4月20日(土)に開催された、161回目を迎える「千葉授業づくり研究会」。

2024年度幕開けとなる今回のテーマは「生成AIを活用した創造的な授業とは⁉」です。

 

近年では人工知能(AI)の技術がますます発展し、文章や音楽、動画、絵画、プログラムなど様々なコンテンツをつくり出すことができる生成AIが普及しています。このような状況の中で、学校教育における生成AIの扱い方についても関心が寄せられています。

 

当日は、長年にわたってAIを開発・研究されている、デル・テクノロジーズ株式会社の増月孝信さまを講師にお招きし、生成AIの歴史や仕組み、今後の社会への影響と可能性についてお話しをいただきました。さらに、弊会の学生インターン生が増月さまと開発・実践した「小学校の図書室にあるおすすめの本を紹介する生成AI」をつくる授業をご紹介しました。

デル・テクノロジーズ株式会社の増月孝信さまによる講演

「60分で学ぶ生成AI〜すべてのデータをAIに〜」

今回、ご講演いただいた増月さまは、デル・テクノロジーズ株式会社の中で、研究室部門と連携してAI技術を長年ご担当されている、まさにAIのスペシャリスト。そんな増月さまから、生成AIにとどまらず、そもそもAIとは何かから、丁寧に解説いただきました。

 

1956年にアメリカで人工知能(AI)という言葉が誕生したところから始まり、1960年の第1次AIブーム、1980年代の第2次AIブーム、そして今はまさに第3次AIブームの真っ只中にいる私たち。今までのAIブームと、第3次AIブームはと何が違うのか。

 

それは、機械学習やディープラーニングで学習したデータを生かし、AIが新規コンテンツを作成するところだそうです。さらに、今はテキストのみならず、画像や音声、ビデオなど異なるモーダル(形式)をデータとして学習する技術が発展し「マルチモーダル処理」がトレンドとのこと。世の中にある様々な情報をデータとしてAIに学習させることができるようになり、それをもとにしてまた新たなコンテンツを作成できるようになってきているのだそうです。

 

そんな話を聞くと、生成AIに世の中にあるデータをできるだけ多く学習させ、どんな疑問にも答えることができる生成AIを作り上げればよいのではないか、などと安直なことを考えたくなります。ただ、その生成AIにデータを学習させる際に大切になってくるのは、生成AIの仕組みに合わせたデータを用意することと増月さんは指摘します。

 

生成AIは、学習するデータがとても重要です。データの量はもちろん、質も重要です。バイアスのかかったデータを学習させてしまえば、当然、正しいデータを生成することはできません。つまり、どんなデータを学習させるのかを人間が判断していく必要があるのです。そして、専門的な内容になればなるほど、どんなデータを学習させるかの判断も高度化していく上に、自ずとデータ量も膨大になります。

 

さらに、そのデータを学習させるのに、多くのコンピュータと電力を消費します。どれくらいの電気を消費するか想像がつくでしょうか。もちろん、生成AIの種類によって違いはありますが、LLM(Large Language Model)にデータを学習させた場合、500Wドライヤー1024個分に相当するそうです。生成AIの活用が進むということは、それだけ消費電力の増加につながり、環境問題とも関わってくるのです。

「用途にあわせたモデルを選択し、自分たちにあった独自モデルを使用することが持続可能な利用においても大事」と語る増月さん。そして、環境への配慮以外にも、技術が先行して進化してしまっていることを自覚し、セキュリティ、プライバシー、ガバナンスについても一人一人が当事者意識を持って考えることが重要だとお話ししてくださいました。


オリジナルAIを子どもたちとつくる実践

➖弊会学生インターン生と開発、実践した授業のご紹介➖

また、弊会学生インターン生の岡野健人さんと増月さまが開発・実践した授業について紹介しました。生成AIを使って、検索をしたり、文章を作成したりなど、生成AIを体験する授業の実践はだんだん増えてきています。そんな中、岡野さんは、「AIを使う側だけでなく、作る側の視点を知ってほしい」という思いから、子供たちがオリジナルの生成AIチャットボットにデータを学ばせる授業をつくりました。

 

紹介では、AIリテラシーを身につけさせるための講義の時間、作る側に立つためのAIの仕組みを理解する時間、チャットボットを作成試運転し修正するトライ&エラーの活動の時間など、岡野さんの思いのつまった実践の様子を語ってくれました。

今後さらに、授業に磨きをかけていくとのことだったので、今後の展開を楽しみに待ちたいと思います!


研究会参加者とディスカッション

➖生成AIを学校教育で活用するには

千葉授業づくり研究会の醍醐味とも言える、ディスカッション。 

参加者の関心事の一つは、生成AIをどのように教育現場で利用していくのかということ。

 

規約の問題で、小学校で使用できる生成AIは今のところほとんどないのが現状ですが、これからを生きていく子どもたちは、あたり前に生成AIを使う場面があることが想定され、生成AIを使う力は今後必ず必要になる。その狭間に悩む、小中学校で実際に教壇に立っている先生方のリアルな悩みを共有しながら、何を学ばせていくべきか、また生成AIを使うとどんな学びを提供できるのかについて、熱く議論しました。

 

特に、生成AIを使用して文書作成をしてしまうと思考力が身につかないのではと危惧してしまうという話題では、会場でも意見が分かれました。生成AIに作成させた文章をどう捉えるかが大事で、完全な文章だと思い込んでしまうのか、文章のベースを作成し、そこから自分で修正を加える視点をもつことができるのかが、思考力の分かれ道ではというお話もありました。

 

社内で生成AIを使用しているデル・テクノロジーズ株式会社でも、生成AIリテラシーを身につけるための社員教育を徹底しているそうで、生成AIを活用していく社会を生きるであろう子どもたちに、どういう段階を経て生成AIを使えるようになってほしいかを考えていくことが求められているように感じました。

 

結びになりますが、ご講演いただきました増月さま、学生インターン生の岡野さん、ご参加いただきました皆さま、誠にありがとうございました。

学校・企業・大学とを結び、誰もが教育に関わり、貢献することができる社会をめざすNPO法人企業教育研究会(理事長:藤川大祐教授(千葉大学教育学部長))は、このたび、千葉大学学術研究・イノベーション推進機構(IMO)(機構長:藤江幸一(千葉大学研究担当理事)、千葉市稲毛区)と、アントレプレナーシップ教育の発展に寄与することを目的とし、相互協力の覚書を締結しました。

【プレスリリースはこちら】

(敬称略)竹内正樹(企業教育研究会事務局長)、片桐大輔(IMOスタートアップ・ラボ責任者、教授)、小牧瞳(URA、IMOイノベーション・マネジメント研究員)

覚書締結の概要

締結日:令和6年4月12日

目的: アントレプレナーシップ教育の分野において連携を図ることにより、起業家教育に貢献する

内容: 

・アントレプレナーシップ教育教材の開発に関する研究活動

・学校へのアントレプレナーシップ教育の展開活動及び授業実施

・学校の教職員等へのアントレプレナーシップ教育の普及活動 等

具体的には、企業教育研究会が中学生を対象に開発したアントレプレナーシップ教育プログラム「ひな社長の挑戦」を用いて、幅広く学校現場で活用されるよう学校における教員研修等の授業支援をIMOとともに進めます。今回の覚書締結により連携を強化し、千葉県を中心に、アントレプレナーシップ教育の幅広い機会提供や機運醸成に貢献します。

千葉大学学術研究・イノベーション推進機構(IMO) について

学術研究・イノベーション推進機構(Academic Research & Innovation Management Organization: IMO)は、研究支援・産学連携機能の強化とイノベーション創出を加速する目的で千葉大学により設置されました。

IMOでは研究推進部とリサーチアドミニストレーター(URA)が連携して最先端研究の推進を支援するとともに、企業等とのコーディネート活動等の一層の強化によって、社会価値創出のための様々な取り組みを実施する体制の整備と強化を実現して参ります。多様なステークホルダーと連携しながら小中高校生向けのアントレプレナーシップ教育を進めていきます。

学術研究・イノベーション推進機構(IMO)|国立大学法人 千葉大学

【本件についてのIMOからのお知らせ】

NPO法人企業教育研究会とアントレ教育の連携に向けて協力体制を築いてまいります

NPO法人企業教育研究会(以下ACE)では、学校・学生(大学)・企業の三者が連携して誰もが教育に貢献する社会を目指し、所属する学生を主体とした授業開発も行っています。本ブログでは、そんな学生主体の授業開発プロジェクトの一つである、翻訳をテーマにした授業実践の様子をACE学生インターン生かつ授業者を務めた菅谷美玖がお届けします。

【授業開発の経緯】

私は、英語科教員を目指し大学で中学校・高等学校外国語科(英語)の免許を取得、現在は大学院で英語教育を学んでいます。そんな私が、一貫してもっている想いがあります。それは、自分とは違う背景をもつ相手を尊重しながら、コミュニケーションをとることができる子どもを増やしたい!という想いです。

 

海外の人を道案内する場面など、実際に外国語を使ってコミュニケーションをとる場面においては、自分とは異なる背景を持っている人との違いをふまえながら、コミュニケーションをとる必要があります。しかし、私が教育実習やインターンシップ先で見学させていただいた英語の授業を振り返ると、気心の知れた友人と教科書の表現から単語を少し変えて口頭でやり取りするようなコミュニケーション活動が多く見られました。こういった活動を行うだけでは、生徒がコミュニケーションをする相手との違いをふまえて関わる必要があるという視点に気づきにくいという課題を感じています。

 

そこで、この課題を乗り越えるような授業を開発したいと思い、今回は相手をふまえた「手紙の翻訳」をテーマに授業を開発しました。手紙を翻訳をする際には、手紙を書いた人がどのような人物なのかや、込めた想いなど、一つ一つの言葉の意図を読み取ることが大切です。そして、翻訳文を読む相手の読解力にあわせて翻訳する必要もあります。中学生にとって手紙を翻訳することは、即興性が高い口頭でのコミュニケーションとは異なり、原文にしっかり向き合い、相手を意識して表現を工夫するという体験になると考えました。そしてそれは、私が感じている課題の解決に適した題材になるとも考えました。授業内容の検討においては、翻訳授業開発グループ※1で何度も話し合い、翻訳者の方にもご協力いただきながら、内容を固めていきました。

 

※1…NPO法人企業教育研究会学生インターン数名と職員から構成

【授業実践概要】

■日時 2024年1月24日・1月31日

■協力企業 303BOOKS株式会社

■授業数 2時間(50分授業×2回)

■対象 中学3年生

■関連教科 英語、国語

■授業概要

演劇サークルに所属する大学生が、中学生向けの劇について台本作りをしているというストーリーの中で進める授業です。生徒は大学生から依頼を受け、アメリカで男性が女性をダンスパーティーに誘った内容の、実在する英文手紙を題材に翻訳に挑戦します。生徒は、台本として違和感がないように、手紙の持つ背景をふまえ、日本の中学生に伝わりやすい翻訳を目指します。

■授業目標

①翻訳には、原文の書き手などのパーソナリティ、言語の違い、該当の文章の時代や文化的な背景などの諸要素が影響していることに生徒が気が付くことができる。

②翻訳する時に、俺や僕、私など、どの人称代名詞を選択するかにより、翻訳文の印象に違いが生まれることなど、翻訳の効果について気づくことができる。

③他者と協力しながら、パーソナリティや諸背景をふまえて、手紙の相手と、翻訳文を読む人に、書き手の想いを伝える翻訳文を作成する。

・1時間目

1965年以前に書かれた本物の手紙を用い、その手紙が書かれた時代背景や、当時の文化について調べ、原文についての理解を深める。

・2時間目 

機械翻訳を参考に※2、生徒が手紙を翻訳する。

翻訳実務経験者から、生徒が書いた翻訳文についてフィードバックをしていただく。

※2…英文を読むことが難しい生徒に対して英文の読解を補助したり、機械翻訳では十分にコンテクスト(時代背景)や文化差を意識した翻訳にならないことへの理解を促したりするために、機械翻訳文を生徒に複数個提示しています。

■ご協力いただいた企業について

◆ 303BOOKS株式会社 

「いちばん自由な出版社」を掲げ、千葉ロッテマリーンズや千葉ジェッツなどのプロスポーツチームとのコラボ、グラニフの人気キャラクターから生まれた「グラニフのえほん」シリーズ、ポッドキャストから生まれた「ホントのコイズミさん」シリーズなど、従来の出版のあり方を刷新した書籍を多数発行している。その他、小中学校の授業で活用される学校図書館図書を多数制作している。

 

◆ ご協力いただいた皆さま

代表取締役 常松心平さま、翻訳者 笠原桃華さま

授業内容を検討するにあたり、様々なコンテンツの翻訳経験をお持ちの笠原さまに具体的に工夫している点を生徒へお話しいただくことで、手紙の書き手や相手、翻訳文を読む人が属する文化などの背景をふまえるという視点を、より実感を持って学ぶことができるのではないかと考え、303BOOKSさまへご協力をお願いしました。

教育現場に精通され、細部までこだわりのある出版物を多く手掛けていらっしゃる常松さま、笠原さまには、当日の講話のみならず、授業の構成段階から示唆に富むアドバイスをいただきました。

【本授業の特徴】

生徒が授業を通し相手をより意識できるように、以下の2点について創意工夫を加えました。

1つ目は、実際に翻訳経験のある方に授業に関わっていただくことです。

授業を開発する過程で、何度か翻訳者の方にインタビューをする機会がありました。翻訳者の方は、文章がもつリズム、原文の書き手、翻訳文を読む人など、様々なことに気を配りながら翻訳されているそうです。生徒は、そのような工夫について話を聞いたり、翻訳者ならではの視点からフィードバックを受けたりすることができます。

2つ目は、実際に書かれた手紙を教材として使用することです。

教材は実際にアメリカで書かれた、アメリカ人の男子大学生が気になる女性をダンスパーティーに誘う趣旨の手紙※3です。特定の個人に出された想いが込められた手紙を用いることで、生徒が「この原文を書いた人はどんな人だったんだろう」、「翻訳文を読む人にとってどうしたら伝わりやすく訳せるのだろうか」など、よりリアリティをもって想像を膨らませることができます。

※3…村主よしえ・広田寿亮(1965)『英文手紙の書き方』、海南書房 

■授業当日の様子

ここからは、授業の様子を紹介します。当日は、2名の中学生と大学院生数名という少人数の受講者に向けて授業を実施しました。

まず、旅行記事やゲーム、漫画など様々なコンテンツの翻訳を手掛けてこられた笠原さまから、生徒に対して、翻訳する際に意識するとよいポイントについてお話しいただきました。そのポイントとは、それぞれの言語が持ち合わせているリズムへの意識と、各文化による単語の捉え方の差に対する意識です。

笠原さまからは、例として、英語の歌詞を日本語に訳す際は、歌いやすくするため、七五調のリズムを意識する場合があることや、単語についても、直訳をするだけでは不十分な場合があり、“vegetable”(野菜)という単語は、日本では生野菜を連想するが、アメリカでは冷凍野菜が想起されることなどをお話されました。翻訳の仕事は、双方の文化をふまえて翻訳しなければならないことを教えていただき、生徒も熱心に耳を傾けていました。

次に、アニメーションを用い、教材の手紙が書かれた当時の時代背景や、手紙を書いた男性と手紙を受け取る女性の関係性について生徒に示しました。

手紙の書き手(ボブ)の性格や、当時の時代背景についてのアニメを視聴

アニメを視聴した後は、ACE学生インターン生による劇を通して、生徒のみなさんに手紙の翻訳を行ってもらうことを伝えました。

演劇サークル監督役の学生。生徒に世界観を伝え、翻訳の依頼をします。

演劇サークル監督役の学生が登場し、手紙を上手く翻訳できずに困っているとこぼしています。

ボブ役の学生が機械翻訳にかけた手紙を朗読している場面。このままの翻訳では、文章に違和感があることや、ボブの人柄が上手く伝わらないことを生徒に実感させます。

演劇サークル監督からのお願いを受けて、まず生徒は手紙の書き手(ボブ)や当時の時代背景について、手紙に書かれたヒントから、調べ学習を行い、理解を深めていきました。

生徒たちは悩みながらも翻訳文を書き進めていました。途中、グループ毎に、翻訳文を作成する際に工夫した点などを共有する活動を行いました。生徒から、「手紙の書き手(ボブ)の育ちがよさそうなので、言葉づかいを丁寧にした。」や、「日本語らしく訳すべきか英語らしく訳すべきか迷ったが、翻訳文を読む人(日本の中学生)にとって分かりやすいように日本語として自然な表現になるように工夫した。」、「手紙に書かれているBig band やJazz Comboなどあまり日本の中学生にとってなじみがない単語について、大人数のバンドと少人数のバンドと工夫して訳し分けた。」など、文化的背景や時代の違いをより意識し、授業のねらいであった相手との違いをふまえながら工夫して翻訳している様子が見られました。 

その後、2名の中学生が完成させた翻訳文と工夫した点・難しいと感じた点を発表し、翻訳者の笠原さまから、フィードバックをいただきました。

 
笠原さまより、”Last Friday’s dance was really great.”という文について、「とても素晴らしかった。」ではなく「とても素晴らしかった。」とカロリンに同意を求めるような、語り掛けるように訳しているというところが、reallyの雰囲気をよく表していて素晴らしいなど、生徒の翻訳文が文章として読みやすくなるように意訳できていたとコメントをいただきました。笠原さまのコメントを受け、他の受講生も生徒たちの考え抜かれた工夫に驚いたり、感心したりしていました。

最後に、授業者(菅谷)より、今回の課題の場合、原文が書かれた背景や、手紙の書き手と相手の人物像を読み解いた上で、翻訳文を読む人にとって伝わりやすい言葉を選ぶことが大切であることをまとめとして伝えました。

【授業の振り返り】

アンケートでは以下のような声が見られました。

翻訳者の方の話がとても参考になった。普段の生活の中で翻訳者の方と関わることはないのでとても興味深い話が聞けてよかった。また、翻訳する文章の背景、設定?がはっきりしていたので、色々な翻訳方法が考えられて難しかったが面白かった。(中学生)

 

ねらいがどこにあるのか。英単語の使われ方、その単語の用途を理解することなのか、時代背景やキャラクターを想像して作文することなのか。後者だと元の英文から離れていってしまわないかと気になりました。実際、翻訳の方はどのようにされるのかもっと聞いてみたいと思いました。(大学院生)

今回の授業を通して、生徒は翻訳文を読む人に伝わりやすい翻訳になるように、日本の中学生にとってはなじみのない当時の音楽文化を示す単語を工夫して訳したり、日本語として自然になるように配慮したり、手紙の書き手であるボブのパーソナリティを読み解いたりするなど、様々な工夫をしながら活動していました。どうしたら伝わりやすい翻訳になるのか悩みながらも、原文をじっくり読み、時代背景や手紙の書き手のキャラクター性等をふまえ、慎重に言葉を選びながら翻訳している様子が多くの場面でみられました。

これらから、この授業を通して、授業目標に設定しており、開発当初から大切にしてきた原文に忠実に向き合い、翻訳文を読む人を意識しながら表現を工夫するという相手を十分にふまえるということを生徒が体験することができたと考えています。

【さいごに】

今回の授業実践では、303BOOKS株式会社より、代表取締役の常松さまと、翻訳実務経験者である笠原さまに多大なご協力をいただきました。授業構成から授業内で提示する資料まで丁寧に見ていただいた上で、助言をいただいたり、当時の文化的な背景について調査をしてくださったりするなど多方面からサポートしてくださいました。また、授業後には、授業内で翻訳をどのように定義するのかや、より効果的な翻訳者との連携についても多くのアドバイスをいただきました。いただいた貴重な意見をふまえ、この授業をさらにブラッシュアップしていきます。誠にありがとうございました。

2021年度より千葉大学大学院教育学研究科の講義において、大学院と企業教育研究会(以下ACE)が連携を取ることになり、今年度も継続して協力しています。今年度から本講義は、教員としての高度な専門的職業能力の習得を目指す専門職大学院(教職大学院)の講義としても認定され、履修生の幅を拡大し実施されています。

このブログでは、本年度に実践された授業の様子(第4報・株式会社セールスフォース・ジャパン(以下Salesforce)さま編)をお届けします!

 

【講義概要】

『DX関連企業と連携した授業づくり』
DX関連企業がNPOと共同で開発して初等中等教育諸学校に提供している教育プログラムについて、実際に企業やNPOの関係者からの聞き取りも含めて学び、実際の学校で特定の学習者に向けてプログラムを修正して授業を実施するとともに、授業の実践や観察を経て授業の振り返りを行い、DX関連企業と連携した授業づくりを実践する力量の形成を目指す。


【アレンジ版授業概要】

■授業タイトル

『お困りごと解決しましょう〜トレイルブレイザー部のITソリューション〜』

 (協力企業:株式会社セールスフォース・ジャパン(以下Salesforce)

■授業数 2時間(50分授業×2回)

■対象 中学3年生

■関連教科

社会科(公民的分野)、総合的な学習の時間

■学習目標

・DXの概念について、実社会の具体的な事例に基づいて理解する。(知識・技能)

・身近な社会の課題の解決方法について多面的・多角的に考察し、ICT技術のもたらす社会への影響と関連させて表現する。(思考・判断・表現)

・現代社会に見られる課題の解決を視野に主体的に社会に関わろうとする態度を養う。(学びに向かう力、人間性)

■生徒の活動

・チュートリアルとして、DXの前段階である改善策について考える。

・本題の課題について、(DXの前提となる)理想とする未来を設定し、 改善改革案の検討。

・改善改革案を発表し、講師よりフィードバックを受ける。

 


【授業の様子】

■社員の方のお仕事紹介■

授業にご協力いただいたSalesforceの社員の方より、普段の仕事内容について紹介。

 

「私の主な仕事は、1つは、IT技術を使ってお客様の困りごとを解決する相談役。もう一つは、新しい技術について、お客様に役立つポイントや仕組みを分かりやすく説明するような仕事をしています。

 

また、私たちは『トレイルブレイザー』と呼ばれる人たちを支援しています。これは、先駆者として道を切り開き、よりよい世界を築く人たちを指します。『トレイルブレイザー』は皆さんの近くにもいて、必ずしも偉人や、企業の人ではありません。そういう人たちをSalesforceは積極的に応援し、一緒に世の中や世界を良くしていくことを考えています。」


■生徒の活動開始 ~改善とDXの違いとは~■

IT技術を用い問題解決をする部活・トレイルブレイザー部の新入部員の設定で、さっそく課題解決に向けた活動を開始。

 

Salesforceの社員の方より、解決に向けた段階として、改善とDXでは違いがあることも説明されました。

改善は、困っていることに対し手前から順番に解決策を考えていくような今までの主流な解決方法。DXはデジタルトランスフォーメーションという意味なので、『全く新しいものに変わった!』というようなものを実現できたらDX。困ったことに対して、理想とする未来像を作るところからスタートするイメージだと教えていただきました。


■【課題1】店舗の商品在庫について■

授業者である大学院生渾身の寸劇により、生徒へ『店舗におけるグミキャンディの売り切れ問題』が提示されました。第一段階としては、DXを強く意識するのではなく、困りごとの解決を第一に考えるようにとアドバイスがありました。

●活動・発表・講評

IT技術がまとめられた資料
既存のカード貼付や自由記述が可能なワーク

活動に使用したフレームワークにはIT技術例がまとめられており、それをヒントに解決策を検討しました。

 

発表で生徒の一人は、SNSを用いたお知らせを提案しました。メーリングリスト、SNS、チャットなど、知らせる方法は様々あるものの、特定の顧客だけではなく、不特定多数の方に知らせるにはSNSがより適していると考えました。

 

Salesforceの社員の方より、何が問題なのか理解し、解決を考え、使用頻度の比較などもしているところがとても良いとフィードバックしていただきました。

 

その後、社員の方から、重要な呪文「そもそも」の伝授が。

 

理想の未来を考えるヒントとして、なぜ、この人、そもそもグミを買うのか考えてみてと示唆。

例えば、理想の未来がグミを買って食べた後の嬉しさなのであれば、希望の商品が売り切れていても、店内カメラでそういう人を発見し他商品を紹介するとか、お得なクーポンとセットで別のグミを薦めることでも目的は果たせると、DXレベルの解決例を示しました。


DXをイメージしやすい魔法の呪文、『そもそも』を得た生徒達。DXレベルを目指し、課題2へ挑みます。


■【課題2】道の駅へ若い来場者を増やす■

課題2は、弊会が出張授業で用いる教材を使用しました。この教材は、課題の背景や設定が詳細に作りこまれており、さまざまな視点での検討が可能です。

生徒に示された課題は、架空の道の駅が実施するイベントに若い来場者を増やすこと。

通常は高校生向けの授業のため、大学院生とペアを組み、生徒が相談しながら活動できる体制を整えました。

 

2コマ目となったこの日の活動には、また1日目とは違うSalesforceの社員の方にご協力いただきました。「突拍子もないことでもよいので、理想の未来をまずは考えてみよう。」と促され、活動を開始しました。

●活動・発表・講評

ある生徒は、若い世代のイベントに対する評価が低いこと、最新のスケジュールが把握されていないこと、わざわざ来る意味を見出していない点を課題と考えたと発表しました。

 

また、イベントを評価している若者は、その理由としてイベント講師に直接個別に質問できたことを挙げていることから、ロボット、Webカメラ、モニターを設置し、講師と個別に質問できるシステムを構築すること。また逆に、世界中でこちらが赴くイベントを開催すれば、結果的に街に来る人も増えるのではないかと、カレンダーツールでのSNS発信を提案しました。

 

社員の方より、来る意味がないと言っている人に対し、来なくてもいい(イベントが赴く)発想はとても良いとフィードバックがありました。

 

他の生徒は、そもそも市に若者が少なく、その理由は仕事があまり無いからであると考えました。そして、この街をつくる仕事をバーチャルオフィスで実現することを提案。新しい取り組みなので、若者も集まるのではと考えました。

 

社員の方より、なぜ若者がいないのかというところを考え、未来を描けたのがとてもよかった。若者を増やせば、結果的にイベントの来場者も増えるという別の角度のアプローチ、枠をはみ出た思考ができたとフィードバックしていただきました。

 


■授業実践後のふりかえり■

 

講義担当・藤川教授より

問題解決についてわかりやすく図式化し、そこにITをうまく位置づけることもできていて良い授業だったと思います。生徒たちは非常によく考え、ワークシートにも充実した内容を書いていました。大学院生を頼っている様子もそれほどはなかったので、生徒は自分たちだけでもある程度はできるレベルだと感じました。ただ、もし生徒の活動が進まなかった場合、どう援助するかについては、仕組みとして考えていく必要があるようにも思いました。

また、時間配分について、生徒2人でも苦労していた様子でしたので、生徒がたくさんいたら収拾がつかなくなると思います。その点は精査すべきと思いました。

 

ACE明石より(講義全般に渡り学生の指導を担当)

元々3時間の授業を2時間に短縮するというのは大きなことで、その作業を通して、この授業の本質は何かということをたくさん考えながら進めてくれたのではないかと思います。元の教材はストーリーベースの教材ですが、(アレンジする際、元のストーリーと設定を変更する部分について)生徒に気にしないでと言って進めてしまうと逆に気になってしまうこともあると思います。そういう場合は、簡単な設定を作ってしまって「●●らしいよ」という程度など、簡単なストーリーを創作でも入れてしまった方がスムーズに進むこともあります。こういう考え方は、ストーリーベースの授業ではよく使われる方法ですので一参考にしてください。


【ご協力いただいたSalesforceの皆さまより】

 

【1日目にご協力いただいた社員さまより】

まずは、素材をもとにして授業を再構築したメンバーの皆さん、本当にお疲れ様でした。実際の現場でも人によって理解や解釈のブレがあるテーマをどうやってわかりやすく伝えるか、皆さんの努力が、またわずかではありますが私達のサポートが、授業を受けてくれた生徒さんの何らかの新しい気づきにつながれば嬉しいことです。機会をいただけたこと、改めて感謝です。

 

【2日目にご協力いただいた社員さまより】

貴重な機会に携わらせていただき本当にありがとうございました。自分自身はかけがえのない経験をさせていただいのですが、一方で、大学院生と中学生、どちらにも十分に価値提供できただろうか?という思いは残っています。大学院生の皆さまの意図に寄り添った支援ができていたか?遠慮をさせてしまってはいなかったか?受講した中学生はデジタルトランスフォーメーションの本質を理解してくれただろうか?彼らの記憶に残る示唆や、フィードバックを提供をすることはできていたか?また機会があれば、この問いを踏まえて取り組めればと思います。

 

【協力企業担当者:ACE山田より】

授業アレンジのために社員の方とオンラインでミーティングをしたり、会社を訪問しご相談させていただいたりとSalesforceの皆様には多大なご協力をいただきました。ありがとうございました。また、実際に高校で実施する既存の授業を見学することでDXについて大学院生も理解を深めていました。学外に出て大学院生が企業の方や学校と関わりをもつことができ、企業と連携した授業づくりを実践する力やデジタル技術の活用、またDXの状況について存分に学ぶことができていたのではないかと思います。

 

 

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