建設・製造業界の視点から考える、
理数系のキャリア教育とは!?

2026年6月20日(土)、第177回「千葉授業づくり研究会」を開催いたしました。今回は、理数系のキャリア教育を取り上げました。

現在、日本の産業界における先端技術の研究開発や次世代への技術継承はとても重要です。そのような中、文部科学省は2040年に向けて、普通科高校における文系・理系の割合が同じになるような教育改革の方針を示しています。2026年度においても「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)」事業の新規指定校の採択や追加支援の拡充が実施されるなど、科学技術人材の育成に向けたさらなる動きが始まっています。

理数系の研究者や技術者を育てる上では、理科や数学に関わる職業(キャリア)を早くから知ることも重視されており、現行の学習指導要領から新設された高等学校の教科「理数」においても、科目と職業のつながりに触れることが盛り込まれました。

しかしその一方で、日本における理工系学科への進学者は諸外国に比べて少ないという課題が指摘されています。そもそも、子どもたちが理数系の職業を具体的にイメージできているかについては、中学生に理科に関係する仕事を挙げさせた調査が参考になります。その調査によると、実態として、性別を問わず職業を3つ程度しか記述できず、回答も科学者、教師、医師、研究者に集中していることから、中学生の理工系に対するキャリアイメージは限定的であり、進路の選択肢として捉えられにくくなっているのではないかと推察されています(※1)。

したがって、これからの日本の産業を支える人材を育成するために、子どもたちの理数系人材に対するイメージを拡大し、具体化していくキャリア教育が求められています。

こうした背景を踏まえ、今回は、建設・製造業界の魅力を伝え、理数系の人材育成や技術継承に取り組みながら若手のキャリアを支援している株式会社キャリア・ナビゲーション代表取締役の長嶋哲夫さま(以下、長嶋さん)を講師にお迎えしました。テーマは、「建設、製造業界の視点から考える、理数系のキャリア教育とは!?」です。

当日は、建設・製造業界の就職を取り巻く現状やキャリアの選択肢についてお話をいただき、恒例のディスカッションでは、子どもたちがものづくりや理数分野に抱く興味をいかに引き出し、日々の教科の学びや将来の進路へと「つなげて」いくかについて、参加者の皆さまと共に考えました。

【参考】※1 日本学術会議 見解『女性の理工系進学を加速するために必要な、初等中等教育へのジェンダー視点導入と望ましい理数系教育の環境整備』(2023年9月22日発表)p.20

ご講演:建設・製造業界の視点から考える、理数系のキャリア教育とは!?

株式会社キャリア・ナビゲーション・長嶋哲夫さん

参加者たちの自己紹介の後、早速、長嶋さんによる講演へと進みました。

長嶋さんは「明日からベトナムへ行くので、荷物を軽くするために私服で来ました!」と明るくおっしゃり、気さくなお人柄が感じられます。講演では、次世代にかける想いと、具体的な実践の数々をお話しくださいました。

1. 会社紹介と教育への想い

長嶋さんは、大学院まで進んだ化学分野のご出身であり、製造業の人事採用担当(2002年〜2010年)を経て現在の会社を立ち上げられました。お父様やおじい様が教育関係に携わっていたという背景もあり、ご自身も「就業教育」というアプローチを通じて、教育分野に貢献していきたいという想いを持って会社を運営されています。

建設業や製造業に特化した就職・採用支援事業を展開し、全国約1,000社の登録企業が参加する、学生向けの就職フェアを企画・開催しています 。注目すべき点は、その売上高の20%(今期見込み15億円の内3億円)を、学生プロジェクトや小・中・高校への出前授業といった未来への投資事業に充てている点です。

この活動を行う目的として、長嶋さんは「建築土木を専攻する学生達が、学校で得ている知識を実践する場を提供し、それを全国教育STANDARDにしたい」「高校生以下・中学生・小学生に建設産業や建築・土木関連学科の存在を知ってもらえる場を提供していく」というビジョンを掲げています。

こうした活動に自社資金を投じる背景には、「万が一、国が大変だったり企業からの支援金が厳しかったりする時でも、自走できるプロジェクトを先に作る。その上で補助をいただくのが礼儀かなと思ってます」と語られ、長嶋さんが熱い想いを持って活動されていることが伺えました。

2. 理系就職の現状と課題

現在、理系の進路は、いわゆる「ザ・理系」な職業から、一見理系とは結びつきにくく見える意外な職業まで、多様な広がりを見せています。

「理系」の職業

学校で学んだ専門知識や技術を、モノづくりや社会インフラの最前線でダイレクトに活かす従来のキャリアです。建築、製造業での就職に関わる職業を中心に紹介いただきました。

  •  設計・技術系(機械、電気・電子、建築、構造、システム設計など) 図面を引き、計算によって安全と性能を決めていく領域です。理系キャリアの中でも、数学・物理を一番使う仕事群となります。
  •  建設・インフラ系(施工管理、土木技術者など) 橋や道路、トンネル、上下水道を作り直し、街づくりを担う人たちです。長嶋さんは彼らを、技術職でありながら地域の暮らしをガラリと変える「地域のイノベーター」と表現しています。
  •  生産・製造技術系(工場の生産技術、品質管理、生産管理など) 「どう作れば速く・安く・狂いなく作れるか」を理数で突き詰めていく領域です。まさに日本のものづくりの中枢を支える仕事群となります。
  •  インフラ運営系(電力・ガス・鉄道・通信の技術者など) 私たちの生活に不可欠なライフラインを維持し、人々の日常や「暮らしを止めない仕事」を担う技術者たちです。

◆意外と知られていない「理系×非技術」職業

 一方で、近年はものづくりの現場(技術職)にとどまらず、以下のような「非技術」の領域にも理系人材の選択肢が広がっています。

  • 最先端のAIやデータサイエンティスト
  • 技術営業、技術コンサル
  • 特許・知財関連や、数学を用いて投資を設計する「金融のクオンツ」
  • 技術職の公務員(自治体の土木・建築職)

このように民間企業での選択肢が多様化する一方で、「技術職の公務員(土木・建築・機械・電気職)」においては供給不足が起きているという現状も明かされました。特に建築、機械、電気の分野は民間企業が多いため、学生側に公務員という志望があまりなく、自治体側が採用に苦戦しているといいます。

その理由として長嶋さんは、仕事の「中身」や「社会を変える実感」が、子どもたちに届いておらず見えていない点を挙げられました。

長嶋さんは、これらが見えるように分かりやすく「翻訳」され、体験できる実践活動を増やしていけば、希望者は必ず増えると考えているそうです。

◆文系の人たちにもぜひ関心を持ってほしい

現在の「文系・理系」という枠組みのなかでは、「文系に進んでしまうと建設・製造業界にはもう関わらないのではないか」と思われがちです。しかし長嶋さんは、文部科学省が10年後、20年後に向けて「文理の境をなくす」という教育改革の方針が出ている点にも着目し、例えば「街づくり」に興味を持ってもらうなど、文系の人たちにも建設・製造に関する職業を認識してもらえることを、ご自身の課題にしていると話されました。 

3. 大学生・専門学生向けの実践活動

ここからは、長嶋さんが学生を対象に展開しているプロジェクトの具体例です。これらは、先述の「建築土木を専攻する学生達が、学校で得ている知識を実践する場を提供し、それを全国教育STANDARDにしたい」という想いのもとで運営されています。

◆全国の建築学生が挑む「TONKAN(コミュニティカフェ)」プロジェクト

全国17箇所(学生約400名)で展開されている、学生主体のカフェ創り・運営プロジェクトです。空きテナントの物件探しから、企画、企業への営業(費用集め)、設計、施工、実際の店舗運営にいたるまで、すべての工程を学生自身の手で行います。学生は有給のインターンとして働いており、卒業後は後輩が引き継いでいく仕組みです。各拠点の代表学生17人が、組織のミッション・ビジョン・バリュー(MVV)を自主的に作って運営しています。

そのTONKANカフェの場で行われているワークショップや、完成までの道のりについて、いくつか具体的に紹介いただきました。

  • 保護者を巻き込んだワークショップ 

土日には周辺の保育園児を呼んで「段ボール工作ワークショップ」を開いたり、土木の学生が「液状化実験」を開催したりしています。保護者も集まるため、一緒に実施しています。 小学校での出前授業とは異なり保護者もその場にいるため、お母さんから「うちの子、算数が苦手なんですけど大丈夫でしょうか?」と直接相談を受けることがあります。長嶋さんは「まずは好きになったらその後ついてきますよ」とお話ししたり、興味を持ってもらうきっかけとなっています。

  • 各地の具体的なプロジェクト事例

横浜市希望ヶ丘(チャレンジベース):

横浜市主催の街づくりコンテストで1位を獲得し、市のホームページにも掲載されています。建築学生が半分、残りの半分は町内会やNPOなどの地域住民という体制。オープン後に住民が利用しやすいよう、企画段階から住民と共に活動。

近畿大学近隣(東大阪): 

東大阪キャンパスのすぐ近くに、2階建てのテナントを借りてカフェをオープン。学生が怪我をしないようにと500万円以上を投じたデジタル加工機「ショップボット」を導入しています。レーザーで木材をカットするため、トンカチやノコギリを使わずにインテリアや家具を作ることができ、学生が多く出入りし利用しています。

立川高島屋:

高島屋側から「若い人が集まる発信基地を作りたい」と声をかけられたことがきっかけで、立川駅の高島屋ショッピングセンター・9階飲食店フロアに出店。近隣大学の1・2年生がコラボして活動しています。

商業施設特有の規制により提出図面の枚数が通常の3倍にもおよび、営業時間外の夜間工事での施工となりました。子どもたちが建築模型を見に訪れることもあり、子ども向けイベントも行っています。

◆国内外の現場に挑む「海外・国内建設プロジェクト(ドボプロ)」

海外や国内を舞台に展開されているインフラ整備・まちづくりプロジェクトです。費用は会社側が負担し、必ず事前に長嶋さん自身が現地へ出向いて下調べや交渉を行った上で学生チームを派遣しています。

  • 海外の具体的なプロジェクト事例

フィリピン(パンダノン島・ボホール島): 

人口1,500人のスラム街「パンダノン島」で、島唯一の学校のための井戸づくり(水脈探し)を住民と共同で実施。小学校卒業後の進学が難しいという課題に対し、隣のボホール島への進学を見据えた学生寮を建設するプロジェクトも、現地の施工会社と組んで進めています。

ネパール(震災復興と学校インフラ): 

2015年の大震災で倒壊してしまった柔道場の設計・再建に尽力。子どもたちの更生や武道の場を支援するため、資金投資や施工を行いました。近くの小学校では転落事故を防ぐため、現地で材料を調達し、わずか3日間で鉄筋の手すりを設置しました。

  • 国内の事例

千葉県大多喜町: 

長嶋さんが自ら購入した1万2,000平米の土地で、学生と開拓を進めるプロジェクトです。最初の住民説明会では反対意見も飛び交う緊迫したスタートでしたが、対話を重ねることで深い信頼関係を構築。長嶋さんは「工事じゃないんだな、まちづくりは」と学んだそうです。現在はいすみ鉄道の駅舎リノベーションのコンペなども検討され、活動が拡がっています。

4. 小・中・高校生へのキャリア教育アプローチ

長嶋さんは、2030年度までに「工学部進学者の増加」を目指し、大学進学前の世代(小・中・高校生)へ年間約18万人規模のPR活動を行っています。 

その活動において目指しているのは、従来の知識を教え込む「インプット型」からの脱却です。子どもたちへの対話や問題提起、そして地域と結ぶ授業への転換を方針とし、専門家でなくても興味の入口をつくれるような多様なアプローチを展開しています。

◆学校における出前授業・探究学習事例

東京都の湯島小学校: 

小学校の先生の希望から、5年生の「総合的な学習の時間」の中で合計6回のプログラム(まちの課題発見〜解決策の立案)を実施。一級建築士を講師に迎え、本格的な模型での家づくりの工作ワークショップを実施しています。

栃木県の星の杜高校: 

高校1年生の「星の杜ゼミナール」にて探究授業を実施。授業では、「教室のコンセントが少なくて不便だよね」といった身近な学校生活の中での困りごとについて、「空間・場所の変更・改善」という視点から気付けるようディカッションを行い、工学分野への興味を惹きつける効果を目指しています。外部の専門家に頼るだけでなく、現場の先生が自身の手で継続して回せるような「授業パッケージ」の提供も模索中。

地域イベントへの出展: 

全国の祭りや地域イベント時に出展する「防災建設グランプリ」を通じて、年間1万名へのPRを計画。夏祭りなどのブースで、ショベルカーをリモコン操作してお菓子をすくう体験や、割り箸を使った橋の強度実験を行うなど、子どもたちや保護者に理系や土木の魅力を伝える機会としています。

研究室探訪メディア「ナマけん」の運営: 

大学の建築・土木の研究室を実際に取材し、先生方の生い立ちや「なぜこの分野を志したのか」、研究室のリアルな活動や雰囲気をまとめた記事を、WEB(note)等で発信。ナマけんで全国1,000を超える建築・土木の研究室情報を配信し、ゆくゆくは高校500校(合計10万名の生徒)に理系研究室情報が配信される状態を目指しています。

5.登壇者・長嶋さんからのまとめ

長嶋さんは、現在の活動をさらに広げていきたいとする一方で、学校現場への配慮と今後の協働への想いを次のように語り、講演を締めくくられました。

「ただ、実際のところ、これまでのプログラムはお金がかかったり、課外活動としてものすごい時間を要するものばかりで、学校側としては大変カスタマイズしにくい(導入しにくい)のではないかとも思っています。

もし学校教育の現場から見て、『もうちょっとこういう風にした方がいい』というご指摘やご意見があれば、ぜひいただきたいです。時間や費用がかかる課外活動だけでなく、普段の授業の中で、子どもたちに何かもうちょっと『いい気づき』が出るようなものを一緒に企画できたらと思っています。

僕も本当に、皆さんと一緒に頑張りたいと思っていますので、ぜひアイデアをいただければと思います。ありがとうございました」

長嶋さんのご講演を受け、司会者の明石さんからは、「まず好きになる」という視点が印象に残っていると講演内容に触れ、子どもたちに『まず好きになってもらう』ためにはどうすればいいのか、普段の理数系の教科をどうキャリア教育に繋げていくのか、ワクワクする体験型のアプローチに大きなヒントをいただいたと振り返りました。

学校での学びにどうつなげていくか。後半のディスカッションで深めていきます。


ディスカッション

研究会の後半は、千葉授業づくり研究会では定番のディスカッションの時間です。前半のお話を受け、オンライン上で質問ができるサービス「Slido」も使いながら、参加者と登壇者で議論を行いました。

ここからは、大いに盛り上がったディスカッションの内容を一部抜粋・要約して、ご紹介します。


Q.非常に魅力的な活動ですが、学生はどうやって活動を知るのでしょうか?企業の登録状況や、長嶋さんご自身が学生との関わりに充てている活動割合も教えてください。

A(長嶋さん)学生へは大学での説明会やInstagramで周知しており、建築・土木系の学生には広く認知されています。新卒採用を行う企業約3,000〜4,000社のうち、現在は約1,000社に登録していただいています。

私の活動割合ですが、社員66名とインターン生が500名おり、彼らがかなり自動的に進めてくれているんです。学生さんに本当にお任せして、主体的にやっていってもらっているので、私は自身の時間の約90%を海外プロジェクトの視察や拠点展開、ブランディングに割けています。 

Q.業界の構造が複雑で、教員が全体像を把握するだけでも困難に感じています。中学生にどう進路指導していいか悩んでしまうのですが、何かアドバイスをお願いできますか。

A(長嶋さん)建設業のゼネコンは職人ではなく「管理」を担うなど、確かに業界構造は複雑です。教員の方が指導する際は、地元の工務店など身近な人の話を聞く機会を作るのがおすすめです。一気に親近感が湧きます。また、大学生に出前授業をしてもらうと、学びが進路に直結するイメージが湧き、受験の話も聞けるため興味を持ちやすいです。このように「身近なロールモデル」と出会う場を用意することが大切です。

(参加者)教員側の頭の中に「業界の地図」がないと、子どもたちに進路を勧めることはできません。「構造の地図とロールモデルがセットになった資料」があると、学校現場としては非常に指導しやすくなると感じました。

Q.建築や設計系に興味を持ちやすい子の傾向や、ワークショップなどの体験を通して子どもたちにどのような変化が見られるか教えてください。

A(長嶋さん)プラモデルやレゴなど、幼少期に手を動かして組み立てていた方が多いです。他には震災などの災害を経験された方やご家族の影響、あるいは学校の先生から「デザイン系に向いているのでは」などと勧められて興味を持つ子もたくさんいます。 実際の家づくりワークショップでも、プラモデル好きの子などが楽しそうに取り組んでいます。事後アンケートでは「自分の作りたい家を作れる職業があるんだ」などの感動の声が寄せられます。

(司会・明石さん)やはり手を動かすことで、身の回りの解像度が上がるんでしょうね。建築工事現場を一回も通り過ぎずに生活している子どもは少ないと思いますが、体験をしないとただ通り過ぎてしまいます。でも体験した後は、「あの中でどういう作業が行われているんだろう」という社会への関心につながっていくのだと感じました。

Q.公立高校で担任をしています。近くの小学校との連携授業や、文化祭の企画として小中学生向けに電子工作(実際にハンダ付けをしてものづくりをする教室)を行いました。参加した子どもたちのレポートを見ると、「初めてこういうことをやった、電気系面白そう」という声が結構多かったです。理工系の分野は難しそうな計算や理論ばかりで目に見えにくいですが、こうした体験を通じて興味を持つきっかけになるのではと感じています。

A(長嶋さん)理工系を体験として興味を持った後の「つなぎ」が、僕の課題です。保育園や幼稚園の時の体験だと(その後の進路選択までに)すごく間が空くので、その間に忘れてしまったりします。ショベルカーやトラックで遊ぶところから、いかに興味を長持ちさせるか。子どもがちょっとでも興味を持ったら、そこを引っ張っていく(つなげていく)のが大事なポイントだと感じています。

Q.海外プロジェクトを運営するにあたり、保護者の反対や安全管理にはどう対応されていますか?

A(長嶋さん)パスポート保有率が低いこともあり、学生の申し込みが少ない状況です。最初の海外ということで保護者から反対されるケースも多いため、保護者の方のアドレスをいただき、私から直接メールをお送りしています。「私自身が事前に視察に行っていること」「全行程に同行すること」「空港から専用の集合バスで移動すること」などを丁寧にお伝えし、安心していただくようにしています。近くに病院があることも確認していますが、体調に自信がない方には日本から缶詰を持参するようにお伝えするなどしています。

(司会・明石さん)その徹底したケアがインターンの高い信頼感につながっていると感じます。私自身、学部時代は考古学の専攻だったのですが、初めての海外だったエジプトの発掘現場へ「現地集合」で行く際に親に猛反対された経験があります。ですので、万全の体制を整えられていることには本当に感銘を受けました。

Q.学校との連携や、キャリア教育を算数・数学などの「教科」と関連付けるアプローチについてどう思われますか?

A(長嶋さん)これまでは、大学生による出前授業を行っていましたが、教科書の内容と結びつけるという発想がありませんでした。工事現場の仕組みを三角関数や微積分、相似などと結びつけるというご提案は、私にとっても素晴らしい学びです。技術科の授業などに組み込める入り口があると、企業側としても学校に入りやすくなるのだと気づかされました。ぜひ教科書の路線も考えていきたいです。

Q. 日本の高校までの教育では、STEAMの中で科学(Science / 理科)や技術(Technology / 技術科)は扱われているものの、工学(Engineering)が扱われていないことが深刻な課題だと思います。工学は、限られたリソース・条件の中で効果的に技術などを使って課題解決する学問ですが、日本では技術と同一視されている問題があると思います。課題解決としての工学を重視したSTEAM教育が重要だと考えました。

A(長嶋さん)湘南工科大学で、10〜20社の製造業社と連携して地域の困りごとを解決するという取り組みに協力したことがあります。協力企業は中小企業が大多数だったので、社員数が少なく、学生に付きっきりにはできなかったので、持ち回りで協力していただきました。高校生なら、大学よりは短期間での活動になるかと思うので、1社が深く関わるより、むしろ持ち回りの方が良いかもしれません。

(理事長・藤川教授)街づくりや課題解決では、技術(Technology)を扱う部分だけでなく、行政との交渉や地域とのコミュニケーションなど色々な取り組みが求められます。 実際に仕事をする上では、「その人間とどう付き合うか」というところが大事だと思いますが、高校以下の年代でそのようなことを考える機会が少ないという課題があるのではないかと思います。

(司会・明石さん)探究学習の中で街づくりや課題解決を題材にする学校は多く、企業と連携したいとお考えの先生もいらっしゃいます。そのような学校と、ご協力いただける企業を上手くマッチングできると、高校などでも工学的な課題解決の体験機会を増やせるのではないかと思いました。


藤川教授からのごあいさつ

研究会の締めくくりとして、ACE理事長の藤川教授から登壇者への敬意と、今後のコラボレーションへの期待が語られました。

「始まる前からワクワクしていましたが、実際にお話を伺い、資料には書かれていない具体的なお話の中に、一つ一つの取り組みが成功しているポイントがたくさん詰まっていて非常に勉強になりました。

また、その後の質疑応答などのやり取りでも、学校関係者の疑問や視点をとても重視してくださっていました。長嶋さんがそうした真摯な姿勢で臨まれているからこそ、色々な素晴らしい取り組みが前へ進むのだなと、お話を伺いながら感じました。 

私たちにとっても今後の教育を考える良い機会になりました。今後、ここにいる皆さんや各学校、地域、そして大学でも、何か一緒にコラボレーションできることがあればぜひ面白い試みをしていきたいですし、みんなでどんどん提案し合っていけたらと思っています。

小学校レベルから『ものづくり教育』を進める意義を改めて実感できる時間となりました。本日は本当にありがとうございました」


さいごに

今回の長嶋さんのご講演内容から、私自身が、かつて農学部環境学科(土木系)から空調などの設備設計施工を行う会社(サブコン)へ新卒入社した当時のことを思い出しました。

理系の進路は、情報・通信、電気・電子、機械、化学、建築・土木など、専門分野が非常に細分化されています。実際、私が所属した農学部でも、化学専攻なら化粧品や医薬系、植物専攻なら食品関係、土木系ならコンサルや公務員が多いなど、専攻によって主な就職先が絞られている印象でした。

このように、どの方面に進むかで進路が大きく変わってしまうにもかかわらず、それを高校生までに把握し、将来の職業と結びつけて大学の進学先を選ぶことには、20年前の私の就活当時も今も変わらず、大きな難しさがあると感じています。だからこそ、子どもたちが早い段階から理数系の職業を具体的にイメージできるような、キャリア教育の重要性を強く実感します。

その一方で、私自身、環境学科出身でありエネルギー工学などを専攻していたわけではなかったものの、入社後は省エネコンサル的な部署で技術営業を担当しました。このように、日本の企業には「入社してから、一から学ばせてくれる」という懐の深さがあり、それは学生にとって非常に大きなメリットであると感じます。

企業側が専門の枠にとらわれず柔軟に門戸を開くことで、学生側も「多少専門と違っていても挑戦できる」という可能性が広がるのではないでしょうか。

理系の就職について、学校と社会(企業)が連携し、子どもたちが自身の専門や可能性を狭めることなくワクワクする未来を描けるよう、ACEとしてもこれからのキャリア教育の形を模索し続けてまいります。


千葉授業づくり研究会の参加方法

千葉授業づくり研究会にはどなたでも参加できます。興味がある方は、こちらの開催情報をチェックしてくださいね!Zoomを用いたオンライン配信による参加もできるので、遠方の方も大歓迎です。

【執筆担当 篠崎実穂(広報)】

2025年7月2日(水)、神田外語大学にて「IBM SkillsBuild 大学生向けAIセミナー」を開催しました。


16:30〜18:00の90分間、日本IBM社員ボランティアの皆さんと、NPO法人企業教育研究会のスタッフが一緒になって、学生の皆さんにAIの世界を体験していただきました。

セミナーの内容

IBMってどんな会社?

まず、日本アイ・ビー・エム株式会社 CSRマネージャーの大津真一さんから、IBMの紹介がありました。

 

1911年の創業以来、世界中のビジネスとテクノロジーの最前線を走り続けてきた会社です。1969年のアポロ計画への月面着陸支援、1973年のUPCバーコード開発、そして1997年にチェスの世界チャンピオンに勝利したAI(Deep Blue)や、2011年にはクイズ王に勝利したAI(Watson)の話など、思わず「知らなかった!」と声が上がる歴史のエピソードが続きました。

「IBMにはパソコンを作っていた会社のイメージがあったので、そのイメージが変わる体験だった」という参加者の感想が、この時間をよく表していると思います。

AI時代の学び方

続けて、大津さんからはIBMのテクノロジーが現在の社会のどのような場面で活用されているか、動画を見ながら最先端の技術が紹介されました。そして、技術の進展が目覚ましい「AI時代の学び方」について、こんなメッセージがありました。

「AIの時代は、絶え間なく変化する環境と技術の時代。自律的に、かつ継続的に学び続けることができる力が、今もっとも重要なスキルです。」

自律的な学習者であり続けることの大切さが説明されると、受講されているみなさんの姿勢もまっすぐになっていたのが印象的です。

 

IBM SkillsBuildの紹介

続いて、NPO法人企業教育研究会・事務局である私から、IBMが無償で提供するオンライン学習プラットフォーム「IBM SkillsBuild」の具体的な機能を紹介しました。ITスキルから社会人基礎力まで幅広いコンテンツが揃っており、学習を修了するとIBM発行のデジタルバッジを取得できる点も魅力のひとつです。

今回は特に「人工知能の概要(What is AI)」という学習コースを取り上げ、AIとは何か、どう活用されているかを一緒に確認しました。

ビジネス向けAI「watsonx.ai」を体験!

セミナーのメインイベントは、IBMのビジネス向けAIプラットフォーム「watsonx.ai」※を実際に触れてみるハンズオンです。IBM社員ボランティアの皆さんのサポートのもと、参加者は各自のPCでアカウント登録をしてから、3つの場面を体験しました。

1. テキスト生成:チャットを使って、質問に対する回答を生成する

2. ヒントを与えてからテキスト生成:プロンプトに「ヒント」を与えることで、AIが知らない情報にも答えられるようにする(RAGの考え方)

3. AIエージェント:Google検索などのツールを組み合わせ、AIが自律的に情報を収集して回答する仕組みを体験する

※「watsonx. ai」とは

IBMのビジネス特化型のAI開発スタジオ。法律や金融といった専門分野の知識に強く、回答の根拠が明確であるという高い信頼性を備えている。また、入力データが外部に漏れたりAIの学習に再利用されたりしないよう安全性が徹底されており、企業が安心して導入できるのが大きな特徴。

 

「最初は何をどう触るのかさっぱりわからなかった」という声も上がる中、手を動かすうちに参加者の表情がどんどん変わっていき、会場の熱気が高まっていくのを感じました。

セミナー終了後のアンケートには、多くの前向きなコメントが寄せられました

参加者の声

「ビジネス用AIに触れる機会がほとんどないので、新鮮な体験でした。」

「ChatGPTを使う上で悩んでいたことが、watsonx.aiで解決できると知ってとても興味深かった。」

「事前学習でAIについて学び、当日実際に手を動かすことができ、理解が深まりました。」

「僕たちの世代はAIネイティブとしてAIの活用を進めていくことが強みになると考えているため、前線で活動している方々からの講習を聞けたのは貴重な時間でした。」

また、「AIやITにはまったく興味がなかった」という学生からも、「自分の価値観や将来の幅を広げるために参加した」というコメントが寄せられました。参加する予定がなかったのに「聞こえてくる話が面白くて参加してしまった」という声もあり、AIに親しみのない学生にとっても入り口になれたことを嬉しく思っています。

おわりに

今回のセミナーは、日本IBMのCSR活動の一環として、IBM社員ボランティアの皆さんが学生のために時間を割いてくださったことで実現しました。AIが急速に広がる今、学生のうちから実際に触れ、学ぶ機会を持てることは大きな財産になるはずです。

NPO法人企業教育研究会では、今後もこうした取り組みを通じて、専門学校生や大学生の皆さんの学びを応援していきます。IBM SkillsBuildに興味を持った方は、ぜひ下記のリンクからアクセスしてみてください。

AI以外のコンテンツも気になる方はこちら
量子コンピューティングとは?| IBM

英語で学びたい方はこちら
What is open source?

大学生・就活生向け講座はこちら
AI時代の学びと実践 – 技術者の視点シリーズ① ビジネス変革のためのAI: 激動の時代で生き残るために〜 
AIでスポーツ・ファン体験を変革する

神田外語大学でのデータサイエンスについての取り組みはこちら
https://www.kandagaigo.ac.jp/kuis/main/data-science

(文・市野敬介)

お問い合わせ
https://ace-npo.org/wp/general-inquiry

 

公民連携によるリノベーションまちづくりから

探究的な学びを考える

2026年5月16日(土)、本年度2回目となる第176回「千葉授業づくり研究会」を開催いたしました。

現在、文部科学省・中央教育審議会では、次期学習指導要領の改訂に向けて「探究的な学び」を中心にさまざまな議論がなされています。子どもたちが自ら課題を見つけ、正解のない問いに向かって学習を進めるこの学びにおいて、地域社会に関するテーマは、重要な位置を占めるようになってきました。

こうした背景を踏まえ、今回は「公民連携によるリノベーションまちづくりから探究的な学びを考える」をテーマに設定しました。

講師は、行政や民間企業・団体が連携し、市内のJR3駅を中心に「人材、空き家、空き店舗など」を活用した駅周辺のリノベーションを進める 市原市役所 都市整備課 まちなか再生係 係長 三澤 正幸さまです。

研究会では、市原市が進める「公民連携によるリノベーションまちづくり」の背景や具体的事例についてご講演いただき、その視点を「探究的な学び」にどう活用できるか参加者全員でディスカッションしました。 

当日は多くの教育関係者にご参加いただき、このテーマに対する関心の高さがうかがえました。「探究的な学び」や「地域社会の課題」の学習において、行政との連携やまちづくりのアプローチがどう活かせるか、ぜひ参考にしていただければ幸いです。 


理事長・藤川教授によるメッセージ

はじめに、弊会理事長の藤川大祐教授(千葉大学大学院教育学研究院長)が登壇し、このテーマを取り上げた背景や、これからの学校教育における地域連携の大切さについて、次のようにお話しになりました。 

「この研究会は20年以上続けてきましたが、普段は企業の方を招くことが多く、行政の方をお招きするのはかなり珍しいと思います 。三澤さんには以前に別の形でお世話になっており、アントレプレナーシップ教育の勉強会に来ていただいたのがきっかけです 。

当時、小学校での実践において、学校側の思いはあっても『地域にどんな面白い話や可能性があるのか』について、先生方が見通しを持ちにくいという課題があり、三澤さんをご紹介いただきました 。

今、学校では探究的な学びが議論されていますが、教育側だけの枠組みではなかなか進みません 。ですが、行政の方であれば産業界とも教育界ともルートがつながっていますので、ご協力いただくことで教育実践がとても円滑に進んでいくのではと思います 。

本日は、いろいろな行政の方と皆さんがつながって、どんな連携ができるのか視野を広げる機会になれば幸いです 。」


ご講演:公民連携によるリノベーションまちづくりから探究的な学びを考える

(市原市役所・三澤さん)

市原市役所 都市整備課 まちなか再生係 係長 三澤 正幸さん

続いて、市原市役所 三澤さんによる講演へと進みました。

三澤さんは地元・市原市の出身で、市役所に勤務して20年目になります。プライベートでは3人のお子さんの父親でもあり、ご自身の子育てについて「それほどかっちりした思いはないんですけども、できるだけ子どもたちにはいろいろな経験をさせてあげたいなと思っています」と話されており、穏やかなお人柄が伝わってきます。

お仕事では、2020年に新設された駅周辺のまちづくりを担当する部署への異動を機に、公民連携事業やリノベーションまちづくりの担当を務めてこられました。

まずは、三澤さんが日々向き合っている市原市の現状と、なぜ今「公民連携」が必要なのかという背景からお話がありました。

市原市の現状と『公民連携』が必要な理由

市原市は、千葉県で最も広い面積を持つ自治体です。海岸沿いはコンビナートが広がる工業都市ですが、内陸部へと進むとのどかな田園地帯や里山が広がっています。近年では、養老渓谷の自然を活かした「チームラボ」による夜間野外アート展が開催されたり、世界的建築家である隈研吾氏がデザインを手がけたチバニアンガイダンス施設のオープンを控えていたりと、多彩な地域資源を持つ魅力的な地域です。

このように多くのポテンシャルがある一方で、市原市でも2003年をピークに人口減少が進んでいます。主要駅である五井駅の周辺には、駐車場などの「低未利用地」が広がっており、あまり有効利用されていません。駅前がそのような状況であることから、都市としての魅力が低下してしまうという課題も抱えています。

かつてのようにインフラを整備すれば人が増える時代は終わり、現代は人口減少による建物の余剰や、原油高にともなう新築コストの高騰に直面しています。そのため、従来のような行政主導のやり方だけでは「まちづくり」が難しくなっています。

そこで市原市が2020年からスタートしたのが、地域の課題解決を目的とした、民間主導・行政支援による「公民連携のリノベーションまちづくり」です。今ある空き家や空き店舗を資源として捉え直し、民間の創造性やスピード感を活かして、低リスク・低コストでスピーディーに事業を生み出していくアプローチです。

その第一歩として、まずは「街のために何か始めてみたい」という人材を発掘するため、実際の駅前物件を題材にビジネスプランを企画・提案する「リノベーションスクール」を開催しています。

市原市の市長は、こうした新しい挑戦に積極的に参加し応援してくれる方だそうで、スクール最終日の公開プレゼンテーションにも自ら足を運ばれています。トップ自らが熱意を持って民間の提案を応援する姿勢が、行政全体で新しい挑戦をバックアップする温かいムード作りに繋がっています。

【事例1】五井朝市:夜のまちに朝食を

リノベーションスクールをきっかけに、市民メンバーのアイデアから誕生したのが、毎月第3日曜日に開催されている「五井朝市」市原市公式ウェブサイト 市民特派員記事市原市公式YouTube紹介)です。

舞台となった五井駅西口エリアは、工場勤務者向けの居酒屋などが多く夜間は賑わう反面、昼間はシャッターが閉まる店舗が多く、人通りが少なく閑散としていることが課題でした。ここに目をつけたメンバーたちが「夜のまちに朝食を」をコンセプトに、朝食マルシェの企画を立ち上げました。

いきなり実店舗を構えるリスクを避けるため、まずは月1回朝方のマルシェとしてスモールステップで開始しました。民間の「やりたい」という熱意から始まり、市民が主体的に関わる形を体現したプロジェクトです。この取り組みは着実に地域に根付き、2026年4月時点で57回を数える継続的な活動となっています。

現在では、近隣にある千葉県立生浜高校の「ビジネス研究部」も定期出店しており、生徒が開発した海苔餃子や海苔チョコレートなどを販売しています。

さらにこの取り組みを続けていく中で、子育て世帯から「朝の時間だけでは子どもたちが楽しみきれず、もったいないからもっと長くやってほしい」という声が聞こえてくるようになりました。そこで、五井駅西口のすぐ近くにある「梨の木公園」を舞台に、気候の良い5月と10月の年2回、朝市を少し拡大したイベント「梨の木市」も開催されるようになりました。

この「梨の木市」では、来場者が各店舗のカレーを食べ比べて投票する「カレーグランプリ」などの人気企画も誕生し、イベントは大盛況となっています。

朝市を発端として始まった「民間の動き」の連鎖

この五井朝市での成功や熱量を発端として、五井駅周辺では次々と民間の主体的な動きが連鎖しています。

  • シェアキッチン「SOMARU(ソマル)」の開設 

元は魚屋だった空き店舗をリノベーションし、時間貸しのシェアキッチンを提供する。個人シェフや生産者が集まり、共に食を通じた交流や地域づくりに取り組む。

  • 佐川ビルのリノベーション 

築50年のビルオーナーが、若者たちの熱意に触発され自らビル内を改修。アート空間「シアターブレイク」など、個性的な個人店舗がオープンしました。オーナー自身も居住空間をリノベーションし、飲食店をオープン。週末には自ら店頭に立って料理を振る舞っています。 

チェーン店ではなく「個店」が五井に通う理由を作る

最初の3年間、五井駅西口エリアに絞ってリノベーションスクールを重ねてきた結果、この5年間で駅周辺には10店舗近くの小さな「個店」がオープンしました。

よく地元の高校生から「駅前にマックやスタバが欲しい」という声も聞かれますが、もし駅前がチェーン店ばかりになってしまうと、「市原市でなければならない理由」がなくなり、市外への人口流出の歯止めにはなりません。「どこでも同じ生活ができるなら、より便利な千葉市や木更津市がいい」ということになってしまうからです。

だからこそ、ここにしかない個性的なお店が増えることで、「この街がちょっと好きかも」という地域への愛着へと繋がっていく…。三澤さんは、五井駅周辺で民間主導の小さなお店を増やしていく重要性について、そのように語りました。

【事例2】姉ヶ崎駅周辺:

公園予定地」や「昼の駐車場」を活動の舞台に

五井駅に続いて、隣の姉ヶ崎駅周辺でもリノベーションスクールを開催しました。

背景:更地のまま残された4つの公園予定地

姉ヶ崎駅の西口周辺には空き物件もありますが、それ以上に「公園予定地」が多く存在していました。区画整理自体は終わっているものの、市の予算の関係でまだ遊具などを整備できず、何も整備されていない更地(原っぱ)の状態の場所が西口だけで4箇所もあったそうです。

周辺には新しい住宅も建ち始めていましたが、子どもたちからすると、そこに入って遊んでいい場所なのかが少し分かりにくい状態になっていました。

活動 1年目:DIY屋台から始まった定期マルシェ

スクールに参加したメンバーの中に、公園予定地を使いたいという班がありました。そこで、スクール終了後に講師の指導のもと、自分たちの手でオリジナルの移動式屋台(タイヤ付き)をDIYで製作。保健所の許可も正式に取得し、食品販売ができる体制を整えました。

屋台が完成したときには、周辺の住民の皆さんに「今度こんなことを始めます!」と挨拶に回り、そこから定期的なマルシェの開催へと繋げていきました。

普段はただの原っぱですが、手作りの屋台が並んでお店が開かれると、近所の子どもたちもすごく喜んでくれて、大勢の人が集まる賑やかな場所になりました。

活動 2年目:日常の遊び場づくりと「畑作り」への挑戦

2年目は、イベント時だけでなく「子どもたちが日常的に公園で遊びたくなる仕掛けを作っていきたい」という方向へと取り組みが進みました。

その一環として、「クリスマスを自分たちで作っちゃおう」というイベントを開催。子どもたちが公園で手作りした様々な作品を飾り、全体を上から見ると大きなクリスマスツリーになっているような仕掛けのあるイベントです。

本来誰もが出入りできる公園に、こうした私物を3週間も常設(占用)することは行政的にハードルが高いことですが、かつて拠点形成課に所属していた三澤さん自身に他部署との調整に関する知見があったことから、間を取り持ち、正規に使用料を支払うことでこの課題をクリアしました。

また、「公園の地面を掘って畑を作り、トウモロコシを育てる」という、これまでにない大胆なトライアルにも挑戦しました。子どもたちの手で土を掘り、種を植えてトウモロコシを育てるという体験、そして、そこで大切に育てたトウモロコシからポップコーンを作り、みんなで「公園映画祭」を開いて味わう…。

子どもたちがこうした体験を重ね、そこで育ったものを使ってまたお祭りをやることで、その場所が地域が、愛着を持つ場所になっていくのではないかという思いのもとで取り組まれています。

将来の公園整備に向けた「意見の蓄積」

これらイベントが開催されているのは公園予定地ですが、行政が公園に遊具を設置する際は、町会へ確認の後、滑り台やブランコなどを設置するのが一般的な流れだそうです。

姉ヶ崎での取り組みでは、「何もない今だからこそ、様々なトライアルを重ねながら、この公園に本当に必要な機能は何かを、地域のみんなと一緒に考えていきたい」という思いのもとで進められています。

4箇所の公園はそれぞれ特性が異なるため、それぞれの予定地に「ダンスができるステージがあると良い」、「キッチンカーを入れやすいように一部分だけ舗装をかけておくべき」といった、実際の使い手としての具体的な意見をみんなで出し合っています。2〜3年後に控える正式な公園整備の際に、管理・活用していく民間団体側から実践的な提案ができるよう、今からノウハウを蓄積しています。

駅前駐車場の活用:「姉崎ガーデンマーケット」

公園の活用に加え、駅前にあるバーの駐車場を舞台にした「姉崎ガーデンマーケット(ローカルチャレンジマーケット)」という新たな動きも始まっています。

夜間しか車が停まらない駐車場の、昼間のデッドスペースを活用した取り組みです。小さなスペースですが、地域に密着し子どもたちとワークショップを開いたり、子どもたちが出店側として開催する「わたあめ」や「かき氷」などの体験会も人気です。

その場で食材を買うバーベキューイベントなども開催され、姉ヶ崎の駅前でも「自分たちの手でまちを楽しむ」動きが着実に広がっています。

【事例3】八幡宿駅周辺:

「お祝い」も「平日」もみんなで楽しむ場へ

市原市では、五井駅・姉ヶ崎駅に続き、八幡宿(やわたじゅく)駅周辺での活性化にも取り組んでいます。八幡宿地域では、まちづくりの実績がある民間団体「むすびあい」を2025年4月に都市再生推進法人に指定し、行政のパートナーとして共にまちづくりを進めています。

式典だけではない、まちぐるみで施設オープン

2026年3月1日、八幡宿駅の西口に、古い公民館や支所などを1箇所に集約した新しい公共施設「やわたパレット」がオープンしました。この日、パートナーである「むすびあい」の皆さんは施設誕生を応援しようと、「八幡にぎわい横丁」イベントを同日に合わせて企画してくれました。

イベントでは、駅から「やわたパレット」へ向かう道路を歩行者天国にし飲食店などを出店したほか、地域の皆さんの心の拠り所である「飯香岡八幡宮」の境内でお囃子を演奏したり、移転によって空き建物となる「八幡公民館」を活用してダンスを披露したりと、エリア全体を巻き込んだ場を作り上げました。

行政だけでは施設内での式典(セレモニー)だけで終わってしまいがちなオープンが、多くの地域団体が連携する形へと広がりました。

福祉との連携:1回目の反省を活かした誰もが楽しめるイベントへ

この「八幡にぎわい横丁」では、幅広い団体との連携も特徴的でした。開催メンバーの中では、「1回目は健常者目線になりがちだった」という反省があったそうです。そこで2回目となる今回は、障害を持つ方や福祉作業所、産婦人科協会などとも連携を図りました。

当日は、地元の中学校の子どもたちと一緒に視覚障害の方の歩行体験を行ったり、妊婦さんの疑似体験、福祉作業所の事業紹介ブースなどを設置。特定の層だけでなく、地域の多様な人たちが一緒になって楽しめるイベントへと進化させました。

日常の賑わいへ:平日の夕方に寄り道できる「エキチカチャレンジ」

イベントによる一時的な賑わいにとどまらず、日常的な居場所を作る「エキチカチャレンジ」という試みも進められています。これは駅の東口前や、線路沿いのオープン前の道路を活用し、キッチンカーやテントに出店してもらうものです。

この試みは、あえて「平日火・水・木の夕方5時から9時頃」という時間帯で開催されました。学校帰りの中高生や仕事帰りの会社員が、日常の中でちょっと寄れる場所を作りたいという思いから始まった取り組みだからです。今年度は、にぎわい横丁の舞台となった西口側へ場所を変えて展開していくことが検討されています。


講演のまとめ

事例紹介の後、三澤さんは、次のようにまとめました。

「今日ご紹介した事例は市が直接やっているものではなく、すべて民間が主体です。

リノベーションまちづくりにおける行政の役割は、その地域で何かをしたい「人の発掘」をメインに、裏方としてサポートすることだと考えています。そのサポートとは、例えば行政の立場を活かした場所の確保、役所との間に入った事業化支援、プロモーションなどです。

皆さん自分の地域への愛着が強く、それぞれの地域で多くの方が活発に動いています。そうした人たちをさらに繋ぐため、毎月「いちはら会議」という交流会も開いています。

「まちづくり」と「探究学習」には、どちらも正解やゴールがないという共通点があるように思います。他市を含めいろいろな事例の中には完璧に見えるものもありますが、まちづくりにゴールはありません。常に挑戦し続けなければ現状維持すら難しいのが現実ですし、人口が増えたら増えたでまた違う課題が出てくるように、終わりはないのです。

若いうち、学生のうちに地域に触れて関わっておくことが、深い愛着に繋がっていくはずです。そうしてまちづくりと教育がつながっていくと、地域がもっと面白くなっていくんじゃないかなというふうに思います。」


ディスカッション

研究会の後半には、前半のお話を受けてディスカッションが行われました。オンライン上で質問ができるサービス「Slido」も使いながら、参加者と登壇者で議論を行いました。

ディスカッションを通して「まちづくりによる地域活性化と学校教育の連携」について多くの意見が交わされました。
ここからは、ディスカッションの内容を一部抜粋・要約して、Q&A形式でご紹介します。

Q.まちづくりの実行委員会は、どのようにメンバーを集めたのですか?

市原市の事例で言いますと、市が特定のメンバーを「選定した」わけではありません 。きっかけは市が開催したリノベーションスクールですが、これは有料で3日間を費やす非常にハードルの高い取り組みです 。だからこそ、そこに参加される時点で、まちづくりに対する強い思いや覚悟を持った方ばかりでした 。行政が採用したというよりも、熱量を持って自発的に集まった地域の方々に、市が伴走していったという形です 。

ただ、行政の立場や「仕事」として関わりすぎると、ルールや枠組みに縛られてかえって動きづらくなってしまう場面もあります 。そのため、私自身も一人の人間として、プライベートでもこの活動に参加しています 。

実は、立ち上げの時から小学生の長女を朝市の現場に連れていってお手伝いをさせていました 。長女が地域の人にかわいがられ、楽しそうに過ごす姿を見て 、下の子たちも「楽しそうだぞ」と一緒に行きたがるようになり 、今では家族ぐるみでこの活動を楽しんでいます 。

Q.実行委員会の方向性がばらばらにならないようにするには、どうすればよいのでしょうか?

大切にしているのは、行政や私自身が「こうしてください」と言いすぎないことです。

もちろん、取り組みが本来の目的から大きく外れそうなときには、「他の地域ではこうしていますよ」と事例を紹介したり、必要なアドバイスをしたりすることはあります。しかし、行政が主導しすぎて指示を出してしまうと、なかなか活動が続かなくなったり、参加者の主体性やモチベーションが下がったりしてしまいます。

実は、これまでにスクールで提案されたチームの中には、方向性の違いによって解散してしまったり、途中で辞めてしまったりしたケースもありました。すべてがうまくいくわけではありませんが、本日の事例は、今も活動が続いているケースとしてご紹介させていただきました。


ディスカッションでは、学校との連携について話が広がりました。登壇者からの回答にとどまらず、行政の担当者からの投げかけに対してフロアの先生方が複数名回答するなど、学校現場の実態に即した議論が大いに盛り上がりました。 

Q.行政の目線から、学校やクラス、授業といった大きな単位で動いてもらうのは、スケジュール調整や現場の負担を考えると難しいと感じています。一方で、地域としてはもっと関わりを持ちたいのですが、どのくらいの規模やタイミングであればスムーズな入り口になるでしょうか。

この質問については、次に示すように、参加者の様々な実践事例や経験談が寄せられました。

【参加者の先生方より】

  • 「学校側のニーズを起点にすれば、学年単位でもスムーズに連携できる」 小学校6年生の『総合的な学習の時間』での事例ですが、市役所の担当課の方々を学校にお招きし、地域の現状や課題について講義をしていただきました。学校側に「これを学びたい、解決したい」という明確な目的さえあれば、学年単位のような大きな規模であっても、自然と地域を巻き込んだ連携が成立しやすいと感じています。
  • 「地域連携に積極的な先生ばかりではない」というリアルな声 関心はあっても、具体的に誰にどうアプローチすればよいか分からないという先生も多いのが現実です。日々の業務に追われる中で、自らアンテナを張って地域の活動に飛び込むだけの余裕が現場にないのではと感じる面もあります。
  • 「学校の置かれた周辺環境によって、地域連携の格差が大きい」という指摘 すべての学校の近くに商店街や協力的な企業があるわけではありません。一律の形を求めるのではなく、それぞれの学校や地域特性に応じた柔軟な関わり方を考えていく必要があると感じます。

行政と学校の連携には様々な課題があることが窺えましたが、学校側の目的意識や地域の特性に応じて、柔軟にコミュニケーションをとることがポイントになるようです。

Q.地域の活動を学校に知ってもらうには、どうすればよいのでしょうか?

以前は学校を通じて紙のチラシを一括配布できましたが、近年は教員の負担軽減などのルールにより制限されるようになりました。

かといって、デジタル配信に切り替えても、今度は大量の情報の中に埋もれてしまうというジレンマがあります。

地域の魅力的な活動をそもそも先生方に知ってもらう機会自体が少なくなっている現状をどう打破し、双方をどうマッチングさせていくかが今後の大きな課題だと感じています。

Q.高校生と地域が連携する事例には、どのようなものがありますか?

市原市青葉台では、地域の町会協議会と高校が連携し、高校生が作成した新聞を町会協議会のホームページに掲載したり、高校生と一緒に空き店舗をDIYしてカフェを運営したりしている事例があります。

地域にとっては、高校生の力を借りることで新しい動きが生まれますし、高校生にとっては、地域の中で自分の役割を持ち、社会と関わる貴重な経験になります。

一方で、最初に大きな熱量で立ち上がった取り組みも、続けていくのが難しい場面も出てきます。高校生自身の日常が忙しすぎるという問題もあります。

「立ち上げること」以上に難しいのは「続ける仕組みをつくること」です。そのためには、学校、地域、行政だけでなく、大学や企業など、外部の力をうまく組み合わせていく必要があると考えています。

Q.まちづくりにおいて、「お金」や「収益」はどのように考えればよいのでしょうか?

まちづくりや公共的な活動というと、「無償で行うもの」「誰かが利益を得てはいけないもの」と考えられがちです。 しかし、活動を継続するためには、資金が必要です。ボランティアだけでは続かないこともあります。

地域課題を解決するためには、自立した事業をつくり、きちんと収益を得ることも大切です。 人口減少や財政の厳しさが進む中では、地域の中で事業を生み出し、持続可能な形で活動を続けていくことが必要になります。 

「公共」と「収益」は対立するものではなく、活動を続けるためにどう設計するかが問われていると思います。

Q.学校教育の中で、子どもたちが「お金を稼ぐ」活動をしてもよいのでしょうか?

学校現場に関わる参加者からも、さまざまな事例が紹介されました。

【参加者の先生方より】

  • 高校の文化祭の例:高校では、文化祭で販売活動を行っても、利益は生徒会費に入れたり、寄付したりすることが一般的です。
  • 農業高校の例:農業科のある高校では、地域に農作物を販売し、その売上収入を学校の経費に充てることもあります。 
  • 小学校の実践例:小学校でも、授業で栽培したサツマイモを販売したり、子どもたちが作った作品を保護者に購入してもらったりする実践があります。

大切なのは、お金を扱うことを避けるのではなく、「何のために売るのか」「得た利益をどう使うのか」を子どもたち自身が考えることだという意見も出ました。

利益が出た場合、そのお金はどう扱えばよいのか

利益の扱いについて、藤川教授より、以下のような指摘もありました。

「学校にお金が入ってくること自体は、決して否定されるものではありません。しかし、そこで得られた利益を自分たちだけで、私的な利益として扱うのは適切ではないと考えています。学校という場は税金や地域のご支援によって成り立っている公共的な場だからです。

一つ重要なのは、お金には『人と人を結びつける媒介』という機能がある点です。お金が動くからこそ、地域の人と子どもたちとの間に確かなつながりが生まれます。

むしろ、そこからお金を排除してしまうと、持続的な関係づくりは難しくなってしまいます。だからこそ、教育現場でお金をいたずらにタブー視せず、お金がうまく回る仕組みを子どもたちの学習に取り入れた方が、活動も持続しやすくなるのではと考えます。」

まちづくりの考え方を、学校づくりに生かす

「行政を学校に読み替えると、まちづくりの考え方は学校づくりにも生かせるのではないか」という議論も起こりました。

ある先生からは、学校の中庭をリノベーションする実践構想が紹介されました。
普段あまり使われていない中庭に、子どもたちがベンチなどを配置し、どのように人の動きが変わるのかを検証するというものです。

さらに、AIカメラを用いて人の動きをヒートマップとして可視化し、子どもたちが「どこに置けば人が集まるのか」「どうすれば過ごしやすい空間になるのか」を考える計画もあるそうです。

これは、まさに学校の中に「まちづくり」の視点を取り入れる実践です。

子どもたちにとって、学校は最も身近な社会の一つです。
その学校を自分たちの手でよりよくしていく経験は、将来、地域や社会をよりよくしていく学びにもつながるはずだという意見があがりました。


まとめ(理事長·藤川教授)

研究会の最後に藤川教授は、 

「人口が増加している時代であれば、それぞれのセクションで頑張っていればよかったかもしれません。しかし、これから人口が減少していくなかで、社会をどうつなげていくかというと、やはり連携が非常に重要になってくるように思います。

学校教育においても、学校だけでやれる時代はもう終わりつつあるのではないでしょうか。

ですので、いろいろな人と手を組み、力を借りつつ、子どもたちも地域に貢献するという双方向の互恵関係のようなものを作っていかないと、学校も地域も生き残れないのではと感じます。

本日の研究会を通して、学校にまちづくりの発想を取り入れ、立場を超えて融合しながら連携していくという、一つの大きなヒントをいただいたと思っております。このようなテーマも取り上げながら、実践につなげていきたいと思います。」

と話を結びました。


今回の研究会では、公民連携によるまちづくりの具体例を通じて、学校と地域が単に協力するだけでなく、双方向に貢献する「探究的な学び」の可能性について深く考える機会となりました。

地域の大人が探究学習にボランティアとして協力するのではなく、学校や子どもたちが探究学習を通して、「社会の一員」としてまちづくりに参加していくという形は、非常に新鮮に感じました。

子どもたちが、自身が住んでいる地域への愛着を育めるような企画、イベント、生活環境があることは、とても魅力的に映ります。一方で、関心の高い一部の児童生徒ではなく「教室・学校単位」で、しかも用意された範囲の授業や課題ではなく、本物の地域課題に挑むとなると…

学校の先生方が実践に尻込みしてしまう気持ちもよく分かります。リアルな実践に伴う数々の想定外や準備の大変さは、日々の子育ての経験からも容易に想像ができるからです(笑)。

それこそ、学校のみに任せるのではなく、家庭が学校教育へ参加することや、学校の先生方の時間的余裕の確保など、現状では、学校単位で、子どもたちがまちづくりの一員として探究活動を行うには、クリアすべきネック(課題)も多く存在するとも感じました。

だからこそ、これらのハードルをどう乗り越えていくのか、さまざまな実践例に注目しつつ、ACEとしてどのような支援や活動が可能なのか、私たちも真摯に考えていきたいと思います。

最後になりましたが、ご登壇いただいた三澤さん、そしてご参加いただいた皆さま、ありがとうございました。


千葉授業づくり研究会の参加方法

千葉授業づくり研究会にはどなたでも参加できます。

興味がある方は、こちらの開催情報をチェックしてくださいね!Zoomを用いたオンライン配信による参加もできるので、遠方の方も大歓迎です。

【執筆担当 古谷成司(研究会担当・ディスカッション部分執筆)、篠崎実穂(広報)】

生成AI時代のSNSの安全な利用と情報モラル教育

〜子どもたちをめぐる最新動向と、学校・家庭・SNS事業者の役割を考える〜

2026年4月22日(水)、本年度第1回目となる第175回「千葉授業づくり研究会」を開催いたしました。今回のテーマは「生成AI時代のSNSの安全利用と情報モラル教育 〜子どもたちをめぐる最新動向と、学校・家庭・SNS事業者の役割を考える〜」です。

生成AIの普及で情報の生成・拡大のあり方が大きく変わるなか、子どもたちがどうすれば安全にSNSを利用できるのか。そして、その力をどう育てるかは、今の教育現場や家庭にとって本当に大切な課題になっています。

それを受け、今回の研究会では、Instagramなどを運営するMeta日本法人(Facebook Japan、以下Meta)の栗原さあやさんにお越しいただきました。世の中の最新のデジタル環境に精通されているMetaと弊会(ACE)は、これまでも出張授業「みんなのデジタル教室」や、VR(バーチャルリアリティ)教員研修会など、継続して連携させていただいています。

当日は、Metaが進めている安全対策の最新情報や、新しく始まった「ティーンアカウント」にどのような思いが込められているのかなど、詳しくお話しいただきました。学校関係者や保護者など、子どもたちとSNSとの関係や安全な使い方に関心のある方は必見です!ぜひ、ご一読ください。


理事長・藤川教授によるメッセージ

はじめに、弊会理事長の藤川大祐教授(千葉大学大学院教育学研究院長)が登壇。20年にわたり、この問題に携わってきた経験を交えてお話がありました。

「SNSの歴史を振り返ると、2007年頃から普及が始まり、2013年頃のスマホの爆発的な普及とともにFacebookやTwitterが定着しました。その後、InstagramやTikTok、YouTubeなど、動画や写真を中心とした今の形へと大きく広がってきた流れがあります。

現在、世界中で議論されているのは、SNSの長時間利用や犯罪被害、そしてメンタルヘルスへの深刻な影響です。私自身、2005年頃に警察庁が初めて設置した会議の委員を務めて以来、約20年にわたり国のレベルでこの問題に関わってきましたが、今、状況はかつてない『新たな局面』を迎えていると感じています。

オーストラリアやフランスでの法規制、日本でのこども家庭庁による議論など、世界情勢も大きく変化しています。こうした中、Metaが他社に先駆けて導入した『ティーンアカウント』のように、事業者が若い世代の安全を守る本格的な仕組みを整えることは非常に重要です。

事業者が自らの責務を果たす一方で、私たち教育側は何をすべきなのか。これまでの『ネットから遠ざける』といった議論から一歩進み、それぞれの役割を整理した上で、どう子どもたちを支え導くか。今日は本音で、かつ率直に議論を深めたいと思います。」


ご講演:青少年の安全を守るSNSの仕組み(Meta・栗原さま)

続いて、Meta日本法人の公共政策本部で、ネット上の安全対策やリテラシー教育を担当されている栗原さあやさんにお話しいただきました 。栗原さんは、政府や自治体、NPOや学校関係者と連携しながら、子どもたちのネット上の安全や、リテラシー教育の普及に日々力を注いでいらっしゃいます 。

今回の講演テーマは、『青少年保護の取り組みについて』 。Metaがプラットフォームとして何よりも大切にしている、「10代の利用者に、安全で年齢に合った体験を届ける」という目標を、実際の機能にどのように反映させているのか 。最新の設計思想や具体的な仕組みについて、詳しく解説していただきました。

1.安全の土台「コミュニティ規定」とAI技術

SNSが子どもたちの生活に深く浸透し、日々当たり前のように使われている今、そこには新しい関心事の発見や、多様なつながりといったポジティブな側面が数多くあります。その一方で、利用に伴う新たな課題が浮き彫りになっていることもまた事実です。

その安全な環境を支える「土台」としてまず紹介されたのが、すべてのサービスの根底にある「コミュニティ規定」です。この「コミュニティ規定」は、インターネットで一般公開されており、どなたでも確認することができます。

「コミュニティ規定」は、FacebookやInstagram等において、コンテンツとして「何が認められ、何が認められないか」の共通ルールを定めたものです。テクノロジーや人権の専門家からの助言に基づいて策定されており、全世界で一貫して適用されます。ルールに違反した場合には、投稿の削除やアカウントの停止といった措置が取られます。

栗原さんは、この規定について「ルールをいかに実効性のあるものにするかが大切だ」と話され、通常の報告機能による監視に加えて稼働しているという、最新のAI技術を活用した取り組みについても解説しました。その内容について以下に紹介します。

  • AIが自動で見つける: 膨大な投稿を人の目だけで確認するのは限界があるため、利用者から報告が来る前に、AI(機械学習)を用いて違反投稿を能動的に見つけ出しています 。
  • 子どもを守る: 特に子どもに害がある深刻な投稿(性的搾取など)については、誰の目にも触れる前に、AIなどが自動でキャッチし対処しています(2025年10-12月には、人々からの報告前に97.3%の児童の性的搾取コンテンツを削除) 。
  • 怪しい動きをチェック: データの分析などにより、アカウント作成直後に面識のない多くの子どもたちにリクエストを送るような「怪しい挙動」をシグナルとして検知し、未然に防ぐ工夫もされています 。

2.「Instagramのティーンアカウント」とは

続いて、Metaの事前リサーチに基づき、多くの保護者が懸念を持っているとされた3つの点。

子どもたちがSNS上で「誰とやり取りしているか」「どんな内容を見ているか」「利用時間は?」といった不安に直接応えるために開発された「ティーンアカウント」を紹介しました 。会場のみなさんに伺うと、ティーンアカウントの認知度は3割程度の様子です。

こちらは、保護者の見守りのもとで安全にInstagramを利用できるよう、Instagramが利用可能な13歳から17歳の子どもたちにおいては、初期設定において自動的に設定がなされるものです。

日本では2025年1月から導入され、既設アカウントを含む全対象者が移行済みです。

13歳から17歳の中でも設定を緩和する方法などには違いがあり、年齢によるニーズの変化も考慮した仕様になっています。

  • 知らない人に見せない: 13歳から15歳の子どものアカウントは自動的に「非公開」になります 。フォロワー以外は投稿を見られず、新しいフォローリクエストも都度承認が必要です 。
  • DM(メッセージ)の制限: 子どもがフォローしている人や、既につながっている相手からしかDMを受け取れない設定になっています 。
  • ふさわしくない内容を抑える:「不適切なコンテンツ」が表示されにくく設定されています 。
  • 「非表示ワード」でトラブルの激化を防ぐ:いじめや誹謗中傷に使われる言葉を自動で隠す機能です。最大の特徴は、「書いた本人には見えていても、他の人には見えない」こと。削除やブロックで相手を逆上させるリスクを避け、加害者を刺激せずに被害者を守るための工夫です。標準設定のほか、自分で見たくない言葉を追加してカスタマイズすることも可能です。
  • 使いすぎの防止: 1日の利用が60分を超えるとアプリを閉じるよう通知が届くほか、保護者による時間制限も可能。また、夜10時から朝7時までは「スリープモード」が適用され、通知がミュートになります。
  • ライブ配信の制限、ヌード保護: 13歳〜15歳はライブ動画の配信が制限されるほか、DMにヌードと疑われる画像が含まれる場合に自動でぼかす「ヌード保護」機能も追加されています 。
  • 映画レーティングを参考にしたコンテンツ基準の導入: 保護者に理解しやすい基準として、13歳以上向けの映画レーティングを参考にコンテンツ表示を見直しており、過激な言葉遣いや危険な行為の投稿も制限するようポリシーを厳格化しています 。(米国等は導入済み。日本でも5月上旬から導入開始。)

こうした数々の安全機能について、栗原さんは「デフォルト(初期設定)」で自動的に適用されることの重要性を強調されていました。

背景にあるのは、日々多忙な時間を送る子どもたちや保護者、そして先生方への配慮です。多くのアプリを使いこなす中で、複雑な設定を一つひとつ手動で確認し、変更していくのは決して容易ではありません。

だからこそ、ユーザー側の操作を必要とせず、何もしなくても最初から安全な設定がオンになっていること。この「最初から守られている状態」こそが重要であるという考えに基づき、機能開発を進めているとのことでした。

年齢詐称を防ぐための対策も徹底されています。AIによる動画での年齢推定や、公的身分証明書の確認など、外部サービスも組み合わせた多角的な方法で、利用者の年齢を正しく判別する工夫がなされています。

現在、子どものスマートフォンには数十個ものアプリがインストールされていると言われており、保護者がそのすべてを個別に把握し、設定を管理し続けるのは現実的に非常に困難です。

こうした負担を解消するためには、個々のアプリ単位での対策だけでなく、スマートフォンの土台であるOS、アプリストアレベルで、一括して年齢確認や保護者の同意管理ができる仕組みが求められます。

栗原さんは、アプリごとの対策を徹底する一方で、業界全体でOSレベルの共通基盤を整えることが、結果として保護者の負担を減らし、より確実な子どもの保護につながるという点にも言及されました。

3.保護者による見守り(ペアレンタルコントロール)

保護者が子どものSNS利用により深く関わり、安心を見守るための「ペアレンタルコントロール(見守り機能)」についても詳しく紹介されました。こちらは、保護者のアカウントと子どものアカウントを連携させて使用する仕組みで、子どものプライバシーを尊重しながら、家庭ごとのルールに合わせて活用できる機能が整っています。

  • 設定の緩和には「保護者の承認」が必須 :13歳から15歳の子どもが、初期設定の安全制限を緩めようとする場合には、必ず保護者の承認が必要な仕組みになっています。
  • 対話を支える見守りツール :保護者は、子どもが過去1週間に誰とチャットをしたか(※プライバシー保護のためメッセージの内容自体は閲覧不可)や、現在のフォロー状況を確認できます。また、1日の利用時間に上限を設けるといったコントロールも可能です。

4.性的脅迫(セクストーション)から子どもを守るツール

さらに、万が一深刻なトラブルに直面してしまった際の具体的な救済策として、専用ツール「Take It Down(テイクイットダウン)」についても紹介されました。これは、Metaが支援する外部の専門プラットフォームで、望まない性的画像の拡散を未然に防ぐための仕組みです。

そもそも「セクストーション(性的脅迫)」とは、「セクシャル(性的)」と「エクストーション(強請・脅迫)」を組み合わせた言葉です。言葉巧みに送らせた裸の画像などを「ネットにばらまくぞ」と脅し、金銭やさらなる画像を要求する卑劣な犯罪を指します。

こうした脅迫に対し、「Take It Down」は以下のような仕組みで子どもたちの将来を守ります。

  • 一括で加盟アプリ上での拡散を防ぎ、以後ネットに公開される前に「先回り」してブロック: 拡散するおそれのある写真のデータを登録しておくことで、一括で加盟アプリ上での削除等の対処が行われ、犯人がその画像をFacebookやInstagramなどのTake It Downの加盟アプリにアップロードしようとした瞬間にシステムが検知し、公開される前に自動でブロックします。
  • 写真は送らず「デジタル指紋」だけで照合: 「自分の写真をどこかに送る(アップロードする)」必要は無く、写真の「デジタル指紋(ハッシュ値)」という記号だけを登録します。画像の内容を誰かに見られることなく、プライバシーを守ったまま、複数のSNSで拡散を止めることが可能です。
  • 啓発キャンペーンの実施: 技術的な対策と同時に、「もし被害に遭ってしまっても、悪いのはあなたではない」というメッセージを伝える啓発キャンペーンも実施されています。

前半のまとめ:講演を終えて

講演の最後に、栗原さんは次のように締めくくりました。

「SNSや生成AIにはリスクもありますが、リスクを最小限に抑えつつ、テクノロジーが持つポジティブな側面を最大限に引き出していきたいと考えています 。

多くの専門家の先生方が共通しておっしゃるのが、『まずは子どもの声に耳を傾けること』の大切さです 。トラブルが起きたとき、大人はどうしても『なぜこんなことになったのか』と原因を問い詰めてしまいがちですが、そうするとお子さんは心を閉ざしてしまいます 。

お子さんが安心して相談できる環境を、皆さまと一緒に作っていければと願っています 。」


ディスカッション

研究会の後半は、千葉授業づくり研究会では定番のディスカッションの時間です。最新の安全機能や世界的な動向をふまえ、学校・家庭・事業者がどう連携して子どもたちを支えるべきか、活発な議論が行われました。

ここからは、ディスカッションの内容を一部抜粋要約してご紹介します。

Q.いわゆる「裏アカ」や、生年月日を偽って登録することについて、プラットフォームではどのように対応していますか?

A.Instagramでアカウントを作成する時には、生年月日の入力が必要になります。

複数のアカウントを作ること自体はできますが、それぞれのアカウントで生年月日を入力する必要があります。13歳から17歳の利用者であれば、ティーンアカウントの対象になります。

生年月日を偽って登録している場合でも、閲覧しているコンテンツなど、利用状況に関する複数のシグナルから年齢に関する判断が行われる可能性があります。

また、趣味やコミュニティごとにアカウントを使い分けること自体は、必ずしも否定されているわけではありません。家族、友人、趣味のつながりなど、関係性に応じてアカウントを分ける使い方はあり得ます。

一方で、別のアカウントを使って悪口を書いたり、匿名性を利用して過激な発言をしたりするリスクもあります。そのため、複数アカウントの利用そのものよりも、それを悪用した誹謗中傷などをどう防ぐかが課題になります。

Q.ティーンアカウントはどのように導入され、どのように受け止められていますか?

A.2025年4月時点で、世界中のティーンアカウントの数は5400万を超えていました。

日本の13歳から17歳の利用者についても、ティーンアカウントへの移行がすでに完了しています。そのため、該当する年齢の利用者は、基本的にティーンアカウントを利用していることになります。

また、13歳から15歳のティーンアカウント利用者の97%が保護設定をデフォルトのままオンにしているという数値が出ています。このことから、保護設定は、子どもたちにとって強い抵抗があるわけではなく、自然に受け止められていると考えています。

Q.不適切なコンテンツを通報した後は、どのようなプロセスを経て対応がなされるのでしょうか?

A.通報されたコンテンツは、AIや人の目を用いて確認されます。

対応状況については、透明性レポートとして四半期ごとに公開されています。レポートでは、いじめや子どもの性的搾取など、カテゴリーごとの対応状況を見ることができます。ただし、日本だけの数字は個別には出ておらず、基本的には全世界の数字として公開されています。

一方で、通報されたコンテンツが必ず削除されるわけではありません。コミュニティ規定に違反しているかどうか判断が難しい、いわゆるグレーなコンテンツもあります。

また、著名人や政治家などに関する投稿では、表現の自由との関係から、判断の条件が異なる場合もあります。そのため、不快に感じるコンテンツであっても、規定に違反していなければ削除されないことがあります。

なお、誤って削除された場合には、異議申し立てができます。さらに、判断が難しいコンテンツについては、Metaとは別の第三者機関であるオーバーサイトボードが扱う場合もあります。オーバーサイトボードでは、有識者による議論やパブリックコメントなどを踏まえ、Metaに勧告を行う仕組みがあります。

また、通報以外の方法として、「非表示」機能もあります。Instagramでは、見たくないコンテンツを非表示にすることで、そのコンテンツが表示されなくなるだけでなく、似たようなコンテンツがなるべくおすすめに出ないように調整できます。

保護者からは、最初から保護機能が入っていることに安心感があるという声があります。一方で、家庭内での話し合いや、ペアレンタルコントロールを使った見守りについては、さらに認知を広げていく必要があります。

Q.学校教員です。SNSトラブルの指導で悩んでいます。例えば、子ども同士で不適切な動画を撮影・拡散してしまった場合、学校はどこまで指導してよいのでしょうか?

A.学校としてどこまで踏み込むべきかについては、非常に難しい問題です。

プラットフォーム側では、家庭で設定できる機能や、保護者向けの情報提供を行っています。一方で、保護者も忙しく、機能や設定を一つひとつ確認することが難しい場合があります。

ただいずれにしても、学校が家庭に対してどこまで強く求めるかについては、簡単に答えを出せる問題ではありません。

また、保護者の情報モラルへの関心や理解には大きな差があります。家庭でSNSやメッセージアプリの使い方をきちんと話し合っている保護者もいる一方で、そうすることが難しいご家庭もあると思います。

そのため、学校だけで対応を完結させるのではなく、家庭での話し合いを促すための資料や、保護者に届きやすい情報提供の方法を考えていく必要があります。

Q.保護者にSNSや情報モラルに関する情報を届けるには、どのような工夫が必要ですか?

A.デジタルリテラシーへの関心が高い家庭では、家庭内で一定のルールづくりや見守りが行われています。一方で全てのご家庭に知っていただくことはなかなか難しいという課題があります。

そのため、保護者会や入学説明会など、学校と保護者が接点を持つ機会で使える教材があるとよいのではないかという話がありました。特に、小学校から中学校へ進学する際の入学説明会は、多くの保護者が参加するため、スマートフォンやSNSの使い方について伝える機会として活用しやすいと考えられます。

また、忙しい保護者の方にもご関心を持っていただきやすいよう、短い動画や漫画形式のコンテンツなど、形式も工夫して伝える必要があります。

Metaでは実際に、ティーンアカウントの機能を30秒程度で紹介する動画や、保護者クリエイターと連携した発信も行われています。


ディスカッションの中では、学校の先生方へ安全対策の情報が届きにくいという課題も浮き彫りになりました 。また、総務省が行うデジタルポジティブアクションサイトから一括で各社・団体の教材にアクセスできることも紹介されました。

先生方が授業や指導で活用しやすいように情報を整理し、直面しているトラブルや悩みをキーワードとして入力すれば、現場で最適な教材が即座に提案されるような仕組みづくりも、今後の重要となってくるのではという意見も出ました 。 


まとめ(理事長・藤川教授)

研究会の締めくくりとして、理事長の藤川教授より、本日の議論を総括する挨拶がありました。

「今日の議論を通じて改めて感じたのは、SNSに対する『過度な規制』はマイナス面が大きいということです 。一律に禁止をしてしまえば、子どもたちの活動はかえって大人の目が届かない『闇』へと隠れてしまい、結果としてリスクを高めてしまいます 。私たちは子どもの権利を尊重し、守らなければなりません 。 

現在、オーストラリアなどでは非常に厳しい法規制が進んでいますが、日本はそれとは異なる道を模索すべきではないでしょうか 。問題を直視し、適切に対応しながら、安全な利用を促進しつつ権利も守られる。そうした日本ならではの形を、これからも様々な場面で議論し、形にしていければと思います 。」 


今回の研究会を通じ、立場を問わず子どもを支える大人に必要なのは、子どもの声に耳を傾ける姿勢と「対話」だと改めて感じました。

一方で、親としての葛藤も尽きません。中高生の娘がいるわが家でも、最近は学習に生成AIを使う場面が増え、スマホの使用時間について制限時間を延ばしたり、その流れでついSNSも見てしまったりと、時間の管理はより難しくなりました。

見守り機能についても、OSの違いによる連携のしにくさや、親側のアカウント作成が必要な点など、使いにくさを感じることがあります。また、子どもに問われてもフェイクを見抜くのが難しく、進化のスピードに親が追いつけているのかという不安も正直あります。こうした親子で模索している状況下で、トラブルに対応される先生方の負担は相当なものと想像します。

しかし、これまで子どもの自制心に頼るしかなかった部分が、今回のような技術の力で支援可能になってきていることに、解決への明るい兆しを感じました。私たちACEも、出張授業を通じて一人ひとりに寄り添い、安全で主体的な活用をサポートする活動に、より一層前向きに取り組んでまいります。

以上で、第175回千葉授業づくり研究会のレポートのご報告とします。ご講演いただきました栗原さん、そして参加者のみなさん、ありがとうございました。


千葉授業づくり研究会の参加方法

千葉授業づくり研究会にはどなたでも参加できます。

興味がある方は、こちらの開催情報をチェックしてくださいね!Zoomを用いたオンライン配信による参加もできるので、遠方の方も大歓迎です。

【執筆担当 岡野健人(研究会担当・ディスカッション部分執筆)、篠崎実穂(広報)】

2026年3月10日、Meta主催のラウンドテーブル「国内外の専門家と10代利用者の安全なSNS体験を考える」が港区にあるMeta東京オフィスにて開催されました。

ACEは2020年からMetaと協働し、中高生向けのデジタルリテラシー教育プログラム「みんなのデジタル教室」を全国に届けています。本イベントには、ACE理事長であり千葉大学大学院教育学研究院長である藤川大祐教授(以下、「藤川先生」)もパネリストとして登壇するということで、この日は職員5名で参加してきました。

「子どもたちのSNSとの向き合い方」については、当人たちやその保護者はもちろんのこと、教育関係者にとって避けては通れないトピックです。

また、最近オーストラリアで 16歳未満のSNS利用を規制する法律が制定されたことが大きな話題となり、社会全体でどう向き合っていくべきか国内外で議論が繰り広げられています。そんなホットな話題をテーマとした本イベントの様子をレポートできればと思います。

このイベントは、10代の利用者の安全なSNS体験について考える場として、こども家庭庁が実施する「令和8年春の安心ネット・新学期一斉行動」に合わせると共に、総務省が推進する官民連携プロジェクト「DIGITAL POSITIVE ACTION」の一環として展開されました。

当日のイベント詳細についてはMetaによる公式レポートをぜひご覧ください。

 国内外の専門家と10代利用者の安全なSNS体験を考えるラウンドテーブルを開催

規制ではなく「エンパワーメント」を

イベントの幕開け、Metaのミア・ガーリック氏は、世界的な「SNS利用禁止」の議論に触れつつも、「最も根本的な解決策は制限ではなく、若者に安全な環境で学び、つながり、成長するためのツールを与える『エンパワーメント』にあります」と話しました。

そういった想いから誕生したのがInstagramの「ティーンアカウント」という取り組みだそうです。最大の特徴は、安全機能が最初から「デフォルト(初期設定)」で自動適用されていること。守られた環境の中でSNSを使い始められる仕組みになっています。

私たちが実施している「みんなのデジタル教室」の事後アンケートからは、生徒たちのリアルな現状が見えてきます。多くの生徒たちは「SNSで気をつけるべきこと」を知識としては理解しているものの、具体的にどう設定し、どう行動すべきかという「実践」の段階で足が止まっているという課題があります。こうした現状を鑑みると、利用する本人や保護者だけに安全利用の全責任を委ねることには限界があると言わざるを得ません。

だからこそ私たちは、今回の「ティーンアカウント」のように、事業者側が安全機能をデフォルト(初期設定)で組み込む仕組みを構築することは、教育現場にとっても極めて意義深いものだと捉えています。あらかじめ安全な土台が整っていれば、子どもや保護者、そして私たち教育関係者は、「どうリスクを避けるか」という守りの議論に終始することなく、「機能をどう生かして安全に使いこなすか」という、より前向きな利活用の対話に注力できるようになるからです。

若者の声を主役に「PROJECT ROCKET」

続いて、オーストラリアから来日したルーシー・トーマス氏が代表を務める、いじめ防止教育団体「PROJECT ROCKET」の紹介がありました。

この活動の最大の特徴は、ファシリテーターが学生と年齢の近い若者であること。専門家ではなく「仲間」としての信頼関係があるからこそ、若者たちの主体的な変革が促されるのだそうです。最近では、国会の公聴会やメディア出演などを通じて、実際の政策決定の場にも若者の声を届けているといいます。

「若者は社会課題を解決していくためのパートナーである」というトーマス氏の言葉がとても印象的でした。若者のためにと言いながら、肝心の若者が不在のまま議論が進んでしまうことも少なくありません。彼らの声を主役にした活動が社会を変えていく、そんな力強い実例に触れられた貴重な時間となりました。

パネルディスカッション:

現場のリアルとこれからの課題

イベント後半は、Metaの栗原氏をモデレーターに、トーマス氏と藤川先生によるパネルディスカッションが行われました。国内外のSNSを取り巻く「今」や、家庭・教育現場での向き合い方など、それぞれの立場からの深い知見が交わされ、非常に興味深い議論が繰り広げられました。

その中から、特に私たちが注目したポイントをピックアップしてご紹介します。

Q. オーストラリアのSNS禁止法、現地の受け止めは?

トーマス氏によると、現地でも様々な受け止め方があるそうです。 保護者の間では、子どもの安全のために歓迎する声がある一方で、「自己表現やコミュニティとのつながり、教育の機会を奪ってしまうのでは?」と過剰な規制を心配する声も根強くあるようです。

また、当事者である10代の子どもたちは、法の趣旨は理解しつつも「決まるプロセスに自分たちの意見が反映されていない」と、不満や喪失感を抱いている子も少なくないとのこと。海外の友人との交流や、大切な相談の場を失ってしまうという課題も浮き彫りになっているそうです。

Q. 日本のSNS規制、今後はどうあるべき?

藤川先生は、2007年から続く「青少年インターネット環境整備法」による取り組みが、スマホの普及によって形骸化している点を指摘。今の時代に合った再構築が必要だと訴えました。 また、「こども基本法」はあるものの、若者の意見が十分に政策に反映されていないことにも触れ、当事者の声をしっかり組み込む仕組み作りを強調しました。

これに対しトーマス氏も、一律の禁止は「大人になってから突然デジタルの荒波に放り出されるリスク」を生むと同意。一方的な排除ではなく、事業者が協業してスキルや経験を積めるようサポートしていくことが重要だと話しました。

Q. 家庭では、どう子どもと関わればいい?

藤川先生は、トラブルが急増しやすい「中学1年生前後」の時期に注目。家庭内だけでなく、保護者同士や学校とも連携した環境づくりを提案しました。大人が違法行為のリスクをしっかり伝える責任を持つ一方で、それ以外の部分では子どもの主体性を尊重し、丁寧に話し合っていくことが大切だといいます。

トーマス氏が強調したのは、根底にある「信頼関係」です。問題が起きてから動くのではなく、日頃から子どもが楽しんでいる世界に大人が好奇心を持って関わることが第一歩。「それ楽しそうだね、教えて」というリスペクトのある姿勢が、思春期の難しい時期でもオープンに対話できる土壌を育んでくれるはず、と保護者に向け、心強いアドバイスを送ってくれました。

質疑応答

最後は参加者の皆さんからの質疑応答タイムです。こちらも印象的だったトピックをご紹介します。

Q. 「中毒性のある動画」への対策は?

海外でも話題の「無限スクロール」や「自動再生」といった機能。 Meta側は、日常生活に支障をきたす可能性を考慮し、利用時間のリマインダーやスリープモードなどの対策をすでに導入している現状を説明。 これに対し藤川先生は、「子どものネット利用時間が倍増している」という深刻な実態を指摘しました。アルゴリズムの影響も大きいため、Metaだけでなく、サービスを提供するすべての事業者が一定の基準で利用を抑制する仕組みを整えてほしい、と強く訴えました。

Q. なぜ世界中で「一律規制」の流れになっているの?

トーマス氏は、かつての「みんなで責任を分かち合おう」という前向きな議論が、今は「誰のせいでこうなったか」という責任追及に変わってしまっていると指摘しました。 もう一度、社会全体で役割を見つめ直すべき。その点、日本は若者の視点を大切にした丁寧な議論ができる位置にあり、世界的なリーダーになれるはずだ、と期待を寄せていました。

藤川先生も、これまで学校や保護者が過度な負担を強いられてきた実態に触れ、「ティーンアカウントのような仕組みがもっと早くから普及していれば、現場の状況も違っていたかもしれない」と、事業者側のさらなる主体的なアクションに期待を寄せてコメントしました。

あとがき

今回のラウンドテーブルを通じて改めて実感したのは、10代のSNS利用を支えるためには、「周りの大人の温かい関わり」と「国や事業者による仕組みのサポート」が、どちらも欠かせないということです。

もちろん、子どもをリスクから遠ざけるための制限は必要です。しかし、それが「一方的な禁止」に偏りすぎてしまえば、将来子どもたちが自分の身を守り、道具を使いこなすための大切なスキルを学ぶ機会を奪うことにもなりかねません。子どもを単に「守られる対象」として縛るのではなく、システムの仕組みで優しく制御しつつ、段階的にデジタル環境に慣れ、主体的にスキルを身につけていける環境を社会全体で整えていくことが重要だと強く感じました。

また、議論の中で「子どもたちの声」が置き去りにされがちだという指摘も印象的でした。大人の都合だけでルールを決めてしまう風潮は、子どもたちの主体性を削ぎ、結果として「自分でリスクを判断できずトラブルに巻き込まれる」という悪循環を生んでしまうかもしれません。子どもたちが「どう活用すれば、より自分らしく生きられるか」を自ら考え、アクションしていく姿を私たちは応援していきたいです。

私たちがお届けしている「みんなのデジタル教室」では、SNSのネガティブな側面を伝えるだけでなく、その先にあるポジティブな可能性を大切にしたいという思いで日々実践を重ねています。教育現場の先生方からは、SNSトラブルへの指導に対する戸惑いや、「リスクとその対策を重点的に話してほしい」という切実な声を伺うことも少なくありません。私たちの授業が、先生や保護者の皆さんが子どもたちと一歩踏み込んだ「対話」を始めるきっかけになれば、これほど嬉しいことはありません。

本イベントで得た数々の気づきを糧に、これからも最新の技術動向にアンテナを張り続けてまいります。めまぐるしく変化するデジタルの世界において、子どもたちが安全に、そして自分らしく歩んでいけるよう、これからも全力でサポートを続けていきたいと思います。

(執筆者:脇坂亜希)

2025年12月20日(土)に、第174回「千葉授業づくり研究会」が開催されました。今回のテーマは、「ファイナンシャルプランナーと考える、これからの金融教育と資産形成」保険や金融商品の専門職であるファイナンシャルプランナーの大久保成椰さんを講師にお招きして講演いただきました。

  

近年、学校の金融教育でライフステージの各段階で必要なお金を準備するために、資産形成や、自己の価値観に基づいた計画的なお金の使い方に関する内容が扱われています。また、高等学校の探究学習などで、投資や金融をテーマに選ぶ生徒も増えているそうです。

  

今回の研究会では、まず資産形成に関わる資産運用など金融に関わる基礎的なところから大久保さんに教えていただき、研究会後半に「自己のライフプランに基づく資産形成」に着目した金融教育についてディスカッションを行いました。

  

「テーマが金融教育で、講師が保険会社の方!?」と、意外に感じる方もいらっしゃるでしょうか。

  

今回の企画の背景には、金融教育に資産形成の内容が取り入れられる中で、専門知識の不足を感じている先生が多いことや、投資について探究学習に取り組んでいる高校生から「資産運用を始める際の注意点」などの質問が寄せられたことがあります。

  

「ライフステージの各段階で、どのようなリスクを想定して、どのように資産に関する意思決定をすれば良い?」

  

「リスクシミュレーションや資産運用の具体事例は?」

  

こうした点について、資産形成とリスクのコントロールの両面に専門性を持つ保険会社の方のご知見を伺い、先生や児童生徒の疑問に即した金融教育を考える研究会を企画しました。

  

本レポートでは講演会と、教員・大学生・高校生を交えたディスカッションの様子を詳しくお伝えいたします。資産形成や金融教育に関心のある方は、ぜひ最後までお読みください。

 

ファイナンシャルプランナーは、資産形成というゴールに向かう、多様な道程の案内人

ファイナンシャルプランナー 大久保成椰さん

今回の研究会では、保険や金融商品の専門職であるファイナンシャルプランナーの大久保 成椰さんに講演いただきました。

  

講演に先立ち、今回は参加者の自己紹介を行い、各自の名前や参加理由を共有しました。

現職の学校の先生(中には、ファイナンシャルプランナーの資格を持っている方も!)や、教育や資産形成に関心のある大学生、探究学習で投資や金融商品を調べている高校生など、多様な参加者がいらっしゃいました。

  

一人一人の自己紹介を丁寧にメモしながら聞いてくださっていた大久保さん。

講演の最初に、高校生の1人を指名し、「資産形成や資産運用って、どんなイメージがありますか?」と問いかけました。

突然の質問に驚いた様子の高校生でしたが、「何から手をつけて良いかわからない」と率直な意見を回答してくださいました。

この回答を聞くなり、大久保さんは「来てよかったです!!」と明るい声で返し、「本当にそうですよね」と高校生の疑問を真摯に受け止めました。

  

大久保さんによると、「資産形成とはゴールで、資産運用とはゴールに行くための手段」とのこと。

例えば、目的地を決めずにタクシーに乗る人がいないように、資産運用も「どのくらい資産を持ちたいのか」というゴールを決めずに始めるものではないそうです。

資産形成というゴールから逆算して、どのような手段で資産を運用するのかを考えることがとても大切だと、大久保さんは強調しました。

  

とはいえ、高校生の回答にあったように、ゴールを決めたり、手段を検討したりするために「何から手をつけたら」良いのでしょう……?

  

そこで、大久保さんは次のように述べました。

「これをやったら人生勝ち組ですよ、これをやったら絶対儲かりますよ、という話はできません。今日は、実際のお客さんの具体事例を交えてお話しますが、人それぞれ相談事が違うので、これが正解ですということは言えないのです」

  

近年の学校教育では、家庭科を中心にライフステージの各段階で必要な資産を準備するために必要な学習内容として、自己の価値観に基づいた計画的なお金の使い方や、金融に関する知識が扱われています。

価値観は人によって多様なので、1つの定まった正解がないことや、それゆえにどうすれば良いのかわからないという意識を多くの先生や児童生徒が持っていると言われています。

参加者の注目が集まる中、大久保さんは、しっかりした口調で続けました。

  

「ただ、こういう選択肢があるんだなとか、自分だったらこうしてみようかな、こうしたいかなって思い浮かべるようになっていただけたら良いかなと思っています」

  

会場を見渡しながら、そう語った大久保さんの頼もしさが、参加者に伝わっていったようでした。

多くの人々のライフプランに寄り添い、資産形成などのゴールへ向かうための相談に乗ってきた大久保さんは、多様な手段・道程の頼れる案内人なのだなと感じました。

日本を取り巻く経済環境と、資産形成の重要性

個人の資産形成が重視される背景として、はじめに大久保さんから現在の日本の経済状況を概説していただきました。

世界的にはGDPが右肩上がりの状況がある一方で、日本の伸び率は他国に比べて上がっていない傾向があります。

また、日本では2008年をピークに人口が減少傾向になり、先進国の中でも高齢化が進んでいます。

生産年齢人口が減少し続けるという予測は、今後の日本の経済成長の大きな課題です。

  

大久保さんによると、こうした状況に鑑みて、現在ではグローバルに視野を広げて資産形成をしていくという選択肢が重視されるようになっているそうです。

「どういうことだろう?」と注目する参加者に、大久保さんはクイズ形式で問いかけながら解説してくださいました。

突然のクイズを受けて、即座に運用益を暗算した大学生・高校生たち

例えば、1000万円の資産形成を目標にした時、毎月3万円をタンス預金(金利0%)すると目標を達成するまでに27年以上かかります。一方で、年率5%の利回りで運用しながら積み立てると、手数料や課税を考慮しなければ17年ほどで目標を達成できます。

経済成長率が高い国では、利回りも良くなるので、より効率的に資産形成ができる可能性があるということです。

日本の経済環境では銀行の金利が上がったとしても、まだ運用した場合の金利とは大きな差があるため、経済的な成長傾向にある世界の国々を視野に入れた資産運用が重視されているそうです。

  

さらに補足して、大久保さんは物価上昇率にも言及しました。今の大学生や高校生が50歳、60歳になる時には、現在よりも物価が上がっていることが予測されます。このことに鑑みると、ライフステージが上がった際に必要な資産を準備するために資産運用の重要性が高まっているということでした。

人生の三大資金として、必要な資産とは!?

資産形成というゴールを設定するにあたり、人生の各段階で、どれくらいの資産が必要なのでしょうか。

大久保さんによると、人生の三大資金とは「子どもの教育資金」「住宅購入資金」「老後の生活資金」であり、実際にお客さんの相談も多いとのことです。

子どもを持つか持たないか、私立と公立のどちらで教育を受けるか、どこに住み家を構えるかなどによって金額は変わりますが、それぞれの参考値は以下の通りです。

  

子どもの教育資金・・・約1118万円

住宅購入資金  ・・・約3603万円

老後の生活資金 ・・・約6973万円

  

いずれも多額の資産を要しますが、大久保さんはファイナンシャルプランナーとして相談を受ける際に心がけていることを次のように語りました。

  

「必要資金を貯めるために今の生活を苦しくするのも間違っているし、今豪遊して将来が心配になるのも避けなければならない。そこで、お客さんと一緒に目的を決めて、ゴールを決めて、それに向かっていく手段を一緒に決めるということが大事なのかなと思います」

  

ライフプランにおいて重視したいこと、実現したいことなどを決めることで、必要な資産が明確化され、資産形成というゴールが設定できる。

導入で提示された、「資産形成はゴール、資産運用は手段」ということが、改めて腑に落ちました。

資産形成のための意思決定のポイント

ここで、大久保さんは参加者全員に質問を投げかけました。

  

「老後資金を貯めるために、A:自宅でタンス貯金、B:金融商品を活用して運用、C:社会保証制度(国民年金や厚生年金)に任せる、の中で、どの手段を選びますか?」

  

多くの参加者がBを選ぶ中で、どの選択肢も選ばなかった参加者がいらっしゃいました。
大久保さんが理由を訊ねると、「全部ちゃんとやるのが良いと聞きました」とのこと。

実は、その回答が大正解。
大久保さんは「金融商品を用いた運用には相応のリスクがあるため、いずれかに振り分けるのではなく、安全に資産を貯める方法と、リスクを取りながら効率的に資産を増やす方法をバランス良く決めるのが重要」とポイントを示してくださいました。

  

大久保さんいわく、金融商品の中でも積立NISAは利益に対して課税されないことに鑑みると、国としても社会保障制度だけに頼らず、リスク・リターンのバランスを考えて資産形成を促したい意向が窺えるそうです。

資産運用の仕組みとリスクとの向き合い方

では、実際に資産運用を行う際、どのようなリスクや注意点に気をつけるべきでしょうか。この点については、事前に高校生からも質問が寄せられており、いよいよ講演も核心に迫ります。

  

大久保さんは、参加者全員が理解しやすいように、金融商品の基礎的なところから解説してくださいました。
金融商品には元本保証があるもの(預貯金など)と、価格が変動するもの(投資信託など)があります。
前者は、金利が低い場合は資産が増えづらい一方で、資産が目減りするリスクは低いと言えます。
後者は、預貯金以上の資産を増やせる可能性がある一方で、状況によって資産が目減りするリスクがあります。
そこで、分散投資や積立投資など、ある程度リスクを分散しながら長期に運用することで、リスクとリターンのバランスを取ることが重要とのことです。

  

ここで、「なぜ、長期運用が重要になるのだろう?」という疑問を持った参加者もいたのではないかと思います。
大久保さんは、金融商品をみかんに例えて、分かりやすく説明してくださいました。
例えば、みかんの価格は時期により変動します。そのため、毎月決まったタイミングで一定の金額を投資すると、同じ金額でも時期によって購入できるみかんの数が変わります。
投資のプロであれば、最もみかんの価格が低い時にたくさん購入して、みかんの価格が高い時に売却して利益を出すことができますが、一般の人はそう上手くはできません。
そこで、長期的に運用しておけば、みかんの価格が高い時期・低い時期を繰り返す中で総合的に利益を出しやすいということでした。

  

一方で、1つの金融商品(みかん)だけに投資すると、その商品の人気が下がった時に利益が得られなくなるというリスクにも注意が必要だと、大久保さんは指摘しました。
そのため、いくつかの金融商品に分散投資して、リスクをコントロールすることが重要とのことです。

  

また、金融商品の価格が下がった時に、すぐに見切りをつけるのではなく「たくさん買って価格が上がった時に利益を出せるかも!」という見方をするのも大切だと、大久保さんからアドバイスもいただきました。

資産形成に関する意思決定のポイント

資産形成と資産運用の基礎的な仕組みや注意点について理解が深まった所で、最後は実際に自ら意思決定を行う際のポイントについてお話しいただきました。

  

金融商品には、国内外を含めて、様々な銘柄があります。
資産形成のために、金融商品を活用した資産運用を検討する際、「金融商品の性格」に注目する必要があるそうです。

  

大久保さんによると、金融商品の性格を捉える際、「収益性」「流動性」「安全性」という視点が重要とのことです。
これらを全て満たす金融商品は存在しませんが、様々な金融商品の長所・短所をそれぞれの視点で評価し、最も自分の目的に合ったものを選択することが意思決定のポイントになると大久保さんは強調しました。

  

では、実社会の人々は、目的に応じてどのように資産形成に関わる意思決定を行っているのでしょうか。大久保さんに、実際のお客さんの事例を元に紹介していただきました。

  

具体例1:25歳、年収400万円、一般企業勤務
数年の間に結婚のための資金が要るが、ほとんど貯金はない。
→この人の目的を達成するためには、数年の間にお金を貯めて、結婚が決まったタイミングで引き出せるようにする必要がある。そこで、流動性が高くいつでも引き出すことができ、安全性も高い銀行貯金を選択した。退職金が多い企業に勤めていたので、月々の資産運用を増やす必要はあまりなく、投資は貯金にゆとりができた時に検討することにした。

  

具体例2:35歳、年収550万円、公務員
子どもの教育資金を貯めるために積立NISAを検討している。
→この人の目的を達成するためには、子どもの就学などのタイミングで必要な資金を使えるようにする必要がある。NISAは長期運用することで強みが発揮されるので、タイミングによっては十分な利益が得られる前に資金を使うことになり、もったいない。そこで、リスクが少なく確実に資金を増やすことができる国債や固定金利の金融商品を選択した。

  

具体例3:60歳、年収1200万円、公務員
65歳までは働く予定で、貯金も豊富なので、退職金の置き場に困っている。
→この人の目的を達成するためには、退職金を預けることが有効だが、同時に資産を増やすことができれば老後資金も心配しなくて済む。そこで、利率が15年間固定されているアメリカの株式など、退職までの期間に運用益が見込める金融商品を活用した運用を選択した。

  

具体事例からも、大久保さんが一人一人のお客さんのライフプランや目的に寄り添い、その達成に必要な資産を準備するための手段を一緒に考えていらっしゃることが窺えました。

   

「自分がどうなりたいか、将来どういう風に生活したいかといった目的を決めて、そこに向かうための手段として、どのようなお金の持ち方が良いのか、適している金融商品は何なのか、性格や価値観もふまえて考えていく」
講演の結びに大久保さんがおっしゃったことが、私たちが自ら資産形成のために意思決定をする際の本質的なポイントなのだと思いました。

ディスカッション

研究会の後半には、千葉授業づくり定番のディスカッションが行われました。オンライン上で質問ができるサービス「Slido」を使い、参加者と登壇者で議論を行います。

  

質疑応答では、多様な視点の質問を通して、資産形成について多角的に理解を深めることができました。

また、普段は「教える側」である大学・高等学校・中学校の教員と、「教わる側」である大学生・高校生が共にアイディアを出し合い、新しい金融経済教育の授業や教材について考えることができました。

  

ここからは、ディスカッションの内容を一部抜粋要約してご紹介します。ぜひ最後まで読んでくださいね。

Q.現在17歳の高校生です。18歳になったら投資ができるようになりますが、どのくらいの金額で、何から始めたら良いのでしょうか?

  

まずは、原資をどのように得るかが大切になります。例えば、大学生になって一人暮らしをする場合、学費や生活費がかかる中で運用に回せるお金は多くありません。18歳になったら、ぜひ投資を始めてみてほしいですが、その際に自分の生活に支障が出ない範囲で原資にする金額を決めた方が良いです。

例えば、5万円のバイト代があるなら5000円投資に回すなど、生活や、自分がやりたいことに差し支えがない範囲で始めるとやりやすいですよ。また、18歳から始めるなら、途中で引き出す可能性も考えて、流動性が高い運用方法が良いと思います。

ちなみに、生活費のシミュレートができるアプリや家計簿アプリを使って必要なお金を試算した上で、運用に回る金額を決めることもできます。

Q.資産運用について勉強したいのですが、おすすめの本などはありますか?

  

ファイナンシャルプランナーの資格の勉強がとても参考になると思います。

資産運用を始める時に、世の中の情報に流されてしまうのは怖いことなので、勉強することはとても大切です。

例えば、ファイナンシャルプランナーの勉強の中で、不動産や様々な金融商品について学ぶ中で、自分に合うものに気づくこともありますよ。

  

  

Q.来年社会人になる大学生です。奨学金の返済が始まるのですが、月々の返済金額をどうするか悩んでいます。

  

まずは、早く返済を終わらせたい、投資を優先して資産を増やしたいなど、ゴールを決めるのが大切だと思います。例えば、なるべく返済期間が長いプランで考えて、大きな収入が得られた時に繰上げ返済するという方法もあります。

ゴールから逆算して、ご自身で納得できる方法を考えられると良いですね。

  

  

Q.中学校の教員です。中学生にとって、資産形成は遠い未来の話のように思われがちだと思います。中学生でも実感できる金融教育の切り口はありますか?

  

金融経済教育推進機構のホームページに、様々な教材が公開されているのでお勧めです。

例えば、カードゲーム形式で、人生設計と資産形成を学ぶことができる「生活設計・マネープランゲーム」という教材があります。

このゲーム教材では、トラブルが発生した時に保険のカードで解決できるルールがあって、リスクへの備え方も扱うことができます。

まずはゲームで関心を高めた上で、資産形成の基本を学ぶような流れが良いと思います。

なんと、今回参加した高校生の1人は、このゲームを中学校の進路学習で体験したことがあるそうです!

なんと、今回参加した高校生の1人は、このゲームを中学校の進路学習で体験したことがあるそうです!

Q.老後の備えと、今の生活を楽しむことのバランスを、自分の価値観に鑑みて考える必要があると思いました。大久保さんは、どのような価値観をお持ちなのでしょうか?

  

私は概ね「今」派ですね。「今」を充実させることが、仕事への活力にもなると思います。資産運用を将来への安心材料にして、さらに「今」を楽しめるようにしていると思います。

中高生にも、まずは自分の価値観を醸成することが、金融教育において大事ですよね。価値観を教わる最も身近な相手は保護者かと思います。

一方で、これから子ども自身が投資できる制度が始まります。バランス感覚の勉強になるという側面もありますが、一方で知識や価値観が身につく前に投資を始めるのはリスクもあるので慎重に考える必要があるかと思います。

また、学校の金融教育では外部講師を呼ぶことがありますよね。私も講師を担当することがあるのですが、講演を聞いた子どもたちが「じゃあ、これで良いじゃん!」となってしまうと、価値観の醸成につながらないのではないかと思っています。

そこで、講演の後に学校の先生にフォローしていただいたり、できれば複数の立場の講師を呼んで価値観を相対化できたりすると良いかと思います。

Q.社会科の教員です。今の金融教育において、間接金融から直接金融に注目が移っているように思います。ただ、間接金融から、金融と社会や企業のつながりを学ぶことも大切ではないかと思うのですが、いかがでしょうか?

  

※間接金融:https://www.j-flec.go.jp/public/learn/glossary/k_kansetsu_kinyu/
※直接金融:https://www.j-flec.go.jp/public/learn/glossary/t_chokusetsu_kinyu/

直接金融であれば、自分の興味がある会社に投資してみると金融と社会のつながりがわかりやすいと思います。興味がある会社であれば自然と動向に目が向くので、会社の動きと株価の変動に気づくこともできます。

投資信託では、投資する会社は選べませんが、市場社会への投資について学ぶことができるかと思います。会社の社会的信頼についての学びにもつながるかもしれませんね。

中学校の先生からの情報提供:

昨年、廊下に経済新聞を掲示して、生徒が1週間ごとに気になる企業を調べたり、模擬的に株を買うシミュレーションをしたりする活動をしていました。毎週、生徒たちが株価の変動に注目していて、上がり下がりに一喜一憂する様子などがみられて面白そうでした!

  

  

Q.金融商品を選ぶ際に、AIを使って判断することについて、どう思われますか?

  

「どの銘柄を買うのが良いか」を判断するためにAIを頼りにするのはリスクがありますが、想定しうるリスクの洗い出しや、リスクを避けるための選択肢(分散投資など)を検討する時に使うのは良いかと思います。

ただ、リスクを洗い出す際に、家計の課題などを総合的に見ないといけないのですが、人には意外と「見ないふり」をしている課題があるものです。お客さんの相談に乗っていても、旦那さんが席を外した時に奥さんが「実はね……こういうことがあるの」みたいにこっそり教えてくれることもあります。逆に、私の方から突っ込んで訊くこともあります。一人でAIを使うと、そういった隠れた課題を見落としてしまう可能性があるかもしれません。

生成AIの教育活用を研究している参加者からの情報提供:

生成AIに「資産運用について聞いても良いですか」と入力してみたら、「良いですが、価格予測、売買のタイミングの判断、勝てるかどうかの判断は任せてはいけません」と言っています!使えるところと、使えないところが、AIもわかっているみたいです。

  

  

Q.金融教育を担っていく学校の先生には、不安もあると思います。ここを押さえておけば大丈夫というポイントはありますか?

  

講演でも触れましたが、収益性、安全性、流動性の3つは抑えるべきだと思います。全てを満たす金融商品はないので、長所・短所をよく考える必要があるということですね。

また、みかんの例で説明した長期運用・積立投資の話も重要です。実は、NISAを2年で解約する人が70%もいるのです。価格が下がると「もうダメだ」とすぐに辞めてしまう人が多いのですが、根気よく続けていくことが利益を得る上で大切です。

また、毎日株価の上がり下がりを見る必要はあまりないと思います。気持ちも落ち込みますし、長期運用ならそこまで気にしなくて大丈夫かと。家賃や光熱費くらいの頻度で見て、「あ、増えてる!」と思うくらいで良いと思いますよ。

  

  

Q.数学の教員です。数学の良いところは、価値観などを抜きにしてシンプルに構造として仕組みを理解できることだと思っています。価値観をすぐに醸成するのは難しい面もあるかもしれませんが、数学的に構造を捉えるような学び方はできるでしょうか?

  

数学は金融経済の学習でも重要ですよね。

構造を理解した上で、最終的にどのような判断をするかが重要になると思います。

数学の先生からの情報提供:

資産運用に関する数学は、ほとんどが大学で学ぶ内容なのが難しい点です。期待値の学習で、自分の感覚と実際の利益率のズレを体験することはできるかもしれません。分散投資のメリットが数字で見られる一覧表を使った学習もわかりやすいと思います。

複利の計算なら、中学生でもできると思います。

生成AIの教育活用を研究している参加者からの情報提供:

シミュレーターの裏側の一部に関わる数学的な仕組みを学ぶ教材は、生成AIでつくれるかもしれませんね。

ただ、ファクトチェックは必要なので、数学の先生や、大学の研究者に監修していただけると良いと思います。

Q.自分の価値観やリスク・リターンを考えて意思決定を行うということは、身につくまでに時間がかかると思います。小学生にどう伝えていったら良いでしょうか?

  

中学生以上なら、リスクはこちらから指摘するというよりも、自分で気がつくものになっていくと思います。また、少子高齢化など、リスクの背景にある社会情勢についても、知識があるので理解しやすいでしょう。

ただ、小学生の場合はまだ難しいので、「何かあった時に備えておく必要性」から学ぶのが良いのではないかと思います。「何かあるかもな」で止まるのではなく、何かあったらどうするか、どういう対応ができるかなどを、少しずつ伝えるのが良いのではないでしょうか。また、先ほど紹介した「生活設計・マネープランゲーム」は小学6年生くらいでも出来るので、導入に活用しても良いと思います。


以上で、第174回千葉授業づくり研究会のレポートのご報告とします。ご講演いただきました大久保さん、参加者のみなさま、誠にありがとうございました。

今回の研究会が、先生方の今後の教育活動や、大学生・高校生の今後の学びにつながったら幸いです!

千葉授業づくり研究会の参加方法

千葉授業づくり研究会にはどなたでも参加できます。

興味がある方は、こちらの開催情報をチェックしてくださいね!

2025年11月15日(土)に第173回「千葉授業づくり研究会」が開催されました。今回のテーマは「探究的な学びに活かす『街歩き×宝探し』を考える」株式会社タカラッシュ 専務取締役 安福 久哲さん、プロデューサー部 アカウントプランニングチーム 課長 石丸 菜々さんを講師にお招きして講演いただきました。

近年、「探究的な学び」が教育現場で話題となっています。これは、子どもたちが自ら課題を見つけ、決まった正解のない問いに向かって学習を進める、新しい学びの形です。子どもたちが取り組むテーマはさまざまですが、「自分たちの住む地域のよさを知ってもらいたい」といった、地域を課題とした授業づくりも重要なテーマの一つとして考えられます。

今回の研究会では、株式会社タカラッシュが手掛ける「街歩き×宝探し」に焦点を当て、この事業を手掛けた背景や意図、そして国内での具体的な事例をご紹介いただきました。また、参加者全員でスマートフォンを使った宝探しの体験も行いました。

この「街歩き×宝探し」には「探究的な学び」の授業づくりのヒントが数多く詰まっており、研究会後半のディスカッションでも様々な意見やアイデアが交わされました。

本レポートでは、この講演会と宝探し体験会、ディスカッションの様子を詳しくお伝えいたします。探究的な学びや地域課題の解決をテーマにした授業に関心のある方は、ぜひ最後までお読みください。

タカラッシュとは、日本で唯一の宝探し専門会社

株式会社タカラッシュ 専務取締役 安福 久哲さん
プロデューサー部 アカウントプランニングチーム 課長 石丸 菜々さん

今回の研究会では、株式会社タカラッシュ 専務取締役 安福 久哲さん、プロデューサー部 アカウントプランニングチーム 課長 石丸 菜々さんに講演いただきました。

はじめに、安福さんより株式会社タカラッシュの設立の背景や事業の説明をしていただきました。

株式会社タカラッシュは、2001年に創業した日本で唯一の宝探し専門会社です。同社の原点は、代表取締役の齊藤 多可志さんが、小学生のころに友人と行った宝探しごっこにあるそうです。それは、牛乳瓶の蓋を校庭に隠して地図を作り、友達と探したというもの。「さいちゃんの宝探しおもしろい」と言われた子供のころの経験が、同社の根幹にあるといいます。

そして、タカラッシュ設立のきっかけは、代表の齊藤さんが、同僚であった安福さんとともに旅行会社に勤務していた頃に遡ります。

当時、企業の職場旅行向けに「誰もやったことのないオリジナルの企画」を求められた齊藤さんが大人の宝探しを初めて企画・実施。これが「これまでの団体旅行で一番面白かった」と大成功を収めました。

この成功から宝探しの可能性を確信し、本格的な事業を立ち上げるため、2001年4月に会社を設立しました。

続いて、株式会社タカラッシュが手掛ける宝探しは「トレジャーテインメント」と定義されており、現実社会を舞台にしたRPGであると説明いただきました。

宝探しとは、参加者が自ら主人公になることで、非日常の感動や発見が生まれるもの。様々な面倒な障害を乗り越えるからこそ得られる本物の宝探しが「挑戦したいワクワク」につながるといいます。

同社は、「挑戦したいワクワク」を日本全国に広めて、いつでも誰でも宝探しができる社会を目指しています。数字で見ると、株式会社タカラッシュは25年目の会社で、年間参加者は250万人以上、年間導入実績は7,200件以上、参加者満足度は94%、会員数は44万人以上という実績を誇っています。参加者は性別や男女問わず、年齢層もさまざまで、企画によって若者やファミリーなど対象が変わるそうです。

宝探しが掲載される「Hunter’s Village」(「Hunter’s Village」公式ホームページより)

宝探しイベントは「Hunter’s Village」に掲載されています。サイト内には、日本全国の宝探しイベントがたくさん掲載されており、今すぐ参加できるイベントがすぐにわかります。

自宅で参加できるイベントや、北海道や九州などの首都圏以外のエリアでも参加できるイベントもたくさんあるので、誰でも日本全国から宝探しに挑戦できます。

ハンターランクについて(「Hunter’s Village」公式ホームページより)

株式会社タカラッシュの事業の柱は二つあり、一つはBtoC事業(主催・共催型宝探し)です。ユーザーは、会員登録をすると「ハンター」となり、さまざまな宝探しイベントにチャレンジできます。ここでは、クリアすると自分のハンターとしてのレベルが上がっていきます。成長してプロハンターとなれば、賞金や大会に出る機会もあるなど、人々の成長に貢献する仕組みになっています。本当にゲームの主人公になったような仕掛けで、何度もイベントに参加したくなりますね。

また、宝探しの会社ということで無人島を所有しており、企業の研修にも活用されるそうです。

もう一つは、BtoB事業(課題解決型宝探し)。これまでに、地域自治体、企業、商業施設、テーマパーク、博物館などとの多数の協業実績があります。

例えば、校外学習や修学旅行、社員研修などを想定した宝探しを提供しています。様々なロケーションでの宝探しプログラムは、懇親イベントやチームビルディングの場として活用されています。

関連して、テーマパークや観光施設以外に、通っている学校そのものを宝探しの舞台にする「トレジャーコレクションin School」もご紹介いただきました。中学校や高校以外にも、大学でキャンパスがわからない新入生向けのレクリエーションとして実施されることもあるそうです。

地域を舞台にした宝探しで、魅力を発信

続いて、石丸さんより地域を舞台にした宝探しについてお話いただきました。石丸さんによると、宝探しイベントの参加者の約半数が宝探しや謎解きの経験者であるそうです。イベントの参加フローとしては、「告知→冊子入手→謎解き→宝箱発見→報告・賞品獲得」という流れで行われることが多いとのことです。

宝探し体験!自力で解けるとうれしい!

  

LINEでできる宝探し体験

講演会の中では、2022年に兵庫県の相生市を舞台に開催された宝探しゲーム「あいのまち調査団」を体験しました。

「あいのまち調査団」では、参加者が謎を解きながら、相生市に隠された秘宝である「11の鍵」を探索します。この11の鍵とは、相生市独自の11の子育て支援事業のこと。また、謎解きの中では相生市の様々な観光名所を訪れることとなります。宝探しを通して、相生市の子育て支援とまちの名所の両面に触れ、魅力を再発見する機会となるのですね。

このイベントはLINEを使ってスマホでも参加できるそうです。今回の体験会では研究会会場の千葉大学にて謎解きに挑戦しました。

冊子に書かれている謎を見ながら、謎を解き、LINE上に回答を入力します。正解すると、映像で相生市の観光スポットの様子が送られ、宝箱への手がかりが手に入ります。

今回の研究会での謎解き経験者は約3分の1ほど。経験者と未経験者で相談しながら和気あいあいと宝探しに挑戦する様子も見られました。

正解すると思わず喜びの声や笑みがこぼれる場面もあり、多くの参加者が夢中になって謎解きに挑戦しました。現地で実際に宝箱に出会うと、さらに達成感を感じられそうですね!

宝探しの企画で大切にしていること

体験会の後、宝探しを企画するうえで安福さんが大切にされている点を紹介していただきました。

まず、参加者が宝探しの世界に引き込まれるようにタイトルとストーリーを工夫しているとのこと。メインターゲットに応じてデザインやストーリーを変えることも工夫の1つだそうです。たとえば、「あいのまち調査団」では謎解き初心者やファミリーの参加が考えられることもあり、難易度を簡単に設定して企画を進めたと紹介いただきました。

次に、謎解きに難易度や仕掛けを設けることで、解読できたときの達成感を高められるともお話いただきました。冊子を折ると次のターゲットができるような謎解きもあり、参加者の探究心を刺激するとのことでした。

また、街歩きが目的の宝探しでは、舞台となる地域の魅力の再発見につながる必要があります。企画を進める上で、プランナーが現地を入念にロケハンし、宝を置く場所の許可を得るなどの細やかな調整を行うそうです。

さらに、宝箱を見つける演出でも、「発見の感動」にしっかりとこだわるとのこと。本物の宝箱のように何かを動かさないと開かないデザインにしたり、世界観に合わせて宝箱をデザインしたりと工夫を凝らすそうです。宝箱を現地に溶け込ませることもあるそうです。謎を解いた後に、さらに宝箱を探す楽しみを増やすのですね。

また、デジタルとの融合についてもお話いただきました。単に冊子をもって謎解きするのではなく、スマートフォンやタブレットなどとのデジタルツールと融合することで、没入感による体験価値を高めることができるそうです。

宝探しで地域活性化へ。そして、宝探しで伝えていきたいこと

続いて、宝探しと地域活性化について紹介いただきました。安福さんによると、宝探しが地域に人を呼び込み滞在時間の向上をもたらす効果がでているそうです。

その地域への滞在時間が向上すると、参加者が宝探し中にその地域で観光や買い物、食事などの消費活動を行う経済効果にもつながります。特に2021年以降、この地域活性化の効果は大幅に増加しているとのことでした。宝探しを通じて、地域の魅力の再発見や知名度向上、消費活動にも貢献できるのですね。

最後に、安福さんに、宝探しを通じて伝えたいことをお話いただきました。株式会社タカラッシュの「『宝』を探し出す喜びを、全ての人に!」の企業理念の通り、発見の感動を味わうことで、苦労して手に入れる喜びを再認識してもらいたいと考えているそうです。

単なるエンターテインメントではなく、普段やらないことに挑戦することで、人々の成長に貢献することも目標とされています。遊びと成長に貢献する「トレジャーテインメント」には無限の可能性があり、この楽しさを世の中に広く伝えていきたいという展望もお話いただきました。

ディスカッション

研究会の後半には、千葉授業づくり定番のディスカッションが行われました。オンライン上で質問ができるサービス「Slido」を使い、参加者と登壇者で議論を行います。

今回はインターンシップで参加している高校生からもたくさんの質問が出ましたよ。

また、宝探しのストーリーをどこまで詳細に決めるかについて説明いただいたときには、ACE(企業教育研究会)スタッフが「ACEで作る授業でもストーリーを作る授業があって、設定をどこまで決めるかを毎回調整しています」と嬉しそうに語る場面もありました。

他にも、「地理の授業にぴったり」「授業で宝探しを採用するときに指導者として気をつけるべきポイントは?」など、教育現場での活用も話題として挙がり、大いに盛り上がる時間となりました。

ここからは、ディスカッションの内容を一部抜粋要約してご紹介します。ぜひ最後まで読んでくださいね。


Q.地理の教員です。今回の講演を聞いて、地域への親しみや地図の読解など、まさに地理の授業とぴったりな活動だと感じました!

鳥観図や絵が多めの地図、Googleマップのような地図など、宝探しの地図の表現の仕方がイベントによって異なるようですね。地図の作成の際に、参加者を楽しませるための仕掛け作りや工夫されていることはありますか?

デザイナーと相談しながらイベントに合わせた地図を作るようにしています。

地域活性化の宝探しであれば、実際にその場所に行ってもらう必要があるので、本物の地図を採用します。逆に、架空の地図でよい場合はイベントの世界観を意識した地図を作成しています。

Q.宝探しのストーリーはどのように決めていますか

宝探しイベントの内容によって違いを持たせています。

例えば、ファミリー向けで気軽に参加できるようなイベントでは、ストーリーを最初に出し、謎解きが終わったら、エンディングを出す形で展開することが多いです。途中から参加しても楽しめるように工夫をしています。

対して、何日もかけて多くのスポットを巡る有料で参加していただくようなイベントでは、1つ1つのスポットでストーリーを展開していく形にすることもあります。

Q.宝探しの難易度はどのように設定していますか

先にターゲットを決めて難易度を調整することが多いです。

社内で難易度の基準が決まっており、宝探しのファンの方向けには難しいもの、地域活性化目的だと初心者向けの難易度にするなど調整しています。

また、世の中に出す前にテストプレイを重ねることを大切にしています。社内の謎解きが得意な人・苦手な人を呼んで、実際に解いてもらいます。

Q.ターゲット年齢に応じて難易度を変えているのでしょうか?小中学生がターゲットのときに気をつけていることはありますか?

一番気をつけるのは難易度です。小学生をすべてのターゲットにするのではなく、低学年/中学年/高学年くらいに絞って分類しています。

また、習っていない漢字があると、謎解きの内容を読めない場合があるので注意しています。

Q.高校生に地域を知ってもらうために謎解きを活用するとして、アドバイスはありますか?

複雑にストーリーやタイトルを考えるのではなく、自分が楽しそうなところからスタートするのがよいのではないでしょうか。

宝探しを作る人はゴールから決めるので、「どこに隠すか」から始めるのもよさそうですね。

Q.中学生が宝探しに参加するだけではなく、宝探しを作る場合に、指導者として何を気をつけたらよいでしょうか

フォーマットを作って、「この部分にストーリーを入れましょう」と指導をすると、その枠組みでしか考えられなくなってしまいますね。フォーマットにこだわるのではなく、中学生に一度自由に考えてもらい、みんなで意見を出し合う形がよいのではないでしょうか。多様な意見が出て、良い形にまとまりやすいと考えます。

Q.私は大学入学後に、地域活性化のために謎解きを活用しているゼミに入りたいと考えています。地域活性化を目的とした宝探しを企画する際、コラボ先の方々とお話しするうえで大切にしていることはありますか。

最も重視しているのは、「雑談」です。

例えば、兵庫県相生市とコラボレーションした宝探しでは、お問い合わせの時点では、移住・定住の増加が目的であることは把握できます。しかし、そのうえで、具体的にこれまでどのような施策を実施し、何が良かったのか、あるいは何が悪かったのかといった経緯を詳しく知るようにしています。

特に、ロケハンを行う中での「この地域はお子さんが多いんだよね」など、何気ない雑談の中から、企画のヒントとなる新たな情報を得る機会が多いですね。

加えて、コラボ先のお客様と達成すべき明確な目標をしっかり設定することと、その目標に向けた定期的なアクションを取ることも、大切にしています。また、イベントの結果が思うようにいかなかったから「悪い」と判断するのではなく、改善点を探ったり共有したりして、次に活かすようにしています。


以上で、第173回千葉授業づくり研究会のレポートのご報告とします。ご講演いただきました安福さん、石丸さん、参加者のみなさま、誠にありがとうございました。

インターンシップ参加者の高校生と、千葉授業づくり研究会スタッフ

また、今回の研究会の運営は千葉県内の高校生インターンシップのみなさまにご協力いただきました。高校生の活躍の様子は別のブログでご紹介!高校生のみなさん、ご参加いただき、ありがとうございました!


千葉授業づくり研究会の参加方法

千葉授業づくり研究会にはどなたでも参加できます。

  

興味がある方は、こちらの開催情報をチェックしてくださいね!Zoomを用いたオンライン配信による参加もできるので、遠方の方も大歓迎です。

  

【記事担当:千鳥あゆむ】

千葉大学教育学部・藤川大祐教授の研究室と共にACEが開催している「千葉授業づくり研究会」は、年間を通じて(年7回)、教育界に留まらない幅広い知見を取り入れる研究会です。

今話題の業界や教育トピックスに関わる企業の方など、その道の専門家やプロを講師としてお迎えし、専門的な講話の提供と、それを教育に活かすための参加者によるディスカッションを実施しています。

その「千葉授業づくり研究会」では、千葉大学教育学部および千葉県教育委員会との連携のもと、高校生インターンシップ参加者の皆さまを受け入れました。令和5年度から継続しているこの連携イベント。今年度は11月開催の第173回研究会にて実施いたしました。

インターンシップに参加してくれた高校生は、将来、教員になることに関心のある皆さんです。

私たちは、参加する高校生たちに、研究会運営への参加を通じて、「教員になっても学び続ける現役教員の姿」や、「新しい教育を追求する大人の熱意」を直接感じてもらい、また、教育学部の大学生との交流が、高校生たちの将来のイメージを具体的にする機会となることを期待し、受け入れを行っています。

さまざまなテーマで実施している研究会ですが、11月研究会のテーマは「探究的な学びに活かす『街歩き×宝探し』を考える」。

国内で「街歩き×宝探し」のユニークな事業を展開する株式会社タカラッシュ様を講師にお招きし、学校で実施されている地域課題の探究学習を、より創造的で魅力的なものにするためのヒントを探りました。謎解きというテーマは、高校生にとっても関心が高く、イメージしやすい内容です。

このブログでは、高校生インターンの皆さんの活動の様子をレポートします。

(研究会自体の詳細レポートはコチラに紹介しています)


研究会でのお仕事と参加の様子

1. イベント運営をサポート!

研究会準備のため、研究会開始前に集まってくれた高校生の皆さん。千葉県各地から集まってくれた初めて会う高校生同士でしたが、互いに声を掛けあい、会場はすぐに温かい雰囲気になりました。研究会がスムーズに進むように、準備や片付けといったお仕事で運営にご協力いただきました。

2. 研究会への参加

講演中は、他の参加者の方々と同じく、一参加者として研究会に参加。

後半のディスカッションでも、臆することなく質問する姿は頼もしく、私たちも嬉しくなりました。

教員志望であるインターン参加者の一人は、大学では地域活性化と謎解きのゼミに入りたいと考えているとのこと。そこで、タカラッシュの講師へ、「地域の方々と話し合う時に大切にしていること」を質問していました。

タカラッシュの講師は

「自治体との雑談を大切にしていて、特に、ロケハンの時など、地域の方々が、本当はここをこだわって欲しかったなどの心残りが無いようにコミュニケーションに注力しています。」というお話や、

「目標の共有を大切にしています。楽しい謎も大切だけど、100人来てもらいたいなど、指標を一緒に定めています。また、上手くいかなかったらすぐ悪いということではなく、改善点を探ったり共有化したりして、次に活かすようにしています。」と、真摯にお返事してくださいました。

この高校生にとって、このインターンの参加がとても貴重な機会になったのでは?と感じ、気持ちが熱くなりました。

千葉大学教育学部と企業教育研究会(ACE)を紹介

研究会活動の時間とは別に、千葉大学教育学部とACEを紹介する時間も設けました。

1.千葉大学教育学部長(ACE理事である藤川教授)によるキャンパスツアー

千葉大学教育学部長の藤川大祐教授が、なんと自らの案内でキャンパスを紹介してくださいました。

千葉大学の敷地は広く、教育学部では、各教科に関わる研究室や建物がある他、隣接して教育学部附属の小学校・中学校があることは珍しい特徴の一つであることが紹介されました。立地を活かして大学の授業(90分)の時間内に隣接の附属小中学校で授業実践をすることもあるなど、研究と共にある大学の学びについて教えていただきました。

また、この日は土曜日でしたが、構内を回っていると教職大学院の講義をしている教室が…

講義を実施されていた伊藤裕志特任教授は快く高校生を教室内に招き入れて下さり、「教職大学院の学生は現職の教員が多いので、大学教員が教えるというよりも、協議を通して互いに学び合う活動を大切にしています。」と説明してくださいました。

さらに、教育学部には教員を目指す大学生の支援として「教職サポートルーム」があり、退職した元教員の方に日中相談ができ、教員採用試験に向け、模擬授業の練習などに付き添ってくれる体制があることも説明いただきました。

大学の先生方から直接、教育学部の役割や、教員を目指す皆さんに向けた期待のメッセージをいただき、大学のキャンパスを体感できたことは、大きな刺激になったことと思います。

2.ACEの事務所見学、大学生や職員との交流タイム

企業と連携した教育支援を実施しているACEの団体説明や授業づくり、オススメ書籍などについての紹介と、ACEに所属する学生スタッフでもある教育学部の大学生や、職員との交流の時間も設けました。

高校生インターンのみなさんにとって、将来や、教員、教育学部への進学に対して不安や疑問が和らぎ、より教育に対して関心が高まる時間になっていたら嬉しいです。

参加高校生の感想

参加した高校生の皆さんからいただいた感想を一部抜粋して紹介します。

・企業の人などの講演を聞けてとても面白かった。難しい質問がきても、すぐに想像以上の回答をしていて、そのような人になりたいと思った。その裏にはたくさんの知識があるからこそ上手く言語化出来ているのだと思った。
 
・教育に強い思いを持つ方々のお話を聞いて、教師だけではなくこんな教育を受ける側のことをたくさん考え、時には研究して教育というものをより良くしていこう、新しくしていこうとしていく人達が凄くかっこいいなと思いました!
 
・自分ではなかなか知ることが出来ない日常のエンタメをどう教育に活かしていくべきかという観点から学びを深めることができた。
 
・今まで教員としての目線でしか将来を考えたことがなかったのですが、宝探しを作るという目線で教員の仕事との共通性を考えることができ、視野が広がったと感じます。
 
・普段の自分が受けている授業などを違った視点から見るきっかけになったので、よかった。
 
・進学先では観光映像や地域活性化事業を専攻します。元々教員志望で、教育に関わって行きたいと今でも考えています。今回の企画を通してより一層教育に関わっていたいと思いました。企業の方や教育現場で働いている現役の先生とお話しできたことは貴重な場だと思います。
 
・授業をよりよくしようと企業が活動してくれていたことを知ってもっと他の活動も知っていきたいなと思いました。
・千葉大学教育学部がどのようなつくりになっているのか、またどんなことをしていてどんな雰囲気なのか、どんな魅力があるのかを見学の中で藤川先生や教育学部の学生にフラットな雰囲気で聞くことができた。
 
・現役の中学校教員の方から話を聞いたり、授業づくりの新しい見方を知れてとても良い経験になったと思います!
 
・自分のなかにあった固定観念が大きく変わった。特に大人同士のディスカッションって何か堅苦しいというか、すごく真面目なイメージがあったが、実際はふとした雑談も交えられてて、むしろその雑談からひらめきやアイデアが生まれるんだなと知れた。こういった企画には今まで参加したことがなかった身だが、とても勉強になったし、楽しかった。ぜひまた機会があればこういったイベントや企画に参加してみようと思えました。

一生懸命活動してくれた高校生インターンの皆さんありがとうございました。

未来の教育を担う皆さんの今後のご活躍を、ACE一同、楽しみにしています!

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