今回の金さまのご講演では、主に以下の3点についてお話をいただきました。

 

  • 外国にルーツをもつ子どもと、その教育の現状
  • 発達障害とみなされていた外国人の子どもー金さまご自身の研究からー
  • この問題をめぐる最近の動向と留意点

 

(1)外国にルーツをもつ子どもと、その教育の現状

 金さまは、ご自身が大学院生の頃に、フィリピン出身の男子中学生だったケイタくんと、学習支援のボランティアで出会い、今まで障害を持っているなどと一度も聞いたことがないのにもかかわらず、特別支援学校に進学すると聞き、驚いたという経験をお持ちでした。

 しかし、外国人と発達障害の両方の要素を併せ持つ人が参考にできる本や論文がないことから、金さまご自身の著書である『「発達障害」とされる外国人の子どもたちーフィリピンから来日したきょうだいをめぐる、10人の大人たちの語り』(明石書店、2020年2月)を出版するきっかけになったとのお話をいただきました。

 統計データから日本で暮らす外国人とその子ども、日本語支援が必要な児童数は基本的に増加傾向にあり、千葉県では在留外国人数は全国6番目の多さであるそうです。また18歳以下の子どもは約1万8千人に上るなど、アジア圏を中心に外国にルーツがある子どもが多いとのことでした。

 しかし、このような傾向があるにもかかわらず、日本語指導の環境が整っておらず、特に千葉県では、日本語指導が必要とされる子ども32人に教員の1人の配置という割合であること、また教員免許を持たない教員による週1コマなど短い時間での指導のみであることなどから、不就学や高校進学率、不十分な学習指導など、様々な課題があるとのことでした。

 また、外国人の子どもが特別支援学級に在籍する割合が日本人の子どもに比べ、約2倍多いといったデータもあり、子どもや保護者の母国からもこの問題に関する疑念が向けられているそうです。

 ここで問題となってくるのは「発達障害」についての解釈です。発達障害の原因は脳機能の障害とされていますが、科学的な根拠はない状況とのこと。従って、特別支援学級在籍者数は年々増加しているものの、実はそれは発達障害と診断することで教育上のリスクを回避するなど、管理の対象となっているという側面があるとのことでした。

 上述の内容を踏まえて、金さまは、発達障害と判断された状態を疑い、外国人の子どもの困難に立ち返ることが必要であるとお話しされていました。

 

(2)発達障害とみなされていた外国人の子ども―金さまご自身の研究から―

 そこで、カズキくんとケイタくんというフィリピンにルーツを子どもに焦点を当て、その高校進学までに関わった、教員や保護者など10人のインタビューの内容についてお話ししてくださいました。

 そのインタビューの中には、子どもは外国人としての困難を捉えていたにも関わらず、学校側が障害児としての支援で解決を図っていたこと、そしてそれを可能にする発達障害等概念の曖昧さや、日本人の専門家を中心とし、外国人の子どもをもつ保護者と正当な対話ができていないまま説得する実情などが、実際の発話の記録とともに示されました。これには、衝撃を受けた参加者も多い様子でした。

 また、これはカズキくんとケイタくんの事例だけではなく、日系ブラジル人の母親とその子どもを対象としたインタビューでも、外国人の保護者が教師等から不当な圧力を感じたり、強い抵抗をしたりしたにも関わらず、次第に教員の信頼や感謝という段階に移行し、最終的には学校側の提案を受け入れ、それを対外的に語るといった段階に至るとのお話がありました。

 これらの事例を通して、金さまは、外国人の子どもが受けられる教育的支援・進路は限られており、その支援策として敢えて発達障害と診断することを選ばれてしまうこと。それにより外国人の子どもへの支援が不十分であるという問題が見えにくくなってしまっているという現状が、課題としてあるとお話ししてくださいました。

 

(3)この問題をめぐる最近の動向と留意点

 『「発達障害」とされる外国人の子どもたちーフィリピンから来日した きょうだいをめぐる、10人の大人たちの語り』(明石書店、2020年2月)の出版後、文部科学省では、特別支援学級に在籍している児童生徒数を新しく調べたり、「障害のある子どもの教育支援の手引き」に外国人の子どもの特別支援教育について明記されたりするなどの変化はあったが、予算や人員拡充はなく、現状が大きく変わる可能性は少ないとのことでありました。

 そのため、現場で留意して対応することが中心となっていきますが、金さまは、保護者への丁寧かつ、デメリットについてもしっかり言及するといった網羅的な説明を行うこと、すぐに「発達障害」と疑い始める前に、まずは教師側から子どもへの支援や、子どもやその保護者等との対話が十分かどうかを確認すること、発達障害の診断に関わる人には、外国人の子どもの日本語学習歴などの学習状況、自治体・地域などの日本語指導などの施策の充実度など社会的データも資料とすることが現場では必要である、とのご意見をいただきました。

 また、子ども同士のかかわりが外国籍の子どもの支えになっていたことから、そのような環境づくりに加えて、教員がサポートし続けるという意識を持つこと等についても、考えていく必要があるとのことでした。

 

 金さまのご講演の後に、千葉県の小学校で学校長や教育委員会の指導主事を務めた経験があり、現在は企業教育研究会職員を務めている古谷成司さんから、外国にルーツをもつ子どもに関する教育現場での実情について話しました。

 

 その後、質疑応答を行いました。主に、学校現場での現状や外国人の子どもをめぐる特別支援に関して、参加者の皆様と議論を交わしました。議論の中で、教員は特別支援教育が悪いものではないという認識を持っていること、しかし在留資格の関連で特別支援学校に進むことで選ぶことのできる選択肢が極端に狭まり、危機的な状況に陥ることになる可能性もあるにも関わらず、その説明を学校側から行われていないケースも多いとのことを知り、外国籍の子どもをめぐり、学校現場に様々な課題があること、そして対処をしていかなくてはならないとの課題意識を広く共有することができました。

 筆者個人といたしましては、外国籍の子どもが増えているという現状の中で、まずは外国籍の子どもと、その彼らを取り巻く人々と、「対等に」対話を重ねる機会をもつことが大切であり、外国籍の子どもと、その彼らを取り巻く人々の声を「聴く」ことを一層重視していく必要があると感じました。ご講演いただきました金さま、ご参会いただきました皆さま、ありがとうございました。

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