2020年7月25日(土)に第137回千葉授業づくり研究会「『寄付・社会的投資』とは?社会貢献教育について考えよう」を開催しました。今回も、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止のため、オンライン会議ツールZoomを用いて開催いたしました。
学校教育において、社会の課題を自ら解決する力の育成がますます重要になっています。
寄付や社会的投資が広がっていくことで、社会課題を解決するための新しいチャレンジが促進されます。また、誰かの役に立つことが自分の幸せにつながる社会を実現できることが期待されます。寄付文化を学ぶことは、社会の課題を見直し、自分にできることを考える大きなきっかけになるはずです。
そこで、今回の研究会では日本ファンドレイジング協会事務局長の小川愛様を講師にお招きし、日本の寄付市場や社会貢献教育についてお話いただきました。また、ワークショップを通して寄付・社会的投資を題材に、社会課題を解決する力をどのように子どもたちに育むことができるのか議論を行いました。以下、講演とワークショップの内容を概略的に記録させていただきます。
はじめに、小川愛様よりご挨拶を頂き、NPO法人日本ファインドレイジング協会についてご紹介をしていただきだきました。日本ファンドレイジング協会では、現在ファンドレイザー(民間非営利団体の活動資金を調達する専門家)の育成・市場の形成・政策を変えることの三つを主として事業をされています。
次に、日本の寄付市場について説明をしていただきました。日本の寄付額と外国の寄付額を比較すると、アメリカはほぼ40倍、イギリスはほぼ2倍、韓国はほぼ同額という結果になっています。GDPに占める割合で換算しても日本の割合は少なく、日本の寄付市場は伸びしろがあるといえます。日本の寄付総額の内訳は、3つのカテゴリーに分かれ、その中でもふるさと納税が1/3を占めています。寄付を年齢別にみると、高年齢にいくにつれて寄付率があがってくことが分かりました。寄付の動機は、寄付する場所によって異なっており、寄付を募る側はどこの人たちから寄付が欲しいのか、寄付を募るためにはどのようなターゲット層にメッセージングを行うのか等の検討が必要となります。寄付とボランティア活動の関係をみた場合には、「共感性」がキーワードとなっているそうです。
財源は、組織や事業を成長させるために必要であり、ファンドレイジング戦略とは、事業・組織・財源の一体的発展戦略です。ファンドレイジングスクールでは、ケーススタディを豊富に行っています。ファンドレイザーには、ファンドレイジングの知識とスキル・ファンドレイジングの実行・実践力、マネジメント・コーディネーション力、対人・コミュニケーション力、誇りと倫理を守る姿勢、誠実さの5つの能力が必要とされます。
一般の企業の活動では、投資したお金はその企業への経済的リターンとしてフィードバックされますが、寄付金を活用した活動の場合は、寄付したお金は受益者にフィードバックされます。そのため、寄付していただいた方々にきちんと活動報告やお礼を伝え、寄付金が正しく活用されていることをフィードバックすることが大切だということでした。
続いて、これからの寄付のかたちと社会的投資についてお話をしていただきました。レガシーギフト(遺贈寄付)というものがあり、これは亡くなる時に遺言として、社会課題を解決する団体に寄付をすることだそうです。日本の遺贈寄付の状況は、アメリカはイギリスと比べると、額は低いですが、現在は少しずつ増えてきています。人生最後の社会貢献ができ、自分の意思を世の中に残すことができるということが利点とのことです。
また、現在の新型コロナ禍でも、いくつかの団体が連携し、クラウドファンディングで集めたお金で助成金プロジェクトを行っているそうです。クラウドファンディングの利点は、街頭募金よりも集金収集力が高いことです。ただ、共感がもたれず、うまくいかない例もあるそうです。世の中の人が活動の目的に共感できるようなプロジェクトを考えることや、活動を多くの人に知ってもらう工夫が必要とのことでした。
現在、社会的投資(社会的インパクト投資、インパクト投資)が注目を浴びています。社会的投資では、経済的リターンと社会的リターンの両方が求められるとのことでした。
その後、教育プログラムの説明を受け、社会貢献教育の体験ワークショップを行いました。日本ファンドレイジング協会が学校に提供する教育プログラムとして、「寄付の教室」や「社会に貢献するワークショップ」があります。上記の取り組みでは、以下の三つを目標としているそうです。
①子どもたちの自己肯定感を高める
②子どもたちの多様な価値観を認める
③子どもたちが達成感を得られる
「寄付の教室」では、どの団体にいくら寄付するかという寄付の模擬体験ができます。「社会に貢献するワークショップ」は、社会に貢献することを個人の経験に根差して考えるワークショップです。新しいかたちの授業で、「Learning by Giving」が実施されています。子どもたちが30万円を実際に寄付することを通じて、NPOや社会の課題を解決することを学ぶ実践プログラムです。子どもたちに社会の課題を解決する力を育成することや、社会課題への理解を深めることへの効果がとてもあり、責任感も感じることができます。
「寄付の教室」体験では、グループワークを通して、30万円を3つのNPO団体に対し、どの団体にいくら寄付するのか決定し発表を行いました。4つのグループに分かれ実施しましたが、どのグループも分配額が異なり、選んだ視点は費用対効果や当事者意識、切実感など様々なものがあり、意見交換が盛り上がりました。小川様からは、「人によって色々な視点の考え方がある。正解はなく、思いをもって行動することが大切」というお話をしていただきました。
休憩を挟み質疑応答を行いました。学校現場と寄付教育の関りや、新型コロナ禍のクラウドファンディングについてなど、多岐にわたる視点から様々な質問がありました。
その後には、以下二つの議題についてブレイクアウトセッションを行いました。
①将来、社会課題解決の担い手として積極的に参加する大人になってもらうとしたら、今の社会貢献教育にさらに何を加えたらいいと思いますか。
②社会貢献教育をより学校に浸透させるためにはどういった工夫があるといいかと思いますか。
社会貢献をもっと身近な教育として、取り入れること。利他的になっていくこと。子どもたちの内から湧いてくる問を、どう社会の課題に結び付けるかなどの意見が上がっていました。
今回は、「寄付」という、まだあまり学校現場に浸透していない話題ではありましたが、これからの社会問題を考えるにあたり非常に重要なものであることが分かりました。最後に小川様から、社会貢献教育はこれから発展していく余地があることと、以下3つの大切な点をお伝えいただきました。
①地域の問題に気が付いて、社会のために貢献していくような機会を子ども達に提供していくことが大切。
②寄付を身近に体験する場として学校が重要であり、学校へのアプローチの仕方に工夫をしていくことが大切。
③身近なことから自分にできること、社会に貢献して一員になれることを意識することが大切。
ご講演頂いた小川様、ご参加いただいた皆様、ありがとうございました。
文責・企業教育研究会 立川さくら