はクイズブームと言われていますが、「30年前から同じことを言われる」「今も昔もクイズ番組の数は変わらない」と日髙さまは仰っていました。

クイズ番組を見る視聴者というのは、年齢や性別、住むところ、経験してきた事柄、学んできたことも違っています。クイズ番組の問題が全く分からないのでは見ている人はつまらない、そのため、知っているか知らないかの絶妙なラインを攻めながら問題を作っていくのだそうです。

知っているか知らないかというのは常に回答者に依存します。したがって、クイズ番組の問題作成は出演者を見てから行うそうです。視聴者は答えられない問題を出して間違える姿よりも、問題を解いている姿のほうが見ていて楽しいだろうとおっしゃっていました。そのためにも、問題は理解できるが答えにたどり着くのが難しい、というラインを探ることが大切なのだそうです。そのラインの一つの指標が義務教育だと考えられているそうで、これは、義務教育はすべての人に共通する体験であるためであると述べておりました。

問題がわからないと楽しくないため、わかりやすいクイズづくりの工夫も教えていただきました。

まず、回答者が誰なのかなど、環境によって問題のわかりやすさは変わります。そのため、問題の文章は回答者がわかるように出題しなくてはなりません。

たとえば、読み上げで問題を解く際に指示、支持といった同音異義語を用いるのは不親切です。「選挙で応援することを支持するといいますが」などの言葉を使いながら、わかりやすい問題づくりをするのだそうです。

また、問題が長くなると、結局何を答えればよいのかわからなくなってしまいます。そういったことを避けるために、「ある人物についてお答えください。」などの言葉で答えるべき内容を明確化することが大切なのだとおっしゃっていました。

クイズの問題を授業の発問に生かすというお話もありました。塾講師をしていた時から、クイズを用いながら子どものやる気を引き出す授業を心掛けていたそうで、当時の経験をもとにお話しいただきました。

塾の生徒は義務教育と違って勉強をするために自らやってきていますが、それでもやる気はたいてい30分で切れてしまいます。そのため、クイズのように見立てて発問をして、生徒の興味関心を引き出していたそうです。子どもがクイズ好きなのは今も昔も変わらないはずと、楽しい授業づくりの重要性を説いていただきました。

発問を作る際には上記でも挙がっていた「知っているか知らないかの絶妙なラインを攻め」ることと、「答えるべき内容を明確化すること」が重要だとおっしゃっていました。わからない問題を出されてわからないという経験をするよりも、わかるという成功体験をする方が楽しいし、勉強へのやる気も引き起こしやすいのではないかと考えているそうです。

わかる問題(クイズ)を解かせる、そのうえで大げさなフィードバックをする、といった工夫で、子どもが意欲的に授業に参加できる枠組みを作ることが重要なのだとおっしゃっていました。間違えることを恐れて問題に取り組めない子も多くいるはずだとした上で、間違えないような出題の仕方の工夫や、間違えたとしてもそのままにせず、いい間違えを褒めるなど、ヒーローにしてあげる工夫も必要なのではないかとおっしゃっていました。

質疑応答では、「授業内の発問ではクイズでいうところの解説が肝であるが、どのようにしたらわかりやすい解説ができるのか」、「クイズを間違える楽しさというのもあるが、授業に生かせないだろうか」など、多くの質問が飛び交いました。

講義全体を通して、クイズと発問、また番組づくりと授業づくりには類似点も多く、児童生徒を楽しませるヒントを得ることができました。多くの人を楽しませるコンテンツには授業づくりに生かせるものが多くあるのではないかと感じされられました。

文責・企業教育研究会  西村 崇一郎

2019年7月20日に第131回千葉授業づくり研究会「高校生が考える『ICT教育』のこれから」を開催しました。

今回は広尾学園中学校・高等学校を会場に、現場の職員である金子先生と小沼様、広尾学園高校2年生の髙橋様より、日頃からどのようにしてICTと向き合っているのかについてご講演いただきました。

 

研究会には、ICTに関して強い関心のある、教員や一般の方々、大学の教授や学生まで様々なバックグラウンドを持った多くの方々にお越しいただきました。

 

研究会の冒頭では、まず金子先生から広尾学園の今までの教育とこれからの教育についてのお話がありました。今までの教育は学校という枠組みの中を部活と勉強という要素が大部分を占めていましたが、これからの教育には、そこにプラスαの部分として、キャリアプログラムやICTを用いた活動、海外活動や、地域への貢献活動、企業と協力した活動、インターンシップなどが必要であると述べられていました。

具体的に学外での広尾学園の生徒の活動として、Unilever社と共同で行われたDoveブランドのプロモーション映像企画や、日本HP社の主催で行われた、「Mars Project」に大学と合同チームで優勝したお話、クリエイターの方とAIを用いて現代にモーツァルトを再現するプロジェクトに参加したことなどが挙げられ、高校生であっても発想力という面で様々な方面から求められており、そこにこれからの教育が見えてくるのではないかと述べていました。

また、学校内の活動では、学園祭の時に、ICTを用いた新たな表現として、映像と音楽と照明を組みわせたプログラミングなどを生徒たちが主体となって作り出し、教員が手を出せない領域まで、生徒の活動は広がっているということを述べていました。

 

次に高校生である髙橋様から、生徒目線のお話をいただきました。広尾学園には、ICTルームというものがあり、そこには3Dプリンターやレーザーカッター、iMac、Adobeのソフトなどがあり、そこで日々ものづくりや動画の編集、カメラ撮影、学内イベントの企画運営などを行っていると述べていました。また、ワークショップなども開いており、ミニチュアの車作りや、グライダー作成のワークショップなども開いており、髙橋様にとってICTルームは「『つくりたい』を叶えるコミュニティ」であると述べていました。

また、髙橋様がICTルームでの活動を通して学んだことして、4つのことを述べていました。1つ目は、「自分の中の比較優位を探す」です。これは、集団で役に立ちたい時に、自分の中で得意なことがなかったとしても、その中で比較的に得意なことを見つけ、それをやっていくことで、次第に得意になっていき、最終的には集団の役に立てるということです。2つ目は、「楽しいは共有するもの」です。ICTルームを使用するにあたって楽しいからこそ、活動しているのであることを忘れないことも大事ですが、それを押し付けずに自然に共有することができれば、より良い空間になっていくと感じたそうです。3つ目は、「教える側にとっての責任感」です。先輩の立場として、誰かに尋ねられた時、そこで答えを教えるのではなく、一緒に悩んでくれる人を求めているだということを学んだそうです。4つ目は、「信頼関係が、共創・試行錯誤を可能にする」というものです。ICTルームでは、他の場所よりも縦の責任が強く、それによって、シナジー効果が生まれているそうです。しかし、一方で新たな人間関係を構築し直すときに、多くの苦労が生まれるようで、どのような関係を作っていくのが良いのかを今も模索していると述べていました。

髙橋様にとってICTルームの存在は、教室以外で夢中になれるものであり、そこにICT環境の整備と先生方のサポートがあるおかげで、主体的に学べる場として、存在していると述べていました。

 

最後にICTルームの管理をされている小沼様から「教職員から見たICTルーム」についてお話がありました。広尾学園の生徒はChromebook、iPad、MacBookの三種類を用いており、それぞれ学校単位または個人で購入し、管理設定を導入して使用していると述べていました。問題が起こった時の対応として、今までは生徒、担任、担当教員、業者という流れであったものを、ICTルームを設置してから、その流れをまとめることができ、運営がスムーズになったそうです。ICTルームでは、業者任せにせず、生徒と先生であったり、生徒と生徒であったりが教え合う場面もあるそうで、より主体的な学びにつながると述べていました。また、破損したデバイスの状態から、生徒の抱える問題を発見することができるという副次効果も業者任せにしないことで得られたそうです。

質疑応答では、主に授業におけるICTについて、質問が飛び交いました。広尾学園では、ICTを使った特別な授業をしていないと述べていました。ICTはあくまでも授業を行う時に、生徒や先生が、自然に使っていくもので、特定のICTを使うための授業は行なっていないそうです。講義全体を通して、今後ICT教育という言葉は死語になっていくこと、ICTを使うことで問題が生じることもあるが、マイナス面ではなく、それ以上に大きなプラス面に目を向けていかないといけないということを感じました。

 

文責・企業教育研究会  石川 鉄平

 

 

2019年5月18日に第129回千葉授業づくり研究会「若者が主役になる学び、とは何か?」を開催しました。

今回は、JK(女子高生)が主役の市役所の課、ニートが主役の会社、変人が主役の研究奨励制度など、様々な実験的プロジェクトを仕掛けてきた若新雄純さまを講師としてお招きいたしました。

今回の研究会では、若い人が主役になれる学びとは何かということをテーマに若新さまよりお話をいただきました。学生から大人まで様々な専門性を持った多くの方々にお越しいただきました。

 

研究会の冒頭では、今後は答えがないという時代を受け入れ、そのことを前提として、あえて答えを見つけないという価値観が必要であることが述べられていました。様々な実験的なプロジェクトを手がけてきた若新さまがなぜ斬新なプロジェクトを考え出すことができたのか、きっかけは幼少期に感じた厳格な親と自分の感覚のズレだそうです。こうあるべきであるという価値観を教えられてきた若新さまは自分の持っている価値観とのズレを感じており、そんな思いが、慶應大学SFC研究所で研究を始めてラボを立ち上げ、「ゆるいコミュニケーション」をテーマに様々な実験的なプロジェクトを仕掛けるきっかけになったそうです。

若新さまのお話の中では、試行錯誤という言葉がキーワードの一つとして述べられていました。試行錯誤とは試みと失敗を繰り返しながら次第に見通しを立てて策や方法を見出していくことであると述べながら、現代の人は失敗を恐れていると若新さまは語ります。失敗することがいけないという価値観が試行錯誤の邪魔をしているが、今後は答えを導くのではなく「新しい〇〇」を試行錯誤することが必要となるということでした。わからないこと「?」を楽しんでいく中で発見が連鎖して何かが生まれる、この発見の連鎖が結果として成果につながると若新さまは述べていました。

 

具体的な事例としてニートが主役の株式会社や鯖江市のJK課などを設立する過程を挙げながら、新しい〇〇を試行錯誤するということは具体的にどういうことなのかお話いただきました。

 

質疑応答では新しい〇〇を試行錯誤するということをどのように教育に取り入れていくかが活発に議論されました。講義全体を通して、今後学校教育で若者が活躍できる学びをどのように取り入れていくのか試行錯誤していくことが必要なのではないかと感じました。

 

文責:企業教育研究会  貸熊 大揮

2019年度の「関西授業づくり研究会」の開催を予定している日程は下記のとおりです。

 

2019年 5月26日(日)
2019年 10月27日(日)
2020年 2月16日(日)

 

内容によっては日時を変更する場合がございますので、各回の詳細の案内をご確認ください。
詳細の案内は開催日時より1ヶ月〜2週間前に企業教育研究会・定例研究会ページにてご案内いたします。

2019年度の「千葉授業づくり研究会」の開催を予定している日程は下記のとおりです。

 

2019年 5月18日(土)
2019年 6月15日(土)
2019年 7月20日(土)
2019年 10月19日(土)
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内容によっては日時を変更する場合がございますので、各回の詳細の案内をご確認ください。
詳細の案内は開催日時より1ヶ月〜2週間前に企業教育研究会・定例研究会ページにてご案内いたします。

12月15日(土)に第127回千葉授業づくり研究会「小麦粉から見る日本の食糧事情と食品安全」を開催しました。

 

今回は、日清製粉グループ本社CR室の南澤陽一さまを講師としてお招きいたしました。日清製粉グループは、小麦をこねてグルテンを取り出したり、石臼で小麦を挽いたりする体験型の授業を行なう活動を実施しています。

 

 

今回の研究会では、小麦を題材とした新しい授業づくりを目指す一歩として、南澤さまより日本の小麦利用に関する様々なお話をいただきました。

 

まずは、小麦粉のもとである、小麦についてのお話からレポートします。

現在、日本で使われる小麦のおよそ9割は海外から輸入したものです。小麦は世界の様々な国で生産されていますが、日本では主にアメリカ、カナダ、オーストラリアから小麦を輸入しています。例えば、タンパク質が高いパン用の小麦はカナダとアメリカから輸入していますが、アメリカからは、天ぷらやお菓子用の薄力粉として利用するタンパク質の低い小麦も輸入しているそうです。また、オーストラリアからはうどん用の小麦を輸入していますが、讃岐うどんのモチモチした歯ごたえと、つるっとしたのど越しはこの原料の特徴とのことです。様々な国から色々な品種の小麦を輸入している日本だからこそ、料理ごとに小麦を使い分けることができるそうです。

 

しかし、日本の食糧自給率は低く、今後小麦も含めて生産力を高めていく必要があります。その一環として、国内産小麦の新品種の育成も進められています。かつては日本の小麦はパンには適さないと言われていましたが、最近は北海道でパン用に適した小麦の開発に成功しているそうです。しかし、日本で育成された小麦の品種はまだ生産量が少なく、全国に行き渡るには至っていないとのことでした。

 

小麦は8000年以上前にメソポタミアで栽培化されたと言われており、その後世界中に広まって各地で多様な品種が作られていきました。日本では世界の様々な品種の小麦を輸入して使い分けている……と考えると歴史的な観点では大変興味深く思われます。その一方で、食料自給率の低さを解決するために、国内産小麦の生産量を増やすという課題があることも忘れてはいけないのですね。それでは、日本では小麦をどのように加工して小麦粉にしているのでしょうか。

 

日本では、まず外国から小麦を政府(農水省)が買い取ります。企業は政府から小麦を買い、工場で製粉して販売しているのです。外国から船で運搬された小麦は、企業のサイロに移されます。その後、小麦は工場に運ばれ、ミリング(小麦を砕く)、シフティング(砕いた小麦をふるいにかける)、ピュリファイング(白い小麦粉を取り出す)という段階を繰り返して製粉されます。

 

こうして私たちが家庭で使う白い小麦粉が出来上がるのです。最後に、消費者が安心して小麦粉を使用できるようになされている工夫についてお話をいただきました。

 

小麦粉の袋をよく見ると、「開封後は吸湿、虫害などを防ぐため、袋口のチャックをお閉めになり、お早めにお使いください。」や「小麦粉の使用にあたっては、必ず加熱調理してお召し上がりください」という注意表示や、食品素材と添加物を明確に区別した表記、アレルギー表示、原料原産地表示、遺伝子組換え表示などが書かれています。これらは、消費者の声や医学などの研究成果、消費者庁と企業のやりとりなどをふまえて表記されているそうです。また、輸入小麦の安全性の確保のために、小麦を乗せた船が原産地を発つ前にサンプルを飛行機で日本に送り、船が日本に着くまでの間に安全性の検査を終了するようにしているそうです。「企業は安全なものを作る。安心できるかどうかは、消費者の信頼次第」という言葉で、講義は締めくくられました。

 

以上の講義を受けて、新しい授業づくりに向けた討論を行ないました。研究会に参加されていた小学校の先生からは、総合的な学習の時間で小麦粉を作る授業を行なったという報告がありました。この先生は、小麦粉は世界の様々な国で利用されていることに着想?して、国際理解教育の一環として小麦粉づくりを行なったそうです。また、小麦を題材とした流通の授業の提案や、栽培化に伴う形質変化を題材とした理科の授業の提案など、様々な授業案が生まれました。

 

小麦は文明の黎明期から私たちのお腹を満たしてきた作物です。長い間人々の生活の中にあったからこそ、小麦は様々な切り口で教育に活かすことが出来る可能性を秘めていると感じました。

 

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