SESSION 2 #主権者教育 編

NPO法人企業教育研究会(ACE)が20周年を記念し開催している連続トークセッション「日本の教育をアップデートする」。毎回、たくさんの方にご来場いただいております。

その中には、日頃からACEの活動を支えてくれている学生インターン生の姿もあります。こちら「楽屋裏トーク」は、教育の未来を担う学生たちが、教育界の重要テーマについて何を思ったのか聞いてみようという趣旨でつくられたコーナーです。

※ SESSION 1 #起業家教育 編 はこちら

5月20日に行われたSESSION 2 のテーマは「主権者教育」でした。学生たちは「主権者教育のアップデート」について、何を思ったのでしょうか?(聞き手:阿部学/ACE副理事長)


今日はよろしくお願いします。ケントさんとアヤネさんは、前回に引き続きご参加いただいています。ありがとうございます。

はい。2回目になります。今日もよろしくお願いします。

よろしくお願いします。

今回もACE西千葉オフィスにて。

今回は、もうひとり、ACEの現・スタッフで、元・小学校教員、さらには元・学生インターン生でもあったエリさんにも参加してもらっています。エリさんは、学生インターン生の頃はどのような活動をしていましたか?

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―日本の教育をアップデートする!! ―

5月20日(土)20周年記念特別イベント 日本の教育をアップデートする!! 7回連続トークセッション!!

SESSION2 主権者教育 が開催され、当日は学校の先生、学生、企業や官庁、自治体にご勤務の方など59名の方々にご参加いただき盛況のうちに終了いたしました。

パネルディスカッションでは、教育現場で模索する教員の方々からの質問も多く上がり、主権者教育というテーマは、まさに今、日本の教育がアップデートされる‼ タイミングであることが感じられる会となりました。

以下、当日の様子を詳しくレポートしています。

【登壇者】
株式会社笑下村塾
     代表取締役 たかまつなな さん
こども家庭庁 長官官房
     総合政策担当(こども意見係) 安岡 沙東子 さん
千葉市 こども未来局 こども未来部 こども企画課 
     主査 宮内 博道 さん
千葉大学大学院 人文公共学府 
     博士後期課程 郡司 日奈乃 さん
 
【コーディネーター】

国立大学法人 千葉大学 教育学部 学部長 
NPO法人企業教育研究会 理事長 
     藤川 大祐 教授
左より、藤川教授、郡司さん、宮内さん、安岡さん、たかまつななさん

なぜ、いま主権者教育なのか

藤川教授

今年で企業教育研究会が20周年を迎えたことから、より多くの人に議論が届く形で何か行いたいと考え、7回の臨時企画を実施することにしました。先月は起業家教育をテーマに開催し、起業家教育が、もっと多くの学校、あるいは地域で、こどもたちの主体性が発揮できる機会として捉えられるのではということが確認できたと考えています。

今回のテーマは主権者教育です。

主権者教育というテーマは千葉大学としてもこだわりがある分野です。

昨年度まで校長を務めた千葉大学教育学部附属中学校でも、探究の時間を設け、学年を超えて様々なテーマを扱うゼミ形式の学習を行っており、主権者教育もその中で扱っています。

ともすれば、主権者教育は選挙へ行こうという話で終わってしまうこともあると思います。それも重要ですが、民主主義社会の一員として、こどもたちが自覚を持ち、自分たちの問題は自分たちで解決していこう、ということを目指すのであれば、さまざまな社会問題に関心を持ち、それらを政治的な実現までもっていくという全体を見る必要があります。

現在の選挙権は18歳ですが、被選挙権は25歳や30歳からとなっており、選挙に出る方法についても教育する必要があるかもしれません。

主権者教育というテーマは、こうした多くの議論ができると思います。

また、こども家庭庁の設立やこども基本法の制定もありましたが、日本ではこどもの権利というものが十分に位置づけられておらず、教育への意識もまだまだ弱いように感じています。

こども家庭庁の設立を機に、主権者教育について、改めて国や地域レベルで何ができるのかを考えたいと思います。

 

 

社会は変えらえる。

たかまつななさん 

「お待たせいたしました。皆様ごきげんようー。ありがとうございます。たかまつななと申します。」

大学生時代に、フェリス女学院出身のお嬢様芸人としてデビューされたたかまつななさんお決まりの挨拶で軽快にスタート。

 

たかまつななさんは、芸人でありつつも、時事YouTuberとして、政治や教育現場を中心に取材し、若者に社会問題を分かりやすく伝える主権者教育の専門家。主権者教育を提供する株式会社笑下村塾を設立し、代表取締役でもある。

 

たかまつななさんは、主権者教育に向けての思い、具体的な実践事例、その成果について説明しました。

実際の活動に基づいた知見は教育現場にも応用できるヒントが散りばめられ、主権者教育の伝道者としての覚悟も感じる発表でした。その一部をご紹介します。

 

 

    主権者教育への思い

2016年、18歳選挙権が 導入された年、当時大学院生のたかまつななさんは笑下村塾という会社を作りました。

現在も「笑いで世直し」をコンセプトに活動中。

これまでお笑いで社会問題を伝える出張授業を1000もの学校、7万人以上のこどもたちに提供しています。

 

また、YouTubeでは、各政党の党首、大臣に取材をするという企画、選挙活動啓発動画などを配信。

「若者よ選挙に行くな」という動画は、SNSで500万回ほど再生され、大手メディアにも放送されました。

 

『社会を変えられる、そういうこどもたちを増やすということが私の夢。

そもそも私の持ってる問題意識なんですけども、社会課題はたくさんあって、このままだとこどもたちにつけを回してしまう。

こどもたちにつけを回さない社会を作りたいと考えています。』

 

『こどもたちはどうせ社会は変えられないというふうに無気力になってしまっています。

大人たちはそれをサポートする体制にあるかというとそうではないと思います。

なので、社会を変えられる。変えたいと思うような仲間を作りたいと思っています。』

    たかまつななさんが提案する具体的解決策とは?

たかまつななさんが実践されている具体的な変革者をつくるための解決策は2つ。

 

一つは、出張授業で社会の変え方を伝えるということ。

二つ目は、若者議会、社会を変える場を作ること。

 

◆◆出張授業について

先生はお笑い芸人という「笑える政治教育ショー」の授業や、人狼ゲームをベースに、悪い政治家を知るエンタメたっぷりの教材を提供。社会を変える方法はいろいろあることを知識として伝え、社会を変えたいというこどもたちの気持ちを後押ししている。

 

【具体的授業内容の例】
英検の検定料を値上げしたことに対して高校3年生が反対の署名活動をネットで始めた。結果、3万人以上の署名が集まり、英検側は値下げを発表した。というような同世代のこどもが社会を変えた事例を伝え、署名をしたら社会を変えることができるかもしれないという話などをした後に、『私が社会を変えるためにできること』の宣言を、ワークシートを用いこどもたちに記入してもらう。
 
選択式の実施項目を基に、『私が変えたいのは、理不尽なブラック校則です。そのため、私は署名を集めます。なぜならば、その後、そのことで苦しんでいる友達がいるからです。』(実際の生徒の記載例)等をこどもたちは考える活動をする。
 
【成果のご紹介より】
群馬県、県内60校、全ての高校を対象に約1万人へ授業を実施。
授業実施した年の選挙では、群馬県での 18 歳の投票率は、34.39%から 43.16%、8%ほど上昇。
(生徒の声)
・普段友達と政治の話をしないけどゲーム感覚で楽しくできた。
・投票の大切さがわかったから、18歳になったら必ず投票に行く。
社会を変えられるかもしれない希望を持てたので投票をしたいです。
・それから社会を変える手段として政治家がやりたい。

◆◆変革者を作る場について(海外の視察より)

変革者を作る場について、なぜそれが重要かと感じたかというと、海外への取材がきっかけだったそう。

笑下村塾は、現在日本で唯一、全国規模で学校に対して主権者教育をやっている会社であり、かつては存在していたNPOなども資金面の難しさなどもあり撤退してしまった。

主権者教育を日本で根付かせるためにどうすればよいのか。

たかまつななさんは、スウェーデン、フランス、イギリス、ドイツ等へ視察もされている。

たかまつななさんが目にしたという「海外のこどもたちが社会を変えている姿」は、日本ではまだ想像できない…。

【海外事例紹介の一部】
●イギリスの若者議会ユースカウンシルの高校生メンバーが、若者の声を届けるために政治家になれる年齢を18歳から16歳へ引き下げるキャンペーンを実施。またコロナ禍でジャンクフードの広告が増え、それがこどもたちの健康を害するのでは?と、首相に公開書簡を送り、広告規制のルールを作るアドボカシー活動をしている若者の例。
●ドイツベルリン州にて、学校会議において小学1年生から学校の休み時間をいつにするかという身近な活動に取り組む例や、校長先生の選任に対し、こどもの代表も大人と同じ投票権を持っているという例。
●スウェーデンの盛んな生徒組合の活動。高校の生徒組合の年間予算が1000万円を超え、生徒組合として学校内で#MeToo運動のようなイベントを開催したり、先生の発言や使用教材について差別的な面を感じた際には是正する活動をしたりしている例。
●イギリスで、行動につながる主権者教育を実施している例。先生が社会を変える方法って何?と、こどもたちに問いかけ、校内のことをみんなで変える活動を促している。

    社会は変えられるという楽しさをぜひ味わってほしい

「こどもたちはどうせ社会は変えられないというふうに思っているのではないでしょうか。」

たかまつななさんのもとへは、たくさんのこどもたちから意見が届きます。

「生徒会は、先生の意向を忖度することになるんです。」とか、「ブラック校則を変えようと思ったけど変えられませんでした。」など。

私は変えようとしてしょっちゅう炎上していますけどね(笑)とたかまつななさん。

けれど、たかまつななさん自身、1万人以上のこどもたちに授業をして、

こどもたちも変えたいと思っていることはたくさんある日本のこどもは変える場がないだけじゃないか。と考えている。

県内全学校に授業を届けた群馬県では、高校生が知事に物申す提言会を開催。

群馬県では、中高生の自転車事故割合が全国トップクラスであることを踏まえ、高校生は自転車専用レーンを作って欲しいと提言した。それにより、特に危ないと高校生が感じている地域である渋川市の道路課と群馬県庁道路課の検討チームができ、月一回検討会が実施されている。この検討会には高校も参加し、日本でも高校生が社会を変えている。

「どんなことでもいいです。社会を変える小さな成功体験を。

イギリスの主権者教育(シティズンシップ教育)団体でも、

にコンフィデンス(自信)は主権者教育に必要なものとしています。

なぜコンフィデンス?と私も思ったのですが、

自信がないと、社会が変えるというところまでなかなかいかないです。

小さな成功体験が自信に繋がって、その自信が、社会を変える原動力につながります。

やっぱり良い授業をすると変わるんじゃないかなというふうに私たちは思っています。

学校内でも学校を変えられるという場を作って欲しいですね。

先生はこどもたちの声を受けとめて、学校内を変えられる。

こういう情勢も作っていけると本当に変わっていくんじゃないかなと思っております。」

「社会は変えられるという楽しさをぜひ味わってほしい。」

熱い思いを語りました。

 

こどもの意見反映に関する取組について 

こども家庭庁 安岡沙東子さん

こどもの意見表明や社会参画については、まさにこのタイミングで国としての動きも見られます。

今年4月から新設されたこども家庭庁では、同時にできた「こども基本法」でも義務づけられたこどもの意見を政策に反映すべく、こどもの意見を集めるしくみ「こども若者★いけんぷらす」の取り組みをスタート。

こども家庭庁(こども意見係)の安岡さんは、この新しい仕組みの背景や、今後の展望について紹介しました。

    こどもの意見表明の意義とは?

「こども家庭庁としては、こども若者は、保護者や社会に保護され将来を担うというだけの存在ではく、今を生きる市民として捉えています。

従って、日常生活の中でこどもたちが意見を表明でき、こどもも社会を作るパートナーであるという意識を社会に広く共有することが重要です。

 

政策決定過程においてこどもの意見を取り込むことは、国や自治体などにとってこども若者のニーズを的確に把握するというメリットがあります。

しかし、こども家庭庁としては、(政策を検討する側のメリットだけでなく)意見を表明するこどもにとっても、意見が反映される、もしくは反映されなかったとしても適切なフィードバックを受けることも含めて、その過程自体が自己肯定感を育み、社会の一員としての主体性を高めることにつながると考えています。」

(安岡さん)

 

こどもの意見を集める仕組みづくりにおいては、過去に国としての例もあまりないため、昨年度調査研究を実施。

それを踏まえ、以下の点等を意識し、こどもの意見反映について制度を検討されている。

 

〇(意見を出しやすくするため)年齢にあったテーマ設定し、それについてどう思うか意見を募る。

〇多様な参画機会、意見表明の手法を用意し、参加するこどもたちの特性に応じ、意見表明の方法を選択できる。

〇機会の周知において多様な手段を用い、機会の公平性を意識。

〇積極的な意見表明が難しい、声を上げにくい若者の意見も網羅するため、こども家庭庁が直接出向くことなども検討。

    こどもの意見を集める仕組み「こども若者★いけんぷらす」

上記背景に基づきスタートした「こども若者★いけんぷらす」。

こどもや若者が様々な方法で自分の意見を表明し、社会に参加することができる仕組みとして、小学1年生から20代の方であれば誰でも登録できる「ぷらすメンバー」を募っている。

 

「この取組に参加し広く意見を伝えてくれるぷらすメンバーについては、1万人規模程度の登録を目指しています。

 

そして、集めた意見は政策の検討段階から反映します。

また、もし反映できなかった際も、検討の過程の公表と、その理由等を適切にフィードバックする予定です。

 

すぐに意見を言える人ばかりではないので、この仕組みを通して、こどもたちが意見を出し合ったり、

聞いてもらったりして、意見表明の権利について学ぶ機会を提供したいと考えています。」

(安岡さん)

 

『こども若者★いけんぷらす』▷ コチラ

 

 

千葉市のこどもの社会参画推進事業 

千葉市こども未来局 宮内博道さん

 

千葉市こども未来局の宮内さんは、千葉市が、こどもたちが市民として自覚や責任を持ち、自分たちの街について課題を見つけ解決する事業として、他市町村よりも比較的早い時期の2009年より社会参画事業を実施している先進事例を紹介。

 

事業においては2つの要素があり、1つはこどもたちが社会参画の経験を得、興味を持ってもらうこと、もう1つは、そのこどもたちの意見を政策に反映すること、としている。

 

その目的に沿って、各年齢別に様々なイベントを実施している千葉市。

年度末にはこども若者フォーラムというこども自身の発表の場を設け、市長参加の下、こどもと意見交換をする場も設けている。

また、選挙管理委員会で模擬選挙、教育委員会ではこども議会、こども未来局でも要望に応じ出張授業等、関連のあるそれぞれの各種所管にて主権者教育の対応をしている。

    大人はシャットアウト。こどもだけの“まち”運営

事業の中に、小学生から高校生までが対象で、夏に実施するイベント「こどものまちCBT」がある。

これは、まちづくりをこどもたちが企画し運営するもので、夏休みに開催する3日間の疑似的な“まち”の中で、どんなお店を出したら楽しいかなど、月1のコアスタッフ会議にてこどもたちが話し合いながら進めていく。

 

“まち”では、いわゆるお店だけではなく、市役所をはじめ、見守り、清掃など、“まち”運営に関わる様々なものがあり、選挙も行われ、こども市長も誕生する。

選ばれたこども市長は、市長としての市の運営や、翌年は指導的立場になるなど、権限を持ち、運営にあたります。

 

イベント当日は、大人は完全シャットアウトで会場には入れません。こどもだけで運営します。

こどもたちは、“まち”で仕事に従事し、イベント内で使用できる通貨を得、社会参加を体験します。

    千葉市の主権者教育、今後の展望

本イベントに限らず、千葉市では小学校低学年から大学生まで、各年代の若者向けの事業を実施しているが、

効果測定が難しいという課題を感じている。

また、今は全てのこどもに提供できているわけではないので、

市内全てのこどもにこのような社会参画を経験してもらいたいと考えている

そのために、千葉市としては、学校の先生が取り組める下地作りをし、

最終的には学校の授業の中で、このようなことができるようになればと検討している。

千葉市 こども未来局 こども企画課 こどもの参画について ▷ コチラ

 

 

こどもの権利を実質的に保障し社会参画につなげる

主権者教育とは?

千葉大学大学院 郡司日奈乃さん

千葉大学大学院人文公共学府博士後期課程にて、主権者教育のみならず、性教育や起業家教育など、現代的な諸課題を踏まえた教科と横断的な授業・教材づくりについて研究を行っているという郡司さん。

 

一市民としても、日本若者協議会にてアドボカシー活動(※1)をしたり、千葉市こども基本条例の公募委員を務めたり、一般社団法人Spiceを立ち上げるなど、多方面で活躍中。

 

研究活動のみならず、ご自身も、こども若者がこの社会に意見を発しやすくなるために日々活動している。

※1 アドボカシーは、社会が社会的弱者やマイノリティなどの権利擁護をするために、社会に対して課題方法とか政策提言活動を行うこと全般のこと。(郡司さん発表より)

    そもそも主権者教育とは?

主権者教育、シティズンシップ教育とは、イギリスで始まったもの。

1998年イギリスの政治学者バーナード・クリックを中心に作られた報告書「クリックレポート」において、シティズンシップを構成する3つの要素は、「社会的道徳責任」「共同体参加」「政治的リテラシー」と示された。

その内、政治的リテラシーを育てる、ということが、現在の日本の主権者教育になっており、

総務省、文部科学省がいうところでは、国や地域の形成者(民主主義の担い手)を育てることと言われています。

「主権者教育とは、『みんなのことをみんなで考えること』、困った時、みんなでルールや枠組みを見直し調整する。

そういうことを知識としても経験としても重ねていくことと考えています。

そのためには、ルールを見直す方法も教えていかないといけない。

こどもが、困ったことが起きた時に、学校の先生だけではなく、

議員さんに話をしてみるなど選択肢を増やすことだと思っています。」

(郡司さん)

    主権者教育=有権者教育 になってしまっている?

学校で用いる主権者教育の副教材「私たちが拓く日本の未来」を見ると、選挙や、投票制度に関することが中心の構成となっている。

日本の学校における主権者教育は、選挙や政治に関する知識を教え、生徒が選挙権、投票権を行使できるよう実践的に指導することが主になっており、従って、現在の主権者教育は、投票率向上と絡めて有権者教育として実施されることが多い

1990年こどもの権利条約が発効され、1994年に日本も批准。

そこから29年経って、やっと日本でもこども基本法がスタート。

「こどもの権利の中で、特に大切だとされている根本にあるものに、こどもの意見表明(こどもが自分自身に関係のあることについて、自由に自分の意見を表明する権利)があると言われています。

選挙の大切さは賛同するばかりですが、18歳に至らないこどもたちは選挙権をもたない。

生徒が主権者として政治的な決定に影響を与えていくためには、選挙、投票のみではなく、アドボカシーを学ぶ必要があると考えています。もっと小さい年齢からアドボカシー精神を持ってもらう教育にしていくことが大切です。

このこどもの意見表明権を実質的に保障していくには、学校においてはこの主権者教育というところが紐づくのではないかと考えています。」

(郡司さん)

    具体的に現場で求められる授業とは?授業実践例紹介

郡司さんが千葉大学教育学部付属中学校にて実施した、主権者教育の授業について紹介がありました。

【具体的授業内容】
半年間かけ、起立性調節障害について知り、物理的に登校することができないこどもがいる事を学ぶ。また、その問題を抱える当事者や、アドボカシー活動を実践されている方に話を聞き、自分たちがどのような活動をすれば解決に導けるのか彼らなりに考え、実行する。
 
【成果】
生徒自ら、当該生徒児童への教育機会確保に向けた実態調査や、オンライン授業などを活用した学びの選択肢拡充などの対策案をまとめた提言を、関係省庁等3箇所に提出。省庁訪問の様子はニュースとしても取り上げられ、千葉市議会においても「不登校児童生徒に対する学習機会の確保を求める意見書」という形で取り上げられる。
 
【授業実施にあたり振り返り】
〇中学校で半年間(約18回)、十分な時間を確保できたことで実施可能であったと認識している。こどもたちが社会に意見し、社会参加する準備をするためには、どういった要素が必要なのか(学校で広めるために)考察していく予定。
〇授業プログラム自体、市民アドボカシーを反映して実施した。それが適切であったと感じている。
〇関係すると想定される外部の方と授業者(郡司)が事前に直接連絡を取っておくなど、こどもたちの活動を裏で最大限支援していた。
〇活動に関わる大人から生徒に対して、意見を尊重する姿勢が示されていたことが良かった。ここが重要と考えている。

ディスカッション

slidoを使用して参加者の感想や意見も拾いながら、質問については参加者の挙手制でパネルディスカッションを実施しました。

一部抜粋要約してご紹介します。(敬称略)

 

〇主権者教育を、こどもに注力して実施する意味とは。大人には不要なのか。

(たかまつ):大人にもやっていくべきだと思うが、教育ということでは、こどもには一斉にできるメリットもある、そもそもイギリスでスタートしたシティズンシップ教育は、こどもが疎外化しているのが社会問題となりスタートした。社会に憤りを感じる若者が暴力に訴えるのではなく、社会を変える方法をしっかり伝えた上で、自覚を持って社会の一員となってもらうということがあったと思う。

(質問者):(質問の意図として)大人でも陳情できたと思われることに対し、こどもや当事者が出てきたことで注目され突破できた事例なのではないかとも感じた。

 

〇主権者教育と、政治教育についての差、政治的中立性について。また、財政教育について。                                                                     

(郡司):教育基本法でも定められているので、政治的に偏りが無いように留意する必要はあるが、それを気にするあまり教育が抑制されることもあってはならないと考えている。特定の政党に偏った意見をしないだけでなく、取り上げるテーマについても偏りが無いよう配慮が必要。

(たかまつ):文部科学省の調査では、主権者教育で実際に政治を取り扱っている学校は約3割とのこと。なぜか(少ないか)というと、政治を取り扱うとクレームが起きやすいということがあります。例えば、憲法について取り扱うと、改正ありきでやっているのでは?と言われてしまったりし、その際、学校の先生が守られるかというと、そうとは言えない状況と感じている。政治的中立性については日本では罰則規定もあるが、私の知る限り、海外では罰則規定まで設けているところは知る限りない。

財政教育については、財務省は主権者教育を強く押し出していないがとても理解がある印象。財政をどのように分配するかという点で、主権者の理解の上で成り立っているとよく理解されているのだと思う。政治はトレードオフという概念を伝えるのも主権者教育として大切だと考えており、いかに多くの意見を尊重しながら合意形成をするかを伝える上で、財政のことは伝えやすいテーマと考えている。

 

〇(不登校が急増している状況も鑑み)行きたくなる学校になるため、すぐにこどもたちが学校でできることは?

(たかまつ):まず、大人がこどもの意見を真剣に聞くこと。そういう人をこどもは求めている。教える人ではなく、伴走者として関わる。また、聞きっぱなしにしない。変えることが難しい場合も、こども扱いせず、正直ベースでうやむやにしないことが大切。

(宮内):こども自身も、意見を言っていいという意識がない場合が多い。市のイベントでも、ワークを繰り返すことでだんだん率先してやるようになってくる。学校でも、地域の方と連携するとか、校則見直しなど実施すると、意見を言えるようになってくるのでは。

(郡司):学校のことを考える3者会議(地域、教員、保護者)にこどもを入れ4者会議にする。例えば運動会の種目などの決定場面にこどもを入れる。また、生徒総会、児童総会をきちんと実施し、校則などのルールを変えるためのルールを設定すること。

(藤川):校長と話したことがありますか?と聞きたい。校長と話しても埒が明かない場合は、例えば千葉市では市長への手紙という直接届ける制度があり、正当性のある訴えであれば、きちんと返事が来る。多くの自治体で、そのようなシステムを持っているのではと思う。コミュニティースクール、PTAなどにも話せる。こども自身でできることは、たくさんあるのではないかと思います。

 

〇学校の学級会活動などは主権者教育と考えている。それであれば、既になされているのでは?

(たかまつ):制度として取り入れていても、それだけになっているのが問題。本当に生徒会が言いたいことを言い、学校を自由に変えているのかというと、そういう学校は少ないと思う。

(藤川):生徒会の権限をもっと明確にする必要があると思う。先生の意向を無視して実施できる状況にないのも問題なのでは。

 

〇中学の公民を担当しています。公民の中で主権者教育はとても大切と思っており、社会参画の体験的な教材として、「いけんぷらす」を活用したいと思っています。集めた意見の公表はどのようにお考えでしょうか。教材として活用するのであれば、生徒全員が登録するのは現実的でないし、教員が登録するには年齢制限があるので、その辺りを検討いただきたいです。また、意見を募るテーマは、こどもはいろいろと意見を持っているので、こどもに関することだけでなく、もっと幅広いテーマに設定もあればと思いますがいかがでしょうか。

 

(安岡)こどもにどういう意見を聞き、どう公開するかは、原則公開する方向ではあるが、どのようにというところは検討段階です。

また、この仕組みとしては、まとめた意見というより、個々人の意見を集めたいということもあるので、生徒の皆さんであっても、全員登録してくれるとありがたいです。

テーマについては、こどもに関係するというと直接的なことを思いがちですが、広く捉えるとこどもに関係しないことはありません。各省庁がこどもに関係していると認識してテーマを出してくれるかはわからないものの、こども家庭庁としては、幅広いテーマについて、こどもに関わっているということを認識してもらえるように促したい。

(郡司)PoliPoliという、行政に声を届けるウェブサイトがあります。メールがあれば登録できます。

 

〇最後に一言ずつ。

(郡司)4月からこども基本法ができたおかげで、各自治体においてもこどもの意見を聞くことが義務化された。これをきっかけに、こどもの権利を保障するということが、国、各自治体でアクションが行われていく必要がある。主権者教育はその中核を担うものだと思います。各学校でお困りの先生とも一緒に考えていきたい。

(宮内)こども企画課で市内の希望するこどもたちにワークを提供しているが、全ての学校で主権者教育に取り組むというところをやはり目指していきたい

(安岡)「こども若者★いけんぷらす」を通じて、こども・若者たちに自分たちの意見を表明し、それに意義があると広く感じてもらう機会になって欲しいと感じている。こどもの意見反映という仕組みが社会に根付いていくといいなと思います。

(たかまつ)思うのは、意見を言うなという教育をずっとされてきて、急に意見くださいって言われて、こどもたち言えないんですよね。なので、意見を言ってもいいんだよという心理的安全性を作ったり、意見を引き出すというところからやっていかないと難しい。

先生の力量もとても問われる。私も、こどもがなんとなく変えたいと言ったことに対し、どうするかというと、ものすごくニュースも知っていないといけないし、どういう方法がいいか提案したり、さっきの藤川先生の「市長への手紙」のこともそうですが、世のシステムを知っているかどうかで授業の質が変わってしまう。請願ということも広めたいと考えているので、突然大きなテーマを国政に持っていくのではなく、身近な問題を地方議員さんにお話ししてみるとか、授業の中で集めた意見を、勝手に市長に送っても良いと思うので、そういうことなど、ぜひやってみていただけるとよいかと思います。

最後に 藤川教授より

皆様のご協力で大変充実した議論ができました。これを機に、これで終わりじゃなく、それぞれの場所で、ゆるやかに繋がりながら、主権者教育や、こどもの権利というところを考えて、取り組みを進められればと思います。

本日はありがとうございました。

参加者からの感想

(たくさんのご意見、ご感想をいただきました。一部抜粋でご紹介します。)

【イベント中slidoより】
●社会体験が疑似体験でとどまってしまうのは、少しもったいないような気がします(特に上級学年)。実社会への連続性を伴うものがあればいいのですが。
● 18歳選挙権にあたり、主権者教育が急に言われ始めた気がしています。それに漏れてしまった、投票率の低い30代へも主権者として意識させる方策が必要ではないでしょうか。
● 学校社会は閉鎖的な暗黙のルールが多すぎる気がします。その中でこども達は暗黙のルールを強制されている様に感じます。一般会社組織のように、こども自身が問題・課題を起案し、それを決める決裁権を整理すべきだと思います。
● 大人(教員)のもつ固定観念を変えていかなければならないと感じました。
● 中学校には意見箱があります、と教育委員会は説明していますが、中学生は目的実現ツールとしての理解に至っていないと感じています。あることと、活用できることの違いを埋めたいと思っています。変えられると思えること、とっても重要ですね。
● こどもたちが自分の意見を表明したときに「こどもの言うことだから」と一蹴されず、目の前の大人に真摯に応えてもらった経験が、彼らが大人になったときの社会参画への意欲にも繋がっていくものと思います。
● 中学校で生徒会を担当しています。先ほど、「先生を忖度する」と言う言葉が出てきて耳が痛いです。生徒会活動や学校での教育活動全般を通して主権者意識を育てるにはどうすれば良いのでしょうか?
● 生徒総会で前に出て「屋上を開放しろ!」と言い放った先輩が全校のヒーローになった経験、今にして思えば、あれはものすごく主権者教育的だったな、と。
【イベント満足度に対し、よかった点に対するコメント】
● 主権者教育に対する理解が深まり、新たな見方・考え方もできるようになった。
● 議論が身近なもので活発であった。
● 美談に留まらず、リアルな課題と取り組みを話し合えたこと。教育や学校の中の方からお話が聞けたこと。
● 行政や大学などの多様な立場からの意見交換が有意義だと感じた。
● 現場での教育の改革の必要性を感じました。
● 産官学それぞれの立場からの意見を伺え、学校教育への活用について考えられた。
● 産官学のそれぞれの参加者と、ディスカッションしつつ議論ができる。slidoで参加者の意見が見られる。
【印象的だったこと】
● こどもが意見を言い易い環境をつくることの大切さ。
● 郡司氏の視点や実践が非常に参考になった。
● 主権者教育を有権者教育に留めないこと、こどもが意見反映を行うプロセスを学ぶこと
● 「小さいところから社会を変えられる」これが主権者教育におけるキーワードかなと思いました。
● 千葉市の取り組みを知り、学校ですべきことがあると感じられた。
● 教える立場にならない、伴走者でいる意識 。ルールを変えるためのルールを決めていく(という点)。
● こどもたちはもちろんですが、保護者の方々にも聞いてもらえる場を設けたいと思いました。
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