2023年12月18日(月)、千葉県立富里特別支援学校・高等部2年生の一部の生徒の皆さんへ、株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメント(以下SIE)と企業教育研究会(以下ACE)とでお届けしている「ゲームでつながる授業と仕事」について、特別支援学校向けアレンジ版の出張授業を実施しました。

 

通常は小学校中学年~中学生向けに実施している授業プログラムですが、今回は、「ゲームとの付き合い方を考えよう」「ゲーム会社で働く人たち」の2つの授業プログラムから、働く上で具体的に気をつけるとよい点や、ゲームについてインターネットを介して遊ぶ時の注意点(ネットリテラシー)によりフォーカスし、既存プログラムをアレンジしています。

 

具体的なアレンジについては、特別支援学校(以下学校)の先生に事前に既存プログラムを確認いただき、その中で、生徒の未来を見据え特に伝えたいポイントを絞っていただきました。その視点を大切にしながら、学校の先生、SIEご担当者さま、ACEの3者で連携し、生徒の特性に合わせた指導案にと検討を重ねました。

 

『社会に開かれた教育課程』が推進され、現在は多様な団体が出張授業を提供するようになりました。しかし、特別支援学校も対象に含めて展開している授業は少なく、特別支援学校の子どもたちにとっての出張授業は、多様なプログラムから選択できる状況ではないようです。 今回の授業は手探りの面もありましたが、私たちが大切にしているワクワクした学びをより多様な子どもたちに届けようと、様々な工夫を凝らしました。このレポート記事では、その授業の様子をお届けします。


【アレンジ版授業概要】

■授業時間 100分(50分×2コマ)

■対象 特別支援学校高等部2年生

■関連教科 職業、道徳科

■学習目標

  1. ゲーム会社の仕事を知り、仕事に向かう姿勢や働く上で大切にすべきことに関心をもつことができる。
  2. オンライン対応ゲームの特徴や機能、トラブルの事例を知り、その解決方法を考えることができる。
  3. 他人になりすましている人がいることに気づき、その中には悪意をもって接してくる場合があることを理解することができる。
  4. オンライン上での適切な付き合い方について、友達と相談し考えることができる。

■生徒の活動

  1. 学習課題を把握し、ワークシートに取り組んだり、友人と話し合ったりし、自身の考えをまとめる。
  2. ワークシートの内容を発表し、SIEの講師よりフィードバックを受ける。
  3. オンライン上でなりすまし人物のやり取りを実際に見て、トラブルになり得る仕組みについて具体的なイメージを持つ。

【授業の様子】

当日リラックスして授業を受けてもらうため、生徒の皆さんとは、事前に学校を訪問し顔合わせをしていました。当日は改めて緊張をほぐしながら授業スタート。「ゲーム好きですかー?」と聞くと、たくさんの生徒の手が挙がりました。

 

まずは働く上で大切なことについて紹介。内容は、報連相、身だしなみ、言葉づかいの大切さに絞りシンプルに。また、プログラミングで数学を使うことなど、日々の学校の勉強は、仕事で使う場面がたくさんあることにも触れました。

これは、生徒の職業体験前に先生が何度も伝えていること。先生が言っていたことと、企業の方が大切に思っていることは同じだ!と、生徒の中で内容が繋がりますようにと期待を込めて。

 

授業は、文字を減らし漢字は全てルビ打ちしたスライドをメインで進めつつ、アレンジ版ワークシートを作成。拡大版を黒板にも用意しました。

 

通常はSIEの講師とACEで進める授業ですが、この日は学校の牛島先生にも授業者の一人として参加いただき、ワークシートの答え合わせなど、適宜フォローしていただきました。牛島先生のリードもあり、生徒の皆さんは、リラックスしつつも積極的に授業に参加している様子でした。

次はゲームについて映像視聴と、PlayStation®4用ソフトウェア『Newみんなのゴルフ』の紹介とPlayStation®5のプレイタイム。代表の生徒に試しにプレイしてもらい、その画面をみんなで見守りながら、楽しくゲーム体験とゲーム環境の進化を体験しました。

 

そして、SIEの内山さんより、最近のゲーム機はインターネットにつながることで、できることが増えていることを紹介。

本授業のアレンジとして、実際にオンラインで繋いだPCを介し、先生がチャットで会話する様子も生徒に見てもらいました。

インターネットにつながったゲーム機のイメージを掴んだところで、「オンラインゲームで気をつけること」について学びます。

アニメ映像を通して個人情報が洩れて高額請求を受けるというトラブル事例を知ってもらい、その解決策や、自分だったら何に気をつけるのかを考えてもらいました。

 

教材のアニメは、特別支援学校の生徒の皆さんにより分かりやすく伝えるため、所々ビデオをとめながらペープサートを用い、トラブルの内容を丁寧に説明しました。

 

トラブル事例を踏まえ、解決策を考えるワークシートに一生懸命に取り組んでくれた生徒の皆さん。

「キャラクターの見た目だけで判断しない。」「パスワードを教えない。」「算数という言葉から小学生とバレてしまった。小学生だから騙せると思われた。」などの意見を発表しました。

 

発表に対してSIEの内山さんより、「(なりすました)キャラクターは素敵な女性を演じていたけれど、裏で操作している人間がどうかは誰もわからない、この人は大丈夫?と考えることが大切。また、パスワードを教えることは家のカギを渡してしまうようなことと同じくらい危険なこと。」と、フィードバックを受けました。

他には、「(そもそも)チャットをやらない。」「相手のことをなるべく聞き出す。」「パスワードを教えるふりをする。」などの意見も生徒から挙がりました。

 

牛島先生は、「チャットをしないじゃなく、する上で気をつけることを考える授業なんだけど…まあ、それもあるよね!」「自分のことは教えないけど、相手のことをなるべく聞き出すのね(笑)」などと、意見を肯定し明るい雰囲気を保ちつつ、冴えたツッコミを披露し、笑いの絶えない発表時間となりました。

最後、なるほど、なりすましとはこういうことかと具体的に体感してもらうため、授業途中で牛島先生とチャットしたかわいいイメージのお相手が、なんと男性の古谷さんであったとネタ晴らし。古谷さんの登場に教室では、「えーーっ‼」「わー‼騙された‼」と驚くやら笑ってしまうやら、最後まで楽しい雰囲気で授業を締めくくりました。

 

聞くと、授業を受けた生徒の内、毎日ゲームをしている人が半数以上!オンラインで知り合いと一緒にゲームをしたり、スマートフォンの使用では、SNS発信をしたりしている生徒もいる様子。

実際にオンラインでゲームをしている生徒もいる中で、直接会っていないのであれば、その相手が本当にイメージ通りの人なのかはわからない、個人情報を渡してしまうと危ないという視点に気づく機会になりました。


【生徒の感想(アンケートより抜粋紹介)】

  • 普段ゲームをよくするのでとても勉強になりました。個人情報を大切にできるようにこれからも気をつけます。
  • ゲームのチャットなどで個人情報を取られたりしてしまうことの危険さが分かったので、今後ゲームをやることがあったら授業を思い出して気をつけたいと思いました。
  • 今日の授業でゲームでのトラブルや解決する方法などがわかって、とても楽しかったです。
  • 今日の授業はとても分かりやすい説明をしてくださりありがとうございました。
  • とても社会に必要なことを学んでとても楽しかったです。
  • 営業の仕事をする上で大切にしていること(身だしなみ)は、社会人にとって特に使うことだと思うので、しっかり覚えて活かしたいです。

【特別支援学校担当教諭 牛島先生より】

本校は、知的障害を主な対象とする普通科の特別支援学校です。本校卒業後すぐ、または数年後に障害者雇用での企業就労を目指す生徒が中心に所属する学習グループを作り、特別支援学校独自の教科「職業」の授業として展開しました。

 

障害の有無など関係なく、高校生活を満喫する生徒たちは、SNSでのチャットや動画投稿などを普段から楽しみ、また思わぬトラブルに巻き込まれる可能性も抱えています。今回は、彼らにとって身近なテレビゲームの通信機能の利便性と気をつけるべき点を切り口に、その他SNSでのトラブルや対応方法を自ら考えるきっかけとなることを願って、準備をしてきました。

 

障害特性上、目で見て分かりやすい教材や体験的な活動を取り入れることで生徒の学習の理解度が大幅に増すことから、SIEの内山様やACEの篠崎様、古谷様には、既存のプログラムをどうアレンジするか、多くのアイディアをいただきました。

 

一斉指導であっても生徒一人ひとりに合わせた支援方法を用意する特別支援学校の授業の特性上、地域人材を活用した「社会に開かれた教育課程」の実現には、まだ多くの課題があると考えます。それでも、今回の取り組みは、「企業と連携した特別支援教育」を進めていくうえで多くの示唆を得ることができました。本校生徒と我々教員にこのようなチャンスをいただき、感謝しています。

【SIEご担当者・内山さまより】

今回は弊社の授業にお申込みいただきありがとうございました。弊社は2006年からCSRの一環として教育貢献活動を進めています。ゲームを安心・安全に遊んでいただくために大事なことや気を付けることなどを、PlayStation®の環境や事例とともにお伝えしていますが、特別支援学校の皆さまに授業をお届けするのは今回が初めての試みでした。

 

はじめは「喜んでいただけるだろうか」や、「私の経験不足から、ご迷惑をお掛けしてしまうようなことがあったらどうしよう」と心配でしたが、牛島先生やACEの篠崎さんと古谷さん、そして何より生徒の皆さまに支えていただき、楽しく授業を進めさせていただく事ができました。

 

生徒の皆さまには今回の授業でお伝えした内容を日々の生活に活かし、私達に見せてくれた満点の笑顔でこれからも素晴らしい学生生活を送っていただきたいと思います。

個人的にも貴重な体験をさせていただき、多くのことを学ばせていただきました。今回は本当にありがとうございました。

【職員 古谷より】

(前職・教育委員会にて特別支援を担当。本件アドバイザー。)

ACEの授業は、一般的に企業のもつリソースと学習指導要領の内容を兼ね合わせながらつくりあげていきます。そのため、学年の発達段階を考えながら授業をつくることになります。

 

今回の授業は、小学校高学年から中学生に対して実施している授業内容をもとに特別支援学校の高等部の生徒向けにアレンジしたものです。特別支援学校の生徒の場合は各々理解力に幅があります。したがって、授業内容のアレンジについてはどれくらいの理解力があるかを把握した上で、教材の難易度を調整しなければならないというところが一番のポイントだったと思います。そのため、特別支援学校の担任の先生との難易度のすり合わせが必要でした。これにより、ペープサートによる内容把握、なりすましの実際の体験等の工夫を考えて実践することにしました。このあたりがこれまでの出張授業とは大きく異なる点です。

 

今回のアレンジした授業がうまくいったのも、ACE、SIE、特別支援学校の担任の先生による生徒の実態に合わせた難易度のすり合わせとそれに応じた授業の工夫が適切であったからだと考えます。

※「「PlayStation」、「PS5」および「DualSense」は株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメントの登録商標または商標です。
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