SESSION 1 #起業家教育 編

2023年度、NPO法人企業教育研究会(ACE)は20周年となります。すでにお知らせしておりますとおり、20周年特別企画として、「日本の教育をアップデートする」という全7回のイベントを開催中です。毎回、産官学のトップランナーの皆様をお迎えしながら、教育界の重要テーマについてディスカッションをしていきます。

初回(4/22)のテーマは「起業家教育」でした。当日のレポートはこちらに掲載されておりますので、ぜひご覧ください。

ACEの主役のひとりは「学生」でもあります。ACEはもともと、千葉大学教育学部の学生らによる「企業と連携して、 面白い授業をつくり、それを学校に届けたい」という自由な発想、純粋な思いからスタートした組織です。教育の未来を担う学生が主役のひとりであるということは、今も変わらずACEの理念となっており、現に今も多くの学生インターン生が「日本の教育をアップデートする」ために動いてくれています。

ここでは、そんな学生の皆さんが、今回のテーマである「起業家教育」について何を思ったのか、聞いてみたいと思います。(聞き手:阿部学/ACE副理事長)


今日はよろしくおねがいします。教育の未来を担う学生の皆さんが「起業家教育」についてどう感じたかをお聞かせいただければと思っています。本題に入る前に、みなさんがACEに入ったきっかけなどを教えてもらえますか?

学生理事(※1)をやっています。入会して7年目です。教員志望だったので、学生のうちに出張授業に行けるのが「面白そうだな」と思って入会しました。教育実習の前に現場経験をつめるのが魅力的だなと思ってました。

私は、学部1年生の頃からACEの研究会(千葉授業づくり研究会)(※2)に通っていたりして、面白そうだなと思って、飛び込んでみました。学生のうちは、企業の方とお仕事で関わるような機会は普通はなくて、そうしたことをやれるというのが楽しいです。それもただの遊びではなく、熱く関われるというのがACEの価値かなと思っています。

教育実習中に、面白い授業のつくり方を調べる中で、たまたまACEの『企業とつくる「魔法」の授業』(※3)を読んで、色々な企業さんと連携して、今までにない題材で授業をつくっていて、楽しそうだなと思っていて、先日入会しました。

「授業づくり」に興味があって千葉大の藤川先生(ACE理事長)の研究室に入って、先輩に誘われて参加しました。教員志望なので、授業をする経験をしたいなと思っていました。色々な企業さんと出前授業をしていますが、子どもたちが「新しいことを学んでくれてるな」という感じがして、やりがいや、楽しさを感じています。「社会の中で生きるような学び」を自分の授業でできるような教員になりたいです!

ふだんから学生インターンの作業場となっている、ACE西千葉オフィスにて。

「起業家教育」の「面白さ」と「難しさ」

では、本題に入りたいと思います。初回のテーマは「起業家教育」でした。そもそも「起業家教育」というものについて、どういうイメージをもっていましたか?

イチから会社を立ち上げるというイメージで、難しそうで、踏み込みづらかったのが正直なところです……。

大学で専門的に学んだことはありませんでした。「起業家教育」を子どもの頃に受けてきたという記憶もないですね……。ACEの中で、「ゆら社長のジレンマ」(※4)の出前授業を担当したのがきっかけで、「起業家教育」について初めて考えたという感じです。

お二人はこれまで「起業家教育」に触れる機会が少なかったということですね。今回のイベントでお話を聞いてみて、どう感じましたか?

起業を目指していない人でも、考え方としてアントレプレナーシップ(起業家精神)を知ることが大事なんだろうと感じました。それだったら、起業を目指している訳ではない自分にも関係する話だと思いました。

私も、前は「会社をつくる」ということが大前提の教育なのかとも思っていたんですけど、そうじゃないんだな、もっと広い意味で捉えるべきものなのかな、と気付かされました。

他のお二人はいかがですか? お二人は子ども対象の「起業家教育」プログラムに関わってきたと聞いたのですが。

千葉市が毎年行っている「西千葉子ども起業塾」(※5)という起業体験をする小中学生向けのプログラムに関わってきました。その経験から、「起業家教育」は「会社をつくる教育」じゃないんだよ、っていう認識ではあったんですが、今回の登壇者の方々も同じようにおっしゃっていたように思いました。起業の仕方について学ぶ教育じゃなくて、「起業のために必要な力」が大事で、それは社会の中でも生かされるはずで、もっと多くの人にも学んでほしいなって思っています。

私は当日のお話で、「海外と比べて起業の数が少ない」といったような数を増やそうという話と、「起業家教育では、必ずしも起業を目指さなくていい」という両方のメッセージを同時に聞いて、どう考えたらよいのかな……と思いました。私としては、起業に関する力を蓄えておいて、今すぐじゃなくても、いざタイミングが来たときに起業できればよいと考えてるので、起業を「したか/しないか」では測れないものもあるのかなあと……。

「起業家教育」の目的や内容をどう捉えるかは、面白いところもあり、難しいところもあるということですかね。アヤネさんとヒナノさんは、「西千葉子ども起業塾」で実際に「起業家教育」に携わっているとのことですが、そこでの子どもの様子はどのような感じなのでしょう?

経理なども含めて会社でやる具体的な活動を知識として知るということもありますし、やはりそれだけじゃなく、ひとつのミッションへ向けての課題解決力とか、チャレンジ精神とかが学ばれている気がします。「今、何したら良いんだろう」と考えて、率先して自分が話し合いのリーダーになろうとする子も多いです。でも、もちろん子どもなので戸惑ったり、疲れちゃったりすることとかもあるので、サポートも大事にしています。

「西千葉子ども起業塾」では、関わる大人が本気で子どもにフィードバックしてくれるんですよ。社長役の子が、本当の社長に面談をしてもらったり。あれだけ本気でやりとりできるのが、いいなあって思っています。しかも、自発的参加の場ではあるけれども、子どものケアも大事にしていて、学生スタッフは子どものことをよく見るようにしてます。


学校の先生って、起業家なのでは!?

「西千葉子ども起業塾」は、とても丁寧にデザインされたプログラムということですね。「起業家教育」のアップデートということを考えると、学校の「中」でも面白いプログラムが展開されたらよいなと思うのだけど、こうしたプログラムを学校の「中」でやるのは難しいのかな?

そういう「挑戦」と「ケア」のシステムが、学校の中に共存できるようになれば……いいのかな? 専門家を配置できるかとか、時間とかの制約もあると思うんですけども……。でも、最近色んな先生とも関わっていて、以前より「そんな新しいことなんて」「なんで起業なんて難しいことを」って声は聞かなくなったような。「良いっすね!」って、ポジティブに新しいことをやろうと語ってくれる先生が増えているような気もするんですけど。どうですかね?

私の感覚でも、積極的な先生が多い印象です。色々なキャリアを経て教師になったという方も思っていたより多いな、と。自分でパン屋やったことがあるとか。これからパン屋やりたいって方もいました。

起業家じゃん!(笑)

学校の先生って、「学級経営」って言葉もあるように、自分で学級を「経営」する訳で、実は、起業家と近いところもあるのかな? 経済はあまり絡まないけど、たくさんの子どもがいる中で、自分で決めて、自分で実行することが多い。

そもそも教員は起業家なんじゃないか?(笑)

そうだよね〜。やりたいことがあって学校を飛び出していく人もいるけど、学校でやったことは絶対生きてるはず。そんなに遠い話じゃない。

元小学校校長のスタッフなど、多様な人が集うACEオフィス。

私たちが考える、「起業家教育」のアップデート

さて、当日のお話から考えたことが他にもあれば、ぜひ教えて下さい。

登壇した方の話に「熱さ」だけでなく「ゆるさ」を感じる場面が何度かあって、それが重要なのかと考えました。「起業家教育」って、どうしても第一印象は堅い、難しいものに感じられるんですけど、「ゆるさ」があると怖がっているような人でも入りやすいのかな、と。もちろん中はシリアスなんだけど、入り口はゆるくて、階段みたいなものがあるのがいいのかな、といったことを感じました。そこから入った人が最終的に起業しなかったとしても、まずは、たくさんの人がそこに入ってくることが大事なのかな。

観客のいない文化は育たないと言うし、起業家を応援するような、いい意味での「ニワカファン」をもっと増やせたらいいということもあるかもね。

「アントレプレナーシップはみんなもっているんだから、発揮できる環境があることが大切だ」という話があって、なるほどなと思いました。でも、そこが意外と難しいのかなとも思って……。ACEだと「ひな社長の挑戦」(※6)、千葉市だと「西千葉子ども起業塾」とか、色々なプログラムがあって、そういう非日常体験のような環境はあると思うんですけど、そこからさらに、日常と直接関連づいた体験もできたらいいなと思いました。そういうことをやっていけたらなと思います。

ACEの「起業家教育」に関するプログラムについては、ある方が、「失敗を恐れずいくらでも挑戦できるプログラムだね」と言ってくれました。一回そこで成功体験も失敗体験も積んで、さらに「リアルでもやりたい!」って思わせられたらいいかもね。プログラムとしては、税の観点とか、投資の観点とか、まだやれてないことはあるので、自分でも進めていくつもりです。

当日のお話にも、「失敗と許容」の話がありましたね。

「起業についての無関心者を関心者にひきあげる」ってお話もありましたけど、本当に難しいなって思いました。どうやってやったらいいんだろうって。

「やりたい」って思ったときに、まわりがサポートしてくれるかが大事って、当日語られてましたよね。でも、親とか地域がやれることについては話があったけど、教員に何ができるかって話はなかったような。高校の進路選択で「起業します!」って書いた子がいたときに、先生はどうするんだろうなって。考えさせられます。

キャリア教育の一環として、高校生に適切な大学を「選ばせる」ということだけでなく、起業という選択肢があるということについても、大人の側は理解しておかなければならないかもね。

それを教員がどこまで担うかは、議論が必要かも。

自分はそういう情報がない地方の環境で育ったので、それをどう改善していけるかは大事かなって思います。

イベント当日の様子。たくさんの方にご来場いただきました。

学生インターンが支える「日本の教育のアップデート」

みなさんが自分なりに考えを深めてくれたことがとてもよく分かりました。ACEでも、「起業家教育のアップデート」のために、アイデアを出していきましょう。最後に、みなさんは運営スタッフとしても今回のイベントに関わってくれましたが、イベント自体について、感じたことはありますか?

イベント自体は、これまでの「千葉授業づくり研究会」より大きくて、びっくりしました(笑)

もっと色んな人に来てもらって、こういうことをもっと知ってもらいたい。

今の話につながるんですけど、もっと多くの人に知ってほしいなって思うくらい大きな話をしてもらったと思います。登壇者の方が課題も投げかけてくれて、「こういう課題があるんだけど、やってみない?」って、バトンももらった気もして、自分たちもここで学んだことを発信していきたいなって思いました。

学生にももっと来てほしいよね。仲間が増えたら嬉しい!

この会はスタートでしかないので、ここからどうするか、ACEから働きかけて動いていくことが必要ですよね!

まだまだ、やりたいこと・やれることがたくさんありそうです。ACE20周年特別企画も始まったばかりですので、回を重ねるごとに面白いアイデアを実現していけたらいいですね。引き続き、どうぞよろしくおねがいします! 本日は、ありがとうございました!

【全員】ありがとうございました〜!

To be continued……

SESSION 2 #主権者教育


  1. ACEでは学生の参画を歓迎し、学部生・大学院生にも法人の理事を担ってもらっている。
  2. ACEが発足当初から続けており、通算150回以上の開催履歴がある研究会。基本的に、学校の外におられる方を講師としてお招きしながら、学校教育についてともに考える会となっている。今回のACE20周年特別企画「日本の教育をアップデートする」も「千葉授業づくり研究会」の一環として開催されている。
  3. 藤川大祐・阿部学編、NPO法人企業教育研究会著『企業とつくる「魔法」の授業』教育同人社、2018年。ACEの授業開発の理念や、多数の実践事例を記した書籍。現在のところ、ACEの授業カタログとしては最新のもの。
  4.  ACEが実施している、経営課題解決をシミュレーションする授業プログラム。
  5. 千葉市で毎年開催されている小中学生を対象とした起業体験プログラム。現在の運営団体は、「ちばアントレプレナーシップ教育コンソーシアム Seedlings of Chiba」。
  6.  ACEが実施している、起業の模擬体験ができる出前授業プログラム。
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