2019年7月20日に第131回千葉授業づくり研究会「高校生が考える『ICT教育』のこれから」を開催しました。
今回は広尾学園中学校・高等学校を会場に、現場の職員である金子先生と小沼様、広尾学園高校2年生の髙橋様より、日頃からどのようにしてICTと向き合っているのかについてご講演いただきました。
研究会には、ICTに関して強い関心のある、教員や一般の方々、大学の教授や学生まで様々なバックグラウンドを持った多くの方々にお越しいただきました。
研究会の冒頭では、まず金子先生から広尾学園の今までの教育とこれからの教育についてのお話がありました。今までの教育は学校という枠組みの中を部活と勉強という要素が大部分を占めていましたが、これからの教育には、そこにプラスαの部分として、キャリアプログラムやICTを用いた活動、海外活動や、地域への貢献活動、企業と協力した活動、インターンシップなどが必要であると述べられていました。
具体的に学外での広尾学園の生徒の活動として、Unilever社と共同で行われたDoveブランドのプロモーション映像企画や、日本HP社の主催で行われた、「Mars Project」に大学と合同チームで優勝したお話、クリエイターの方とAIを用いて現代にモーツァルトを再現するプロジェクトに参加したことなどが挙げられ、高校生であっても発想力という面で様々な方面から求められており、そこにこれからの教育が見えてくるのではないかと述べていました。
また、学校内の活動では、学園祭の時に、ICTを用いた新たな表現として、映像と音楽と照明を組みわせたプログラミングなどを生徒たちが主体となって作り出し、教員が手を出せない領域まで、生徒の活動は広がっているということを述べていました。
次に高校生である髙橋様から、生徒目線のお話をいただきました。広尾学園には、ICTルームというものがあり、そこには3Dプリンターやレーザーカッター、iMac、Adobeのソフトなどがあり、そこで日々ものづくりや動画の編集、カメラ撮影、学内イベントの企画運営などを行っていると述べていました。また、ワークショップなども開いており、ミニチュアの車作りや、グライダー作成のワークショップなども開いており、髙橋様にとってICTルームは「『つくりたい』を叶えるコミュニティ」であると述べていました。
また、髙橋様がICTルームでの活動を通して学んだことして、4つのことを述べていました。1つ目は、「自分の中の比較優位を探す」です。これは、集団で役に立ちたい時に、自分の中で得意なことがなかったとしても、その中で比較的に得意なことを見つけ、それをやっていくことで、次第に得意になっていき、最終的には集団の役に立てるということです。2つ目は、「楽しいは共有するもの」です。ICTルームを使用するにあたって楽しいからこそ、活動しているのであることを忘れないことも大事ですが、それを押し付けずに自然に共有することができれば、より良い空間になっていくと感じたそうです。3つ目は、「教える側にとっての責任感」です。先輩の立場として、誰かに尋ねられた時、そこで答えを教えるのではなく、一緒に悩んでくれる人を求めているだということを学んだそうです。4つ目は、「信頼関係が、共創・試行錯誤を可能にする」というものです。ICTルームでは、他の場所よりも縦の責任が強く、それによって、シナジー効果が生まれているそうです。しかし、一方で新たな人間関係を構築し直すときに、多くの苦労が生まれるようで、どのような関係を作っていくのが良いのかを今も模索していると述べていました。
髙橋様にとってICTルームの存在は、教室以外で夢中になれるものであり、そこにICT環境の整備と先生方のサポートがあるおかげで、主体的に学べる場として、存在していると述べていました。
最後にICTルームの管理をされている小沼様から「教職員から見たICTルーム」についてお話がありました。広尾学園の生徒はChromebook、iPad、MacBookの三種類を用いており、それぞれ学校単位または個人で購入し、管理設定を導入して使用していると述べていました。問題が起こった時の対応として、今までは生徒、担任、担当教員、業者という流れであったものを、ICTルームを設置してから、その流れをまとめることができ、運営がスムーズになったそうです。ICTルームでは、業者任せにせず、生徒と先生であったり、生徒と生徒であったりが教え合う場面もあるそうで、より主体的な学びにつながると述べていました。また、破損したデバイスの状態から、生徒の抱える問題を発見することができるという副次効果も業者任せにしないことで得られたそうです。
質疑応答では、主に授業におけるICTについて、質問が飛び交いました。広尾学園では、ICTを使った特別な授業をしていないと述べていました。ICTはあくまでも授業を行う時に、生徒や先生が、自然に使っていくもので、特定のICTを使うための授業は行なっていないそうです。講義全体を通して、今後ICT教育という言葉は死語になっていくこと、ICTを使うことで問題が生じることもあるが、マイナス面ではなく、それ以上に大きなプラス面に目を向けていかないといけないということを感じました。
文責・企業教育研究会 石川 鉄平