昨年度より千葉大学大学院教育学研究科の「横断型授業づくり実践研究Ⅱ」の講義について、大学院と企業教育研究会(以下ACE)が連携を取ることになり、本年度も継続して協力しています。 

本ブログでは、本年度に実践された授業の様子(第一報)をお届けします! 

(講義概要や初年度の取り組みについてはこちら https://ace-npo.org/wp/archives/date/2022/03 ) 

本年度第一弾の授業は、株式会社メルカリさまのご協力の下、 11月2日、9日にわたり、千葉⼤学教育学部附属中学校3年生へ向け実施されました。 

■授業タイトル「メルペイと考える安⼼安全なキャッシュレス社会」 

■授業数 2時間(1時間授業×2回) 

生徒たちは、キャッシュレス決済や各支払い方法を知り、そのメリット・デメリットを考えるワークや、メルカリ社員の齋藤さまから依頼されるメルペイを広げるための施策の提案活動を経験しました。 

授業を通して、大学院生が学習目標に設定した、 「キャッシュレス決済におけるメリット、デメリットを知り、安心安全に使用できる方法や仕組みを理解することができる。(知識・技能)」 「キャッシュレス決済についての資料及び、企業についての資料に興味・関心をもち、グループ活動の際に積極的にキャッシュレス決済を広げるための案を考えることができる。(主体的に取り組む態度)」 等について、生徒がしっかりと学ぶ様子が感じられました。 

話し合いの時間を十分に取る授業構成と、オンライン画面越しにアドバイスを下さる齋藤さまの親しみやすい雰囲気もあり、和やか且つ活発に話し合う生徒の様子が印象的でした。 

実践後には、協力企業さまや大学院教授も参加し振り返りの時間を取り、改めてアドバイスや講評を受けます。講義を通して大学院生が普段の授業づくりとは違う刺激、経験を得られる機会となっていれば、弊会としても嬉しく思います。 

最後になりましたが、授業実践前にも多くの時間を割き大学院生と打ち合わせをいただくなど、株式会社メルカリさまにはお忙しい中多大なるご協力いただきました。 

この場を借りて心よりお礼申し上げます。ありがとうございました。 

画面越しに各班を回る、メルカリ・齋藤さま
メルカリ・齋藤さまから生徒へ提案の依頼
大学院生が作成した資料の一部

12月17日(土) 淑徳大学・松浦俊弥先生にご講演いただき、第153回千葉授業づくり研究会「共生社会への道 障害者の社会参加を支える連携 〜「学校」と社会をつなぐ!〜」を実施しました。

弊会職員・古谷さんがかつて教員や指導主事として特別支援に関わる中、ピンチを救ってもらったと尊敬してやまない存在の松浦先生。

当日は、社会全体の障がい者の生活の現状や、社会参加して生きていくために必要と感じている企業、学校との協働への想いなど、力強くお話しいただきました。

 

今回は、グラフィックレコーディング※1という特技をお持ちという、参加者の佐藤さんが描いた素晴らしい「まとめ」、かつ素敵な絵と共に、研究会の様子を報告します。

 

研究会開催概要は以下

https://ace-npo.org/wp/archives/study/cjk153

 

※1グラフィックレコード:ホワイトボードや紙に、会議や議論などの内容をデザインとして可視化し、整理していく手法。テキストだけの情報と違い、イラストなどで感覚的にも把握しやすいということで、注目されている。

 

■講師 松浦俊弥先生について

千葉県の公立学校にて、中学校と特別支援学校の教員として28年お勤めの後、淑徳大学大学院にて社会福祉学を修められました。

社会活動家、臨床発達心理士、自閉症スペクトラム支援士(エキスパート)。

 

教員時代から、障がい児を対象とした千葉県初の学童保育所を運営するNPO法人「あかとんぼ」を設立されるなど、公私にわたり障がいを持つ子供たちの支援に携わるなど活発に活動される。

 

柏市障害福祉専門部会長、白井市障害福祉計画策定委員会座長、四街道市特別支援連携協議会委員。

著書に、「障害のある子どもへのサポートナビ」(北樹出版)等。

 

 

■講演概要

 松浦先生のお話の中から、抜粋してご紹介します。

 

(1)ものの見方を変えよう

障がいのある方は社会から「支える」「守る」「手伝う」べき人々と捉えられがちだが、障がいがある方に「支えられる」「守られる」「手伝ってもらう」社会であっても良いはず。

障がいのある方にも社会参加を進めてもらい、「働き手になる」「消費者にする」「ボランティアに参加する」等を考えていきたい。

実際知られていないだけで、企業の方などに特別支援学校での活動を見ていただくと、職業訓練等のレベルの高さに驚かれることも多い。偏見を減らし、企業の方にも障がいのある方々の採用は、CSR※2ではなく、戦力として認識される社会になってほしい。

2022年9月、国連の権利委員会により障害者権利条約について改善勧告もなされ、障がいのある方を分ける特別支援学校自体が疑問視された。日本は障がいのある方々を分離する社会で、インクルーシブではない傾向。

改善のため、学校教育はどうあるべきか?企業は特別支援教育とどう連携すべきか?

 

※2 corporate social responsibilityの略(企業の社会的責任)。企業は、利益追求、法令遵守だけでなく、人権を尊重した適正な雇用・労働条件、消費者への適切な対応、環境への配慮、地域社会貢献等々、の義務があるとし、市民としての企業が果たすべき責任をいう。

 

(2)障がいがある人の社会参加について

 

①身体障がい者、知的障がい者、精神障がい者の内、職に就いているのは3%弱

 で、また、定着率も低い。障害のある人の貧困率は高く、国民一般の5倍にも

 のぼります。そして、生涯にわたり収入もほぼ増えていない状況。

 

②結婚している人はわずか4%、障がいを持つ方の圧倒的多くが未婚。関西で

 は、知的障害者同士の結婚をサポートするボランティアがあるそうです。

 

③知的障がいがある方については基本的な社会生活における知識不足があり、

 法的に自分を守る方法がわからず、助けを求めることが難しい場合がある。

 そのため、様々な被害に巻き込まれてしまうことがある。

 

障がい者が社会参加をする上での基本的な考え方として、善悪に関わらず、障がいがない人が行う社会での振る舞いと同様の振る舞いが、障がいがある人にもあって当然という視点が必要なのでは。

 

(3)様々な社会問題との関連(詳しくは佐藤さんのスケッチをご参照ください)

①経済観念(お金の使い方)

②刑事事件(加害)との関連

③刑事事件(被害関係)

④刑事事件(組織犯罪)との関連

⑤いわゆる「ホームレス」課題

⑥少年事件

 

(4)特別支援教育についての課題

①勉強ができないだけで問題行動のない子供は、学校でも先生に見過ごされてしまう可能性がある。

 

②障がいのある子どもは、体験や経験から自然に学ぶことが難しい場合も。

 

③「何度言ったらわかる」とつい言ってしまうが 

→ 理解力の問題で「何度も言ってもわからない」子供もいる。

 

④本当に必要な教育が行われていない!

・・・机上論では理解できない。実践的、体験的で具体的な指導が必要。

   ロールプレイングが有効。

 

⑤卒後の社会支援体制も不十分なまま

・・・特別支援学校での職業訓練が、就職先で活かせる内容になっていること   

   が少ない。従って、本人にとって就職後が辛く、職場への定着が難しい

   場合も。

 

(5)新たな可能性・提案

①特別支援教育への社会の誤解を解く

②卒後の社会支援体制を整える

③教育に政治を生かす

④子どもを守りすぎない

⑤我が国の偏見の歴史はとても長いことを理解する

⑥木がダメなら、森を攻める意識を持つ

 

障がいを持つ方々が、社会の中でどのような生活を余儀なくされているのか。多くの事例を盛り込み紹介いただきました。

学校教育というよりも、社会全体の問題として捉えていただきたいとのお話でした。

 

佐藤さん作・グラフィックレコード

 

■ディスカッションタイムより抜粋紹介

 

 ディスカッションでは、さまざまな話題で大いに盛り上がりました。

簡単にですが、話題に上がったことをいくつか紹介します。

 

(1)ICT教育など新しいことに対し、学校側からの拒否感もあると感じるが

一職員から、もしくは一学校からやりたいと声を上げることは難しくても、企業から声を掛けていただければNOとは言わないと思われる。また、特別支援活動自体の知名度が低いこともあるので、知名度を上げると共にトップダウンや、政治の巻き込みも大切と考えている。

 

(2)企業の方を説得する必要もあるのでは

企業の方には、ぜひ、障がいのある方も消費者として捉え、企業にもメリットがある存在として意識していただきたいと考えている。

 

(3)障がいがない方に正しく障がいについて伝えるには

障害年金含め、正しく理解してもらうことが必要。障がい保障ついては、税金の無駄ではなく、安心して生きていくためのものであり、自分たちも使う立場になる可能性があることを認識してもらうべき。

 

(4)親に障がいのある方の子供について(障がい者支援とヤングケアラーについて)

予算の問題もあるが、親子共々生活をまるごと支援するという方法もある。親の面倒を見ていれば、それをすべてヤングケアラーとして捉えていいのか、しっかり見据えなければならないと感じている。

 

(5)企業が障がいを持つ方への支援など考える際、何かやってあげるという感覚で関わってしまうのではと危惧している

企業には利益を求めて参入していただきたい。障がいのある方々を将来の消費者として捉えて考えてほしい。特別支援学校がどういうレベルなのかご存じないことも多いので、まずは知っていただくことからかと思う。ぜひ、企業関係者の特別支援学校見学を勧めたい。

好事例として、公園管理を障害のある方に担っていただくような連携や、農福連携で、農作業の一部、加工産業の一部を担っていただくものもある。障がいを持つ方でも出来ることを仕事として創る意識を持っていただきたい。

障がいがある方に特化した特例子会社など検討できれば、障がい者雇用率に対し、企業にもメリットがあるはず。

 

(6)職業訓練の内容について

立派な革製品を作る訓練よりも、生活に直結した必要な知識(社会のタブーや性教育など)を学ばせることも重要と考えている。

 

(7)知的障がいをもつお子さんにとって理想的なキャッシュレスについて

一人ひとり発達段階が違うのでとても難しい。大切なのはリスクをきちんと教えること。大人になった時の生活を考え、フィードバック的に必要な支援を考えるのが良いのでは。キャッシュレスなどの使用を第三者が管理するにも、成年後見制度はハードルが高いので、もう少しライトなものがあればと感じる。

 

(8)特別支援ではなく通常のクラスにいるグレーゾーンの子供を助けるには

まずは、特別支援の素晴らしさを説く。そして、障がいのある子どもの生活の実情を話し、それを改善する最適な教育は特別支援教育が担っていることを説明する。

 

(9)性教育について

具体的な教育が必要。性器の洗い方や、自慰行為との向き合い方など。ただ、保護者を含めなかなか理解が得られず進んでいない状況と認識している。松戸市などは実践用資料などあると聞いている。

 

(10)IQレベルに合わせた教育を

実年齢よりも理解度が低いこともあるので、個人個人に合わせたレベルの教え方が必要。しかし、発達段階に合わせる必要はあるが、表現はあまり幼いものにするのではなく、年齢相応のものを用意する方がよい。それをしないと、教える側の人権感覚(相手への年齢に合わせた接し方)も鈍ってしまう。同年齢の人にしないことは、障がいがある人に対してもやってはいけない。

 

(11)教材にも個人に合わせた個別対応が重要と思われる点について

その対応には、ICTが適していると感じている。絵本的なものより、アバターなどを使うと高校生でもウケが良い。

 

(12)障がいを持つ方向け専用の仮想通貨を創る!というアイデアが出ました

お給料の代わりにポイントを貰い、それを本人が好きに使うなどできると面白い。ポイントにすることで、お金の概念を得にくい人も容易に使えたり、他者に給料を搾取されてしまったりする問題にも、使用者が障がいを持つ方に限定されることで解決の可能性があるのでは。また、特別支援学校では経済的なことは現金で教えることが多いが、キャッシュレスなども経験として得るべきではないか。

 

■参加者の感想(職員:古谷)

駅で白杖を持っている方を見かけると、どうしても気になってしまいます。

「ホームにたどり着けるかな」「電車に乗れるかな」そして、時として声をかける等行動に移すときもあります。

このような意識にさせてくれたのは私が子どもたちに福祉に関する学びを提供したり、特別支援教育の指導主事として障がいをもつ多くの子どもたちや保護者の方々と接してきたりしたからです。

様々な経験から障がいを知り、障がいへの認識が変わり、そこから自らの行動につながっていっているのだと思っています。

認識を変え、行動化に移すには何事も「正しく知ること」から始まるように思います。

流山高等学園の生徒達の真剣な仕事ぶり、そしてその素晴らしい成果物。これを一般の人が見ればきっと認識が変わるはず。

松浦先生がおっしゃるように、障がいがある方に「支えられる」「守られる」「手伝ってもらう」社会に近づくためにも、障害のある方が何を得意とし、どのようなことで社会に貢献できるのかを「正しく知る」機会をどのように設けるか、教育に携わる者として真剣に考え、そして、実行に移していかねばという思いを強く持ちました。

また、弊会は設立20年目を迎えていますが、特別支援教育に関する授業プログラムは未だありません。この分野へのアプローチをしていくことは、より多くの大人に「正しく知る」機会をつくっていくことにつながるものと考えており、早速行動に移さなければという思いに強く駆られています。

 

研究会の様子

今回はSOLIZE株式会社の増田秀仙さまを講師にお招きしてVRを活かした新しい授業についてご講演いただきました。講演の概要を以下に紹介いたします。

 

①SOLIZE株式会社の紹介

 SOLIZE株式会社は主に3Dデジタルを活用したものづくり事業を核に発展した会社です。創業から約30年、今では全体で1,800名ほどの社員を擁する会社になり、そのうち半分以上の社員がエンジニア職とのこと。ものづくりの中心は自動車関連で、企画の段階から製品化された後の補給部品開発まで広い範囲で仕事をしています。特に3Dプリンティングを含めた、3Dデータを取り扱うというところが会社の強みであるそうです。強みである3Dの活用と、長らく社内エンジニアを育成してきたという経緯から、昨年XRと呼ばれるデジタル技術を活用したサービスを始められました。

 XR技術というものは世の中でも定義が幅広くあるそうですが、増田さまが仰るにはSOLIZEとしてはARやVRを含む技術、またそれらの技術にかかわるヘッドセットやセンサー類、そしてスマートフォン等の周辺デバイスを含めてXR技術として扱っているとのことです。

 教育サービスに関連するプラットフォームの名称はSADOKUで、学習コンテンツの販売や制作請負などのサービスを行っていらっしゃいます。SADOKUは学びの体験量・質を増やすことを目指したサービスであり、ツールであり、コンテンツであるそうです。サービスに使われる技術の特徴を整理すると、VR技術の良いところはリアリティや没入感があること、バーチャル空間だからこそできる体験型のコンテンツが提供できる点とのことです。リアルな世界をバーチャルにもってくる、リアルでできないことをバーチャルで行う、リアルに全く存在しないものをバーチャルで作ることが可能である点が利点とのことです。リアルとバーチャルを組み合わせることで体験の量と質が変わり、結果として学ぶ側の興味関心がより高まることで、主体的な学びにつなげたいという思いがあるとお話しされていました。

 増田さまからは、教育界に対して難しさを感じているポイントにも言及があり、それは学習指導要領の内容が変更されることや、ICT活用に伴い学び方のデザイン自体が変わること、そして現場で実践する難しさ等であるとのことでした。それらの課題に対しVRを使って解決することを目指されていました。

 また高校生約300名のアンケートで、なぜ文系を選択したのか、という質問に対して「理系が苦手だから」という回答を選択した生徒が57%ほどいたという紹介がありました。将来のキャリアを考えた時に高校一年生での文理選択が非常に大きな分かれ目になるにも関わらず、好き嫌いや苦手で決まってしまっているということを増田さまはもったいなく感じていらっしゃり、XRコンテンツを用いることで理系が苦手な生徒も「楽しいので少しやってみようか」、と考えられるようにしたいという思いも語ってくださいました。

 増田さまは1年半VR活用をやってきた中で見えてきた課題として、以下の点を挙げられました。

・VR技術自体の認知度や理解が低いこと。

・学校現場においてVR技術の活用方法や、学習効果、授業実践を行うときの運用イメージがあまりないこと。

・子どもが重いゴーグルを45分かぶっていられるのかなどのデバイス自体について懸念があること。

・メタクエストのような教材の値段設定が高額であるため、デバイスを一人1台用意できるのかについて懸念があること。

・通信を使うコンテンツの場合、セキュリティや通信速度の関連で学校のネットワークでは対応できない場合があること。

・身体への影響の関連で国が子供の使用を規制しているコンテンツや、メーカー側の自主規制として13歳未満には使えないデバイスがあること。

 課題は様々あるものの、教育現場のみなさんと一緒にそれらを変えていくことはできないだろうか、と考え努力されているそうです。

 

②VRの授業への活用の方向性

 VR(ヴァーチャルリアリティ)とは何かを言い表す時に、東京大学のある教授が行った定義では「コンピューターによって作られた映像世界の中に入り込み、そこでいろいろな疑似的な体験をすることができる技術」とされているそうです。ここで定義されたVRは3つの要素に分解することができ、1つ目はディスプレイの要素、2つ目は体験・インタラクティブの要素、最後の1つはシミュレーションの要素です。VRはまずコントローラーを通して入力を行い、システムの中でシミュレーション、すなわち疑似的な世界を作り、その結果がディスプレイを通して様々な方法でユーザーに返ってきます。強調されていたのはVRというのは頭に重たいデバイスを付けるということではなく、本質は作られた映像世界の中に入り込んで疑似的な体験をすること、とのことです。

 教材に関わる技術を入力システム、シミュレーションシステム、ディスプレイシステムなどの要素に分けていくと、それぞれの技術は数学、理科(物理)、情報などの知識と関連があり、例えば入力システムであればセンサーの制御、通信制御、電気回路、シミュレーションのシステムであれば、モデリング、画像処理、計算処理、ディスプレイシステムであれば、立体視、光学レンズ、電気回路です。生徒には、数学、理科、物理、情報などで学ぶ領域とかかわりが深いということは伝えられると考えているそうです。

 またVRはゴーグルを使う方法の他に、パソコンやタブレット、スマートフォンを使う方法でも体験ができ、AR、MR、VRはそれぞれ異なる特徴があります。もともとはリアルという言葉への対比としてVR(バーチャルリアリティー)という言葉が登場したのが最初だそうです。その後AR、MRが登場し、リアルとバーチャルの融合、もしくは間にあるものとして捉えられるということですが、これらの違いはどれくらい現実よりなのか、バーチャルよりなのか、という点で分かれているそうです。ARは携帯電話のカメラで撮った映像の上にさらに何かデジタルなものがおかれるもののイメージ、MRはミックスドリアリティーと呼ばれるもので、現実とバーチャルが混ざっているようなイメージ。一言でいうのであればVRはバーチャルに入り込む、ARは現実世界の上にバーチャルを重ねていく付箋のような、3Dの奥行まで計算して表現できるMRは現実とバーチャルを融合するイメージだそうです。

 SOLIZEとしては、バーチャルリアリティーを疑似体験ができるものとしてとして捉えているということです。例えばバーチャルの世界ではどこへでもいくことができるため、行きたくても遠くて行けなかった場所などに行く疑似体験を得ることができます。また、歴史的な建物の3Dモデルがあれば、過去の街並みを見に行く疑似体験も可能です。バーチャルな世界では時間の早回しや、自分以外のものの目線になること、パイロットシミュレーターなどもすることができます。これらをリアリティをもって体験できるのがバーチャルリアリティーの特徴であり、学びの中でも重要になってくる点であると考えているそうです。

 

③VR技術の教育活用について

 VRが実際どのように授業で活用されているのか、具体例を挙げ説明いただきました。増田さまは、VR活用による様々な疑似体験や、シミュレーションを用いて試行錯誤する学び方が体験の量を増やす、体験の質を向上することに寄与すると考えています。さらに、VRはICT機器であるため、リモート学習ができ、リアルな体験にバーチャルを上乗せすることで学びの体験自体を増加することができ、また、シミュレーション的な要素で試行錯誤を重ね、リアルで体験できないことを体験できることで体験の質自体を変えるのではと考えているとのことです。

 今流行りのメタバースについてもご説明いただきました。メタバースでは、あるバーチャル空間の中に遠隔地からでも複数の人間が入ってきて一緒に学ぶことができます。現在、授業はリアルで集まることが一般的ですが、VRでは離れたところからでもコンテンツをみなで体験し、結果の検討をバーチャル空間で行うことができるため、対話的な学びの実現もできるのではないかと考えていらっしゃるそうです。

 次に活動内容を高等学校の科目に紐づけて分類した表を示しつつ、各科目におけるVRの活用について説明をいただきました。理系科目では数学や物理系は概念や数式のような見えないものを可視化することができ、直感的に理解できるところが大きなポイントで、理科・化学系は実験をバーチャルで行うことでプロセスを覚えることに活用できる点や、どんどんトライしても怪我をすることなく安全に失敗できる点、資材が壊れない点などの利点があるとのことです。文系科目の語学では、遠隔地の人々とのコミュニケーションを行う際に身振り手振りなどの情報量を増やしてコミュニケーションをとることが可能になります。最近はそれらの特徴を生かしたVRの英会話アプリなども作られているそうです。また地理・歴史ではどこへでも行ける、過去に戻っての体験が可能であり、社会科・公民では「こういうことがあったらどうする」というようなワークショップのようなものをバーチャル空間の中でいくつかシナリオを作って行うことも可能だそうです。例えば、バーチャル裁判所で活動することで、リアリティを感じながら、生徒にとって身近ではない裁判の体験をする機会を作ることなども可能です。文理外でいうと技術家庭、体育などの身体性を伴う部分があるものはバーチャルリアリティーと大変相性が良く、身体を使って学ぶ、その結果としてコンテンツからフィードバックが返ってくるということが学びの定着に良い結果をもたらすことがわかってきているそうです。メタバースになると、最近はホームルーム、課外活動、探究活動、イベント系、説明会であったり、コミュニケーションをとるためのツールとして使われているそうです。オンラインミーティングツールでは普段の教室のように生徒たちの様子を歩き回ってみることができませんが、バーチャルの世界ならば生徒たちの間を歩き回り、声掛けもできます。

 学習効果についても少しずつ解明され、ポイントはインタラクティブ性とのことです。動画コンテンツを見るだけの学習と、コンテンツを見ながら何らかの活動を行う学習を、学習者がパソコンとVRで行った場合にどのような差が出るのか、という実験を行ったところ、次のような結果が得られたというお話がありました。まず、動画コンテンツを見るだけの学習であればVRだと情報量が多すぎるため、パソコンの方が効率は良いそうです。一方で、何がしかの活動をしながら学ぶ場合、学習者が何かした時にバーチャルの世界からフィードバックを受けながら学ぶとパソコンよりもVRの方が、定着率が上回るという結果が出ているそうです。この結果を受けて、VRを活用することで、何らかの体験活動とコンテンツからのフィードバックを学びのデザインの中に織り込むことが、学習効果を高める可能性もあると考えられているそうです。学校教育に関わる人たちにも現在の単元でVRがどのように活用できるだろうかと考えていただくと、企業視点だけでは考えつかないような、教材としてのVRの使いどころが見えてくるのではないかと考えられているそうです。

 動画とVRの違いについてもお話いただきました。動画の特徴としては、伝達の点で1対多数である、直列である、1Wayであるなどが挙げられ、これに対し、VRは、多数対多数、双方向のコミュニケーションをとることができる点が挙げられるそうです。動画系は知識をインストールするという使い方に向いており、バーチャル空間は集団で何かを行い、その中から学びを見出すようなワークとの相性が良いと思われるとのことでした。

 今行われている学びがすべてバーチャルになるかというと増田さまはそうは考えていないそうです。あくまでデジタルもバーチャルも、学びの目的を達成しようと思ったときの手段の1つであって、リアルでできることとバーチャルでできることを組み合わせたり掛け合わせたりするというところが一番考えるべきところなのではないかと思われているそうです。

 また、VRは教科横断的な学びや、体感ツールとしても活用できる例として、スカッシュを物理と体育の観点から活用する事例をご紹介いただきました。数学・物理的には、球を打つ時の初速度、球の質量、打つ時の角度であるベクトル、重力加速度、空気抵抗などによってどう球の動きが変化するのかを見ることが可能で、体育的には、どこに落ちるのか、どの打点で打つとどのように飛ぶのか、球筋や球種、体を使ってコースをコントロールすることを学ぶことができます。これらを組み合わせることにより、シミュレーションツールは、物理と体育の先生が同じ授業を違う観点から伝えるなどの利活用も考えられるそうです。

 

④教育コンテンツご紹介

 SADOKUにおいてコラボレーションを行ってきたいくつかの具体例についてご説明いただきました。

 最初に紹介いただいたのは、東京学芸大学と共同研究された「跳び箱VR」と「バドミントンVR」、軽井沢風越学園と共同開発された「電気素子の街」です。開発に際しては、教育現場の意見を参考にしながらコンテンツを改良していったそうで、例えば、最初はミッションクリア形式のコンテンツにしていたが、現場の先生からミッションがないほうがよいという意見をいただき、ミッションをなくして自由度の高いコンテンツにするなど、教育現場の方から指摘され初めて気づくこともあったという経験もお話しいただきました。

 次は、明秀学園日立高等学校と共同開発された無重力空間を体験できる教育コンテンツです。このコンテンツは国立天文台の出している情報や素材なども活用しつつ作成されたそうです。

 明秀学園日立高等学校とは、分子の引き合う力を体験できるコンテンツも開発され、こちらは力学デバイスが必要であるため、デバイスの作成会社ともコラボして活動したそうです。強みとしてはリアルの物理法則に則った活動ができるという点とのことです。

 立命館大学との共同開発は複数あり、1つ目は、メタバース空間で授業をどのように行うのか、という研究です。メタバース空間で授業もでき、かつコミュニケーションもとれるようにして、どこまで活動ができるかを検証されているとのこと。メタバース空間ではアバターで参加するため、活動に参加する際の障壁を小さくできるそうです。2つ目は、教職課程の学生がVRの教材を作るというプロジェクトで、開発した教材は最終的に小学校や中学校で実践を行う予定とのこと。企画自体は学生が考え、SOLIZE所属のエンジニアの方と一緒に教材を開発するそうです。

 最近の学校では、生徒にVR空間のようなものを作らせる授業も始まっているそうで、現在は、簡単なものであれば中学生や高校生でもVRコンテンツを開発できるツールが増えてきており、それらの使い方を教える活動なども行っているそうです。実際に教えるとすぐ生徒が使えるようになるので、そういった楽しみをどうやって教材に生かしていこうかを考えつつ開発を行っているとのことでした。

 

⑤まとめ

 VRは頭に重いデバイスを付けることではなく、いろいろな体験の仕方があります。また体験の種類もデバイスによって変わります。最大の特徴は疑似体験ができることであり、VRを活用することでこれまでできなかったことができるようになったり、行けなかったところに行くことができるようになったり、見えなかったものが見えるようになったりすることだそうです。

 こうしたVRの特徴を、授業の組み立ての中にどう入れ込んでいくかというところがポイントで、増田さま、そのために現場の先生方との対話を通して、先生方が何をVR技術で実現したいと考えるか知りたいと話されました。また、リアルとバーチャルの組み合わせと掛け合わせも大切で、リアルでしかできないこと、バーチャルでしかできないことの間に生じる違和感を感じ取り、その違和感から興味や疑問を生み出すようなアプローチを検討したいとも話されていました。

 一番大事なのは学習目的であり、増田さまはVR、AR、MRという技術の活用を目指して動いているものの、活用に固執はしないとのこと。こういった技術を生徒側が使うのか、それとも教員側が使うのかによっても活用方法は異なりますし、学習の効果も異なることが考えられます。大切なのはVR技術を使うことではなく、VR技術を使ってどうしたいのか、という点であるとのことでした。

 最後に、リアルをバーチャルに置き換えるのではなく、リアルとバーチャルを足し合わせていこう、できるなら掛け合わせて新しいものを作っていこうということがSOLIZEとして取り組んでいきたいことであり、先生方と一緒にやりたいと思っていることだとお話しいただきました。今までとは違う学びのデザインというところにお力添えができればとおっしゃっていただきました。

 

⑥VR体験会

 VR体験会ではSOLIZEが開発した「バドミントンVR」「電気素子の街」「跳び箱VR」をお持ちいただき、体験させていただきました。対面参加者は各々、パソコンのみで体験できるもの、ゴーグルやコントローラーが必要であるものなど様々な体験方法でVR技術に触れることができました。オンライン参加者は、教育コンテンツの紹介動画を視聴し、VRの教育活用について理解を深めました。

 増田さまが講義で話されたように、VRにも様々な体験方法があることを実際に体験できました。パソコンだけで体験のできる「電気素子の街」などはゴーグルをつけて体験することも可能だそうで、1つのコンテンツでも様々な体験方法があることに驚きました。

 

⑦質疑応答

 VR体験会の後は、質疑応答の時間でした。教育関係者の多い中、教育現場でどのようにVRを導入していくのかということにかかわる様々な質問や意見がでました。例えば、GIGAスクール構想が実現し、一人一台端末の普及が進む中で、現場にある機材を活用することが可能なのか、実際にVR技術を活用するのであればどのような方法で活用ができるのか、現在学校にない端末を導入する必要はあるのかなど、実際に現場にいる先生方の気になる質問に丁寧にお答えいただくことができました。参加者からは、VR技術を、授業で使うための意見やアイディアなども挙げられました。

 

⑧研究会を終えての感想

 今回の研究会では、教育現場ではまだあまり見かけないVR技術を活用した教材をテーマにお話を伺いました。自身はVR技術の専門ではないため 、この技術を使った授業はどんな手法で構成されていくのだろう、と少し身構えていました。しかし実際に講師の増田さまのお話を聞くとVR技術も学習目標を達成するための1つの手段であり、生徒に学習してほしい内容に対して効果を発揮できる1つの手段なのだな、とVR技術の捉え方が変化しました。学校現場にいる先生方にとってVRという言葉は少し教育と遠く聞こえてしまうのかもしれませんが、VR技術は、学校の先生方が普段の、授業を作っていく際に、どのような資料を活用して、どのような教具を使うのかを選択していくのと同じように、1つの手段として活用できるものなのだ、という感覚が伝わるとより教育現場でも身近になるのではないかと感じます。また、様々な専門分野の人々が教育を専門とする教員と協力して教材や授業を作っていくことは、お互いの専門性を持ち寄って新しいものを生み出す様子を生徒が目の当たりにすることのできる素晴らしい機会であると感じました。こういった機会が増えていくことがもしかしたら社会に開かれた教育課程を実現することにつながるのかもしれないと思いました。

NPO法人企業教育研究会が千葉県魅力ある建設事業推進協議会(CCIちば)と連携して行っている出張授業「千葉県の建設業の仕事」について、2022年12月28日付けの日刊建設タイムズ紙1面・3面に掲載されました。 

今年度の各学校での授業の様子が、記事にまとめられています。 

2012年から授業の開発を始めた出張授業は、おかげさまで毎年10校程度の学校で授業を行うかたちで千葉県の学校教育に定着し、全ての出張授業において地域の建設業の方にゲスト講師として参加いただいています。 

普段は見ることができない工事現場の話や、自然との共生、防災や災害復旧に尽力されているゲスト講師の話を聞き、児童生徒だけでなく、先生方からも様々な発見があると感想をいただくことが多い出張授業です。 

来年度以降も、様々な地域の学校と、その地域にいらっしゃる建設事業者の方を結ぶ授業プログラムとして進めていきたいと思います。

©日刊建設タイムズ
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