2025年12月20日(土)に、第174回「千葉授業づくり研究会」が開催されました。今回のテーマは、「ファイナンシャルプランナーと考える、これからの金融教育と資産形成」。保険や金融商品の専門職であるファイナンシャルプランナーの大久保成椰さんを講師にお招きして講演いただきました。
近年、学校の金融教育でライフステージの各段階で必要なお金を準備するために、資産形成や、自己の価値観に基づいた計画的なお金の使い方に関する内容が扱われています。また、高等学校の探究学習などで、投資や金融をテーマに選ぶ生徒も増えているそうです。
今回の研究会では、まず資産形成に関わる資産運用など金融に関わる基礎的なところから大久保さんに教えていただき、研究会後半に「自己のライフプランに基づく資産形成」に着目した金融教育についてディスカッションを行いました。
「テーマが金融教育で、講師が保険会社の方!?」と、意外に感じる方もいらっしゃるでしょうか。
今回の企画の背景には、金融教育に資産形成の内容が取り入れられる中で、専門知識の不足を感じている先生が多いことや、投資について探究学習に取り組んでいる高校生から「資産運用を始める際の注意点」などの質問が寄せられたことがあります。
「ライフステージの各段階で、どのようなリスクを想定して、どのように資産に関する意思決定をすれば良い?」
「リスクシミュレーションや資産運用の具体事例は?」
こうした点について、資産形成とリスクのコントロールの両面に専門性を持つ保険会社の方のご知見を伺い、先生や児童生徒の疑問に即した金融教育を考える研究会を企画しました。
本レポートでは講演会と、教員・大学生・高校生を交えたディスカッションの様子を詳しくお伝えいたします。資産形成や金融教育に関心のある方は、ぜひ最後までお読みください。

今回の研究会では、保険や金融商品の専門職であるファイナンシャルプランナーの大久保 成椰さんに講演いただきました。
講演に先立ち、今回は参加者の自己紹介を行い、各自の名前や参加理由を共有しました。
現職の学校の先生(中には、ファイナンシャルプランナーの資格を持っている方も!)や、教育や資産形成に関心のある大学生、探究学習で投資や金融商品を調べている高校生など、多様な参加者がいらっしゃいました。
一人一人の自己紹介を丁寧にメモしながら聞いてくださっていた大久保さん。
講演の最初に、高校生の1人を指名し、「資産形成や資産運用って、どんなイメージがありますか?」と問いかけました。
突然の質問に驚いた様子の高校生でしたが、「何から手をつけて良いかわからない」と率直な意見を回答してくださいました。

この回答を聞くなり、大久保さんは「来てよかったです!!」と明るい声で返し、「本当にそうですよね」と高校生の疑問を真摯に受け止めました。
大久保さんによると、「資産形成とはゴールで、資産運用とはゴールに行くための手段」とのこと。
例えば、目的地を決めずにタクシーに乗る人がいないように、資産運用も「どのくらい資産を持ちたいのか」というゴールを決めずに始めるものではないそうです。
資産形成というゴールから逆算して、どのような手段で資産を運用するのかを考えることがとても大切だと、大久保さんは強調しました。
とはいえ、高校生の回答にあったように、ゴールを決めたり、手段を検討したりするために「何から手をつけたら」良いのでしょう……?
そこで、大久保さんは次のように述べました。
「これをやったら人生勝ち組ですよ、これをやったら絶対儲かりますよ、という話はできません。今日は、実際のお客さんの具体事例を交えてお話しますが、人それぞれ相談事が違うので、これが正解ですということは言えないのです」
近年の学校教育では、家庭科を中心にライフステージの各段階で必要な資産を準備するために必要な学習内容として、自己の価値観に基づいた計画的なお金の使い方や、金融に関する知識が扱われています。
価値観は人によって多様なので、1つの定まった正解がないことや、それゆえにどうすれば良いのかわからないという意識を多くの先生や児童生徒が持っていると言われています。
参加者の注目が集まる中、大久保さんは、しっかりした口調で続けました。
「ただ、こういう選択肢があるんだなとか、自分だったらこうしてみようかな、こうしたいかなって思い浮かべるようになっていただけたら良いかなと思っています」
会場を見渡しながら、そう語った大久保さんの頼もしさが、参加者に伝わっていったようでした。
多くの人々のライフプランに寄り添い、資産形成などのゴールへ向かうための相談に乗ってきた大久保さんは、多様な手段・道程の頼れる案内人なのだなと感じました。
個人の資産形成が重視される背景として、はじめに大久保さんから現在の日本の経済状況を概説していただきました。
世界的にはGDPが右肩上がりの状況がある一方で、日本の伸び率は他国に比べて上がっていない傾向があります。
また、日本では2008年をピークに人口が減少傾向になり、先進国の中でも高齢化が進んでいます。
生産年齢人口が減少し続けるという予測は、今後の日本の経済成長の大きな課題です。
大久保さんによると、こうした状況に鑑みて、現在ではグローバルに視野を広げて資産形成をしていくという選択肢が重視されるようになっているそうです。
「どういうことだろう?」と注目する参加者に、大久保さんはクイズ形式で問いかけながら解説してくださいました。

例えば、1000万円の資産形成を目標にした時、毎月3万円をタンス預金(金利0%)すると目標を達成するまでに27年以上かかります。一方で、年率5%の利回りで運用しながら積み立てると、手数料や課税を考慮しなければ17年ほどで目標を達成できます。
経済成長率が高い国では、利回りも良くなるので、より効率的に資産形成ができる可能性があるということです。
日本の経済環境では銀行の金利が上がったとしても、まだ運用した場合の金利とは大きな差があるため、経済的な成長傾向にある世界の国々を視野に入れた資産運用が重視されているそうです。
さらに補足して、大久保さんは物価上昇率にも言及しました。今の大学生や高校生が50歳、60歳になる時には、現在よりも物価が上がっていることが予測されます。このことに鑑みると、ライフステージが上がった際に必要な資産を準備するために資産運用の重要性が高まっているということでした。
資産形成というゴールを設定するにあたり、人生の各段階で、どれくらいの資産が必要なのでしょうか。
大久保さんによると、人生の三大資金とは「子どもの教育資金」「住宅購入資金」「老後の生活資金」であり、実際にお客さんの相談も多いとのことです。
子どもを持つか持たないか、私立と公立のどちらで教育を受けるか、どこに住み家を構えるかなどによって金額は変わりますが、それぞれの参考値は以下の通りです。
子どもの教育資金・・・約1118万円
住宅購入資金 ・・・約3603万円
老後の生活資金 ・・・約6973万円
いずれも多額の資産を要しますが、大久保さんはファイナンシャルプランナーとして相談を受ける際に心がけていることを次のように語りました。
「必要資金を貯めるために今の生活を苦しくするのも間違っているし、今豪遊して将来が心配になるのも避けなければならない。そこで、お客さんと一緒に目的を決めて、ゴールを決めて、それに向かっていく手段を一緒に決めるということが大事なのかなと思います」
ライフプランにおいて重視したいこと、実現したいことなどを決めることで、必要な資産が明確化され、資産形成というゴールが設定できる。
導入で提示された、「資産形成はゴール、資産運用は手段」ということが、改めて腑に落ちました。
ここで、大久保さんは参加者全員に質問を投げかけました。
「老後資金を貯めるために、A:自宅でタンス貯金、B:金融商品を活用して運用、C:社会保証制度(国民年金や厚生年金)に任せる、の中で、どの手段を選びますか?」
多くの参加者がBを選ぶ中で、どの選択肢も選ばなかった参加者がいらっしゃいました。
大久保さんが理由を訊ねると、「全部ちゃんとやるのが良いと聞きました」とのこと。

実は、その回答が大正解。
大久保さんは「金融商品を用いた運用には相応のリスクがあるため、いずれかに振り分けるのではなく、安全に資産を貯める方法と、リスクを取りながら効率的に資産を増やす方法をバランス良く決めるのが重要」とポイントを示してくださいました。
大久保さんいわく、金融商品の中でも積立NISAは利益に対して課税されないことに鑑みると、国としても社会保障制度だけに頼らず、リスク・リターンのバランスを考えて資産形成を促したい意向が窺えるそうです。
では、実際に資産運用を行う際、どのようなリスクや注意点に気をつけるべきでしょうか。この点については、事前に高校生からも質問が寄せられており、いよいよ講演も核心に迫ります。
大久保さんは、参加者全員が理解しやすいように、金融商品の基礎的なところから解説してくださいました。
金融商品には元本保証があるもの(預貯金など)と、価格が変動するもの(投資信託など)があります。
前者は、金利が低い場合は資産が増えづらい一方で、資産が目減りするリスクは低いと言えます。
後者は、預貯金以上の資産を増やせる可能性がある一方で、状況によって資産が目減りするリスクがあります。
そこで、分散投資や積立投資など、ある程度リスクを分散しながら長期に運用することで、リスクとリターンのバランスを取ることが重要とのことです。
ここで、「なぜ、長期運用が重要になるのだろう?」という疑問を持った参加者もいたのではないかと思います。
大久保さんは、金融商品をみかんに例えて、分かりやすく説明してくださいました。
例えば、みかんの価格は時期により変動します。そのため、毎月決まったタイミングで一定の金額を投資すると、同じ金額でも時期によって購入できるみかんの数が変わります。
投資のプロであれば、最もみかんの価格が低い時にたくさん購入して、みかんの価格が高い時に売却して利益を出すことができますが、一般の人はそう上手くはできません。
そこで、長期的に運用しておけば、みかんの価格が高い時期・低い時期を繰り返す中で総合的に利益を出しやすいということでした。
一方で、1つの金融商品(みかん)だけに投資すると、その商品の人気が下がった時に利益が得られなくなるというリスクにも注意が必要だと、大久保さんは指摘しました。
そのため、いくつかの金融商品に分散投資して、リスクをコントロールすることが重要とのことです。
また、金融商品の価格が下がった時に、すぐに見切りをつけるのではなく「たくさん買って価格が上がった時に利益を出せるかも!」という見方をするのも大切だと、大久保さんからアドバイスもいただきました。
資産形成と資産運用の基礎的な仕組みや注意点について理解が深まった所で、最後は実際に自ら意思決定を行う際のポイントについてお話しいただきました。
金融商品には、国内外を含めて、様々な銘柄があります。
資産形成のために、金融商品を活用した資産運用を検討する際、「金融商品の性格」に注目する必要があるそうです。
大久保さんによると、金融商品の性格を捉える際、「収益性」「流動性」「安全性」という視点が重要とのことです。
これらを全て満たす金融商品は存在しませんが、様々な金融商品の長所・短所をそれぞれの視点で評価し、最も自分の目的に合ったものを選択することが意思決定のポイントになると大久保さんは強調しました。
では、実社会の人々は、目的に応じてどのように資産形成に関わる意思決定を行っているのでしょうか。大久保さんに、実際のお客さんの事例を元に紹介していただきました。
具体例1:25歳、年収400万円、一般企業勤務
数年の間に結婚のための資金が要るが、ほとんど貯金はない。
→この人の目的を達成するためには、数年の間にお金を貯めて、結婚が決まったタイミングで引き出せるようにする必要がある。そこで、流動性が高くいつでも引き出すことができ、安全性も高い銀行貯金を選択した。退職金が多い企業に勤めていたので、月々の資産運用を増やす必要はあまりなく、投資は貯金にゆとりができた時に検討することにした。
具体例2:35歳、年収550万円、公務員
子どもの教育資金を貯めるために積立NISAを検討している。
→この人の目的を達成するためには、子どもの就学などのタイミングで必要な資金を使えるようにする必要がある。NISAは長期運用することで強みが発揮されるので、タイミングによっては十分な利益が得られる前に資金を使うことになり、もったいない。そこで、リスクが少なく確実に資金を増やすことができる国債や固定金利の金融商品を選択した。
具体例3:60歳、年収1200万円、公務員
65歳までは働く予定で、貯金も豊富なので、退職金の置き場に困っている。
→この人の目的を達成するためには、退職金を預けることが有効だが、同時に資産を増やすことができれば老後資金も心配しなくて済む。そこで、利率が15年間固定されているアメリカの株式など、退職までの期間に運用益が見込める金融商品を活用した運用を選択した。
具体事例からも、大久保さんが一人一人のお客さんのライフプランや目的に寄り添い、その達成に必要な資産を準備するための手段を一緒に考えていらっしゃることが窺えました。
「自分がどうなりたいか、将来どういう風に生活したいかといった目的を決めて、そこに向かうための手段として、どのようなお金の持ち方が良いのか、適している金融商品は何なのか、性格や価値観もふまえて考えていく」
講演の結びに大久保さんがおっしゃったことが、私たちが自ら資産形成のために意思決定をする際の本質的なポイントなのだと思いました。


研究会の後半には、千葉授業づくり定番のディスカッションが行われました。オンライン上で質問ができるサービス「Slido」を使い、参加者と登壇者で議論を行います。
質疑応答では、多様な視点の質問を通して、資産形成について多角的に理解を深めることができました。
また、普段は「教える側」である大学・高等学校・中学校の教員と、「教わる側」である大学生・高校生が共にアイディアを出し合い、新しい金融経済教育の授業や教材について考えることができました。
ここからは、ディスカッションの内容を一部抜粋要約してご紹介します。ぜひ最後まで読んでくださいね。
Q.現在17歳の高校生です。18歳になったら投資ができるようになりますが、どのくらいの金額で、何から始めたら良いのでしょうか?
まずは、原資をどのように得るかが大切になります。例えば、大学生になって一人暮らしをする場合、学費や生活費がかかる中で運用に回せるお金は多くありません。18歳になったら、ぜひ投資を始めてみてほしいですが、その際に自分の生活に支障が出ない範囲で原資にする金額を決めた方が良いです。
例えば、5万円のバイト代があるなら5000円投資に回すなど、生活や、自分がやりたいことに差し支えがない範囲で始めるとやりやすいですよ。また、18歳から始めるなら、途中で引き出す可能性も考えて、流動性が高い運用方法が良いと思います。
ちなみに、生活費のシミュレートができるアプリや家計簿アプリを使って必要なお金を試算した上で、運用に回る金額を決めることもできます。

Q.資産運用について勉強したいのですが、おすすめの本などはありますか?
ファイナンシャルプランナーの資格の勉強がとても参考になると思います。
資産運用を始める時に、世の中の情報に流されてしまうのは怖いことなので、勉強することはとても大切です。
例えば、ファイナンシャルプランナーの勉強の中で、不動産や様々な金融商品について学ぶ中で、自分に合うものに気づくこともありますよ。
Q.来年社会人になる大学生です。奨学金の返済が始まるのですが、月々の返済金額をどうするか悩んでいます。
まずは、早く返済を終わらせたい、投資を優先して資産を増やしたいなど、ゴールを決めるのが大切だと思います。例えば、なるべく返済期間が長いプランで考えて、大きな収入が得られた時に繰上げ返済するという方法もあります。
ゴールから逆算して、ご自身で納得できる方法を考えられると良いですね。
Q.中学校の教員です。中学生にとって、資産形成は遠い未来の話のように思われがちだと思います。中学生でも実感できる金融教育の切り口はありますか?
金融経済教育推進機構のホームページに、様々な教材が公開されているのでお勧めです。
例えば、カードゲーム形式で、人生設計と資産形成を学ぶことができる「生活設計・マネープランゲーム」という教材があります。
このゲーム教材では、トラブルが発生した時に保険のカードで解決できるルールがあって、リスクへの備え方も扱うことができます。
まずはゲームで関心を高めた上で、資産形成の基本を学ぶような流れが良いと思います。
なんと、今回参加した高校生の1人は、このゲームを中学校の進路学習で体験したことがあるそうです!

Q.老後の備えと、今の生活を楽しむことのバランスを、自分の価値観に鑑みて考える必要があると思いました。大久保さんは、どのような価値観をお持ちなのでしょうか?
私は概ね「今」派ですね。「今」を充実させることが、仕事への活力にもなると思います。資産運用を将来への安心材料にして、さらに「今」を楽しめるようにしていると思います。
中高生にも、まずは自分の価値観を醸成することが、金融教育において大事ですよね。価値観を教わる最も身近な相手は保護者かと思います。
一方で、これから子ども自身が投資できる制度が始まります。バランス感覚の勉強になるという側面もありますが、一方で知識や価値観が身につく前に投資を始めるのはリスクもあるので慎重に考える必要があるかと思います。
また、学校の金融教育では外部講師を呼ぶことがありますよね。私も講師を担当することがあるのですが、講演を聞いた子どもたちが「じゃあ、これで良いじゃん!」となってしまうと、価値観の醸成につながらないのではないかと思っています。
そこで、講演の後に学校の先生にフォローしていただいたり、できれば複数の立場の講師を呼んで価値観を相対化できたりすると良いかと思います。

Q.社会科の教員です。今の金融教育において、間接金融から直接金融に注目が移っているように思います。ただ、間接金融から、金融と社会や企業のつながりを学ぶことも大切ではないかと思うのですが、いかがでしょうか?
※間接金融:https://www.j-flec.go.jp/public/learn/glossary/k_kansetsu_kinyu/
※直接金融:https://www.j-flec.go.jp/public/learn/glossary/t_chokusetsu_kinyu/
直接金融であれば、自分の興味がある会社に投資してみると金融と社会のつながりがわかりやすいと思います。興味がある会社であれば自然と動向に目が向くので、会社の動きと株価の変動に気づくこともできます。
投資信託では、投資する会社は選べませんが、市場社会への投資について学ぶことができるかと思います。会社の社会的信頼についての学びにもつながるかもしれませんね。
中学校の先生からの情報提供:
昨年、廊下に経済新聞を掲示して、生徒が1週間ごとに気になる企業を調べたり、模擬的に株を買うシミュレーションをしたりする活動をしていました。毎週、生徒たちが株価の変動に注目していて、上がり下がりに一喜一憂する様子などがみられて面白そうでした!
Q.金融商品を選ぶ際に、AIを使って判断することについて、どう思われますか?
「どの銘柄を買うのが良いか」を判断するためにAIを頼りにするのはリスクがありますが、想定しうるリスクの洗い出しや、リスクを避けるための選択肢(分散投資など)を検討する時に使うのは良いかと思います。
ただ、リスクを洗い出す際に、家計の課題などを総合的に見ないといけないのですが、人には意外と「見ないふり」をしている課題があるものです。お客さんの相談に乗っていても、旦那さんが席を外した時に奥さんが「実はね……こういうことがあるの」みたいにこっそり教えてくれることもあります。逆に、私の方から突っ込んで訊くこともあります。一人でAIを使うと、そういった隠れた課題を見落としてしまう可能性があるかもしれません。
生成AIの教育活用を研究している参加者からの情報提供:
生成AIに「資産運用について聞いても良いですか」と入力してみたら、「良いですが、価格予測、売買のタイミングの判断、勝てるかどうかの判断は任せてはいけません」と言っています!使えるところと、使えないところが、AIもわかっているみたいです。
Q.金融教育を担っていく学校の先生には、不安もあると思います。ここを押さえておけば大丈夫というポイントはありますか?
講演でも触れましたが、収益性、安全性、流動性の3つは抑えるべきだと思います。全てを満たす金融商品はないので、長所・短所をよく考える必要があるということですね。
また、みかんの例で説明した長期運用・積立投資の話も重要です。実は、NISAを2年で解約する人が70%もいるのです。価格が下がると「もうダメだ」とすぐに辞めてしまう人が多いのですが、根気よく続けていくことが利益を得る上で大切です。
また、毎日株価の上がり下がりを見る必要はあまりないと思います。気持ちも落ち込みますし、長期運用ならそこまで気にしなくて大丈夫かと。家賃や光熱費くらいの頻度で見て、「あ、増えてる!」と思うくらいで良いと思いますよ。
Q.数学の教員です。数学の良いところは、価値観などを抜きにしてシンプルに構造として仕組みを理解できることだと思っています。価値観をすぐに醸成するのは難しい面もあるかもしれませんが、数学的に構造を捉えるような学び方はできるでしょうか?
数学は金融経済の学習でも重要ですよね。
構造を理解した上で、最終的にどのような判断をするかが重要になると思います。
数学の先生からの情報提供:
資産運用に関する数学は、ほとんどが大学で学ぶ内容なのが難しい点です。期待値の学習で、自分の感覚と実際の利益率のズレを体験することはできるかもしれません。分散投資のメリットが数字で見られる一覧表を使った学習もわかりやすいと思います。
複利の計算なら、中学生でもできると思います。
生成AIの教育活用を研究している参加者からの情報提供:
シミュレーターの裏側の一部に関わる数学的な仕組みを学ぶ教材は、生成AIでつくれるかもしれませんね。
ただ、ファクトチェックは必要なので、数学の先生や、大学の研究者に監修していただけると良いと思います。

Q.自分の価値観やリスク・リターンを考えて意思決定を行うということは、身につくまでに時間がかかると思います。小学生にどう伝えていったら良いでしょうか?
中学生以上なら、リスクはこちらから指摘するというよりも、自分で気がつくものになっていくと思います。また、少子高齢化など、リスクの背景にある社会情勢についても、知識があるので理解しやすいでしょう。
ただ、小学生の場合はまだ難しいので、「何かあった時に備えておく必要性」から学ぶのが良いのではないかと思います。「何かあるかもな」で止まるのではなく、何かあったらどうするか、どういう対応ができるかなどを、少しずつ伝えるのが良いのではないでしょうか。また、先ほど紹介した「生活設計・マネープランゲーム」は小学6年生くらいでも出来るので、導入に活用しても良いと思います。
以上で、第174回千葉授業づくり研究会のレポートのご報告とします。ご講演いただきました大久保さん、参加者のみなさま、誠にありがとうございました。

千葉授業づくり研究会にはどなたでも参加できます。
興味がある方は、こちらの開催情報をチェックしてくださいね!

高等学校の教員を経た後、平成31年に千葉大学大学院教育学研究科に進学し、「NPO法人企業教育研究会」の基盤である藤川大祐教授の研究室に所属。大学院では、主に中学生を対象にゲームや演劇の手法を取り入れた授業について研究。
翌年の令和元年から「NPO法人企業教育研究会」の授業開発研究員として勤務し、企業連携による授業づくりや研究発表を担当。エンターテイメントの手法を応用した教材開発や、学芸員資格を活かしたミュージアム連携の探究学習プログラムの開発などの経験を重ねる。
修士(教育学)取得後、実務家教員として千葉大学の教職課程の講義や、千葉大学大学院教育学研究科における外部連携の授業づくりに関する講義なども担当。
高等学校・中学校・大学で通算10年間の教員経験を持つ。
アントレプレナーシップ教育の新教材 『ひな社長の挑戦』 が、2月8日(水)佐倉市立佐倉東中学校にて教材として活用され、報道機関の方にも公開されました。現場の先生が実際に授業実践された事例をぜひ見ていただき、アントレプレナーシップ教育に関心のある学校が一歩を踏み出すきっかけとなれば嬉しく思います。

ミッション1では、2125年の中学2年生からの依頼を受け、架空の街『虹が崎市』を舞台に、生徒たちは準備された資料を読み込み、設定の地域に適した新規事業を考え提案します。
音声付きアニメーションスライドと先生の発する上手い掴みの言葉に導かれ、笑い声も起きる中、生徒たちは教材の世界観にすんなりと入り込みました。

資料の読み込みと新規事業検討(ワークシートの記入)の場面では『20分』の時間を取り、先生は机間巡視でサポート。教材の世界観では、宇宙にも人が住む時代設定のため、「宇宙の人にとっては魅力が・・・」などの言葉が飛び交い、生徒たちは、資料を見ながらもすぐに話し合いを開始している印象でした。

最終的には、自分たちが資料から読み取った根拠を基に考えた新規事業について、理由と共にしっかりと発表できました。
同じ教材でも、授業を進める先生ごとに板書を使用するか、生徒への声の掛け方等の違いがみられることも印象的でした。担当の先生はそれぞれのお考えで工夫され、どのクラスの生徒も集中して取り組んでいました。
ミッション2では、ミッション1にて立ち上げた事業を始動するため、関係団体の方へ協力を依頼するメールを作成します。本教材は、ギガスクール構想で各生徒が持つようになった一人一台端末を活用し、スプレッドシート内にメール文章を作成できるように、ダウンロード教材が準備されています。
今回の授業では、2人1組で1台の端末を使用し、相談しながら活動していました。端末から該当のスプレッドシートを見つけることやタイピングについては、慣れない手つきの生徒も多く、少し時間を要している様子でした。
メール文章作成については、紙の資料を参考にしながら、一人が文章を声に出し、もう一人が打ち込む姿も多く見られました。時間内にメールを書ききれた生徒は少なかったかもしれませんが、文中の言葉遣い等に悩みながらも活動を進めていました。
スプレッドシートでは、下記の例のように、メールの書き出しはプルダウンで選択でき、続きの文章もキーとなる言葉を盛り込めばチェック欄に〇が出たり、交渉に必要な触れるべき内容が一目で分かるチェックボックスがあったりと、初めてメールを書く生徒にも取り組みやすくなっています。

今回の公開授業では、報道機関の方々が取材にお越しくださいました。
授業後には生徒や先生、校長先生にお話を伺いました。
その内容の一部を紹介します。

難しさを感じつつも内容を理解し、起業を自分事と捉えて活動できたことが伺えるインタビューでした。

スライドのアニメーションを巧みに活用して笑いを誘うなど、生徒たちを惹きつけて授業をしてくださった酒井先生。生徒には難しいのではと予想した部分も、実際は思った以上にできるという嬉しい誤算もあったのではと感じます。授業準備も、起業について別途調べ上げる等の大きなご負担はなく実施いただけたのではと思います。

大変な状況の中、子ども達のためにという熱い温かい思いが溢れる校長先生のお話を伺い、胸が熱くなりました。
大きな声でさわやかに挨拶をしてくれる生徒の皆さんが印象的な、気持ちの良い素敵な学校でした。
今回の公開授業に際し、校長先生を始め先生方には多大なご協力をいただきました。
この場を借りて厚く御礼申し上げます。
12月17日(土) 淑徳大学・松浦俊弥先生にご講演いただき、第153回千葉授業づくり研究会「共生社会への道 障害者の社会参加を支える連携 〜「学校」と社会をつなぐ!〜」を実施しました。
弊会職員・古谷さんがかつて教員や指導主事として特別支援に関わる中、ピンチを救ってもらったと尊敬してやまない存在の松浦先生。
当日は、社会全体の障がい者の生活の現状や、社会参加して生きていくために必要と感じている企業、学校との協働への想いなど、力強くお話しいただきました。
今回は、グラフィックレコーディング※1という特技をお持ちという、参加者の佐藤さんが描いた素晴らしい「まとめ」、かつ素敵な絵と共に、研究会の様子を報告します。
研究会開催概要は以下
https://ace-npo.org/wp/archives/study/cjk153
※1グラフィックレコード:ホワイトボードや紙に、会議や議論などの内容をデザインとして可視化し、整理していく手法。テキストだけの情報と違い、イラストなどで感覚的にも把握しやすいということで、注目されている。
■講師 松浦俊弥先生について
千葉県の公立学校にて、中学校と特別支援学校の教員として28年お勤めの後、淑徳大学大学院にて社会福祉学を修められました。
社会活動家、臨床発達心理士、自閉症スペクトラム支援士(エキスパート)。
教員時代から、障がい児を対象とした千葉県初の学童保育所を運営するNPO法人「あかとんぼ」を設立されるなど、公私にわたり障がいを持つ子供たちの支援に携わるなど活発に活動される。
柏市障害福祉専門部会長、白井市障害福祉計画策定委員会座長、四街道市特別支援連携協議会委員。
著書に、「障害のある子どもへのサポートナビ」(北樹出版)等。
■講演概要
松浦先生のお話の中から、抜粋してご紹介します。
(1)ものの見方を変えよう
障がいのある方は社会から「支える」「守る」「手伝う」べき人々と捉えられがちだが、障がいがある方に「支えられる」「守られる」「手伝ってもらう」社会であっても良いはず。
障がいのある方にも社会参加を進めてもらい、「働き手になる」「消費者にする」「ボランティアに参加する」等を考えていきたい。
実際知られていないだけで、企業の方などに特別支援学校での活動を見ていただくと、職業訓練等のレベルの高さに驚かれることも多い。偏見を減らし、企業の方にも障がいのある方々の採用は、CSR※2ではなく、戦力として認識される社会になってほしい。
2022年9月、国連の権利委員会により障害者権利条約について改善勧告もなされ、障がいのある方を分ける特別支援学校自体が疑問視された。日本は障がいのある方々を分離する社会で、インクルーシブではない傾向。
改善のため、学校教育はどうあるべきか?企業は特別支援教育とどう連携すべきか?
※2 corporate social responsibilityの略(企業の社会的責任)。企業は、利益追求、法令遵守だけでなく、人権を尊重した適正な雇用・労働条件、消費者への適切な対応、環境への配慮、地域社会貢献等々、の義務があるとし、市民としての企業が果たすべき責任をいう。
(2)障がいがある人の社会参加について
①身体障がい者、知的障がい者、精神障がい者の内、職に就いているのは3%弱
で、また、定着率も低い。障害のある人の貧困率は高く、国民一般の5倍にも
のぼります。そして、生涯にわたり収入もほぼ増えていない状況。
②結婚している人はわずか4%、障がいを持つ方の圧倒的多くが未婚。関西で
は、知的障害者同士の結婚をサポートするボランティアがあるそうです。
③知的障がいがある方については基本的な社会生活における知識不足があり、
法的に自分を守る方法がわからず、助けを求めることが難しい場合がある。
そのため、様々な被害に巻き込まれてしまうことがある。
障がい者が社会参加をする上での基本的な考え方として、善悪に関わらず、障がいがない人が行う社会での振る舞いと同様の振る舞いが、障がいがある人にもあって当然という視点が必要なのでは。
(3)様々な社会問題との関連(詳しくは佐藤さんのスケッチをご参照ください)
①経済観念(お金の使い方)
②刑事事件(加害)との関連
③刑事事件(被害関係)
④刑事事件(組織犯罪)との関連
⑤いわゆる「ホームレス」課題
⑥少年事件
(4)特別支援教育についての課題
①勉強ができないだけで問題行動のない子供は、学校でも先生に見過ごされてしまう可能性がある。
②障がいのある子どもは、体験や経験から自然に学ぶことが難しい場合も。
③「何度言ったらわかる」とつい言ってしまうが
→ 理解力の問題で「何度も言ってもわからない」子供もいる。
④本当に必要な教育が行われていない!
・・・机上論では理解できない。実践的、体験的で具体的な指導が必要。
ロールプレイングが有効。
⑤卒後の社会支援体制も不十分なまま
・・・特別支援学校での職業訓練が、就職先で活かせる内容になっていること
が少ない。従って、本人にとって就職後が辛く、職場への定着が難しい
場合も。
(5)新たな可能性・提案
①特別支援教育への社会の誤解を解く
②卒後の社会支援体制を整える
③教育に政治を生かす
④子どもを守りすぎない
⑤我が国の偏見の歴史はとても長いことを理解する
⑥木がダメなら、森を攻める意識を持つ
障がいを持つ方々が、社会の中でどのような生活を余儀なくされているのか。多くの事例を盛り込み紹介いただきました。
学校教育というよりも、社会全体の問題として捉えていただきたいとのお話でした。

■ディスカッションタイムより抜粋紹介
ディスカッションでは、さまざまな話題で大いに盛り上がりました。
簡単にですが、話題に上がったことをいくつか紹介します。
(1)ICT教育など新しいことに対し、学校側からの拒否感もあると感じるが
一職員から、もしくは一学校からやりたいと声を上げることは難しくても、企業から声を掛けていただければNOとは言わないと思われる。また、特別支援活動自体の知名度が低いこともあるので、知名度を上げると共にトップダウンや、政治の巻き込みも大切と考えている。
(2)企業の方を説得する必要もあるのでは
企業の方には、ぜひ、障がいのある方も消費者として捉え、企業にもメリットがある存在として意識していただきたいと考えている。
(3)障がいがない方に正しく障がいについて伝えるには
障害年金含め、正しく理解してもらうことが必要。障がい保障ついては、税金の無駄ではなく、安心して生きていくためのものであり、自分たちも使う立場になる可能性があることを認識してもらうべき。
(4)親に障がいのある方の子供について(障がい者支援とヤングケアラーについて)
予算の問題もあるが、親子共々生活をまるごと支援するという方法もある。親の面倒を見ていれば、それをすべてヤングケアラーとして捉えていいのか、しっかり見据えなければならないと感じている。
(5)企業が障がいを持つ方への支援など考える際、何かやってあげるという感覚で関わってしまうのではと危惧している
企業には利益を求めて参入していただきたい。障がいのある方々を将来の消費者として捉えて考えてほしい。特別支援学校がどういうレベルなのかご存じないことも多いので、まずは知っていただくことからかと思う。ぜひ、企業関係者の特別支援学校見学を勧めたい。
好事例として、公園管理を障害のある方に担っていただくような連携や、農福連携で、農作業の一部、加工産業の一部を担っていただくものもある。障がいを持つ方でも出来ることを仕事として創る意識を持っていただきたい。
障がいがある方に特化した特例子会社など検討できれば、障がい者雇用率に対し、企業にもメリットがあるはず。
(6)職業訓練の内容について
立派な革製品を作る訓練よりも、生活に直結した必要な知識(社会のタブーや性教育など)を学ばせることも重要と考えている。
(7)知的障がいをもつお子さんにとって理想的なキャッシュレスについて
一人ひとり発達段階が違うのでとても難しい。大切なのはリスクをきちんと教えること。大人になった時の生活を考え、フィードバック的に必要な支援を考えるのが良いのでは。キャッシュレスなどの使用を第三者が管理するにも、成年後見制度はハードルが高いので、もう少しライトなものがあればと感じる。
(8)特別支援ではなく通常のクラスにいるグレーゾーンの子供を助けるには
まずは、特別支援の素晴らしさを説く。そして、障がいのある子どもの生活の実情を話し、それを改善する最適な教育は特別支援教育が担っていることを説明する。
(9)性教育について
具体的な教育が必要。性器の洗い方や、自慰行為との向き合い方など。ただ、保護者を含めなかなか理解が得られず進んでいない状況と認識している。松戸市などは実践用資料などあると聞いている。
(10)IQレベルに合わせた教育を
実年齢よりも理解度が低いこともあるので、個人個人に合わせたレベルの教え方が必要。しかし、発達段階に合わせる必要はあるが、表現はあまり幼いものにするのではなく、年齢相応のものを用意する方がよい。それをしないと、教える側の人権感覚(相手への年齢に合わせた接し方)も鈍ってしまう。同年齢の人にしないことは、障がいがある人に対してもやってはいけない。
(11)教材にも個人に合わせた個別対応が重要と思われる点について
その対応には、ICTが適していると感じている。絵本的なものより、アバターなどを使うと高校生でもウケが良い。
(12)障がいを持つ方向け専用の仮想通貨を創る!というアイデアが出ました
お給料の代わりにポイントを貰い、それを本人が好きに使うなどできると面白い。ポイントにすることで、お金の概念を得にくい人も容易に使えたり、他者に給料を搾取されてしまったりする問題にも、使用者が障がいを持つ方に限定されることで解決の可能性があるのでは。また、特別支援学校では経済的なことは現金で教えることが多いが、キャッシュレスなども経験として得るべきではないか。
■参加者の感想(職員:古谷)
駅で白杖を持っている方を見かけると、どうしても気になってしまいます。
「ホームにたどり着けるかな」「電車に乗れるかな」そして、時として声をかける等行動に移すときもあります。
このような意識にさせてくれたのは私が子どもたちに福祉に関する学びを提供したり、特別支援教育の指導主事として障がいをもつ多くの子どもたちや保護者の方々と接してきたりしたからです。
様々な経験から障がいを知り、障がいへの認識が変わり、そこから自らの行動につながっていっているのだと思っています。
認識を変え、行動化に移すには何事も「正しく知ること」から始まるように思います。
流山高等学園の生徒達の真剣な仕事ぶり、そしてその素晴らしい成果物。これを一般の人が見ればきっと認識が変わるはず。
松浦先生がおっしゃるように、障がいがある方に「支えられる」「守られる」「手伝ってもらう」社会に近づくためにも、障害のある方が何を得意とし、どのようなことで社会に貢献できるのかを「正しく知る」機会をどのように設けるか、教育に携わる者として真剣に考え、そして、実行に移していかねばという思いを強く持ちました。
また、弊会は設立20年目を迎えていますが、特別支援教育に関する授業プログラムは未だありません。この分野へのアプローチをしていくことは、より多くの大人に「正しく知る」機会をつくっていくことにつながるものと考えており、早速行動に移さなければという思いに強く駆られています。

今回はSOLIZE株式会社の増田秀仙さまを講師にお招きしてVRを活かした新しい授業についてご講演いただきました。講演の概要を以下に紹介いたします。
①SOLIZE株式会社の紹介
SOLIZE株式会社は主に3Dデジタルを活用したものづくり事業を核に発展した会社です。創業から約30年、今では全体で1,800名ほどの社員を擁する会社になり、そのうち半分以上の社員がエンジニア職とのこと。ものづくりの中心は自動車関連で、企画の段階から製品化された後の補給部品開発まで広い範囲で仕事をしています。特に3Dプリンティングを含めた、3Dデータを取り扱うというところが会社の強みであるそうです。強みである3Dの活用と、長らく社内エンジニアを育成してきたという経緯から、昨年XRと呼ばれるデジタル技術を活用したサービスを始められました。
XR技術というものは世の中でも定義が幅広くあるそうですが、増田さまが仰るにはSOLIZEとしてはARやVRを含む技術、またそれらの技術にかかわるヘッドセットやセンサー類、そしてスマートフォン等の周辺デバイスを含めてXR技術として扱っているとのことです。
教育サービスに関連するプラットフォームの名称はSADOKUで、学習コンテンツの販売や制作請負などのサービスを行っていらっしゃいます。SADOKUは学びの体験量・質を増やすことを目指したサービスであり、ツールであり、コンテンツであるそうです。サービスに使われる技術の特徴を整理すると、VR技術の良いところはリアリティや没入感があること、バーチャル空間だからこそできる体験型のコンテンツが提供できる点とのことです。リアルな世界をバーチャルにもってくる、リアルでできないことをバーチャルで行う、リアルに全く存在しないものをバーチャルで作ることが可能である点が利点とのことです。リアルとバーチャルを組み合わせることで体験の量と質が変わり、結果として学ぶ側の興味関心がより高まることで、主体的な学びにつなげたいという思いがあるとお話しされていました。
増田さまからは、教育界に対して難しさを感じているポイントにも言及があり、それは学習指導要領の内容が変更されることや、ICT活用に伴い学び方のデザイン自体が変わること、そして現場で実践する難しさ等であるとのことでした。それらの課題に対しVRを使って解決することを目指されていました。
また高校生約300名のアンケートで、なぜ文系を選択したのか、という質問に対して「理系が苦手だから」という回答を選択した生徒が57%ほどいたという紹介がありました。将来のキャリアを考えた時に高校一年生での文理選択が非常に大きな分かれ目になるにも関わらず、好き嫌いや苦手で決まってしまっているということを増田さまはもったいなく感じていらっしゃり、XRコンテンツを用いることで理系が苦手な生徒も「楽しいので少しやってみようか」、と考えられるようにしたいという思いも語ってくださいました。
増田さまは1年半VR活用をやってきた中で見えてきた課題として、以下の点を挙げられました。
・VR技術自体の認知度や理解が低いこと。
・学校現場においてVR技術の活用方法や、学習効果、授業実践を行うときの運用イメージがあまりないこと。
・子どもが重いゴーグルを45分かぶっていられるのかなどのデバイス自体について懸念があること。
・メタクエストのような教材の値段設定が高額であるため、デバイスを一人1台用意できるのかについて懸念があること。
・通信を使うコンテンツの場合、セキュリティや通信速度の関連で学校のネットワークでは対応できない場合があること。
・身体への影響の関連で国が子供の使用を規制しているコンテンツや、メーカー側の自主規制として13歳未満には使えないデバイスがあること。
課題は様々あるものの、教育現場のみなさんと一緒にそれらを変えていくことはできないだろうか、と考え努力されているそうです。
②VRの授業への活用の方向性
VR(ヴァーチャルリアリティ)とは何かを言い表す時に、東京大学のある教授が行った定義では「コンピューターによって作られた映像世界の中に入り込み、そこでいろいろな疑似的な体験をすることができる技術」とされているそうです。ここで定義されたVRは3つの要素に分解することができ、1つ目はディスプレイの要素、2つ目は体験・インタラクティブの要素、最後の1つはシミュレーションの要素です。VRはまずコントローラーを通して入力を行い、システムの中でシミュレーション、すなわち疑似的な世界を作り、その結果がディスプレイを通して様々な方法でユーザーに返ってきます。強調されていたのはVRというのは頭に重たいデバイスを付けるということではなく、本質は作られた映像世界の中に入り込んで疑似的な体験をすること、とのことです。
教材に関わる技術を入力システム、シミュレーションシステム、ディスプレイシステムなどの要素に分けていくと、それぞれの技術は数学、理科(物理)、情報などの知識と関連があり、例えば入力システムであればセンサーの制御、通信制御、電気回路、シミュレーションのシステムであれば、モデリング、画像処理、計算処理、ディスプレイシステムであれば、立体視、光学レンズ、電気回路です。生徒には、数学、理科、物理、情報などで学ぶ領域とかかわりが深いということは伝えられると考えているそうです。
またVRはゴーグルを使う方法の他に、パソコンやタブレット、スマートフォンを使う方法でも体験ができ、AR、MR、VRはそれぞれ異なる特徴があります。もともとはリアルという言葉への対比としてVR(バーチャルリアリティー)という言葉が登場したのが最初だそうです。その後AR、MRが登場し、リアルとバーチャルの融合、もしくは間にあるものとして捉えられるということですが、これらの違いはどれくらい現実よりなのか、バーチャルよりなのか、という点で分かれているそうです。ARは携帯電話のカメラで撮った映像の上にさらに何かデジタルなものがおかれるもののイメージ、MRはミックスドリアリティーと呼ばれるもので、現実とバーチャルが混ざっているようなイメージ。一言でいうのであればVRはバーチャルに入り込む、ARは現実世界の上にバーチャルを重ねていく付箋のような、3Dの奥行まで計算して表現できるMRは現実とバーチャルを融合するイメージだそうです。
SOLIZEとしては、バーチャルリアリティーを疑似体験ができるものとしてとして捉えているということです。例えばバーチャルの世界ではどこへでもいくことができるため、行きたくても遠くて行けなかった場所などに行く疑似体験を得ることができます。また、歴史的な建物の3Dモデルがあれば、過去の街並みを見に行く疑似体験も可能です。バーチャルな世界では時間の早回しや、自分以外のものの目線になること、パイロットシミュレーターなどもすることができます。これらをリアリティをもって体験できるのがバーチャルリアリティーの特徴であり、学びの中でも重要になってくる点であると考えているそうです。
③VR技術の教育活用について
VRが実際どのように授業で活用されているのか、具体例を挙げ説明いただきました。増田さまは、VR活用による様々な疑似体験や、シミュレーションを用いて試行錯誤する学び方が体験の量を増やす、体験の質を向上することに寄与すると考えています。さらに、VRはICT機器であるため、リモート学習ができ、リアルな体験にバーチャルを上乗せすることで学びの体験自体を増加することができ、また、シミュレーション的な要素で試行錯誤を重ね、リアルで体験できないことを体験できることで体験の質自体を変えるのではと考えているとのことです。
今流行りのメタバースについてもご説明いただきました。メタバースでは、あるバーチャル空間の中に遠隔地からでも複数の人間が入ってきて一緒に学ぶことができます。現在、授業はリアルで集まることが一般的ですが、VRでは離れたところからでもコンテンツをみなで体験し、結果の検討をバーチャル空間で行うことができるため、対話的な学びの実現もできるのではないかと考えていらっしゃるそうです。
次に活動内容を高等学校の科目に紐づけて分類した表を示しつつ、各科目におけるVRの活用について説明をいただきました。理系科目では数学や物理系は概念や数式のような見えないものを可視化することができ、直感的に理解できるところが大きなポイントで、理科・化学系は実験をバーチャルで行うことでプロセスを覚えることに活用できる点や、どんどんトライしても怪我をすることなく安全に失敗できる点、資材が壊れない点などの利点があるとのことです。文系科目の語学では、遠隔地の人々とのコミュニケーションを行う際に身振り手振りなどの情報量を増やしてコミュニケーションをとることが可能になります。最近はそれらの特徴を生かしたVRの英会話アプリなども作られているそうです。また地理・歴史ではどこへでも行ける、過去に戻っての体験が可能であり、社会科・公民では「こういうことがあったらどうする」というようなワークショップのようなものをバーチャル空間の中でいくつかシナリオを作って行うことも可能だそうです。例えば、バーチャル裁判所で活動することで、リアリティを感じながら、生徒にとって身近ではない裁判の体験をする機会を作ることなども可能です。文理外でいうと技術家庭、体育などの身体性を伴う部分があるものはバーチャルリアリティーと大変相性が良く、身体を使って学ぶ、その結果としてコンテンツからフィードバックが返ってくるということが学びの定着に良い結果をもたらすことがわかってきているそうです。メタバースになると、最近はホームルーム、課外活動、探究活動、イベント系、説明会であったり、コミュニケーションをとるためのツールとして使われているそうです。オンラインミーティングツールでは普段の教室のように生徒たちの様子を歩き回ってみることができませんが、バーチャルの世界ならば生徒たちの間を歩き回り、声掛けもできます。
学習効果についても少しずつ解明され、ポイントはインタラクティブ性とのことです。動画コンテンツを見るだけの学習と、コンテンツを見ながら何らかの活動を行う学習を、学習者がパソコンとVRで行った場合にどのような差が出るのか、という実験を行ったところ、次のような結果が得られたというお話がありました。まず、動画コンテンツを見るだけの学習であればVRだと情報量が多すぎるため、パソコンの方が効率は良いそうです。一方で、何がしかの活動をしながら学ぶ場合、学習者が何かした時にバーチャルの世界からフィードバックを受けながら学ぶとパソコンよりもVRの方が、定着率が上回るという結果が出ているそうです。この結果を受けて、VRを活用することで、何らかの体験活動とコンテンツからのフィードバックを学びのデザインの中に織り込むことが、学習効果を高める可能性もあると考えられているそうです。学校教育に関わる人たちにも現在の単元でVRがどのように活用できるだろうかと考えていただくと、企業視点だけでは考えつかないような、教材としてのVRの使いどころが見えてくるのではないかと考えられているそうです。
動画とVRの違いについてもお話いただきました。動画の特徴としては、伝達の点で1対多数である、直列である、1Wayであるなどが挙げられ、これに対し、VRは、多数対多数、双方向のコミュニケーションをとることができる点が挙げられるそうです。動画系は知識をインストールするという使い方に向いており、バーチャル空間は集団で何かを行い、その中から学びを見出すようなワークとの相性が良いと思われるとのことでした。
今行われている学びがすべてバーチャルになるかというと増田さまはそうは考えていないそうです。あくまでデジタルもバーチャルも、学びの目的を達成しようと思ったときの手段の1つであって、リアルでできることとバーチャルでできることを組み合わせたり掛け合わせたりするというところが一番考えるべきところなのではないかと思われているそうです。
また、VRは教科横断的な学びや、体感ツールとしても活用できる例として、スカッシュを物理と体育の観点から活用する事例をご紹介いただきました。数学・物理的には、球を打つ時の初速度、球の質量、打つ時の角度であるベクトル、重力加速度、空気抵抗などによってどう球の動きが変化するのかを見ることが可能で、体育的には、どこに落ちるのか、どの打点で打つとどのように飛ぶのか、球筋や球種、体を使ってコースをコントロールすることを学ぶことができます。これらを組み合わせることにより、シミュレーションツールは、物理と体育の先生が同じ授業を違う観点から伝えるなどの利活用も考えられるそうです。
④教育コンテンツご紹介
SADOKUにおいてコラボレーションを行ってきたいくつかの具体例についてご説明いただきました。
最初に紹介いただいたのは、東京学芸大学と共同研究された「跳び箱VR」と「バドミントンVR」、軽井沢風越学園と共同開発された「電気素子の街」です。開発に際しては、教育現場の意見を参考にしながらコンテンツを改良していったそうで、例えば、最初はミッションクリア形式のコンテンツにしていたが、現場の先生からミッションがないほうがよいという意見をいただき、ミッションをなくして自由度の高いコンテンツにするなど、教育現場の方から指摘され初めて気づくこともあったという経験もお話しいただきました。
次は、明秀学園日立高等学校と共同開発された無重力空間を体験できる教育コンテンツです。このコンテンツは国立天文台の出している情報や素材なども活用しつつ作成されたそうです。
明秀学園日立高等学校とは、分子の引き合う力を体験できるコンテンツも開発され、こちらは力学デバイスが必要であるため、デバイスの作成会社ともコラボして活動したそうです。強みとしてはリアルの物理法則に則った活動ができるという点とのことです。
立命館大学との共同開発は複数あり、1つ目は、メタバース空間で授業をどのように行うのか、という研究です。メタバース空間で授業もでき、かつコミュニケーションもとれるようにして、どこまで活動ができるかを検証されているとのこと。メタバース空間ではアバターで参加するため、活動に参加する際の障壁を小さくできるそうです。2つ目は、教職課程の学生がVRの教材を作るというプロジェクトで、開発した教材は最終的に小学校や中学校で実践を行う予定とのこと。企画自体は学生が考え、SOLIZE所属のエンジニアの方と一緒に教材を開発するそうです。
最近の学校では、生徒にVR空間のようなものを作らせる授業も始まっているそうで、現在は、簡単なものであれば中学生や高校生でもVRコンテンツを開発できるツールが増えてきており、それらの使い方を教える活動なども行っているそうです。実際に教えるとすぐ生徒が使えるようになるので、そういった楽しみをどうやって教材に生かしていこうかを考えつつ開発を行っているとのことでした。
⑤まとめ
VRは頭に重いデバイスを付けることではなく、いろいろな体験の仕方があります。また体験の種類もデバイスによって変わります。最大の特徴は疑似体験ができることであり、VRを活用することでこれまでできなかったことができるようになったり、行けなかったところに行くことができるようになったり、見えなかったものが見えるようになったりすることだそうです。
こうしたVRの特徴を、授業の組み立ての中にどう入れ込んでいくかというところがポイントで、増田さま、そのために現場の先生方との対話を通して、先生方が何をVR技術で実現したいと考えるか知りたいと話されました。また、リアルとバーチャルの組み合わせと掛け合わせも大切で、リアルでしかできないこと、バーチャルでしかできないことの間に生じる違和感を感じ取り、その違和感から興味や疑問を生み出すようなアプローチを検討したいとも話されていました。
一番大事なのは学習目的であり、増田さまはVR、AR、MRという技術の活用を目指して動いているものの、活用に固執はしないとのこと。こういった技術を生徒側が使うのか、それとも教員側が使うのかによっても活用方法は異なりますし、学習の効果も異なることが考えられます。大切なのはVR技術を使うことではなく、VR技術を使ってどうしたいのか、という点であるとのことでした。
最後に、リアルをバーチャルに置き換えるのではなく、リアルとバーチャルを足し合わせていこう、できるなら掛け合わせて新しいものを作っていこうということがSOLIZEとして取り組んでいきたいことであり、先生方と一緒にやりたいと思っていることだとお話しいただきました。今までとは違う学びのデザインというところにお力添えができればとおっしゃっていただきました。
⑥VR体験会
VR体験会ではSOLIZEが開発した「バドミントンVR」「電気素子の街」「跳び箱VR」をお持ちいただき、体験させていただきました。対面参加者は各々、パソコンのみで体験できるもの、ゴーグルやコントローラーが必要であるものなど様々な体験方法でVR技術に触れることができました。オンライン参加者は、教育コンテンツの紹介動画を視聴し、VRの教育活用について理解を深めました。
増田さまが講義で話されたように、VRにも様々な体験方法があることを実際に体験できました。パソコンだけで体験のできる「電気素子の街」などはゴーグルをつけて体験することも可能だそうで、1つのコンテンツでも様々な体験方法があることに驚きました。
⑦質疑応答
VR体験会の後は、質疑応答の時間でした。教育関係者の多い中、教育現場でどのようにVRを導入していくのかということにかかわる様々な質問や意見がでました。例えば、GIGAスクール構想が実現し、一人一台端末の普及が進む中で、現場にある機材を活用することが可能なのか、実際にVR技術を活用するのであればどのような方法で活用ができるのか、現在学校にない端末を導入する必要はあるのかなど、実際に現場にいる先生方の気になる質問に丁寧にお答えいただくことができました。参加者からは、VR技術を、授業で使うための意見やアイディアなども挙げられました。
⑧研究会を終えての感想
今回の研究会では、教育現場ではまだあまり見かけないVR技術を活用した教材をテーマにお話を伺いました。自身はVR技術の専門ではないため 、この技術を使った授業はどんな手法で構成されていくのだろう、と少し身構えていました。しかし実際に講師の増田さまのお話を聞くとVR技術も学習目標を達成するための1つの手段であり、生徒に学習してほしい内容に対して効果を発揮できる1つの手段なのだな、とVR技術の捉え方が変化しました。学校現場にいる先生方にとってVRという言葉は少し教育と遠く聞こえてしまうのかもしれませんが、VR技術は、学校の先生方が普段の、授業を作っていく際に、どのような資料を活用して、どのような教具を使うのかを選択していくのと同じように、1つの手段として活用できるものなのだ、という感覚が伝わるとより教育現場でも身近になるのではないかと感じます。また、様々な専門分野の人々が教育を専門とする教員と協力して教材や授業を作っていくことは、お互いの専門性を持ち寄って新しいものを生み出す様子を生徒が目の当たりにすることのできる素晴らしい機会であると感じました。こういった機会が増えていくことがもしかしたら社会に開かれた教育課程を実現することにつながるのかもしれないと思いました。
今回の研究会では、スマートニュース メディア研究所主任研究員の宮崎洋子様を講師にお招きし、ご講演をいただきました。冒頭では本日の講演に関して、概要を説明頂き、ご自身の経歴等自己紹介もしていただきました。
◆◆SmartNewsについて
SmartNewsは「世界中の良質な情報を必要な人に送り届ける」ことをミッションとしています。日米で事業を展開しており、アメリカでの活動は8年目になるそうです。日本のアプリでも設定を変更することでアメリカのニュースサイトの情報を見ることができるそうです。
SmartNewsでは、「良質な情報」とは、さまざまな評価軸から情報の価値を判断し、多様なニュースや情報を必要な時にバランスよくとることと考えているそうです。そのために利用者が予想していなかった情報に出会えるということも大切にしているということでした。
具体例としてSmartNewsアメリカ版にて提供されている機能「News From All Sides」をご紹介いただきました。この機能は記事を政治的な傾向で分けて提示するため、自身がどの立場からのどのような記事を見ているのか気づくことの出来るようになっているのだそうです。講演後の質疑応答では、「News From All Sides」の機能が日本版アプリに実装されていない理由について質問がありました。講師からは、日本では米国ほど明確に媒体社や記者がイデオロギー的立場を明確にしているわけではないので、こういった機能の提供は行われていないというご回答をいただきました。
SmartNews日本版では、位置情報を活用した雨雲レーダーやワクチン接種会場の案内、花粉の飛散量などの情報提供等を行っているとのことです。
SmartNews日本事業のビジネスモデルもご説明頂きました。日本におけるSmartNewsは広告収入で成り立っているそうです。また、記事については3000社以上のメディアパートナーと呼ばれる媒体社と契約しており、これらのメディアパートナーから記事が提供されるとのことです。
媒体社から送られてきた数多くの記事は基本的にはアルゴリズムで解析され、頻繁に閲覧されている記事がどれなのかを分析、さらに似たような記事が重複して表示されないように選別し、カテゴリー分けなどを行った上でアプリにソーティングしていくのだそうです。ただし、社会的に影響が大きくなりそうな場合には、人間が入って調整することもあるそうです。
SmartNewsの中にはスマートニュース メディア研究所というシンクタンク機能を持った部署もあります。
スマートニュース メディア研究所で行っていることは主に3つあるそうです。1つ目は日本の地方紙、地方局のジャーナリストたちの支援です。具体的には、ジャーナリストたちがアメリカの地方に行って取材をするための資金援助を行っている、とのこと。例えば、日本と同じように購読者数が減少傾向にあるアメリカの地方紙を対象に、地方紙や地方局はどのように生き残っていくのかという話の取材などを行っているとのことでした。
2つ目はメディアとテクノロジーを巡り、さまざまな有識者の先生を呼んで研究会を行っているそうです。
3つ目はメディアリテラシー教育であり、今回はここに焦点を当ててお話しいただけるとのことでした。
スマートニュース メディア研究所では、メディアリテラシー教育用のオンラインシミュレーター教材の開発をしています。この活動の他にも、例えばメディアリテラシーに関連した研究をされている先生方の論考や、メディアリテラシーに関わる授業実践例をホームページにまとめて掲載する活動をしているそうです。授業実践例は自由に閲覧し、ダウンロードすることが可能となっています。
また、法政大学の坂本旬教授と共に『メディアリテラシー 吟味思考(クリティカルシンキング)を育む』という本を出版したそうです。
さらに教員向け「メディアリテラシー教育」研修プログラムの制作を検討しているそうです。
メディアリテラシーについては、「良質な情報」を届ける努力をしても、受け入れる側が「良質な情報」に興味がないと情報のエコシステムが成り立たなくなってしまうので、力を入れている活動でもあるそうです。
◆◆シミュレーター教材「To Share or Not to Share」について
●教材概要について
今回ご紹介いただいた「To Share or Not to Share」というシミュレーター教材は、新型コロナウイルスによる情勢の変化を機に、S N Sなどのデジタルメディアを念頭に、情報の受発信を学べるオンライン教材として開発されたもので、一般の学校の先生も無料で利用できるよう、開放されています。
さまざまな調査から10代の多くがSNSをコミュニケーションだけでなく情報を取得する手段として活用している現状が見えてきた一方で、2021年度の総務省調査からはインターネットの使い方を教わらずに利用している子供たちが一定数いることがわかり、ソーシャルネットワークを意識したシミュレーターの作成を行うこととなったそうです。
本教材にて学べるポイントは以下の通りです。
1、メッセージを批判的に読み解くこと。
2、情報の信頼性の判断は人によって多様であるということを可視化して、同じ情報であっても受け取り方が異なることを実感すること。
3、メッセージの信頼性をどのように確認したらよいのかということを話し合い、考えること。
4、アルゴリズムを意識すること。
5、デジタルメディアの特徴であるフォロワーが多いというのはどういうことなのか、コメントがあるかないかなども含めたメディアのデザインや機能などを考えること。
教材開発の際は、なるべくリアルなものを作ることを目指したそうです。また、ワークショップの専門家にも相談し、教材のゲーム要素を活かすための工夫も行ったとのことです。例えば、学習後に講師主導でポイントを確認するのではなく、感想などを書かせて、実は学生自身に日頃の情報取得などを振り返りながらに「気づかせる」仕様にしたというエピソードをお話しいただきました。この教材を活用した取り組みは、学会等でも発表されたそうです。
●ルール説明 & シミュレーション体験
このシミュレーションは記事のシェアを行うことでフォロワーを増やしていくというものです。条件は以下の通りです。
①スタート時、フォロワーは100人いる、②表示される“投稿”を「シェアする/限定シェアする/しない」と「信頼度」を組み合わせて、上手に拡散すると、フォロワーが増える、③投稿の中には「フェイクニュース」が隠れているが、フェイクニュースを拡散するとフォロワーが減る。
シミュレーション時には、“判断理由”を書くことが求められ、プレイ後はシミュレーションの結果あらわれた状態を各々比較しながらディスカッションします。そして、最後にまとめを行うという流れです。
依頼を受けて学校の授業でシミュレーターを使う際には、特に調べるようには指示しておらず、自分の普段のやり方で拡散するかしないかを決めてもらうことで、自身の普段の生活を振り返りつつ考えられるようにしているのだそうです。記事は10個表示され、実際にS N S等で投稿された記事が投稿者や日時と共に表示されます。これらの記事について、シェアしない、限定シェアをするのか、全体にシェアをするのかを選択し、その理由を書き込んでいきます。学生の中には、怪しいと思うものをいくつか検索する子もいるようです。投稿全てに回答が終了すると、最後に自身のフォロワーが何人増えたのか、どの投稿をどう扱うことでフォロワーの増減が見られたのかが記事ごとの解説と共に表示されます。結果は人ごとに異なるため、シミュレーションを行った後のディスカッションではどうしてシェアをしたのか、もしくはしなかったのか、投稿に対してその信頼度をつけた理由は何か、普段SNSを何の目的で使っているのか、フォロワー数を増やすにはどのようにしたらよかったのかなどを話し合ってもらうことになっています。
フォロワーの増減数は過去の参加者のシェア割合に応じて変化するという独自のアルゴリズムが組んであるそうです。ここから使っているアプリやインターネットサイトなどの後ろにもアルゴリズムというものが走っているということを意識して欲しいとねらっているとのことでした。
授業で伝えているメッセージとしては、同じ情報をみても、受け取り方は人それぞれであること、情報をシェアする前に、ちょっと立ち止まってほしいこと、アルゴリズムの存在を知ってインターネットを上手に使い、普段自分が見ていない情報にも触れてみてほしいことなどがあるそうです。
一度の授業ですべてを伝えるのはとても難しいことなので、その授業に合わせて伝えたいことは選択して欲しいとのことでした。
シミュレーションと解説の間にも参加者の方から多くの質問が寄せられました。例えば、「S N Sの投稿は全て許諾を取っているのか」という質問には「「SNSなどの投稿は公表物にあたるため、基本的には引用の要件を満たしていれば許諾は必要ない。本教材でも元の投稿のリンクに飛べるようにするなど、引用であることを示している」という対応をご教示いただきました。この対応に加えて、教材利用の手続きには、学校などでの教育利用であることの同意をいただいた上で、ご利用いただくようにしているとのことです。
今後の取り組みの一つとしては、本S N Sシミュレーターの投稿の下にコメントをつけ、そのコメントが肯定的か否定的かによって学習者の投稿に対する信頼度やシェアする度合が変化するという結果を得ており、コメントに関しても教材に組み込めていくことが出来れば面白いと考えられているそうです。
研究会の後半は講義内容に関する質疑応答の時間をとりました。
教職関係の方も多く、メディア教育に関するさまざまな感想やご質問が飛び交い、活発な活動となりました。ご質問はおおまかに①アルゴリズムに関するご質問、②スマートニュースアプリの構造に関するご質問、③情報とはどのようなものを指すのか、というご質問、④教材に関するご質問、⑤新しい教材のアイディアに関するご意見、⑥情報発信者としての意義に関するご質問、などがあり、宮崎様にはご丁寧にお答えいただきました。
今回、宮崎様から、利用者のエンゲージメントを重視するデジタル広告市場などビジネスモデルの変革期にあるとも考えられ、当面は、個々人のネットリテラシーを高めて対処していかなくてはならないのではない部分もあるのではないかという発言もありました。
全体の状況を俯瞰した上で学校教育において今できる最大のことを子どもたちに伝えていける、そういった教育を考えていくことがこの先も求められることであって、この積み重ねこそが時代の変化を生んでいくのではないかと感じました。
結びになりますが、ご講演いただきました宮崎さま、ご参加いただきました皆さま、誠にありがとうございました。
今回の金さまのご講演では、主に以下の3点についてお話をいただきました。
(1)外国にルーツをもつ子どもと、その教育の現状
金さまは、ご自身が大学院生の頃に、フィリピン出身の男子中学生だったケイタくんと、学習支援のボランティアで出会い、今まで障害を持っているなどと一度も聞いたことがないのにもかかわらず、特別支援学校に進学すると聞き、驚いたという経験をお持ちでした。
しかし、外国人と発達障害の両方の要素を併せ持つ人が参考にできる本や論文がないことから、金さまご自身の著書である『「発達障害」とされる外国人の子どもたちーフィリピンから来日したきょうだいをめぐる、10人の大人たちの語り』(明石書店、2020年2月)を出版するきっかけになったとのお話をいただきました。
統計データから日本で暮らす外国人とその子ども、日本語支援が必要な児童数は基本的に増加傾向にあり、千葉県では在留外国人数は全国6番目の多さであるそうです。また18歳以下の子どもは約1万8千人に上るなど、アジア圏を中心に外国にルーツがある子どもが多いとのことでした。
しかし、このような傾向があるにもかかわらず、日本語指導の環境が整っておらず、特に千葉県では、日本語指導が必要とされる子ども32人に教員の1人の配置という割合であること、また教員免許を持たない教員による週1コマなど短い時間での指導のみであることなどから、不就学や高校進学率、不十分な学習指導など、様々な課題があるとのことでした。
また、外国人の子どもが特別支援学級に在籍する割合が日本人の子どもに比べ、約2倍多いといったデータもあり、子どもや保護者の母国からもこの問題に関する疑念が向けられているそうです。
ここで問題となってくるのは「発達障害」についての解釈です。発達障害の原因は脳機能の障害とされていますが、科学的な根拠はない状況とのこと。従って、特別支援学級在籍者数は年々増加しているものの、実はそれは発達障害と診断することで教育上のリスクを回避するなど、管理の対象となっているという側面があるとのことでした。
上述の内容を踏まえて、金さまは、発達障害と判断された状態を疑い、外国人の子どもの困難に立ち返ることが必要であるとお話しされていました。
(2)発達障害とみなされていた外国人の子ども―金さまご自身の研究から―
そこで、カズキくんとケイタくんというフィリピンにルーツを子どもに焦点を当て、その高校進学までに関わった、教員や保護者など10人のインタビューの内容についてお話ししてくださいました。
そのインタビューの中には、子どもは外国人としての困難を捉えていたにも関わらず、学校側が障害児としての支援で解決を図っていたこと、そしてそれを可能にする発達障害等概念の曖昧さや、日本人の専門家を中心とし、外国人の子どもをもつ保護者と正当な対話ができていないまま説得する実情などが、実際の発話の記録とともに示されました。これには、衝撃を受けた参加者も多い様子でした。
また、これはカズキくんとケイタくんの事例だけではなく、日系ブラジル人の母親とその子どもを対象としたインタビューでも、外国人の保護者が教師等から不当な圧力を感じたり、強い抵抗をしたりしたにも関わらず、次第に教員の信頼や感謝という段階に移行し、最終的には学校側の提案を受け入れ、それを対外的に語るといった段階に至るとのお話がありました。
これらの事例を通して、金さまは、外国人の子どもが受けられる教育的支援・進路は限られており、その支援策として敢えて発達障害と診断することを選ばれてしまうこと。それにより外国人の子どもへの支援が不十分であるという問題が見えにくくなってしまっているという現状が、課題としてあるとお話ししてくださいました。
(3)この問題をめぐる最近の動向と留意点
『「発達障害」とされる外国人の子どもたちーフィリピンから来日した きょうだいをめぐる、10人の大人たちの語り』(明石書店、2020年2月)の出版後、文部科学省では、特別支援学級に在籍している児童生徒数を新しく調べたり、「障害のある子どもの教育支援の手引き」に外国人の子どもの特別支援教育について明記されたりするなどの変化はあったが、予算や人員拡充はなく、現状が大きく変わる可能性は少ないとのことでありました。
そのため、現場で留意して対応することが中心となっていきますが、金さまは、保護者への丁寧かつ、デメリットについてもしっかり言及するといった網羅的な説明を行うこと、すぐに「発達障害」と疑い始める前に、まずは教師側から子どもへの支援や、子どもやその保護者等との対話が十分かどうかを確認すること、発達障害の診断に関わる人には、外国人の子どもの日本語学習歴などの学習状況、自治体・地域などの日本語指導などの施策の充実度など社会的データも資料とすることが現場では必要である、とのご意見をいただきました。
また、子ども同士のかかわりが外国籍の子どもの支えになっていたことから、そのような環境づくりに加えて、教員がサポートし続けるという意識を持つこと等についても、考えていく必要があるとのことでした。
金さまのご講演の後に、千葉県の小学校で学校長や教育委員会の指導主事を務めた経験があり、現在は企業教育研究会職員を務めている古谷成司さんから、外国にルーツをもつ子どもに関する教育現場での実情について話しました。
その後、質疑応答を行いました。主に、学校現場での現状や外国人の子どもをめぐる特別支援に関して、参加者の皆様と議論を交わしました。議論の中で、教員は特別支援教育が悪いものではないという認識を持っていること、しかし在留資格の関連で特別支援学校に進むことで選ぶことのできる選択肢が極端に狭まり、危機的な状況に陥ることになる可能性もあるにも関わらず、その説明を学校側から行われていないケースも多いとのことを知り、外国籍の子どもをめぐり、学校現場に様々な課題があること、そして対処をしていかなくてはならないとの課題意識を広く共有することができました。
筆者個人といたしましては、外国籍の子どもが増えているという現状の中で、まずは外国籍の子どもと、その彼らを取り巻く人々と、「対等に」対話を重ねる機会をもつことが大切であり、外国籍の子どもと、その彼らを取り巻く人々の声を「聴く」ことを一層重視していく必要があると感じました。ご講演いただきました金さま、ご参会いただきました皆さま、ありがとうございました。
■ご講演の内容
今回の研究会では、独立行政法人国際協力機構(JICA)東・中央アジア部の篠﨑祐介さまをお招きし、ご講演をいただきました。冒頭では本日の講演内容に関しての概要と、これまでのご経歴を基に自己紹介をしていただきました。
〇なぜ国際協力を行うのか、ODAとは
世界の人口の約8割が開発途上国で暮らしている状況であり、具体的にはどのような状況が発生しているのかをフィリピンのサイクロンの被災地、シリアなどの難民キャンプ、ナイジェリアの小学校、ザンビアの病院、タイの洪水、インドネシアの大渋滞などを例に、お話しいただきました。
また、日本のエネルギー自給率は低く、海外から輸入している点、食料自給率も低くこちらも海外からの輸入を行っている一方で、日本の自動車や機械などの工業製品やマンガ・アニメ・観光などのサブカルチャーの輸出を行っており、日本と海外の繋がりは密接なものであるというお話をしていただきました。
先進国から新興国・途上国への経済力シフトが進展しており、中国をはじめとするBRICSの急成長によって新興国・途上国の経済規模は総額ベースでいうと先進国を上回っている状況があること。加えて、2030年の世界では中国・インドの経済力拡大、アフリカの人口増大、日本の相対的国力の低下などが予測されているため、日本も新興国や途上国と結びつきを強め、その勢いを享受していく必要があるとお話をしていただきました。
貧困撲滅という観点からは、極度の貧困は世界全体から見ると確かに減少していますが、減少しているのは東アジア地域などで、南アジア・サブサハラ・アフリカ地域では貧困層の割合の減少があまりみられないため、人道的な配慮は引き続き必要であるそうです。
日本もかつてガリオア・エロア資金や世界銀行からの融資など返済義務が無いものも含め多くの支援を受けており、東海道新幹線、東名高速道路、黒部第四ダムなどはこれらの資金を利用して整備されました。援助で受けた資金の完済は1990年の7月であり、まだ約30年しか経っていません。
借りた資金を有効活用しアメリカと並ぶ経済大国になった日本は、今や他国の援助を実施する国となりました。この経緯より、日本は援助における模範生とも呼ばれているそうです。
多国間援助という複数の国家が連携して援助するという形態は、途上国での開発課題が多様化し国境を超えた問題も多々あり、一カ国の支援では解決できないことも多くなってきたため近年拡大してきています。また、人道的な観点からも、日本への影響の考慮という点からも、一か国で援助できない場合でも放置はできないため、このような方法は大切だということをソマリアの例を挙げてお話しいただきました。
日本は軍事力を通じた支援などが出来ない点からも国際協力の場を通じて世界に貢献していくことは重要であるとのことでした。
ODAとは政府開発援助のことで、日本の支援の特徴の一つは相手国のオーナーシップを重要視する点で、意見交換を通じながら相手国の自助努力を推進します。ODAの予算は1997年がピークで現在は減少、安倍政権以降微増していますが、2020年度各国のODA実績(総額)では日本は第4位です。いわゆる先進国は対GNI比0.7をODAに充てることが目標とされていますが、北欧や英国などの数カ国以外は未達成国が多く、日本も未達成です。日本国内における内閣府の調査では、ODAに対して国民は比較的好意的な意見が85%を占めており、貧しい国に対して援助すべきという意見は44%とのこと。これについて、当事者としては、これほど好意的に感じてくれているのか、事業を通じては見えづらいと感じられるそうです。
ただ、こういった支援などで密接なかかわりを持っているため、東日本大震災の際には、100か国以上から日本への応援メッセージが寄せられたそうです。
〇JICAの役割と事業内容、身近な国際協力事例
ODAの中には二国間援助と多国間援助という分類がありますが、JICAは二国間援助を担い、様々な経済開発、経済協力のスキームやメニューを持っています。
JICAの正式名称は独立行政法人国際協力機構であり、2008年に国際協力銀行の海外経済協力業務(有償資金協力を行っていた部門)と統合、2008年10月から技術協力、無償資金協力、有償資金協力すべてを一元的に行う実施機関となりました。
通常は、途上国の開発課題に対してどういった解決方法を提示できるか、相手国と共にその内容を考え、その後、実施段階では内容をモニタリングして次の政策に生かすPDCAサイクルを意識し援助を行っています。
技術協力・有償資金協力・無償資金協力、全てにおいて相手国の課題背景を加味し、日本がもちうるリソースを用いて解決を目指すオーダーメイド式の支援を行っているそうです。
活動の三本柱の一つである技術協力では、開発の担い手となる人材の育成のため、相手国の行政官や研修員の受け入れを行い、日本国内における行政の方法や技術を伝えています。
また、日本から技術者を派遣して専門的な知識の移転を実施することもあり、それにあわせて機材供与などを行うこともあるとマラウイの灌漑開発の事例などを提示しつつお話しいただきました。
有償資金協力とは資金を緩やかな条件(低金利・長期返済期間)で貸し付ける形態の援助で、大規模な支援が行い易く、途上国の経済社会開発に必須なインフラ建設等の支援に効果的であるそうです。途上国に返済義務を課すことで自助努力を促す効果をもち、貸借関係があることで、その国と中長期にわたり安定的な関係を維持することも期待できます。例として、タイの空港やインドの鉄道、モンゴルの空港などをあげることができるそうです。
無償資金協力とは開発途上国に資金を贈与する援助形態であり、有償資金協力に比べると小規模な援助となりますが、国際社会のニーズに迅速かつ機動的に対応するための有効な手段となります。目に見える形(ビジビリティ)の効果が期待できるそうです。
緊急援助隊事業では、主に自然災害に対して派遣されることが多く、多様な関係者と連携も行いつつ支援を行うとのことでした。
海外協力隊のようなボランティア事業もこの一環で、92カ国に派遣、約200以上の職があり、今までに45,000人以上が協力隊として活動しています。
身近な国際協力の事例として、フィリピンのミンダナオにて平和と開発、南スーダンのスポーツを通じた平和構築、エジプトでの日本式教育の導入、チリにおける日本産サケ類移植プロジェクト、ブラジルのセラード開発があるそうです。
〇難民・国内避難民支援
難民・国内避難民支援の具体例としてはシリア内戦、南スーダン不安定化等で難民が増加したとのこと。難民の84%は発展途上国が受け入れていますが、受入国側の負担も大きく、緊急・人道支援機関も予算が厳しい状況にさらされているそうです。JICAが難民を支援する場合には、紛争地帯での活動が難しいため、難民を受け入れている周辺の国家に対する行政支援や財政支援を行うことが多く、難民を対象にした人材育成など生計能力向上の支援や、難民を留学生として日本に受け入れる対応、周辺国家に対するインフラ支援なども駆使して出来うる支援を行っているとのことでした。実際の支援例としてはウガンダの南スーダン難民受入地域支援、ウクライナ難民にかかるモルドバでの支援、アフガニスタン支援などがあげられるそうです。これらの具体例について、詳細にお話しいただきました。
〇外国人材とODAの協働
外国人労働者を技能実習生や特定技能として日本に受け入れ、日本の技術を学んで母国に戻った後にその技術を活かしてもらう枠組みがありますが、農業分野では日本で学ぶ技術のレベルが高すぎて母国で活用が出来ないことや、事前事後の研修なしに単純労働だけ行って帰っていくため技術が習得・更新されず、母国へ戻っても就労できないなどの問題点も多かったため、JICAではそれぞれの技能実習生に合った野菜の日本と途上国の産地間をマッチングさせる取り組みを発案したことをお話しいただきました。今までの制度は、日本の監理団体より途上国側に技能実習生を派遣して欲しい時期と人数を提示した依頼を出すと、途上国側の送出機関が人数を揃えこの依頼に応じ、監理団体と送出機関間で契約が成立すると技能実習生が日本へ送られてきますが、実習生のバックグラウンドを問わなかったため、技術の定着や成果の活用が難しい状況でした。JICAが提案した枠組みは人材のリストを作成し、バックグラウンドを加味して、産地間をマッチングさせて派遣するものです。現在、この枠組みは導入したばかりであるため今後の経過を見守りつつ、外国人材への支援を検討していく必要があるとお話しいただきました。
〇講義を踏まえての質疑応答・ディスカッション
講義後のディスカッションでは、参加者の皆さんの質問を大まかに①ODAやJICAに関するご質問、②海外における協力事例に関するご質問、③日本国内での取り組みに関するご質問、④その他のご質問などの四種に分類し、順番に篠﨑さまにお答えいただきました。今回の参加者には教育に携わる方も多かったため、JICAに関わる方々のキャリアや専門性、国際関係に関して生徒にどのように教えていくのか、生徒たちも実感できるような支援上の具体例などはないか、JICAが支援する際にはどのような立場の人々と支援の折衝を行うのかなど教育に関連する質問等が多く挙がり、お答えいただきました。今回、篠﨑さまにお話しいただいた技術協力などに関して、関わっていないと想像できないようなお話がたくさんあり今後のキャリア学習などで役に立つのではないかと思いました。個人的には日本の母子手帳のシステムが海外で活用されているお話などは、生徒たちも身近に感じられるような実例として面白いと感じました。
JICAと聞くと新興国・途上国を支援しているらしい、というところまでは生徒たちもなんとなく知っていることであるとは思いますが、実際にどのような活動をしているのか、どんな理念で、その結果どのような状況が齎されるのかまで想像することはあまりないと思います。実際に使われている技術やどのような影響が現れたのかを、開発協力の当事者に聞くことでより想像しやすく、また自身の視点との相違を意識しながら考え直すよいきっかけになっていくのではないかと思います。自身が授業を作る際の参考になる素晴らしい機会であったと思います。
結びになりますが、ご講演いただきました篠﨑さま、ご参加いただきました皆さま、誠にありがとうございました。
文責・企業教育研究会 木口恵理子