今回の研究会では、スマートニュース メディア研究所主任研究員の宮崎洋子様を講師にお招きし、ご講演をいただきました。冒頭では本日の講演に関して、概要を説明頂き、ご自身の経歴等自己紹介もしていただきました。
◆◆SmartNewsについて
SmartNewsは「世界中の良質な情報を必要な人に送り届ける」ことをミッションとしています。日米で事業を展開しており、アメリカでの活動は8年目になるそうです。日本のアプリでも設定を変更することでアメリカのニュースサイトの情報を見ることができるそうです。
SmartNewsでは、「良質な情報」とは、さまざまな評価軸から情報の価値を判断し、多様なニュースや情報を必要な時にバランスよくとることと考えているそうです。そのために利用者が予想していなかった情報に出会えるということも大切にしているということでした。
具体例としてSmartNewsアメリカ版にて提供されている機能「News From All Sides」をご紹介いただきました。この機能は記事を政治的な傾向で分けて提示するため、自身がどの立場からのどのような記事を見ているのか気づくことの出来るようになっているのだそうです。講演後の質疑応答では、「News From All Sides」の機能が日本版アプリに実装されていない理由について質問がありました。講師からは、日本では米国ほど明確に媒体社や記者がイデオロギー的立場を明確にしているわけではないので、こういった機能の提供は行われていないというご回答をいただきました。
SmartNews日本版では、位置情報を活用した雨雲レーダーやワクチン接種会場の案内、花粉の飛散量などの情報提供等を行っているとのことです。
SmartNews日本事業のビジネスモデルもご説明頂きました。日本におけるSmartNewsは広告収入で成り立っているそうです。また、記事については3000社以上のメディアパートナーと呼ばれる媒体社と契約しており、これらのメディアパートナーから記事が提供されるとのことです。
媒体社から送られてきた数多くの記事は基本的にはアルゴリズムで解析され、頻繁に閲覧されている記事がどれなのかを分析、さらに似たような記事が重複して表示されないように選別し、カテゴリー分けなどを行った上でアプリにソーティングしていくのだそうです。ただし、社会的に影響が大きくなりそうな場合には、人間が入って調整することもあるそうです。
SmartNewsの中にはスマートニュース メディア研究所というシンクタンク機能を持った部署もあります。
スマートニュース メディア研究所で行っていることは主に3つあるそうです。1つ目は日本の地方紙、地方局のジャーナリストたちの支援です。具体的には、ジャーナリストたちがアメリカの地方に行って取材をするための資金援助を行っている、とのこと。例えば、日本と同じように購読者数が減少傾向にあるアメリカの地方紙を対象に、地方紙や地方局はどのように生き残っていくのかという話の取材などを行っているとのことでした。
2つ目はメディアとテクノロジーを巡り、さまざまな有識者の先生を呼んで研究会を行っているそうです。
3つ目はメディアリテラシー教育であり、今回はここに焦点を当ててお話しいただけるとのことでした。
スマートニュース メディア研究所では、メディアリテラシー教育用のオンラインシミュレーター教材の開発をしています。この活動の他にも、例えばメディアリテラシーに関連した研究をされている先生方の論考や、メディアリテラシーに関わる授業実践例をホームページにまとめて掲載する活動をしているそうです。授業実践例は自由に閲覧し、ダウンロードすることが可能となっています。
また、法政大学の坂本旬教授と共に『メディアリテラシー 吟味思考(クリティカルシンキング)を育む』という本を出版したそうです。
さらに教員向け「メディアリテラシー教育」研修プログラムの制作を検討しているそうです。
メディアリテラシーについては、「良質な情報」を届ける努力をしても、受け入れる側が「良質な情報」に興味がないと情報のエコシステムが成り立たなくなってしまうので、力を入れている活動でもあるそうです。
◆◆シミュレーター教材「To Share or Not to Share」について
●教材概要について
今回ご紹介いただいた「To Share or Not to Share」というシミュレーター教材は、新型コロナウイルスによる情勢の変化を機に、S N Sなどのデジタルメディアを念頭に、情報の受発信を学べるオンライン教材として開発されたもので、一般の学校の先生も無料で利用できるよう、開放されています。
さまざまな調査から10代の多くがSNSをコミュニケーションだけでなく情報を取得する手段として活用している現状が見えてきた一方で、2021年度の総務省調査からはインターネットの使い方を教わらずに利用している子供たちが一定数いることがわかり、ソーシャルネットワークを意識したシミュレーターの作成を行うこととなったそうです。
本教材にて学べるポイントは以下の通りです。
1、メッセージを批判的に読み解くこと。
2、情報の信頼性の判断は人によって多様であるということを可視化して、同じ情報であっても受け取り方が異なることを実感すること。
3、メッセージの信頼性をどのように確認したらよいのかということを話し合い、考えること。
4、アルゴリズムを意識すること。
5、デジタルメディアの特徴であるフォロワーが多いというのはどういうことなのか、コメントがあるかないかなども含めたメディアのデザインや機能などを考えること。
教材開発の際は、なるべくリアルなものを作ることを目指したそうです。また、ワークショップの専門家にも相談し、教材のゲーム要素を活かすための工夫も行ったとのことです。例えば、学習後に講師主導でポイントを確認するのではなく、感想などを書かせて、実は学生自身に日頃の情報取得などを振り返りながらに「気づかせる」仕様にしたというエピソードをお話しいただきました。この教材を活用した取り組みは、学会等でも発表されたそうです。
●ルール説明 & シミュレーション体験
このシミュレーションは記事のシェアを行うことでフォロワーを増やしていくというものです。条件は以下の通りです。
①スタート時、フォロワーは100人いる、②表示される“投稿”を「シェアする/限定シェアする/しない」と「信頼度」を組み合わせて、上手に拡散すると、フォロワーが増える、③投稿の中には「フェイクニュース」が隠れているが、フェイクニュースを拡散するとフォロワーが減る。
シミュレーション時には、“判断理由”を書くことが求められ、プレイ後はシミュレーションの結果あらわれた状態を各々比較しながらディスカッションします。そして、最後にまとめを行うという流れです。
依頼を受けて学校の授業でシミュレーターを使う際には、特に調べるようには指示しておらず、自分の普段のやり方で拡散するかしないかを決めてもらうことで、自身の普段の生活を振り返りつつ考えられるようにしているのだそうです。記事は10個表示され、実際にS N S等で投稿された記事が投稿者や日時と共に表示されます。これらの記事について、シェアしない、限定シェアをするのか、全体にシェアをするのかを選択し、その理由を書き込んでいきます。学生の中には、怪しいと思うものをいくつか検索する子もいるようです。投稿全てに回答が終了すると、最後に自身のフォロワーが何人増えたのか、どの投稿をどう扱うことでフォロワーの増減が見られたのかが記事ごとの解説と共に表示されます。結果は人ごとに異なるため、シミュレーションを行った後のディスカッションではどうしてシェアをしたのか、もしくはしなかったのか、投稿に対してその信頼度をつけた理由は何か、普段SNSを何の目的で使っているのか、フォロワー数を増やすにはどのようにしたらよかったのかなどを話し合ってもらうことになっています。
フォロワーの増減数は過去の参加者のシェア割合に応じて変化するという独自のアルゴリズムが組んであるそうです。ここから使っているアプリやインターネットサイトなどの後ろにもアルゴリズムというものが走っているということを意識して欲しいとねらっているとのことでした。
授業で伝えているメッセージとしては、同じ情報をみても、受け取り方は人それぞれであること、情報をシェアする前に、ちょっと立ち止まってほしいこと、アルゴリズムの存在を知ってインターネットを上手に使い、普段自分が見ていない情報にも触れてみてほしいことなどがあるそうです。
一度の授業ですべてを伝えるのはとても難しいことなので、その授業に合わせて伝えたいことは選択して欲しいとのことでした。
シミュレーションと解説の間にも参加者の方から多くの質問が寄せられました。例えば、「S N Sの投稿は全て許諾を取っているのか」という質問には「「SNSなどの投稿は公表物にあたるため、基本的には引用の要件を満たしていれば許諾は必要ない。本教材でも元の投稿のリンクに飛べるようにするなど、引用であることを示している」という対応をご教示いただきました。この対応に加えて、教材利用の手続きには、学校などでの教育利用であることの同意をいただいた上で、ご利用いただくようにしているとのことです。
今後の取り組みの一つとしては、本S N Sシミュレーターの投稿の下にコメントをつけ、そのコメントが肯定的か否定的かによって学習者の投稿に対する信頼度やシェアする度合が変化するという結果を得ており、コメントに関しても教材に組み込めていくことが出来れば面白いと考えられているそうです。
研究会の後半は講義内容に関する質疑応答の時間をとりました。
教職関係の方も多く、メディア教育に関するさまざまな感想やご質問が飛び交い、活発な活動となりました。ご質問はおおまかに①アルゴリズムに関するご質問、②スマートニュースアプリの構造に関するご質問、③情報とはどのようなものを指すのか、というご質問、④教材に関するご質問、⑤新しい教材のアイディアに関するご意見、⑥情報発信者としての意義に関するご質問、などがあり、宮崎様にはご丁寧にお答えいただきました。
今回、宮崎様から、利用者のエンゲージメントを重視するデジタル広告市場などビジネスモデルの変革期にあるとも考えられ、当面は、個々人のネットリテラシーを高めて対処していかなくてはならないのではない部分もあるのではないかという発言もありました。
全体の状況を俯瞰した上で学校教育において今できる最大のことを子どもたちに伝えていける、そういった教育を考えていくことがこの先も求められることであって、この積み重ねこそが時代の変化を生んでいくのではないかと感じました。
結びになりますが、ご講演いただきました宮崎さま、ご参加いただきました皆さま、誠にありがとうございました。
今回の金さまのご講演では、主に以下の3点についてお話をいただきました。
(1)外国にルーツをもつ子どもと、その教育の現状
金さまは、ご自身が大学院生の頃に、フィリピン出身の男子中学生だったケイタくんと、学習支援のボランティアで出会い、今まで障害を持っているなどと一度も聞いたことがないのにもかかわらず、特別支援学校に進学すると聞き、驚いたという経験をお持ちでした。
しかし、外国人と発達障害の両方の要素を併せ持つ人が参考にできる本や論文がないことから、金さまご自身の著書である『「発達障害」とされる外国人の子どもたちーフィリピンから来日したきょうだいをめぐる、10人の大人たちの語り』(明石書店、2020年2月)を出版するきっかけになったとのお話をいただきました。
統計データから日本で暮らす外国人とその子ども、日本語支援が必要な児童数は基本的に増加傾向にあり、千葉県では在留外国人数は全国6番目の多さであるそうです。また18歳以下の子どもは約1万8千人に上るなど、アジア圏を中心に外国にルーツがある子どもが多いとのことでした。
しかし、このような傾向があるにもかかわらず、日本語指導の環境が整っておらず、特に千葉県では、日本語指導が必要とされる子ども32人に教員の1人の配置という割合であること、また教員免許を持たない教員による週1コマなど短い時間での指導のみであることなどから、不就学や高校進学率、不十分な学習指導など、様々な課題があるとのことでした。
また、外国人の子どもが特別支援学級に在籍する割合が日本人の子どもに比べ、約2倍多いといったデータもあり、子どもや保護者の母国からもこの問題に関する疑念が向けられているそうです。
ここで問題となってくるのは「発達障害」についての解釈です。発達障害の原因は脳機能の障害とされていますが、科学的な根拠はない状況とのこと。従って、特別支援学級在籍者数は年々増加しているものの、実はそれは発達障害と診断することで教育上のリスクを回避するなど、管理の対象となっているという側面があるとのことでした。
上述の内容を踏まえて、金さまは、発達障害と判断された状態を疑い、外国人の子どもの困難に立ち返ることが必要であるとお話しされていました。
(2)発達障害とみなされていた外国人の子ども―金さまご自身の研究から―
そこで、カズキくんとケイタくんというフィリピンにルーツを子どもに焦点を当て、その高校進学までに関わった、教員や保護者など10人のインタビューの内容についてお話ししてくださいました。
そのインタビューの中には、子どもは外国人としての困難を捉えていたにも関わらず、学校側が障害児としての支援で解決を図っていたこと、そしてそれを可能にする発達障害等概念の曖昧さや、日本人の専門家を中心とし、外国人の子どもをもつ保護者と正当な対話ができていないまま説得する実情などが、実際の発話の記録とともに示されました。これには、衝撃を受けた参加者も多い様子でした。
また、これはカズキくんとケイタくんの事例だけではなく、日系ブラジル人の母親とその子どもを対象としたインタビューでも、外国人の保護者が教師等から不当な圧力を感じたり、強い抵抗をしたりしたにも関わらず、次第に教員の信頼や感謝という段階に移行し、最終的には学校側の提案を受け入れ、それを対外的に語るといった段階に至るとのお話がありました。
これらの事例を通して、金さまは、外国人の子どもが受けられる教育的支援・進路は限られており、その支援策として敢えて発達障害と診断することを選ばれてしまうこと。それにより外国人の子どもへの支援が不十分であるという問題が見えにくくなってしまっているという現状が、課題としてあるとお話ししてくださいました。
(3)この問題をめぐる最近の動向と留意点
『「発達障害」とされる外国人の子どもたちーフィリピンから来日した きょうだいをめぐる、10人の大人たちの語り』(明石書店、2020年2月)の出版後、文部科学省では、特別支援学級に在籍している児童生徒数を新しく調べたり、「障害のある子どもの教育支援の手引き」に外国人の子どもの特別支援教育について明記されたりするなどの変化はあったが、予算や人員拡充はなく、現状が大きく変わる可能性は少ないとのことでありました。
そのため、現場で留意して対応することが中心となっていきますが、金さまは、保護者への丁寧かつ、デメリットについてもしっかり言及するといった網羅的な説明を行うこと、すぐに「発達障害」と疑い始める前に、まずは教師側から子どもへの支援や、子どもやその保護者等との対話が十分かどうかを確認すること、発達障害の診断に関わる人には、外国人の子どもの日本語学習歴などの学習状況、自治体・地域などの日本語指導などの施策の充実度など社会的データも資料とすることが現場では必要である、とのご意見をいただきました。
また、子ども同士のかかわりが外国籍の子どもの支えになっていたことから、そのような環境づくりに加えて、教員がサポートし続けるという意識を持つこと等についても、考えていく必要があるとのことでした。
金さまのご講演の後に、千葉県の小学校で学校長や教育委員会の指導主事を務めた経験があり、現在は企業教育研究会職員を務めている古谷成司さんから、外国にルーツをもつ子どもに関する教育現場での実情について話しました。
その後、質疑応答を行いました。主に、学校現場での現状や外国人の子どもをめぐる特別支援に関して、参加者の皆様と議論を交わしました。議論の中で、教員は特別支援教育が悪いものではないという認識を持っていること、しかし在留資格の関連で特別支援学校に進むことで選ぶことのできる選択肢が極端に狭まり、危機的な状況に陥ることになる可能性もあるにも関わらず、その説明を学校側から行われていないケースも多いとのことを知り、外国籍の子どもをめぐり、学校現場に様々な課題があること、そして対処をしていかなくてはならないとの課題意識を広く共有することができました。
筆者個人といたしましては、外国籍の子どもが増えているという現状の中で、まずは外国籍の子どもと、その彼らを取り巻く人々と、「対等に」対話を重ねる機会をもつことが大切であり、外国籍の子どもと、その彼らを取り巻く人々の声を「聴く」ことを一層重視していく必要があると感じました。ご講演いただきました金さま、ご参会いただきました皆さま、ありがとうございました。
2022年5月29日、弊会総会にて2021年度会計報告をし、承認をいただきました。
平素より弊会の活動にご理解とご賛同をいただき厚く御礼申し上げます。
会計報告と共に、報告書に記載の京葉銀行様のSDGs寄付型私募債(私募債発行企業:株式会社船越組様)を通じたご寄付についてご紹介します。
こちらは、京葉銀行様のSDGs寄付型私募債を通じ、船越組様がSDGs活動として掲げる「4.質の高い教育をみんなに」を図るべく、その貢献に寄与する団体先として弊会へご寄付いただいたものです。
ご寄付のみならず船越組様には、平成25年度より実施している出張授業プログラム「千葉県の建設業の仕事~建設現場をのぞいてみよう~」の立ち上げに際し、建築現場の貴重な資料を提供いただき、初年度の授業については授業者としてもご協力いただいています。
SDGsで実践すると掲げた目標に対し、意欲的に活動されている船越組様よりご支援いただけましたこと、弊会として大変嬉しく思っております。
賜りましたご厚意は、弊会の掲げる『子どもたちにとって教育効果が高い授業を届ける』ために有効に活用させていただきます。
今後ともお力添えをどうぞよろしくお願いいたします。
■ご講演の内容
今回の研究会では、独立行政法人国際協力機構(JICA)東・中央アジア部の篠﨑祐介さまをお招きし、ご講演をいただきました。冒頭では本日の講演内容に関しての概要と、これまでのご経歴を基に自己紹介をしていただきました。
〇なぜ国際協力を行うのか、ODAとは
世界の人口の約8割が開発途上国で暮らしている状況であり、具体的にはどのような状況が発生しているのかをフィリピンのサイクロンの被災地、シリアなどの難民キャンプ、ナイジェリアの小学校、ザンビアの病院、タイの洪水、インドネシアの大渋滞などを例に、お話しいただきました。
また、日本のエネルギー自給率は低く、海外から輸入している点、食料自給率も低くこちらも海外からの輸入を行っている一方で、日本の自動車や機械などの工業製品やマンガ・アニメ・観光などのサブカルチャーの輸出を行っており、日本と海外の繋がりは密接なものであるというお話をしていただきました。
先進国から新興国・途上国への経済力シフトが進展しており、中国をはじめとするBRICSの急成長によって新興国・途上国の経済規模は総額ベースでいうと先進国を上回っている状況があること。加えて、2030年の世界では中国・インドの経済力拡大、アフリカの人口増大、日本の相対的国力の低下などが予測されているため、日本も新興国や途上国と結びつきを強め、その勢いを享受していく必要があるとお話をしていただきました。
貧困撲滅という観点からは、極度の貧困は世界全体から見ると確かに減少していますが、減少しているのは東アジア地域などで、南アジア・サブサハラ・アフリカ地域では貧困層の割合の減少があまりみられないため、人道的な配慮は引き続き必要であるそうです。
日本もかつてガリオア・エロア資金や世界銀行からの融資など返済義務が無いものも含め多くの支援を受けており、東海道新幹線、東名高速道路、黒部第四ダムなどはこれらの資金を利用して整備されました。援助で受けた資金の完済は1990年の7月であり、まだ約30年しか経っていません。
借りた資金を有効活用しアメリカと並ぶ経済大国になった日本は、今や他国の援助を実施する国となりました。この経緯より、日本は援助における模範生とも呼ばれているそうです。
多国間援助という複数の国家が連携して援助するという形態は、途上国での開発課題が多様化し国境を超えた問題も多々あり、一カ国の支援では解決できないことも多くなってきたため近年拡大してきています。また、人道的な観点からも、日本への影響の考慮という点からも、一か国で援助できない場合でも放置はできないため、このような方法は大切だということをソマリアの例を挙げてお話しいただきました。
日本は軍事力を通じた支援などが出来ない点からも国際協力の場を通じて世界に貢献していくことは重要であるとのことでした。
ODAとは政府開発援助のことで、日本の支援の特徴の一つは相手国のオーナーシップを重要視する点で、意見交換を通じながら相手国の自助努力を推進します。ODAの予算は1997年がピークで現在は減少、安倍政権以降微増していますが、2020年度各国のODA実績(総額)では日本は第4位です。いわゆる先進国は対GNI比0.7をODAに充てることが目標とされていますが、北欧や英国などの数カ国以外は未達成国が多く、日本も未達成です。日本国内における内閣府の調査では、ODAに対して国民は比較的好意的な意見が85%を占めており、貧しい国に対して援助すべきという意見は44%とのこと。これについて、当事者としては、これほど好意的に感じてくれているのか、事業を通じては見えづらいと感じられるそうです。
ただ、こういった支援などで密接なかかわりを持っているため、東日本大震災の際には、100か国以上から日本への応援メッセージが寄せられたそうです。
〇JICAの役割と事業内容、身近な国際協力事例
ODAの中には二国間援助と多国間援助という分類がありますが、JICAは二国間援助を担い、様々な経済開発、経済協力のスキームやメニューを持っています。
JICAの正式名称は独立行政法人国際協力機構であり、2008年に国際協力銀行の海外経済協力業務(有償資金協力を行っていた部門)と統合、2008年10月から技術協力、無償資金協力、有償資金協力すべてを一元的に行う実施機関となりました。
通常は、途上国の開発課題に対してどういった解決方法を提示できるか、相手国と共にその内容を考え、その後、実施段階では内容をモニタリングして次の政策に生かすPDCAサイクルを意識し援助を行っています。
技術協力・有償資金協力・無償資金協力、全てにおいて相手国の課題背景を加味し、日本がもちうるリソースを用いて解決を目指すオーダーメイド式の支援を行っているそうです。
活動の三本柱の一つである技術協力では、開発の担い手となる人材の育成のため、相手国の行政官や研修員の受け入れを行い、日本国内における行政の方法や技術を伝えています。
また、日本から技術者を派遣して専門的な知識の移転を実施することもあり、それにあわせて機材供与などを行うこともあるとマラウイの灌漑開発の事例などを提示しつつお話しいただきました。
有償資金協力とは資金を緩やかな条件(低金利・長期返済期間)で貸し付ける形態の援助で、大規模な支援が行い易く、途上国の経済社会開発に必須なインフラ建設等の支援に効果的であるそうです。途上国に返済義務を課すことで自助努力を促す効果をもち、貸借関係があることで、その国と中長期にわたり安定的な関係を維持することも期待できます。例として、タイの空港やインドの鉄道、モンゴルの空港などをあげることができるそうです。
無償資金協力とは開発途上国に資金を贈与する援助形態であり、有償資金協力に比べると小規模な援助となりますが、国際社会のニーズに迅速かつ機動的に対応するための有効な手段となります。目に見える形(ビジビリティ)の効果が期待できるそうです。
緊急援助隊事業では、主に自然災害に対して派遣されることが多く、多様な関係者と連携も行いつつ支援を行うとのことでした。
海外協力隊のようなボランティア事業もこの一環で、92カ国に派遣、約200以上の職があり、今までに45,000人以上が協力隊として活動しています。
身近な国際協力の事例として、フィリピンのミンダナオにて平和と開発、南スーダンのスポーツを通じた平和構築、エジプトでの日本式教育の導入、チリにおける日本産サケ類移植プロジェクト、ブラジルのセラード開発があるそうです。
〇難民・国内避難民支援
難民・国内避難民支援の具体例としてはシリア内戦、南スーダン不安定化等で難民が増加したとのこと。難民の84%は発展途上国が受け入れていますが、受入国側の負担も大きく、緊急・人道支援機関も予算が厳しい状況にさらされているそうです。JICAが難民を支援する場合には、紛争地帯での活動が難しいため、難民を受け入れている周辺の国家に対する行政支援や財政支援を行うことが多く、難民を対象にした人材育成など生計能力向上の支援や、難民を留学生として日本に受け入れる対応、周辺国家に対するインフラ支援なども駆使して出来うる支援を行っているとのことでした。実際の支援例としてはウガンダの南スーダン難民受入地域支援、ウクライナ難民にかかるモルドバでの支援、アフガニスタン支援などがあげられるそうです。これらの具体例について、詳細にお話しいただきました。
〇外国人材とODAの協働
外国人労働者を技能実習生や特定技能として日本に受け入れ、日本の技術を学んで母国に戻った後にその技術を活かしてもらう枠組みがありますが、農業分野では日本で学ぶ技術のレベルが高すぎて母国で活用が出来ないことや、事前事後の研修なしに単純労働だけ行って帰っていくため技術が習得・更新されず、母国へ戻っても就労できないなどの問題点も多かったため、JICAではそれぞれの技能実習生に合った野菜の日本と途上国の産地間をマッチングさせる取り組みを発案したことをお話しいただきました。今までの制度は、日本の監理団体より途上国側に技能実習生を派遣して欲しい時期と人数を提示した依頼を出すと、途上国側の送出機関が人数を揃えこの依頼に応じ、監理団体と送出機関間で契約が成立すると技能実習生が日本へ送られてきますが、実習生のバックグラウンドを問わなかったため、技術の定着や成果の活用が難しい状況でした。JICAが提案した枠組みは人材のリストを作成し、バックグラウンドを加味して、産地間をマッチングさせて派遣するものです。現在、この枠組みは導入したばかりであるため今後の経過を見守りつつ、外国人材への支援を検討していく必要があるとお話しいただきました。
〇講義を踏まえての質疑応答・ディスカッション
講義後のディスカッションでは、参加者の皆さんの質問を大まかに①ODAやJICAに関するご質問、②海外における協力事例に関するご質問、③日本国内での取り組みに関するご質問、④その他のご質問などの四種に分類し、順番に篠﨑さまにお答えいただきました。今回の参加者には教育に携わる方も多かったため、JICAに関わる方々のキャリアや専門性、国際関係に関して生徒にどのように教えていくのか、生徒たちも実感できるような支援上の具体例などはないか、JICAが支援する際にはどのような立場の人々と支援の折衝を行うのかなど教育に関連する質問等が多く挙がり、お答えいただきました。今回、篠﨑さまにお話しいただいた技術協力などに関して、関わっていないと想像できないようなお話がたくさんあり今後のキャリア学習などで役に立つのではないかと思いました。個人的には日本の母子手帳のシステムが海外で活用されているお話などは、生徒たちも身近に感じられるような実例として面白いと感じました。
JICAと聞くと新興国・途上国を支援しているらしい、というところまでは生徒たちもなんとなく知っていることであるとは思いますが、実際にどのような活動をしているのか、どんな理念で、その結果どのような状況が齎されるのかまで想像することはあまりないと思います。実際に使われている技術やどのような影響が現れたのかを、開発協力の当事者に聞くことでより想像しやすく、また自身の視点との相違を意識しながら考え直すよいきっかけになっていくのではないかと思います。自身が授業を作る際の参考になる素晴らしい機会であったと思います。
結びになりますが、ご講演いただきました篠﨑さま、ご参加いただきました皆さま、誠にありがとうございました。
文責・企業教育研究会 木口恵理子
2022年4月16日(土)に第148回千葉授業づくり研究会「緊迫する国際情勢に子どもと一緒に向き合うには?」を開催しました。前回同様、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止のため、オンライン会議ツールZoomを用いて実施しました。
■ご講演の内容
今回の研究会では、朝日新聞社論説委員の沢村亙さまを講師にお招きし、ご講演をいただきました。講演冒頭では、論説委員の仕事内容や、海外での滞在歴、今までに取材に出向いた場所等についてお話しいただきました。お仕事の内容として、社説やコラムをお書きになっていること、1986年に朝日新聞社に入社されてからの半分以上を欧米などの海外で過ごされたこと、ユーゴスラビア紛争、チェチェン紛争などで、現地に赴き取材されてきたことなどのお話を頂きました。
〇欧州の歴史とそこから見るウクライナ侵攻の衝撃
連日、ロシアのウクライナ侵攻が様々なメディアで報道されている中で、なぜこれほどまでに世界へ衝撃を与えているのか、その要因について、欧州の歴史を踏まえつつ、お話していただきました。欧州では歴史的な経緯から国と国の境目が複雑に入り組んでおり、1つの村に複数の国の国境線が通っていることもあるそうです。例えば、オランダとベルギーの境にある村では、店舗の中に国境があり、ある日はオランダ側から店に入り、また別の日にはベルギー側から入る事もできるというお話がありました。また、欧州では長い間、王や宗教権力による専制階級社会であることや、産業革命や世界大戦などの時代を経たことなどから、常に争いが絶えない地域であること、またそのような争いをどう協力して生き抜くかという考えから、欧州連合(EU)のように国境の垣根を低くしながら結びつきを強めてきたことについてお話しいただきました。このような隣国との結びつきが強い欧州の東部に位置しているウクライナに、突然大国であるロシアが侵攻したために、世界への衝撃やその影響力が大きいとお話しされていました。
〇欧州の分裂と統合
欧州の歴史のお話に引き続き、欧州に着目し、欧州の分断と統合の背景についてお話しいただきました。欧州で分断が起きている要因としては、紛争、歴史、ナショナリズム、移民等への価値観の変容が挙げられていました。欧州は国と国の統合への反動として、言語や文化の独自性を担保したい地域や民族が不満を抱き、対立が起きてしまうこと、また一部の政治家が、過去に支配された国や民族の歴史や、ナショナリズム、民族主義を後から持ち出し、紛争につながる要因になってしまったこと、実際は富をめぐる経済的な理由から争いが起きてしまっていることなどを、お話ししていただきました。
このような分断が起きていても、なお欧州の国々の結びつきが強い理由としては、標準化、グローバル課題への対処、安全保障、多様性といった観点からお話ししていただきました。27ヵ国が集まり、共通の決まりを作ることで、それを国際標準にしやすいこと、また、今まで培ってきた、多様な意見を1つに集約するという力を生かして、地球温暖化などのグローバルな課題への対処を行っていること、隣国との結びつきを強めることで、隣国に対する防衛費を減らせ、その分を社会保障等に回せること、様々な背景を持つ人と共生している多様性が豊かなこと等が、統合のメリットとしてお話しされていました。
〇アメリカの歴史と西側諸国の課題
ここまで欧州に着目してお話しされていましたが、世界の中で大きな影響力を持つアメリカ合衆国について、次にお話ししてくださいました。アメリカは、対外に関与する外向きの外交と、アメリカ国内に閉じこもる内向きの外交を繰りかえしてきた歴史があり、またアメリカは国境を接している国が主にカナダとメキシコのみという、いわば「巨大な島国」のようなものとして、攻められにくい地形であると述べられていました。次に、沢村さまは、かつて冷戦でアメリカが勝利を収めたとする考え方があったことを述べ、一方でそれを懐疑的にみなす風潮にも触れながら、冷戦構造がアメリカに及ぼした様々な影響についてお話しされていました。まず、イラクやアフガニスタンなどで長期にわたる戦争を行い、多数の犠牲者と戦費を出してきたこと、リーマンショックをはじめとした金融危機やその時の富裕層への支援の強化、主に製造業での中国をはじめとしたアジアへの雇用流出等がもたらした経済格差の拡大、中国が軍事的に、特に科学技術分野や経済面で急成長していることへの危機感、人口構成比が変わっていること等を挙げられていました。また、このような背景からトランプ氏が大統領に選ばれ、アメリカ・ファーストを推し進め、多くの白人労働者層の支持を得るといった経緯があることをお話しされていました。また、そのような経緯を踏まえて、西側諸国で、政府や議会、メディアなどの組織・機関への信頼の喪失、陰謀論のようなものが出てきたこと、自由主義への不信などが、共通の課題として見られるとおっしゃっていました。
〇ロシアの国際的な役割や時代背景から見た、ロシアのウクライナ侵攻の衝撃
ここまで主に欧米に着目して歴史と時代背景をお話しいただきましたが、現在ウクライナ侵攻を行っているロシアの国際的な地位、置かれた立場等に着目し、ウクライナ侵攻の背景やその衝撃の大きさについてお話ししてくださいました。ロシアは国連安保理の常任理事国として拒否権を持つ国であり、また核保有国として国際秩序の安定に努力すべき大きな責任を負うことを挙げ、それにもかかわらず今回の隣国への一方的な侵攻に踏み切ったことが衝撃的であると述べられていました。また、冷戦後にロシアへの西側諸国の関心が低下する一方で、ロシアがエネルギー資源を活用して、富と軍備を増強し、自信をつけたこと等があり、ウクライナへの侵攻に至ってしまったのではないかということなどをお話しされていました。
〇中国
連日の報道で、中国のロシアに対する発言が度々報道されているように、ロシアと結びつきの強い中華人民共和国について、次にお話しされていました。当初、西側が期待していた経済発展による民主化は実現せず、一方で西側諸国の経済的・政治的な停滞により生じた民主主義に対する軽蔑の感情もあることから、民主的選挙のない中国では民意が反映されづらいという共産党一党体制の弊害も発生しているとおっしゃっていました。また、その他の課題としては、格差社会、少子高齢化、台湾をめぐる緊張の背景についてもお話ししてくださいました。
〇戦争・紛争をどう伝えるのか
上述の国々の歴史や、それを取り巻く時代背景、そして現在の国際情勢について、ここまで興味深いお話しをたくさんいただきました。それらを踏まえて、それらをどう「伝える」のかという観点で次にお話ししていただきました。ジャーナリズムは中立の立場を取り、たとえば英国のBBC放送が英軍について「我が軍」といった呼び方を使わないなどの公平性を保っていたり、時には人道など普遍的な価値観への攻撃に反対する役割を担ったりしてきたにもかかわらず、それが時代の流れの中で、ジャーナリズム自体が攻撃され、ジャーナリストが犠牲になるなどの事態も生じているという大きな変化が起こっているとお話しされていました。また、軍備などの技術の進歩により、戦争自体が見えにくくなっていること、昔は「軍と軍」の戦いであったのに対し、現在では軍とテロ組織などといった、「軍と軍以外の戦争」となるなど、戦争が非対称になっていること等の戦争の変化を挙げ、そうした状況で戦場で何をどのように伝えるべきかが重要な課題になっているとのお話を頂きました。
〇戦争・紛争をどう知るのか
インターネットが普及している現代で偽の情報、フィルターバブルやエコチェンバーなどの、情報の受け手が好ましい情報のみを受け取るため情報が偏ってしまうこと、立場の違いによる主張の違いがあることなどを問題として挙げ、公正な情報に接すること、どうしたら戦争を防ぐことができるかを考えること、戦争という悲劇をより身近なものとして感じることなどが重要であるとお話しされていました。また、情報の受け手に戦争を身近に感じてもらうために、沢村さまは現地でストーリーを探すことを大切にし、たとえば難民の方には避難する直前にしていたことを聞くことなどで、日本人に親近感を持ってもらうなどの工夫をされていたとおっしゃっていました。
〇子どもにどのように戦争を伝えるのか
講義の終盤に、NGOである、セーブ・ザ・チルドレンの方からの、子どもと戦争のことについて話し合う際には、あえて目を背けるようなことはせずに、子どもの気持ちに寄り添い、子どもと話すタイミングを大切にして、それぞれの年齢にあった説明をすること、助けたいという想いを子どもが持ったらその想いを応援すること等のアドバイスを紹介して下さいました。
■講義を踏まえての質疑応答・ディスカッション
以上の沢村さまのご講演の後、質疑応答・ディスカッションを行いました。その中で、沢村さまの海外でのご経験や、紛争地域でのジャーナリズム活動、西側諸国の歴史、現代の社会情勢、教育にどのように活かしていくのか等について質疑応答や議論を行いました。その中でも、特にどう教育に活かしていくのかという点について、参加者の皆様と議論しました。沢村さまご自身のご経験や、ジャーナリストというお仕事の実情等を伺い、よりリアルなお話をお聞きすることで、子どもに戦争をどう理解してもらうか、またキャリア教育への応用への可能性、子どもの年齢や実情に合わせ、教員が公正・中立な立場から話すとはどういうことか、その出来事が起こった理由や時代背景について教えるなど、「知る」ことが大切であること、正しい情報を見極め、伝えることが大切であることなどが挙げられました。また、インターネット社会における情報の偏りを減らすためには、新聞やラジオなど、伝統的なメディアなど幅広く接することで新たな情報との偶発的な出会いを増やすことが大切であるのではないかとのご指摘もありました。
筆者個人といたしましては、今回のご講演を通して、まずは戦争の現状・背景を正しく知ること、そしてそれを子どもの想い、年齢等を踏まえて、丁寧に伝えることの大切さを強く感じました。デリケートな話題だからといって、子どもに伝えることから目を背けるのではなく、まずは自分自身が、時には子どもと一緒に、戦争について公正な情報を得て、正しく理解すること、そしてそれを子どもの想いや実情を一番に考えて、伝えることが必要だと思います。そうすることで、戦争や平和について適切に理解し、想いを馳せたり、支援したりすることができるようになる大人になること、そしてそのような人を育てることにつながるのではないかと思います。そして、それはとても大切で、かつ素敵なことではないかと考えています。
結びになりますが、ご講演いただきました沢村さま、ご参加いただきました皆さま、誠にありがとうございました。
文責・企業教育研究会 菅谷美玖
企業教育研究会(以下、ACE)では、アクセンチュア株式会社と連携し、配布型教材「ひな社長の挑戦」を新たに開発しています。この教材は、ACEとアクセンチュア株式会社が提供している既存の出張授業「考え、議論する道徳・キャリア教育」の世界観に沿った内容になっています。既存の出張授業では、生徒がアニメーション教材のストーリーの中で架空の会社「天漁社」の社員となり、会社の経営課題の解決策を考え、議論します。新教材では「天漁社」が起業される時のストーリーに沿って、生徒が社会課題の発見、諸資料を活用した探究活動、解決策の考案までの一連の過程を体験し、今後の社会において求められる「現実的な課題を設定し、自ら思考して実行に移すことが出来る姿勢と能力・技能」を学びます。
体験セミナーでは、「ひな社長の挑戦」を多くの学校で活用していただくため、まず最新の社会状況と、今後の社会で求められる能力・技能について先生方に講演を行い、その後、実際に教材の一部を体験していただく機会を設けました。
セミナー前半では、アクセンチュア株式会社の藤田学さまより、デジタル技術の発展や働き方の多様化、インクルージョン&ダイバーシティの促進といった日本の社会の変化と、それに伴い必要とされる次世代型人材についてのお話がありました。参加者の先生方からは、学校の中からでは気づきづらい実社会の最新状況を知ることができたという感想が寄せられました。その後、ACEの講師が教材の一部を用いた模擬授業を行い、先生方に授業を体験していただきました。模擬授業後のディスカッションでは、実際に先生方が教材を用いて授業を行う場面を想定した改善点や、より生徒が学びやすくなるための様々な立てが提案されました。
今後は、セミナーで得た知見を活かして教材を改修し、学校への普及に向けて取り組んで参ります。
ご講演いただいた藤田さま、参加者の皆さま、ありがとうございました。
2021年12月18日(土)に第147回千葉授業づくり研究会「子どもの自立的な職業観形成を促す、新しいキャリア教育のあり方とは!?」を開催しました。前回同様、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止のため、オンライン会議ツールZoomを用いて実施しました。
今回の研究会では、アクセンチュア株式会社のコーポレートシチズンシップ(企業市民)活動にて次世代の人材育成プログラムを推進する藤井篤之さまにご講演いただきました。
研究会前半は、デジタルテクノロジーの発展や、社会で求められる人材の変化について藤井さまにご講演いただきました。講演ではデザインシンキングによる実社会の課題解決事例や、サービスデザインのプロセスを学ぶ教育プログラムの事例をもとに、次世代に必要なスキルとキャリア形成について説明いただきました。後半は、「多様な働き方・生き方の中から自立的に自らのキャリアを形成していく力を育む」キャリア教育のあり方について、参加者の皆様と議論しました。
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【講演概要】
・アクセンチュア株式会社の概要
「テクノロジーと人間の創意工夫で、まだ見ぬ未来を実現する」という企業コンセプトや、変革を起こすための道筋の描き方、プロジェクトに携わる様々な業種、国内外にまたがる幅広い取り組み等についてお話いただきました。学校では触れることが難しい企業の最先端の取り組みを知り、参加者は新鮮な衝撃を受けていました。
・ビジネス環境の変化と日本の位置
昨今のビジネスでは「将来創出されるであろう価値(FV)」の重要性が高まっていることや、世界では持続可能性による新しい競争ルールができていること。一方で、日本企業ではFVの伸び悩みによる企業価値の伸び悩みの問題などについてお話しいただきました。日本で起業が少ない原因として「失敗に対する危惧」や「身近に起業家がいない」こと、「学校教育」などが指摘されているデータから、キャリア教育の問題にも言及されました。
・デジタルテクノロジーの発展
AIや、オンライン上のバーチャル空間の活用について、JALにおけるAIコンシェルジュや、TIKTOKのAI技術、ライブコマース市場の成長、バーチャル空間におけるコンサートなど、幅広いジャンルにおけるデジタルテクノロジーの活用事例をご提示いただきました。参加者はビジネス界で活用される事例から、情報化社会の最前線に触れることができました。
・求める・求められる人材の変化
AIの進化に伴う求められる人材の変化や、近年の価値観の変化に応じた働き方の多様化についてお話いただきました。藤井さまによれば、今後の社会では定型的な仕事はAIに代替され、AIの活用者が不足すると推定され、AIに代替可能な仕事とそうでない仕事の間の賃金格差が拡大する可能性があるそうです。このような社会では人間とAIの役割分担を意識した業務再設計が重要になると藤井さまはおっしゃっていました。また、NETFLIXの自由なカルチャーの事例から、参加者は働き方の多様化について具体的に知ることができました。
・次世代に必要なスキルとキャリア形成とは
今後の社会変化の中では「現実的な課題を設定し、自ら思考して実行に移すことが出来る姿勢と能力・技能」を持った次世代型人材が求められることを指摘した上で、課題解決の際の具体的な思考プロセスとしてサービスデザインアプローチについて事例を交えて紹介していただきました。また、中高生を対象とした教育プログラムの事例についても提示していただき、今後のキャリア教育へのヒントをいただきました。
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【質疑応答、意見交換】
ビジネス環境の変化と日本の位置については、参加者から日本では「「失敗しないこと」を前提に動く人が多い」のはなぜかという質問が挙げられました。藤井さまからは、日本では「失敗しないこと」が重視される傾向があることや、「自分の考えを否定されることをネガティブに捉えがち」で「空気を読むことが重視される」文化であることが理由として示されました。また、藤井さまによると、グローバルコミュニケーションにおいて、空気を読むことに代表される日本人の特徴は否定的な見方をされるのではなく、尊重されるようになってきているそうです。学校ではグローバル社会で働くことを想定し、自分の意見をはっきり表現する力を育成することが重視されてきました。一方で、ビジネス界では様々な国の文化を互いに意識し合う動きが見られるということについて、参加者は新しい気づきを得ることができました。また、「どのような手段で日本は稼ぐ国を目指すべきか」という質問に対しては、藤井さまから「製造業は日本の強みであり続ける必要がある。また、日本はタブーが少なく色々なコンテンツを作ることができる。日本で生まれたコンテンツを世界に発信するプラットフォームができれば、コンテンツも産業の強みに出来る」というご意見をいただきました。また、藤井さまは、リアルとデジタルの組み合わせによって価値を生むチャンスも、重視していく必要があると指摘していました。
デジタルテクノロジーの発展については、学校の先生方からAI活用の具体事例が知れて良かったという意見が挙がり、関心の高さが伺えました。
求める・求められる人材の変化については、企業における社員育成のプロセスや、自己肯定感を高める工夫についての質問が挙がり、企業の教育プログラムから学校のキャリア教育へのヒントを得ることができました。また、「失敗を恐れない姿勢を育成することと、成功体験の機会をつくることの兼ね合いをどのように取れば良いか」という質問に対しては、藤井さまから「大人のサポートの枠組みを決め、子どもに成功させる部分と、失敗しても良いから子どもに任せる部分をつくる」という方法が提案されました。他にも「論理的思考を養うためにはどんな取り組みが良いと思いますか」という質問に対しては、「数学だけでなく、社会科や国語の時間で問いを分解していく活動が重要だと考えている。社会科や国語の裏にあるロジック、例えば社会の現象を数字に落としていくことでロジカルに分析することを学ぶ方法ができるのではないか」というアドバイスをいただくことができました。
次世代に必要なスキルとキャリア教育については、次世代に求められるスキルと文部科学省が掲げる「基礎的・汎用的能力」との関連について議論を行いました。
今回の参加者は学校の教員が多く、社会の最新状況への関心の高さが窺えました。今回の研究会が先生方にとって企業の最先端の取り組みを知り、今後のキャリア教育の方向性を考えるきっかけとなれば幸いです。
ご講演いただきました藤井さま、ご参加いただきました皆さま、ありがとうございました。
文責・企業教育研究会 明石萌子
2021年11月20日(土)に第146回千葉授業づくり研究会「テクノロジーを活用した学校教育のアップデートを考えよう」を開催しました。今回も引き続き、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止のため、オンライン会議ツールZoomを用いての開催となりました。
今回の研究会では、学校教員を経て、現在はITエンジニアとして働きながら個人的な活動として、テクノロジーを活用した学校教育の改善方法を検討されている寺井省吾さまを講師にお招きし、ご講演いただきました。
研究会の前半では、寺井さまが開発された席替えメーカーを実際に参加者の皆様に体験していただいた後、寺井さまが考えるテクノロジーを活用した学校教育のアップデートについてお話ししていただきました。また後半では、席変えメーカーへのフィードバックや学校でのテクノロジーの活用の仕方について参加者の皆様と議論しました。
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講演では、主に以下の点についてお話をいただきました。
・席替えメーカーについて
寺井さまは中学校教諭として働く中で学校現場には沢山の課題があることに気づき、課題解決をより幅広い方法で行うことを目指してエンジニアに転職され、現在は個人的に席替えメーカーなどの教員の業務を改善するWebアプリを開発されています。講演の冒頭では、まずこの席替えメーカーについてお話いただきました。
この席替えメーカーとは、席替えの「原案をつくる」アプリだそうです。特徴は、Webアプリのため日本中の教師が無料で使えること、また教師目線に立った細かな条件を指定できるという2つがあるとのことでした。教師目線というのは、例えば目が悪い子を前の列の席になるように配慮したり、授業中お喋りしてしまう子どもたちの席を離したりという条件を設定できるということだそうです。
参加者の皆様には、まずはアプリを使用しない普段の席替えを体験していただきました。その上で、実際に席替えメーカーを使用してもらい、アプリなしとありでどんな違いがあるのか考えていきました。参加者の方からは、アプリを使用することによって、一定の条件下で何度も試行錯誤ができることや、時間効率がよくなること等が挙げられました。
その後、寺井さまから、アプリなしで席替えを行う際の、原案をゼロから作ること、毎月考える必要があることという、人がやると大変なことは、実はコンピュータが得意なことだというお話をしていただきました。ただし、全てをコンピュータに任せるのではなく、「AとBを離す」「Cを最前列にする」といった生徒の条件を考えることや、全体を見て細かな人間関係を踏まえて席を調整することは、教師が行うことが大切なのだと仰っていました。コンピュータに任せるのは、最後に調整することが前提の座席の原案を作ることであり、それによって教師は効率的に時間を使うことができるとのことです。
・実現したい世界
寺井さまは、子どもたちのために日々頑張っている教師が、非効率な作業によって時間を奪われていることに問題意識を感じたそうです。そのため、寺井さまがアプリを開発する理由は、一人一人の子どもと向き合うことや授業準備など、本来教師が時間を費やしたいことに時間をかけられるような世界にしたいからとのことでした。これによって結果的に、教師の頑張りが最大限子どもに還元されることとなり、子どもにとっても教師にとってもみんなが幸せになることに繋がるのだと仰っていました。
・学校の中からできなかったのか
また、上記で述べた実現したい世界についてなぜ教師としてできなかったのかについてもお話ししていただきました。
寺井さまは教師だった時に、休校中のオンラインによるコンテンツ配信や、Slack等による教師同士の連絡を学校に提案したそうです。しかし、セキュリティや予算の問題から、上記のようなツール導入のハードルが高いことに気づいたとのことでした。
その時に、寺井さまは、いきなり学校全体に大きなシステムを入れるのではなく、クラスで導入できるレベルから始めることが大切だと思ったそうです。小さな成功体験を積むことによって、次第に学年・学校・都道府県・全国へと広まり、問題解決に繋がるのではないかと考えたとのことでした。そこで、日本中の教師が使えること、クラス単位で導入できること、できるだけセキュリティや個人情報の責任が発生しないような領域で使えるアプリ開発をすることを決断したそうです。
他にも席替えメーカーだけではなく、学校全体の時間割の原案を作るアプリ「教務時間割メーカー」や、席替えメーカーに班長を指定すると自動で班を分散させる「班機能」を持たせることなどのアイデアについてもご紹介いただきました。
また最後には、実際に教育現場で働かれている寺井さまの同級生の方が使っているツールについてもご紹介いただき、寺井さまの講演は終了しました。
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寺井さまからご講演をいただいた後、質疑応答や意見交換を行いました。
前半では、参加者の皆様から、席替えメーカーへの新たな機能の要望やフィードバックを行いました。参加者の方からは、席替えのみならず、グループ分けやチーム編成の際にも役立ちそうというご意見のほか、教師が使うのでなく生徒自身が席替えメーカーを使う事例についてもご紹介いただきました。
また後半には、テクノロジーの活用によって学校の仕事で改善したい点について中心に議論を行いました。参加者からは、「児童生徒が自身の学習ポートフォリオを作れるシステムが欲しい」という意見がありました。情報セキュリティの課題がありますが、こうした児童生徒の成長をテクノロジーで「見える化」することは一定のニーズがありそうです。この他、実際に学校で使っているおすすめのツールやアプリについての情報を参加者の皆さま同士で共有を行いました。中には、ご自身で開発されたアプリを紹介してくださる参加者もいらっしゃいました。このことをきっかけに、今後の社会では欲しいツールができるのを待つだけでなく、自ら作り出すことができるということを子どもたちに伝えることも重要ではないかというアイディアも出ました。
GIGAスクール構想の実現が進む中、テクノロジーをどう活用していくかが問われています。今回のご講演では、テクノロジーを恐れるのではなくむしろ、テクノロジーを活用することで、さらによりよい教育へアップデートすることの大切さを痛感しました。
ご講演いただきました寺井さま、ご参加いただきました皆さま、ありがとうございました。
文責・企業教育研究会 古池伶美
リモートワーク…皆様、いろいろな課題と向き合いながら慣れてきたころではないでしょうか?
NPO法人企業教育研究会(以下ACE)は、コロナ禍を機に既存の教育プログラムをオンラインで学校にお届けできる環境を構築。職員へも2020年4月より完全リモートワークが可能な体制を敷いています。
リモートの検討課題も見え、ノウハウを蓄積している今日この頃。
ACEでは、10月よりバーチャルオフィス『oVice』を新たに導入いたしました!
こちら、NPO団体へは無償提供いただけるとのことで、有難いことに無料で利用しています。リモートワークを導入検討されている団体さんの参考になればと思い、今回は教育のことではなく、リモートでの職場づくりについて記事を投稿します。
1年間リモートでの業務を行い、職員同士、今、話しかけていいのかどうかが分かり辛い。チャットツールで「今話しかけていいですか」というやり取りが億劫という問題が露呈。加えて、会議時間も増大傾向に。
また、面談を通してリアルコミュニケーションが職員のモチベーションに繋がっていたことが判明。その解決方法を模索しているタイミングでした。
そんな中、タクシー広告にてoViceの存在をある職員が発見し、お試し導入することに。導入後は初期段階から職員に好評で、導入決定へと至りました。
試験導入時は、オボイス?と正式名称も覚束ない私たちでしたが、直感的に理解しやすい操作方法のお陰か、すぐに違和感なく使用できるように。
普段は正職員11名で利用をしています。
ドメイン指定でセキュリティを担保しながら、簡単に入場を許可できるので、弊会で常時お仕事をしていないインターン学生の入室も手軽にできています。
実際の空間は、自由設計できるオフィス上に自身のアバターで存在するイメージ。
現実世界の事務所もデザインに組み込まれているため、出勤職員は各オフィスにアバターをセット。
現実の居場所を感じることで、よりリアルとリンクしている感覚を得られている気がします。
★やっぱり一番は話しかけやすさ!
★メンバーの居場所、状況が分かる!
■画面占領 OR 画面上に表示されていないと知らぬ間の離席モード問題
■突然の声乱入。いつ話しかけられるか分からない難しさ
oViceを導入して十分なメリットを感じているものの、運用は発展途上。まだまだ改善の余地がある状況です。
ただ、ACEのバーチャルオフィスができた時の高揚感、日々運用すると「あのメンバーいつもあの席にいるなぁ」とか、アバターの選択を見てつい笑ってしまうなど、oViceを通して新しい楽しさも感じています。
今後のアイデアとして、業務が手一杯もしくは手すきのレベルを表明できるレッドゾーン、グリーンゾーンの設置。雑談メインの社員食堂(ランチタイムも離席不要)。憂鬱ゾーン(誰か優しく話しかけて♪)。アバターで体調を表明?など、新しいアイデアを持つメンバーも。
今後、ACEのバーチャルオフィスがどう変化していくのか、ワクワクしますね!
(1)oViceのURLはこちら。イメージ動画も豊富です。
https://ovice.in/ja/
(2)会議室へは、各部屋のクリックで瞬間移動できます。
(3)離席したい場合は、離席モードを。職場のみんなにはロビー滞在中と掲示されます。
(4)会議ツールのように、画面共有機能があります。
(5)チャットやメガホン(大声)でお知らせする機能も。
本文より抜粋
コロナ禍でも外部連携 を止めないために
新型コロナウイルスの感染防止のために多くの出張授業が中止、延期にならざるを得ない1年でした。学校現場からは予定して いたキャリア講話や職場体験ができない、教科教育と社会の接続ができないといった悩みの声をいただきました。私達は、学校の外部連携を止めないということを第一に既存の授業や研修会を遠隔化するとともに、with コロナの時代を見据えて遠隔での授業 を前提とする新しい授業や教材の開発に取り組みました。
詳細は下記のPDFリンクより御覧ください。
https://ace-npo.org/contents/information/overview/attachment/2020_report.pdf
2021年10月16日(土)に第145回千葉授業づくり研究会「記者・ディレクターから見る、メディアと社会情勢 〜高校「地理総合」で求められる社会的事象の見方、考え方の検討〜」を開催しました。今回も引き続き、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止のため、オンライン会議ツールZoomを用いての開催となりました。
今回の研究会では日本放送協会(以下NHK)メディア開発企画センター 後藤亨さま、栗原岳史さま、報道局社会番組部 藤松翔太郎さまを講師にお招きし、ご講演いただきました。
後藤さまには冒頭で今後取り組もうとされている教育現場への貢献について、栗原さまにはアメリカの最新の社会課題と社会情勢について、藤松さまには番組づくりについてお話ししていただきました。
その後参加者の皆様と、メディアリテラシーに関する内容や学校でどのように社会課題や社会情勢を扱うことができるか議論しました。
今回の講演では、主に以下の2点についてお話をいただきました。
栗原さまは、2021年まで3年間ワシントン特派員として取材され、アメリカの社会情勢などについてお話いただきました。
アメリカは多様で地域間の格差も非常に大きいと感じたそうです。また日本から見えているアメリカの情報の多くが都市部のもので、都市部以外の情報はあまり見えていないのではないかと指摘されました。2016年の大統領選挙では、アメリカ中央部などのあまり見えていなかった有権者の動向が、トランプ氏勝利の背景にあったと考えられるということです。
その後話題は社会の「分断」に移りました。アメリカでは保守層がより右傾化し、リベラル層がより左傾化する傾向がみられ、銃規制や人工妊娠中絶の是非など世論を二分する問題をめぐり対立が先鋭化しているそうです。メディアの間でも、リベラル寄りとされる伝統的なメディアと、右傾化した新興メディアなどの違いが際立っているということです。また、一部のメディアによって対立や分断が煽られているとも感じたそうで、こうした中で起きたのが、トランプ氏の支持者らによる連邦議会議事堂への乱入事件だったと、栗原さまはお話しされました。
藤松さまは、NHKで10年間ディレクターをしており、番組づくりを通してなにか世の中を変えていきたいというお話をされました。
藤松さまは番組制作をする中で、何のために番組を作っているのだろうかと感じることが増えていたそうです。
さまざまな人との出会いから、テレビで「伝える」だけではなく、テレビを「使って変える」ということで世の中の役に立てるのではないかと考えたとおっしゃっていました。
藤松さまが取り組んだ番組の例として、自転車事故を減らす取り組みについて紹介していただきました。さまざまな地域・職業・年齢層の人々に番組に参加してもらい、自転車事故を減らすためのアイディアを出し合う大喜利もしたということです。放送がきっかけとなり、実際にいくつかのプロジェクトが世の中で動き出しているそうです。
番組を使って世の中を巻き込むのと同じように、学校の授業を、子どもたちに「教える」ことにとどまらず、「子どもたちが授業を使って世の中を変える」ものにしていく取り組みも可能ではないかとご提案いただき、藤松さまの講演は終了しました。
講師の方々からご講演をいただいた後、質疑応答や意見交換を行いました。
前半は、特にメディアリテラシーに関する質問が多く行われました。エコーチェンバーの中から脱出するためにはどういった振る舞いが重要なのか参加者の方々と議論を深めました。講師の方からは、自分とは異なる意見を意識的にSNSで頻繁にみるようにしているというお話をいただき、能動的に行動しないとエコーチェンバーから逃れるのは難しいのではないかという意見が出ました。議論を通して、メディアに直接携わる方々とメディアリテラシーについて議論するだけでも子どもたちの学びにつながるのではないかと感じる場面でした。
後半はお話いただいた社会情勢について、学校教育の中でどのように扱えるかという点を中心に議論が行われました。
参加者からは「記者の方が肌で感じた世界各地の様子や現地の人の生の声を授業で話してほしい」「具体的な事例は教員が話しにくいからありがたい」などの意見が上がりました。現地に赴いた記者やディレクターだからこそできる生の話は、学校に需要がありそうです。ただし授業として成立させるために、カリキュラムをどのように組み立ていくのかという点についてはさまざまな意見があり、結論には至りませんでした。記者やディレクターの皆さんの経験を今後なんらかの形で授業に生かせないか、私どもも検討して参ります。
ご講演いただきました講師の皆さま、ご参会いただきました皆さま、ありがとうございました。
2021年7月17日(土)に第144回千葉授業づくり研究会「多様化社会における主権者教育のアップデートを考えよう」を開催しました。今回も引き続き、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止のため、オンライン会議ツールZoomを用いての開催となりました。
今回の研究会ではNPO法人市民アドボカシー連盟代表理事である明智カイトさまを講師にお招きし、市民アドボカシー、ロビイング活動を議題にご講演いただきました。明智さまは『誰でもできるロビイング入門 社会を変える技術』(光文社新書、2015年)の著者でもあり、ご自身もアドボカシーに携わるほか、日本の市民がロビイング活動を学び、研究会を開かれるなど、日本にロビイング活動が根付くために様々な取り組みをなさっています。なお、アドボカシーとは権利擁護、政策提言などと訳され、主にマイノリティや社会的弱者の立場に立った政治的表明やキャンペーン活動を意味します。また、ロビイング活動とは、マイノリティの人々の声を拾い、政策実現に向けて関係各所に働きかけていく活動のことで、具体的には議員との面談等が挙げられます。アドボカシーを進めるために、ロビイング活動と世論喚起を進めていくという関係性になっています。
今回の講演では、主に以下の3点についてお話をいただきました。
1.ロビイング活動を始められたきっかけ
2.ロビイング活動の具体的な事例
3.アドボカシーでの「世論喚起」のコツ
1.ロビイング活動を始められたきっかけ
明智さまは中学生のころからクラスメイトに「ホモ」「オカマ」「女っぽい」と言われるなどのいじめに遭い、その後も辛い経験を重ね、自殺を図ったご経験もあるとのことでした。そうした性的マイノリティ、いじめ被害者、自殺を図ったことのある当事者として明智さまがロビイング活動を始められたのは、社会人になって以降のことでした。きっかけは、政治の世界に足を踏み入れ、様々なことを学ばれる中で違和感に感じる部分があったからだそうです。それは、どの政党にも政策を立案するための背景には圧力団体の存在があり、そうした団体に所属しなければ市民としての自身の意見を政策に反映することは難しいということを知ったからでした。
その後、ロビイング活動の方へと方向性を変えていくことになります。明智さまは、2010年に仲間の方々と「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」という性的マイノリティの子供や若者の自殺対策、いじめに関する政策提言や啓発活動を行なう団体を立ち上げました。そして、政策提言や啓発活動を地道に進められ、メディアへの情報発信などを戦略的に進めていきました。その結果、2012年の「自殺総合対策大綱」改正が閣議決定された際、性的マイノリティの自殺対策について具体的な言及がなされるところまでに至りました。内容は性的マイノリティの自殺の危険性が高いことを中心としたものでしたが、公的な文書に初めて「性的マイノリティ」という文言が明記され、政府・行政にその存在が認められたこと自体が大きな前進であり、喜ばしいことだったそうです。こうしたご経験から、日本にある様々な社会的な課題を解決していくためには、社会的な弱者である当事者の方達が中心となって、ロビイング活動を行っていく必要があると考えるようになり、『誰でもできるロビイング入門 社会を変える技術』の執筆や草の根ロビイング勉強会の立ち上げへとつながりました。政策を実現するために政治家になるという道もありますが、年齢や性別、選挙における当選回数などに左右されず、いつでも誰でもなれるロビイストという道を目指そうという思いがそうした活動には込められています。
2.ロビイング活動の具体的な事例
市民アドボカシー連盟の理事で、現役ロビイストの一般社団法人全国フードバンク推進協議会事務局長、米山広明氏が進められた食品ロス削減推進法の成立までの過程を事例として、ロビイング活動の具体的な流れをご紹介いただきました。2014年ごろから取り組みを始め、2020年に食品ロス削減推進法が制定されるまでの大まかな流れとして、①課題の整理と政策用語・事項の検討、②全国組織の立ち上げ、③法制化に向けたロビイング活動、④法律の成立後、審議会等でのロビイング活動、⑤予算要望に関するロビイング活動が挙げられました。ロビイストは、バランス感覚、判断力、行動力、人を説得する能力、立法活動に関する知識(国会の仕組み、予算要求等のスケジュール)、忍耐力(怒りの感情のコントロール)、議員との信頼関係、人脈、権威、社会的な認知度、代表性というこの10の資質が求められるそうです。これらは全て団体内部の人が持っていなければならないものではなく、なければ外部人材の協力を得ながら進めていけば良いものだといいます。米山氏は食品ロス削減推進法の早期の成立に向けて、1年間で議員会館を延べ30日訪れ、事務室訪問・国会議員面談回数が278回、国会議員本人との面談回数47回、秘書との面談回数231回を行ったそうです。数字から見てもその行動力の高さが伺えます。当然、回数だけでなく、事前に面談内容を伝えるために徹底して情報収集を行い、面談時には短い時間で要望事項を伝わるよう簡潔に説明し、事後にはアフターフォローや要望事項がどうなったのかの確認も怠らないなど、スピード感を持って隙のないロビイング活動を進めていたといいます。
3.アドボカシーでの「世論喚起」のコツ
アドボカシーでの「世論喚起」のコツとして4つ挙げていただきました。①概念を作ること、②データをとること、③議連を作ること、④メディアを持つことの4つです。①は「セクハラ」に代表されるように新たな言葉を作ることで苦しんでいる人々がいることを世論に訴えかけやすくすることです。②は社会問題という形で数値化し、困っている人がどれだけいるのかを議員や役所、世論に伝えやすくすることです。③は特定の社会問題に関心のある議員を超党派で繋ぐことで、世論への問題提起にもつなげていくことです。④はメディアから取材を受けやすくしたり、同じ問題意識を持つ人から連絡をもらったりするためのものです。明智さまは、アドボカシー活動のポイントを「質」と「量」である、とまとめます。「質」、すなわち当事者自身が顔と名前をメディアに出し、苦悩や不利益を伝えることで、社会全体へ課題を共有していくことも重要です。しかし、それだけでなく、基礎的な調査を通じて、「個人問題」だと思われていたものを「社会問題化」するための「量」も必要だということです。
お話の最後に、これからの主権者教育に必要だと思うポイントについて挙げていただきました。「民主主義」とは何かを問うことが重要だといいます。政治参加は権利であると同時に責任であります。国民の代表を決めるための選挙で投票するだけでなく、もっと積極的に市民が議員と対話すれば、より良い社会に近づくのではないか。また、自らの生活に不満があり、生活の基盤を整えるための環境を整えなければならないと必要に迫られていくときにアドボカシー、あるいはロビイング活動できるような主権者を育てていくことが重要ではないか。こうしたお話をいただいて講演は締めくくられました。
以上の明智さまからご講演をいただいた後、質疑応答を行いました。特に市民の立場から多様な意見を政治に届ける技術を学ぶ新しい主権者教育のあり方について、現職の先生や大学院生などの参加者の皆さまと議論を交わしました。特に、学校教育に携わる先生方にまだまだアドボカシー活動というものの認知度が低い現状で、どのようにアドボカシーを学ぶ授業を広めていくかは大きな課題として挙げられました。今回の講演を通して、筆者は主権者教育の幅が広がったように感じました。多様化社会において、いつ自分や自分の大切な人が社会的弱者になるか分かりません。自身のアイデンティティや生活が守られないと感じた時に、いつ・どこに・誰に対して戦略的に働きかけるべきなのかが手探りにでもわかるような、そして情熱と行動力のある主権者を育てていくべきだと思います。ご講演いただきました明智さま、ご参会いただきました皆さま、ありがとうございました。
文責・企業教育研究会 小牧瞳
特定非営利活動法人企業教育研究会(以下「ACE」)は、コロナ禍においても「学校と社会の繋がりを切らない、多様な学びを止めない」ことを目指し、遠隔で実施できる企業と連携した出張授業の開発・研究を推進してきました。
関連記事:https://ace-npo.org/wp/archives/date/2020/04
この取り組みによって、これまでに以下の成果が得られています。
<学校>
・テレビ会議システムで学校と企業を繋いで実施する出張授業の提供
オンライン出張授業の例
株式会社ブリヂストン 「グローバルコミュニケーション教室〜世界につながる伝える力〜」https://ace-npo.org/wp/archives/project/bridgestone
株式会社ソニー・インタラクティブエンタテイメント 「ゲームでつながる授業と仕事」https://ace-npo.org/wp/archives/project/sie
・遠隔授業で用いる機器の準備や、操作方法のマニュアル化による円滑な実施の支援
<企業>
・コロナ禍における社会貢献活動としての遠隔授業の機会の創出
・本社や事業所がある地域外の学校に対する遠隔授業の展開
<学会・社会>
・学会における遠隔授業の研究成果の発表
「グローバル企業と連携した異文化コミュニケーションについて学ぶ出張授業のオンライン化」コンピュータ&エデュケーション、Vol.50、pp.56-59【査読有】明石萌子・藤川大祐、阿部学、和田翔太、植木久美
「企業連携による出張授業を遠隔実施する際の教育方法に関する考察」、日本教育工学会2020年秋季全国大会講演論文集(於:オンライン開催)、pp.131-132和田翔太・明石萌子・市野敬介・藤川大祐・阿部学・加藤浩・藤井篤之(2020)
・ACE主催の研究会のオンライン開催による、テレビ会議ツールの活用方法や、遠隔授業で役立つWEBツールに関する知見の共有
ACEでは、コロナ禍における社会に開かれた教育の実現のために、引き続き遠隔授業の開発・研究を推進します。また、この取り組みで蓄積した知見を活かし、GIGAスクール構想実現後におけるICT端末を活用した新しい授業づくりを目指します。
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以上
2021年6月19日(土)に第143回千葉授業づくり研究会「SHYHACKをヒントに、子どもの消極性を捉えなおそう」を開催しました。昨年度に引き続き、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止のため、オンライン会議ツールZoomを用いての開催となりました。
今回の研究会では神戸大学国際文化学研究科准教授、西田健志さまを講師にお招きし、消極性デザイン(SHYHACK)を議題にした講演を行っていただきました。西田さまは消極性研究会(www.sigshy.org)に所属しており、人や行動に関する消極性を研究しており、さまざまな方面でご活躍されております。
今回の講演では以下の3部構成で講演を進めていただきました。
はじめに消極性デザインについて教えていただきました。授業や講演会などで「質問がある方はいますか?」と問われて、手を挙げて質問をする人は積極的な性格の人(以後、積極側)で、質問があっても手を挙げない人は消極的な性格の人(以後、消極側)だと思われています。質問がない人は消極側には含めません。しかし、就職活動で面接官から質問があるか聞かれたときは、授業で質問をする人もしない人も、みんな質問をするのではないでしょうか。また、「留学先では積極的にたくさん話せたのに、日本に帰ってきたら話せなくなった」ということもあります。これらの例から分かることは、消極側の人の「性格を変えること」よりも、積極的にふるまうことができるように「環境を変えること」の方が簡単なのではないか?ということです。この発想に基づき、消極側が消極側のまま不自由なく生きていくことができる、積極的になれる環境や戦略を設計することが、消極性デザイン(英語ではSHYHACK)なのです。
いま世界に溢れているデザインは人間中心設計などと言われるほど、人間のために作られたものばかりですが、消極側のために作られたものはそう多くありません。例えば、懇親会などの場は、いわゆるコミュニケーション能力や行動力が必要不可欠であり、こうした場で新たに交流の輪を作ることは消極側にとってハードルが高く感じられます。そこで主催者は参加者の交流を促すための工夫を考えますが、主催者(積極側)が考える工夫は消極側にとってはかなりの積極性を要するものになりがちです。しかし、消極側のためだけに作られたシステムもそれはそれで、積極側の反感を買う上に、それを使うということは消極側として目立ってしまい使えないなどの問題も現れてしまいます。
上記のような問題を解決する有効な手段として、消極側が消極側のためのシステムを考えるという方法があります。とてもシンプルな話ですが、これが実は複雑なのです。消極側の人は、システムをデザインしたい!といった声を上げることは苦手です。また、消極側の人は、積極側の人が理解してくれないのではないか、など様々な可能性を考えて足踏みをしてしまうことがあるのです。このように消極側とは、物事を考えすぎる程よく考えている人と捉えることができると、西田さまはおっしゃいます。
西田さまは今までにさまざまな消極性デザインを考案しています。例えば、講演会での消極側のための席決めシステムや、匿名を利用したシステムである傘連判状機能付きのチャット、今回の講演会でも活用させていただいたOn-Air Forumなどがあげられます。このOn-Air Forumは軽いチーム戦要素もあり、匿名でも実名でもコメントでき、「いいね」機能や簡単な気持ちを表すシステムも備わっている、講演や授業などで活躍するコミュニケーション用のシステムです。今回の講演ではこのシステムを活用することにより、講演を聞きながら意見を出し合う参加者がいつにも増して多く、かなりの盛り上がりを見せていました。また、西田さまだけでなく、消極性研究会のメンバーの方々もさまざまなデザインを手がけ、開発されております。詳細は著書「消極性デザイン宣言~消極的な人よ、声を上げよ。……いや、上げなくてよい。」に収録されているそうなので、関心のある方は参考にされてはいかがでしょうか。
西田さまが今回の講演で一番伝えたかったことは、「消極的な人=よく考えている人」ということだそうです。これは、消極的であることとは、最悪な場合や、もし~だったら、もしかして~、などさまざまな考えを常に張り巡らせているために、中々行動に移せないということで、決して悪いことではないと教えていただきました。
また、西田さま自身も消極側なので、パーティや懇親会ではカメラを首から下げることで、声をかけられず一人になってしまったときは、撮影係として一人で当たり前という雰囲気を出し、撮影係として写真撮ってほしいと相手から声をかけさせることで、実は参加者であるというところから話を広げるなど、消極側ならではの考えで生きやすい人生をデザインされています。
最後に、消極側の子どもこそ、よりよい授業の設計の知恵を秘めている可能性を示唆し、皆さまとの質疑応答・議論の時間になりました。
参加者に教員の方が多く、質疑応答では実際の教育現場で消極性デザインの考え方を活用することに関する質問が多く、西田さまの考えは一貫して、消極側の意見をしっかり聞くことを重視されていました。消極側の人は色々なことを考えていますが、そのために意見の表明に積極的になれないこともあり、積極側の人に意見を見落とされてしまいがちなので、消極側の意見へ耳を傾けることはやはり重要なのだと感じました。
今回の講演で、「自分は消極的で何も出来ないのでは」と考えていた筆者も、「物事をしっかり考えている人」であるということに気付かされ、気持ちがとても楽になりました。また、今までは消極的で諦めていた講演会やパーティなどのその先(消極性デザイン)を考えることの楽しさにも気付けました。ご講演いただきました西田さま、ご参会いただきました皆さま、ありがとうございました。
文責・企業教育研究会 堀内誠太
2021年5月15日(土)に第142回千葉授業づくり研究会「ソーシャルデザインから学ぶ「正解のない問い」へのアプローチ」を開催しました。昨年度に引き続き、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止のため、オンライン会議ツールZoomを用いての開催となりました。
社会課題の解決方法には、唯一の正解はありません。社会の一人一人の知恵や経験を活かして様々なアイディアを引き出し、より良い解決策を創り出していくことが大切です。
解決策を創り出す方法のひとつにソーシャルデザインがあります。今回の研究会では株式会社cocoroéの田中美帆さまを講師にお招きし、講演や社会課題を題材にしたワークショップの体験を通してソーシャルデザインについて理解を深めました。その上で、ソーシャルデザインの知見を取り入れて「正解のない問い」へのアプローチを学ぶ方法について、参加者の皆さまと議論しました。
田中さまには、ソーシャルデザインの概略として4点お話いただきました。
1. ソーシャルデザインとは
田中さまは、デザインそのものは、価値創造であるという思いが根底にあるとのことです。見た目や意匠だけではなく、多様な人々がそれぞれの視点から知恵を出し合い、ソーシャル・グッドなイノベーションを生み出す【場・関係・コミュニケーション】のデザインのことを指しています。
2. 21世紀のデザイン領域とソーシャルデザイン
ソーシャルデザインの概念には、コンセプトマップとヘーゲルが提唱している弁証法の2つがあるそうです。
20世紀のデザイン領域は、グラフィック、プロダクト、アクション・サービスにとどまっていましたが、21世紀のデザイン領域は、システム、環境、生活、遊び、仕事、教育、組織、政府といった、さまざまな分野まで応用されているとのことです。21世紀のデザイン領域、つまりソーシャルデザインは、公益性・協働性・持続性の3つの特徴があり、さまざまな視点をもつ人がデザイナーと協力して作り出していくことが特徴です。
ソーシャルデザインは各領域に分けると4つのオーダー「グラフィック」「プロダクト」「アクション」「システム・環境」があり、可視性や複雑性で分類することができます。これを事例とまとめて紹介していきます。
「グラフィック」の具体的な事例に「I♡NY」があります。これは、1970年代のニューヨークの財政危機とデザインがかけ合わさってデザインされたそうです。
「プロダクト」の具体的な事例にタイプライターがあります。これは、盲目の方が恋人にラブレターを送るためにデザインしたものだそうです。これは現在のキーボードに発展しているそうです。
「アクション」の具体的な事例に認知症があります。認知症とデザインを掛け合わせ、スローショッピングというサービスが生まれたそうです。スーパーマーケットは毎週火曜日の午前中にこれを実施し、通路に椅子をおいたり、レジの音を消したり、認知症の方が不安になる事象を排除したそうです。
4つ目に「システム・環境」の具体的な事例にまちづくりのデザインがあります。ドローンとデザインを掛け合わせ、海上人命救助をしたそうです。実際に海上で溺れてしまった少年2人をドローンが救助した実例があり、動画も残されています。
3. インクルーシブデザインとダブルダイアモンド
従来のデザインの対象は、マジョリティ向けのものでした。ですが、インクルーシブデザインの対象設定は、障がい者や高齢者などの極端ユーザーだそうです。これの具体例は、前述したタイプライターやウォシュレットトイレなどがあります。
デザイナーは、極端ユーザーにとって何が問題なのか・課題なのかがわかりません。そこで、デザインに関係する極端ユーザーの方々と会話を重ね、課題発見・課題定義を行なっていくそうです。リサーチの際には共感主導の人間中心リサーチという方法を使用し、マイノリティから小さな課題を聞き、デザインソリューションを見出していくといった流れが、ダブル・ダイヤモンドに示されているものです。
4. ソーシャルデザインの源 プリンシプル=「真・善・美」
ソーシャルデザインの源は、一人ひとりが持っている道理や物事の筋道、主義などであり、これをプリンシプルと総称しているそうです。ここまであげられてきた事例のうち、ドローンの人命救助やスローショッピングは、それぞれひとりの思いから始まったものであり、それぞれの影響力から個や組織、社会そして地球はつながっているということがわかります。
講義の後は、ワークショップを体験させていただきました。活動は五感の課題出しワーク・五感の課題を整理して導き出すコンセプトづくりの2つに分類されていましたが、今回は時間の都合上、五感の課題出しワークのみを体験させていただきました。ワークのテーマは、「新型コロナウイルス感染症によって生じた問題について」です。ワークの流れとして、すでに他大学の学生が書き出した問題について、自分が共感できるものに印をつけていく。その中で得票数が多かったものをピックアップし、ソリューション案のアイデアを時間の限り出していくというものでした。
ワークショップ体験後は、参加者との質疑応答を行いました。今回は、現職の先生や大学院生など様々なお立場の方にご参加いただいたこともあり、オンラインでの学習や動画の撮影・編集方法、既存の学習活動との繋がり、アンケートの取り方などについての質問などが飛び交いました。参加されたみなさんと共に、学校教育でのソーシャルデザインの扱い方や、ファシリテーションの方法、ソーシャルデザインの社会実装などについて意見交換することができ、今後の学びに繋がるアイディアをいただくことができた貴重な機会になりました。
ご講演いただきました田中さま、ご参会いただきましたみなさま、ありがとうございました。
文責・企業教育研究会 郡司日奈乃
2021年4月17日(土)に第141回千葉授業づくり研究会「子どものクリエイティビティを目覚めさせる授業づくりを考える」を開催しました。昨年度に引き続き、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止のため、オンライン会議ツールZoomを用いての開催となりました。
社会には、様々な「正解のない問い」があります。このような問いには、予め決まった取り組み方はなく、創造力をはたらかせて解決策を考え、実行していくことが求められます。その中で、私たち一人ひとりが持っているクリエイティビティを発揮することが、より良い解決策を練り上げていく上で重要になるのではないでしょうか。今回の研究会では、今回の研究会では株式会社Inspire Highの杉浦太一様を講師にお招きし、世界で活躍している人々の取り組みを題材にしたオンライン動画教材についてお話いただきました。
「これまでの正解」に縛られずに生きている世界中の“かっこいいオトナたち”と出会い、答えのない問いに向き合う機会を提供されています。特に、Inspire Highが提供するものは「世界中の想像力と10代の若者を繋ぐライブ配信、あるいはオンラインの教材プログラム」になります。10代であれば、誰でも、どこからでも体験可能である点が特徴になっています。
杉浦様は学生の時にカルチャーメディアに関する会社を立ち上げており、アーティストの方々とお会いした時の言葉ひとつひとつに感動され、「10代のうちに聞いておきたかった…」と思った経験があるとのことでした。これらについては学校で知ることができなかったため、とっかかりになることを10代のうちに発見できたら面白いのではないかと思い、株式会社Inspire Highを立ち上げたとのことです。
オンライン教材の作成にあたり、世界中の教育現場に足を運び、主体的な学びに関して先進的な取り組みを行っている機関や人物に会いにいき、アドバイザーになってもらえないか打診するなど、世界中の教育者たちがバックアップしてくれる体制を築いたそうです。
現時点で30人以上の著名人が動画に出演されてきましたが、それらのテーマは“Expand Your Horizons” と一貫したものになっています。
独自に開発アプリで定期的に開催されるライブ配信セッションが教材のメインコンテンツになります。この配信動画を編集し、アーカイブ動画として残すことで、その時間に合わせて視聴することができなかった生徒にも内容が届くようになっています。配信およびオンライン教材の内容は3ステップに分かれています。
1. ガイドトーク(15分)
動画に出演する著名人(ガイド)とインタビュアーによるやりとりを聞き、配信をみている生徒たちはコメントを送る時間
2. アウトプット(15分)
著名人から投げ掛けられる「正解のない問い」に対して各生徒が手や頭を動かし、ワークを行う時間
3. フィードバック(10分)
それぞれが投稿した作品やアイデアに対して、同じタイミングで参加している同年代から寄せられるフィードバックを確認する時間
また、実際の学校現場で使用することができる事前・事後学習用のワークシートを作成し、適宜配布しているとのことでした。
今回は、実際にInspire Highのセッションをすべての参加者が体験し、Inspire Highの双方向性を感じることができました。体験後は参加者との質疑応答を行いました。今回は、現職の先生や大学院生など様々なお立場の方にご参加いただいたこともあり、オンラインでの学習や動画の撮影・編集方法、既存の学習活動との繋がり、アンケートの取り方などについての質問などが飛び交いました。また、ご講演中のチャットも盛り上がり、参加者のみなさま同士も意見交換をすることができました。
今回は、新型コロナウイルス感染症の影響で大きく状況が変わった学校教育に合う形で展開されている教材の工夫や教材にかける思いを中心にご講演いただきました。参加されたみなさんは「正解のない問い」に取り組むことはこれからの教育にとって必要であるという共通認識を持った上で意見交換することができ、今後の学びに繋がるアイディアをいただくことができた貴重な機会になりました。
ご講演いただきました杉浦様、ご参加いただきましたみなさま、ありがとうございました。
文責・企業教育研究会 郡司日奈乃
企業教育研究会では感染症拡大防止対策として以下の方法をとっています。
2020年3月から現在に至るまで、全職員をテレワーク化しています。
新規、既存問わず出張授業や研修会の遠隔授業プランの作成をしています。
これにより、すでに遠隔化が可能となった出張授業、研修会は以下の通りです。
考え、議論する道徳・キャリア教育
データをめぐる謎を探れ!
ブリヂストングローバルコミュニケーション教室
みんなでチャレンジ!ITエンジニア
子ども向け環境授業プログラム
職員は日常の健康記録管理を行い、直近2週間で37度以上の発熱があったものは学校、取引先等に伺わない措置をとっています。
また、出張時にはマスク着用、手洗いうがい等の衛生管理の徹底を行っております。
文部科学省「新型コロナウイルス感染症に対応した持続的な学校運営のためのガイドライン」に則って運営されている学校にのみ出張を行います。
直近2週間以内に感染者および濃厚接触者が発生している場合は出張できません。
ご不明な点は以下の「お問い合わせフォーム」より、ご連絡ください。
2020年12月19日(土)に第140回千葉授業づくり研究会「子どもたちのInstagram利用の現状と安全に関する取り組みについて」を開催しました。前回に引き続き,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止のため、オンライン会議ツールZoomを用いての開催となりました。
近年、InstagramなどSNSを利用する子どもたちが増えています。今回の研究会では、Facebook Japan株式会社(以下、Facebook社)の栗原さあや様を講師にお招きし、子どもたちのInstagram等の利用状況や課題、それに対応するための企業の取り組みなどをお話いただきました。以下、ご講演の概要をご報告いたします。
ファミリーアプリ(Facebook, Messenger, Instagram, WhatsApp, Workplace, Oculus )の利用者数は全世界で32億人を突破しており、グローバルにサービスを運営されています。多くの方が利用する中で、地域や文化に応じてどのように安心安全でわかりやすい環境を作っていくかということを日々考えているそうです。
会社のミッションとして「コミュニティづくりを応援し、人と人がより身近になる世界を実現する」を掲げており、ファミリーアプリの開発は常にこのミッションに沿って行われています。
今回のテーマであるInstagramというSNS、利用されている方も多いのではないでしょうか。研究会の参加者も、半数近くの方が普段から利用されているとのことでした。
Instagramのミッションは「大切な人や大好きなこととあなたを近づける」だそうです。「インスタ映え」に代表されるように、きれいな写真や動画を共有する場としてのイメージが強いかもしれません。しかし近年では、「週末はどこに行こうかな」といったような日常生活でのアクションを考えるときに活用される場として進化しています。また、女性向けのSNSというイメージもありますが、実際は男性の利用者が40%以上いるそうです。
日本では2010年にサービスを開始し、2019年には3300万アカウントの利用がありました。日本ではストーリーズ(24時間で消える投稿機能)が特に人気で、多くの方に利用されています。なお、InstagramはFacebookと違い、実名でないアカウントを複数持つことができるため、用途ごとにアカウントを使い分ける人もいるそうです。
続いて、機能についてご紹介いただきました。代表的な新機能は以下のとおりです。
・ARカメラエフェクト
カメラに映る自分の顔や背景にイラストなどを合成し、さまざまな表現ができる。
・リール
短尺動画(最大30秒)を作成・投稿できる。
・IGTV
長尺動画(1分以上、最大1時間)の動画を作成・投稿できる。
・Instagramライブ
リアルタイムで視聴者からの意見や質問を受け付け、双方向のコミュニケーションができる。コロナ禍で対面イベントができない中、世界的に利用が増えた。
・QRコード(日本限定機能)
アカウント情報をQRコードで紹介できる。
昨年から製品開発チームが日本にも設置されたことで、QRコード機能をはじめとする日本独自の機能が続々と開発されているそうです。アメリカ国外で開発チームが置かれるのは日本が初だそうで、その背景には、日本でのInstagram利用の仕方がユニークなため、製品づくりに生かしていきたいという狙いがあるそうです。
日本でのユニークな利用例としては、「ハッシュタグ検索」が挙げられます。これは、「#〇〇」といった形で、同じカテゴリの投稿を検索できる機能です。日本でのハッシュタグ検索回数はグローバル平均の5倍にのぼっているそうです。日本ではハッシュタグを文章として書くなど、表現方法のひとつとしても活用されているのが特徴です。
安心安全に関する取り組みとしては、まずFacebook社のポリシーについてお話しいただきました。許されない投稿としては、脅迫、自傷行為や性的暴力、テロに関するものなどが挙げられます。これらを含めたルールは、Facebookでは「コミュニティ規定」として、Instagramでは「コミュニティガイドライン」として規定されています。ルールを考える際に重視する点が3点あり、多様性を重視するといった「①原則に基づく」こと、ルールは実際に「②運用可能」であること、利用者に「③説明可能」であることだそうです。
ルール違反の検出には大きく2つの仕組みがあります。ひとつは利用者からの報告、もうひとつはAIや機械学習といった技術を用いて検出することです。技術を用いた検出では、投稿がされた瞬間、他の人の目に触れる前に検出・削除する対応も行われているそうです。しかし、検出技術には得意なコンテンツと不得意なコンテンツがあります。具体的には、ヌードなどの画像検出は得意ですが、ヘイトスピーチやいじめなどの文化・文脈背景の理解が必要なものは、自動判断がしづらいそうです。不得意なコンテンツでは、人の目での判断で補いながら対応しているそうです。
FacebookやInstagramの管理機能は、利用者が自分で管理できることを重視して設計されており、自分の投稿を誰に対して公開するか、誰からの投稿を表示するかなどを細かく管理できるようになっています。
安全に関するツールのひとつとして、不適切な投稿の報告機能があります。利用者が不適切だと思う投稿を「報告」ボタンからFacebook社に報告でき、Facebook社での調査後、報告に対する回答が利用者の「サポート受信箱」に送られるという仕組みになっています。
他にもInstagramのツールとして、以下のものをご紹介いただきました。
・コメント設定
投稿ごとに、誰がコメントできるかの設定や、特定のコメントの削除、報告ができる。
・不適切なコメントの非表示
非表示機能をONにすると、いじめコメントや性的表現を含むコメントなどが自動で非表示になる。また、非表示にしたいキーワードを自分で設定すると、そのキーワードが含まれるコメントが非表示になる。
・タグ付け管理
自分をタグ付けできる人の設定や、タグ付けを承認制にできる。
・お気に入りのコメントの固定
気に入ったコメントを上位に表示させることで、コメント欄をポジティブな雰囲気にできる。
・オーディエンスの管理
アカウントのブロック、フォローを外す、ストーリーズの非表示といった設定ができる。
・制限機能
特定のアカウントを制限することで、その人からのコメントを非表示にできる。アカウントのブロックをすると、自分の投稿が相手に表示されなくなるので、ブロックしたと気づかれることもある。ブロックせずに制限することで、相手に気づかれにくい形で、相手の嫌なコメントを見ずに済む。場合によっては非表示のコメントを表示させ、さらに他の人も見られるようにすることもできる。グローバルには「restrict」という名前で実装されている。
・親しい友達リスト
リストを作成し、特定アカウントだけにストーリーズを表示させる。
・問題を抱えている方へのサポート
辛い気持ちを表す単語の検索時や、サポートの必要性を匿名で報告されると、「助けが必要ですか」といったポップアップが表示される。リンクを押すと、当事者に役立つヘルプラインなどの情報が表示される。
グローバルでこれまでに3500万以上のInstagramアカウントが制限機能を使用しているそうで、需要の高さが窺えます。
以下のように、Facebook社で取り組んでいる様々な普及啓発活動をご紹介いただきました。
・保護者のためのInstagramガイド
保護者向けに、子どもの利用方法について話し合うためのアドバイス冊子を作成。
Instagram ヘルプセンター(https://help.instagram.com)から閲覧・ダウンロードできる(ヘルプセンター >プライバシーと安全>保護者のためのヒント)
・安全な使い方を楽しく学ぼう!みんなのInstagramガイド
青少年向けに、4コマ漫画で身近にありえるストーリーを描き、場面ごとの安全な使い方を紹介する冊子を作成。(参考URL:https://about.fb.com/ja/news/2019/12/teensafetyguide/)
・サポートページ運営
「ヘルプセンター」(https://www.facebook.com/help)と「安全に利用するために」(https://www.facebook.com/safety)といったページを運営。
Facebook社のみでの取り組みだけでなく、外部と連携した普及啓発活動も行なっているそうです。例えば、以下のものがあります。
・インスタANZENカイギ
UUUM株式会社と連携し、若年層の支持を集めるクリエイターと共に、実際の悩みや体験談をもとにした啓発コンテンツを制作・発信。コンテンツのひとつとして、誰でもストーリーズから参加して機能を学べるインスタANZENカイギクイズを実施。
・メンタルヘルスに関する取り組み
NPO法人あなたのいばしょと共に、メンタルヘルスに関する「まとめ」を公開。また、Buzzfeed Japanと共に、Instagramライブ「こころの不調は誰にでもあることだから。いま知りたい心のケア101」を実施。
・プライバシーに関する取り組み
人気クリエイターと連携し、「#マンガで学ぶプライバシー」キャンペーンを実施。
・教育プログラム「みんなのデジタル教室」
アジア太平洋地域全体で運営されているプロジェクト。幅広い世代のデジタルリテラシー向上のために、国ごとに様々な活動をしている。2020年内に8カ国で200万人以上の受講が目標で、これを達成。
日本では今年度、弊会と共同で中高生向けコンテンツを制作し、オフライン・オンラインで2つの授業を実施。「デジタル・アイデンティティを考える」では、一般的なイメージの個人情報だけでなく、履歴やシェアの蓄積もデジタル・アイデンティティを構成していることを学ぶ。「偽ニュースの見分け方」では、偽ニュースが発信される動機や受け取る側の視点を考える内容。授業のエッセンスをInstagram上で体験できるコンテンツ「タグでたどる物語」も公開した。
日本での他の取り組みとして、シニア向けの冊子「大人のためのFacebookガイドブック」も制作しており、ここでは実名制の利点を生かした使い方や追悼アカウントの設定方法などを盛り込んでいる。
・パートナーシップ
一般社団法人ソーシャルメディア利用環境整備機構を他事業者と連携して設立。ソーシャルメディア上の課題の傾向や対策に関わるノウハウを共有し、調査研究や啓発活動の強化を目的に活動。
・VR教育実証プロジェクト
NPO法人CAMVASと連携し、Facebook社が開発するVRデバイスOculusを活用して災害疑似体験コンテンツを開発。中学校で実施した授業では、廊下で煙が充満する様子や、校庭が浸水する様子を生徒たちが疑似体験できた。
VRプロジェクトについては今回の主題とはテーマが異なりますが、テクノロジーによって生じるネガティブな側面の解決だけでなく、ポジティブな面での新しい教育機会の提供も行なっていることの例としてご紹介いただきました。
意見交換では、オンラインツールを使用して質問・意見を一覧化しながら、活発な交流が行われました。
ご講演を通じて、InstagramをはじめとしたSNS機能は日々進化しており、コミュニケーションの幅が大きく広がり続けていることを改めて感じました。その一方で、新しい配慮やトラブル対応が企業と利用者双方に求められているのだということがわかりました。また、安心安全のための機能の多様さや開発背景を知ったことで、こうした機能を使いこなすための普及啓発の大切さを痛感しました。教育現場でのリテラシー教育につながる、示唆に富む時間になりました。
ご講演いただいた栗原様、ご参加いただいた皆様、ありがとうございました。
文責・企業教育研究会 樋口健
2020年11月14日(土)に第139回千葉授業づくり研究会「未来の主権者に必要なコミュニケーション能力とは!?」を開催しました。前回に引き続き,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止のため、オンライン会議ツールZoomを用いての開催となりました。
社会における変化や多様化に応じた政治を実現するためには、国民の様々な意見を政治や行政に届けることが重要です。しかし、日本では若い世代の選挙での投票率が低い状況が続いており、若者の政治離れが問題となっています。
学校教育では2016年に選挙年齢が18歳以上に引き下げられたこともあり、主権者教育の重要性が注目されてきました。若者の政治離れを解決するために、これからの主権者教育では投票を推奨するだけでなく、自分の意見を政治や行政に届ける方法について子どもたちと考えていくことが大切なのではないでしょうか。
今回の研究会ではマカイラ株式会社の藤井宏一郎様を講師にお招きし、アドボカシーやロビイングなどの政治に意見を届ける方法や、こうした活動に欠かせないコミュニケーション能力などについてお話いただきました。また、主権者教育に関心のある大学生・大学院生,教員のみなさんと未来の主権者を育てるための教育について議論しました。
こちらは、講演の録画です。
また、講演のスライド資料は、以下からダウンロードできます。
https://www.dropbox.com/s/cqt84ku4kk72c0j/
藤井様が代表取締役をつとめる「マカイラ株式会社」は,アドボカシーを中心としたパブリックアフェアーズのコンサルティング会社です。アドボカシーとは権利擁護,政策提言などと訳され,主にマイノリティや社会的弱者の立場に立った政治的表明やキャンペーン活動を意味します。パブリックアフェアーズとは社会性の高い問題について様々な立場の人に理解してもらうための戦略的コミュニケーションを意味します。「マカイラ株式会社」での仕事は,例えば,政治や社会問題に関して,実際に困っている人や問題提起をしようとしている人,法律の専門家や企業などが協力できる体制づくりをし,政策の実現まで持ち込むことを目的に様々な手法でキャンペーンを行うというものがあります。
政府に声を届ける方法として投票に限らず,様々な手法でキャンペーンがあるとのことですが,学校では政府に声を届ける方法をどのように児童生徒に教えていくべきなのでしょうか。現在の学習指導要領では司法参加,政治参加,公正な世論と経済活動への参加,請願権などがバランスよく書かれており,投票に偏った記述はありません。しかし,実際には模擬投票の実践が少なくないのが現状です。また,教科書においては「社会変革の手法」について散発的に記述されるにとどまり,体系だって教えることはできていません。すなわち,具体的にどのような行動から始めて問題解決に至ればよいのかが児童生徒には分からないのです。一方で,実際の社会では若手が中心となってベンチャー企業や社会起業家,NPOといった形で世の中を変えるケースが増えているそうです。こうした現状を踏まえると,児童生徒には今の政治システムをうまく利用する「新しいロビイング(アドボカシー)」や「パブリックアフェアーズ」という方法を学校教育の中でも取り上げていく必要があるのではないか,というお話がありました。
それでは,具体的に政治や社会問題に対して声をあげたいと思った時,どのような行動をすればよいのでしょうか。旧来のロビイングは陳情と言う形で政治や行政に働きかけることが主流でした。一方,新しいロビイングでは①マイノリティや弱者の声を拾い関係各所に働きかけていく草の根ロビー・市民アドボカシー,②新規事業を始めるにあたり必要な法整備や利害調整といったものを進めていくパブリックアフェアーズ/イノベーションアドボカシーのタイプがあり,二つを組み合わせたタイプも考えられます。いずれにしても,形式的に進めるだけでは大きなムーブメントは起きません。実質的に,努力を惜しまない行動と戦略的に物事を進めていく社会コミュニケーションスキルが必要だそうです。一人でも多くの味方を増やすために,誰にどのような方法でアプローチするのが良いのか,どのような情報を持っていけば良いのかを考え,広く社会を巻き込み,透明かつ公正に政策決定まで持ち込むことが求められます。
新しい市民ロビーの一般的な流れを5つに分けて紹介していただきました。
「①仲間づくり」では,アドボカシーの拠点となるNPO法人,場合によっては協議会や連絡会を立ち上げ,同じ問題意識を持った人々が集まれる団体を立ち上げます。自治体、企業、NPO、政府、財団など様々な立場の人を巻き込んで特定の社会問題を解決しようという「コレクティブ・インパクト」という考え方もあり,政策立案に関わる議員に対し,一個人の意見ではなく世論として認めてもらうためにも仲間づくりは重要な一歩です。
「②要望事項の整理」では,困っていることを解決するために,具体的に,どの法律・条例のどこを直して欲しいのか,どういう予算が必要か特定した政策提言書を作成します。味方となる行政職員や市議会議員と話して改善点のアイディアがもらったり,その問題を研究している大学の教授や研究室に協力を仰いだり,あるいは統計データやメディア記事の背景資料の準備をしたり,ということが提言書の作成と並行して行われます。
「③政策当局者への接触」では提言書を実際に国会議員や省庁の担当者に持っていきます。この段階は心理的なハードルが高いと思われがちですが,意外と話を聞いてくれるケースも多いそうです。どのような問題を解決するのかによって会うべき政策当局者は変わってきますが,政策提言書,背景資料,予定があれば今後のイベント案内を持参し,他に会っておくべき人の紹介の取り付けをお願いすると問題解決のための人脈も広がります。
「④世論への呼びかけ」では,ウェブサイト,ブログ,SNS,イベントといった特定の層へのアプローチと,新聞やマスメディアといった大衆向けのアプローチを進めていきます。広告をプロにお願いすることで,メディアが注目するようなコンテンツをつくり,世論が味方についてくれることもあります。政局を見守りながら,いつ誰に向けてどのような情報を出すのが効果的か考える必要があります。
「⑤政府内でのプロセス」は,政策立案に向けて動いてくれている議員を支援する段階です。反対派の議員への質疑応答のための資料提供や,味方になってくれる議員を増やすための呼びかけ,どこまでなら妥協するのかといった条件について仲間内での合意を得るなどやるべきことがいくつもあります。法案が通った後も,全国展開に向けてガイドライン制定まで丁寧に活動を進めていくことが求められます。
実際に「自殺対策推進法」「食品ロス推進法」「電話リレー法」といった法案の制定,学校における「ブラック校則」反対運動などが上記のような方法で実現されていきました。今の時代,社会変革キャンペーンに関わる方法はたくさんあることがわかります。我々は,国会,中央省庁,市議会議・市役所,国際機関などを対象に,ウェブ,メディアキャンペーン,署名サイト,クラウドファンディング,デモ行進といった様々な手法で,社会変革をもたらすことができるのです。そして社会変革をもたらす上で重要となるのが社会コミュニケーションスキルです。例えば,どうコアに動いてくれる仲間をつくるか,どう資金を集めるか,裏切りや駆け抜けにどう対応するか,どう味方を見極めるか,どう仲間内にしこりを残さず,誰に花を持たせるかなどが,社会コミュニケーションスキルの例です。これらのスキルはアドボカシーに参加する人のみならず,どのような組織に属していても必要なスキルであると言えます。
今回は,これからの主権者教育について,投票を推奨するだけでなく、自分の意見を政治や行政に届ける方法について子どもたちと考えていくための方法として,「新しいロビイング(アドボカシー)」があること,そして実際に問題解決を進めるにあたっては「社会コミュニケーションスキル」が求められるということをご講演いただきました。民主主義社会を生き抜く児童生徒に必要なスキルとは何か,質疑応答の時間にも大変充実した議論をすることができました。ご講演いただいた藤井様、ご参加いただいたみなさま、ありがとうございました。
文責・企業教育研究会 小牧瞳
2020年10月17日(土)に第138回千葉授業づくり研究会「インバウンド対応から学ぶ「変化をチャンスにつなげる力」」を開催しました。今回も、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止のため、オンライン会議ツールZoomを用いての開催となりました。
インバウンドの増加に伴い、社会には様々な変化が起きています。外国からの観光客が増加したことで、例えば地域の人の流れの変化や、街の様子や交通網などの変化、観光地の顧客ニーズの多様化などが起きています。観光業界では、こうした変化を受け止め、新しいニーズに応えているそうです。
近年の私たちの社会では、情報技術の発展などによってめまぐるしい変化が起きています。また、現在は新型コロナウイルスの影響による変化も様々なところで生じています。こうした社会では、変化に気づき、チャンスに変えていく力がますます大切になっています。
今回の研究会ではトリップアドバイザー株式会社の牧野友衛さまを講師にお招きし、近年の日本のインバウンドの現状や、観光業界におけるインバウンドへの対応、新型コロナウイルス感染症への対応などについてお話いただきました。以下、講演の内容を概略的に記録させていただきます。
牧野さまはTwitterやGoogleなどインターネット全般の企業でご活躍されていたこともあり、旅行業界とは別の立場で旅行やインバウンドというものを考え直していったそうです。
はじめに、トリップアドバイザーのご紹介およびインバウンドやコロナ対策についてご紹介いただきました。トリップアドバイザーは2000年にアメリカで設立された企業で、インターネットの初期段階から口コミを使用したプラットフォームを世界各国に提供しているとのことです。各地を特集している旅行者向け雑誌は、あくまでも編集者の手による評価になってしまいますが、トリップアドバイザーの口コミを見ると世界中の観光客が自身の基準で評価・写真投稿を行うことができるため、各国の言語の情報が集まっているそうです。また、マイナスの評価を隠そうとしている施設に対してはペナルティを課すなど、公平性が保たれるサイト運営をされているとのことでした。
インバウンドについて、元々の目的は少子高齢化による定住人口減少を埋めるべく交流人口を増やすことによって経済を回すことだったとのことです。日本への旅行者は年々と増加し、需要・消費額も伸びてきてはいるが、旅行業界としてはここからどのように伸ばしていくのかが課題であるとのことでした。インバウンドの旅行者を増加させるべく、必要な情報を出していく、ということが大切になってくるとのことでした。しかし、日本人が評価しているところと外国から来る人が評価している場所は異なり、各国で人気な地域が違うため、何が好きか・嫌いか、一辺倒に考えってしまうことはもったいないとのことです。ここで、牧野さまは日本の優れているところや改善の余地があるところについて、口コミを見て改めて考えてみたそうです。その中で各国の旅行者の傾向を見たところ、個人サイトや口コミサイトを見て旅行先を決定しているということがわかったそうです。このことから、旅行者が接触するすべてのメディアでの情報発信が大切であるため、今後はオンライン対応とブランドマネージメントが重要になってくるとのことでした。
続いて、新型コロナウイルス感染症に関する調査を基に、今後の対策や動きについてご説明いただきました。新型コロナウイルス感染症が収束次第、日本に行きたいと言ってくれている外国の方が多いそうですが、1年以上先になってしまうと答えている方が多数とのことでした。日本国内では国内旅行が増えていく一方で、アウトドアの旅行のニーズが高まってきているとのことでした。新型コロナウイルス感染症の影響により、旅行者数が昨年と同じ状況まで戻るためには2024年頃までかかる見込みではあるが、徐々に旅行者は日本へ戻ってくるだろう、とのことです。
今後、感染症対策も含めて、一辺倒な考え方ではなく柔軟に旅行者のニーズを考慮することが大切ということでした。このことは、変化をチャンスに変える上で大切だと考えられます。
牧野さまからご講演いただいた後、質疑応答を行いました。今回は、現職の先生や大学院生など様々なお立場の方にご参加いただいたこともあり、旅行に関するお話やサイトの運営についての質問などが飛び交いました。また、ご講演中のチャットも盛り上がり、参加者のみなさま同士も意見交換をすることができました。
その後のブレイクアウトセッションでは、以下のお題で議論を行い、様々な立場から考えるアイディアを共有しました。
①インバウンドを多くの人たちに自分ごととして考えてもらうために学校でできること
②これから異なる歴史や文化的背景を持つ人たちと違いを踏まえた上で、お互い理解しあうためのコミュニケーションが必要になります。そのような人たちを増やすためにできること
今回は、新型コロナウイルス 感染症の影響を大きく受けている旅行業界の今までとこれから、そしてインバウンド観光客に対するアプローチを中心にご講演いただきました。様々な立場を持つ方々と交流でき、今後のアイディアや学びのきっかけをいただけた貴重な機会でした。ご講演いただいた牧野さま、ご参加いただいたみなさま、ありがとうございました。
文責・企業教育研究会 郡司日奈乃
2020年7月25日(土)に第137回千葉授業づくり研究会「『寄付・社会的投資』とは?社会貢献教育について考えよう」を開催しました。今回も、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止のため、オンライン会議ツールZoomを用いて開催いたしました。
学校教育において、社会の課題を自ら解決する力の育成がますます重要になっています。
寄付や社会的投資が広がっていくことで、社会課題を解決するための新しいチャレンジが促進されます。また、誰かの役に立つことが自分の幸せにつながる社会を実現できることが期待されます。寄付文化を学ぶことは、社会の課題を見直し、自分にできることを考える大きなきっかけになるはずです。
そこで、今回の研究会では日本ファンドレイジング協会事務局長の小川愛様を講師にお招きし、日本の寄付市場や社会貢献教育についてお話いただきました。また、ワークショップを通して寄付・社会的投資を題材に、社会課題を解決する力をどのように子どもたちに育むことができるのか議論を行いました。以下、講演とワークショップの内容を概略的に記録させていただきます。
はじめに、小川愛様よりご挨拶を頂き、NPO法人日本ファインドレイジング協会についてご紹介をしていただきだきました。日本ファンドレイジング協会では、現在ファンドレイザー(民間非営利団体の活動資金を調達する専門家)の育成・市場の形成・政策を変えることの三つを主として事業をされています。
次に、日本の寄付市場について説明をしていただきました。日本の寄付額と外国の寄付額を比較すると、アメリカはほぼ40倍、イギリスはほぼ2倍、韓国はほぼ同額という結果になっています。GDPに占める割合で換算しても日本の割合は少なく、日本の寄付市場は伸びしろがあるといえます。日本の寄付総額の内訳は、3つのカテゴリーに分かれ、その中でもふるさと納税が1/3を占めています。寄付を年齢別にみると、高年齢にいくにつれて寄付率があがってくことが分かりました。寄付の動機は、寄付する場所によって異なっており、寄付を募る側はどこの人たちから寄付が欲しいのか、寄付を募るためにはどのようなターゲット層にメッセージングを行うのか等の検討が必要となります。寄付とボランティア活動の関係をみた場合には、「共感性」がキーワードとなっているそうです。
財源は、組織や事業を成長させるために必要であり、ファンドレイジング戦略とは、事業・組織・財源の一体的発展戦略です。ファンドレイジングスクールでは、ケーススタディを豊富に行っています。ファンドレイザーには、ファンドレイジングの知識とスキル・ファンドレイジングの実行・実践力、マネジメント・コーディネーション力、対人・コミュニケーション力、誇りと倫理を守る姿勢、誠実さの5つの能力が必要とされます。
一般の企業の活動では、投資したお金はその企業への経済的リターンとしてフィードバックされますが、寄付金を活用した活動の場合は、寄付したお金は受益者にフィードバックされます。そのため、寄付していただいた方々にきちんと活動報告やお礼を伝え、寄付金が正しく活用されていることをフィードバックすることが大切だということでした。
続いて、これからの寄付のかたちと社会的投資についてお話をしていただきました。レガシーギフト(遺贈寄付)というものがあり、これは亡くなる時に遺言として、社会課題を解決する団体に寄付をすることだそうです。日本の遺贈寄付の状況は、アメリカはイギリスと比べると、額は低いですが、現在は少しずつ増えてきています。人生最後の社会貢献ができ、自分の意思を世の中に残すことができるということが利点とのことです。
また、現在の新型コロナ禍でも、いくつかの団体が連携し、クラウドファンディングで集めたお金で助成金プロジェクトを行っているそうです。クラウドファンディングの利点は、街頭募金よりも集金収集力が高いことです。ただ、共感がもたれず、うまくいかない例もあるそうです。世の中の人が活動の目的に共感できるようなプロジェクトを考えることや、活動を多くの人に知ってもらう工夫が必要とのことでした。
現在、社会的投資(社会的インパクト投資、インパクト投資)が注目を浴びています。社会的投資では、経済的リターンと社会的リターンの両方が求められるとのことでした。
その後、教育プログラムの説明を受け、社会貢献教育の体験ワークショップを行いました。日本ファンドレイジング協会が学校に提供する教育プログラムとして、「寄付の教室」や「社会に貢献するワークショップ」があります。上記の取り組みでは、以下の三つを目標としているそうです。
①子どもたちの自己肯定感を高める
②子どもたちの多様な価値観を認める
③子どもたちが達成感を得られる
「寄付の教室」では、どの団体にいくら寄付するかという寄付の模擬体験ができます。「社会に貢献するワークショップ」は、社会に貢献することを個人の経験に根差して考えるワークショップです。新しいかたちの授業で、「Learning by Giving」が実施されています。子どもたちが30万円を実際に寄付することを通じて、NPOや社会の課題を解決することを学ぶ実践プログラムです。子どもたちに社会の課題を解決する力を育成することや、社会課題への理解を深めることへの効果がとてもあり、責任感も感じることができます。
「寄付の教室」体験では、グループワークを通して、30万円を3つのNPO団体に対し、どの団体にいくら寄付するのか決定し発表を行いました。4つのグループに分かれ実施しましたが、どのグループも分配額が異なり、選んだ視点は費用対効果や当事者意識、切実感など様々なものがあり、意見交換が盛り上がりました。小川様からは、「人によって色々な視点の考え方がある。正解はなく、思いをもって行動することが大切」というお話をしていただきました。
休憩を挟み質疑応答を行いました。学校現場と寄付教育の関りや、新型コロナ禍のクラウドファンディングについてなど、多岐にわたる視点から様々な質問がありました。
その後には、以下二つの議題についてブレイクアウトセッションを行いました。
①将来、社会課題解決の担い手として積極的に参加する大人になってもらうとしたら、今の社会貢献教育にさらに何を加えたらいいと思いますか。
②社会貢献教育をより学校に浸透させるためにはどういった工夫があるといいかと思いますか。
社会貢献をもっと身近な教育として、取り入れること。利他的になっていくこと。子どもたちの内から湧いてくる問を、どう社会の課題に結び付けるかなどの意見が上がっていました。
今回は、「寄付」という、まだあまり学校現場に浸透していない話題ではありましたが、これからの社会問題を考えるにあたり非常に重要なものであることが分かりました。最後に小川様から、社会貢献教育はこれから発展していく余地があることと、以下3つの大切な点をお伝えいただきました。
①地域の問題に気が付いて、社会のために貢献していくような機会を子ども達に提供していくことが大切。
②寄付を身近に体験する場として学校が重要であり、学校へのアプローチの仕方に工夫をしていくことが大切。
③身近なことから自分にできること、社会に貢献して一員になれることを意識することが大切。
ご講演頂いた小川様、ご参加いただいた皆様、ありがとうございました。
文責・企業教育研究会 立川さくら
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行に伴う一斉休校が解除され、ソーシャルディスタンスを維持しつつ話し合い活動などの人と関わる学習活動をどのように行うか、企業の出張授業などの社会とつながった学びをどのように維持するか、といったwith コロナ時代の学校教育の進め方が議論されています。こうした課題を考える上で、休校期間中に行われたオンラインツールを用いた実践を振り返り、オンラインコミュニケーションを活用した学校教育について議論することが重要だと考えられます。
今回の研究会では、一斉休校の開始直後からMicrosoft社のグループウェア「Teams」を導入し、先駆的な実践を重ねている千葉大学教育学部附属小学校の先生方4名からご講演いただきました。以下講演の内容を概略的に記録させていただきます。
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ご講演いただいた先生方のご紹介
・小池翔太先生:校内のICT主任・総合準専科。一斉休校要請直後・試行導入期・本格導入期と段階に分けて、Teams導入までの学校現場のリアルをご講演いただきました。
・永末大輔先生:専門教科は体育。今回は6年生に向けた「身体を通した対話」を大切にした授業実践についてご講演いただきました。
・田﨑優一先生:専門教科は理科で、現在は専科教員。休校中であっても、教材を手にして事象をしっかり見て欲しいという想いから作成された非同期型・動画教材についてご講演いただきました。
上記3名の先生に加えて、休講期間中の学級づくりの一環として、分散登校をチャンスと捉えた道徳の授業実践を行った担任の先生にもご講演いただきました。
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はじめに、小池先生からTeams導入の経緯についてお話いただきました。休校後であっても、グループウェアで教室の「当たり前」を再現したかったという想いから、以下の内容が組み込まれているTeamsを使用されたそうです。
・いつでもだれでもビデオ通話
・チャットの記録が残る
・ファイル投稿とそれに対するコメントができる
・(限度はあるが)カジュアルなコミュニケーションもしやすい
千葉大学はMicrosoft社と包括契約を結んでいるため、一人ひとりの教職員・学生にアカウントが発行されています。今回はこれを利用し、附属小学校一人ひとりの児童へのアカウント発行を大学側に申請し、休講要請翌日に児童約650名分のアカウントが発行完了・配付されるなど、刻一刻を争う状況だったとのことでした。試行導入期(3月)は、Teamsへの参加は任意制で、あくまでもメインは学校HPに掲載される課題がメイン。本格導入期(4月)は、学校からデバイスを貸し出すなどの対応の上、児童全員がTeamsへ参加しオンライン上での学級開きが行われたとのことでした。
また、附属小学校全体で取り組んでいた情報活用能力育成の授業実践の経験も、今回のTeams導入に一役買っているとご紹介いただきましたので、こちらでURLを共有させていただきます。
令和元年度情報教育推進校(IE-School)成果報告集(千葉大学教育学部附属小学校)
http://www.el.chiba-u.jp/IEschool
次に、永末先生から「身体を通した対話」を大切にした体育の授業実践についてお話いただきました。コロナ禍では運動不足が問題になっているが、本当に児童は運動をする機会を体育の授業に求めているか調べたところ、「友達との関わりがほしい・コミュニケーションがしたい」という調査結果を見つけたとのこと。コミュニケーションを取りたいだけでは体育である必要はないと考え、身体を使いながら他者とコミュニケーションを図ることを大切にした授業を組み立てられたそうです。永末先生の実践は、以下の4つのフェーズで行ったそうです。
①非同期型オンデマンド(一方通行型)
②同期型リアルタイム(双方向型)
③子どもたちが動きや運動を考え、創造する(双方向型を超えた相互作用的な対話型)
④分散登校を見据え、学校での学習と家庭でのオンライン学習をつなぐ(ハイブリッド型)
今回の実践を通して、ただ運動を提供することは求められておらず、いま学校で求められている体育とは運動と対話であることがわかったため、今後はオンライン上での対話のしやすさを武器にした、学校とオンラインを繋ぐハイブリット型授業が求められるとのことでした。
続いて、田﨑先生から「非同期型動画教材」についてお話いただきました。理科で扱う題材を自分ごとの課題にしてもらうべく、教材を手にして事象をしっかり観察できるような動画づくりを目指したとのことでした。また、普段気にも留めなかった周囲の自然に目が向くようになってもらえるように先生ご自身が動画を作成されたとのことでした。これによって学校など身近な場所で撮影することができ、身近なものとして事象を捉えられる・自分が飼っているかのように感じさせられる、とのことでした。実際には、Microsoft Streamを使用し、自然の変化・季節の移り変わりを子どもたちに届けようと動画を何本も編集されたそうで、非同期型動画教材のメリットは、自分の端末で動画を何度も確認できるため児童のペースで進められることや、意見を述べる時に手元に動画という情報があること、だそうです。今回の取り組みを踏まえ、これからの課題は、非同期型から同期型になった時、どのようにしてモノを用いた対話や意見交換をするか、どのようにして児童自身が事象から不思議を発見して自分ごとにできるようにするか、とのことでした。
最後に、担任の先生から休校期間中の「学級づくり」と分散登校をチャンスに捉えた授業実践についてお話いただきました。休校期間中はオンライン上で朝の会とまとめの会を行い、児童の「友達と話したい」を叶える取り組みを行っていたそうですが、児童からは「もっと話したい」「足りない」という声があったとのことです。この時たまたまネット上で見つけた「オンラインもくもく会」を学級にも導入し、参加希望者でのゆるやかな繋がりを作っていったとのことでした。また、分散登校が始まってからは、子どもにいま必要な学習を考え、「わくわく」ではなく、まずは「ほっと」することを大事にされたとのことでした。その一つの取り組みとして、道徳×学活の4コマ構成で「お互いのよさを見つけ合おう」という単元を展開されたとのことでした。また、分散登校では半分の児童のみが教室にいるため、教室で行う授業・オンライン上での同期型・自宅での非同期型の3つの方法を取り、ハイブリッド型授業を実践されたとのことでした。今後は、これまでも大切にしてきた授業改善の視点やオンラインならではの「話しにくさ」の改善、個の見取りが課題になるとのことでした。
以上4名の先生方からお話いただいた後、質疑応答を行いました。今回は現職の先生から民間企業にお勤めの方まで多岐にわたって参加いただいたため、現場レベルの話からTeamsの機能に関する質問など、さまざまな質問が飛び交いました。
その後のブレイクアウトセッションでは、「オンラインツールをこれからの学校教育に生かすアイディア」というお題のもと、8部屋のブレイクアウトルームで議論が行われ、様々な立場から考えるアイディアを共有しました。
今回は、本会にしては珍しく学校の先生にご講演いただきました。「出来る事を出来るだけやった」休校中の支援として、いち早く取り組まれた千葉大学教育学部附属小学校の事例を通して、これからの教育について考えを巡らせていきました。また、様々な業種の方と交流でき、今後のwithコロナ時代に向けたアイディアや学びのきっかけを頂けた機会でした。ご講演いただいた4名の先生方、ご参加いただいたみなさま、ありがとうございました。
文責・企業教育研究会 郡司日奈乃