2020年11月14日(土)に第139回千葉授業づくり研究会「未来の主権者に必要なコミュニケーション能力とは!?」を開催しました。前回に引き続き,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止のため、オンライン会議ツールZoomを用いての開催となりました。

 

社会における変化や多様化に応じた政治を実現するためには、国民の様々な意見を政治や行政に届けることが重要です。しかし、日本では若い世代の選挙での投票率が低い状況が続いており、若者の政治離れが問題となっています。

学校教育では2016年に選挙年齢が18歳以上に引き下げられたこともあり、主権者教育の重要性が注目されてきました。若者の政治離れを解決するために、これからの主権者教育では投票を推奨するだけでなく、自分の意見を政治や行政に届ける方法について子どもたちと考えていくことが大切なのではないでしょうか。

今回の研究会ではマカイラ株式会社の藤井宏一郎様を講師にお招きし、アドボカシーやロビイングなどの政治に意見を届ける方法や、こうした活動に欠かせないコミュニケーション能力などについてお話いただきました。また、主権者教育に関心のある大学生・大学院生,教員のみなさんと未来の主権者を育てるための教育について議論しました。

 

こちらは、講演の録画です。

また、講演のスライド資料は、以下からダウンロードできます。

https://www.dropbox.com/s/cqt84ku4kk72c0j/

 

藤井様が代表取締役をつとめる「マカイラ株式会社」は,アドボカシーを中心としたパブリックアフェアーズのコンサルティング会社です。アドボカシーとは権利擁護,政策提言などと訳され,主にマイノリティや社会的弱者の立場に立った政治的表明やキャンペーン活動を意味します。パブリックアフェアーズとは社会性の高い問題について様々な立場の人に理解してもらうための戦略的コミュニケーションを意味します。「マカイラ株式会社」での仕事は,例えば,政治や社会問題に関して,実際に困っている人や問題提起をしようとしている人,法律の専門家や企業などが協力できる体制づくりをし,政策の実現まで持ち込むことを目的に様々な手法でキャンペーンを行うというものがあります。

 

政府に声を届ける方法として投票に限らず,様々な手法でキャンペーンがあるとのことですが,学校では政府に声を届ける方法をどのように児童生徒に教えていくべきなのでしょうか。現在の学習指導要領では司法参加,政治参加,公正な世論と経済活動への参加,請願権などがバランスよく書かれており,投票に偏った記述はありません。しかし,実際には模擬投票の実践が少なくないのが現状です。また,教科書においては「社会変革の手法」について散発的に記述されるにとどまり,体系だって教えることはできていません。すなわち,具体的にどのような行動から始めて問題解決に至ればよいのかが児童生徒には分からないのです。一方で,実際の社会では若手が中心となってベンチャー企業や社会起業家,NPOといった形で世の中を変えるケースが増えているそうです。こうした現状を踏まえると,児童生徒には今の政治システムをうまく利用する「新しいロビイング(アドボカシー)」や「パブリックアフェアーズ」という方法を学校教育の中でも取り上げていく必要があるのではないか,というお話がありました。

 

それでは,具体的に政治や社会問題に対して声をあげたいと思った時,どのような行動をすればよいのでしょうか。旧来のロビイングは陳情と言う形で政治や行政に働きかけることが主流でした。一方,新しいロビイングでは①マイノリティや弱者の声を拾い関係各所に働きかけていく草の根ロビー・市民アドボカシー,②新規事業を始めるにあたり必要な法整備や利害調整といったものを進めていくパブリックアフェアーズ/イノベーションアドボカシーのタイプがあり,二つを組み合わせたタイプも考えられます。いずれにしても,形式的に進めるだけでは大きなムーブメントは起きません。実質的に,努力を惜しまない行動と戦略的に物事を進めていく社会コミュニケーションスキルが必要だそうです。一人でも多くの味方を増やすために,誰にどのような方法でアプローチするのが良いのか,どのような情報を持っていけば良いのかを考え,広く社会を巻き込み,透明かつ公正に政策決定まで持ち込むことが求められます。

 

新しい市民ロビーの一般的な流れを5つに分けて紹介していただきました。

「①仲間づくり」では,アドボカシーの拠点となるNPO法人,場合によっては協議会や連絡会を立ち上げ,同じ問題意識を持った人々が集まれる団体を立ち上げます。自治体、企業、NPO、政府、財団など様々な立場の人を巻き込んで特定の社会問題を解決しようという「コレクティブ・インパクト」という考え方もあり,政策立案に関わる議員に対し,一個人の意見ではなく世論として認めてもらうためにも仲間づくりは重要な一歩です。

「②要望事項の整理」では,困っていることを解決するために,具体的に,どの法律・条例のどこを直して欲しいのか,どういう予算が必要か特定した政策提言書を作成します。味方となる行政職員や市議会議員と話して改善点のアイディアがもらったり,その問題を研究している大学の教授や研究室に協力を仰いだり,あるいは統計データやメディア記事の背景資料の準備をしたり,ということが提言書の作成と並行して行われます。

「③政策当局者への接触」では提言書を実際に国会議員や省庁の担当者に持っていきます。この段階は心理的なハードルが高いと思われがちですが,意外と話を聞いてくれるケースも多いそうです。どのような問題を解決するのかによって会うべき政策当局者は変わってきますが,政策提言書,背景資料,予定があれば今後のイベント案内を持参し,他に会っておくべき人の紹介の取り付けをお願いすると問題解決のための人脈も広がります。

「④世論への呼びかけ」では,ウェブサイト,ブログ,SNS,イベントといった特定の層へのアプローチと,新聞やマスメディアといった大衆向けのアプローチを進めていきます。広告をプロにお願いすることで,メディアが注目するようなコンテンツをつくり,世論が味方についてくれることもあります。政局を見守りながら,いつ誰に向けてどのような情報を出すのが効果的か考える必要があります。

「⑤政府内でのプロセス」は,政策立案に向けて動いてくれている議員を支援する段階です。反対派の議員への質疑応答のための資料提供や,味方になってくれる議員を増やすための呼びかけ,どこまでなら妥協するのかといった条件について仲間内での合意を得るなどやるべきことがいくつもあります。法案が通った後も,全国展開に向けてガイドライン制定まで丁寧に活動を進めていくことが求められます。

 

実際に「自殺対策推進法」「食品ロス推進法」「電話リレー法」といった法案の制定,学校における「ブラック校則」反対運動などが上記のような方法で実現されていきました。今の時代,社会変革キャンペーンに関わる方法はたくさんあることがわかります。我々は,国会,中央省庁,市議会議・市役所,国際機関などを対象に,ウェブ,メディアキャンペーン,署名サイト,クラウドファンディング,デモ行進といった様々な手法で,社会変革をもたらすことができるのです。そして社会変革をもたらす上で重要となるのが社会コミュニケーションスキルです。例えば,どうコアに動いてくれる仲間をつくるか,どう資金を集めるか,裏切りや駆け抜けにどう対応するか,どう味方を見極めるか,どう仲間内にしこりを残さず,誰に花を持たせるかなどが,社会コミュニケーションスキルの例です。これらのスキルはアドボカシーに参加する人のみならず,どのような組織に属していても必要なスキルであると言えます。

 

今回は,これからの主権者教育について,投票を推奨するだけでなく、自分の意見を政治や行政に届ける方法について子どもたちと考えていくための方法として,「新しいロビイング(アドボカシー)」があること,そして実際に問題解決を進めるにあたっては「社会コミュニケーションスキル」が求められるということをご講演いただきました。民主主義社会を生き抜く児童生徒に必要なスキルとは何か,質疑応答の時間にも大変充実した議論をすることができました。ご講演いただいた藤井様、ご参加いただいたみなさま、ありがとうございました。

 

文責・企業教育研究会 小牧瞳

フリマアプリにおける個人間商取引について学ぶ授業プログラムの開発
明石萌子(企業教育研究会)、藤川大祐(千葉大学)、阿部学(敬愛大学)、関谷紳吾(企業教育研究会)、山本恭輔(千葉大学)、市野敬介(企業教育研究会)、武蔵振一郎(千葉県立千葉中学校)、齋藤良和(株式会社メルカリ政策企画)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/konpyutariyoukyouiku/49/0/49_46/_pdf/-char/ja
 
インターネットを介して個人間商取引を行うフリマアプリが普及し、中高生がフリマアプリ利用時にトラブルに遭うことが懸念されています。NPO法人企業教育研究会では、株式会社メルカリ様と連携してフリマアプリ利用時のトラブルを題材に授業プログラムを開発し、授業実践を通して授業や教材の有効性と課題について研究を行いました。研究の結果、授業を受けた中学生の多くはフリマアプリ利用時の注意事項を理解し使い方を自分なりに考察できたという成果が示されました。
 
本研究の成果をまとめた論文がコンピュータ利用教育学会の学会誌『コンピュータ&エデュケーション』Vol.49に掲載されました。この論文を通して、中高生がフリマアプリを安心・安全に利用するために必要な学習内容や、学習の際に有効な教育方法について、学校の先生や教育研究に携わる人に広く伝えることができれば嬉しく思います。
 
また本研究では、授業の有効性が確認された一方で、一部の内容について授業者の解説の仕方に検討の余地があることも示されました。引き続き、研究を通して明らかになった知見や課題を、授業開発や授業実施に活かしてまいります。
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