2021年6月19日(土)に第143回千葉授業づくり研究会「SHYHACKをヒントに、子どもの消極性を捉えなおそう」を開催しました。昨年度に引き続き、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止のため、オンライン会議ツールZoomを用いての開催となりました。

今回の研究会では神戸大学国際文化学研究科准教授、西田健志さまを講師にお招きし、消極性デザイン(SHYHACK)を議題にした講演を行っていただきました。西田さまは消極性研究会(www.sigshy.org)に所属しており、人や行動に関する消極性を研究しており、さまざまな方面でご活躍されております。

今回の講演では以下の3部構成で講演を進めていただきました。

  • 消極性研究会の紹介
  • 消極性デザイン 研究事例
  • 消極性デザインの応用に向けて

1.消極性研究会の紹介

はじめに消極性デザインについて教えていただきました。授業や講演会などで「質問がある方はいますか?」と問われて、手を挙げて質問をする人は積極的な性格の人(以後、積極側)で、質問があっても手を挙げない人は消極的な性格の人(以後、消極側)だと思われています。質問がない人は消極側には含めません。しかし、就職活動で面接官から質問があるか聞かれたときは、授業で質問をする人もしない人も、みんな質問をするのではないでしょうか。また、「留学先では積極的にたくさん話せたのに、日本に帰ってきたら話せなくなった」ということもあります。これらの例から分かることは、消極側の人の「性格を変えること」よりも、積極的にふるまうことができるように「環境を変えること」の方が簡単なのではないか?ということです。この発想に基づき、消極側が消極側のまま不自由なく生きていくことができる、積極的になれる環境や戦略を設計することが、消極性デザイン(英語ではSHYHACK)なのです。

いま世界に溢れているデザインは人間中心設計などと言われるほど、人間のために作られたものばかりですが、消極側のために作られたものはそう多くありません。例えば、懇親会などの場は、いわゆるコミュニケーション能力や行動力が必要不可欠であり、こうした場で新たに交流の輪を作ることは消極側にとってハードルが高く感じられます。そこで主催者は参加者の交流を促すための工夫を考えますが、主催者(積極側)が考える工夫は消極側にとってはかなりの積極性を要するものになりがちです。しかし、消極側のためだけに作られたシステムもそれはそれで、積極側の反感を買う上に、それを使うということは消極側として目立ってしまい使えないなどの問題も現れてしまいます。

上記のような問題を解決する有効な手段として、消極側が消極側のためのシステムを考えるという方法があります。とてもシンプルな話ですが、これが実は複雑なのです。消極側の人は、システムをデザインしたい!といった声を上げることは苦手です。また、消極側の人は、積極側の人が理解してくれないのではないか、など様々な可能性を考えて足踏みをしてしまうことがあるのです。このように消極側とは、物事を考えすぎる程よく考えている人と捉えることができると、西田さまはおっしゃいます。

2.消極性デザイン 研究事例

 西田さまは今までにさまざまな消極性デザインを考案しています。例えば、講演会での消極側のための席決めシステムや、匿名を利用したシステムである傘連判状機能付きのチャット、今回の講演会でも活用させていただいたOn-Air Forumなどがあげられます。このOn-Air Forumは軽いチーム戦要素もあり、匿名でも実名でもコメントでき、「いいね」機能や簡単な気持ちを表すシステムも備わっている、講演や授業などで活躍するコミュニケーション用のシステムです。今回の講演ではこのシステムを活用することにより、講演を聞きながら意見を出し合う参加者がいつにも増して多く、かなりの盛り上がりを見せていました。また、西田さまだけでなく、消極性研究会のメンバーの方々もさまざまなデザインを手がけ、開発されております。詳細は著書「消極性デザイン宣言~消極的な人よ、声を上げよ。……いや、上げなくてよい。」に収録されているそうなので、関心のある方は参考にされてはいかがでしょうか。

3. 消極性デザインの応用に向けて

 西田さまが今回の講演で一番伝えたかったことは、「消極的な人=よく考えている人」ということだそうです。これは、消極的であることとは、最悪な場合や、もし~だったら、もしかして~、などさまざまな考えを常に張り巡らせているために、中々行動に移せないということで、決して悪いことではないと教えていただきました。

 また、西田さま自身も消極側なので、パーティや懇親会ではカメラを首から下げることで、声をかけられず一人になってしまったときは、撮影係として一人で当たり前という雰囲気を出し、撮影係として写真撮ってほしいと相手から声をかけさせることで、実は参加者であるというところから話を広げるなど、消極側ならではの考えで生きやすい人生をデザインされています。

 最後に、消極側の子どもこそ、よりよい授業の設計の知恵を秘めている可能性を示唆し、皆さまとの質疑応答・議論の時間になりました。

 参加者に教員の方が多く、質疑応答では実際の教育現場で消極性デザインの考え方を活用することに関する質問が多く、西田さまの考えは一貫して、消極側の意見をしっかり聞くことを重視されていました。消極側の人は色々なことを考えていますが、そのために意見の表明に積極的になれないこともあり、積極側の人に意見を見落とされてしまいがちなので、消極側の意見へ耳を傾けることはやはり重要なのだと感じました。

 今回の講演で、「自分は消極的で何も出来ないのでは」と考えていた筆者も、「物事をしっかり考えている人」であるということに気付かされ、気持ちがとても楽になりました。また、今までは消極的で諦めていた講演会やパーティなどのその先(消極性デザイン)を考えることの楽しさにも気付けました。ご講演いただきました西田さま、ご参会いただきました皆さま、ありがとうございました。

文責・企業教育研究会 堀内誠太

NPO法人企業教育研究会
NPO the Association of Corporation and Education ( ACE )
ADDRESS: 〒260-0044 千葉県千葉市中央区松波2-18-8 新葉ビル3F-A
TEL: 03-5829-6108 / FAX: 050-3488-6637
E-mail: info@ace-npo.org
© NPO the Association of Corporation and Education