2023年度、NPO法人企業教育研究会(ACE)は20周年となります。すでにお知らせしておりますとおり、20周年特別企画として、「日本の教育をアップデートする」という全7回のイベントを開催中です。毎回、産官学のトップランナーの皆様をお迎えしながら、教育界の重要テーマについてディスカッションをしていきます。
初回(4/22)のテーマは「起業家教育」でした。当日のレポートはこちらに掲載されておりますので、ぜひご覧ください。
ACEの主役のひとりは「学生」でもあります。ACEはもともと、千葉大学教育学部の学生らによる「企業と連携して、 面白い授業をつくり、それを学校に届けたい」という自由な発想、純粋な思いからスタートした組織です。教育の未来を担う学生が主役のひとりであるということは、今も変わらずACEの理念となっており、現に今も多くの学生インターン生が「日本の教育をアップデートする」ために動いてくれています。
ここでは、そんな学生の皆さんが、今回のテーマである「起業家教育」について何を思ったのか、聞いてみたいと思います。(聞き手:阿部学/ACE副理事長)
今日はよろしくおねがいします。教育の未来を担う学生の皆さんが「起業家教育」についてどう感じたかをお聞かせいただければと思っています。本題に入る前に、みなさんがACEに入ったきっかけなどを教えてもらえますか?
学生理事(※1)をやっています。入会して7年目です。教員志望だったので、学生のうちに出張授業に行けるのが「面白そうだな」と思って入会しました。教育実習の前に現場経験をつめるのが魅力的だなと思ってました。
私は、学部1年生の頃からACEの研究会(千葉授業づくり研究会)(※2)に通っていたりして、面白そうだなと思って、飛び込んでみました。学生のうちは、企業の方とお仕事で関わるような機会は普通はなくて、そうしたことをやれるというのが楽しいです。それもただの遊びではなく、熱く関われるというのがACEの価値かなと思っています。
教育実習中に、面白い授業のつくり方を調べる中で、たまたまACEの『企業とつくる「魔法」の授業』(※3)を読んで、色々な企業さんと連携して、今までにない題材で授業をつくっていて、楽しそうだなと思っていて、先日入会しました。
「授業づくり」に興味があって千葉大の藤川先生(ACE理事長)の研究室に入って、先輩に誘われて参加しました。教員志望なので、授業をする経験をしたいなと思っていました。色々な企業さんと出前授業をしていますが、子どもたちが「新しいことを学んでくれてるな」という感じがして、やりがいや、楽しさを感じています。「社会の中で生きるような学び」を自分の授業でできるような教員になりたいです!
この度、株式会社セールスフォース・ジャパンさま(以下Salesforce)より、従業員向けの寄付制度を通してご寄付をいただきました。
Salesforceさまは社会貢献理念の『誰もが平等に質の高い教育にアクセスでき、将来の選択肢を広げられるような、豊かで平等な社会の実現』を目指し、就業時間の1%・株式の1%・製品の1%を社会に還元する「1-1-1モデル」を実践しています。
今回の寄付は、『就業時間の1%』の従業員向けコミュニティ支援プログラムに該当し、一定の貢献をした従業員や、勤続年数に応じて寄付の申請ができる制度で、該当の従業員の方が弊会を応援したい団体として選択してくださり寄付をいただいたものです。
Salesforce社会貢献について▷ https://www.salesforce.com/jp/company/philanthropy/overview/
教育分野への社会貢献に意欲的なSalesforceの従業員の方に、弊会を応援したい団体として選んでいただけたこと大変光栄に思っております。
また、ご寄付のみならず、Salesforceさまには、上記社会貢献での労働開発分野の助成先として連携させていただき、
出張授業プログラム「お困りごと解決しましょう! トレイルブレイザー部のITソリューション」での授業開発や従業員の方のボランティア参加、
また官民連携IT人材育成プログラム(Tokyo P-TECH事業)等、ご支援いただいております。
平素より弊会の活動にご理解ご協力いただき、誠にありがとうございます。
社会貢献部門での助成について▷ https://www.salesforce.com/jp/company/philanthropy/equity/
出張授業プログラムについて▷ https://ace-npo.org/wp/archives/project/salesforce
賜りましたご厚意は、弊会の掲げる『子どもたちにとって教育効果が高い授業を届ける』ために有効に活用させていただきます。今後ともお力添えをどうぞよろしくお願いいたします。
4月22日(土)20周年記念特別イベント 日本の教育をアップデートする!! 7回連続トークセッション!!
SESSION1 起業家教育 が開催され、当日は70名を超える方々にご参加いただき盛況のうちに終了することができました。
神谷千葉市長の特別スピーチや、各登壇者からの先進事例発表より、起業家教育(アントレプレナーシップ教育)が必要な背景分析や、事例としての教育内容の充実は既になされており、日本の教育全体にこれらを拡張していくことが課題のフェーズに入っているという認識を持ちました。
その具体的な教育の展開については、学校現場の負担感をいかに減らすかが課題に挙げられていましたが、それについても解決する動きが見えてきていると思われ、教師が手を加えることなく使用できる教材開発や、実施にあたり困難を乗り越えたノウハウについて地域を超え横展開する連携、対象を大学生から小中高校生に拡大しつつある状況が紹介されました。
パネルディスカッションでは、アントレプレナーシップの意識が根付くためには、日本における『許容度』がキーワードとしてあげられることや、そもそも、アントレプレナーシップを日本人は持ち合わせており、日本の起業家教育(アントレプレナーシップ教育)とは、その開放を促すことでもあるのかもしれないという議論が出ました。
今後、学校教育に起業家教育(アントレプレナーシップ教育)が広く普及していくよう、弊会としても活動していきます。
****************
以下、当日の様子を詳しくご紹介しています。ご興味のある方はぜひご一読ください。
企業教育研究会は、2003年に発足した千葉大学発のベンチャーNPOであり、企業と学校を繋ぐ活動を行っています。その活動の一環として、毎月「千葉授業づくり研究会」と称する、外部の方を招いてお話を聞き、教育に活かすという公開勉強会を行ってまいりました。この勉強会は、150回以上続けられ、本イベントもその枠組みの中で実施されるものです。
企業教育研究会は、多くの企業と協力して学校に多くの授業を提供してきましたが、教育に革新をもたらすことができたかという点では、まだまだ改善の余地があると感じています。そこで、20周年を機に、学校教育を改善する原動力となるために、より多くの人々とコミュニケーションを取りたいと考えています。一年を通し、様々なテーマを産官学の立場から多面的に考えることで、新たな視点が得られることを期待しています。
◆千葉市長 神谷さまより(特別スピーチより一部要約)◆
不確かな時代に自分の道を拓く。
~自ら考え、共感を広げ、解決策を見い出す~
ちばアントレプレナーシップ教育コンソーシアム「Seedlings of Chiba」会長の千葉市長神谷さまより、千葉市の取り組みについて特別スピーチをいただきました。スピーチの中では、先進的事例と共に、アントレプレナーシップに対する思いや、課題についてお話しいただきました。
神谷市長は、アントレプレナーシップ推進に対し、「不確実性の時代」に生きる子どもたちには、世界を取り巻く諸問題の解決策を見いだす力を身につける必要性を感じていらっしゃり、事業を起こす際に必要な力や考え方を若いうちから実体験を通して学ぶ機会を得て欲しい。自分の意見を持って共感を拡げ、グループで解決していく力を育んで欲しいという思いがあるとお話しくださいました。
体験プログラムは市内の企業の方々にもご協力いただき魅力的な活動になっているものの、参加人数が限られているため、対象人数を拡大していきたいと考えていること。今後、どう千葉市の教育に組み込んでいくのかが課題と言及されました。
とは言え、学校現場は多忙のため、必要だからと学校側にプログラムを作成し実施することを課すのは難しいと感じていらっしゃるとのこと。普及にあたっては、学校とのすり合わせや、保護者の理解も必要だと感じているとお話しされました。
今後ますます活動を拡げるにあたり、複数のアントレプレナーシップに関するプログラムを持ち、様々なアプローチができるようご検討いただいているとのことでした。
◆アクセンチュア藤井さまより◆
アントレプレナーシップ教育が求められる背景とアクセンチュアが参画した背景
アクセンチュア藤井さまよりは、日本でアントレプレナーシップ教育が求められる背景とアクセンチュアの社会貢献活動についてお話しいただきました。
藤井さまは、日本の国際競争力や企業価値の現況を示した上で、企業価値はCV(Current Value短期的な利益向上による価値)とFV(Future Value 将来見込まれる価値)で構成され、世界の中で企業価値を伸ばした企業は将来的な価値(FV)が高い傾向にあり、対して現在の日本企業はFVが低い傾向にあることを説明されました。
また、日本のGDP規模であれば世界平均に照らせば183社程度ユニコーン企業が誕生しうる状況の中、6社しかないことを例に挙げ、日本においてイノベーションが起きる素地が低い現状にあると示されました。
このような状況下の日本において、デジタル化が進み仕事の在り方も変化していく中、アントレプレナーシップ教育は起業家的精神や資質の育成のみならず、デジタル化、グローバル化が加速するなかで必要な次世代人材の能力を培うものとして重要である旨が紹介されました。
アクセンチュアとしては、その背景に鑑み2010年より“Skills to Succeed”という世界共通のテーマを掲げ支援活動を実施し、日本においては32万人以上もの方に就業や起業のためのスキル構築の機会を提供しているとのこと。
また、提供プログラムにおいては、必要な姿勢やスキルを定義し評価指標を作成の上、それに基づきどれだけ実際に成長したのか検証しながら、ACEを含むNPOとの連携等で、様々なプログラムを提供しているとの紹介もありました。
◆文部科学省 加藤さまより◆
文部科学省におけるアントレプレナーシップ教育の現状と今後の方向性
~大学生から高校生等への拡大へ~
加藤さまからは、文部科学省として大学生向けを中心にスタートしたアントレプレナーシップ教育を、より若年層へ展開しようとしている動きや、その具体的な取組みの内容等についてご紹介いただきました。
加藤さま自身が大学生や教員等と対話する中で感じられている、『社会の役に立ちたいと考えている若者がとても多い』という印象に触れた上で、アントレプレナーシップ教育については、まずは、正解が分かってから行動することに対する”とらわれ”から解放することが重要と感じていると言及。
というのも、アントレプレナーシップ教育においては、世の中には正解の分からない不確実性の高い状況というものがあり、そうした状況下においては、学校教育においてよく出題される正解のある与えられた問題を早く正確に解く能力というよりは、許容できるリスクの範囲でまずは行動を起こして試行錯誤する能力を身につけて発揮してもらうことが大切だとお話しくださいました。
そして、アントレプレナーシップの基本姿勢について下記3点を挙げられました。
① 己を知り、やりたいことが分かったら、行動を起こし、試行錯誤する
② 仮説検証し、ときには失敗しつつ、より多くのことを学ぶこと
③ 失敗を克服し、軌道修正し、改善し続けること
アントレプレナーシップ教育では、上記マインドセット及び手法等を学ぶことが必要で、これらが、個としての自立を促し、真の強さと信念を持ってさまざまな問題を乗り越えて生き抜いていく力、新しくより良い世界を創っていく力の獲得につながると話されました。
文部科学省は、2014年から大学生向けにアントレプレナーシップ教育をスタートし、推進する大学をコンソーシアム化し支援をしてきたとのこと。また、それらノウハウを限られた範囲に留めるのではなく、拠点都市間(スタートアップ・エコシステム拠点都市)で連携し横展開することで、アントレプレナーシップ教育の受講者が、令和元年度では約3万人(全国の大学生等の1.0%)であったところ、令和3年度においてはその約3倍にあたる約10万人(全国の大学生等の3.2%)に増えていると紹介くださいました。
そして、大学生のみならず、小・中・高生等に対する機会を拡大すべく、現在は省庁横断でアントレプレナーシップ教育を推進し、拠点都市を中心とした面的展開(先述のスタートアップ・エコシステム拠点都市)、各地での先進的取組の展開(グローバルサイエンスキャンパスジュニアドクター育成塾、スーパーサイエンスハイスクール支援事業)、各学校へのアントレ教育支援(起業家教育事業(中小企業庁))等を進めているとのお話でした。
◆中小企業庁 宮本さまより◆
創業をとりまく環境と起業家教育について
宮本さまよりは、創業をとりまく日本の環境と中小企業庁で実施されている起業家教育についてお話しいただきました。
まずは日本の創業について全般的なお話をしてくださり、日本の開業率はだいたい4~5%程度であることに対し、先進諸外国はだいたい10%程度であることを示されました。その要因として、①創業希望者 ②創業準備者 ③創業実施者 の数値で見てみると、日本は、①創業希望者に対する③創業実施者の割合は、諸外国に比してむしろ少し高い状況にあるそうですが、しかしなぜ開業率が低くなるかというと、そもそもの①創業希望者が少ない状況であるというご説明でした。
実際、創業無関心者の割合をみると、日本は諸外国に比べてと高い状況。従って、創業すること自体に関心が低いため、創業を増やしていくにはいかに関心を持ってもらうかが必要であると話されました。
また、『はじめの職業選択時に起業が選択の1つになるためには何が必要か』の問いに対し、30歳未満の方の回答では、「起業家と交流する機会」や、「学校教育で就職以外の選択肢が提示されること」、「起業家教育の授業を受ける機会」が特に高い割合で挙げられていると紹介されました。
それを踏まえ、中小企業庁としては起業家教育の取組として、起業家の講演等による出前授業支援、起業家教育プログラムの実施支援、ビジネスプランをアウトプットする機会を提供しているとのこと。
また、創業に関する機運醸成のみならず創業自体も支援されており、意欲のある人が創業を形にするツールも用意していると紹介いただきました。
◆IMO 片桐さまより◆
千葉大学IMOのご紹介とアントレプレナーシップ教育
片桐さまよりは、まず千葉大学学術研究・イノベーション推進機構(IMO)が、千葉大学全体のイノベーション創出のヘッドクウォーターであることが紹介され、かつて大学とは教育と研究が求められていたが、現在は、研究成果を使って社会にイノベーションを起こすことを期待され、その使命があるとのお話がありました。
千葉大学ではその達成に向け、4つのビジョンを掲げ、中でも特徴的なビジョンである『社会に大きく貢献する千葉大学』があること。そしてこのビジョンに沿った社会貢献として、IMOがイノベーションの創出、具体的には研究者や学生の起業支援、また、アントレプレナーシップ教育の提供をしているとのことでした。
ホームページも敷居の低いものに作り替え、組織も『スタートアップ・ラボ』と称する、スタートアップ支援・アントレプレナーシップ教育に特化した組織として特徴づけ、一線級の起業家と学生が会う機会の提供や、新しく大学院生向けに起業家教育を学ぶプログラムを提供している支援内容などが紹介されました。
スタートアップ・ラボでは、上記のような学内向けの支援だけではなく、広く地域における若年層向けのアントレプレナーシップ教育についても検討されています。文部科学省の加藤さんが言及された拠点都市のひとつGTIE(※1)にも所属
し、このプロジェクトの中で高校の通常のキャリア教育の中でひと手間加えることなく無理なく使用できるアントレプレナーシップに関する授業の展開を計画されているとのこと。興味のある先生がいたらぜひアクセスいただきたいと呼びかけました。
お話の中では、片桐さま自身が会社を興し、その後イグジットしたり、その後、投資もされたりしていた自身のお話も盛り込みながら、起業については学生を流行に乗って煽ることなく現状を認識させつつ支援したいというお話や、まずはしっかりと学校の授業を受け、教養を身に付けることの重要性も指摘し、学生へ温かい眼差しを持って支援されている様子がうかがえました。
◆ディスカッション◆
slidoを使用して参加者の意見も拾いながらパネルディスカッション。
一部抜粋要約してご紹介します。(敬称略)
〇アントレプレナーシップとは、子どもはもともと持ち合わせているものなのか、後天的に教育するものなのか。
藤井:もともと持ち合わせていると考えている。過去の歴史をみても、明治維新などが起きている。我々は一定程度合理的に生きているので、起業した方が儲かるしリスクもないと感じるようになればきっと起業する。それだけの話かと感じている。
片桐:P.F.ドラッカーは後天的に学習可能と仰っている。一方ドラッカーは、日本はかつてない明治維新を起こした数少ない国と言及されているので、ベースは持っているかと考えている。しかし、後天的に学ぶ部分により重みがあると感じている。
藤川:アントレプレナーシップが先天的に持ち合わせているか、後天的に育てるものなのかによって、学校現場の動きが変わってくると考えている。アントレプレナーシップとともに、最近OECDで主体性という意味のエージェンシーという言葉があり、日本では主体性は身につけるものという意識が強いと感じているが、そもそも持ち合わせているものであるのなら開放すればよいだけなのではという意見もある。
〇千葉市(市町村レベルの自治体)や過疎地域などでもアントレプレナーシップ教育を推進する意義やメリットがあるか。また、過疎市域では実施が難しいが、どう実施すればよいか。
藤井:会津大学と地域の起業家を育てる活動もしている。地域を変えたい人にとっての選択肢が、今は地域の自治体に所属するか、地元の企業に勤めるかということになっているが、自ら起業するような人が出てくるのが望ましい。多くは都会に出てしまう可能性はあるが、残って起業する方も出てくることにはメリットがあるはず。
また、昨今オンラインでかなりのことができると判明したと思われ、過疎地域でも起業も起業家教育も可能と考える。そういうことよりも、過疎地域においては、新しいことを興すことが許容されるかの方が重要と感じている。
片桐:(自身が通った学校は)いわゆるまじめできちんとした生徒ではない人も、学校の先生が人間として温かく認めるという雰囲気があった。現在、その同期はアントレプレナーシップな活動をしており、当時のそういう雰囲気がアントレプレナーシップを育くむ気がしている。
藤川:アントレプレナーシップについては、許容ということがキーワードではないかという気がします。
〇国や自治体としてのアントレプレナーシップの推進について
加藤:学校内での活動や教育課程内の対応の場合は、教育委員会等自治体と連携し、スタートアップを起業するまでの研究成果の社会実装に向けたプロジェクトを育てるプロセスにおいては文部科学省が担当し、起業後の支援は経済産業省等が担当している。
起業に至るプロセスで直面する様々な課題を克服した事例と起業マニュアル等をストックし、地域を超えて誰でも学べるように横展開することが大切と考える。
宮本:立場にとらわれず、自分達ができる領域で、まずは垣根を気にせず取り組むことではないか。
〇失敗の許容、日本での起業について
藤井:会社を興すことをそんなに大げさに考えなくてよい社会になればと思う。また、アクセンチュアの支援するプログラムでは、どこまで失敗を体験として許容させるのかについても、事前に議論している。許容範囲について教育の場でも議論されることが重要と考える。
藤川:アントレプレナーシップは、それを発揮する環境が大切だと思う。(ストレス耐性が弱くなっているという参加者の意見より)社会の許容度が低く、ストレス耐性も低いと環境として難しい。
片桐:起業と若手後継者(事業継承)の当事者を交流させる場もある。こういう場所も、とてもアントレプレナーシップな場であると感じている。
宮本: デジタル技術の利活用等が進むと、今まで事業化が難しかったことが可能になり、マーケットではなかったことがマーケットになる。
加藤:日本では、個人で成功する(狭義の)アメリカンドリームではなく、みんなで成功するジャパニーズドリームを追求するのが向いているのではと思う。
◆参加者からの感想◆
(たくさんのご意見、ご感想をいただきました。一部抜粋でご紹介します。)
◆最後に 藤川より◆
本日は、起業家教育に対する、熱いノリを感じていただけたのではないでしょうか。グルーブというのでしょうか、身体感覚で伝わっていく熱いノリを共有しないと、こういうことは広がっていかないのではないかという仮説を持って本日臨みました。今日は、熱いノリを皆さんと共有できたのではないかと感じています。こういう場を作っていくことが重要だと考えております。
本日はありがとうございました。
皆様のご参加お待ちしております。
▷特設サイト https://ace-npo.org/achievements/20th/#study
▷チケットお申込み https://cjk155.peatix.com/view
昨年度より千葉大学大学院教育学研究科の「横断型授業づくり実践研究Ⅱ」の講義について、大学院と企業教育研究会(以下ACE)が連携を取ることになり、本年度も継続して協力しています。
本ブログでは、本年度に実践された授業の様子(第2報)をお届けします!
第二弾の授業は、株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメント(以下SIE)さまのご協力の下、11月30日、12月7日、12月21日の3回にわたり、千葉⼤学教育学部附属中学校3年生へ向け実施されました。
■授業タイトル
『SIEの社員として「ASTRO’s PLAYROOMのプレスリリースを作成しよう」』
■授業数 3時間(50分授業×3回)
生徒たちは、SIEが手掛けるPlayStation®5(以下PS5™)にプリインストールされているゲーム「ASTRO’s PLAYROOM」の魅力を伝えるプレスリリースを作成する活動に取り組みました。
授業は、大学院生が学習目標に設定した、
等について、生徒が習得できるよう、担当学生が随所に工夫を凝らしました。授業中、生徒はSIEの新入社員の設定で、オンラインで参加した講師のSIE齊藤様を先輩社員として頼りながら活動を進めました。
◆1時間目◆
1時間目は、たっぷり時間を使って班ごとにゲーム体験の時間を。体感した魅力のみならず、用意された資料の読み込みやインターネット検索も取り入れながら、生徒は自分たちが発信したい魅力を整理しました。齊藤先輩がいつでも質問に答えてくださるブースもあり、助言を得ながら魅力の整理を進めました。
◆2時間目◆
2時間目は、下部板書写真の4ステップに基づき、1時間目で感じた魅力の整理です。各班に大学院生がサポートに付き、プレスリリースの作成の際にどのような情報を活用するのか、カスタマーサポート、営業・開発チームからの資料も参考に情報を取捨選択します。齊藤先輩もオンラインにて各班を回りアドバイス。プレスリリース作成に向け、少しずつ形になってきたかな??
◆3時間目◆
いよいよ3時間目には、プレスリリースの作成に取り組みました。発信したい内容が決まった後は、生徒は慣れた手つきで端末を扱っていました。プレスリリース完成までには至らない班もありましたが、どの班も、自分たちが発信したいと考えた内容に基づき情報を取捨し、適切な画像を選んでプレスリリースを作成していました。
プレスリリース作成に割く時間は潤沢ではありませんでしたが、最終的に生徒達はプレスリリースの性質を理解し、文章化するという活動にしっかりと取り組むことができました。
また、生徒の作成したプレスリリースに対し、齊藤先輩が丁寧にフィードバックコメントを追記して下さいました。
実際に会社で働く社員の方から具体的にコメントを貰う機会を得て、生徒たちにとっても貴重な体験になりました。
◆◆◆ SIE 齊藤様より ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
昨年度に続き二度目の参加となりましたが、前回とはまた違った視点で授業
を構築してくださり、弊社としても大変勉強になりました。
弊社が通常行っている出張授業では1コマの授業が基本となっており、それ
以上のお時間をいただける機会はなかなかないのですが、今回は贅沢に3コマ
のお時間をいただけたことで、生徒さんたちとより深くやり取りをすることが
できたように感じます。
ゲームを手掛ける企業として、ただ楽しんでいただくだけではなく、ゲームを
入り口にして学校の勉強と社会とのつながりを考えるお手伝いをしていきたい
と思っています。キャリア教育や課題解決型授業が重視される中、今回の連携
授業で得た知見を活かし、SIEでは今後も教育貢献活動を取り組んでまいりま
す。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
最後になりましたが、授業への遠隔参加のみならず、メールでお送りした生徒の資料を読んでコメントをいただいたり、大学院生と打ち合わせいただいたりするなど、株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメントさまにはお忙しい中多大なるご協力いただきました。
この場を借りて心よりお礼申し上げます。ありがとうございました。
同日、毎日新聞Webニュースにも取り上げられました。
アントレプレナーシップ教育の新教材 『ひな社長の挑戦』 が、2月8日(水)佐倉市立佐倉東中学校にて教材として活用され、報道機関の方にも公開されました。現場の先生が実際に授業実践された事例をぜひ見ていただき、アントレプレナーシップ教育に関心のある学校が一歩を踏み出すきっかけとなれば嬉しく思います。
ミッション1では、2125年の中学2年生からの依頼を受け、架空の街『虹が崎市』を舞台に、生徒たちは準備された資料を読み込み、設定の地域に適した新規事業を考え提案します。
音声付きアニメーションスライドと先生の発する上手い掴みの言葉に導かれ、笑い声も起きる中、生徒たちは教材の世界観にすんなりと入り込みました。
資料の読み込みと新規事業検討(ワークシートの記入)の場面では『20分』の時間を取り、先生は机間巡視でサポート。教材の世界観では、宇宙にも人が住む時代設定のため、「宇宙の人にとっては魅力が・・・」などの言葉が飛び交い、生徒たちは、資料を見ながらもすぐに話し合いを開始している印象でした。
最終的には、自分たちが資料から読み取った根拠を基に考えた新規事業について、理由と共にしっかりと発表できました。
同じ教材でも、授業を進める先生ごとに板書を使用するか、生徒への声の掛け方等の違いがみられることも印象的でした。担当の先生はそれぞれのお考えで工夫され、どのクラスの生徒も集中して取り組んでいました。
ミッション2では、ミッション1にて立ち上げた事業を始動するため、関係団体の方へ協力を依頼するメールを作成します。本教材は、ギガスクール構想で各生徒が持つようになった一人一台端末を活用し、スプレッドシート内にメール文章を作成できるように、ダウンロード教材が準備されています。
今回の授業では、2人1組で1台の端末を使用し、相談しながら活動していました。端末から該当のスプレッドシートを見つけることやタイピングについては、慣れない手つきの生徒も多く、少し時間を要している様子でした。
メール文章作成については、紙の資料を参考にしながら、一人が文章を声に出し、もう一人が打ち込む姿も多く見られました。時間内にメールを書ききれた生徒は少なかったかもしれませんが、文中の言葉遣い等に悩みながらも活動を進めていました。
スプレッドシートでは、下記の例のように、メールの書き出しはプルダウンで選択でき、続きの文章もキーとなる言葉を盛り込めばチェック欄に〇が出たり、交渉に必要な触れるべき内容が一目で分かるチェックボックスがあったりと、初めてメールを書く生徒にも取り組みやすくなっています。
今回の公開授業では、報道機関の方々が取材にお越しくださいました。
授業後には生徒や先生、校長先生にお話を伺いました。
その内容の一部を紹介します。
難しさを感じつつも内容を理解し、起業を自分事と捉えて活動できたことが伺えるインタビューでした。
スライドのアニメーションを巧みに活用して笑いを誘うなど、生徒たちを惹きつけて授業をしてくださった酒井先生。生徒には難しいのではと予想した部分も、実際は思った以上にできるという嬉しい誤算もあったのではと感じます。授業準備も、起業について別途調べ上げる等の大きなご負担はなく実施いただけたのではと思います。
大変な状況の中、子ども達のためにという熱い温かい思いが溢れる校長先生のお話を伺い、胸が熱くなりました。
大きな声でさわやかに挨拶をしてくれる生徒の皆さんが印象的な、気持ちの良い素敵な学校でした。
今回の公開授業に際し、校長先生を始め先生方には多大なご協力をいただきました。
この場を借りて厚く御礼申し上げます。
ホームページやTwitterでも紹介させていただきましたアントレプレナーシップ教育の新教材 『ひな社長の挑戦』 につきまして、2月1日(水)文部科学省記者会見会場にて記者発表会を行いました。
企業教育研究会(以下、ACE)の学生インターンが大活躍した当日の様子を紹介します!
◆教材に関するプレスリリースはこちら
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000003.000100449.html
◆教材の詳細、ダウンロードはこちら
https://ace-npo.org/wp/archives/project/hina
まずは記者発表会の様子から。
ACEからは理事長・藤川、事務局長・竹内、学生インターン・郡司が登壇し、教材説明にはACE学生インターン・小牧も参加しました。また、登壇者として総合コンサルティング企業のアクセンチュア株式会社 ビジネス コンサルティング本部 ストラテジーグループ マネジング・ディレクター 藤井篤之さん、質問対応者として、本教材の開発、普及にご支援いただいている「ちばアントレプレナーシップ教育コンソーシアム Seedlings of Chiba(以下Seedlings)」、「千葉大学 学術研究・イノベーション推進機構(IMO)」にもご協力いただいての開催となりました。
◆アクセンチュアの社会貢献について
アクセンチュアは社会貢献活動の一環として、次世代型人材の育成に取り組み、2015年よりACEと教材開発で連携しています。本教材の開発にあたっては、教材や教員向けの実践ガイドの監修と、プログラムの運営を支援いただいています。https://www.accenture.com/jp-ja/about/responsible-business/responsible-citizen
◆ちばアントレプレナーシップ教育コンソーシアム Seedlings of Chiba
◆千葉大学 学術研究・イノベーション推進機構(IMO) https://imo.chiba-u.jp/
理事長・藤川の挨拶からスタートし、まずは、アクセンチュア藤井さんより日本でアントレプレナーシップ教育が求められる背景とアクセンチュアの社会貢献活動についてお話しいただきました。
藤井さんは、日本の国際競争力や企業価値の現況を示した上で、アントレプレナーシップ教育は起業家的精神や資質の育成のみならず、デジタル化・グローバル化が加速するなかで今後必要な次世代人材の能力を培うものとして重要であること、さらに中高生という早い段階からこの教育を実施する意義についても説明されました。
次に、ACE藤川より、教育現場におけるアントレプレナーシップ教育の課題について説明。現在の職場体験を始めとするキャリア教育は、社会人としての汎用的能力を目的としたものが多くそれはそれで意義があること。しかしそれは、雇用されることを前提とした教育で、アクセンチュア 藤井さんがお話ししたような次世代に求められる人材を育成するような教育が、現状ではほぼなされていない危機感があると説明。その上で、本教材については、従来から行われているキャリア教育の時間の一部を充てることで広く展開可能であり、学校の先生の負担も少なく取り込んでいただけることを意識して開発したこと等を話しました。
次に、事務局長・竹内が、学生発案から開始された本教材開発の背景や、パイロット授業による生徒の変容について紹介。その後、開発者の学生インターン・郡司、小牧より、教材について詳細を説明しました。直前まで説明内容を吟味した甲斐があり、教材に対する熱い思いが記者に伝わり、且つ内容も分かりやすい説明になりました!
本教材は、学校の先生の負担をなるべく少なく、且つ、アントレプレナーシップ教育を学校現場へ取り入れていただけるよう様々な工夫をしています。提供している授業用スライドには音声付アニメーションが多用され、教員ガイドを参照の上、先生が起業についての予習などに多くの時間を割かなくとも、スライドに沿って無理なく授業をしていただける構成になっています。また、一人一台端末を活用した活動も盛り込まれています。
◆教材の詳細、ダウンロードはこちら
プレスリリースにも記載の通り、本教材は千葉市においてアントレプレナーシップ教育に取り組んでいるSeedlings が市内での活動を支援しています。今後、産官学連携の上、公教育に広く普及されるよう取り組んでいきます。
最後に、各関係団体の皆様にもご協力いただき、記者の方からの質問にお答えしました。
「いいものだと思うが、どのように学校のキャリア教育の授業に盛り込んでいくのか。」「中学生をターゲットにした理由は。」等のご質問をいただき、時間いっぱいまで前向きな質問に溢れ、活発な場となりました。
記者発表会実施にあたっては、アクセンチュア広報部のお力添えをいただき準備を進めました。
また、開催にあたり、各関係団体の皆さんにもご協力いただき、複数名の学生インターンにも、会場セッティングや写真撮影等の裏方で活躍していただきました。
ご支援いただきました皆様に、この場を借りて御礼申し上げます。
これからも企業の知見を活かした新しい授業を広く学校現場へお届けできるよう、「ひな社長の挑戦」を始め、ACE教材の普及展開を目指していきます。
本ブログでは、記者発表会の模様を紹介しました!
続報、公開授業での取材についても、近々お届け予定です!
12月17日(土) 淑徳大学・松浦俊弥先生にご講演いただき、第153回千葉授業づくり研究会「共生社会への道 障害者の社会参加を支える連携 〜「学校」と社会をつなぐ!〜」を実施しました。
弊会職員・古谷さんがかつて教員や指導主事として特別支援に関わる中、ピンチを救ってもらったと尊敬してやまない存在の松浦先生。
当日は、社会全体の障がい者の生活の現状や、社会参加して生きていくために必要と感じている企業、学校との協働への想いなど、力強くお話しいただきました。
今回は、グラフィックレコーディング※1という特技をお持ちという、参加者の佐藤さんが描いた素晴らしい「まとめ」、かつ素敵な絵と共に、研究会の様子を報告します。
研究会開催概要は以下
https://ace-npo.org/wp/archives/study/cjk153
※1グラフィックレコード:ホワイトボードや紙に、会議や議論などの内容をデザインとして可視化し、整理していく手法。テキストだけの情報と違い、イラストなどで感覚的にも把握しやすいということで、注目されている。
■講師 松浦俊弥先生について
千葉県の公立学校にて、中学校と特別支援学校の教員として28年お勤めの後、淑徳大学大学院にて社会福祉学を修められました。
社会活動家、臨床発達心理士、自閉症スペクトラム支援士(エキスパート)。
教員時代から、障がい児を対象とした千葉県初の学童保育所を運営するNPO法人「あかとんぼ」を設立されるなど、公私にわたり障がいを持つ子供たちの支援に携わるなど活発に活動される。
柏市障害福祉専門部会長、白井市障害福祉計画策定委員会座長、四街道市特別支援連携協議会委員。
著書に、「障害のある子どもへのサポートナビ」(北樹出版)等。
■講演概要
松浦先生のお話の中から、抜粋してご紹介します。
(1)ものの見方を変えよう
障がいのある方は社会から「支える」「守る」「手伝う」べき人々と捉えられがちだが、障がいがある方に「支えられる」「守られる」「手伝ってもらう」社会であっても良いはず。
障がいのある方にも社会参加を進めてもらい、「働き手になる」「消費者にする」「ボランティアに参加する」等を考えていきたい。
実際知られていないだけで、企業の方などに特別支援学校での活動を見ていただくと、職業訓練等のレベルの高さに驚かれることも多い。偏見を減らし、企業の方にも障がいのある方々の採用は、CSR※2ではなく、戦力として認識される社会になってほしい。
2022年9月、国連の権利委員会により障害者権利条約について改善勧告もなされ、障がいのある方を分ける特別支援学校自体が疑問視された。日本は障がいのある方々を分離する社会で、インクルーシブではない傾向。
改善のため、学校教育はどうあるべきか?企業は特別支援教育とどう連携すべきか?
※2 corporate social responsibilityの略(企業の社会的責任)。企業は、利益追求、法令遵守だけでなく、人権を尊重した適正な雇用・労働条件、消費者への適切な対応、環境への配慮、地域社会貢献等々、の義務があるとし、市民としての企業が果たすべき責任をいう。
(2)障がいがある人の社会参加について
①身体障がい者、知的障がい者、精神障がい者の内、職に就いているのは3%弱
で、また、定着率も低い。障害のある人の貧困率は高く、国民一般の5倍にも
のぼります。そして、生涯にわたり収入もほぼ増えていない状況。
②結婚している人はわずか4%、障がいを持つ方の圧倒的多くが未婚。関西で
は、知的障害者同士の結婚をサポートするボランティアがあるそうです。
③知的障がいがある方については基本的な社会生活における知識不足があり、
法的に自分を守る方法がわからず、助けを求めることが難しい場合がある。
そのため、様々な被害に巻き込まれてしまうことがある。
障がい者が社会参加をする上での基本的な考え方として、善悪に関わらず、障がいがない人が行う社会での振る舞いと同様の振る舞いが、障がいがある人にもあって当然という視点が必要なのでは。
(3)様々な社会問題との関連(詳しくは佐藤さんのスケッチをご参照ください)
①経済観念(お金の使い方)
②刑事事件(加害)との関連
③刑事事件(被害関係)
④刑事事件(組織犯罪)との関連
⑤いわゆる「ホームレス」課題
⑥少年事件
(4)特別支援教育についての課題
①勉強ができないだけで問題行動のない子供は、学校でも先生に見過ごされてしまう可能性がある。
②障がいのある子どもは、体験や経験から自然に学ぶことが難しい場合も。
③「何度言ったらわかる」とつい言ってしまうが
→ 理解力の問題で「何度も言ってもわからない」子供もいる。
④本当に必要な教育が行われていない!
・・・机上論では理解できない。実践的、体験的で具体的な指導が必要。
ロールプレイングが有効。
⑤卒後の社会支援体制も不十分なまま
・・・特別支援学校での職業訓練が、就職先で活かせる内容になっていること
が少ない。従って、本人にとって就職後が辛く、職場への定着が難しい
場合も。
(5)新たな可能性・提案
①特別支援教育への社会の誤解を解く
②卒後の社会支援体制を整える
③教育に政治を生かす
④子どもを守りすぎない
⑤我が国の偏見の歴史はとても長いことを理解する
⑥木がダメなら、森を攻める意識を持つ
障がいを持つ方々が、社会の中でどのような生活を余儀なくされているのか。多くの事例を盛り込み紹介いただきました。
学校教育というよりも、社会全体の問題として捉えていただきたいとのお話でした。
■ディスカッションタイムより抜粋紹介
ディスカッションでは、さまざまな話題で大いに盛り上がりました。
簡単にですが、話題に上がったことをいくつか紹介します。
(1)ICT教育など新しいことに対し、学校側からの拒否感もあると感じるが
一職員から、もしくは一学校からやりたいと声を上げることは難しくても、企業から声を掛けていただければNOとは言わないと思われる。また、特別支援活動自体の知名度が低いこともあるので、知名度を上げると共にトップダウンや、政治の巻き込みも大切と考えている。
(2)企業の方を説得する必要もあるのでは
企業の方には、ぜひ、障がいのある方も消費者として捉え、企業にもメリットがある存在として意識していただきたいと考えている。
(3)障がいがない方に正しく障がいについて伝えるには
障害年金含め、正しく理解してもらうことが必要。障がい保障ついては、税金の無駄ではなく、安心して生きていくためのものであり、自分たちも使う立場になる可能性があることを認識してもらうべき。
(4)親に障がいのある方の子供について(障がい者支援とヤングケアラーについて)
予算の問題もあるが、親子共々生活をまるごと支援するという方法もある。親の面倒を見ていれば、それをすべてヤングケアラーとして捉えていいのか、しっかり見据えなければならないと感じている。
(5)企業が障がいを持つ方への支援など考える際、何かやってあげるという感覚で関わってしまうのではと危惧している
企業には利益を求めて参入していただきたい。障がいのある方々を将来の消費者として捉えて考えてほしい。特別支援学校がどういうレベルなのかご存じないことも多いので、まずは知っていただくことからかと思う。ぜひ、企業関係者の特別支援学校見学を勧めたい。
好事例として、公園管理を障害のある方に担っていただくような連携や、農福連携で、農作業の一部、加工産業の一部を担っていただくものもある。障がいを持つ方でも出来ることを仕事として創る意識を持っていただきたい。
障がいがある方に特化した特例子会社など検討できれば、障がい者雇用率に対し、企業にもメリットがあるはず。
(6)職業訓練の内容について
立派な革製品を作る訓練よりも、生活に直結した必要な知識(社会のタブーや性教育など)を学ばせることも重要と考えている。
(7)知的障がいをもつお子さんにとって理想的なキャッシュレスについて
一人ひとり発達段階が違うのでとても難しい。大切なのはリスクをきちんと教えること。大人になった時の生活を考え、フィードバック的に必要な支援を考えるのが良いのでは。キャッシュレスなどの使用を第三者が管理するにも、成年後見制度はハードルが高いので、もう少しライトなものがあればと感じる。
(8)特別支援ではなく通常のクラスにいるグレーゾーンの子供を助けるには
まずは、特別支援の素晴らしさを説く。そして、障がいのある子どもの生活の実情を話し、それを改善する最適な教育は特別支援教育が担っていることを説明する。
(9)性教育について
具体的な教育が必要。性器の洗い方や、自慰行為との向き合い方など。ただ、保護者を含めなかなか理解が得られず進んでいない状況と認識している。松戸市などは実践用資料などあると聞いている。
(10)IQレベルに合わせた教育を
実年齢よりも理解度が低いこともあるので、個人個人に合わせたレベルの教え方が必要。しかし、発達段階に合わせる必要はあるが、表現はあまり幼いものにするのではなく、年齢相応のものを用意する方がよい。それをしないと、教える側の人権感覚(相手への年齢に合わせた接し方)も鈍ってしまう。同年齢の人にしないことは、障がいがある人に対してもやってはいけない。
(11)教材にも個人に合わせた個別対応が重要と思われる点について
その対応には、ICTが適していると感じている。絵本的なものより、アバターなどを使うと高校生でもウケが良い。
(12)障がいを持つ方向け専用の仮想通貨を創る!というアイデアが出ました
お給料の代わりにポイントを貰い、それを本人が好きに使うなどできると面白い。ポイントにすることで、お金の概念を得にくい人も容易に使えたり、他者に給料を搾取されてしまったりする問題にも、使用者が障がいを持つ方に限定されることで解決の可能性があるのでは。また、特別支援学校では経済的なことは現金で教えることが多いが、キャッシュレスなども経験として得るべきではないか。
■参加者の感想(職員:古谷)
駅で白杖を持っている方を見かけると、どうしても気になってしまいます。
「ホームにたどり着けるかな」「電車に乗れるかな」そして、時として声をかける等行動に移すときもあります。
このような意識にさせてくれたのは私が子どもたちに福祉に関する学びを提供したり、特別支援教育の指導主事として障がいをもつ多くの子どもたちや保護者の方々と接してきたりしたからです。
様々な経験から障がいを知り、障がいへの認識が変わり、そこから自らの行動につながっていっているのだと思っています。
認識を変え、行動化に移すには何事も「正しく知ること」から始まるように思います。
流山高等学園の生徒達の真剣な仕事ぶり、そしてその素晴らしい成果物。これを一般の人が見ればきっと認識が変わるはず。
松浦先生がおっしゃるように、障がいがある方に「支えられる」「守られる」「手伝ってもらう」社会に近づくためにも、障害のある方が何を得意とし、どのようなことで社会に貢献できるのかを「正しく知る」機会をどのように設けるか、教育に携わる者として真剣に考え、そして、実行に移していかねばという思いを強く持ちました。
また、弊会は設立20年目を迎えていますが、特別支援教育に関する授業プログラムは未だありません。この分野へのアプローチをしていくことは、より多くの大人に「正しく知る」機会をつくっていくことにつながるものと考えており、早速行動に移さなければという思いに強く駆られています。
今回はSOLIZE株式会社の増田秀仙さまを講師にお招きしてVRを活かした新しい授業についてご講演いただきました。講演の概要を以下に紹介いたします。
①SOLIZE株式会社の紹介
SOLIZE株式会社は主に3Dデジタルを活用したものづくり事業を核に発展した会社です。創業から約30年、今では全体で1,800名ほどの社員を擁する会社になり、そのうち半分以上の社員がエンジニア職とのこと。ものづくりの中心は自動車関連で、企画の段階から製品化された後の補給部品開発まで広い範囲で仕事をしています。特に3Dプリンティングを含めた、3Dデータを取り扱うというところが会社の強みであるそうです。強みである3Dの活用と、長らく社内エンジニアを育成してきたという経緯から、昨年XRと呼ばれるデジタル技術を活用したサービスを始められました。
XR技術というものは世の中でも定義が幅広くあるそうですが、増田さまが仰るにはSOLIZEとしてはARやVRを含む技術、またそれらの技術にかかわるヘッドセットやセンサー類、そしてスマートフォン等の周辺デバイスを含めてXR技術として扱っているとのことです。
教育サービスに関連するプラットフォームの名称はSADOKUで、学習コンテンツの販売や制作請負などのサービスを行っていらっしゃいます。SADOKUは学びの体験量・質を増やすことを目指したサービスであり、ツールであり、コンテンツであるそうです。サービスに使われる技術の特徴を整理すると、VR技術の良いところはリアリティや没入感があること、バーチャル空間だからこそできる体験型のコンテンツが提供できる点とのことです。リアルな世界をバーチャルにもってくる、リアルでできないことをバーチャルで行う、リアルに全く存在しないものをバーチャルで作ることが可能である点が利点とのことです。リアルとバーチャルを組み合わせることで体験の量と質が変わり、結果として学ぶ側の興味関心がより高まることで、主体的な学びにつなげたいという思いがあるとお話しされていました。
増田さまからは、教育界に対して難しさを感じているポイントにも言及があり、それは学習指導要領の内容が変更されることや、ICT活用に伴い学び方のデザイン自体が変わること、そして現場で実践する難しさ等であるとのことでした。それらの課題に対しVRを使って解決することを目指されていました。
また高校生約300名のアンケートで、なぜ文系を選択したのか、という質問に対して「理系が苦手だから」という回答を選択した生徒が57%ほどいたという紹介がありました。将来のキャリアを考えた時に高校一年生での文理選択が非常に大きな分かれ目になるにも関わらず、好き嫌いや苦手で決まってしまっているということを増田さまはもったいなく感じていらっしゃり、XRコンテンツを用いることで理系が苦手な生徒も「楽しいので少しやってみようか」、と考えられるようにしたいという思いも語ってくださいました。
増田さまは1年半VR活用をやってきた中で見えてきた課題として、以下の点を挙げられました。
・VR技術自体の認知度や理解が低いこと。
・学校現場においてVR技術の活用方法や、学習効果、授業実践を行うときの運用イメージがあまりないこと。
・子どもが重いゴーグルを45分かぶっていられるのかなどのデバイス自体について懸念があること。
・メタクエストのような教材の値段設定が高額であるため、デバイスを一人1台用意できるのかについて懸念があること。
・通信を使うコンテンツの場合、セキュリティや通信速度の関連で学校のネットワークでは対応できない場合があること。
・身体への影響の関連で国が子供の使用を規制しているコンテンツや、メーカー側の自主規制として13歳未満には使えないデバイスがあること。
課題は様々あるものの、教育現場のみなさんと一緒にそれらを変えていくことはできないだろうか、と考え努力されているそうです。
②VRの授業への活用の方向性
VR(ヴァーチャルリアリティ)とは何かを言い表す時に、東京大学のある教授が行った定義では「コンピューターによって作られた映像世界の中に入り込み、そこでいろいろな疑似的な体験をすることができる技術」とされているそうです。ここで定義されたVRは3つの要素に分解することができ、1つ目はディスプレイの要素、2つ目は体験・インタラクティブの要素、最後の1つはシミュレーションの要素です。VRはまずコントローラーを通して入力を行い、システムの中でシミュレーション、すなわち疑似的な世界を作り、その結果がディスプレイを通して様々な方法でユーザーに返ってきます。強調されていたのはVRというのは頭に重たいデバイスを付けるということではなく、本質は作られた映像世界の中に入り込んで疑似的な体験をすること、とのことです。
教材に関わる技術を入力システム、シミュレーションシステム、ディスプレイシステムなどの要素に分けていくと、それぞれの技術は数学、理科(物理)、情報などの知識と関連があり、例えば入力システムであればセンサーの制御、通信制御、電気回路、シミュレーションのシステムであれば、モデリング、画像処理、計算処理、ディスプレイシステムであれば、立体視、光学レンズ、電気回路です。生徒には、数学、理科、物理、情報などで学ぶ領域とかかわりが深いということは伝えられると考えているそうです。
またVRはゴーグルを使う方法の他に、パソコンやタブレット、スマートフォンを使う方法でも体験ができ、AR、MR、VRはそれぞれ異なる特徴があります。もともとはリアルという言葉への対比としてVR(バーチャルリアリティー)という言葉が登場したのが最初だそうです。その後AR、MRが登場し、リアルとバーチャルの融合、もしくは間にあるものとして捉えられるということですが、これらの違いはどれくらい現実よりなのか、バーチャルよりなのか、という点で分かれているそうです。ARは携帯電話のカメラで撮った映像の上にさらに何かデジタルなものがおかれるもののイメージ、MRはミックスドリアリティーと呼ばれるもので、現実とバーチャルが混ざっているようなイメージ。一言でいうのであればVRはバーチャルに入り込む、ARは現実世界の上にバーチャルを重ねていく付箋のような、3Dの奥行まで計算して表現できるMRは現実とバーチャルを融合するイメージだそうです。
SOLIZEとしては、バーチャルリアリティーを疑似体験ができるものとしてとして捉えているということです。例えばバーチャルの世界ではどこへでもいくことができるため、行きたくても遠くて行けなかった場所などに行く疑似体験を得ることができます。また、歴史的な建物の3Dモデルがあれば、過去の街並みを見に行く疑似体験も可能です。バーチャルな世界では時間の早回しや、自分以外のものの目線になること、パイロットシミュレーターなどもすることができます。これらをリアリティをもって体験できるのがバーチャルリアリティーの特徴であり、学びの中でも重要になってくる点であると考えているそうです。
③VR技術の教育活用について
VRが実際どのように授業で活用されているのか、具体例を挙げ説明いただきました。増田さまは、VR活用による様々な疑似体験や、シミュレーションを用いて試行錯誤する学び方が体験の量を増やす、体験の質を向上することに寄与すると考えています。さらに、VRはICT機器であるため、リモート学習ができ、リアルな体験にバーチャルを上乗せすることで学びの体験自体を増加することができ、また、シミュレーション的な要素で試行錯誤を重ね、リアルで体験できないことを体験できることで体験の質自体を変えるのではと考えているとのことです。
今流行りのメタバースについてもご説明いただきました。メタバースでは、あるバーチャル空間の中に遠隔地からでも複数の人間が入ってきて一緒に学ぶことができます。現在、授業はリアルで集まることが一般的ですが、VRでは離れたところからでもコンテンツをみなで体験し、結果の検討をバーチャル空間で行うことができるため、対話的な学びの実現もできるのではないかと考えていらっしゃるそうです。
次に活動内容を高等学校の科目に紐づけて分類した表を示しつつ、各科目におけるVRの活用について説明をいただきました。理系科目では数学や物理系は概念や数式のような見えないものを可視化することができ、直感的に理解できるところが大きなポイントで、理科・化学系は実験をバーチャルで行うことでプロセスを覚えることに活用できる点や、どんどんトライしても怪我をすることなく安全に失敗できる点、資材が壊れない点などの利点があるとのことです。文系科目の語学では、遠隔地の人々とのコミュニケーションを行う際に身振り手振りなどの情報量を増やしてコミュニケーションをとることが可能になります。最近はそれらの特徴を生かしたVRの英会話アプリなども作られているそうです。また地理・歴史ではどこへでも行ける、過去に戻っての体験が可能であり、社会科・公民では「こういうことがあったらどうする」というようなワークショップのようなものをバーチャル空間の中でいくつかシナリオを作って行うことも可能だそうです。例えば、バーチャル裁判所で活動することで、リアリティを感じながら、生徒にとって身近ではない裁判の体験をする機会を作ることなども可能です。文理外でいうと技術家庭、体育などの身体性を伴う部分があるものはバーチャルリアリティーと大変相性が良く、身体を使って学ぶ、その結果としてコンテンツからフィードバックが返ってくるということが学びの定着に良い結果をもたらすことがわかってきているそうです。メタバースになると、最近はホームルーム、課外活動、探究活動、イベント系、説明会であったり、コミュニケーションをとるためのツールとして使われているそうです。オンラインミーティングツールでは普段の教室のように生徒たちの様子を歩き回ってみることができませんが、バーチャルの世界ならば生徒たちの間を歩き回り、声掛けもできます。
学習効果についても少しずつ解明され、ポイントはインタラクティブ性とのことです。動画コンテンツを見るだけの学習と、コンテンツを見ながら何らかの活動を行う学習を、学習者がパソコンとVRで行った場合にどのような差が出るのか、という実験を行ったところ、次のような結果が得られたというお話がありました。まず、動画コンテンツを見るだけの学習であればVRだと情報量が多すぎるため、パソコンの方が効率は良いそうです。一方で、何がしかの活動をしながら学ぶ場合、学習者が何かした時にバーチャルの世界からフィードバックを受けながら学ぶとパソコンよりもVRの方が、定着率が上回るという結果が出ているそうです。この結果を受けて、VRを活用することで、何らかの体験活動とコンテンツからのフィードバックを学びのデザインの中に織り込むことが、学習効果を高める可能性もあると考えられているそうです。学校教育に関わる人たちにも現在の単元でVRがどのように活用できるだろうかと考えていただくと、企業視点だけでは考えつかないような、教材としてのVRの使いどころが見えてくるのではないかと考えられているそうです。
動画とVRの違いについてもお話いただきました。動画の特徴としては、伝達の点で1対多数である、直列である、1Wayであるなどが挙げられ、これに対し、VRは、多数対多数、双方向のコミュニケーションをとることができる点が挙げられるそうです。動画系は知識をインストールするという使い方に向いており、バーチャル空間は集団で何かを行い、その中から学びを見出すようなワークとの相性が良いと思われるとのことでした。
今行われている学びがすべてバーチャルになるかというと増田さまはそうは考えていないそうです。あくまでデジタルもバーチャルも、学びの目的を達成しようと思ったときの手段の1つであって、リアルでできることとバーチャルでできることを組み合わせたり掛け合わせたりするというところが一番考えるべきところなのではないかと思われているそうです。
また、VRは教科横断的な学びや、体感ツールとしても活用できる例として、スカッシュを物理と体育の観点から活用する事例をご紹介いただきました。数学・物理的には、球を打つ時の初速度、球の質量、打つ時の角度であるベクトル、重力加速度、空気抵抗などによってどう球の動きが変化するのかを見ることが可能で、体育的には、どこに落ちるのか、どの打点で打つとどのように飛ぶのか、球筋や球種、体を使ってコースをコントロールすることを学ぶことができます。これらを組み合わせることにより、シミュレーションツールは、物理と体育の先生が同じ授業を違う観点から伝えるなどの利活用も考えられるそうです。
④教育コンテンツご紹介
SADOKUにおいてコラボレーションを行ってきたいくつかの具体例についてご説明いただきました。
最初に紹介いただいたのは、東京学芸大学と共同研究された「跳び箱VR」と「バドミントンVR」、軽井沢風越学園と共同開発された「電気素子の街」です。開発に際しては、教育現場の意見を参考にしながらコンテンツを改良していったそうで、例えば、最初はミッションクリア形式のコンテンツにしていたが、現場の先生からミッションがないほうがよいという意見をいただき、ミッションをなくして自由度の高いコンテンツにするなど、教育現場の方から指摘され初めて気づくこともあったという経験もお話しいただきました。
次は、明秀学園日立高等学校と共同開発された無重力空間を体験できる教育コンテンツです。このコンテンツは国立天文台の出している情報や素材なども活用しつつ作成されたそうです。
明秀学園日立高等学校とは、分子の引き合う力を体験できるコンテンツも開発され、こちらは力学デバイスが必要であるため、デバイスの作成会社ともコラボして活動したそうです。強みとしてはリアルの物理法則に則った活動ができるという点とのことです。
立命館大学との共同開発は複数あり、1つ目は、メタバース空間で授業をどのように行うのか、という研究です。メタバース空間で授業もでき、かつコミュニケーションもとれるようにして、どこまで活動ができるかを検証されているとのこと。メタバース空間ではアバターで参加するため、活動に参加する際の障壁を小さくできるそうです。2つ目は、教職課程の学生がVRの教材を作るというプロジェクトで、開発した教材は最終的に小学校や中学校で実践を行う予定とのこと。企画自体は学生が考え、SOLIZE所属のエンジニアの方と一緒に教材を開発するそうです。
最近の学校では、生徒にVR空間のようなものを作らせる授業も始まっているそうで、現在は、簡単なものであれば中学生や高校生でもVRコンテンツを開発できるツールが増えてきており、それらの使い方を教える活動なども行っているそうです。実際に教えるとすぐ生徒が使えるようになるので、そういった楽しみをどうやって教材に生かしていこうかを考えつつ開発を行っているとのことでした。
⑤まとめ
VRは頭に重いデバイスを付けることではなく、いろいろな体験の仕方があります。また体験の種類もデバイスによって変わります。最大の特徴は疑似体験ができることであり、VRを活用することでこれまでできなかったことができるようになったり、行けなかったところに行くことができるようになったり、見えなかったものが見えるようになったりすることだそうです。
こうしたVRの特徴を、授業の組み立ての中にどう入れ込んでいくかというところがポイントで、増田さま、そのために現場の先生方との対話を通して、先生方が何をVR技術で実現したいと考えるか知りたいと話されました。また、リアルとバーチャルの組み合わせと掛け合わせも大切で、リアルでしかできないこと、バーチャルでしかできないことの間に生じる違和感を感じ取り、その違和感から興味や疑問を生み出すようなアプローチを検討したいとも話されていました。
一番大事なのは学習目的であり、増田さまはVR、AR、MRという技術の活用を目指して動いているものの、活用に固執はしないとのこと。こういった技術を生徒側が使うのか、それとも教員側が使うのかによっても活用方法は異なりますし、学習の効果も異なることが考えられます。大切なのはVR技術を使うことではなく、VR技術を使ってどうしたいのか、という点であるとのことでした。
最後に、リアルをバーチャルに置き換えるのではなく、リアルとバーチャルを足し合わせていこう、できるなら掛け合わせて新しいものを作っていこうということがSOLIZEとして取り組んでいきたいことであり、先生方と一緒にやりたいと思っていることだとお話しいただきました。今までとは違う学びのデザインというところにお力添えができればとおっしゃっていただきました。
⑥VR体験会
VR体験会ではSOLIZEが開発した「バドミントンVR」「電気素子の街」「跳び箱VR」をお持ちいただき、体験させていただきました。対面参加者は各々、パソコンのみで体験できるもの、ゴーグルやコントローラーが必要であるものなど様々な体験方法でVR技術に触れることができました。オンライン参加者は、教育コンテンツの紹介動画を視聴し、VRの教育活用について理解を深めました。
増田さまが講義で話されたように、VRにも様々な体験方法があることを実際に体験できました。パソコンだけで体験のできる「電気素子の街」などはゴーグルをつけて体験することも可能だそうで、1つのコンテンツでも様々な体験方法があることに驚きました。
⑦質疑応答
VR体験会の後は、質疑応答の時間でした。教育関係者の多い中、教育現場でどのようにVRを導入していくのかということにかかわる様々な質問や意見がでました。例えば、GIGAスクール構想が実現し、一人一台端末の普及が進む中で、現場にある機材を活用することが可能なのか、実際にVR技術を活用するのであればどのような方法で活用ができるのか、現在学校にない端末を導入する必要はあるのかなど、実際に現場にいる先生方の気になる質問に丁寧にお答えいただくことができました。参加者からは、VR技術を、授業で使うための意見やアイディアなども挙げられました。
⑧研究会を終えての感想
今回の研究会では、教育現場ではまだあまり見かけないVR技術を活用した教材をテーマにお話を伺いました。自身はVR技術の専門ではないため 、この技術を使った授業はどんな手法で構成されていくのだろう、と少し身構えていました。しかし実際に講師の増田さまのお話を聞くとVR技術も学習目標を達成するための1つの手段であり、生徒に学習してほしい内容に対して効果を発揮できる1つの手段なのだな、とVR技術の捉え方が変化しました。学校現場にいる先生方にとってVRという言葉は少し教育と遠く聞こえてしまうのかもしれませんが、VR技術は、学校の先生方が普段の、授業を作っていく際に、どのような資料を活用して、どのような教具を使うのかを選択していくのと同じように、1つの手段として活用できるものなのだ、という感覚が伝わるとより教育現場でも身近になるのではないかと感じます。また、様々な専門分野の人々が教育を専門とする教員と協力して教材や授業を作っていくことは、お互いの専門性を持ち寄って新しいものを生み出す様子を生徒が目の当たりにすることのできる素晴らしい機会であると感じました。こういった機会が増えていくことがもしかしたら社会に開かれた教育課程を実現することにつながるのかもしれないと思いました。
11月19日(土) 152回目を迎える「千葉授業づくり研究会」を実施しました。
今回のテーマは「VRの世界を活かした新しい授業とは!?」です!!
当日は、XR(VR, AR, MR技術の総称)を活用して様々な教育コンテンツを開発・展開しているSOLIZE株式会社の増田秀仙様を講師にお招きし、教育現場で活用されているXRの体験会も併せて実施いただきました。
いつも掲載している弊会blogへの講演詳細レポートとは別に、今回は楽しい体験会の様子を先んじてお届けします。
体験させていただいたのは、「跳び箱VR」「バドミントンVR」「電気電子の街」です。
まずは「跳び箱VR」から体験の様子をご紹介!!
お次は「バドミントンVR」
最後は「電気電子の街」!!
初めての経験が続き、みな興奮したり、驚いたりと大盛況の体験会となりました。
今後、教育にこのような技術がどのように普及されていくのか期待が膨らみます。
何より、楽しい!!
SOLIZE株式会社の皆様には、お忙しい中ご準備をいただきました。
おかげさまで、貴重な体験をすることができました。
この場を借りて、心より感謝申し上げます。
また、当日ご参加いただきました皆様もありがとうございました。
8月26日 川口市立榛松中学校の中学3年生の生徒の皆さんへ向け、
遠隔(オンライン)にて、「ゲーム制作と数学の意外な関係」の授業を行いました。
榛松中学校の先生より、当日の素敵なお写真が届きましたのでご紹介します。
この授業は、プレイステーション®を手掛ける株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメント様と実施しているプログラムの1つで、ゲーム内のキャラクターを含む様々な物の動きに、数式が関わっていることを知る内容になっています。
数学を学ぶモチベーションアップに寄与すると、とても人気の授業です。
榛松中学校の生徒の皆さんは、元気のよいあいさつに始まり、明るい雰囲気の中、楽しそうに周りと相談したり、真剣にワークシートに取り組んだりする姿が印象的でした。
発表にも積極的に参加してくださり、和やかですが活発な充実した授業となりました。
こちらのプログラムは、今も授業応募募集中です。
興味を持っていただいた方は、ぜひご応募をお待ちしております。
今回の研究会では、スマートニュース メディア研究所主任研究員の宮崎洋子様を講師にお招きし、ご講演をいただきました。冒頭では本日の講演に関して、概要を説明頂き、ご自身の経歴等自己紹介もしていただきました。
◆◆SmartNewsについて
SmartNewsは「世界中の良質な情報を必要な人に送り届ける」ことをミッションとしています。日米で事業を展開しており、アメリカでの活動は8年目になるそうです。日本のアプリでも設定を変更することでアメリカのニュースサイトの情報を見ることができるそうです。
SmartNewsでは、「良質な情報」とは、さまざまな評価軸から情報の価値を判断し、多様なニュースや情報を必要な時にバランスよくとることと考えているそうです。そのために利用者が予想していなかった情報に出会えるということも大切にしているということでした。
具体例としてSmartNewsアメリカ版にて提供されている機能「News From All Sides」をご紹介いただきました。この機能は記事を政治的な傾向で分けて提示するため、自身がどの立場からのどのような記事を見ているのか気づくことの出来るようになっているのだそうです。講演後の質疑応答では、「News From All Sides」の機能が日本版アプリに実装されていない理由について質問がありました。講師からは、日本では米国ほど明確に媒体社や記者がイデオロギー的立場を明確にしているわけではないので、こういった機能の提供は行われていないというご回答をいただきました。
SmartNews日本版では、位置情報を活用した雨雲レーダーやワクチン接種会場の案内、花粉の飛散量などの情報提供等を行っているとのことです。
SmartNews日本事業のビジネスモデルもご説明頂きました。日本におけるSmartNewsは広告収入で成り立っているそうです。また、記事については3000社以上のメディアパートナーと呼ばれる媒体社と契約しており、これらのメディアパートナーから記事が提供されるとのことです。
媒体社から送られてきた数多くの記事は基本的にはアルゴリズムで解析され、頻繁に閲覧されている記事がどれなのかを分析、さらに似たような記事が重複して表示されないように選別し、カテゴリー分けなどを行った上でアプリにソーティングしていくのだそうです。ただし、社会的に影響が大きくなりそうな場合には、人間が入って調整することもあるそうです。
SmartNewsの中にはスマートニュース メディア研究所というシンクタンク機能を持った部署もあります。
スマートニュース メディア研究所で行っていることは主に3つあるそうです。1つ目は日本の地方紙、地方局のジャーナリストたちの支援です。具体的には、ジャーナリストたちがアメリカの地方に行って取材をするための資金援助を行っている、とのこと。例えば、日本と同じように購読者数が減少傾向にあるアメリカの地方紙を対象に、地方紙や地方局はどのように生き残っていくのかという話の取材などを行っているとのことでした。
2つ目はメディアとテクノロジーを巡り、さまざまな有識者の先生を呼んで研究会を行っているそうです。
3つ目はメディアリテラシー教育であり、今回はここに焦点を当ててお話しいただけるとのことでした。
スマートニュース メディア研究所では、メディアリテラシー教育用のオンラインシミュレーター教材の開発をしています。この活動の他にも、例えばメディアリテラシーに関連した研究をされている先生方の論考や、メディアリテラシーに関わる授業実践例をホームページにまとめて掲載する活動をしているそうです。授業実践例は自由に閲覧し、ダウンロードすることが可能となっています。
また、法政大学の坂本旬教授と共に『メディアリテラシー 吟味思考(クリティカルシンキング)を育む』という本を出版したそうです。
さらに教員向け「メディアリテラシー教育」研修プログラムの制作を検討しているそうです。
メディアリテラシーについては、「良質な情報」を届ける努力をしても、受け入れる側が「良質な情報」に興味がないと情報のエコシステムが成り立たなくなってしまうので、力を入れている活動でもあるそうです。
◆◆シミュレーター教材「To Share or Not to Share」について
●教材概要について
今回ご紹介いただいた「To Share or Not to Share」というシミュレーター教材は、新型コロナウイルスによる情勢の変化を機に、S N Sなどのデジタルメディアを念頭に、情報の受発信を学べるオンライン教材として開発されたもので、一般の学校の先生も無料で利用できるよう、開放されています。
さまざまな調査から10代の多くがSNSをコミュニケーションだけでなく情報を取得する手段として活用している現状が見えてきた一方で、2021年度の総務省調査からはインターネットの使い方を教わらずに利用している子供たちが一定数いることがわかり、ソーシャルネットワークを意識したシミュレーターの作成を行うこととなったそうです。
本教材にて学べるポイントは以下の通りです。
1、メッセージを批判的に読み解くこと。
2、情報の信頼性の判断は人によって多様であるということを可視化して、同じ情報であっても受け取り方が異なることを実感すること。
3、メッセージの信頼性をどのように確認したらよいのかということを話し合い、考えること。
4、アルゴリズムを意識すること。
5、デジタルメディアの特徴であるフォロワーが多いというのはどういうことなのか、コメントがあるかないかなども含めたメディアのデザインや機能などを考えること。
教材開発の際は、なるべくリアルなものを作ることを目指したそうです。また、ワークショップの専門家にも相談し、教材のゲーム要素を活かすための工夫も行ったとのことです。例えば、学習後に講師主導でポイントを確認するのではなく、感想などを書かせて、実は学生自身に日頃の情報取得などを振り返りながらに「気づかせる」仕様にしたというエピソードをお話しいただきました。この教材を活用した取り組みは、学会等でも発表されたそうです。
●ルール説明 & シミュレーション体験
このシミュレーションは記事のシェアを行うことでフォロワーを増やしていくというものです。条件は以下の通りです。
①スタート時、フォロワーは100人いる、②表示される“投稿”を「シェアする/限定シェアする/しない」と「信頼度」を組み合わせて、上手に拡散すると、フォロワーが増える、③投稿の中には「フェイクニュース」が隠れているが、フェイクニュースを拡散するとフォロワーが減る。
シミュレーション時には、“判断理由”を書くことが求められ、プレイ後はシミュレーションの結果あらわれた状態を各々比較しながらディスカッションします。そして、最後にまとめを行うという流れです。
依頼を受けて学校の授業でシミュレーターを使う際には、特に調べるようには指示しておらず、自分の普段のやり方で拡散するかしないかを決めてもらうことで、自身の普段の生活を振り返りつつ考えられるようにしているのだそうです。記事は10個表示され、実際にS N S等で投稿された記事が投稿者や日時と共に表示されます。これらの記事について、シェアしない、限定シェアをするのか、全体にシェアをするのかを選択し、その理由を書き込んでいきます。学生の中には、怪しいと思うものをいくつか検索する子もいるようです。投稿全てに回答が終了すると、最後に自身のフォロワーが何人増えたのか、どの投稿をどう扱うことでフォロワーの増減が見られたのかが記事ごとの解説と共に表示されます。結果は人ごとに異なるため、シミュレーションを行った後のディスカッションではどうしてシェアをしたのか、もしくはしなかったのか、投稿に対してその信頼度をつけた理由は何か、普段SNSを何の目的で使っているのか、フォロワー数を増やすにはどのようにしたらよかったのかなどを話し合ってもらうことになっています。
フォロワーの増減数は過去の参加者のシェア割合に応じて変化するという独自のアルゴリズムが組んであるそうです。ここから使っているアプリやインターネットサイトなどの後ろにもアルゴリズムというものが走っているということを意識して欲しいとねらっているとのことでした。
授業で伝えているメッセージとしては、同じ情報をみても、受け取り方は人それぞれであること、情報をシェアする前に、ちょっと立ち止まってほしいこと、アルゴリズムの存在を知ってインターネットを上手に使い、普段自分が見ていない情報にも触れてみてほしいことなどがあるそうです。
一度の授業ですべてを伝えるのはとても難しいことなので、その授業に合わせて伝えたいことは選択して欲しいとのことでした。
シミュレーションと解説の間にも参加者の方から多くの質問が寄せられました。例えば、「S N Sの投稿は全て許諾を取っているのか」という質問には「「SNSなどの投稿は公表物にあたるため、基本的には引用の要件を満たしていれば許諾は必要ない。本教材でも元の投稿のリンクに飛べるようにするなど、引用であることを示している」という対応をご教示いただきました。この対応に加えて、教材利用の手続きには、学校などでの教育利用であることの同意をいただいた上で、ご利用いただくようにしているとのことです。
今後の取り組みの一つとしては、本S N Sシミュレーターの投稿の下にコメントをつけ、そのコメントが肯定的か否定的かによって学習者の投稿に対する信頼度やシェアする度合が変化するという結果を得ており、コメントに関しても教材に組み込めていくことが出来れば面白いと考えられているそうです。
研究会の後半は講義内容に関する質疑応答の時間をとりました。
教職関係の方も多く、メディア教育に関するさまざまな感想やご質問が飛び交い、活発な活動となりました。ご質問はおおまかに①アルゴリズムに関するご質問、②スマートニュースアプリの構造に関するご質問、③情報とはどのようなものを指すのか、というご質問、④教材に関するご質問、⑤新しい教材のアイディアに関するご意見、⑥情報発信者としての意義に関するご質問、などがあり、宮崎様にはご丁寧にお答えいただきました。
今回、宮崎様から、利用者のエンゲージメントを重視するデジタル広告市場などビジネスモデルの変革期にあるとも考えられ、当面は、個々人のネットリテラシーを高めて対処していかなくてはならないのではない部分もあるのではないかという発言もありました。
全体の状況を俯瞰した上で学校教育において今できる最大のことを子どもたちに伝えていける、そういった教育を考えていくことがこの先も求められることであって、この積み重ねこそが時代の変化を生んでいくのではないかと感じました。
結びになりますが、ご講演いただきました宮崎さま、ご参加いただきました皆さま、誠にありがとうございました。
今回の金さまのご講演では、主に以下の3点についてお話をいただきました。
(1)外国にルーツをもつ子どもと、その教育の現状
金さまは、ご自身が大学院生の頃に、フィリピン出身の男子中学生だったケイタくんと、学習支援のボランティアで出会い、今まで障害を持っているなどと一度も聞いたことがないのにもかかわらず、特別支援学校に進学すると聞き、驚いたという経験をお持ちでした。
しかし、外国人と発達障害の両方の要素を併せ持つ人が参考にできる本や論文がないことから、金さまご自身の著書である『「発達障害」とされる外国人の子どもたちーフィリピンから来日したきょうだいをめぐる、10人の大人たちの語り』(明石書店、2020年2月)を出版するきっかけになったとのお話をいただきました。
統計データから日本で暮らす外国人とその子ども、日本語支援が必要な児童数は基本的に増加傾向にあり、千葉県では在留外国人数は全国6番目の多さであるそうです。また18歳以下の子どもは約1万8千人に上るなど、アジア圏を中心に外国にルーツがある子どもが多いとのことでした。
しかし、このような傾向があるにもかかわらず、日本語指導の環境が整っておらず、特に千葉県では、日本語指導が必要とされる子ども32人に教員の1人の配置という割合であること、また教員免許を持たない教員による週1コマなど短い時間での指導のみであることなどから、不就学や高校進学率、不十分な学習指導など、様々な課題があるとのことでした。
また、外国人の子どもが特別支援学級に在籍する割合が日本人の子どもに比べ、約2倍多いといったデータもあり、子どもや保護者の母国からもこの問題に関する疑念が向けられているそうです。
ここで問題となってくるのは「発達障害」についての解釈です。発達障害の原因は脳機能の障害とされていますが、科学的な根拠はない状況とのこと。従って、特別支援学級在籍者数は年々増加しているものの、実はそれは発達障害と診断することで教育上のリスクを回避するなど、管理の対象となっているという側面があるとのことでした。
上述の内容を踏まえて、金さまは、発達障害と判断された状態を疑い、外国人の子どもの困難に立ち返ることが必要であるとお話しされていました。
(2)発達障害とみなされていた外国人の子ども―金さまご自身の研究から―
そこで、カズキくんとケイタくんというフィリピンにルーツを子どもに焦点を当て、その高校進学までに関わった、教員や保護者など10人のインタビューの内容についてお話ししてくださいました。
そのインタビューの中には、子どもは外国人としての困難を捉えていたにも関わらず、学校側が障害児としての支援で解決を図っていたこと、そしてそれを可能にする発達障害等概念の曖昧さや、日本人の専門家を中心とし、外国人の子どもをもつ保護者と正当な対話ができていないまま説得する実情などが、実際の発話の記録とともに示されました。これには、衝撃を受けた参加者も多い様子でした。
また、これはカズキくんとケイタくんの事例だけではなく、日系ブラジル人の母親とその子どもを対象としたインタビューでも、外国人の保護者が教師等から不当な圧力を感じたり、強い抵抗をしたりしたにも関わらず、次第に教員の信頼や感謝という段階に移行し、最終的には学校側の提案を受け入れ、それを対外的に語るといった段階に至るとのお話がありました。
これらの事例を通して、金さまは、外国人の子どもが受けられる教育的支援・進路は限られており、その支援策として敢えて発達障害と診断することを選ばれてしまうこと。それにより外国人の子どもへの支援が不十分であるという問題が見えにくくなってしまっているという現状が、課題としてあるとお話ししてくださいました。
(3)この問題をめぐる最近の動向と留意点
『「発達障害」とされる外国人の子どもたちーフィリピンから来日した きょうだいをめぐる、10人の大人たちの語り』(明石書店、2020年2月)の出版後、文部科学省では、特別支援学級に在籍している児童生徒数を新しく調べたり、「障害のある子どもの教育支援の手引き」に外国人の子どもの特別支援教育について明記されたりするなどの変化はあったが、予算や人員拡充はなく、現状が大きく変わる可能性は少ないとのことでありました。
そのため、現場で留意して対応することが中心となっていきますが、金さまは、保護者への丁寧かつ、デメリットについてもしっかり言及するといった網羅的な説明を行うこと、すぐに「発達障害」と疑い始める前に、まずは教師側から子どもへの支援や、子どもやその保護者等との対話が十分かどうかを確認すること、発達障害の診断に関わる人には、外国人の子どもの日本語学習歴などの学習状況、自治体・地域などの日本語指導などの施策の充実度など社会的データも資料とすることが現場では必要である、とのご意見をいただきました。
また、子ども同士のかかわりが外国籍の子どもの支えになっていたことから、そのような環境づくりに加えて、教員がサポートし続けるという意識を持つこと等についても、考えていく必要があるとのことでした。
金さまのご講演の後に、千葉県の小学校で学校長や教育委員会の指導主事を務めた経験があり、現在は企業教育研究会職員を務めている古谷成司さんから、外国にルーツをもつ子どもに関する教育現場での実情について話しました。
その後、質疑応答を行いました。主に、学校現場での現状や外国人の子どもをめぐる特別支援に関して、参加者の皆様と議論を交わしました。議論の中で、教員は特別支援教育が悪いものではないという認識を持っていること、しかし在留資格の関連で特別支援学校に進むことで選ぶことのできる選択肢が極端に狭まり、危機的な状況に陥ることになる可能性もあるにも関わらず、その説明を学校側から行われていないケースも多いとのことを知り、外国籍の子どもをめぐり、学校現場に様々な課題があること、そして対処をしていかなくてはならないとの課題意識を広く共有することができました。
筆者個人といたしましては、外国籍の子どもが増えているという現状の中で、まずは外国籍の子どもと、その彼らを取り巻く人々と、「対等に」対話を重ねる機会をもつことが大切であり、外国籍の子どもと、その彼らを取り巻く人々の声を「聴く」ことを一層重視していく必要があると感じました。ご講演いただきました金さま、ご参会いただきました皆さま、ありがとうございました。
2022年5月29日、弊会総会にて2021年度会計報告をし、承認をいただきました。
平素より弊会の活動にご理解とご賛同をいただき厚く御礼申し上げます。
会計報告と共に、報告書に記載の京葉銀行様のSDGs寄付型私募債(私募債発行企業:株式会社船越組様)を通じたご寄付についてご紹介します。
こちらは、京葉銀行様のSDGs寄付型私募債を通じ、船越組様がSDGs活動として掲げる「4.質の高い教育をみんなに」を図るべく、その貢献に寄与する団体先として弊会へご寄付いただいたものです。
ご寄付のみならず船越組様には、平成25年度より実施している出張授業プログラム「千葉県の建設業の仕事~建設現場をのぞいてみよう~」の立ち上げに際し、建築現場の貴重な資料を提供いただき、初年度の授業については授業者としてもご協力いただいています。
SDGsで実践すると掲げた目標に対し、意欲的に活動されている船越組様よりご支援いただけましたこと、弊会として大変嬉しく思っております。
賜りましたご厚意は、弊会の掲げる『子どもたちにとって教育効果が高い授業を届ける』ために有効に活用させていただきます。
今後ともお力添えをどうぞよろしくお願いいたします。
■ご講演の内容
今回の研究会では、独立行政法人国際協力機構(JICA)東・中央アジア部の篠﨑祐介さまをお招きし、ご講演をいただきました。冒頭では本日の講演内容に関しての概要と、これまでのご経歴を基に自己紹介をしていただきました。
〇なぜ国際協力を行うのか、ODAとは
世界の人口の約8割が開発途上国で暮らしている状況であり、具体的にはどのような状況が発生しているのかをフィリピンのサイクロンの被災地、シリアなどの難民キャンプ、ナイジェリアの小学校、ザンビアの病院、タイの洪水、インドネシアの大渋滞などを例に、お話しいただきました。
また、日本のエネルギー自給率は低く、海外から輸入している点、食料自給率も低くこちらも海外からの輸入を行っている一方で、日本の自動車や機械などの工業製品やマンガ・アニメ・観光などのサブカルチャーの輸出を行っており、日本と海外の繋がりは密接なものであるというお話をしていただきました。
先進国から新興国・途上国への経済力シフトが進展しており、中国をはじめとするBRICSの急成長によって新興国・途上国の経済規模は総額ベースでいうと先進国を上回っている状況があること。加えて、2030年の世界では中国・インドの経済力拡大、アフリカの人口増大、日本の相対的国力の低下などが予測されているため、日本も新興国や途上国と結びつきを強め、その勢いを享受していく必要があるとお話をしていただきました。
貧困撲滅という観点からは、極度の貧困は世界全体から見ると確かに減少していますが、減少しているのは東アジア地域などで、南アジア・サブサハラ・アフリカ地域では貧困層の割合の減少があまりみられないため、人道的な配慮は引き続き必要であるそうです。
日本もかつてガリオア・エロア資金や世界銀行からの融資など返済義務が無いものも含め多くの支援を受けており、東海道新幹線、東名高速道路、黒部第四ダムなどはこれらの資金を利用して整備されました。援助で受けた資金の完済は1990年の7月であり、まだ約30年しか経っていません。
借りた資金を有効活用しアメリカと並ぶ経済大国になった日本は、今や他国の援助を実施する国となりました。この経緯より、日本は援助における模範生とも呼ばれているそうです。
多国間援助という複数の国家が連携して援助するという形態は、途上国での開発課題が多様化し国境を超えた問題も多々あり、一カ国の支援では解決できないことも多くなってきたため近年拡大してきています。また、人道的な観点からも、日本への影響の考慮という点からも、一か国で援助できない場合でも放置はできないため、このような方法は大切だということをソマリアの例を挙げてお話しいただきました。
日本は軍事力を通じた支援などが出来ない点からも国際協力の場を通じて世界に貢献していくことは重要であるとのことでした。
ODAとは政府開発援助のことで、日本の支援の特徴の一つは相手国のオーナーシップを重要視する点で、意見交換を通じながら相手国の自助努力を推進します。ODAの予算は1997年がピークで現在は減少、安倍政権以降微増していますが、2020年度各国のODA実績(総額)では日本は第4位です。いわゆる先進国は対GNI比0.7をODAに充てることが目標とされていますが、北欧や英国などの数カ国以外は未達成国が多く、日本も未達成です。日本国内における内閣府の調査では、ODAに対して国民は比較的好意的な意見が85%を占めており、貧しい国に対して援助すべきという意見は44%とのこと。これについて、当事者としては、これほど好意的に感じてくれているのか、事業を通じては見えづらいと感じられるそうです。
ただ、こういった支援などで密接なかかわりを持っているため、東日本大震災の際には、100か国以上から日本への応援メッセージが寄せられたそうです。
〇JICAの役割と事業内容、身近な国際協力事例
ODAの中には二国間援助と多国間援助という分類がありますが、JICAは二国間援助を担い、様々な経済開発、経済協力のスキームやメニューを持っています。
JICAの正式名称は独立行政法人国際協力機構であり、2008年に国際協力銀行の海外経済協力業務(有償資金協力を行っていた部門)と統合、2008年10月から技術協力、無償資金協力、有償資金協力すべてを一元的に行う実施機関となりました。
通常は、途上国の開発課題に対してどういった解決方法を提示できるか、相手国と共にその内容を考え、その後、実施段階では内容をモニタリングして次の政策に生かすPDCAサイクルを意識し援助を行っています。
技術協力・有償資金協力・無償資金協力、全てにおいて相手国の課題背景を加味し、日本がもちうるリソースを用いて解決を目指すオーダーメイド式の支援を行っているそうです。
活動の三本柱の一つである技術協力では、開発の担い手となる人材の育成のため、相手国の行政官や研修員の受け入れを行い、日本国内における行政の方法や技術を伝えています。
また、日本から技術者を派遣して専門的な知識の移転を実施することもあり、それにあわせて機材供与などを行うこともあるとマラウイの灌漑開発の事例などを提示しつつお話しいただきました。
有償資金協力とは資金を緩やかな条件(低金利・長期返済期間)で貸し付ける形態の援助で、大規模な支援が行い易く、途上国の経済社会開発に必須なインフラ建設等の支援に効果的であるそうです。途上国に返済義務を課すことで自助努力を促す効果をもち、貸借関係があることで、その国と中長期にわたり安定的な関係を維持することも期待できます。例として、タイの空港やインドの鉄道、モンゴルの空港などをあげることができるそうです。
無償資金協力とは開発途上国に資金を贈与する援助形態であり、有償資金協力に比べると小規模な援助となりますが、国際社会のニーズに迅速かつ機動的に対応するための有効な手段となります。目に見える形(ビジビリティ)の効果が期待できるそうです。
緊急援助隊事業では、主に自然災害に対して派遣されることが多く、多様な関係者と連携も行いつつ支援を行うとのことでした。
海外協力隊のようなボランティア事業もこの一環で、92カ国に派遣、約200以上の職があり、今までに45,000人以上が協力隊として活動しています。
身近な国際協力の事例として、フィリピンのミンダナオにて平和と開発、南スーダンのスポーツを通じた平和構築、エジプトでの日本式教育の導入、チリにおける日本産サケ類移植プロジェクト、ブラジルのセラード開発があるそうです。
〇難民・国内避難民支援
難民・国内避難民支援の具体例としてはシリア内戦、南スーダン不安定化等で難民が増加したとのこと。難民の84%は発展途上国が受け入れていますが、受入国側の負担も大きく、緊急・人道支援機関も予算が厳しい状況にさらされているそうです。JICAが難民を支援する場合には、紛争地帯での活動が難しいため、難民を受け入れている周辺の国家に対する行政支援や財政支援を行うことが多く、難民を対象にした人材育成など生計能力向上の支援や、難民を留学生として日本に受け入れる対応、周辺国家に対するインフラ支援なども駆使して出来うる支援を行っているとのことでした。実際の支援例としてはウガンダの南スーダン難民受入地域支援、ウクライナ難民にかかるモルドバでの支援、アフガニスタン支援などがあげられるそうです。これらの具体例について、詳細にお話しいただきました。
〇外国人材とODAの協働
外国人労働者を技能実習生や特定技能として日本に受け入れ、日本の技術を学んで母国に戻った後にその技術を活かしてもらう枠組みがありますが、農業分野では日本で学ぶ技術のレベルが高すぎて母国で活用が出来ないことや、事前事後の研修なしに単純労働だけ行って帰っていくため技術が習得・更新されず、母国へ戻っても就労できないなどの問題点も多かったため、JICAではそれぞれの技能実習生に合った野菜の日本と途上国の産地間をマッチングさせる取り組みを発案したことをお話しいただきました。今までの制度は、日本の監理団体より途上国側に技能実習生を派遣して欲しい時期と人数を提示した依頼を出すと、途上国側の送出機関が人数を揃えこの依頼に応じ、監理団体と送出機関間で契約が成立すると技能実習生が日本へ送られてきますが、実習生のバックグラウンドを問わなかったため、技術の定着や成果の活用が難しい状況でした。JICAが提案した枠組みは人材のリストを作成し、バックグラウンドを加味して、産地間をマッチングさせて派遣するものです。現在、この枠組みは導入したばかりであるため今後の経過を見守りつつ、外国人材への支援を検討していく必要があるとお話しいただきました。
〇講義を踏まえての質疑応答・ディスカッション
講義後のディスカッションでは、参加者の皆さんの質問を大まかに①ODAやJICAに関するご質問、②海外における協力事例に関するご質問、③日本国内での取り組みに関するご質問、④その他のご質問などの四種に分類し、順番に篠﨑さまにお答えいただきました。今回の参加者には教育に携わる方も多かったため、JICAに関わる方々のキャリアや専門性、国際関係に関して生徒にどのように教えていくのか、生徒たちも実感できるような支援上の具体例などはないか、JICAが支援する際にはどのような立場の人々と支援の折衝を行うのかなど教育に関連する質問等が多く挙がり、お答えいただきました。今回、篠﨑さまにお話しいただいた技術協力などに関して、関わっていないと想像できないようなお話がたくさんあり今後のキャリア学習などで役に立つのではないかと思いました。個人的には日本の母子手帳のシステムが海外で活用されているお話などは、生徒たちも身近に感じられるような実例として面白いと感じました。
JICAと聞くと新興国・途上国を支援しているらしい、というところまでは生徒たちもなんとなく知っていることであるとは思いますが、実際にどのような活動をしているのか、どんな理念で、その結果どのような状況が齎されるのかまで想像することはあまりないと思います。実際に使われている技術やどのような影響が現れたのかを、開発協力の当事者に聞くことでより想像しやすく、また自身の視点との相違を意識しながら考え直すよいきっかけになっていくのではないかと思います。自身が授業を作る際の参考になる素晴らしい機会であったと思います。
結びになりますが、ご講演いただきました篠﨑さま、ご参加いただきました皆さま、誠にありがとうございました。
文責・企業教育研究会 木口恵理子
2022年4月16日(土)に第148回千葉授業づくり研究会「緊迫する国際情勢に子どもと一緒に向き合うには?」を開催しました。前回同様、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止のため、オンライン会議ツールZoomを用いて実施しました。
■ご講演の内容
今回の研究会では、朝日新聞社論説委員の沢村亙さまを講師にお招きし、ご講演をいただきました。講演冒頭では、論説委員の仕事内容や、海外での滞在歴、今までに取材に出向いた場所等についてお話しいただきました。お仕事の内容として、社説やコラムをお書きになっていること、1986年に朝日新聞社に入社されてからの半分以上を欧米などの海外で過ごされたこと、ユーゴスラビア紛争、チェチェン紛争などで、現地に赴き取材されてきたことなどのお話を頂きました。
〇欧州の歴史とそこから見るウクライナ侵攻の衝撃
連日、ロシアのウクライナ侵攻が様々なメディアで報道されている中で、なぜこれほどまでに世界へ衝撃を与えているのか、その要因について、欧州の歴史を踏まえつつ、お話していただきました。欧州では歴史的な経緯から国と国の境目が複雑に入り組んでおり、1つの村に複数の国の国境線が通っていることもあるそうです。例えば、オランダとベルギーの境にある村では、店舗の中に国境があり、ある日はオランダ側から店に入り、また別の日にはベルギー側から入る事もできるというお話がありました。また、欧州では長い間、王や宗教権力による専制階級社会であることや、産業革命や世界大戦などの時代を経たことなどから、常に争いが絶えない地域であること、またそのような争いをどう協力して生き抜くかという考えから、欧州連合(EU)のように国境の垣根を低くしながら結びつきを強めてきたことについてお話しいただきました。このような隣国との結びつきが強い欧州の東部に位置しているウクライナに、突然大国であるロシアが侵攻したために、世界への衝撃やその影響力が大きいとお話しされていました。
〇欧州の分裂と統合
欧州の歴史のお話に引き続き、欧州に着目し、欧州の分断と統合の背景についてお話しいただきました。欧州で分断が起きている要因としては、紛争、歴史、ナショナリズム、移民等への価値観の変容が挙げられていました。欧州は国と国の統合への反動として、言語や文化の独自性を担保したい地域や民族が不満を抱き、対立が起きてしまうこと、また一部の政治家が、過去に支配された国や民族の歴史や、ナショナリズム、民族主義を後から持ち出し、紛争につながる要因になってしまったこと、実際は富をめぐる経済的な理由から争いが起きてしまっていることなどを、お話ししていただきました。
このような分断が起きていても、なお欧州の国々の結びつきが強い理由としては、標準化、グローバル課題への対処、安全保障、多様性といった観点からお話ししていただきました。27ヵ国が集まり、共通の決まりを作ることで、それを国際標準にしやすいこと、また、今まで培ってきた、多様な意見を1つに集約するという力を生かして、地球温暖化などのグローバルな課題への対処を行っていること、隣国との結びつきを強めることで、隣国に対する防衛費を減らせ、その分を社会保障等に回せること、様々な背景を持つ人と共生している多様性が豊かなこと等が、統合のメリットとしてお話しされていました。
〇アメリカの歴史と西側諸国の課題
ここまで欧州に着目してお話しされていましたが、世界の中で大きな影響力を持つアメリカ合衆国について、次にお話ししてくださいました。アメリカは、対外に関与する外向きの外交と、アメリカ国内に閉じこもる内向きの外交を繰りかえしてきた歴史があり、またアメリカは国境を接している国が主にカナダとメキシコのみという、いわば「巨大な島国」のようなものとして、攻められにくい地形であると述べられていました。次に、沢村さまは、かつて冷戦でアメリカが勝利を収めたとする考え方があったことを述べ、一方でそれを懐疑的にみなす風潮にも触れながら、冷戦構造がアメリカに及ぼした様々な影響についてお話しされていました。まず、イラクやアフガニスタンなどで長期にわたる戦争を行い、多数の犠牲者と戦費を出してきたこと、リーマンショックをはじめとした金融危機やその時の富裕層への支援の強化、主に製造業での中国をはじめとしたアジアへの雇用流出等がもたらした経済格差の拡大、中国が軍事的に、特に科学技術分野や経済面で急成長していることへの危機感、人口構成比が変わっていること等を挙げられていました。また、このような背景からトランプ氏が大統領に選ばれ、アメリカ・ファーストを推し進め、多くの白人労働者層の支持を得るといった経緯があることをお話しされていました。また、そのような経緯を踏まえて、西側諸国で、政府や議会、メディアなどの組織・機関への信頼の喪失、陰謀論のようなものが出てきたこと、自由主義への不信などが、共通の課題として見られるとおっしゃっていました。
〇ロシアの国際的な役割や時代背景から見た、ロシアのウクライナ侵攻の衝撃
ここまで主に欧米に着目して歴史と時代背景をお話しいただきましたが、現在ウクライナ侵攻を行っているロシアの国際的な地位、置かれた立場等に着目し、ウクライナ侵攻の背景やその衝撃の大きさについてお話ししてくださいました。ロシアは国連安保理の常任理事国として拒否権を持つ国であり、また核保有国として国際秩序の安定に努力すべき大きな責任を負うことを挙げ、それにもかかわらず今回の隣国への一方的な侵攻に踏み切ったことが衝撃的であると述べられていました。また、冷戦後にロシアへの西側諸国の関心が低下する一方で、ロシアがエネルギー資源を活用して、富と軍備を増強し、自信をつけたこと等があり、ウクライナへの侵攻に至ってしまったのではないかということなどをお話しされていました。
〇中国
連日の報道で、中国のロシアに対する発言が度々報道されているように、ロシアと結びつきの強い中華人民共和国について、次にお話しされていました。当初、西側が期待していた経済発展による民主化は実現せず、一方で西側諸国の経済的・政治的な停滞により生じた民主主義に対する軽蔑の感情もあることから、民主的選挙のない中国では民意が反映されづらいという共産党一党体制の弊害も発生しているとおっしゃっていました。また、その他の課題としては、格差社会、少子高齢化、台湾をめぐる緊張の背景についてもお話ししてくださいました。
〇戦争・紛争をどう伝えるのか
上述の国々の歴史や、それを取り巻く時代背景、そして現在の国際情勢について、ここまで興味深いお話しをたくさんいただきました。それらを踏まえて、それらをどう「伝える」のかという観点で次にお話ししていただきました。ジャーナリズムは中立の立場を取り、たとえば英国のBBC放送が英軍について「我が軍」といった呼び方を使わないなどの公平性を保っていたり、時には人道など普遍的な価値観への攻撃に反対する役割を担ったりしてきたにもかかわらず、それが時代の流れの中で、ジャーナリズム自体が攻撃され、ジャーナリストが犠牲になるなどの事態も生じているという大きな変化が起こっているとお話しされていました。また、軍備などの技術の進歩により、戦争自体が見えにくくなっていること、昔は「軍と軍」の戦いであったのに対し、現在では軍とテロ組織などといった、「軍と軍以外の戦争」となるなど、戦争が非対称になっていること等の戦争の変化を挙げ、そうした状況で戦場で何をどのように伝えるべきかが重要な課題になっているとのお話を頂きました。
〇戦争・紛争をどう知るのか
インターネットが普及している現代で偽の情報、フィルターバブルやエコチェンバーなどの、情報の受け手が好ましい情報のみを受け取るため情報が偏ってしまうこと、立場の違いによる主張の違いがあることなどを問題として挙げ、公正な情報に接すること、どうしたら戦争を防ぐことができるかを考えること、戦争という悲劇をより身近なものとして感じることなどが重要であるとお話しされていました。また、情報の受け手に戦争を身近に感じてもらうために、沢村さまは現地でストーリーを探すことを大切にし、たとえば難民の方には避難する直前にしていたことを聞くことなどで、日本人に親近感を持ってもらうなどの工夫をされていたとおっしゃっていました。
〇子どもにどのように戦争を伝えるのか
講義の終盤に、NGOである、セーブ・ザ・チルドレンの方からの、子どもと戦争のことについて話し合う際には、あえて目を背けるようなことはせずに、子どもの気持ちに寄り添い、子どもと話すタイミングを大切にして、それぞれの年齢にあった説明をすること、助けたいという想いを子どもが持ったらその想いを応援すること等のアドバイスを紹介して下さいました。
■講義を踏まえての質疑応答・ディスカッション
以上の沢村さまのご講演の後、質疑応答・ディスカッションを行いました。その中で、沢村さまの海外でのご経験や、紛争地域でのジャーナリズム活動、西側諸国の歴史、現代の社会情勢、教育にどのように活かしていくのか等について質疑応答や議論を行いました。その中でも、特にどう教育に活かしていくのかという点について、参加者の皆様と議論しました。沢村さまご自身のご経験や、ジャーナリストというお仕事の実情等を伺い、よりリアルなお話をお聞きすることで、子どもに戦争をどう理解してもらうか、またキャリア教育への応用への可能性、子どもの年齢や実情に合わせ、教員が公正・中立な立場から話すとはどういうことか、その出来事が起こった理由や時代背景について教えるなど、「知る」ことが大切であること、正しい情報を見極め、伝えることが大切であることなどが挙げられました。また、インターネット社会における情報の偏りを減らすためには、新聞やラジオなど、伝統的なメディアなど幅広く接することで新たな情報との偶発的な出会いを増やすことが大切であるのではないかとのご指摘もありました。
筆者個人といたしましては、今回のご講演を通して、まずは戦争の現状・背景を正しく知ること、そしてそれを子どもの想い、年齢等を踏まえて、丁寧に伝えることの大切さを強く感じました。デリケートな話題だからといって、子どもに伝えることから目を背けるのではなく、まずは自分自身が、時には子どもと一緒に、戦争について公正な情報を得て、正しく理解すること、そしてそれを子どもの想いや実情を一番に考えて、伝えることが必要だと思います。そうすることで、戦争や平和について適切に理解し、想いを馳せたり、支援したりすることができるようになる大人になること、そしてそのような人を育てることにつながるのではないかと思います。そして、それはとても大切で、かつ素敵なことではないかと考えています。
結びになりますが、ご講演いただきました沢村さま、ご参加いただきました皆さま、誠にありがとうございました。
文責・企業教育研究会 菅谷美玖
企業教育研究会(以下、ACE)では、アクセンチュア株式会社と連携し、配布型教材「ひな社長の挑戦」を新たに開発しています。この教材は、ACEとアクセンチュア株式会社が提供している既存の出張授業「考え、議論する道徳・キャリア教育」の世界観に沿った内容になっています。既存の出張授業では、生徒がアニメーション教材のストーリーの中で架空の会社「天漁社」の社員となり、会社の経営課題の解決策を考え、議論します。新教材では「天漁社」が起業される時のストーリーに沿って、生徒が社会課題の発見、諸資料を活用した探究活動、解決策の考案までの一連の過程を体験し、今後の社会において求められる「現実的な課題を設定し、自ら思考して実行に移すことが出来る姿勢と能力・技能」を学びます。
体験セミナーでは、「ひな社長の挑戦」を多くの学校で活用していただくため、まず最新の社会状況と、今後の社会で求められる能力・技能について先生方に講演を行い、その後、実際に教材の一部を体験していただく機会を設けました。
セミナー前半では、アクセンチュア株式会社の藤田学さまより、デジタル技術の発展や働き方の多様化、インクルージョン&ダイバーシティの促進といった日本の社会の変化と、それに伴い必要とされる次世代型人材についてのお話がありました。参加者の先生方からは、学校の中からでは気づきづらい実社会の最新状況を知ることができたという感想が寄せられました。その後、ACEの講師が教材の一部を用いた模擬授業を行い、先生方に授業を体験していただきました。模擬授業後のディスカッションでは、実際に先生方が教材を用いて授業を行う場面を想定した改善点や、より生徒が学びやすくなるための様々な立てが提案されました。
今後は、セミナーで得た知見を活かして教材を改修し、学校への普及に向けて取り組んで参ります。
ご講演いただいた藤田さま、参加者の皆さま、ありがとうございました。
2021年12月18日(土)に第147回千葉授業づくり研究会「子どもの自立的な職業観形成を促す、新しいキャリア教育のあり方とは!?」を開催しました。前回同様、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止のため、オンライン会議ツールZoomを用いて実施しました。
今回の研究会では、アクセンチュア株式会社のコーポレートシチズンシップ(企業市民)活動にて次世代の人材育成プログラムを推進する藤井篤之さまにご講演いただきました。
研究会前半は、デジタルテクノロジーの発展や、社会で求められる人材の変化について藤井さまにご講演いただきました。講演ではデザインシンキングによる実社会の課題解決事例や、サービスデザインのプロセスを学ぶ教育プログラムの事例をもとに、次世代に必要なスキルとキャリア形成について説明いただきました。後半は、「多様な働き方・生き方の中から自立的に自らのキャリアを形成していく力を育む」キャリア教育のあり方について、参加者の皆様と議論しました。
−−−−−−−−−−−−
【講演概要】
・アクセンチュア株式会社の概要
「テクノロジーと人間の創意工夫で、まだ見ぬ未来を実現する」という企業コンセプトや、変革を起こすための道筋の描き方、プロジェクトに携わる様々な業種、国内外にまたがる幅広い取り組み等についてお話いただきました。学校では触れることが難しい企業の最先端の取り組みを知り、参加者は新鮮な衝撃を受けていました。
・ビジネス環境の変化と日本の位置
昨今のビジネスでは「将来創出されるであろう価値(FV)」の重要性が高まっていることや、世界では持続可能性による新しい競争ルールができていること。一方で、日本企業ではFVの伸び悩みによる企業価値の伸び悩みの問題などについてお話しいただきました。日本で起業が少ない原因として「失敗に対する危惧」や「身近に起業家がいない」こと、「学校教育」などが指摘されているデータから、キャリア教育の問題にも言及されました。
・デジタルテクノロジーの発展
AIや、オンライン上のバーチャル空間の活用について、JALにおけるAIコンシェルジュや、TIKTOKのAI技術、ライブコマース市場の成長、バーチャル空間におけるコンサートなど、幅広いジャンルにおけるデジタルテクノロジーの活用事例をご提示いただきました。参加者はビジネス界で活用される事例から、情報化社会の最前線に触れることができました。
・求める・求められる人材の変化
AIの進化に伴う求められる人材の変化や、近年の価値観の変化に応じた働き方の多様化についてお話いただきました。藤井さまによれば、今後の社会では定型的な仕事はAIに代替され、AIの活用者が不足すると推定され、AIに代替可能な仕事とそうでない仕事の間の賃金格差が拡大する可能性があるそうです。このような社会では人間とAIの役割分担を意識した業務再設計が重要になると藤井さまはおっしゃっていました。また、NETFLIXの自由なカルチャーの事例から、参加者は働き方の多様化について具体的に知ることができました。
・次世代に必要なスキルとキャリア形成とは
今後の社会変化の中では「現実的な課題を設定し、自ら思考して実行に移すことが出来る姿勢と能力・技能」を持った次世代型人材が求められることを指摘した上で、課題解決の際の具体的な思考プロセスとしてサービスデザインアプローチについて事例を交えて紹介していただきました。また、中高生を対象とした教育プログラムの事例についても提示していただき、今後のキャリア教育へのヒントをいただきました。
−−−−−−−−−−−−
【質疑応答、意見交換】
ビジネス環境の変化と日本の位置については、参加者から日本では「「失敗しないこと」を前提に動く人が多い」のはなぜかという質問が挙げられました。藤井さまからは、日本では「失敗しないこと」が重視される傾向があることや、「自分の考えを否定されることをネガティブに捉えがち」で「空気を読むことが重視される」文化であることが理由として示されました。また、藤井さまによると、グローバルコミュニケーションにおいて、空気を読むことに代表される日本人の特徴は否定的な見方をされるのではなく、尊重されるようになってきているそうです。学校ではグローバル社会で働くことを想定し、自分の意見をはっきり表現する力を育成することが重視されてきました。一方で、ビジネス界では様々な国の文化を互いに意識し合う動きが見られるということについて、参加者は新しい気づきを得ることができました。また、「どのような手段で日本は稼ぐ国を目指すべきか」という質問に対しては、藤井さまから「製造業は日本の強みであり続ける必要がある。また、日本はタブーが少なく色々なコンテンツを作ることができる。日本で生まれたコンテンツを世界に発信するプラットフォームができれば、コンテンツも産業の強みに出来る」というご意見をいただきました。また、藤井さまは、リアルとデジタルの組み合わせによって価値を生むチャンスも、重視していく必要があると指摘していました。
デジタルテクノロジーの発展については、学校の先生方からAI活用の具体事例が知れて良かったという意見が挙がり、関心の高さが伺えました。
求める・求められる人材の変化については、企業における社員育成のプロセスや、自己肯定感を高める工夫についての質問が挙がり、企業の教育プログラムから学校のキャリア教育へのヒントを得ることができました。また、「失敗を恐れない姿勢を育成することと、成功体験の機会をつくることの兼ね合いをどのように取れば良いか」という質問に対しては、藤井さまから「大人のサポートの枠組みを決め、子どもに成功させる部分と、失敗しても良いから子どもに任せる部分をつくる」という方法が提案されました。他にも「論理的思考を養うためにはどんな取り組みが良いと思いますか」という質問に対しては、「数学だけでなく、社会科や国語の時間で問いを分解していく活動が重要だと考えている。社会科や国語の裏にあるロジック、例えば社会の現象を数字に落としていくことでロジカルに分析することを学ぶ方法ができるのではないか」というアドバイスをいただくことができました。
次世代に必要なスキルとキャリア教育については、次世代に求められるスキルと文部科学省が掲げる「基礎的・汎用的能力」との関連について議論を行いました。
今回の参加者は学校の教員が多く、社会の最新状況への関心の高さが窺えました。今回の研究会が先生方にとって企業の最先端の取り組みを知り、今後のキャリア教育の方向性を考えるきっかけとなれば幸いです。
ご講演いただきました藤井さま、ご参加いただきました皆さま、ありがとうございました。
文責・企業教育研究会 明石萌子
2021年11月20日(土)に第146回千葉授業づくり研究会「テクノロジーを活用した学校教育のアップデートを考えよう」を開催しました。今回も引き続き、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止のため、オンライン会議ツールZoomを用いての開催となりました。
今回の研究会では、学校教員を経て、現在はITエンジニアとして働きながら個人的な活動として、テクノロジーを活用した学校教育の改善方法を検討されている寺井省吾さまを講師にお招きし、ご講演いただきました。
研究会の前半では、寺井さまが開発された席替えメーカーを実際に参加者の皆様に体験していただいた後、寺井さまが考えるテクノロジーを活用した学校教育のアップデートについてお話ししていただきました。また後半では、席変えメーカーへのフィードバックや学校でのテクノロジーの活用の仕方について参加者の皆様と議論しました。
−−−−−−−−−−−−
講演では、主に以下の点についてお話をいただきました。
・席替えメーカーについて
寺井さまは中学校教諭として働く中で学校現場には沢山の課題があることに気づき、課題解決をより幅広い方法で行うことを目指してエンジニアに転職され、現在は個人的に席替えメーカーなどの教員の業務を改善するWebアプリを開発されています。講演の冒頭では、まずこの席替えメーカーについてお話いただきました。
この席替えメーカーとは、席替えの「原案をつくる」アプリだそうです。特徴は、Webアプリのため日本中の教師が無料で使えること、また教師目線に立った細かな条件を指定できるという2つがあるとのことでした。教師目線というのは、例えば目が悪い子を前の列の席になるように配慮したり、授業中お喋りしてしまう子どもたちの席を離したりという条件を設定できるということだそうです。
参加者の皆様には、まずはアプリを使用しない普段の席替えを体験していただきました。その上で、実際に席替えメーカーを使用してもらい、アプリなしとありでどんな違いがあるのか考えていきました。参加者の方からは、アプリを使用することによって、一定の条件下で何度も試行錯誤ができることや、時間効率がよくなること等が挙げられました。
その後、寺井さまから、アプリなしで席替えを行う際の、原案をゼロから作ること、毎月考える必要があることという、人がやると大変なことは、実はコンピュータが得意なことだというお話をしていただきました。ただし、全てをコンピュータに任せるのではなく、「AとBを離す」「Cを最前列にする」といった生徒の条件を考えることや、全体を見て細かな人間関係を踏まえて席を調整することは、教師が行うことが大切なのだと仰っていました。コンピュータに任せるのは、最後に調整することが前提の座席の原案を作ることであり、それによって教師は効率的に時間を使うことができるとのことです。
・実現したい世界
寺井さまは、子どもたちのために日々頑張っている教師が、非効率な作業によって時間を奪われていることに問題意識を感じたそうです。そのため、寺井さまがアプリを開発する理由は、一人一人の子どもと向き合うことや授業準備など、本来教師が時間を費やしたいことに時間をかけられるような世界にしたいからとのことでした。これによって結果的に、教師の頑張りが最大限子どもに還元されることとなり、子どもにとっても教師にとってもみんなが幸せになることに繋がるのだと仰っていました。
・学校の中からできなかったのか
また、上記で述べた実現したい世界についてなぜ教師としてできなかったのかについてもお話ししていただきました。
寺井さまは教師だった時に、休校中のオンラインによるコンテンツ配信や、Slack等による教師同士の連絡を学校に提案したそうです。しかし、セキュリティや予算の問題から、上記のようなツール導入のハードルが高いことに気づいたとのことでした。
その時に、寺井さまは、いきなり学校全体に大きなシステムを入れるのではなく、クラスで導入できるレベルから始めることが大切だと思ったそうです。小さな成功体験を積むことによって、次第に学年・学校・都道府県・全国へと広まり、問題解決に繋がるのではないかと考えたとのことでした。そこで、日本中の教師が使えること、クラス単位で導入できること、できるだけセキュリティや個人情報の責任が発生しないような領域で使えるアプリ開発をすることを決断したそうです。
他にも席替えメーカーだけではなく、学校全体の時間割の原案を作るアプリ「教務時間割メーカー」や、席替えメーカーに班長を指定すると自動で班を分散させる「班機能」を持たせることなどのアイデアについてもご紹介いただきました。
また最後には、実際に教育現場で働かれている寺井さまの同級生の方が使っているツールについてもご紹介いただき、寺井さまの講演は終了しました。
−−−−−−−−−−−−
寺井さまからご講演をいただいた後、質疑応答や意見交換を行いました。
前半では、参加者の皆様から、席替えメーカーへの新たな機能の要望やフィードバックを行いました。参加者の方からは、席替えのみならず、グループ分けやチーム編成の際にも役立ちそうというご意見のほか、教師が使うのでなく生徒自身が席替えメーカーを使う事例についてもご紹介いただきました。
また後半には、テクノロジーの活用によって学校の仕事で改善したい点について中心に議論を行いました。参加者からは、「児童生徒が自身の学習ポートフォリオを作れるシステムが欲しい」という意見がありました。情報セキュリティの課題がありますが、こうした児童生徒の成長をテクノロジーで「見える化」することは一定のニーズがありそうです。この他、実際に学校で使っているおすすめのツールやアプリについての情報を参加者の皆さま同士で共有を行いました。中には、ご自身で開発されたアプリを紹介してくださる参加者もいらっしゃいました。このことをきっかけに、今後の社会では欲しいツールができるのを待つだけでなく、自ら作り出すことができるということを子どもたちに伝えることも重要ではないかというアイディアも出ました。
GIGAスクール構想の実現が進む中、テクノロジーをどう活用していくかが問われています。今回のご講演では、テクノロジーを恐れるのではなくむしろ、テクノロジーを活用することで、さらによりよい教育へアップデートすることの大切さを痛感しました。
ご講演いただきました寺井さま、ご参加いただきました皆さま、ありがとうございました。
文責・企業教育研究会 古池伶美
リモートワーク…皆様、いろいろな課題と向き合いながら慣れてきたころではないでしょうか?
NPO法人企業教育研究会(以下ACE)は、コロナ禍を機に既存の教育プログラムをオンラインで学校にお届けできる環境を構築。職員へも2020年4月より完全リモートワークが可能な体制を敷いています。
リモートの検討課題も見え、ノウハウを蓄積している今日この頃。
ACEでは、10月よりバーチャルオフィス『oVice』を新たに導入いたしました!
こちら、NPO団体へは無償提供いただけるとのことで、有難いことに無料で利用しています。リモートワークを導入検討されている団体さんの参考になればと思い、今回は教育のことではなく、リモートでの職場づくりについて記事を投稿します。
1年間リモートでの業務を行い、職員同士、今、話しかけていいのかどうかが分かり辛い。チャットツールで「今話しかけていいですか」というやり取りが億劫という問題が露呈。加えて、会議時間も増大傾向に。
また、面談を通してリアルコミュニケーションが職員のモチベーションに繋がっていたことが判明。その解決方法を模索しているタイミングでした。
そんな中、タクシー広告にてoViceの存在をある職員が発見し、お試し導入することに。導入後は初期段階から職員に好評で、導入決定へと至りました。
試験導入時は、オボイス?と正式名称も覚束ない私たちでしたが、直感的に理解しやすい操作方法のお陰か、すぐに違和感なく使用できるように。
普段は正職員11名で利用をしています。
ドメイン指定でセキュリティを担保しながら、簡単に入場を許可できるので、弊会で常時お仕事をしていないインターン学生の入室も手軽にできています。
実際の空間は、自由設計できるオフィス上に自身のアバターで存在するイメージ。
現実世界の事務所もデザインに組み込まれているため、出勤職員は各オフィスにアバターをセット。
現実の居場所を感じることで、よりリアルとリンクしている感覚を得られている気がします。
★やっぱり一番は話しかけやすさ!
★メンバーの居場所、状況が分かる!
■画面占領 OR 画面上に表示されていないと知らぬ間の離席モード問題
■突然の声乱入。いつ話しかけられるか分からない難しさ
oViceを導入して十分なメリットを感じているものの、運用は発展途上。まだまだ改善の余地がある状況です。
ただ、ACEのバーチャルオフィスができた時の高揚感、日々運用すると「あのメンバーいつもあの席にいるなぁ」とか、アバターの選択を見てつい笑ってしまうなど、oViceを通して新しい楽しさも感じています。
今後のアイデアとして、業務が手一杯もしくは手すきのレベルを表明できるレッドゾーン、グリーンゾーンの設置。雑談メインの社員食堂(ランチタイムも離席不要)。憂鬱ゾーン(誰か優しく話しかけて♪)。アバターで体調を表明?など、新しいアイデアを持つメンバーも。
今後、ACEのバーチャルオフィスがどう変化していくのか、ワクワクしますね!
(1)oViceのURLはこちら。イメージ動画も豊富です。
https://ovice.in/ja/
(2)会議室へは、各部屋のクリックで瞬間移動できます。
(3)離席したい場合は、離席モードを。職場のみんなにはロビー滞在中と掲示されます。
(4)会議ツールのように、画面共有機能があります。
(5)チャットやメガホン(大声)でお知らせする機能も。