12月17日(土) 淑徳大学・松浦俊弥先生にご講演いただき、第153回千葉授業づくり研究会「共生社会への道 障害者の社会参加を支える連携 〜「学校」と社会をつなぐ!〜」を実施しました。
弊会職員・古谷さんがかつて教員や指導主事として特別支援に関わる中、ピンチを救ってもらったと尊敬してやまない存在の松浦先生。
当日は、社会全体の障がい者の生活の現状や、社会参加して生きていくために必要と感じている企業、学校との協働への想いなど、力強くお話しいただきました。
今回は、グラフィックレコーディング※1という特技をお持ちという、参加者の佐藤さんが描いた素晴らしい「まとめ」、かつ素敵な絵と共に、研究会の様子を報告します。
研究会開催概要は以下
https://ace-npo.org/wp/archives/study/cjk153
※1グラフィックレコード:ホワイトボードや紙に、会議や議論などの内容をデザインとして可視化し、整理していく手法。テキストだけの情報と違い、イラストなどで感覚的にも把握しやすいということで、注目されている。
■講師 松浦俊弥先生について
千葉県の公立学校にて、中学校と特別支援学校の教員として28年お勤めの後、淑徳大学大学院にて社会福祉学を修められました。
社会活動家、臨床発達心理士、自閉症スペクトラム支援士(エキスパート)。
教員時代から、障がい児を対象とした千葉県初の学童保育所を運営するNPO法人「あかとんぼ」を設立されるなど、公私にわたり障がいを持つ子供たちの支援に携わるなど活発に活動される。
柏市障害福祉専門部会長、白井市障害福祉計画策定委員会座長、四街道市特別支援連携協議会委員。
著書に、「障害のある子どもへのサポートナビ」(北樹出版)等。
■講演概要
松浦先生のお話の中から、抜粋してご紹介します。
(1)ものの見方を変えよう
障がいのある方は社会から「支える」「守る」「手伝う」べき人々と捉えられがちだが、障がいがある方に「支えられる」「守られる」「手伝ってもらう」社会であっても良いはず。
障がいのある方にも社会参加を進めてもらい、「働き手になる」「消費者にする」「ボランティアに参加する」等を考えていきたい。
実際知られていないだけで、企業の方などに特別支援学校での活動を見ていただくと、職業訓練等のレベルの高さに驚かれることも多い。偏見を減らし、企業の方にも障がいのある方々の採用は、CSR※2ではなく、戦力として認識される社会になってほしい。
2022年9月、国連の権利委員会により障害者権利条約について改善勧告もなされ、障がいのある方を分ける特別支援学校自体が疑問視された。日本は障がいのある方々を分離する社会で、インクルーシブではない傾向。
改善のため、学校教育はどうあるべきか?企業は特別支援教育とどう連携すべきか?
※2 corporate social responsibilityの略(企業の社会的責任)。企業は、利益追求、法令遵守だけでなく、人権を尊重した適正な雇用・労働条件、消費者への適切な対応、環境への配慮、地域社会貢献等々、の義務があるとし、市民としての企業が果たすべき責任をいう。
(2)障がいがある人の社会参加について
①身体障がい者、知的障がい者、精神障がい者の内、職に就いているのは3%弱
で、また、定着率も低い。障害のある人の貧困率は高く、国民一般の5倍にも
のぼります。そして、生涯にわたり収入もほぼ増えていない状況。
②結婚している人はわずか4%、障がいを持つ方の圧倒的多くが未婚。関西で
は、知的障害者同士の結婚をサポートするボランティアがあるそうです。
③知的障がいがある方については基本的な社会生活における知識不足があり、
法的に自分を守る方法がわからず、助けを求めることが難しい場合がある。
そのため、様々な被害に巻き込まれてしまうことがある。
障がい者が社会参加をする上での基本的な考え方として、善悪に関わらず、障がいがない人が行う社会での振る舞いと同様の振る舞いが、障がいがある人にもあって当然という視点が必要なのでは。
(3)様々な社会問題との関連(詳しくは佐藤さんのスケッチをご参照ください)
①経済観念(お金の使い方)
②刑事事件(加害)との関連
③刑事事件(被害関係)
④刑事事件(組織犯罪)との関連
⑤いわゆる「ホームレス」課題
⑥少年事件
(4)特別支援教育についての課題
①勉強ができないだけで問題行動のない子供は、学校でも先生に見過ごされてしまう可能性がある。
②障がいのある子どもは、体験や経験から自然に学ぶことが難しい場合も。
③「何度言ったらわかる」とつい言ってしまうが
→ 理解力の問題で「何度も言ってもわからない」子供もいる。
④本当に必要な教育が行われていない!
・・・机上論では理解できない。実践的、体験的で具体的な指導が必要。
ロールプレイングが有効。
⑤卒後の社会支援体制も不十分なまま
・・・特別支援学校での職業訓練が、就職先で活かせる内容になっていること
が少ない。従って、本人にとって就職後が辛く、職場への定着が難しい
場合も。
(5)新たな可能性・提案
①特別支援教育への社会の誤解を解く
②卒後の社会支援体制を整える
③教育に政治を生かす
④子どもを守りすぎない
⑤我が国の偏見の歴史はとても長いことを理解する
⑥木がダメなら、森を攻める意識を持つ
障がいを持つ方々が、社会の中でどのような生活を余儀なくされているのか。多くの事例を盛り込み紹介いただきました。
学校教育というよりも、社会全体の問題として捉えていただきたいとのお話でした。
■ディスカッションタイムより抜粋紹介
ディスカッションでは、さまざまな話題で大いに盛り上がりました。
簡単にですが、話題に上がったことをいくつか紹介します。
(1)ICT教育など新しいことに対し、学校側からの拒否感もあると感じるが
一職員から、もしくは一学校からやりたいと声を上げることは難しくても、企業から声を掛けていただければNOとは言わないと思われる。また、特別支援活動自体の知名度が低いこともあるので、知名度を上げると共にトップダウンや、政治の巻き込みも大切と考えている。
(2)企業の方を説得する必要もあるのでは
企業の方には、ぜひ、障がいのある方も消費者として捉え、企業にもメリットがある存在として意識していただきたいと考えている。
(3)障がいがない方に正しく障がいについて伝えるには
障害年金含め、正しく理解してもらうことが必要。障がい保障ついては、税金の無駄ではなく、安心して生きていくためのものであり、自分たちも使う立場になる可能性があることを認識してもらうべき。
(4)親に障がいのある方の子供について(障がい者支援とヤングケアラーについて)
予算の問題もあるが、親子共々生活をまるごと支援するという方法もある。親の面倒を見ていれば、それをすべてヤングケアラーとして捉えていいのか、しっかり見据えなければならないと感じている。
(5)企業が障がいを持つ方への支援など考える際、何かやってあげるという感覚で関わってしまうのではと危惧している
企業には利益を求めて参入していただきたい。障がいのある方々を将来の消費者として捉えて考えてほしい。特別支援学校がどういうレベルなのかご存じないことも多いので、まずは知っていただくことからかと思う。ぜひ、企業関係者の特別支援学校見学を勧めたい。
好事例として、公園管理を障害のある方に担っていただくような連携や、農福連携で、農作業の一部、加工産業の一部を担っていただくものもある。障がいを持つ方でも出来ることを仕事として創る意識を持っていただきたい。
障がいがある方に特化した特例子会社など検討できれば、障がい者雇用率に対し、企業にもメリットがあるはず。
(6)職業訓練の内容について
立派な革製品を作る訓練よりも、生活に直結した必要な知識(社会のタブーや性教育など)を学ばせることも重要と考えている。
(7)知的障がいをもつお子さんにとって理想的なキャッシュレスについて
一人ひとり発達段階が違うのでとても難しい。大切なのはリスクをきちんと教えること。大人になった時の生活を考え、フィードバック的に必要な支援を考えるのが良いのでは。キャッシュレスなどの使用を第三者が管理するにも、成年後見制度はハードルが高いので、もう少しライトなものがあればと感じる。
(8)特別支援ではなく通常のクラスにいるグレーゾーンの子供を助けるには
まずは、特別支援の素晴らしさを説く。そして、障がいのある子どもの生活の実情を話し、それを改善する最適な教育は特別支援教育が担っていることを説明する。
(9)性教育について
具体的な教育が必要。性器の洗い方や、自慰行為との向き合い方など。ただ、保護者を含めなかなか理解が得られず進んでいない状況と認識している。松戸市などは実践用資料などあると聞いている。
(10)IQレベルに合わせた教育を
実年齢よりも理解度が低いこともあるので、個人個人に合わせたレベルの教え方が必要。しかし、発達段階に合わせる必要はあるが、表現はあまり幼いものにするのではなく、年齢相応のものを用意する方がよい。それをしないと、教える側の人権感覚(相手への年齢に合わせた接し方)も鈍ってしまう。同年齢の人にしないことは、障がいがある人に対してもやってはいけない。
(11)教材にも個人に合わせた個別対応が重要と思われる点について
その対応には、ICTが適していると感じている。絵本的なものより、アバターなどを使うと高校生でもウケが良い。
(12)障がいを持つ方向け専用の仮想通貨を創る!というアイデアが出ました
お給料の代わりにポイントを貰い、それを本人が好きに使うなどできると面白い。ポイントにすることで、お金の概念を得にくい人も容易に使えたり、他者に給料を搾取されてしまったりする問題にも、使用者が障がいを持つ方に限定されることで解決の可能性があるのでは。また、特別支援学校では経済的なことは現金で教えることが多いが、キャッシュレスなども経験として得るべきではないか。
■参加者の感想(職員:古谷)
駅で白杖を持っている方を見かけると、どうしても気になってしまいます。
「ホームにたどり着けるかな」「電車に乗れるかな」そして、時として声をかける等行動に移すときもあります。
このような意識にさせてくれたのは私が子どもたちに福祉に関する学びを提供したり、特別支援教育の指導主事として障がいをもつ多くの子どもたちや保護者の方々と接してきたりしたからです。
様々な経験から障がいを知り、障がいへの認識が変わり、そこから自らの行動につながっていっているのだと思っています。
認識を変え、行動化に移すには何事も「正しく知ること」から始まるように思います。
流山高等学園の生徒達の真剣な仕事ぶり、そしてその素晴らしい成果物。これを一般の人が見ればきっと認識が変わるはず。
松浦先生がおっしゃるように、障がいがある方に「支えられる」「守られる」「手伝ってもらう」社会に近づくためにも、障害のある方が何を得意とし、どのようなことで社会に貢献できるのかを「正しく知る」機会をどのように設けるか、教育に携わる者として真剣に考え、そして、実行に移していかねばという思いを強く持ちました。
また、弊会は設立20年目を迎えていますが、特別支援教育に関する授業プログラムは未だありません。この分野へのアプローチをしていくことは、より多くの大人に「正しく知る」機会をつくっていくことにつながるものと考えており、早速行動に移さなければという思いに強く駆られています。