2020年12月19日(土)に第140回千葉授業づくり研究会「子どもたちのInstagram利用の現状と安全に関する取り組みについて」を開催しました。前回に引き続き,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止のため、オンライン会議ツールZoomを用いての開催となりました。

近年、InstagramなどSNSを利用する子どもたちが増えています。今回の研究会では、Facebook Japan株式会社(以下、Facebook社)の栗原さあや様を講師にお招きし、子どもたちのInstagram等の利用状況や課題、それに対応するための企業の取り組みなどをお話いただきました。以下、ご講演の概要をご報告いたします。

  • Facebook社について

ファミリーアプリ(Facebook, Messenger, Instagram, WhatsApp, Workplace, Oculus )の利用者数は全世界で32億人を突破しており、グローバルにサービスを運営されています。多くの方が利用する中で、地域や文化に応じてどのように安心安全でわかりやすい環境を作っていくかということを日々考えているそうです。

会社のミッションとして「コミュニティづくりを応援し、人と人がより身近になる世界を実現する」を掲げており、ファミリーアプリの開発は常にこのミッションに沿って行われています。

  • Instagramとは

今回のテーマであるInstagramというSNS、利用されている方も多いのではないでしょうか。研究会の参加者も、半数近くの方が普段から利用されているとのことでした。

Instagramのミッションは「大切な人や大好きなこととあなたを近づける」だそうです。「インスタ映え」に代表されるように、きれいな写真や動画を共有する場としてのイメージが強いかもしれません。しかし近年では、「週末はどこに行こうかな」といったような日常生活でのアクションを考えるときに活用される場として進化しています。また、女性向けのSNSというイメージもありますが、実際は男性の利用者が40%以上いるそうです。

日本では2010年にサービスを開始し、2019年には3300万アカウントの利用がありました。日本ではストーリーズ(24時間で消える投稿機能)が特に人気で、多くの方に利用されています。なお、InstagramはFacebookと違い、実名でないアカウントを複数持つことができるため、用途ごとにアカウントを使い分ける人もいるそうです。

  • Instagramの機能

続いて、機能についてご紹介いただきました。代表的な新機能は以下のとおりです。

・ARカメラエフェクト

カメラに映る自分の顔や背景にイラストなどを合成し、さまざまな表現ができる。

・リール

短尺動画(最大30秒)を作成・投稿できる。

・IGTV

長尺動画(1分以上、最大1時間)の動画を作成・投稿できる。

・Instagramライブ

リアルタイムで視聴者からの意見や質問を受け付け、双方向のコミュニケーションができる。コロナ禍で対面イベントができない中、世界的に利用が増えた。

・QRコード(日本限定機能)

アカウント情報をQRコードで紹介できる。

昨年から製品開発チームが日本にも設置されたことで、QRコード機能をはじめとする日本独自の機能が続々と開発されているそうです。アメリカ国外で開発チームが置かれるのは日本が初だそうで、その背景には、日本でのInstagram利用の仕方がユニークなため、製品づくりに生かしていきたいという狙いがあるそうです。

日本でのユニークな利用例としては、「ハッシュタグ検索」が挙げられます。これは、「#〇〇」といった形で、同じカテゴリの投稿を検索できる機能です。日本でのハッシュタグ検索回数はグローバル平均の5倍にのぼっているそうです。日本ではハッシュタグを文章として書くなど、表現方法のひとつとしても活用されているのが特徴です。

  • 安心安全に関する取り組み

安心安全に関する取り組みとしては、まずFacebook社のポリシーについてお話しいただきました。許されない投稿としては、脅迫、自傷行為や性的暴力、テロに関するものなどが挙げられます。これらを含めたルールは、Facebookでは「コミュニティ規定」として、Instagramでは「コミュニティガイドライン」として規定されています。ルールを考える際に重視する点が3点あり、多様性を重視するといった「①原則に基づく」こと、ルールは実際に「②運用可能」であること、利用者に「③説明可能」であることだそうです。

ルール違反の検出には大きく2つの仕組みがあります。ひとつは利用者からの報告、もうひとつはAIや機械学習といった技術を用いて検出することです。技術を用いた検出では、投稿がされた瞬間、他の人の目に触れる前に検出・削除する対応も行われているそうです。しかし、検出技術には得意なコンテンツと不得意なコンテンツがあります。具体的には、ヌードなどの画像検出は得意ですが、ヘイトスピーチやいじめなどの文化・文脈背景の理解が必要なものは、自動判断がしづらいそうです。不得意なコンテンツでは、人の目での判断で補いながら対応しているそうです。

  • 管理機能(ツール)について

FacebookやInstagramの管理機能は、利用者が自分で管理できることを重視して設計されており、自分の投稿を誰に対して公開するか、誰からの投稿を表示するかなどを細かく管理できるようになっています。

安全に関するツールのひとつとして、不適切な投稿の報告機能があります。利用者が不適切だと思う投稿を「報告」ボタンからFacebook社に報告でき、Facebook社での調査後、報告に対する回答が利用者の「サポート受信箱」に送られるという仕組みになっています。

他にもInstagramのツールとして、以下のものをご紹介いただきました。

・コメント設定

投稿ごとに、誰がコメントできるかの設定や、特定のコメントの削除、報告ができる。

・不適切なコメントの非表示

非表示機能をONにすると、いじめコメントや性的表現を含むコメントなどが自動で非表示になる。また、非表示にしたいキーワードを自分で設定すると、そのキーワードが含まれるコメントが非表示になる。

・タグ付け管理

自分をタグ付けできる人の設定や、タグ付けを承認制にできる。

・お気に入りのコメントの固定

気に入ったコメントを上位に表示させることで、コメント欄をポジティブな雰囲気にできる。

・オーディエンスの管理

アカウントのブロック、フォローを外す、ストーリーズの非表示といった設定ができる。

・制限機能

特定のアカウントを制限することで、その人からのコメントを非表示にできる。アカウントのブロックをすると、自分の投稿が相手に表示されなくなるので、ブロックしたと気づかれることもある。ブロックせずに制限することで、相手に気づかれにくい形で、相手の嫌なコメントを見ずに済む。場合によっては非表示のコメントを表示させ、さらに他の人も見られるようにすることもできる。グローバルには「restrict」という名前で実装されている。

・親しい友達リスト

リストを作成し、特定アカウントだけにストーリーズを表示させる。

・問題を抱えている方へのサポート

辛い気持ちを表す単語の検索時や、サポートの必要性を匿名で報告されると、「助けが必要ですか」といったポップアップが表示される。リンクを押すと、当事者に役立つヘルプラインなどの情報が表示される。

グローバルでこれまでに3500万以上のInstagramアカウントが制限機能を使用しているそうで、需要の高さが窺えます。

  • 普及啓発活動について

以下のように、Facebook社で取り組んでいる様々な普及啓発活動をご紹介いただきました。

・保護者のためのInstagramガイド

保護者向けに、子どもの利用方法について話し合うためのアドバイス冊子を作成。

Instagram ヘルプセンター(https://help.instagram.com)から閲覧・ダウンロードできる(ヘルプセンター >プライバシーと安全>保護者のためのヒント)

・安全な使い方を楽しく学ぼう!みんなのInstagramガイド

青少年向けに、4コマ漫画で身近にありえるストーリーを描き、場面ごとの安全な使い方を紹介する冊子を作成。(参考URL:https://about.fb.com/ja/news/2019/12/teensafetyguide/)

・サポートページ運営

「ヘルプセンター」(https://www.facebook.com/help)と「安全に利用するために」(https://www.facebook.com/safety)といったページを運営。

  • 外部と連携した取り組み

Facebook社のみでの取り組みだけでなく、外部と連携した普及啓発活動も行なっているそうです。例えば、以下のものがあります。

・インスタANZENカイギ

UUUM株式会社と連携し、若年層の支持を集めるクリエイターと共に、実際の悩みや体験談をもとにした啓発コンテンツを制作・発信。コンテンツのひとつとして、誰でもストーリーズから参加して機能を学べるインスタANZENカイギクイズを実施。

・メンタルヘルスに関する取り組み

NPO法人あなたのいばしょと共に、メンタルヘルスに関する「まとめ」を公開。また、Buzzfeed Japanと共に、Instagramライブ「こころの不調は誰にでもあることだから。いま知りたい心のケア101」を実施。

・プライバシーに関する取り組み

人気クリエイターと連携し、「#マンガで学ぶプライバシー」キャンペーンを実施。

・教育プログラム「みんなのデジタル教室」

アジア太平洋地域全体で運営されているプロジェクト。幅広い世代のデジタルリテラシー向上のために、国ごとに様々な活動をしている。2020年内に8カ国で200万人以上の受講が目標で、これを達成。

日本では今年度、弊会と共同で中高生向けコンテンツを制作し、オフライン・オンラインで2つの授業を実施。「デジタル・アイデンティティを考える」では、一般的なイメージの個人情報だけでなく、履歴やシェアの蓄積もデジタル・アイデンティティを構成していることを学ぶ。「偽ニュースの見分け方」では、偽ニュースが発信される動機や受け取る側の視点を考える内容。授業のエッセンスをInstagram上で体験できるコンテンツ「タグでたどる物語」も公開した。

日本での他の取り組みとして、シニア向けの冊子「大人のためのFacebookガイドブック」も制作しており、ここでは実名制の利点を生かした使い方や追悼アカウントの設定方法などを盛り込んでいる。

・パートナーシップ

一般社団法人ソーシャルメディア利用環境整備機構を他事業者と連携して設立。ソーシャルメディア上の課題の傾向や対策に関わるノウハウを共有し、調査研究や啓発活動の強化を目的に活動。

・VR教育実証プロジェクト

NPO法人CAMVASと連携し、Facebook社が開発するVRデバイスOculusを活用して災害疑似体験コンテンツを開発。中学校で実施した授業では、廊下で煙が充満する様子や、校庭が浸水する様子を生徒たちが疑似体験できた。

VRプロジェクトについては今回の主題とはテーマが異なりますが、テクノロジーによって生じるネガティブな側面の解決だけでなく、ポジティブな面での新しい教育機会の提供も行なっていることの例としてご紹介いただきました。

意見交換では、オンラインツールを使用して質問・意見を一覧化しながら、活発な交流が行われました。

 

ご講演を通じて、InstagramをはじめとしたSNS機能は日々進化しており、コミュニケーションの幅が大きく広がり続けていることを改めて感じました。その一方で、新しい配慮やトラブル対応が企業と利用者双方に求められているのだということがわかりました。また、安心安全のための機能の多様さや開発背景を知ったことで、こうした機能を使いこなすための普及啓発の大切さを痛感しました。教育現場でのリテラシー教育につながる、示唆に富む時間になりました。

ご講演いただいた栗原様、ご参加いただいた皆様、ありがとうございました。

 

文責・企業教育研究会 樋口健

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