2025年10月18日(土)に第172回「千葉授業づくり研究会」が開催されました。今回のテーマは「テクノロジーで拓く、誰もが暮らしやすい社会 〜視覚障害者支援の最前線から考える〜」。コンピュータサイエンス研究所 営業企画・企画開発統括部長 髙田 将平さんを講師にお招きして講演いただきました。
今回の研究会では、株式会社コンピュータサイエンス研究所の先進的な取り組みをご紹介いただくとともに、視覚に障害のある方の歩行を支援するアプリ『EyeNavi』を参加者で実際に体験しました。『EyeNavi』はAIの画像認識技術を用いて、進路上の障害物や信号の色などを検出して、音声で情報を伝えるアプリです。
講演の中では『EyeNavi』を用いた千葉大学との連携や東京都立大学などの事例もたくさんご紹介いただきました。
本レポートでは、講演会やアプリの体験会の様子を詳しくお伝えします。先進的な福祉教育やAI技術の活用に関心のある方は、ぜひ最後までお読みください。

今回の研究会では、株式会社コンピュータサイエンス研究所 営業企画・企画開発統括部長 髙田 将平さんに講演いただきました。
髙田さんは、前職の株式会社ゼンリンデータコムでは位置情報サービス制作を担当され、また、退職後にはアイルランド留学や起業経験、インド・バンガロールのIT企業にて内部統制に従事していたご経験もあるそうです。
その後、2015年に株式会社コンピュータサイエンス研究所に参画した髙田さん。現在は、視覚障がい者歩行支援アプリ『EyeNavi』に関わり、国の支援事業の統括・プロマネを担当しています。
講演の前半では、視覚障がい者が抱える課題やアプリ『EyeNavi』の説明をしていただきました。

髙田さんは講演の前半で、視覚障がい者を取り巻く課題についてお話くださいました。
まず、移動のためのヘルパー利用についてです。視覚障がい者が家族ではないヘルパーと外出する際には、事前に予約が必要で、さらに利用時間にも制限があります。このため、視覚障がい者にとって、健常者のように「今すぐ出かけたい」と思ったときに外出することは困難です。加えて、ヘルパーは通勤や通学といった日常的な移動の際に使用できないというルールもあります。
また、視覚障がい者が利用する盲導犬にも課題があります。盲導犬の仕事は、「角を教える」「段差を教える」「障害物を教える」の3つに限定されています。そのため、たとえば「コンビニまで」と指示しても道案内はできません。盲導犬ユーザーは、目的地までの道のりをすべて頭の中で把握しておく必要があるのです。
さらに、盲導犬は歩行者信号の色を判別できません。「周りの人が横断歩道を渡っているから安全」という状況判断をするため、信号の色を確実に認識できるわけではないのです。

2025年3月31日現在で実働している盲導犬は768頭ですが、盲導犬を希望して待機している人は3,000人ほどいます。盲導犬は1頭あたり訓練に2~3年かかり、訓練費用に500万円ほどかかるので、希望数の確保が難しい現状があります。
また、盲導犬は大切な歩行パートナーですが、活動期間はおおむね4〜5年とされ、引退後には新しい犬との出会いが必要になります。このほか、盲導犬の日々の世話が必要であることや、すべての店で盲導犬を連れて入れるわけではない課題があることも踏まえると、視覚がい者の方々が気軽に外出できるという状態にはまだほど遠いといえるでしょう。

このように、現状課題が多い視覚障がい者の外出について、力強くサポートするのが、スマートフォン用アプリ『EyeNavi』です。

『EyeNavi』は、スマートフォンのカメラを通してAIが20種類の物体を瞬時に判断し音声出力して、ユーザーに伝えてくれるアプリです。歩行時には、ネックポーチにiPhoneを入れてカメラを進行方向に向けることが推奨されています。アプリは1秒間に複数回の処理を行っているため、多少スマホのブレがあっても問題なく動作するそうです。
このアプリは特に信号機の色を判別できる機能が画期的で、盲導犬の課題を克服してくれます。全盲の方だけでなく、弱視や色弱の方にも役立ちます。

また、『EyeNavi』には、外出時のトラブルに備える「歩行レコーダー機能」が搭載されています。これは、自動車のドライブレコーダーのように歩行中の映像を自動で保存する機能です。これにより、外出先で何かの被害に遭った際などには記録された映像を支援者に確認してもらうことができます。今までは、残念ながらいたずらを受けるなどの被害があっても、状況が分からず泣き寝入りせざるを得ないことも多かったそうです。
『EyeNavi』は、視覚障がい者の約8割がiPhoneを利用しているという背景から、iPhoneのみに対応しています。
『EyeNavi』は、基本機能を無料で提供しており、協賛企業からの支援で運営されています。しかし、安定的な開発のために、月額1,000円のプレミアム機能も搭載されました。プレミアム機能では、ChatGPTが連動し、撮影した写真から「入口はどこにあるか」「レストランのメニューを読み上げてほしい」といった、より複雑な質問にも回答してくれるようにもなっています。
開発当初は、AIの色の識別精度が低く、駐車場の満車・空車表示や店の看板を信号機だと間違えてしまうといった課題もありました。しかし、技術的な見直しを重ね、具体的な対象物との関連付けによって精度を向上させています。
『EyeNavi』はあくまで「歩行時の参考になるもの」という位置づけですが、利用者からは「外出時には常に動作させており、使わないと不安になるぐらい」「今や、なくてはならないもの」といった声が寄せられています。また、盲導犬ユーザーの方々も盲導犬と『EyeNavi』を併用することで、より安全かつ便利に移動できるそうです。

講演の合間には、千葉大学西千葉キャンパス内で、『EyeNavi』体験会が実施されました。
アプリを実際に起動すると、画面に映る物体を即座に解析し、「人、人、自転車…」などと音声で、画面内の障害物や目標物の情報を伝えてくれます。白線や自転車、植え込み、縁石など20種類を検出できるようです。単に人がいることだけを伝えるのではなく、「正面に人がいる」といった情報も伝えてくれるため、衝突防止にも役立ちます。

『EyeNavi』の大きな特長として、利用者自身が使いやすいように調整できる点が挙げられます。デフォルト設定では検出する障害物や範囲が絞られていますが、「自転車」「人」など音声出力する障害物を自分で選ぶことで、利用者が必要な情報だけを取捨選択できる仕組みになっているのです。
また、アプリ内の設定画面は極力シンプルに作られており、体験会の参加者も直感的に操作できるようでした。また、主に視覚障がい者の方が使うアプリであるため、自分がどの画面を操作しているのかも音声で案内してくれます。
さらに、単にアプリが目的地への道案内をするだけではなく、「お散歩モード」も搭載されています。視覚障がい者にとって外出は大きなハードルになりますが、このアプリを使いこなせば、目的の場所に移動するだけでなく、気ままに自由に散歩する楽しみにも役立ちそうです。
基本機能は無償で提供されているため、多くの人が外出を楽しむきっかけになり得るアプリだと感じました。
『EyeNavi』の開発チームは、産官学民の多様な団体との連携を進めているそうです。ここでは、講演中に髙田さんに説明いただいた取り組みのうち、いくつかピックアップしてご紹介します。

まずは、アルプスアルパイン株式会社の当事者社員の発案による「ウェアラブル(方向認知)デバイス」を共同開発中であるとお話いただきました。
これは頭にセンサーを装着することが想定された商品です。頭の方向転換のたびに9軸センサーで方位を認知し、『EyeNavi』のナビ情報やセンサーによる障害物検知を振動で知らせてくれます。
センサーを帽子につけることで、視覚障がい者が遭遇しやすい、顔や頭に物が当たる事故を防ぐことができるそうです。

次に、三重県伊勢市との取り組みを紹介します。「多様な主体を受け入れる観光バリアフリー支援調査」の依頼を受け、株式会社コンピュータサイエンス研究所では2022年12月に実証実験を行いました。
実証実験は、対象地域である伊勢神宮外宮参道を視覚障がい者に『EyeNavi』を使用しながら歩いてもらうというもの。この際に使用するアプリは、対象地域の観光情報を音声案内できるようになっています。
髙田さんによると、視覚障がい者が自分自身で観光情報を得られるようになることで、介助者も観光を楽しめる余裕が出てくるそうです。
今後は、アプリの中で観光用のパッケージをダウンロードできるようにも準備を進めているそうです。視覚障がい者が自分ひとりで旅ができるようになる未来にも期待ができそうですね。

また、千葉大学との連携「チームあいなび」についてもお話いただきました。これは『EyeNavi』の「マイルート」機能を使って、大学内の建物の入り口まで案内するナビを準備する取り組みです。
最適なルートや歩行支援情報を、視覚障がい者や歩行訓練士の方と検証しながらルートを作成します。千葉大学は広いキャンパスであるものの、点字ブロックが一部にしかないことが視覚障がい者の歩行にとって大きな課題となります。『EyeNavi』の音声出力によって、大学内の移動の助けとなることが期待されます。
千葉大学に限らず、全国の大学にも広めたい取り組みであると、髙田さんはお話してくださりました。

さらに印象的な事例として、小学三年生の男の子との協働エピソードも紹介されました。
NHKのニュースで『EyeNavi』を見た彼は、「視覚障害の方の役に立つ電子白杖を自分でも作りたい」と連絡をくれたそうです。
髙田さんのチームによるオンラインでのアドバイスをもとに、彼は距離センサーを組み合わせた電子白杖を完成させました。障害物に近づくと光と音で知らせる仕組みの作品で、表彰も受けたといいます。
「子どもの自由な発想が新しい技術の原点になる」と髙田さん。
社会課題を自分ごととして考え、行動に移した象徴的なエピソードとして紹介されました。

『EyeNavi』開発チームは、「視覚障害という概念がない世の中にしたい」という大きな目標を掲げ、さらなる技術開発を進めています。
現在検討されているのは、物体検出だけではなく「領域検出」の導入です。これを実現することで、AIが路面を面として捉えられるようになり、例えば横断歩道をよりまっすぐ、安全に歩けるようになることが期待されます。さらに、2030年には、高度な案内が可能な犬型ロボットの実現を目指しています。
また、スマートフォンアプリの枠を超え、スマートグラスとの連携も視野に入れています。例えば、「Ray-Ban × Meta スマートグラス」のようなデバイスとAIを連携させれば、目の前にある物体を説明してもらうことができ、より日常生活が便利になるでしょう。これは、ユーザーからの「知り合いの顔を覚えて、自分から声をかけられるようにしたい」という要望に応えるものでもあります。
現在、世界には視覚障がい者が約3億4,000万人いるとされています。そして、身体障がい者手帳の取得に至らないものの、見えにくさを抱えている人は日本国内だけで160万人いると見られています。さらに健康寿命が伸びるにつれ、この数は200万人に増えると予想されています。
このような状況の中、『EyeNavi』をはじめとするテクノロジーの活用を通して、誰もが暮らしやすい社会を実現するための開発が行われています。少し先の「視覚障害」の概念がない社会の実現への期待が高まる講演でした。


研究会の後半には、千葉授業づくり定番のディスカッションが行われました。オンライン上で質問ができるサービス「Slido」を使い、参加者と登壇者で議論を行います。
ディスカッションの中では、『EyeNavi』を用いたアイデアもたくさん生まれました。ここからは、ディスカッションの内容を一部抜粋要約してご紹介します。
Q.学校教育の中で活用することはできますか?
はい。児童生徒が地域を歩きながら、横断歩道や建物などの情報を撮影し、『EyeNavi』の地図上に入力していくという学習が考えられます。アプリには歩行中にコメントを残せる機能もあるため、地域の安全マップづくりや総合的な学習の時間での探究活動にも活かせそうです。
Q.GIGAスクール端末で子どもたちに地域の画像を撮影してもらい、データ収集に協力することもできそうですね。データの収集の際に気をつけることはありますか?
撮影の際に対象物を画面に収める位置をある程度統一させたいので、ルール作りをしています。
例えば、横断歩道の撮影であればマーカーとして白黒の枠をアプリに表示させれば、誰でも枠に合わせて撮影できるようになります。
Q.どんな学びの効果が期待できますか?
視覚障害の理解にとどまらず、地域の課題を自分たちで発見し、解決策を考える「社会とつながる学び」になることが期待されます。自分たちの調査データがアプリを通して誰かの役に立つことで、子どもたちの探究心や社会参画意識を育む授業に発展できそうです。
Q.視覚障害の支援だけでなく、ほかの人にも役立ちますか?
はい。外国にルーツを持つ子どもや高齢者など、さまざまな人にとって使いやすいアプリとしての可能性もあります。多言語での音声案内や振動によるサインなど、より包摂的な社会づくりへの応用も議論されました。
Q.ユーザーからの要望がたくさんあると思いますが、御社のリソースが限られている中で優先して解決したい課題はありますか
領域検出で横断歩道をまっすぐ歩けるようにすることです。
また、音声を前提としている現在の仕様だと使いにくく感じる人もいることも課題です。振動で障害物の存在を教えてほしいという声もあります。
Q.『EyeNavi』の精度で物体を判別できるのなら、車や自転車などに搭載されれば視覚障害がない人の事故防止にも役立ちそうだと感じました
はい。自転車や電動車いす、シニアカーなどでも役立つのではないかと考えております。
ディスカッションでは、福祉的な視点とICT/テクノロジーを融合させることの大切さや、それが教育テーマとして非常に有効で、高い教育効果を生むという点について議論が深まりました。
特に、「地域の課題を発見するだけでなく、その場で解決策を入力し、解決に向けて具体的に取り組める」という仕組みは、総合的な学習の時間としても画期的であるという意見が出され、大きな盛り上がりを見せました。
テクノロジーを活用した社会課題の理解や探究的な学びなど、授業づくりの新たな可能性が見えてきたディスカッションとなりました。
以上で、第172回千葉授業づくり研究会のレポートのご報告とします。ご講演いただきました髙田さん、参加者のみなさま、誠にありがとうございました。
千葉授業づくり研究会にはどなたでも参加できます。
興味がある方は、こちらの開催情報をチェックしてくださいね!Zoomを用いたオンライン配信による参加もできるので、遠方の方も大歓迎です。
【記事担当:千鳥あゆむ】
2025年7月19日(土)に第171回「千葉授業づくり研究会」が開催されました。今回のテーマは「人生100年時代のウェルビーイングとは? 〜『100年人生ゲーム』を通して考える〜」。博報堂100年生活者研究所の副所長、田中卓さんを講師にお招きして講演いただきました。
また、1万人以上の実体験をもとに開発されたボードゲーム「100年人生ゲーム」の体験会も実施しました。「100年人生ゲーム」は、お金ではなく「ウェルポ」という幸福やウェルビーイングを表すポイントを集めて幸福長者を目指すのが最大の特徴です。「年代ごとのイベントコマ」や「価値観カード」などを通して、人生の多様なイベントを疑似体験しながら、参加者全員でウェルビーイングについて深く考えました。
そもそもウェルビーイングとは、身体的・精神的・社会的に良い状態にあることをいい、短期的な幸福のみならず、生きがいや人生の意義などの将来にわたる持続的な幸福を含む概念です。
経済先進諸国において、GDPに代表される経済的な豊かさのみならず、精神的な豊かさや健康までを含めて幸福や生きがいを 捉える考え方が重視され、OECD「Learning Compass2030(学びの羅針盤2030)」では、個人と社会のウェルビーイングは 「私たちが望む未来(Future We Want)」であり、社会のウェルビーイングが共通の「目的地」とされています。
文部科学省においても「日本社会に根差したウェルビーイングの向上」を次期教育振興基本計画に掲げており、日本社会に根差したウェルビーイングを教育を通じて向上させていくことが求められています。
[参考:中央教育審議会教育振興基本計画部会(第13回)会議資料 【資料8】ウェルビーイングの向上について より]
そのような背景を踏まえ、「幸せに生きるとは何か」「どう生きるか」。人生100年時代を迎えるにあたり、この根源的な問いを改めて見つめ直す必要があると考え、職員の古谷さんが本テーマの研究会を企画しました。
今回の研究会では、ゲームの体験会のほかに「100年人生ゲーム」の開発に込めた思いや背景に存在する課題、100年生活者研究所様の取り組みの紹介が行われました。これらを通して、参加者自身が長寿社会である日本でウェルビーイングをどのように教育に取り入れるかを考えるきっかけとしていきたいと考えています。
本レポートでは、講演会やゲーム体験会の様子を詳しくお伝えします。学校教育にウェルビーイングを取り入れたい方はもちろん、ボードゲームや長寿社会における生き方に関心がある方も、ぜひ最後までお読みください。

今回の研究会では、博報堂100年生活者研究所の副所長、田中卓さんに講演いただきました。田中さんは1995年に博報堂に入社し、マーケターとして幅広い業種のコミュニケーション開発、新ブランド開発、事業開発に携わってきました
2023年からは、博報堂100年生活者研究所にて「人生100年時代のウェルビーイング」に関する研究に取り組んでおり、今回ご紹介いただいた「100年人生ゲーム」の開発にも中心的に携わっています。
講演のはじめでは「100年人生ゲーム」の開発に至るまでの背景やその目的についてお話しいただきました。

「100年人生ゲーム」は、博報堂100年生活者研究所とタカラトミーが共同開発したボードゲームです。従来の「人生ゲーム」と大きく異なるのは、お金ではなく、幸福度を競う点にあります。
ゲーム内で発生するイベントには、1万人以上から集められた実際の体験談が採用されています。プレイヤーはゴールである100歳の誕生日までの人生を疑似体験することで、「自分の人生に起こりうる幸せな体験」に触れ、これから続く長い人生のポジティブな側面に気づくことができます。
また、このゲームの大きな特徴として、「ゲーマー」「勉強家」「健康マニア」といった「価値観カード」が割り振られる点が挙げられます。同じイベントを体験しても、自分の価値観によって幸福度(ウェルポ)の増減が変わる仕組みになっています。

続いて、田中さんに「100年人生ゲーム」開発の背景をお話いただきました。開発には、日本・アメリカ・中国・フィンランド・韓国・ドイツで実施した調査結果がきっかけとなっているそうです。

今では「人生100年時代」という言葉がなじむほど、日本は長寿大国として知られています。しかし、調査の結果、日本人では「100歳まで生きたい」と考える人は3割に届かないことがわかりました。これは各国と比べてもかなり低い水準です。

さらに、日本の平均寿命は84.3歳にもかかわらず、日本人が希望する寿命は81.1歳と平均寿命より短命を希望していることも判明しました。

これからの日本では、超高齢化社会になることは確実でしょう。全米経済研究所が世界132か国で実施した調査では、50歳弱の幸福度が最も低く、そこから年齢を重ねて長く生きるにつれて、幸せを感じる人が多くなる傾向がみられました。
また、他の国では年齢を重ねても人生のネガティブな面とポジティブな面の両方に注目する傾向がありますが、日本ではネガティブな面にのみ注目し、ポジティブな面に注目する人が少ない傾向があるともお話いただきました。
日本人は、年齢を重ねることに対して必要以上に不安を感じているのかもしれません。「100年人生ゲーム」はこのような課題意識をもとに、人生が長くなることで生まれる「体験のチャンス」に目を向けて、開発されました。長い人生のポジティブな面に気づく体験ができるようなゲームになっています。


研究会の中では、実際に「100年人生ゲーム」を体験させていただきました。オリジナルの「人生ゲーム」が有名であることもあり、スムーズにゲームを進められるグループがほとんどでした。
ゲームでは、100年の人生の中で、幸福度を示す「ウェルポ」を集めていきます。お金とは異なる指標のため、家族と過ごす時間、価値観の変化、健康状態などによってもウェルポは増減します。
特に印象的だったのは、外食や趣味といったお金を使うイベントでも、心が満たされればウェルポを獲得できる点です。お金のやり取りが中心だった従来の人生ゲームのイメージが強かったため、プレイ中には「なるほど!」と納得の声があがる場面も見られました。


また、ゲーム終盤の年齢を重ねた状態では、ウェルポの増減が激しくなるのも大きな特徴です。このゲームでは定年後にも多くのライフイベントが用意されています。仕事に励む期間を終えた後でも幸福を感じられるイベントがたくさんあることが伝わります。
ゲームのマスには実際の体験談が採用されていることもあり、参加者の間で「わかる〜、これはうれしいよね」などと共感が生まれる場面も。約1時間の体験会は盛況のうちに終了しました。
「100年人生ゲーム」の体験後には、田中さんの所属する100年生活者研究所の紹介やウェルビーイングを生活に取り込むためのヒントをお話いただきました。

2023年に設立された100年生活者研究所は、「長くなる人生を、前向きに生きていく人を増やす」ことを目指し、「日本を、前向きな100年生活者の社会にする」ために活動しています。
研究所の主要な研究テーマは「人生100年時代のウェルビーイング」です。研究スタイルには生活空間(Living)と実験室(Lab)を組み合わせた「リビングラボ方式(Living Lab)」を採用しています。リビングラボは、生活者を中心に企業や行政、大学などと社会課題の解決や新しい価値を生み出す方法論です。
研究開発の場を生活空間の近くに置くことで、「多様な視点を持つ多様な生活者の多様な幸福」に向き合う研究スタイルを実現しています。この研究スタイルを支えるために、100年生活研究所では、生活者と直接つながる2つの場の運営も行っているそうです。
1つ目は、巣鴨のカフェ「Sei-katsu-sha Cafe かたりば」の運営です。シニアも若者も暮らしている町である巣鴨が研究拠点として選ばれました。来店した幅広い年代のお客さんを相手に、生活の中での生の声を聴くインタビューを実施し、2023年度には1000人以上の生活者の声を収集できたそうです。
2つ目は、約13000人が登録するLINEの会員組織の運営です。ほぼ毎週配信するアンケートには2000人を超える会員が参加しているそうです。回答者の5割以上から「自分の生き方や考え方を見つめなおすいい機会になった」と評価されているとのことです。
これらの取り組みは、100年生活者研究所設立からわずか2年で多くのテレビや新聞、ウェブメディアに取り上げられています。
続いての講演では、実際の研究結果を交えながら、100年人生をウェルビーイングに生きるためのヒントをご紹介いただきました。
前述のように、一般的に「身体的・精神的・社会的に良好な状態」を指し、広義の「幸福」とも訳されるウェルビーイング。日本ではこの言葉の認知が高まり、現在では50%以上に達しています。直近5年間での検索数も増加傾向で、社会的に注目度の高い言葉であるとうかがえます。


しかし、日本の幸福度は昨年より変化しておらず、他国と比べても低い結果となっています。この原因について、ウェルビーイングや幸せが生活の中に取り込まれていないからではないかと、お話いただきました。
調査によると、他の国ではおよそ3人に2人が幸福を普段から意識し、2人に1人が幸せについて対話をしています。一方、日本ではどちらも低い水準にとどまっています。
田中さんによると、日本でも、自分の幸せを意識して言葉にして対話する人は幸福度が高い傾向にあるそうです。
ウェルビーイングの概念を生活に取り入れるための一歩として、日頃の生活の中で自分の幸せを意識し、言葉にして対話することが大事ではないかと、田中さんは考えます。これにより「自分の幸せの解像度」を高め、世間一般ではなく自分の幸せを意識できるようになるのではないかとお話しいただきました。
そして、日々変化する「自分の幸せ」が何なのかを意識する時間を取り、幸せのアップデートの回数を増やすことも重要だとまとめていただきました。今、自分にとって何が幸せなのかを見つめなおすことに自覚的になることが大切なのですね。


研究会の後半には、千葉授業づくり定番のディスカッションが行われました。オンライン上で質問ができるサービス「Slido」を使い、参加者と登壇者で議論を行います。
今回は、「100年人生ゲーム」を体験したこともあり、ゲーム設計に関する質問が多くありました。ここからは、ディスカッションの内容を一部抜粋要約してご紹介します。
Q.「100年人生ゲーム」の体験会、楽しかったです。特に、60歳以上でウェルポが増える機会が多かったことが楽しく感じました。これは60歳以上で幸福感を覚える人が多いという調査データに依拠しているのでしょうか。
調査データに依拠しています。
加えてもともとの人生ゲームの「後半になると得失の金額が大きくなる」というゲームとしての盛り上がりの設計を踏襲する意味もあります。
ウェルポの得失に関しては、価値観カードで増減するのでゲームバランスを崩さないように利得の期待値を、プログラム上で1億回くらい試行して決めました。
Q.キャリアデザインや生涯発達心理学の授業でも活用できそうに感じました。ゲーム内の同じイベントでも人によって幸福の感じ方は多様だと思いますが、ゲーム上ではどのようにしてイベントごとに獲得するポイント数を決定したのでしょうか?
それぞれのイベントに付与するウェルポの数値に関しては、当初はゲーム制作メンバーの中で合意を取ろうとしたのですが、なかなか決まりませんでした。しかし、その数値の議論の過程でメンバーごとの幸せに対する考え方や価値観が明らかになっていきました。そこで、みんなが納得できるウェルポ数値を目指すのではなく、あえて、違和感のあるイベントやウェルポの値を入れてプレイヤー同士の対話を促し、プレイヤーがウェルポ数値に疑問を呈したり、突っ込んだりすることで、自分たちの幸せに対する考え方を意識しやすくなるように設計の視点を変えました。
Q.「100年人生ゲーム」の対象年齢はどのくらいの人を考えていますか
ゲームの対象年齢は15歳以上としています。実際の購入者は40〜50代が多く、わたしが実際に見たところでも、ある程度人生経験を積んだ人の方がより楽しめるようでした。
50代は定年が近づき、ともすると「自分の人生も終盤」だと考えがちな年代だと思います。しかし、100年人生ゲームで遊ぶと50代はまだ人生の中盤であることが実感できる。この年代の方に「人生はまだまだ長い。これらの人生も案外悪くなさそうだ」と感じていただきたいと思います。
Q.年齢層が高い人の「100年人生ゲーム」の感想を教えてください
40代や50代の方は、ゲーム内のイベントに対して「そういえばうちの伯母さんにこれに近い話があって!」と雑談で盛り上がる人が見られました。そこでは、自分の人生に引き付けて、ゲームの体験談を楽しんでいる様子がうかがえました。
おそらく、自分のリアルな人生と重なる部分が少しでもあると、このゲームの体験談が単なるゲーム上のエピソードではなく、自分にもあったかもしれないこと、今後起こるかもしれないこととして捉えられて、面白さが増すのかもしれません。
感覚的には、20代後半くらいからこのゲームをより楽しめるようになるのでは、と思います。
最後のあいさつで藤川大祐教授は
「日本人と他の国の人の幸福観の違いを踏まえると、私たちは日本の文化の中で、どのようにウェルビーイングを教育するのか考えなおす必要があると感じました。特に、人々が生きる希望を持てていない状態は望ましくないと思います。
また、今回の研究会でゲームを使った手法の価値も感じました。
「100年人生ゲームは」ゲームがあえて完成されていないところがうまく作られていて、議論を喚起する形になっていたと思います。これは、教材づくりの面でもとても勉強になります。
私たちも課題を持ち帰り、今後につなげていきたいです。」
とコメントしました。
以上で、第171回千葉授業づくり研究会のレポートのご報告とします。ご講演いただきました田中さん、参加者のみなさま、誠にありがとうございました。
千葉授業づくり研究会にはどなたでも参加できます。
興味がある方は、こちらの開催情報をチェックしてくださいね!Zoomを用いたオンライン配信による参加もできるので、遠方の方も大歓迎です。
【記事担当:千鳥あゆむ】
2025年6月21日(土)に第170回「千葉授業づくり研究会」が開催されました。今回のテーマは、「メタバース世界のものづくりを通した、創造的な探究活動とは!? 〜産官学民プロジェクト・ばーちゃるまつもとにおける高校生の挑戦事例から〜」です。
「ばーちゃるまつもと」とは、2023年度から産官学民連携で進めてきた実証事業「“ばーちゃるまつもと”による市民主体のシティプロモーション」にて構築され、コンテンツ制作においては、地元の中高大学生など長野県・松本市の若手クリエイターが中心となって制作したメタバース空間です。地元の高校生がメタバース空間でのコンテンツ制作やイベント企画に挑戦するなど先進的なプロジェクトを進めています。
本研究会では、そのばーちゃるまつもと推進プロジェクト代表の渋谷透さんをお招きし、メタバース世界でのものづくりから得られる体験や「ばーちゃるまつもと」プロジェクトの背景をお話いただきました。講演会に加え、参加者向けのメタバースコンテンツ制作体験会や、登壇者と参加者による活発なディスカッションも行われました。
このレポートでは、研究会全体の様子を詳しくお伝えします。学校教育に関心がある方はもちろん、メタバース空間でのものづくりや探究活動の授業に興味をお持ちの方にも、ぜひご一読いただきたい内容です。
今回の講演会では、ばーちゃるまつもと推進プロジェクト代表の渋谷透さんにお話しいただきました。
元々日立システムズの会社員であった渋谷さんは、60代を迎えて「これをやらないと後悔する」という強い思いを胸に、新たな挑戦を始めました。それが、「ばーちゃるまつもと」のプロジェクトです。
渋谷さんは、自身の父親の存在が「ばーちゃるまつもと」立ち上げの大きな後押しになったと語っています。教員であった渋谷さんの父親は「60代はハナタレ」をモットーに、教職を退職した後も地元でスキージャンプの少年団を立ち上げ、70代にしてスキーを教える環境を地域に作り上げました。年齢を言い訳にせずいくつになっても挑戦を続ける父親の姿は、渋谷さんにも影響を与えたといいます。
そもそも「ばーちゃるまつもと」の立ち上げは、日立システムズの業務の中で携わったデジタルシティ松本推進機構での仕事がきっかけとなりました。現在では、渋谷さん自身が個人事業「nakama」を立ち上げ、松本市に移住しています。
また、松本への移住は、以下の3つが絶妙なタイミングで重なったことが決め手であるそうです。
今回は、これらの要素が関わりあって生まれた「ばーちゃるまつもと」を活用した子どもたちの学習事例や運営についての話をご紹介します。これからデジタル技術を教育現場に導入したいと考えている方々にとっても、具体的なヒントと実践の足がかりとなるでしょう。

続いて、「ばーちゃるまつもと」について詳しくお話いただきました。「ばーちゃるまつもと」によって、地域事業者や若手クリエイターとのつながりも生まれたといいます。
「ばーちゃるまつもと」とは、長野県・松本市の若手クリエイターが中心となって制作した、松本の魅力を発信するメタバース空間です。六九商店街や井上百貨店本店など、松本の風景をバーチャル空間に再現しています。
松本市の工業高校や地元の中学生、地域事業者など幅広い関係者が携わり、ものづくりを楽しむ空間・つながりを生み出す空間として活用されています。
「ばーちゃるまつもと」には産官学民に幅広いステークホルダーがいます。市民主体の運営組織を中心として、井上百貨店や丸正醸造などの企業、松本大学や信州大学、松本工業高等学校などの学術機関、さらに教育委員会や松本観光コンベンション協会などもかかわっています。
渋谷さんは、「ばーちゃるまつもと」を、完成したバーチャル空間の中に入って楽しむというよりも、市民の力で創ること自体を楽しむことに重きを置いています。その特徴について、「ものづくりを楽しむ空間」と「つながりを生み出す空間」の2つのキーワードで説明しました。
「ものづくりを楽しむ空間」とは、「ばーちゃるまつもと」がメタバース空間で実際に若手クリエイターや子どもたちが創作を楽しむことができる場であることを指します。渋谷さんは、3D空間が可能にする幅広い表現方法は感性を磨くことや、表現対象への探究心がテキスト情報を超え直感的理解を磨くこと、年齢や立場関係なく開かれたクリエイターのコミュニティであることで互いにコミュニケーションを取る必要に駆られることなどを挙げ、「ばーちゃるまつもと」における活動は教育効果があるのではないかと注目します。
「つながりを生み出す空間」としては、若手クリエイターや地域事業者とのマッチングが行われているとご紹介いただきました。「ばーちゃるまつもと」は地元の中学生や高校生、大学生、フリーの3DCGクリエイターなどが、地域事業者や大学、行政とマッチングするきっかけづくりに寄与しています。若者の松本への関心を高めるとともに、若者の目線でのビジネスアイデアや事業者間コラボも生まれ、松本の新たな地域ブランディングを狙っています。
渋谷さんに地域事業者との連携や「ばーちゃるまつもと」の活用事例もご紹介いただきました。
「ばーちゃるまつもと」内には、長年市民に愛されながら2025年3月31日に閉店した井上百貨店本店が再現されています。単にメタバース上に井上百貨店本店を再現するだけではなく、店舗の中に美鈴湖畔を作成するなど、松本工業高校の生徒の柔軟な発想で作成されています。
ほかにも、鬼ごっこやかくれんぼなどで遊べる松本城や講義室が再現された信州大学なども作成されています。
また、井上百貨店と松本の味噌メーカーが連携して、「まつもとMISOめぐり」という商品開発も行われたとお話いただきました。信州松本の味噌を6種類、150gずつ楽しめる商品です。松本のブランド力をアピールすることを目指して企画されました。
「ばーちゃるまつもと」の日々の運営にはコミュニケーションサービス「Discord」が活用されています。Discord上では開発者のコミュニティもあり、雑談だけでなく、質問を投稿できるチャンネルを通じてノウハウが活発に共有されているとのことです。
ただ、「ばーちゃるまつもと」には地元の高校生が深く関わっているため、高校3年生の卒業に伴う継続性が課題となっています。この課題に対し、現状では卒業した高校生に後輩のメンターとして活動してもらうよう依頼し、プロジェクトの運営を継続していく工夫をしているそうです。
渋谷さんが松本市との取り組みで目指すゴールは、松本発のイノベーションを松本市民で引き起こし、新たなブランディングとして確立していくことです。
「ばーちゃるまつもと」や現在進行中の松本の魅力を紹介する「AIコンシェルジュ」のプロジェクトなどもその一環で、市民がテクノロジーを活用して社会課題を解決する「Civic Tech」を大切にしているそうです。

松本市には、自宅から参加できるオンライン教育支援センター「まつとも」があります。「ばーちゃるまつもと推進プロジェクト」に関わる人材が環境整備に携わりサポートしています。
研究会の中では、実際に運営に携わるスタッフの方にビデオ通話で「まつとも」の様子をご紹介いただきました。
「まつとも」は、学校に直接通うことが難しい松本市の小中学生のために作られたバーチャル空間の居場所です。自宅にいながら、オンラインで学習したり、仲間と交流したりすることができます。
現在、毎日10人程度の子どもたちが利用しており、そのうち4〜5人の子どもたちは毎日アクセスしているそうです。「まつとも」では匿名性を大切にし、利用者はニックネームのみで気軽に参加でき、相手の学年や学校などの情報がわからない中で、同じ空間で過ごしながら交流を深めていきます。
また、「まつとも」への来訪には特別な高性能パソコンは必要なく、子どもたちが学校から支給されている一人一台端末で十分に利用できるように配慮もされています。
運営や空間づくりには、スタッフのほかに高校生や大学生が協力しており、スタッフや教育学部の学生が子どもたちと同じ目線でかくれんぼやラジオ体操をするなど、積極的に子どもたちと関わっています。
「まつとも」のメインルームから他の空間へはクリック一つで移動でき、信州大学工学部の学生や松本工業高校の生徒が遊び場を制作しました。子どもたちが飽きないよう、季節ごとにレイアウト変更も行われています。
「まつとも」には、子どもたちが自分で見つけてきたコンテンツを貼り付けられる自由度の高い空間もあります。「まつとも」では、プロによるデザイン的に洗練された空間ではなく、子どもたちや学生が創りあげる手作り感のある温かい空間が定着しているそうです。
中には、不登校の一部の子どもたちに空間づくりの権限を渡し、運営として関わってもらうこともあったといいます。子どもたちは、コンテンツ制作のやり方を教わっていないにもかかわらず、マニュアルを見て自分で操作を覚え、宇宙空間をイメージした独自の空間を作り上げました。
制作には高度な技術を要するわけではあませんが、大人では思いつかない空間デザインへの発想力にはスタッフも目を見張るものがあるそうです。ほかにも小学生や中学生でも空間づくりやコンテンツづくりに挑戦する子がおり、その吸収力の高さにスタッフも驚きの連続だともお話いただきました。


研究会の中では、実際にメタバースにおけるコンテンツ制作体験会が行われました。今回は、ブラウザ上でメタバース空間を制作できる「Vket Cloud」を使用し、4~5人のグループで作業しました。
体験会ではアバターの見た目を編集し、メタバース空間の中でアバターを動かすところまでを実施。アバターの編集ができるのは研究会の都合上15分のみ。身長や足の長さ、瞳、髪、耳の形や色まで幅広く調整できるので、こだわるとすぐに時間が過ぎてしまいます。直感的な操作性も手伝ってか、多くのグループが楽しみながら作業しているようでした。


アバターが完成したら、メタバース空間に入室します。お気に入りの姿でワールドを駆け回れるのはうれしいですね。ジャンプやアバターが動くエモートアクションを試すグループも見られ、参加者それぞれの楽しみ方が見受けられました。
今回は、アバターの編集が中心となりましたが、メタバース上のワールドを制作することもできるようです。プログラミングの知識がなくても、すぐにアバターやワールドを制作ができることに驚きました。


研究会の後半には、千葉授業づくり定番のディスカッションが行われました。オンライン上で質問ができるサービス「Slido」を使い、参加者と登壇者で議論を行います。
「ばーちゃるまつもと」を使う子どもたちの実態についての質問が多数寄せられました。ここからは、ディスカッションの内容を一部抜粋要約してご紹介します。
Q.学校じゃないと学べない人間関係をバーチャル空間で学べるのが良いと感じました。空間を使用するだけではなく作ることもできるため、子どもたちの自信につながると考えました。子どもたちの将来につながるような事例があれば教えてください。
現在は、自分たちの空間で遊ぶことに注力しています。利用者は、不登校で対面で会ったことがない子どもたちが多いです。いずれ、バーチャルだけではなく、実際に対面で交流ができると良いなと考えています。
また、高校生については、イベントで200人くらいの市民の前で成果発表をしてもらい、メディアでも取り上げられることがありました。かなり刺激になったようです。
Q.特別支援学級に在籍している子がオンライン教育支援空間に参加している例はあるのですか?
現在は把握していないです。
ただ、学校の勉強が簡単に感じて不登校になってしまった小学生が、メタバース空間で飛行機の映像を集めた部屋を作り、自分を表現する方法として活用する事例はありました。
Q.オンライン教育支援センターの利用ルールを教えてください
平日の9:00〜17:00と利用時間を定めています。保護者の許可を得た場合に教育支援センターで指定したアカウントを利用して利用可能です。バーチャル空間への入室が許可されていない人は入れないようにしています。
不登校の子の場合は、保護者の申し込みの後に、教育委員会を通して「ばーちゃるまつもと」の入室URLを共有するようにしています。
現在は個別チャットの使われ方の状況把握や管理方法を模索しているところです。
Q.バーチャル空間が居場所になることで、リアルな交流に心理的な抵抗を持ってしまうのではないでしょうか
専門家の立場ではないので私見となりますが、バーチャル空間には必ず大学生や大人が入るようにしています。子どもだけにせず、大人が伴走する形をとることが大切だと考えています。
以上で、第170回千葉授業づくり研究会のレポートのご報告とします。ご講演いただきました渋谷さん、参加者のみなさま、誠にありがとうございました。
千葉授業づくり研究会にはどなたでも参加できます。
興味がある方は、こちらの開催情報をチェックしてくださいね!Zoomを用いたオンライン配信による参加もできるので、遠方の方も大歓迎です。
【記事担当:千鳥あゆむ】
2025年5月24日、「第169回 千葉授業づくり研究会」が開催されました。今回のテーマは「生成AIを活用したこれからの授業のあり方」です。
生成AIについては、この授業づくり研究会でも繰り返し取り上げています。
【第161回】千葉授業づくり研究会のようすをご紹介します:「生成AIを活用した創造的な授業とは?!」
【20周年記念イベントレポート】⑦生成AIの活用
開会のあいさつでACE理事長・藤川教授からも「生成AIはインターネット以来の人間の重要な発明であり、我々の生活を大きく変化させていくことでしょう。そんな変化していく社会を生きていく子供たちを育てる教育現場が、生成AIによってどう変わっていくのかを考えることはとても重要なテーマです。」と話がありました。
これから、学校教育に生成AIはどのような影響を与えるのでしょうか。
講師には、教育現場での生成AI活用において先駆的な取り組みを進めるNPO法人みんなのコードより、竹谷正明さん(元・みんなのコード)、永野直さんをお招きしました。お二人からは、小学校から高校までの具体的な実践事例を交えながら、生成AIという存在をどう捉え授業に活用しているのかなど、示唆に富むお話をいただきました。
竹谷さんは、まず、生成AIに関する国の動きについて分かりやすく解説されました。
生成AIについて、文部科学省の対応は「早かった」と竹谷さんはおっしゃいます。
2023年7月のガイドライン公表、9月のパイロット校指定と続き、さらに、2024年12月の次期学習指導要領へ向けた諮問では「生成AIという言葉が7か所も記載」されるなど、文部科学省が生成AIを今後「積極的に利活用することが有用」という方針を、明確に示していると説明しました。
しかし、その活用については児童生徒に「突然使わせても難しい」ため、生成AIそのものを学ぶこと、利活用することを学ぶことなど、活用の意味を考え、それぞれの教科等を関連付けていく必要があると指摘しました。
さらに、文部科学省が示す「情報活用能力の育成強化」に触れ、今後は生成AIの存在を前提とした教育になっていくと思われることや、東京都では全ての都立学校に生成AIが導入されるなど(都立AI)、すでに教育現場へ生成AIが大規模、かつ加速的に導入されていることも紹介しました。

また、ベネッセ2024年6月の調査データから、「1割の小学生が生成AIを使っている」という実態を紹介し、この状況を踏まえ、「小学校段階からのAIリテラシー教育」を「公教育でやっていく必要性」と、子どもたちが生成AIに対して「実感を伴い自律的に判断できる力」を得るには、個々人で使っていてもひとりでに学ぶことは難しく、学校で、安全な場で仲間や教師と学ぶことが必要だと考えていることを教えてくださいました。
日本教育新聞:次期学習指導要領で「情報活用能力育成」を一層強化
東京都教育委員会・都立AIについて
ベネッセコーポレーション 「生成AIの利用に関する調査」2024
このような状況を解決するため、みんなのコードでは、教育現場向けの「みんなで生成AIコース」を提供しています。
このコースは、送信データが生成AIの学習に利用されないなどの一般的な安全性に加え、「教師が児童の会話履歴を確認することが可能」「利用に際し生徒児童の個人情報が不要」「教師がアカウントを作成する」「アクセス可能時間を設定できる」といった特徴が備わっています。「先生が監督責任を持つことで年齢制限なく使用できる」ことで、使用に年齢制限がある生成AIを小学校でも安心して活用できるようになっています。
次に、「みんなで生成AIコース」を活用した小学校5年生への実践事例が紹介されました。
授業はAIに“学ばせる”体験から。
Googleが提供する「Teachable Machine」を使用し、子どもたちが撮影した国旗写真より、AIに国旗の種類を学ばせるという活動からスタートしました。
竹谷さんは、「国旗は誤認識が少ない」ため、機械学習の基本的な原理をスムーズに理解できると言います。そして基本的な原理を学んだ後、子どもたちは「自分が認識させたいもの」を自ら考えました。
これらの体験を通した授業を進める中で、教科書を認識させ、持ち物を確認する「忘れ物防止」アプリを作成する子どももでてきたそう。竹谷さんは、こういう体験を通して、子どもたちが自分もAIを使って何かできそうだ!という感覚を作っていけると良いのではとお話しされました。
生成AIを前に子どもたちがどう反応するかの傾向としては、まずはインターネットのキーワード検索のように、検索的にAIを活用し、そのうちしりとりなどして生成AIと遊びだすとのこと。そして、だんだん物語や音楽を作らせるなど、自然とクリエイティブな使い方をしていくそう。もちろんこの小学校での実践においては、子どもたちは生成AIと遊ぶ以外にも、国語で意見文の添削をお願いするなど、さまざまな教科の学習場面で生成AIを使う体験を重ねました。
そして、この実践を1年間継続した子どもたちが6年生に進級した際には、「生成AIを相棒にしよう」をテーマに、さらに活用を進めました。
例えば国語の単元では、「学校のお昼ご飯は給食と弁当のどちらがいいのか」と議論する場で、生成AIに意見を添削してもらう形で生成AIを活用しました。その際、子どもたちが、自分たちの主張をより説得力のあるものにするため、どんな資料を追加すべきかアドバイスを求める例も見られました。そして、だんだん給食費や栄養バランスなど、生成AIのアドバイスを参考にしつつも、生成AIを離れて調べる子どもの様子も見えたとのことです。
授業のふりかえりや感想では、「算数は、答えを教えてもらうんじゃなくて解き方を教えてもらうのが必要」「なんのために使うのか、それを使って何になるのかを考える」「出てきたものが本当に正解か一度考えることが大事」「自分が正しい使い方をしているのか自問自答しながら使っていきたい」等の意見が出ました。
竹谷さんは、「全員こういうこと気づくわけではないけれど、クラスの中にそういう子がいることが大事」と言います。アンケートでも、「みんなと使ったから自信ついた」と7割の子どもが回答したと紹介しました。
実践紹介の後、小学校段階で生成AIに触れる上で、小学生に意識させるべき「留意点」についても説明しました。
次に、永野さんから、高校における生成AI活用の具体的な実践事例をご紹介いただきました。
2011年当初、日本初一人一台端末を導入した情報科教員であったという永野さん。 永野さんは、「すでに産業界では、生成AIは当然に使われている。便利であるからこそ、教育界でどう使っていくにはというところは議論がありますが、ただ、インターネットが生まれた時と同じで、生成AIを今後使っていく未来は確定なので、本当に子どもたちをそこから隔離することは良いことだとは思いません。危なさがあるのであれば、それを知らせ、どう対処するか伝えることが教育なのでは」とおっしゃいます。使う心配も、使わない心配もあるものの、生成AIを避けるのではなく、過信も不信も防ぐことが重要であると説明しました。

そして、永野さんが、生成AIの活用について現場の先生方へ伝えていることを紹介くださいました。

対象年齢の違いにより表現は違いますが、小学生向けの留意点を説明された竹谷さんと大枠は同じことを指摘されている気がします。これらのポイントは、どの年齢に対しても、生成AIを活用する大きなヒントとして参考になりそうです。
続いて、高校における具体的な実践事例について4つの事例を紹介されました。
1.生成AIと生徒のディベート:生成AIを反対の立場に立たせて活用する事例。「友達と反対意見を言い合う」のは生徒にとってハードルが高くても、生成AIを活用して「喧嘩をするのではなく意見を聞く、反論する」という経験を積むことができます。永野さんは、生徒が自分のことを伝えられるようになるには、ある程度経験が必要だと考えていらっしゃり、その機会を多く得ることに生成AIを活用。
2.時事問題を読んで考察文を書く:朝学習などで、その日の新聞記事について短い考察文を書き生成AIに添削してもらう活動。この実践では、「先生が小論文の添削をするのは大変だけれど、生成AIならたくさんできる」という教育現場の負担軽減と、生徒の学習機会の増大という両面で大きなメリットがある事例。
3.探究学習での活用:探究は調べ学習と違い、問いを立てる必要があります。生成AIは、その際に、「考えを整理するのに使うのが有効」だと紹介。生徒と生成AIとで、興味のあることなどを会話させテーマを決めたり、仮説の反対意見を聞いたり、そのテーマで進めると何が分かるのか、困難な点は何かを問うなど、探究学習の各段階で生成AIを活用。
4.生成AIとプログラミング:生成AIとプログラミングは「親和性が高い」分野であるものの、AIはプロが使うような効率的な正解を提示してしまい、学習としては意図が違ってしまう場合もあります。みんなのコードでは、高校情報向けのプログラミング教材に生成AI機能を追加し、生成AIが正解のコードをそのまま生徒に提示しない工夫をしています。また、プログラミングの授業では生徒が基礎的な質問を躊躇う場面や、先生への質問待ちで作業が進まない場面もあり、そういう時にも生成AIは質問先の1つとして有効。
授業としての情報、プログラミングなどは、例えば自由課題として何か作りたいと思っても、知識技能の習得が壁となり、楽しさに行きつくまでに嫌になってしまうこともありました。ですが生成AIが登場した今は、まずは作ってみてから、生成AIの助けを借りつつ修正するなど、学習の順序が変換する可能性があるとのこと。永野さんは、技術系の授業のあり方が変わるのではないかと期待しているとお話しされました。
また最後に、生成AIは使い方に大きく左右され、AIをより良い方向に活用するためには、単にAIの使用を禁止するのではなく、学校現場がより良い使い方を、(生徒が)自ら考えられるようなヒントを与え、関わっていく必要がある。
AIが簡単に「それらしいもの」を作れるようになる現代において、人間が何かを創造する際に最も大切なのは、あなた自身の経験、感情、「これが好きだ」というこだわりを持っているか、またそれが作品に表現されているかどうかだと思うと締めくくりました。


研究会の後半は、千葉授業づくりでは定番のディスカッションの時間です。生成AIの教育現場への導入に際し、参加者から活発なディスカッションが行われました。
ここからは、ディスカッションの内容を一部抜粋要約してご紹介します(敬称略)。



今回の研究会を通じて、生成AIが教育現場にもたらす可能性と課題、そしてこれからの授業のあり方について多角的に知ることができました。生成AIの進歩は目覚ましく、数か月後には状況が変わっているかもしれません。今後もその動向を注視し、教育への最適な導入方法を模索していく必要があると感じました。
以上で、第169回千葉授業づくり研究会のレポートのご報告とします。ご講演いただきました竹谷さんと永野さん、そして参加者のみなさま、ありがとうございました。
千葉授業づくり研究会にはどなたでも参加できます。
興味がある方は、こちらの開催情報をチェックしてくださいね!Zoomを用いたオンライン配信による参加もできるので、遠方の方も大歓迎です。
2025年4月19日(土)に第168回「千葉授業づくり研究会」が開催されました。今回のテーマは、「就職やライフキャリアの最新事情から、キャリア教育のアップデートを考えよう!」です。
キャリア教育は学校教育の中でも実施されていますが、授業内容やフィードバックの方法などにお悩みの先生も多いのではないでしょうか。
本研究会では、株式会社マイナビの栗田卓也さんと今井普彦さんをお招きし、近年の就職活動の最新事情や、今後の社会で自立的にキャリアを構築するために必要な資質・能力、企業と連携した探究学習の例などをお話いただきました。かつての就職活動の常識とは異なる情報の連続に、驚きの感想を寄せる参加者の方もいらっしゃいました。
また、会の後半では、千葉授業づくり研究会定番のディスカッションを実施しました。実際にキャリア教育に関わる先生からのお悩みも寄せられ、実践的なテーマの議論となる場面もありました。
はじめに、30年以上雇用や採用に関わる業務を担当し、マイナビ編集長として就職市場について調査・説明する立場も経験してきたという栗田さんより「日本におけるキャリアの変遷及び就職活動最新事情」の講演をしていただきました。
かつての日本では職業選択によって今後のキャリアが直線的に決まっていく傾向がありましたが、近年では多様な選択肢の中から自分に合うものを選べるように変化しています。テレワークや副業など、自由度の高い働き方が普及していることも背景にあるようです。
将来の選択肢の幅が増えるのは喜ばしいことではあるものの、これからの時代では1人1人がより主体的にキャリアと向き合う必要があります。
栗田さんには、近年の新卒就活や転職市場のトレンドをご紹介いただき、そのうえで、今後の社会でのキャリア構築に必要な資質・能力をお話いただきました。参加者からは、自分の就職活動と大きく違うことに驚く声も寄せられました。
ここからは講演の様子を抜粋しながらご紹介します。ライフキャリアやキャリア教育は、教育現場に関わる先生はもちろん、就職・転職活動中の方やわが子の就職活動が気になる保護者、進路に悩む学生など、幅広い方に関わるテーマです。ぜひ、最後まで読んでくださいね。

講演の前半では、新卒就職市場の動向と学生の価値観について栗田さんにお話しいただきました。
まず、2025年卒の採用充足率は70.0%で、約10年の調査では過去最低となっています。「人がほしいけれど、充分に確保できない」という状態のため、インターンシップや仕事体験、初任給引き上げを通じて、各企業が学生にアピールする動きが見られているそうです。
特に、大卒初任給は2020年卒の平均は226,000円でしたが、2023年卒では237,300円と1万円以上も増加しており、ここ20年では見られなかった動きだそうです。加えて、これから26年卒の初任給の引き上げを予定する企業は54.1%で、半数を超えています。これは25年卒の場合と比べると6.9ptも増加しています。
また、インターンシップや仕事体験の実施率も高くなっており、約5割の企業が実施しています。なかでも上場企業では7割が実施しているそうです。学生のインターンシップ・仕事体験の参加率も85.3%、平均参加者数5.2社と高く、過去最高水準の数値です。特に、最近では長期プログラムや実務体験ができるプログラムの参加率が増えており、ゆるやかに段階を経ながら自分のキャリアを考えるきっかけともなります。
また、インターンシップや仕事体験自体も年々参加者が増え、これらの活動を経て就職活動をする学生も多いです。さらに、インターンシップをきっかけに内定を得る動きもみられています。
一方、学生が企業をじっくり選べる環境であるものの、2020年卒からは企業選択のポイントがやりたいことから安定に逆転し、安定している会社を選ぶ割合の方が多くなっています。この背景には、老後の貯蓄や景気悪化、年金制度への不安などがあります。
そのため、就職後に副業や投資といった別の収入源を得ることを検討している学生も多いようです。また、副業ができると、就職先の企業以外でも別のキャリアを築くことができるメリットもあるとお話いただきました。

次に、転職市場と企業選択軸についてお話いただきました。新卒の就職活動では「安定」が重視されますが、転職者の場合は「給与」や「勤務地」などの働く条件を重視する傾向にあることが特徴です。
現在、転職者は331万人で再び上昇しており、就職氷河期に及ばないもののこの10年で2番目の数字となっています。
新卒については、景気がいい時も悪い時も一般的に「3年3割」というような一定数の転職があるそうです。とはいえ、最近では転職しやすい環境になりつつあるため、ネガティブではなくポジティブな理由による転職の増加も感じられます。また、転職市場の全体的な変化については、20代の転職率は上げ止まっていますが、40代以上は微増傾向とのことです。
さらに、転職を考える理由には「給与」「仕事内容」「人間関係」「将来性」が上位になるとお話いただきました。転職先の決定理由には、「給与」以外に「勤務地」「休日休暇」「福利厚生」が上位になります。転職者の場合は新卒とは異なり実際に働いた経験がある層なので、企業に求める条件がより具体的です。
また、企業が中途採用の選考で重視するポイントは、経験よりも気質的特性の方がやや高いともお話いただきました。スペシャリストやリーダーシップが求められないわけではありませんが、一般的には主体性や傾聴力、発信力、問題解決力などが重視される傾向にあります。しかし、得意・不得意は人によって異なるものなので、学校での実践などで自身の特性を理解できるきっかけを与えられると、自分の特性を生かす方法という視点で進路を考えることができるのではないか、ともお話いただきました。


次に、今後必要となる能力やインターンシップの現状をご紹介いただきました。
企業の採用活動では「前に踏み出す力」、「考え抜く力」、「チームで働く力」の3つの能力から成る「社会人基礎力」が意識されることが多いそうです。特に、その中でも「前に踏み出す力」に含まれる「主体性」や「実行力」の要素を重視する傾向があります。しかし、業界や職種によって求められる能力は異なるので、自分の気質に合う職業を探すのがよいのではないかとも補足がありました。
続いて、インターンシップの研究について解説いただきました。インターンシップは自己探索や環境探索を伴う「キャリア形成活動」として捉えられます。
共同研究による学生にとってのインターンシップの効果として5つ抽出されたのですが、特に、自分のやりたいことやキャリアプラン、目標が明確になる「キャリアの焦点化」と、社会の多様な選択肢や、業界・企業の理解など学生の視野を広げる「キャリアの展望化」の面で影響があったようです。
また、インターンシップを企業が実施する場合には、学生がインターンシップの「事前事後学習」がセットになっていることと「社会人基礎力」を通じた経験ができるプログラムであると、インターンシップの満足感や志望度、インターンシップを経た教育効果が向上する傾向があります。学生が事前にプログラムの内容を理解した上で活動に参加するため、就業体験で学生自身が学んでいることやこれから学ぶ必要があることを理解しやすくなるのです。
さらに、参加者の学生の成長を学生本人に伝えられる機会やメンターの存在も重要です。学生自身がインターンシップでの成長や自分の理解度を知るきっかけになり、これもインターンシップによる教育を高めるでしょう。

これらの最新事情を踏まえたうえで、最後に栗田さんより今後のキャリア形成で大切な点をまとめていただきました。
これまでは1つの職業選択で住む場所や家族の選択肢が絞られている傾向がありましたが、テレワークや副業が普及している現代では選択肢が豊富になっています。過剰な選択肢から自分の選択に意味づけをして、自分なりにキャリアをつむいでいくことが重要です。
加えて、「常に自分と対話しながら、自分の選んだキャリアを考え選び続けることが大切」ともお話いただきました。
これからのキャリア教育では、キャリア形成の方法が昔とは大きく変容していることを把握した上で、多様な選択肢の中から子どもたち自身が自主的にキャリアを考えるための働きかけが重要となるのですね。特にこれからのキャリア教育に関わる先生方にとっては、大切な視点ではないでしょうか。
続いて、探究学習や高校生向けの事業に携わった今井さんより「企業と連携した探究学習について」のテーマで講演いただきました。
「探究学習」とは、「学習者が問いに答える学習を通して、知的創造を行う学習方法」を指します。探究学習では、自ら問いを立てて解決するための、「課題の設定」→「情報の収集」→「整理・分析」→「まとめ・表現」のプロセスが重要です。探究学習では課題解決型の授業が行われることが多いように感じるともお話いただきました。
また、今井さんは、高等学校の先生より探究学習の指導において次の3点についてよく相談を受けたそうです。
①生徒が問いを立てられない(学習の1歩目)
②学習成果やプロセスに対して、フィードバックや評価がうまくできない
③探究学習等の指導の経験差が出やすい
これらを踏まえて、マイナビでは企業の立場で、探究学習をサポートする取り組みを実施しています。今回は、具体的な事例を3つご紹介いただきました。
まず、マイナビでは、高校生のビジネスアイデアコンテストである「マイナビキャリア甲子園」を実施しています。
本コンテストは、協賛企業が出題したテーマの課題を解決していくビジネスコンテストです。いくつかある協賛企業が出題したテーマに対して、高校生のチームが好きな企業テーマにエントリーします。その後、書類審査やプレゼン発表を経て企業代表チームを目指し、最終的には企業代表チームが集まり決勝戦が行われるというもの。
探究学習では、学習のはじめに生徒自身が問いを立てるのが難しいのが課題です。「マイナビキャリア甲子園」の場合は課題解決型のコンテストであるため、問いを立てるのが難しい学生でも取り組みやすい魅力があります。
次に、高校生の探究学習教材「Locus」を紹介いただきました。本教材は、高校の3年間の学びに合わせた探究教材となっており、下記のように段階的に学習を深めることができます。
「自己分析」→「地域を知る」→「業界を知る」→「企業を知る」→「学問を知る」→「自己実現へ」
Locusでは身近な地域の課題に向き合うことを契機として、企業や学問の関心へつなげていきます。
また、探究学習プログラムの中では、業界探究教材の「業界探究の1PPO!」という教材が使用されます。本教材は、「流通・物流編」や「半導体編」、「自動車編」など様々な業界をテーマに幅広い仕事を紹介する教材で、高校生の職業に対する視野を広げる狙いがあるそうです。
高校生ではなかなか仕事内容や業界のイメージがわきにくい仕事も取り上げられているので、高校生のキャリア選びの幅を広げるのに役立ちます。
最後に、添削サービスについて紹介いただきました。生徒が入力・記入した内容に対して専任スタッフからフィードバックをもらうことができるサービスです。
このサービスは、探究学習における「フィードバックの難しさ」という課題を解決するために開発されました。
また、前述した「マイナビキャリア甲子園」のようなビジネスコンテストの多くは、勝ち進んだチームの生徒しか審査員からの評価やフィードバックを受けられず、落選者は学習を振り返るためのヒントや機会が得られないという課題がありました。
そのほかにも、地域をテーマに発表や成果報告を行う探究学習の場合では、地域の人には喜んでもらえるものの、教育としてのフィードバックが少なくなってしまう課題もあるそうです。
こうした背景から、探究学習の過程や成果について専任スタッフによる添削を受けられるこのサービスは、多くの生徒が学校の先生や地域の人以外からの客観的な評価を受ける貴重な機会となります。


研究会の後半は、千葉授業づくりでは定番のディスカッションの時間です。オンライン上で質問ができるサービス「Slido」を用いて、参加者と登壇者で議論を行います。今回は、実際にキャリア教育に携わる先生からの質問や悩みも寄せられました。
ここからは、ディスカッションの内容を一部抜粋要約してご紹介します(敬称略)。
Q.中学生の職場体験についてはどう考えていますか?受け入れ先となる企業によって温度差が大きいように感じられます。また、体験して終わりになってしまうこともあると思います。
(今井)企業の受け入れ状況については差があるのは事実です。また、参加する学生によっては学びの差が出てしまう実態もありますね。特に、中学生くらいまでの子どもだとなぜその会社に行くのかという動機づくりが難しいことがあるので、事前事後学習でどのような学習効果を得られるかを考えるのが大切です。
たとえば、中学生に新聞記者になって取材をしてもらうような授業はいかがでしょうか。中学生自身のキャリアで興味を持つことが難しくても、職場体験に行く動機づくりができると考えています。
(参加者)中学校でリクルートのタウンワークのようなものを作る授業実践の経験があります。企業の方や社長に中学生が名刺を渡して取材のアポ取りをし、働く内容や働きがいをタウンワークの求人一覧のような形式で地域に届ける授業内容でした。単に職場体験をするよりも、中学生なりに課題を見つけて考えることができていたように感じます。
Q.高校教員です。勤務校ではキャリア教育をほぼ実施できていないです。3年間でどの程度時間を取るとよいでしょうか?
(今井)Locusを使った学習の場合、事前学習して企業を訪問しアウトプットする流れで行われることが多いですね。年間12〜15コマくらいで実施されるケースが一般的です。丁寧に授業を行えば、さらにコマ数が増えていくことも考えられます。
(こちらの質問をきっかけに、動機づけについても話が膨らみました)
また、高校生へのキャリア教育の動機付けが難しい問題だと考えています。高校生にとっても、将来が大事だとかいうのは分かるけど、受験もあると考えているでしょう。生徒がやる気になるようにどう落とし込むか工夫をすることが大切で、例えば、国語の授業の小論文と関連させて探究学習を行うと「キャリア教育が入試でも使えるかもしれない」と興味関心を持たせられるんじゃないかな、と考えます。
(栗田)興味関心をちょっとでも持たせることがまずは一番と感じます。それを意識すれば授業プログラムの作り方や時間配分は大きく変わってくるのではないでしょうか。
例えば、韓流にしか興味がないような生徒に、BtoBの素材会社が面白いと伝えてもなかなか困難だと思います。それよりも、例えば、その関連のCM会社を紹介するなど、生徒が展望化できるよう、視野を広げられるよう支援し、選択肢と結び付けて理解してもらうようなことが大切だと感じます。
Q.最近は将来の不安から成長意欲がある学生が多いという話がありましたが、一方ではワークライフバランスを大事にしていて副業やテレワークができる会社が人気なイメージもあります。どのように学生の実態をとらえていけばよいか知りたいです。
(栗田)たしかに、仕事と私生活のバランスを大切にする傾向があります。現在の若い方は、男性でも育休取得が当たり前の世代です。
そのため、夫婦共働き前提でどちらかが休んだ時にも生計を立てられるように、結果としてワークライフバランスや自己成長の機会を求める方が増えていると思います。
以上で、第168回千葉授業づくり研究会のレポートのご報告とします。ご講演いただきました栗田さんと今井さん、そして参加者のみなさま、誠にありがとうございました。
千葉授業づくり研究会にはどなたでも参加できます。
興味がある方は、こちらの開催情報をチェックしてくださいね!Zoomを用いたオンライン配信による参加もできるので、遠方の方も大歓迎です。
【記事担当:千鳥あゆむ】
2024年12月21日(土)に開催された第167回「千葉授業づくり研究会」。今回のテーマは、「テレビドラマ制作から学ぶ多様性の視点〜教育現場での活かし方とは〜」です。授業づくりや教育コンテンツを作るとき、特定のマイノリティを描くときには描かれ方が固定的にならないように工夫を行う必要があります。
今回の研究会では、NHKエンタープライズ第1制作センター社会文化部 シニア・プロデューサーの坂部 康二さんをゲストにお迎えし、講演いただきました。坂部さんは、これまでNHKにて同性愛者や障害のある人を描くテレビドラマの制作に携わってきました。
本研究会では「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」や「デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士」、「作りたい女と食べたい女」等のドラマ作品の制作現場にて、多様性のあるキャストとともに実践した取り組みや試行錯誤した経験を中心にご紹介いただきました。
研究会の後半は、千葉授業づくり研究会では定番のディスカッションの時間。今回は第165回千葉授業づくり研究会にて「授業づくりにおける表現と差別・ステレオタイプを考える ~想像と創造のサイクルの中でジェンダーや人種をどう考えるか~」のテーマでご講演いただいた山本 恭輔さんも加わり、大盛り上がりでさまざまな視点から意見が交わされました。
坂部さんは、「最近のNHK、攻めてる?」と問われることがあるそうです。
2024年には、日本史上初、女性の立場で法曹の世界で道を切り開く佐田 寅子たちの姿を描く連続テレビ小説「虎に翼」が大きな話題となりました。作中では、女性の生きづらさを中心に朝鮮人留学生や同性愛者、異性装などの声を上げることが難しかった人の姿も描かれています。
また、ドラマ「%(パーセント)」は作中の若手プロデューサーが、「障害のある俳優を起用する」条件でドラマ制作に奔走するお話です。本作では、実際に障害のある方をキャストに起用しています。
坂部さんは、現在のNHKのドラマ制作では「なぜ今これをやるのか」が求められ、そのため、何らかの問題提起がされることやドラマを通して気づきを得ることもドラマ制作の大切な要素だと話しました。また、社会的な意義を求めるだけではなく、エンターテインメントとしておもしろいものを作る姿勢もドラマ作りでは重要です。
本講演会では、坂部さん自身が作品制作に携わったドラマ作品「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」「デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士」「作りたい女と食べたい女」での取り組みを例に、そこから得た気づきや経験をご紹介いただきました。

「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」は作家・岸田奈美さんの家族について書かれたエッセイを原作にした連続ドラマです。
ベンチャー企業家の父は他界、母親は突然車いす利用者となり、弟はダウン症、祖母にはものわすれの症状が出始めている。そんな情報過多な家族のできごとが、原作同様にドラマでもあたたかく描かれています。
本作のドラマ化では、ダウン症の弟役の「草太」に、自身もダウン症である俳優・吉田葵さんを起用しています。本作ではダウン症のある「草太」が重要な役柄となります。ダウン症がある方の起用について、坂部さんは「むしろ、なぜダウン症の方を起用しないと思うのか」という考えで、ダウン症の当事者である俳優を集めたオーディションを実施しました。NHKにはマイノリティーをテーマにしたバラエティ番組『バリバラ』を手掛けるなど、障害に対し知見を持つ福祉班があります。今回のオーディションでは福祉班のスタッフにも相談し、日本ダウン症協会にオーディションに興味がある俳優の紹介を依頼することになりました。
坂部さんは「ダウン症のある人という括りでつい考えてしまっていたが、実際にお会いするとダンスや絵が得意な人、シャイな人、障害の程度など、オーディション参加者一人ひとりに当然ながら個性がある。その中で役柄に合うのは誰かということを考えた」とオーディションの様子を振り返ります。さらに、作中に登場する草太の子ども時代の回想シーンや草太の同僚役にもダウン症のあるキャストを起用しました。
撮影現場ではダウン症に対する考証や監修の専門家とは別に草太役の吉田さん専属のサポート担当も配置されました。専属のサポーターがいることで、脚本の解釈や演技指導のサポートに加えて、ドラマの撮影に慣れていない吉田さんに、現場のルールや他のスタッフへのコミュニケーションの方法を繰り返し時間をかけて伝えることができました。また、送迎や家での台本の読み合わせなど、家族による支えもありました。
オーディションでは、実在の岸田奈美さんの弟である良太さんに見た目や知的レベルを合わせることは考えず、あくまでもフィクションであることを念頭に選考が行われました。また、原作で良太さんが好きなコーラを飲むシーンがあるのですが、ドラマ撮影では演じる吉田さんの好みに合わせてリンゴジュースに変えたといいます。作中でコーラが重要な意味を持つわけではないので、古田さんにわざわざ苦手なコーラを飲んでもらい、おいしそうな演技をしてもらう必要がないことが理由です。また、草太がコーラではなくリンゴジュースが好きな役となっても、作中にはデメリットはないとも判断されました。
坂部さんは、ダウン症がある人でも、ない人であっても「その人が何を求めているのか」が大切だときづいたと語ります。これは、教育現場でも1人1人に向き合う際に通じる視点なのではないでしょうか。

「デフ・ヴォイス」は、草彅剛さん演じる、コーダの手話通訳士がろう者の法廷通訳に奮闘する様子を描いたミステリー作品です。コーダとは、「きこえない親を一人以上もつ(きこえる)人」を指します。本作では、主役の草彅剛さんら主要なキャスト以外には、役柄に応じてコーダやろう者、難聴者が起用されました。
約80人もの人が参加したオーディションでは「ろう者・難聴者の俳優向けのオーディションがあること自体がうれしい」との声があったようです。このようなコメントの背景にはメインの配役にろう者や難聴者が出ることが少ない事情があります。
ここでも、撮影の際には、専門知識のあるスタッフによるサポートや演技指導が行われたそうです。
俳優に声かけが通じない課題があるため、撮影の前に模擬撮影が行われました。声ではなく合図を送る人が役者の見える位置に立ち、手を上から下げることで「撮影スタート」を伝達する形になりました。模擬撮影をすることで、1つの撮影を作るチームとして団結することができたそうです。
また、撮影期間中には、とあるスタッフが「草彅剛さんのような有名人と共演することをどう思うか」と、ろう者の俳優に尋ねると「同じ俳優として学ぶことがありますよね」と対等な俳優としてのコメントが返ってくる場面があったそうです。ついつい「ろう者なのに草彅さんと共演できてうれしい」という回答になると思い込んでしまう偏見があると気づいた例として紹介していだきました。「スターと共演できる場を作ってあげた」という認識ではなく、プロの俳優として接することが大切なのです。

ここまで当事者が自分に近い役柄を演じる撮影の例を紹介しましたが、坂部さんはこのようなキャスト起用をすべてのドラマに当てはめるべきだとは考えていません。
「当事者が演じればそれでいいのか」
「当事者が頑張っていることに感動していないか」
「当事者に合意を取れているのか」
など、常に自らに問い続ける必要があります。
特に、当事者が自分に近い役柄を演じる場合には、当事者性の開示が生じます。性的マイノリティの役柄を演じる人が、自分自身の性的指向を開示する必要性があるのかというと、そうは言えません。あらゆるマイノリティにはそれぞれ固有の背景や歴史があることを考慮する必要があるのです。
講演では、坂部さんが携わった「作りたい女と食べたい女」のドラマの例をご紹介いただきました。この作品では、料理が趣味の女性・野本さんが、同じマンションの女性・春日さんと2人で料理を作って食べることで交流を深めていきます。次第に、野本さん自身が、自分はレズビアンで春日さんに恋心を持っていることに気づきます。
「作りたい女と食べたい女」の撮影ではレズビアンの俳優の起用には至りませんでしたが、ジェンダー・セクシュアリティについて俳優・スタッフに向けて講習会を行ったそうです。同性愛を描く作品を扱うため、関係者全員が安心安全な環境で撮影に臨みたいよねということで実施されました。
坂部さんは、現在は長期的な「移行期間」であると捉え、今後は当事者の人が演じる機会となるバトンをつなげたいと考えています。
また、「多様性やコンプラによってテレビが息苦しくなったのか」と坂部さん自身に問うと、答えは「NO」であるそうです。多様な人がドラマに登場することは、これまで語られなかった人の声が聴こえるコンテンツを生み出せる社会であるためです。むしろ、これまでは言葉遣いや言い方に配慮がされずに、誰かが嫌な思いをして作られているコンテンツがあったとも考えられます。
坂部さんは「テレビドラマの力で生きづらい人をエンパワーメントし、理解を広げるきっかけにしていきたい」とお話してくださいました。

講演の締めくくりには、坂部さんがこれからの展望として考えていることを3つお話いただきました。
1つ目は、「通行人A」のような人物に多様性を反映させることです。例えば、「背後を通り過ぎるだけの人物が車いす当事者である」「主人公の恋人の弟が障害のある人や性的マイノリティの人物である」などのように、物語に直接的に寄与しない役柄にも多様性を反映させられるのが理想です。
2つ目は、俳優以外に制作スタッフにも多様性のある方に入ってもらうことです。マイノリティの方にもメインのスタッフとしてかかわってもらうことで、「『彼ら』の物語から『私たち』の物語」へと意識を変容できるのではないかと考えます。
3つ目は、「Race&Ethnicity」がキーワードになります。今は、海外ルーツの人が増えているけれども、ドラマやテレビではそこまで反映できていません。人種と民族に注目し、「ミックスルーツ(いわゆる”ハーフ”の方)」が主人公のドラマなどを作りたいとお話いただきました。
ここまでの3つの指摘を受け、学校教育でも多様性のある方への接し方を見直す必要があるように感じました。多様性のある方への配慮も大切ですが、多様性を反映させる環境づくりも重要な視点となるのではないでしょうか。
研究会の後半は、千葉授業づくり研究会定番のディスカッションの時間です。オンライン上で質問ができるサービス「Slido」を使用して、参加者と登壇者で議論を行います。今回は、第165回研究会の講師・山本 恭輔さんにも司会やコメントをしていただきました。
ここからは、ディスカッションの様子を一部抜粋要約してご紹介します(敬称略)。


Q.(山本)講演会の最後に表象頻度の話があったのが気になりました。表象される頻度が少ない属性はステレオタイプ化しやすいので、自分が他者をどうまなざすのかを知ることが大事だと思います。
しかし、多様性やマイノリティを扱った作品を打ち出すことには意味があるものの、そういう人物像としてラベリングされる可能性もあります。プロデューサーとしてどう向き合っていますか?
(坂部)ラベリングされることはあるかもしれません。自分の打ち出し方は、「女性同士の恋愛を描いた物語です」「ダウン症の家族が出てくる話です」などの事実の情報だけを出すように心がけています。ただし、見られ方としてラベリングだと捉えられてしまう可能性はあります。それでも、お説教や学習ツールだけではなく、「エンターテインメントとしての面白さ」を伝えることも意識しているので、そこが伝わらないのならば残念ですし自戒する部分になります。
Q.(参加者)最近いじめ防止の教材づくりに携わることが多いです。意味があると思っていじめの描写を入れることがあるのですが、心のどこかで「自分の作った表現で傷つく子どもたちがいるのではないか」と考えてしまいます。
番組作りでも同様のリスクがあると思うのですが、何か対策していることがあれば教えてください。
(坂部)全く誰も傷つけないというのは非常に難しい話になります。例えば「作りたい女と食べたい女」の原作の漫画では、作品の冒頭で「〇〇な描写があります」という注意書きがなされており、体調や気持ちに応じて読むかどうかを選択できます。また、ドラマでもそういう注意書きを出すこともあります。ただし、今回のドラマ制作では、漫画よりも表現が弱まっている面があることや、1つ入れると他の場面でも多く注意を出す必要が出ることなどを踏まえて、注意書きを入れない判断をしました。注意書きをいれなかったことは最終的に大きなトラブルにつながってはいないものの、もしかすると人によっては傷ついてしまったかもしれません。
一方、いじめの教材づくりの場合を考えると、いじめる側のキャスティングに難しさを感じます。男性と女性どちらにするのか、体格はどうするのか、など。もし、「一般的にいじめる人はこういうルックスだろう」のようなステレオタイプがあるとすれば、あえて外してみるのが良いのではないでしょうか。
Q.(参加者)坂部さんのお話を伺って、「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」の現場でダウン症の方とお仕事をする中でいろいろな学びがあったのだと感じました。
坂部さん自身に多様性を受け入れようという人柄がある印象を受けたのですが、他のスタッフの方には研修などがあったのですか?
(坂部)ドラマ「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」の現場では特にNHKとして研修があったわけではありません。ただ、2〜3か月と長期の撮影の中でほぼ毎日顔を合わせる中で、スタッフと俳優の関係性が結ばれたように思います。
【記事担当:千鳥あゆむ】
2024年11月16日(土)に開催された、第166回「千葉授業づくり研究会」。今回のテーマは、近年注目のメタバースとも関連する「学校教育におけるVRの活用を考える」です。VRを用いてインターネット上の仮想空間に入ると、その場にいるかのような没入感を感じることができます。今では、学校教育の場でもメタバースやVRの活用が検討されています。
今回は、Meta日本法人Facebook Japanの栗原さあやさんにメタバースのビジョンやVRの教育活用などをお話いただきました。さらに、VRヘッドセットである「Meta Quest」の体験会や横浜市立東高等学校の黒木京子副校長による実践のご紹介も行われました。
この記事では、研究会の様子をレポートしていきます。VRやメタバース、最新技術を用いた教育に関心のある方は、ぜひチェックしてくださいね。

今回の千葉授業づくり研究会は、「学校教育におけるVRの活用を考える」がテーマ。
Meta日本法人Facebook Japanの栗原さあやさんにMetaの考えるメタバースのビジョンやVRの教育活用などをお話いただきました。さらに、横浜市立東高等学校の黒木京子先生にはメタバースモデル校での実践の様子や課題もご紹介いただきました。
ここからは、研究会の様子を抜粋しながらまとめていきます。

Metaは「人と人の“つながり”の未来とそれを可能にするテクノロジーの構築」をミッションとしています。同社のFacebookやInstagramなどの提供サービスには人々のつながりを大切にしたものが多く、今では全世界で32.9億人ものユーザーに利用されています。
「メタバース」は、SNSやコミュニティなどソーシャルテクノロジーの次なる進化の形を指します。Metaとしては、メタバースを「人と人をつなぐソーシャルテクノロジーの次なる進化」だととらえており、物理的な世界ではできないことを可能にして大切な人とより深くつながる、相互接続されたデジタル空間だと考えているそうです。
メタバース空間であれば、離れた場所にいる人たちでも相互にコミュニティに参加できます。加えて、没入感のある体験や相互運用性もメタバースの特徴です。
数年前だとテキストや画像が中心だったデジタルコンテンツの共有も、今では動画の割合が高くなっているようです。そして、今後は、VRやARのような没入感のあるコンテンツの共有が増えることをビジョンとして考えているともお話いただきました。
そして、Metaではメタバースの実現をテクノロジーやツールの強化でサポートしているそうです。たとえば、VRヘッドセット「Meta Quest」シリーズやソーシャルVRプラットフォームである「Meta Horizon Worlds」の開発もMetaが担っています。

栗原さんにはVRの教育利用や活用事例もご紹介いただきました。Metaでは、新しいテクノロジーを教員の代替手段とするのではなく、教員が得意な「教える」方法を技術でサポートすることを目指しています。技術には正解の使い方があるわけではないので、先生たちや開発者などで一緒に考えていくのが理想的です。
また、メタバースの没入型の体験は、動物の解剖実験のシミュレーションにVRを使うなどの「コスト削減」や登校が難しくても遠くから授業に参加できる「アクセシビリティの向上」、さまざまな学習者が同じ土俵で学べる「公平性の向上」などの利点をもたらします。
このようなメタバース空間を利用することで、より多くの人たちの学習へのアクセス向上が期待できます。また、VRの没入感で集中しやすくなる例や語学学習でデスクトップよりもVRのほうが高い定着率であった事例など、VRによる教育的なメリットも紹介されました。
さらに、栗原さんには、実際の教育現場でのVR活用の例として、角川ドワンゴ学園でのVRを使った教科学習や部活動の様子をご紹介いただきました。Metaと同校の連携のもと、XRクリエイター育成の取り組みの一環として、「メタバース学園ドラマ制作プロジェクト」というプロジェクトも実施されたそうです。
加えて、横浜市消防局での活用事例もお話いただきました。近年では、知識や経験を積んだベテランの消防隊員が減り、経験の浅い若年層の隊員が増えているそうです。若年層が経験を積むためには訓練が必要ですが、火災件数自体が減る中、火を使った訓練はCO2を排出するため頻繁に実施できません。このようなときにVRを使えば、火を使わずに現場に近いシチュエーションで若年層が経験を積むことができます。

横浜市立東高等学校 副校長の黒木京子先生にも勤務校での実践をお話いただきました。
横浜市立東高等学校では、メタバースモデル校として実際の教育現場でのVR活用を試行錯誤しています。今年8月にVR授業用の部屋の改装を終え、9月以降にはPTAや他校の校長先生、一部の生徒にヘッドセットをつけてVRの体験会を実施したそうです。
また、横浜市では「グローバルモデル校」という国際的な人材を育てるためのプロジェクトも実施されており、横浜市立東高等学校では国際交流の中でメタバースを活用する準備を進めている段階です。ですが、その準備を進めつつも、国際交流の用途に限らず、通常の授業や学校生活などでもVRを活用しています。
講演のなかでは、社会科の授業で「囚人のジレンマ」を行った際にVRでアバターを用いるとアナログの時と比べてゲームの結果に性差がなくなった事例や、家庭科の授業で消費者庁のVR動画を臨場感たっぷりに視聴した様子をご紹介いただきました。
実際に教育現場でVRを使用することで、子どもたちは大人よりもVRへの慣れが早かったそうです。Meta Questの使い方を教員から軽くレクチャーされた高校生が、2時間後の中学生見学会では中学生に教えてしまうほどの対応力だとか。
とはいえ、閲覧コンテンツの把握方法やネット環境・ヘッドセットの管理、教員研修、機器の準備、VR酔いなどの課題もあります。
ヘッドセットとコントローラーの管理の面では、複数台数のMeta Questヘッドセットとコントローラーが混在しないように、機器に番号が書かれたテープを貼ってアナログで管理しているという話や、授業にMeta Questを導入する際に、初回は子どもたちが大盛り上がりで体験に時間がかかるため、授業の進行を試行錯誤しながら実践を進めているとのお話もありました。
今後、実際にヘッドセット等を授業で取り入れる際、事前に把握しておくとよいヒントをたくさんお話しいただきました。

研究会の中では、「Meta Quest」を用いて「Meta Horizon Workrooms」というバーチャル会議室アプリの体験会も行われました。「Meta Horizon Workrooms」はバーチャル空間の中で会議やおしゃべりができるアプリです。体験会では「Meta Quest」を初めて体験する参加者が多く、大盛り上がりの時間となりました。
体験会の参加者は3つの教室に分かれて各部屋の「Meta Quest」ヘッドセットを装着します。同じバーチャル空間に別の部屋から集合し、各々のアバターとのハイタッチやおしゃべりを楽しみました。参加者からは「それぞれのアバターのいる場所から声が聞こえるので、その場で話しているかのような臨場感がある!」との感動の声も。

また、体験会では会場のWi-Fiが不安定で接続に時間がかかる場面もありました。実際に教育現場に導入する場合には、機材の導入に加えて必要台数が問題なくネット接続できる環境整備も重要となりそうですね。黒木先生によると、横浜市の勤務校でも接続環境が万全とは言い切れない場面もあるようです。

研究会の後半では、千葉授業づくり研究会では定番のディスカッションを実施しました。オンライン上で質問ができるサービス「Slido」を使用して、参加者と登壇者で議論を行います。今回は、学校でのVR活用についてのアイデアも多く、活発な議論が行われる時間となりました。
ここからは、ディスカッションの様子を一部抜粋要約してご紹介します(敬称略)。

Q.VRを学校と家庭で繋いで使う場合、児童生徒の各家庭にヘッドセットなどの機器が貸与されるのですか?
(黒木)メタバースの空間に入るだけであれば、ヘッドセットがなくてもパソコンやスマホから入室し、チャットなどを楽しめるアプリもあります。
Q.VRを使えば子どもたちが保健室などで悩みを相談しやすくなりますか? 実際に養護教諭として勤務をしていると、悩みを相談するために保健室に来ることができずに不登校になってしまう子を見ます。
(栗原)学校とは別ですが、精神科医の方がアバターを使って相談を受けている事例があります。相談者が自宅からアバターの姿で話すことができるという面で、相談のハードルが下がる部分もあると考えます。
(黒木)ちょうど勤務校の養護教諭からもそのようなリクエストが来ていました。子どもたちの中には悩みがあっても「保健室に行く様子をほかの人に見られたくない」と感じる子もいるので、VRでの相談室があるとよさそうですね。
VRを活用した教育利用や活用事例の豊富な説明やモデル校の取り組みのご紹介、「Meta Quest」の体験会などを経て、議題や提案が次々と出てくるディスカッションとなりました。
黒木先生からは、横浜市立東高等学校で検討したことのある案として「音楽の授業で、オーケストラの楽団に入り込んだように感じられる空間で楽器を演奏できないか」「物理の授業で、光の速さをどのくらいの速さなのかを体感できる」「化学の授業で、危険な薬品を使う実験をVRで体験する」などのアイデアもご紹介いただきました。
最後に、ディスカッションで出てきたアイデアの一例をご紹介します。ぜひ、参考にしてくださいね。
・数学で立体物をバーチャル空間でつくる
・建物の高さをバーチャル空間で測定できるようにする
・心理的に厳しい動物の解剖などをVRで行う
・職業体験や修学旅行をVRで行い、体験の格差を補う
・アバターを使った自己表現や面接練習
・物理の光の速さの授業で、VRを使って月と地球でテニスをして光の速さを体感できる教材
・VRを使ってエンジンや細胞の中などに入ってみる教材 など
結びになりますが、ご講演いただきました栗原さん、黒木先生、参加者のみなさま、誠にありがとうございました。
【記事担当:千鳥あゆむ】
10月19日(土)に開催された、第165回「千葉授業づくり研究会」。
今回のテーマは、「授業づくりにおける表現と差別・ステレオタイプを考える ~想像と創造のサイクルの中でジェンダーや人種をどう考えるか~」です。
昨今、テレビや映画、漫画からポスターまであらゆるコンテンツにおいて、その表現が人種やジェンダー、セクシュアリティの観点から差別的であると批判の対象になることがあります。これは教材や掲示物など、実は日常的に教育コンテンツを制作している教育現場にも起き得ることで、自分が意図せず差別的な表現をしていることがあるかもしれません。多様な子どもたちが存在する教育現場で、私たちはこれらにどのように向き合っていけばよいのでしょうか。
それらの課題を考えるため、今回の研究会では、ハリウッド映画における多様性やフェミニズムなどを中心に研究される東京大学大学院博士課程の山本恭輔さんをお招きしました。
まずは山本さんより、エンターテイメント産業におけるコンテンツ制作という視点を中心に、ジェンダーや人種の多様性と差別についての基礎的な内容から、最近の多様性やフェミニズムに関する世界動向まで幅広くお話しいただきました。そして後半、教育コンテンツ制作という視点でそれらの知見をどう活かしていくのか、参加者全員で議論しました。
タイトルにある『想像と創造のサイクルの中でジェンダーや人種をどう考えるか』とはどういう意味なのでしょうか。
本blog記事では、山本さんの講演とその後のディスカッションの中から、教育に関わる方々にお届けしたい内容を抜粋し、ボリューム多めですが、レポート風に紹介することにしました。広く深い知見を要するこの難しい課題に対し、この記事が教育現場の方々の一参考になれば幸いです。
東京大学大学院博士課程で「メディア表象」を研究される傍ら、立教池袋高等学校でも社会学の教員として男子校の高校生に多様性について教えている山本恭輔さん。
実は山本さんは、企業教育研究会(ACE)に深いかかわりのある方で、山本さんとACEの出会いは12年前まで遡ります。当時中学生且つデジタルネイティブ世代であった山本さんに、ACEで開催したメディアリテラシー研究会の講師をお願いしたことも。その後もずっと活動に関わって下さり、現在は、ACEが関わるドラマ教材制作等にて配慮事項について監修や、ACEの理事もしていただいています。
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まず山本さんは、CGアニメーション映画で使用された東京、ロンドン等がイメージされるCG画像を示し、なぜこれらを特定の都市だと感じるのでしょうかと問いかけました。なぜ、CGで作られた画像を、私たちは例えば東京だと認識するのでしょうか。実際に行ったことが無くても、万人に東京という同じものを想起させるということは、どういうことなのか。
私たちは、何かを表現して伝える時、複雑なすべてをそのまま伝えることはできないため、意識的(半意識的)に大量の情報の中からどんな要素を抽出するか選択をしています。また逆に、私たちは何かを見た時、複雑なすべてをそのまま知覚することはできないため、「想像」し認識を「創造」しています。
このように、あるものを、別のなにか(記号)に置き換えて表現することを「表象(ひょうしょう)・representation」と言います。
例えば、東京タワーや富士山、ネオン街といった記号が東京らしさを特徴づけるものとして使われ、その表象が流通することで、人々の想像力の中で「東京」というイメージが広く共有されていきます。すると、逆にその記号がある表象に対し、人々は東京を想起するようになります。
ハリウッド映画などで東京を描く際には、この現象を利用しているということになります。もちろん東京以外のあらゆるものを描く際にも同様なことが起きています。
ではなぜ、このような記号で特定のものごとを表象できるのでしょうか、そしてなぜ、我々はそれを認識することができるのでしょうか。
われわれの認知機能は、知覚する人や物を、一定の特徴に基づいて「カテゴリー」に分類します。
そして、特定のカテゴリーが共通して持っていると信じられている特徴のことをステレオタイプと言い、そのステレオタイプを用いて他者を判断するステレオタイプ化は、人間の認知機能の節約として無意識で行ってしまいます。
つまり、例えば東京タワーはカテゴリーとしては「都市東京」を特徴づける記号であり、CG画像に東京タワーを描くことで他者に東京と判断させることができます(ステレオタイプ化)。
ステレオタイプ自体はニュートラルなものですが、そこに否定的な感情や評価が結びつくと偏見となり、偏見が元になった否定的な判断が相手に対する言動や行動として現れると差別となります。
ステレオタイプによる判断が無意識に出てしまう以上、そのステレオタイプを偏見や差別へ繋げないためには、自分自身が他の人や物を、どのようなステレオタイプで眺めているかについて自覚的になることが必要です。
山本さんより、「自分自身が他の人や物を、どのようなステレオタイプで眺めているかについて自覚的になることが必要です。」との指摘がありました。それに対し私たちは、『いろいろな選択肢の中から個人で自由に選択しているように見えても、実は自分が見聞きしてきたものに影響を受けている。』ということを、今以上に意識する必要があります。
例えば、山本さんの紹介事例によると、フリー素材を提供するWebサイトいらすとやで「監督」を検索すると、女性に見える選択肢は監督官の1つしか出てきません。
このように画像検索した際、検索結果において性別により就いている職業に偏りがあったり、そもそも検索にヒットする頻度が低いとなればどのような印象を引き起こすでしょうか。これらが繰り返し使用されたり、また使用する選択肢のなかに用意されないことにより、人々はその選択肢がないことを当たり前に感じるようになってしまいます。
このように、制限された表象は、社会の特定のイメージを維持・再生産します。それが、想像と創造のサイクルです。
従って、制作者が意図するかに関わらず、それがどういう社会的意味合いを持つのか、どう解釈されるのか、その解釈によりどういう社会的認識に繋がっていくのか(他者をどのように判断することに繋がっていくのか)を意識し、ステレオタイプ化から偏見差別に繋げないことを意識的に行うことが大切です。
だからこそ、映画・テレビ・漫画などを「ただのフィクションだから」とは扱えません。
たかがイラストではないかとは言えないのです。
山本さんより、映画『カーズ』3部作を事例に、2006年、2011年公開の2作目までは、ほとんどの女性は「男性との関係性」の中でのみ登場していたものの、2017年の3作目で新しく登場した女性は恋愛や結婚など男性との関係性が提示されず、必ずしも女性が異性愛的な関係における従属的な存在ではない、主体性持った存在として描かれるように変化したことが紹介されました。
また、ディズニー・プリンセスを事例に、かつて受動的で、男性の助けが必要な「白人」として描かれがちであったプリンセスが、現在は、活発で、必ずしも恋愛(結婚)せず、多様なバックグラウンドを持ったプリンセスとして描かれるようになっていることも紹介しました。
ただ、これらの多様化された描写は、企業にとっては、必ずしも社会的意義のみを目的としてはおらず、商業的な面でこれらに配慮していること自体が、ブランド化し利する面もあることにも触れました。また、時に利(売れるか売れないか)が優先され、例えば日本においては、未だに白人で女性性が強い旧来的なプリンセスを前面に押し出し商品展開をしており、そこに人種差別の意図があってもなくても、プリンセスにおける非白人の表象頻度が低くなることで、社会のイメージが旧来的なまま固定化されてしまっている現状についても触れました。
後半のディスカッションでは、前半の講演を踏まえ、教育現場で用いる教材・題材で留意すべきことや、それだけではなく学校生活での子どもたちへの影響など、幅広く意見交換する時間となりました。その内容について、いくつか紹介します。
Q:学校において、生徒指導は男性教諭、教育相談は女性教諭、大きな行事は男性、そのサブは女性がやるものみたいなことを、子どもたちはこういうものだろうと感じながら日々成長しているかと思うと怖い気がしました。
(山本さん)目にするものが当たり前になってしまう面は否めないので、そうではないあり方もあることを、(生徒に)目にしてもらうだけでも違うと思います。また、そういうコンテンツを生徒に見せる際には、必ずしも共感を促すのではなく、こういう視点や声があることを意識して欲しいから見せるのだと、一定の客観性を担保して示すことは入りやすさもあり有効だと感じています。
Q:学校内でこれらのテーマを話し合える土壌を作るには?
(参加者の中には、学校でこのような話題を全く話したことが無い(話せる雰囲気ではない)という方もいれば、結構話題に上がるという方もいました。)
(山本さん)偏見や差別といった話題で会話するにあたり、個人の内面や思想の統制ではないという認識が必要だと思います。そういった認識をお互いにもった上で議論をしないと、「私は差別をしているつもりはない」、「思いやりが解決する」という方向になってしまいます。そうすると(日常生活における自分の言動について)「これは駄目なのか」的な話になりやすく、人によってはすごく統制されていると感じてしまう。
そうではなく、公共の場で差別を表出しないために最低限の線引きはこのぐらいになるということや、表現においてここは最低限守らないと、ということを議論する。その前提に立てるかが重要だと感じます。
Q:教材を作るにあたり、何に気をつければいいですか?
(山本さん)難しいですけれど、元も子もないことを言うと、何をやっても問題は起き得ます。問題が起きない選択はないです。その中で、どういう意義を持ってその選択をしたのか、その判断について説明可能かどうかということが大切なのではないかと考えます。
Q:意義をもって何かを選択するには、広く深い知見が必要かと思います。専門家ではない人が、留意できることはありますか。
(山本さん)専門家に頼ってくださいというのがまず一つですね。アクセス可能な専門家がいるかということはありますが、やはり、ACEや先生方といった授業をつくる方が、全てのことを100%把握できるわけではないので。だからこそ、専門家に頼るのが一番かと思います。
結局、ディスカッションしていくしかないと思います。一方で、教材はどこかで折り合いをつけて完成させなければいけないので、実践一つ一つにどう折り合いをつけ、どう責任を持つのかは、すごく心が暗くなることもあります。
そこに関しては100%自信を持って何かを出すということは、正直できないということを受け入れる前提に立つしかないのかなと思います。
でも、例えば日本におけるディズニー・プリンセスの商品展開にあるように、どういうものが受け入れられると思うのかということに対して、やはり子どもたちに対して選択肢がある程度広がっていくことの大切さはあると考えています。


明るく活発な研究会となりましたが、今回のテーマは、とても根が深い問題を内包しており、例えばジェンダーという視点では、世間を賑わしたジェンダー・ギャップ指数や、女性管理職のクウォーター制などがあるように、これらは学校教育現場に限らず、日本社会が抱える課題でもあると思います。
私たちが日ごろ意識せず表現している様々なコンテンツが、これらの問題を固定化し、再生産している現状もきっとあるのだろうと感じますし、もし意識したとしても、自身の表現からその問題を完全に排除することも難しい。山本さんの話を聞き、大人である私たちが、既に子どもたちがニュートラルに捉えているものを、意識せず旧来的に選択肢を示してしまうこともあり得るという危険性も感じました。
そのような中で、これから社会に出ていく子どもたちに、どういう選択肢があり得ると示していくのか。子どもたちに日々接するACEとしても、葛藤を持ちながらも日々向き合っていきたいと思います。
と…、約20年前、新社会人1年目に感じたモヤモヤの解を求めて当時フェミニズム系の書籍を読み漁り、現在も一人の妻として親として模索を続ける本blog記事担当が感じたことを少しだけ吐露させていただき記事を結びたいと思います。
次々回、12月の千葉授業づくり研究会では、実際に葛藤を抱えながらも世に映像作品を発信し続けているスペシャルゲストをお招きし、さらにディスカッションをしていきます。