本年度より千葉大学大学院教育学研究科の「横断型授業づくり実践研究Ⅱ」の講義について、大学と企業教育研究会(以下ACE)が連携を取ることになりました。初年度の試みについて、授業の様子を紹介します。

 

■ 講義概要 ■

講義名:「横断型授業づくり実践研究Ⅱ

期間:2021年9月~2022年2月(後期・1時限分)

シラバス:教科・領域横断的な課題を扱う授業実践の開発及び実施の過程に参画することを通して、教育の方法及び技術のあり方を批判的に考察するとともに、情報機器や教材の活用を積極的に活用して新たな授業実践の開発に取り組む能力を育てる。この科目では特に、教材の開発や指導案の作成に重点を置く。

 

■ 講義目標 ■

教科・領域横断的な授業に資する教材開発の方法について理解できる。

教科・領域横断的な授業について、簡単な指導案作成ができる。

 

■ 講義内容 ■

ACEのパートナー企業の方々にご協力いただき、大学、企業、ACEとの三者連携で実施しました。

具体的には、パートナー企業が提供している出張授業を教材研究し、そこにアレンジを加えて新しい授業を作ってもらいました。学生と企業が直接やり取りをし準備を進め、集大成として千葉大学教育学部附属中学校で授業を行いました。現場体験が教育実習のみという大学院生も多いため、机上には留まらない経験を得ていただく機会になりました。

 
 
 

■ ACE協力内容 ■

ACE職員であり、同大学院博士課程にも属する明石さんが中心となり授業を担当しました。明石さんは博士課程の学生が授業を受け持つ制度であるTF(ティーチングフェロー)として、本講義を受け持っています。
 
ACEの役割として、まず協力いただけるパートナー企業を募り、学生との橋渡しをしました。また、企業と学生とのやり取りについては、明石さんが責任者としての立場で見守ることで、企業の方に安心して協力いただけるようにしています。
 
また、一部TFとしての立場も含まれますが、授業アレンジについては、職員として常日頃から授業を開発している立場を活かしアドバイスを行いました。外部とのやり取り、教具選定や情報収集については、授業準備の過程が経験できるようサポートしています。学生のみなさんがこれらの過程を経験することで、ゆくゆくは自立して授業を作ることができるようにという思いを持って関わったそうです
 
ACEは、この講義を通して学生の方々が社会との繋がりを意識し、既存の方法に捉われない新しい学びを取り入れてくれる教員、もしくは新しい学校教育に関心ある社会人となり、世に羽ばたいてくれることを期待しています。
 
 

■ 講義を通しての感想 ■

◆◆ACE担当・明石さんよりコメント(抜粋)

講義については、講義概要の説明以降は、NPO職員の立場で関わるよう意識しました。受講生とメールはTFの立場ではなくビジネス様式で連絡し、また、なるべく受講生が直接企業のとコンタクトをとる経験ができるように心掛けました。

 

社会とつながった学びの機会をつくる際、教師には実社会の情報を集めたり、学校での学びと関連づけられる点を研究したり、子どもにわかりやすい伝え方を考えたりすることが求められます。本講義の教材研究は、こうした準備の練習として重要な経験になると考えたため、私からは受講生に対して教材研究を深められそうな点をいくつか示すにとどめていました
 
授業アレンジについては、講義中心ではなく発問が工夫されているか、生徒の思考の流れに沿っているか、受講生がアレンジの方向性を見出した後は、その方向性に沿って、より実現可能な指導計画や生徒の学びやすさ・楽しさを高めるための工夫などをアドバイスするようにしました。
 
初めのうちは受講生から「授業案の理解が難しい」「どこをどうアレンジすればよいかわからない」といった声が上がっていました。けれども、自分たちなりに教材研究を深め、授業アレンジの方向性が定まると、どのグループも実現に向けてひたむきに取り組んでいました。
結果、授業当日も教師、生徒、企業の講師が上手く掛け合いながら授業を展開できたと思います。
 
本講義をきっかけに学校、企業、大学院の連携による授業づくりに興味を持つ人が増えれば、企業教育研究会が目指す「誰もが教育に貢献する社会」の実現に近づいていけるのではないかと考えているので、これからは今年度の実績をふまえて講義を改善し、継続的な取り組みにしたいです。

 

◆◆大学院生・古池さんの感想(インタビューより抜粋)

苦しい時もあったけれど、達成感のある講義でした。今までにない授業づくりが体験でき、また、企業の方のやり取りなど、そのためのスキルも身につく講義でした。
 
始めは、授業づくりに慣れていない中、アレンジをスタートすることは困難に感じました。
ただ、手取り足取り教えてもらうより、四苦八苦することでイメージしやすいアレンジに流れることなく、幅が広がったと感じています。
 
この講義を受けて、外の人(学校外の人)と授業をやってもいいんだという思いを持てるようになりました。
企業の方が積極的に前向き関わってくれたという体験は、会社の方と協力することに対する安心感を得られ、抵抗感が低くなりました。
 
今までは題材について、それを子供にどう伝えるかということしか考えていませんでしたが、企業の方々が、これを教えることにより、どう将来につなげていくのか。なぜ、その学びが必要なのかと問われ、子供の将来にまで視点を拡げることを教えていただきました。
 
学校だと、学校内で完結しがちですが、子どもは結局、社会に出ていくものなので、社会に出ていくことを見据えることが必要と具体的な体感をもって感じられました。
 
通常とは違う内容の授業を一つ作り上げる大変さも感じましたが、機会があれば、今後も企業の方とコラボなどしてみたいと感じます。
ただ、このような授業を作成するには、社会の外にも目を向けなければならず、面白い授業を作成するために世の中の動向を把握することも大切だと感じています。

 

◆◆担当教授・藤川先生より

私は、大学院の授業を担当する大学の教員であり、授業が行われる千葉大学教育学部附属中学校の校長であり、NPO法人企業教育研究会の理事長でもあります。
今回は、NPOで一緒に授業づくりをさせていただいてきた企業の皆様にご協力をいただいて、大学院生による授業を中学校で実施させていただくという貴重な企画を実施することができました。
 
千葉大学大学院教育学研究科では、附属学校と連携して、大学院生が実践的に学ぶ授業を開講しています。大学と附属学校が隣接していることを活かした取り組みです。
 
これまでの授業では大学院生は授業を観察することが中心だったのですが、今回は大学院生が数名ずつに分かれて、企業の方々と一緒に授業を企画し、実施することができました。
メールやオンライン会議で企業の方々と繰り返し相談をさせていただく経験は、学生たちにとって貴重な経験となったと思います。
 
また、千葉大学教育学部附属中学校では、発展的な内容を扱いやすい選択教科の時間を設定しており、今回の授業も選択教科の時間を活用して実践しました。
 
これからのデジタル社会のあり方に関心を持つ生徒たちが選択してくれたので、生徒たちにとっても、大学院生と企業の方が企画した授業に続けて参加することで、理解が深まり、発想が広がったことと思います。
 
附属学校でのこうした実践の成果を、多くの学校で活用していただけたらありがたいです。
 

◆◆各企業の皆様より感想です

企業さま向けアンケートより、どの企業様からも、改善点はあるものの、講義全般を通して協力した意義があったと回答いただきました。また、来年度以降の協力についても、前向きな回答をいただいています。協力企業の皆様には、ご多忙にもかかわらず、積極的にご協力いただき心より感謝します。
 
【 企業への皆様のアンケートより抜粋 】
・大学院生の新鮮な目線で授業内容を見直し実践をする様子拝見させていただいたこと、フィードバックをいただいたことが今後の活動に向けて参考になりました。アレンジ例が蓄積できたこともありがたいです。また他企業の取組も少しですが拝見することができたのがよかったです。
 
・授業後のフィードバックセッションでのご意見や、アンケート結果や大学院生のレポートを報告書にまとめてくださったことで、改めてこの授業の位置づけや意義を考えることができとても参考になりました。
 
・院生の方々が真摯に授業開発に取り組まれる姿勢を通し、企業の立場として出前授業で学校教育に携わることが出来る意義を再認識しました。
今後も学校現場に向けた弊社ソリューションを題材として授業開発を積極的に行っていきたいと言うモチベーションになりました。
 

◆◆各企業さまの大学連携講義紹介記事はこちら

◇⽇鉄ソリューションズ株式会社さま

https://k3tunnel.com/mission/009/teacher.html#case4

◇株式会社メルカリさま

https://education.mercari.com/case/2022/3/jr-chiba-u2021/

◇株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメントさま

https://www.sie.com/jp/blog/2022/02/09/guest-lectures-about-video-games/
 

■ 最後に ■

初めての試みでしたが、学生の方々にとって、たくさんの経験をしていただき、学びのある連携講義になったのではと思います。
(教員を目指す立場の)学生の皆さんが、自分でも授業を作ることができる!やってみたい!という思いを持っていただけたのなら、こんなに嬉しいことはありません。
 
ACEは、来年度以降も連携授業に協力する予定です。
 
連携講義への協力を通して、私たちが目指す「授業を受ける子どもたちにとって教育効果が高い授業を届ける」、「教師だけが子どもたちの教育に関わるのではなく、企業で働く人や大学生も教育に関わり、より多くの人が教育に関われる」ことに繋がればと考えています。

 企業教育研究会(以下、ACE)では、アクセンチュア株式会社と連携し、配布型教材「ひな社長の挑戦」を新たに開発しています。この教材は、ACEとアクセンチュア株式会社が提供している既存の出張授業「考え、議論する道徳・キャリア教育」の世界観に沿った内容になっています。既存の出張授業では、生徒がアニメーション教材のストーリーの中で架空の会社「天漁社」の社員となり、会社の経営課題の解決策を考え、議論します。新教材では「天漁社」が起業される時のストーリーに沿って、生徒が社会課題の発見、諸資料を活用した探究活動、解決策の考案までの一連の過程を体験し、今後の社会において求められる「現実的な課題を設定し、自ら思考して実行に移すことが出来る姿勢と能力・技能」を学びます。

 体験セミナーでは、「ひな社長の挑戦」を多くの学校で活用していただくため、まず最新の社会状況と、今後の社会で求められる能力・技能について先生方に講演を行い、その後、実際に教材の一部を体験していただく機会を設けました。

セミナー前半では、アクセンチュア株式会社の藤田学さまより、デジタル技術の発展や働き方の多様化、インクルージョン&ダイバーシティの促進といった日本の社会の変化と、それに伴い必要とされる次世代型人材についてのお話がありました。参加者の先生方からは、学校の中からでは気づきづらい実社会の最新状況を知ることができたという感想が寄せられました。その後、ACEの講師が教材の一部を用いた模擬授業を行い、先生方に授業を体験していただきました。模擬授業後のディスカッションでは、実際に先生方が教材を用いて授業を行う場面を想定した改善点や、より生徒が学びやすくなるための様々な立てが提案されました。

 今後は、セミナーで得た知見を活かして教材を改修し、学校への普及に向けて取り組んで参ります。

 ご講演いただいた藤田さま、参加者の皆さま、ありがとうございました。

2021年12月18日(土)に第147回千葉授業づくり研究会「子どもの自立的な職業観形成を促す、新しいキャリア教育のあり方とは!?」を開催しました。前回同様、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止のため、オンライン会議ツールZoomを用いて実施しました。

今回の研究会では、アクセンチュア株式会社のコーポレートシチズンシップ(企業市民)活動にて次世代の人材育成プログラムを推進する藤井篤之さまにご講演いただきました。

研究会前半は、デジタルテクノロジーの発展や、社会で求められる人材の変化について藤井さまにご講演いただきました。講演ではデザインシンキングによる実社会の課題解決事例や、サービスデザインのプロセスを学ぶ教育プログラムの事例をもとに、次世代に必要なスキルとキャリア形成について説明いただきました。後半は、「多様な働き方・生き方の中から自立的に自らのキャリアを形成していく力を育む」キャリア教育のあり方について、参加者の皆様と議論しました。

 

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【講演概要】

 

・アクセンチュア株式会社の概要

「テクノロジーと人間の創意工夫で、まだ見ぬ未来を実現する」という企業コンセプトや、変革を起こすための道筋の描き方、プロジェクトに携わる様々な業種、国内外にまたがる幅広い取り組み等についてお話いただきました。学校では触れることが難しい企業の最先端の取り組みを知り、参加者は新鮮な衝撃を受けていました。

 

・ビジネス環境の変化と日本の位置

昨今のビジネスでは「将来創出されるであろう価値(FV)」の重要性が高まっていることや、世界では持続可能性による新しい競争ルールができていること。一方で、日本企業ではFVの伸び悩みによる企業価値の伸び悩みの問題などについてお話しいただきました。日本で起業が少ない原因として「失敗に対する危惧」や「身近に起業家がいない」こと、「学校教育」などが指摘されているデータから、キャリア教育の問題にも言及されました。

 

・デジタルテクノロジーの発展

AIや、オンライン上のバーチャル空間の活用について、JALにおけるAIコンシェルジュや、TIKTOKのAI技術、ライブコマース市場の成長、バーチャル空間におけるコンサートなど、幅広いジャンルにおけるデジタルテクノロジーの活用事例をご提示いただきました。参加者はビジネス界で活用される事例から、情報化社会の最前線に触れることができました。

・求める・求められる人材の変化

AIの進化に伴う求められる人材の変化や、近年の価値観の変化に応じた働き方の多様化についてお話いただきました。藤井さまによれば、今後の社会では定型的な仕事はAIに代替され、AIの活用者が不足すると推定され、AIに代替可能な仕事とそうでない仕事の間の賃金格差が拡大する可能性があるそうです。このような社会では人間とAIの役割分担を意識した業務再設計が重要になると藤井さまはおっしゃっていました。また、NETFLIXの自由なカルチャーの事例から、参加者は働き方の多様化について具体的に知ることができました。

 

・次世代に必要なスキルとキャリア形成とは

今後の社会変化の中では「現実的な課題を設定し、自ら思考して実行に移すことが出来る姿勢と能力・技能」を持った次世代型人材が求められることを指摘した上で、課題解決の際の具体的な思考プロセスとしてサービスデザインアプローチについて事例を交えて紹介していただきました。また、中高生を対象とした教育プログラムの事例についても提示していただき、今後のキャリア教育へのヒントをいただきました。

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【質疑応答、意見交換】

 

 ビジネス環境の変化と日本の位置については、参加者から日本では「「失敗しないこと」を前提に動く人が多い」のはなぜかという質問が挙げられました。藤井さまからは、日本では「失敗しないこと」が重視される傾向があることや、「自分の考えを否定されることをネガティブに捉えがち」で「空気を読むことが重視される」文化であることが理由として示されました。また、藤井さまによると、グローバルコミュニケーションにおいて、空気を読むことに代表される日本人の特徴は否定的な見方をされるのではなく、尊重されるようになってきているそうです。学校ではグローバル社会で働くことを想定し、自分の意見をはっきり表現する力を育成することが重視されてきました。一方で、ビジネス界では様々な国の文化を互いに意識し合う動きが見られるということについて、参加者は新しい気づきを得ることができました。また、「どのような手段で日本は稼ぐ国を目指すべきか」という質問に対しては、藤井さまから「製造業は日本の強みであり続ける必要がある。また、日本はタブーが少なく色々なコンテンツを作ることができる。日本で生まれたコンテンツを世界に発信するプラットフォームができれば、コンテンツも産業の強みに出来る」というご意見をいただきました。また、藤井さまは、リアルとデジタルの組み合わせによって価値を生むチャンスも、重視していく必要があると指摘していました。

 デジタルテクノロジーの発展については、学校の先生方からAI活用の具体事例が知れて良かったという意見が挙がり、関心の高さが伺えました。

 求める・求められる人材の変化については、企業における社員育成のプロセスや、自己肯定感を高める工夫についての質問が挙がり、企業の教育プログラムから学校のキャリア教育へのヒントを得ることができました。また、「失敗を恐れない姿勢を育成することと、成功体験の機会をつくることの兼ね合いをどのように取れば良いか」という質問に対しては、藤井さまから「大人のサポートの枠組みを決め、子どもに成功させる部分と、失敗しても良いから子どもに任せる部分をつくる」という方法が提案されました。他にも「論理的思考を養うためにはどんな取り組みが良いと思いますか」という質問に対しては、「数学だけでなく、社会科や国語の時間で問いを分解していく活動が重要だと考えている。社会科や国語の裏にあるロジック、例えば社会の現象を数字に落としていくことでロジカルに分析することを学ぶ方法ができるのではないか」というアドバイスをいただくことができました。

 次世代に必要なスキルとキャリア教育については、次世代に求められるスキルと文部科学省が掲げる「基礎的・汎用的能力」との関連について議論を行いました。

 

今回の参加者は学校の教員が多く、社会の最新状況への関心の高さが窺えました。今回の研究会が先生方にとって企業の最先端の取り組みを知り、今後のキャリア教育の方向性を考えるきっかけとなれば幸いです。

ご講演いただきました藤井さま、ご参加いただきました皆さま、ありがとうございました。

 

文責・企業教育研究会 明石萌子

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