中学生向けキャリア教育の出張授業「カードゲームで学ぶキャリア図鑑」は、株式会社マイナビとNPO法人企業教育研究会(ACE)が協力し、全国の学校にお届けしている出張授業です。
(授業概要については 授業概要紹介ページ、実際の授業の様子は 授業実践レポート にてそれぞれご紹介しています。)
本ブログ記事では、開発の裏側を紹介した大長編ブログ『マイナビ×ACE 「カードゲームで学ぶキャリア図鑑」の授業ができるまで』の企画に続き、なかなか表に出る機会のない「運営実践」に焦点を当ててご紹介します。
今回は、前回の座談会メンバーに加え、出張授業の最前線で運営に深く関わるメンバーも合流しました。教材が完成した後も続く、授業準備、学校との調整業務、当日の進行管理など、出張授業を支える運営チームの真摯な取り組みと実践をレポートとしてお届けします。
座談会進行は、開発編に続き、記事執筆も担う広報・篠崎が務めました。
企業と連携した教育実践の舞台裏や、出張授業に対する想いを、ぜひ知っていただけたら嬉しく思います。

篠崎:
今日はお集まりいただきありがとうございます。
2024年7月から「キャリア図鑑」の出張授業が始まり、授業展開も2年目に突入しています。
まずは、出張授業実践全般の印象からみなさんにお伺いできればと思います。
瀬尾:
この授業の印象ですが、教室に入ると、生徒たちは「今日は何をするんだろう?」という様子でこちらを見てきます。導入で用いる教材のアニメーションが始まるとみんなしっかり前の方を見てくれ、さらにカードゲームが始まると、教室の空気がパッと変わって、班ごとに楽しそうな声が上がり始めるのが印象的だと感じています。
岡田:
ゲーム中は、机の上にカードがたくさん広がっていて、「こうしたらお客さん増えるんじゃない?」「それだと赤字になりそうじゃない?」といった会話が自然と出てきます。授業者が「話し合ってください」と促さなくても、生徒たちが班ごとに自然と相談し始めるのは、この教材の特長だと感じています。
篠崎:
ゲームの盛り上りもありとても楽しそうですね。また、自発的に参加してくれる生徒が多い授業なのですね。
開発編では、キャリア教育として学習のねらいを達成するため、授業や教材に散りばめている様々な工夫について伺いました。
その工夫が、生徒たちの学習達成に活きたと感じた場面はありましたか?
明石:
この教材は、全国の中学生が身近な地域と関連づけながら「仕事と社会のつながり」を学習できるような工夫を取り入れています。
例えば、熊本のある中学校では、校舎の目の前に地産地消を大事にしているお弁当屋さんがありました。教材の中でも地元食材を活かして町おこしを目指す人物が登場するのですが、この学校ではお弁当屋さんの事例から具体的なイメージを持つ生徒が多くみられました。
また、福岡の学校でも、ワークシートを見て明太子の加工工場を思い出して話している班があったり、自分たちの地域の産業と重ねて考えている様子が見て取れました。
もちろん教材自体は特定の地域を想定していないのですが、生徒たちが自分たちの身近なお店と結びつけて考えてくれていて、「狙っていた反応が出ているな」と感じました。
授業で生徒たちに示す「まいひな市」の設定は、実在の市のエピソードなどを随所に盛り込んでいます。
従って、どの角度から見ても学校ごとに共感ポイントがあるようにと考えているので、こういう生徒の反応を見ると設定の仕込みが活きているなと感じます。
篠崎:
その狙っていた反応が出ていると感じられた点。具体的にどのようなことなのでしょうか。
明石:
開発編の座談会でも話しましたが、教材はあまり具体的なイメージに落とし込まない形で開発しています。
具体的にしすぎると、「自分とは関係のない話」と感じられてしまうこともあるので、あえて少し抽象寄りにすることで、どの地域の生徒でも自分たちの生活に重ねやすくなるようにしています。
生徒が「これって○○の話じゃない?」と、身近な店や場所に置き換えて話し始めるのは、抽象的な表現に留めていることが寄与していると思います。
また、キャリアの話には、ひとつの正解があるわけではありません。
だから授業の教材も、「この道を通れば正解です」という一本道ではなく、どこから考え始めても学びにつながるように、複数の入り口がある設計にしています。
篠崎:
ありがとうございます。この授業の存在が生徒たちの日常と結びつき、想像を膨らますことに貢献している様子や、自然と会話が生まれて授業が盛り上がっている様子。そしてそれは、明石さんが狙って仕込んでいた技法が寄与していることがイメージできました。
さて、ACEでは質を担保した出張授業を届けるため、授業者を育成する模擬授業の存在も欠かせないポイントです。学生スタッフも授業者として出張授業に赴いていますが、授業者としてデビューするにはACE内で実施される模擬授業で合格しなければ授業者になれないシステムですよね。
模擬授業について、気をつけているポイントなどあれば教えてください。
瀬尾:
授業者になる予定の方には、企業講師役、生徒役の担当者を用意したACE内の模擬授業の場で、実際の授業とまったく同じ形で授業進行を経験してもらいます。
その際、フィードバックの場などで、板書の仕方やカードゲーム準備の方法、ワークに入る前の指示の出し方、生徒への声かけなど、細かい点を共有するようにしています。授業者が迷わないよう、操作や言い回しの部分もできるだけ具体的に伝えています。
岡田:
私は企業講師役などで模擬授業に参加することも多いですが、そのたびに気づきがあって、本番の授業にも活かしています。
授業者同士でフィードバックし合える場にもなっていて、模擬授業の存在は授業の質を底上げしてくれていると思います。
岡野:
私が研究的に実施する授業では一回だけ実施するなどが多く、さらに自身で授業を作り込んでいるがゆえに、仮に授業が予定通りに進まない場合も、違う方向から進めて学習目標が達成できればいいと考え柔軟に授業を進めることができます。
そういう点では、この出張授業は、全国のいろいろな子どもがいるところで、毎回違う企業講師の方と、ある程度流れが確定した授業をする難しさがあると感じています。それゆえに、模擬授業を通して授業準備はとても大切だと感じます。とは言え、現場の臨機応変さも問われるとも思います。
明石:
そうなんです。模擬授業の時に、ベストな進め方を考えて詳細に準備してきてくれる方もいらっしゃいます。でも、学校って本当に多様なので、自分の準備通りに行かないことの方が多いわけです。
ですので、私は模擬授業では、授業中に実際にいそうなさまざまな生徒を演じて参加しています。その上で、「今日みたいな生徒にはその言い方は合わないかも」といった具合に、(厳しいと思われるかもしれませんが)具体的にフィードバックし、授業者を育成しています。
篠崎:
なるほど、入念な準備も必要ですし、とは言え、臨機応変さも問われるというのは、授業者というのは奥が深いですね。
誰が授業者として学校に赴いても、学習のねらいがブレないよう、模擬授業は不可欠な存在ですね。
臨機応変というお話もありましたが、実際に学校で授業を進めるとき、授業者として意識している点はありますか?
岡田:
私は、生徒の「顔が上がっているかどうか」をよく見ています。
2時間目の後半に、講師がまとめて説明するパートがあるのですが、情報量が多くなるところでもあります。
昨年度は、その場面で「ちょっと処理しきれないかも」という表情の生徒が出てくることもあり、「生徒が苦しいかな」と感じることがありました。
今年度は、構成の整理や情報の並べ方の見直しが入ったことで、「今日はちゃんと聞いてくれているな」と思える回が増えました。
古谷:
あの時間は、講師の話し方も問われますよね。
それでも、生徒が顔を上げて聞いてくれていると、「伝わっているな」と感じられて、こちらも安心します。
篠崎:
先ほど、岡田さんから、構成の整理や情報の並べ方の見直しが入ったという話がありましたが、2年目の出張授業展開前に行われた授業と教材の改修による変化をどのように感じていますか。
瀬尾:
大きな変化として感じたのは、カードゲームからワークへのつながりがスムーズになったことです。
昨年度は、「ゲームは盛り上がるけれど、2時間目で生徒の温度感が下がる」というギャップを感じることもありました。
今年は、ゲームの結果や気づきをそのままワークに持ち込めるようになり、生徒が「次に何をすればよいか」が分かりやすくなったと思います。
岡田:
そうですね。ワークに入ったあと、生徒の手が止まりにくくなったと感じています。
昨年度は、「何から書けばいいか分からない」というところからスタートする班も多かったのですが、今年は書き始めがスムーズな班が増えたと感じています。
ワークの場面でも、「どうしてこの店はうまくいかなかったんだろう?」と、理由を自分でたどろうとする生徒が増えたと感じています。
原因や背景を考えながら書こうとしている姿が見られます。
古谷:
昨年は「自由に考えていいよ」と言われることで、かえって戸惑う生徒もいた印象でしたね。
岡野:
私は、この授業に関わり始めて日が浅いですが、ワークシートの見直しがあったこともあり、より生徒の集中が続く形になったと感じています。授業の情報量そのものを極端に減らしたわけではなく、「どの順番で、どのくらいの量を出すか」を整理したことで、生徒も授業者も進めやすくなった感覚がありますね。
篠崎:
改修を経て、授業がより良い形で届けられている様子がよく分かりました。
ただ、授業を届けるには、授業者として授業に赴くだけでなく、事前に学校との調整を行うなど、授業運営に伴う事務的な裏方の調整もありますよね。あまり世間に知られていないACEの学校や企業に向けた調整業務について教えてください。
瀬尾:
運営担当としては、学校の先生からクラスの雰囲気等を教えてもらうことを、とても大事にしています。
たとえば、「このクラスは引っ込み思案な生徒が多いです」
「話すのは好きだけれど、学力的にはあまり自信がない子が多いです」
といった情報を、学校との調整の中で事前に共有していただけることがあります。
そういうときは、企業側の講師の方にも、
「引っ込み思案な子も、話すこと自体が嫌いなわけではないようです」
「カードゲームの段階で、できるだけ多く声をかけてみてください」とお伝えしています。
1時間目のゲームのときに早めに声をかけて関係をつくっておくと、2時間目のワークでの“話しかけるハードル”が少し下がるんですね。こうした事前のすり合わせは、授業の手ごたえに直結する部分だと感じています。
今年度から、企業講師の方々との事前説明会の形が変わり、企業側の担当者の方との初顔合わせが授業当日というケースも増えました。従って、「企業講師の方がどのような雰囲気の方なのか。」「どのくらい授業内容を把握されているのか。」といったところも、その短い時間でできるだけ確認するようにしています。
こうした事前・当日のコミュニケーションは、とても大事な時間だと感じています。
篠崎:
出張授業を実施するまでには、より良い形で授業を届けるために、その裏側で細やかな調整を行っているのですね。
その様な調整を経て、外部からきた授業者や企業講師が教室に入ることには、どのような意味があると考えていますか?
岡田:
生徒のみなさんにとって、いつもと違う大人が教室に入ることで、例えば新しい考え方に触れるきっかけになるなど、意味があるのではないかと思っています。
古谷:
私は元教員なので、学校に入ったときの雰囲気をつい見てしまうのですが、出張授業の日は、先生方も生徒も「いつもと少し違う時間になる」という感覚を持って迎えてくださっているように感じます。
外部の人間が教室に入ることで、生徒の表情や姿勢がふっと変わる瞬間があって、その変化が対話のきっかけになっていると思います。
明石:
キャリア教育として赴くこの授業では、外部から「価値判断を決めつけすぎない」ことも意識しています。
つまり、キャリアの「正解」をこちらから示しすぎないことです。
アニメの設定の中にも、よく見ると「あ、ここはそういう背景なんだ」と気づくポイントをいくつか入れていますが、そこから先は、生徒がどう受け止めるかに委ねたい。「こう考えなさい」と方向づけしすぎないように気をつけています。
篠崎:
細やかな準備と熱い想いを持って届けている出張授業ですが、出張授業を希望する学校の先生や、企業ご担当者さまに対して期待することはありますか?
明石:
出張授業そのものは「きっかけ」なので、そのあと学校でどのように扱っていただくかで、生徒の学びの深さが変わる部分もあると思います。ACEの授業概要紹介ページにも、事後学習例の案内を載せていますが、そういう情報も上手く使ってキャリア教育に活かしていただけたらと思っています。
ただ、最近は応募の段階で、授業の目的や活用イメージを丁寧に書いてくださる先生が増えてきていて、私たちの期待と先生方の出張授業活用のイメージが一致してきているとも感じています。
古谷:
一方で、授業が終わったあとに先生と話す時間がなかなか取れないことは、現場としての課題です。
「生徒がどこで悩んでいたのか」「授業を見て、先生はどう感じたのか」
といったことを伺う機会がもう少しあると、次年度以降の改善にもっと活かせるのではないかと感じています。
瀬尾:
学校の先生方のみならず、企業の方々も含め、振り返りや共有の機会をどう確保するかは、今後考えていきたいところですね。限られた時間ではありますが、調整の場で「この学校なら授業後に先生とお話しできそうか」といったことも何となく見えてきます。そういう機会を逃さないようにしたいと考えています。
ここまで読み進めていただいた読者の皆さま、ありがとうございました。
ブログ記事でご紹介した開発と実践のプロセスから、私たちが子どもたち一人ひとりに「質の高い学び」を届けたいという想いを込めて、授業を開発し、実践の場で細やかな改善を重ねていることが、少しでも伝わったら嬉しく思います。
私たちは、学校現場から求められ、企業と連携するからこその授業内容を大切に日々活動しています。
そのことが、この記事を通して皆様にも伝わる機会となりましたら幸いです。
今後も、ぜひACEの活動にご注目ください。
文・構成:篠崎実穂(ACE広報)