6月17日(土)20周年記念特別イベント 日本の教育をアップデートする!! 7回連続トークセッション!!
SESSION3 いじめ が開催され、当日は学校の先生、学生、企業や官庁、自治体にご勤務の方など62名の方々にご参加いただき盛況のうちに終了いたしました。
みな、「いじめをなくしたい」と思っている。
でも、いじめ問題はなくならない。これは一体、なぜなのでしょうか?
『いじめ対策の常識を変える』との意気込みで開催した本イベント。解決の糸口は?以下、当日の様子を詳しくレポートしています。
※各登壇者のプロフィールはコチラ
本年度7回企画している20周年記念イベントも、3回目を迎えました。
繰り返しになりますが、2003年NPO設立時より、毎月いろいろな方をゲストにお招きし、授業づくりに役立つ知見を学ぶ研究会を実施しています。
そして、本年度は日本の教育をアップデートする‼というテーマを掲げ、もっと広く多くの方に関わっていただき、今までのやり方と違うところに向かうようなきっかけを作れないかと思い、規模を拡大してお届けしています。
今回のテーマはいじめです。この問題は授業作りに直接関係しないように思われるかもしれませんが、授業の中で子どもたちがどのように処遇されるかは、いじめにも大きく関わりますし、当然、いじめを防止するような授業も作っていかなければなりません。
私自身も様々な自治体などでいじめの調査に入らせていただいたり、委員会をしたり、我々の問題意識として、もっと何かしたいという意識が強くあります。
なかなか進まないいじめ対策に忸怩たる思いを抱きながら、実践的なあるいは実効性のある取り組みができないかと、いろいろな提言もしています。
本日は、産官学それぞれの立場からご登壇いただき、いじめ対策のアップデートとして、「どうしたらできるのか」ということを、皆さんと一緒に考える機会にしたい。
いじめ防止対策推進法が成立し、今年で10年になりますが、まだまだ進展していない現状があります。この節目の時期によい議論をし、それが各地での対策に繋がることを願っています。
私は発達心理学を専門に研究しています。
いじめ問題は、多くの場合は臨床心理学や、いわゆるカウンセリングを専門とされている先生方が関わることが多くなりますが、臨床心理学では、いじめをする人たちの共感性を高める、あるいは被害者が助けてと言えるような足りないスキルを補っていく…。というようなアプローチが多くなります。
一方、私達は(発達心理学では)、いじめの加害者も被害者も、その能力を持った存在だと考えています。発達とは、何かできなかったことができるようになる過程を指します。例えば、歩けなかった子が歩けるようになったり、他人の気持ちを考えられるようになったり、難しい問題が解けるようになることです。
とは言え、発達は常にポジティブなものではなく、問題も引き起こすことがあります。
例えば、9歳から10歳になると、相手の気持ちを理解する能力ができます。相手の気持ちを考えられることは、とても良いことではと思う方が多いと思いますが、逆に考えると、この能力が悪用されると、わざわざ相手が嫌がることを考えられるようになり、この時期にいじめが深刻化してきて、自殺なんかも出てき始めます。
少しショッキングかもしれませんが、発達することによって自殺も可能になるということです。
いじめは4つのフェーズに分けて考えるべきなのではと私たちの研究室では考えています。
それは、発生、深刻化、解消、予後の4つです。
その中でも、予後が重要で、解消したらみな、めでたし、めでたしとなりがちですが、被害者はその後もずっと苦しみ続けて、50 歳時点のうつ発症率や自殺傾向が2倍以上高くなるという研究もあり、結構後を引くことがあります。ですので、いじめが発生してはいけないとすると、(教師も子どもも)隠したくなるかもしれませんので、起きることは仕方がないけれど、深刻化を防ぐということを重視しています。
では、どういうときにいじめが深刻化し、頻度の高いいじめに移行していくかという視点で見ると、今のところ、私たちの研究では7つのリスクファクターということを見つけています。
特に被害経験がある者が加害者になっていくというところは、(4つのフェーズの)予後がきちんとケアされていないことの結果ではないかと感じるところもあります。したがって、こういうところは、今後の研究で、きちんと見ていきたいと思います。
(1)いじめに遭っている子どもの割合
私達の研究室は、(調査の際)過去3ヶ月のいじめの被害の実態を小4〜中3の子どもたちに聞きます。
調査結果では、一番多い学年で50%弱ぐらいの子たちが過去3ヶ月の間にいじめに遭っていると答え、その割合は学年が上がるごとに減っていきます。しかしながら、より深刻ないじめである「週に何度も(いじめに遭っている)」と答えた子たちは学年で差がなく、大体1割前後と出ています。
今まで何回も調査をとっていますけれども、深刻な事例は大体どの学年でも1割前後ぐらいいるってことがわかっています。
(2)加害者の特徴
加害者の特徴は、調査の中で毎回繰り返し同じ結果が出ています。
簡単に言うと、加害者は教師や親との関係がよくなく、教師との接触頻度が低いです。
この結果から加害者がどういう生徒と考えると、もしかすると大人から目や手をかけかけてもらってないお子さんなのかもしれないと考えられます。したがって、いじめに介入する際、加害者が判明している場合は、教師が加害者との関わりの頻度を上げることが具体的な対応策になっていきます。
(3)いじめが起きやすい場所
どこで被害に遭うかは、先生がいない教室、また学校外でも被害に遭っています。時間帯は休み時間と放課後が多い。例えば、この調査校においては、チームで対応し休み時間の教室で、なるべく先生がいない時間を作らないようにしてもらうことを提案しました。
(1)介入は一律に
いじめが問題化する時は法律で定められている組織的対応がなされてないことが多く、例えば、あるクラスだと対応してもらえるのに、別のクラスでは対応してもらえないといったようなことが起きてきます。
そのため,個々の教師の能力に依存しない、介入の基準を一律にしておくことはとても大切と考えています。さらに忙しい学校の中で現場の負担を増やさないことも大事なので、どうすれば可能かを考え、アプリの開発もしています。
(2)アプリの開発
アプリでは、先述の7つのリスクファクターの内、以下3つのファクターを使用しています。
①先生に一度相談しているのに解決していない →(子どもの絶望感が深まる。)
②被害者が教師との関係が良くないとき →(先生の近くに居ないので、いじめられる時間が増える。)
③関係性攻撃(仲間はずれ、陰口)が行われているとき →(暴力は分かりやすく介入されやすいが、関係性のいじめは軽く見られやすい。しかし、仲間外れや無視は子どもにとってより辛い、しんどい面がある。)
上記指標について問題があれば黄色と赤で警告し、基本的に、その学校の教師全員が、手を入れる必要があることが視覚的に一目で認識、共有できるように作成しています。
(3)アプリの効果
(私たちの事例では)データを共有し、担任の先生だけではなく、校長先生にも知ってもらい組織で対応すると、アラートの問題に対し、平均で50%の(いじめ)解消率です。また、(関わりの頻度を上げるため)声掛けをお願いした場合は、解消率上昇と教師接触頻度には正の関連が見られました。
発達した能力の影響は、子どもたちがどういう環境に置かれているかがとても重要になってきます。
例えば自分が誰かをいじめないと、誰も助けてくれない、大人は信用できない、先生もあてにならないような状況に置かれ、周りもいじめをしているのを見ると、誰かをいじめる方向に(能力を)使おうと思うかもしれません。
逆に必ず先生に相談したら助けてくれる、良いことをしたらクラスで認められる雰囲気があれば、それを良い方向に使う人たちもいると思います。
私たちがお願いしているのは、特別なプログラムを入れるようなことではなく、普段先生方が実施していることを再確認していただき、少し増やしていただくことです。できれば加害者の子とか被害者の子に会ったら、違うクラスの先生だったとしても声をかけてほしいということをお願いしています。
それからこれらの取組は、他の問題にも波及効果があると思っています。(いじめは)不登校、欠席行動と強く関連し、特に心理的苦痛が関係していると言われています。なので、いじめ対策をすることは、当たり前の話ですが、不登校の問題とかにも直結してくる問題だと思います。
私がいじめ問題に取り組んでいるのは、一言で言うと、自分がいじめ被害者だったからです。
小学校5年生ぐらいの頃からいじめを受けるようになりました。猫背や体が小さいことなどからからかわれ始め、中学校でも制服を切られたり、小中でメンバーが変わらずつらいこともあったりしたのですけど、やっぱりそういう経験があって、苦しいときほど相談できないというのがまず率直にありました。両親に心配かけたくないから黙っていた方がいい、そんな気持ちや、大ごとにしたくないから先生に言わないとか…。
ただ、今の活動で一番自分に繋がっているのは、何も自分は言わなかったけど、助けてくれた先生がいたことです。1人でも大切に思ってくれる人がいたら生きていこうってやっぱり思えます。そういう感覚があって、今の苦しんでいる子どもたちにも誰かが手を差し伸べられるような当たり前がどんどん作られていけば、きっと社会は変わると思っています。
今でも子どもが自死をする事案はありますし、もっともっと社会を変えていかなければならないと思っています。苦しい時に声を上げてもいい、安心して相談できる、そんな当たり前の環境を作ろうと思っています。
私は元々この千葉大学の卒業生で、藤川先生のもとで学びました。大学で学んだことも含めて、社会にお返しできればなと思って今日まで活動してきました。自分にも他人にも手を差し伸べる社会を作っていこうというのが、今自分で考えている取り組みです。
私は、1982年12月に富山県で生まれ、千葉大学教育学部、それから教育学研究科を修了いたしました。その後民間の会社リクルートに勤めたのですが、2015年に退職し、その後NPO法人企業教育研究会の活動に関わりながら、起業(スタンドバイ株式会社)もしました。現在約7年間、いじめ問題の活動を続けています。
「助けたいとき、助けてほしいとき、いつでもどこでも報告・相談できる環境をつくる」、これがスタンドバイ株式会社のビジョンで、実施していることは主に3つです。一つは、いじめ防止事業の開発と実践、二つ目はStandbyという相談アプリの開発提供、三つ目は、子どもの日々のリスクを把握するシャボテンログというアプリの開発です。
私は教育が一番大事だと思っています。当初からシステムで全て解決することは難しいと考えていました。
教材『私たちの選択肢』は、いじめ等の防止に寄与することを目指し、千葉大学の藤川先生、敬愛大学の阿部先生、あと柏市教育委員会と、産官学で開発しました。こちらは、傍観者、いわゆるいじめを見た人が行動できるような授業として、ただ単純に答えが出るものではなく、授業を受ける子どもの選択肢によって結果が変わるような工夫をしています。こちらは、今年度は400回ほど、オンラインオフラインで授業をしています。後は無償で配布し様々な場で使っていただいています。
また、「いじめや人権、話し合おう、変えていこう。Changers(チェンジャーズ)」プロジェクトからも、もっと広く多様性のことなど、対話を生む教材として現在10テーマの教材が無料公開されています。
◆『私たちの選択肢』◆
無償配布教材はコチラ
https://standby-corp.jp/about/forschool/watashitachinosentakushi/
◆『Changers(チェンジャーズ)』◆
無償配布教材はコチラ
https://wearechangers.jp/index.php
児童生徒向けの「Standbyアプリ」は、匿名で名前を明かさず、子どもが信頼できる大人に相談できる報告・相談プラットフォームです。これは、もともとアメリカで広がっていたもので、初代代理店として日本版をリリースしました。
これは、誰かを助けたいと思っている子どもが、信頼できるところに相談できないか、教育委員会もそうかもしれないですし外部のカウンセリングのチームに相談する、そういう体制を作ろうと思い取り組んできました。
2022年度からは、自社でシステム開発・運用を開始し、日本の子どもたちがより相談しやすくなりました。現在は1,072校に使っていただいています。
導入自体も増えていますが、2022年度は前年度比約4倍の8,000件ほどの相談があり、子どもたちが相談しやすい環境ができてきたと感じています。
「Standbyアプリ」 https://standby-corp.jp/products/appforschool/
ここまでの活動では、相談できる子が相談できるシステムを作っていました。しかし、中には相談できない子もいます。
そういう子どもをどう救えるか、あるいはいじめアンケート等で子どもが必死に答えてくれたものを、もっと受け止められないかと思い、毎日健康観察をする機能と、アンケートの回答から、その子どものリスクがわかるような『シャボテンログ』というアプリを開発しています。こちらは、加藤先生と現在一緒に取り組んでいます。
みな、いじめは駄目ともうわかっている。わかっている前提でどうするかがやはり大事だと思います。わかっているけどやっちゃう。ノリとか空気でついやっちゃう。そういう集団の状況をどう変えていけるか、それはやはり対話しかないかなと思っています。
手を差し伸べられた経験はきっと大人になったときに、今度手を差し伸べる経験にその人が変えると思っています。そんなきっかけを、いろんな方に力を借りて、システムや、授業を作るなどで作っていこうと思っています
いじめ防止対策については、いじめ防止対策推進法のもとでシステムが構築され、その中で教育行政や、学校現場の授業の中、教室の学級経営の中で動いていくという点は、こども家庭庁ができた後も変わってはいません。
その中で、子どもの意見に耳を傾け、できる限り子どもの参画を得ながら、どうすれば子どもにとって最善の利益を追求できるか、四六時中考える大臣を1人置いたというところがみそだと私は思っています。
その中で、こども家庭庁ができることは、一つは普通の役所のように、子どもの育ちをどうやって保障するか、子どもの権利利益の擁護をどうやって保障するか、という観点、そして、もう一つは司令塔です。
司令塔は、自分たちが直接触れる制度ではないですが、文部科学省も含めて、こどもまんなか社会に向かっていくにはどうしたらいいのかという意味で、少しずつ政策誘導をかけていくというアプローチができます。
こども家庭庁としての基本的な取り組みの柱として、いじめ防止対策、こう変わっていきますというところは、ちょうど私が担当したホームページにまとめてありますので、より詳しく知りたい方はそこをご覧いただければと思います。
https://www.cfa.go.jp/policies/ijime-boushi/
こども家庭庁におけるいじめ防止対策については、大きく3つの柱でやっています。
(1)学校外からのアプローチによるいじめ解消の仕組みづくり
一つは、学校を通じたアプローチは前提とした上で、学校外からのアプローチによってどうやっていじめ解消の仕組み作りができるかの推進です。具体的には、学校外からのアプローチの開発実証を行っています。これはまだ全国制度にするという話ではなくて、そういうことを見据えながら、いくつかモデル地域にご協力をいただいて、一緒にやっている形です。
先ほどいじめが重大化する要因として、家庭の親と子供の関係が悪いケースというようなお話もありましたが、こういうところでは福祉の領域と重なってくるところがあります。そのような意味で、首長部局と教育委員会がよりタッグを組みやすくなるような、ヒントを得られるような事例を作っていきたいと考えています。
(2)第三者性確保による重大ないじめ事案への対応強化
より重大な事態と、もっと早くから解消していく、いわゆる多く起きるいじめ、二つに分け検討しています。
そのうち特に重大ないじめの調査委員会など、第三者性の確保をいかにしていくか。
いじめの重大事態調査は、多くのところでは適切に運営していただいていますが、専門家が近くにいない場合や、対応が初めての場合など迅速にできないというような課題がありました。ですので、そこに対し、国が助言できるようにしました。
本来、いじめの重大事態調査は、裁判所ではなく、より効果的に解決し、先ほどの加藤先生の話で言えば、予後までケアできるか、しっかり専門家が入って議論するという機能で、迅速性が大事です。そこを解決しようとしている試みです。
(3)こども政策の司令塔としての政府全体の体制づくり
三つ目が、先ほどお伝えしたこども政策の司令塔として、文部科学省も動かしていくという点です。
実はいじめの問題は教育、学校の問題だということで、これまで関係省庁の連絡会議は作られていませんでした。今回、こども家庭庁と文部科学省が共同議長になった上で、内閣府、警察庁、総務省、法務省、厚生労働省と経済産業省のそれぞれ局長級が集まる会議を立ち上げました。こういうふうに、政府の中での優先順位を上げていく仕掛けが必要との試みです。
ここ最近、重大な事態に関する警察との連携の話に関する新しい事務連絡を、文部科学省が出したり、いじめの重大事態の国への報告ということで動き出したりしています。この辺りは、こども家庭庁ができ、文科省と一緒に議論する中で、新しく生まれた動きと思っています。
私も中学の頃、一応今の定義で言えば、いじめに該当するであろうという経験もありますし、自分の気づかないところで誰かを傷つけてしまっていたのではないかということも振り返りながら、反省したりするわけですけれども、いじめはどこでも起きうるという前提で考えております。
ですが、それが必ず解決でき、長期化重大化させない社会をどうやって作っていくか、こども家庭庁の立場で何ができるか。実際の子どもたちの状況を見ると、大きな方向転換、トレンドの転換には繋がっていないと感じ、着任当時は既存の延長ではない発想をしなくてはと考えていました。
◆いじめのブラックボックス・シンキング
航空機の安全は保障されている印象があると思いますが、それは人命に関わるような事故のブラックボックスを必ず回収し、知見を仕組みのアップデートに繋げる仕掛けがあったからです。
いじめについても、いじめの重大事態調査という仕組みはありますが、それが大きな政策に実は繋がっていなかったということがありました。年間、最新の令和3年のデータだと約700件、いじめの重大事態調査あり調査報告書もありますが、実は国はそれを集めてはいなかったのです。国として集めていなかったのは、素朴に疑問でした。しかし、法の要請としては、それを国に集約することはなく、あくまでも地方の中でやっていくという形でした。
報告書の提供はまだ集まり始めたばかりでこれからどうするか議論するフェーズですが、まず毎年データを集め分析し、何とか現状に風穴が開けられないかと考えています。このような発想でこども家庭庁と、文部科学省とも一緒に取り組んでいます。
slidoを使用して参加者の感想や意見も拾いながら、質問については参加者の挙手制でパネルディスカッションを実施しました。一部抜粋要約してご紹介します。(敬称略)
〇冒頭、藤川教授より
(藤川)それぞれ最新の内容として、加藤先生にはこれまでのいじめ対策に対して足りなかったことを指摘していただき、谷山さんには、新教材とかアプリ等で解決を図っている話をしていただきました。野﨑さんには、こども家庭庁がいじめにどう関わるか、報道では伝わりきれてないのではと思いますが、今日改めて重大事態の報告書を政府に出すのかというところが腹落ちしたのではないかと思います。
話を聞いて改めて、これまでできなかったことを進めようという気持ちになっていただいているのではと思います。
〇いじめはなぜなくならないのか
(藤川)登壇者のみなさま、いじめ発生を発生させないというよりは、深刻化させないという立場かと思いますが、敢えて、なぜかということについて発言をお願いします。
(加藤)人間の本能みたいな言い方をする人もいますが、3ヶ月で1回以上のいじめを受けているという児童生徒たちの割合をみると、小4が一番多くて、中3に向けて学年を追うごとに下がってきます。つまり、発達的に見ると、やはり学年が低く、未成熟な段階の子どもたちが集まってくれば、多少のいさかい(≒いじめ)が起きることは仕方がないのかなと思います。一方、深刻ないじめは、どの学年でも1割程度ですので、したがって、これは、発達の問題ではなく、おそらく何か学校の構造的な問題である可能性が大きい。したがって、軽微ないじめを深刻化させない、そして、深刻化したこの1割のいじめをどう減らすかが重要と考え、研究しています。
(谷山)非常に難しい問題と思います。いじめの定義は、善意であっても相手が傷ついたらそれはいじめになりますので、ある一定程度の人間関係があれば起こり得るものだと思います。一方で、小中に比べ、大学になってくるとそういうことが減ってくる気がします。それは、例えば居場所が大学の場合は、バイトもあれば、サークルもあれば、授業もあればと、風通しがいい状態があったりするので起きにくいかなと感じます。中学校は、固定化された人間関係が、ノリや空気など、いい方向にも悪い方向にも働くと思います。
(野﨑)どのように問いを立て、政策に優先的に反映させるかは重要。認知件数は、国が積極認知に方針を変え増えているが、子どもの内面に着目したとき、重大化するリスクが高いものを拾いきれるのかというと、まだ実は足りないのではと感じています。いじめゼロを掲げるか、見逃しゼロを掲げるかで、スタンスの違いもあると思いますが、個人的にはいかに見逃しゼロでやっていくのかが大事だと考えています。いじめがなくならないのはなぜ?という問いに戻ると、深刻化させないという問いにすることが大切かと考えています。
(藤川)昨年度まで付属中学校で校長もしていましたが、人間が一緒にいて関われば、結果的にどちらかが苦痛を覚えることは避けがたいと感じます。従って、いじめゼロを目指すより、見逃さず重大化させないということに重きを置く必要があるだろうと思います。
〇加害者をもっと厳罰化すべきでは。
(加藤)加害者を罰するとか、成長させるというのは、いじめ被害を防いだ、次の話で、まずは被害者が被害に逢わないことを実現することが、何よりも優先して、すべきこととして考えています。
(野﨑)犯罪行為は別にして、何か加害者の人格ごと晒すようなトーンの打ち出し方は、結局その子も発達の過程にあるので、少し違うと思っています。これは日本になじまない感覚かもしれないですが、人格と行為を別で切り分けて考えながら、どうすればそのトラブルを解決するより良い行為に繋がっていくかという発想で議論されることが大事かと思っています。
〇教育現場で、『いじめ』という言葉を利用しているのではと思うこともある。距離を取って関係を築こうとしても、相手に無視されたと言われてしまうとか、お互い様だよねという場面でも『いじめ』と言ったもの勝ちみたいな風潮を感じることもあります。
(野﨑)それは、結構起きていることだろうと思い聞いていました。とある学校で、教頭先生が「いじめにつながり得る行為だよ」という言葉を常に使うようにしていると仰っていて、実際それらの事案は、報告上はいじめとしてカウントされています。国の責任もあると思いますが、いじめの定義の在り方について、保護者等の理解など、現場レベルに追いついていない状況と感じます。
(加藤)綺麗ごとを言うようですが、それでもやっぱり、その子が嫌な思いを持ってしまったという事実は受け止めてあげて欲しい。それを通して、被害者側には、先生に言えば対応してもらえた、自分は守られたという思いを持ってほしい。
〇子ども同士が解決していても、保護者が出てくることもあるのですが。
(加藤)そこはスクールカウンセラーの出番なのではないかと思います。先生は、子どものことはとても上手に対応下さるので。特に被害にあった子どもの保護者は、その怒りや悔しさをどこにぶつけたらいいのかということがあります。言葉が正しいかわからないですが、たとえいじめが解消したとしても、その怒りや悔しさを鎮めるための「鎮魂の儀式」が必要と感じます。したがって、その時、第三者として保護者の思いをスクールカウンセラーが聞くことが有効だと思います。
〇グループ間のいじめについて。
(加藤)スクールカーストの問題も含んでいる質問と思いますが、スクールカースト間(グループ対グループ)ではなく、グループ内でのいじめの方が多いという研究報告もあります。且つ、スクールカーストでいうと、いわゆる一番上の第一グループで起きていることが多いようです。
〇加害者の厳罰化ではなく、被害者が強くならなければならないという論調もあるが、どう感じるか。
(加藤)とても大事な指摘と思っています。心理学の研究で多くされている、被害者の援助要請スキルを上げるという研究がよくあります。私は、被害者をトレーニングすることに違和感があります。なぜ、苦しい思いをしている被害者がさらに努力をしなければならないのか。そこには犯罪被害者が犯罪に遭わないように護身術を習いましょうといわれているような違和感があります(本来であるなら、被害者の努力に依存せず、被害に遭わないように守られるべきです)。できるのであれば、被害者が努力しなくても、たとえそういうスキルが弱い生徒であっても、先生たちが上手く対応してくれ、守れるような学校の環境・仕組み作りを考えていきたいと思います。
(たくさんのご意見、ご感想をいただきました。一部抜粋でご紹介します。)
【イベント中slidoより】
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【感想(アンケートより)】
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