2021年度より千葉大学大学院教育学研究科の講義において、大学院と企業教育研究会(以下ACE)が連携を取ることになり、今年度も継続して協力しています。今年度から本講義は、教員としての高度な専門的職業能力の習得を目指す専門職大学院(教職大学院)の講義としても認定され、履修生の幅を拡大し実施されています。

このブログでは、本年度に実践された授業の様子(第2報・日鉄ソリューションズ株式会社(以下NSSOL)さま編)をお届けします!

  

【講義概要】

『DX関連企業と連携した授業づくり』
DX関連企業がNPOと共同で開発して初等中等教育諸学校に提供している教育プログラムについて、実際に企業やNPOの関係者からの聞き取りも含めて学び、実際の学校で特定の学習者に向けてプログラムを修正して授業を実施するとともに、授業の実践や観察を経て授業の振り返りを行い、DX関連企業と連携した授業づくりを実践する力量の形成を目指す。


【アレンジ版授業概要】

■授業タイトル 『データをめぐる謎を探れ!』

(協力企業:日鉄ソリューションズ株式会社(NSSOL))
■授業数 2時間(50分授業×2回)
■対象 中学3年生
■関連教科
数学、社会、プログラミング教育
■学習目標
・様々な代表値(最小値、最頻値、中央値、平均値)やヒストグラムに着目し、それらをプログラミングによって算出することを通して、根拠をもって結論を選ぶことができる。
・データ分析は身の回りのさまざまな場面で活用されていることを知り、目的に応じて適切に行うことが重要であることを理解した上で、活用することができる。
・コンピュータを使うことで、効率良くデータ分析をすることができることを理解する。
■生徒の活動
・水泳選手の記録を事例に、K3Tunnelを用いデータ分析の上、代表値について自分なりの根拠をもって採用する値を決める。
・洋食店の事例を用い、どのような視点でデータ分析をするかグループにて話し合い、K3Tunnelを用いたデータ分析の上、理由と共に新メニュー開発のアドバイスを検討する。

 


【授業の様子】

■NSSOL会社紹介■

NSSOLの今野さんより会社紹介。

 

NSSOLは日鉄ソリューションズの名の通り製鉄所がルーツ。製鉄所は古くからコンピュータを用い、インターネットが一般的になる90年代後半より30年も前の昭和43年から、24時間365日システムが稼働しています。そして現在は、製鉄だけでなく、いろいろな業界で仕事をしています。

 

今日の学習で用いるK3Tunnel(ケイサントンネル)はプログラミング学習サイトです。仕事としてITを活用し課題を解決している会社だからこそできる学習コンテンツがあるのではと開発されました。学習コンテンツの提供は、全ての人が創造的にITの力を生かすことを目指し、ITプロフェッショナルと世の中をつなぐぞ!と、大きなビジョンを持ち取り組んでいます。


■データ分析活動① 水泳代表選手の選定■

 

水泳選手のタイムについて、誰が一番速いのか決める際、最小値、最頻値、中央値、平均値のどれを採用するかにより結果が変わることを学びました。その後、新たなデータを用いて、次回大会の代表選手を選ぶ活動を行いました。

 

代表選手の選択はさらに大きな大会に出るための上位入賞を目指す設定のため、必ずしも優勝を狙うのではなく様々な判断を取り得ます。

 

分析にあたってはNSSOLが提供するK3Tunnelを使いました。生徒からデータの時系列(タイムの計測タイミング)について確認する場面もあり、こちらの想定以上の視点で分析を試みている様子でした‼

 

今野さんより、ベストタイムの頻度が高い(当日もベストタイムを出す確率が高い)選手など、また違った目線での分析ポイントについてフィードバックがありました。


■データ分析活動② レストランメニューの開発アドバイス■

 

次に、大学院生が独自に用意した設定とデータを用いて、新メニューの開発アドバイスを行いました。こちらもK3Tunnelで分析を行い、その結果を踏まえて新メニューを提案しました。

 

あるグループは、夜の来客の単価平均とイベント時の売り上げの伸びを根拠に、イベント時であれば来客が見込めるとして、クリスマス向けに温かいビーフシチューを盛り込んだ15,000円のコース料理を提案しました。

活動を通し、膨大なデータを眺めるだけでは難しいものの、コンピュータを上手く使うことで、効率よく状況分析ができることを学びました。

 

今野さんから、生徒が体験した活動はマーケティングの仕事であること。本当のマーケターは代表値そのもので判断するだけではなく、ある指標について数値を改善するための方策を考えていたりもするので、そういう視点でも目を光らせてもらうとよいのではとアドバイスいただきました。


■授業実践後のふりかえり■

 

講義担当・藤川教授より

社会と数学の横断型授業でした。活動時間が少なかったという授業者の反省もありましたが、限られた時間の中で十分な活動時間を確保できないことはあるが、それは必ずしもマイナスではなく、全体として授業が最適にできていればよいと思います。コンピュータによるデータ処理が容易になった結果、我々の教材作りは、架空データを作ることから必要になってくる。場合によっては、データを作る段階から生徒に実施させることもあり得ると思います。データ処理は慣れないと時間がかかるため、授業時間の読みが難しい面も。余力を持って計画する方がよいと考えています。

 

ACE明石より(講義全般に渡り学生の指導を担当)

今回の授業では、架空のレストランのリアルな資料の作成に挑戦してくれました。店名やメニューはChat GPTを活用したことで、本当にありそうな、妙なリアリティがある資料になったと感じています。データについても、担当グループの学生が頑張って作成してくれました。生徒がかなり自分の生活と照らし合わせて考えていましたが、やはりデータが嘘っぽいとそこまでいかないです。こういうデータを作るのはかなりエネルギーが必要ですが、ChatGPTがかなり役立つことがよく分かる授業だったと思います。一点、発表項目が多い気もしましたので、もう少しデータ分析に時間を使う方法もあったかと思いました。


【NSSOL今野さまより】

今回の授業では、K3Tunnelで用意されているデータを使う活動に加え、オリジナルデータを使った活動にも挑戦してくれました。学習効果を考えた意図的なデータを作成するのは大変難しく、私たちもいつも苦労しているところです。

もとになる授業素材の理解から始めた学生のみなさんにとって、短期間での準備は本当に大変だったと思います。架空のレストランのデータは、プログラミングでの分析には使わないものも含めて中学生の意欲をかきたてるものに仕上がっており、とてもよい授業だったと思います。

教材開発者としてもとても勉強になりました。ありがとうございました。

 

【協力企業担当者・ACE 古谷より】

これからの時代、より一層データ活用が重視されるため、小学6年の算数から「データの活用」が登場しました。

「データの活用」に関するNSSOL様の『データの謎を探れ!』という教材は、教員からとても評判がいいのには大きく2つの理由があります。

1つはデータを活用する必然性があること。もう1つは様々な判断ができるように適切なデータが用意されていること。

そのため結論を出すための話し合いがとても盛り上がります。

この授業づくりにおいて大変苦労したのがデータづくりでした。ChatGPTを使ってデータを作成してみましたが、なかなか適切なデータを得ることはできず、結局は課題解決に見合うように人力でデータを作成したとのことでした。

一方、店名やメニュー名はChatGPTを活用してアイデア出しをしてもらったとのことです。

この他の単元の算数の問題でしたら教員が作成することはそれほど難しくはありませんが、この「データの活用」の問題はなかなか作成することができません。

様々な生のデータが一般の教員にも共有してもらえるか、もしくはChatGPTで簡単に適切なデータを作成できるならば、教員による「データの活用」の授業づくりも進むのではないかと思います。

『NSSOL、K3Tunnel\ケイサントンネルは、日鉄ソリューションズ株式会社の登録商標です。』

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