2021年度より千葉大学大学院教育学研究科の講義において、大学院と企業教育研究会(以下ACE)が連携を取ることになり、今年度も継続して協力しています。今年度から本講義は、教員としての高度な専門的職業能力の習得を目指す専門職大学院(教職大学院)の講義としても認定され、履修生の幅を拡大し実施されています。

このブログでは、本年度に実践された授業の様子(第4報・株式会社セールスフォース・ジャパン(以下Salesforce)さま編)をお届けします!

 

【講義概要】

『DX関連企業と連携した授業づくり』
DX関連企業がNPOと共同で開発して初等中等教育諸学校に提供している教育プログラムについて、実際に企業やNPOの関係者からの聞き取りも含めて学び、実際の学校で特定の学習者に向けてプログラムを修正して授業を実施するとともに、授業の実践や観察を経て授業の振り返りを行い、DX関連企業と連携した授業づくりを実践する力量の形成を目指す。


【アレンジ版授業概要】

■授業タイトル

『お困りごと解決しましょう〜トレイルブレイザー部のITソリューション〜』

 (協力企業:株式会社セールスフォース・ジャパン(以下Salesforce)

■授業数 2時間(50分授業×2回)

■対象 中学3年生

■関連教科

社会科(公民的分野)、総合的な学習の時間

■学習目標

・DXの概念について、実社会の具体的な事例に基づいて理解する。(知識・技能)

・身近な社会の課題の解決方法について多面的・多角的に考察し、ICT技術のもたらす社会への影響と関連させて表現する。(思考・判断・表現)

・現代社会に見られる課題の解決を視野に主体的に社会に関わろうとする態度を養う。(学びに向かう力、人間性)

■生徒の活動

・チュートリアルとして、DXの前段階である改善策について考える。

・本題の課題について、(DXの前提となる)理想とする未来を設定し、 改善改革案の検討。

・改善改革案を発表し、講師よりフィードバックを受ける。

 


【授業の様子】

■社員の方のお仕事紹介■

授業にご協力いただいたSalesforceの社員の方より、普段の仕事内容について紹介。

 

「私の主な仕事は、1つは、IT技術を使ってお客様の困りごとを解決する相談役。もう一つは、新しい技術について、お客様に役立つポイントや仕組みを分かりやすく説明するような仕事をしています。

 

また、私たちは『トレイルブレイザー』と呼ばれる人たちを支援しています。これは、先駆者として道を切り開き、よりよい世界を築く人たちを指します。『トレイルブレイザー』は皆さんの近くにもいて、必ずしも偉人や、企業の人ではありません。そういう人たちをSalesforceは積極的に応援し、一緒に世の中や世界を良くしていくことを考えています。」


■生徒の活動開始 ~改善とDXの違いとは~■

IT技術を用い問題解決をする部活・トレイルブレイザー部の新入部員の設定で、さっそく課題解決に向けた活動を開始。

 

Salesforceの社員の方より、解決に向けた段階として、改善とDXでは違いがあることも説明されました。

改善は、困っていることに対し手前から順番に解決策を考えていくような今までの主流な解決方法。DXはデジタルトランスフォーメーションという意味なので、『全く新しいものに変わった!』というようなものを実現できたらDX。困ったことに対して、理想とする未来像を作るところからスタートするイメージだと教えていただきました。


■【課題1】店舗の商品在庫について■

授業者である大学院生渾身の寸劇により、生徒へ『店舗におけるグミキャンディの売り切れ問題』が提示されました。第一段階としては、DXを強く意識するのではなく、困りごとの解決を第一に考えるようにとアドバイスがありました。

●活動・発表・講評

IT技術がまとめられた資料
既存のカード貼付や自由記述が可能なワーク

活動に使用したフレームワークにはIT技術例がまとめられており、それをヒントに解決策を検討しました。

 

発表で生徒の一人は、SNSを用いたお知らせを提案しました。メーリングリスト、SNS、チャットなど、知らせる方法は様々あるものの、特定の顧客だけではなく、不特定多数の方に知らせるにはSNSがより適していると考えました。

 

Salesforceの社員の方より、何が問題なのか理解し、解決を考え、使用頻度の比較などもしているところがとても良いとフィードバックしていただきました。

 

その後、社員の方から、重要な呪文「そもそも」の伝授が。

 

理想の未来を考えるヒントとして、なぜ、この人、そもそもグミを買うのか考えてみてと示唆。

例えば、理想の未来がグミを買って食べた後の嬉しさなのであれば、希望の商品が売り切れていても、店内カメラでそういう人を発見し他商品を紹介するとか、お得なクーポンとセットで別のグミを薦めることでも目的は果たせると、DXレベルの解決例を示しました。


DXをイメージしやすい魔法の呪文、『そもそも』を得た生徒達。DXレベルを目指し、課題2へ挑みます。


■【課題2】道の駅へ若い来場者を増やす■

課題2は、弊会が出張授業で用いる教材を使用しました。この教材は、課題の背景や設定が詳細に作りこまれており、さまざまな視点での検討が可能です。

生徒に示された課題は、架空の道の駅が実施するイベントに若い来場者を増やすこと。

通常は高校生向けの授業のため、大学院生とペアを組み、生徒が相談しながら活動できる体制を整えました。

 

2コマ目となったこの日の活動には、また1日目とは違うSalesforceの社員の方にご協力いただきました。「突拍子もないことでもよいので、理想の未来をまずは考えてみよう。」と促され、活動を開始しました。

●活動・発表・講評

ある生徒は、若い世代のイベントに対する評価が低いこと、最新のスケジュールが把握されていないこと、わざわざ来る意味を見出していない点を課題と考えたと発表しました。

 

また、イベントを評価している若者は、その理由としてイベント講師に直接個別に質問できたことを挙げていることから、ロボット、Webカメラ、モニターを設置し、講師と個別に質問できるシステムを構築すること。また逆に、世界中でこちらが赴くイベントを開催すれば、結果的に街に来る人も増えるのではないかと、カレンダーツールでのSNS発信を提案しました。

 

社員の方より、来る意味がないと言っている人に対し、来なくてもいい(イベントが赴く)発想はとても良いとフィードバックがありました。

 

他の生徒は、そもそも市に若者が少なく、その理由は仕事があまり無いからであると考えました。そして、この街をつくる仕事をバーチャルオフィスで実現することを提案。新しい取り組みなので、若者も集まるのではと考えました。

 

社員の方より、なぜ若者がいないのかというところを考え、未来を描けたのがとてもよかった。若者を増やせば、結果的にイベントの来場者も増えるという別の角度のアプローチ、枠をはみ出た思考ができたとフィードバックしていただきました。

 


■授業実践後のふりかえり■

 

講義担当・藤川教授より

問題解決についてわかりやすく図式化し、そこにITをうまく位置づけることもできていて良い授業だったと思います。生徒たちは非常によく考え、ワークシートにも充実した内容を書いていました。大学院生を頼っている様子もそれほどはなかったので、生徒は自分たちだけでもある程度はできるレベルだと感じました。ただ、もし生徒の活動が進まなかった場合、どう援助するかについては、仕組みとして考えていく必要があるようにも思いました。

また、時間配分について、生徒2人でも苦労していた様子でしたので、生徒がたくさんいたら収拾がつかなくなると思います。その点は精査すべきと思いました。

 

ACE明石より(講義全般に渡り学生の指導を担当)

元々3時間の授業を2時間に短縮するというのは大きなことで、その作業を通して、この授業の本質は何かということをたくさん考えながら進めてくれたのではないかと思います。元の教材はストーリーベースの教材ですが、(アレンジする際、元のストーリーと設定を変更する部分について)生徒に気にしないでと言って進めてしまうと逆に気になってしまうこともあると思います。そういう場合は、簡単な設定を作ってしまって「●●らしいよ」という程度など、簡単なストーリーを創作でも入れてしまった方がスムーズに進むこともあります。こういう考え方は、ストーリーベースの授業ではよく使われる方法ですので一参考にしてください。


【ご協力いただいたSalesforceの皆さまより】

 

【1日目にご協力いただいた社員さまより】

まずは、素材をもとにして授業を再構築したメンバーの皆さん、本当にお疲れ様でした。実際の現場でも人によって理解や解釈のブレがあるテーマをどうやってわかりやすく伝えるか、皆さんの努力が、またわずかではありますが私達のサポートが、授業を受けてくれた生徒さんの何らかの新しい気づきにつながれば嬉しいことです。機会をいただけたこと、改めて感謝です。

 

【2日目にご協力いただいた社員さまより】

貴重な機会に携わらせていただき本当にありがとうございました。自分自身はかけがえのない経験をさせていただいのですが、一方で、大学院生と中学生、どちらにも十分に価値提供できただろうか?という思いは残っています。大学院生の皆さまの意図に寄り添った支援ができていたか?遠慮をさせてしまってはいなかったか?受講した中学生はデジタルトランスフォーメーションの本質を理解してくれただろうか?彼らの記憶に残る示唆や、フィードバックを提供をすることはできていたか?また機会があれば、この問いを踏まえて取り組めればと思います。

 

【協力企業担当者:ACE山田より】

授業アレンジのために社員の方とオンラインでミーティングをしたり、会社を訪問しご相談させていただいたりとSalesforceの皆様には多大なご協力をいただきました。ありがとうございました。また、実際に高校で実施する既存の授業を見学することでDXについて大学院生も理解を深めていました。学外に出て大学院生が企業の方や学校と関わりをもつことができ、企業と連携した授業づくりを実践する力やデジタル技術の活用、またDXの状況について存分に学ぶことができていたのではないかと思います。

 

 

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