6月15日(土)に開催された、163回目を迎える「千葉授業づくり研究会」。
テーマは『「リスキリング」から、これからのキャリア教育を考える』です。
人生100年時代とも言われ、定年制度もなくなるかもしれない昨今、「リスキリング」への関心はどんどん高まっています。リスキリングと聞くと、社会人向けのような印象もあります。しかし、学校で実施するキャリア教育において、育成を目指す項目のひとつに「キャリアプランニング能力」があるように、今の子どもたちには生涯にわたり自分のキャリアを考えていく力が求められています。となると、学校でのキャリア教育に「リスキリング」の考え方を入れることも重要ではないでしょうか。
今回の研究会では、リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業を手掛けるアデコ株式会社(以下アデコ)の武井森さまを講師にお招きし、自分たちが望むキャリアを継続して実現していくスキルを身につけるため、アデコさまが取り組む事例武井さま自身の経験についてお話しいただきました。
『「人財躍動化」を通じて世界を変える』をビジョンに掲げるアデコは、ただ人と仕事をマッチングさせるだけでなく、働く人の思いや企業のビジョンとのマッチング、さらには社会で求められているスキルと個人のスキルをマッチングさせスキルアップを支援するなど、人財が躍動するような「ビジョンマッチング」を推進しています。
その中で武井さまは、リスキリングを中心とするさまざまなキャリア支援や研修事業をご担当。一般的に「リスキリング」とは、技術革新や社会の変化に対応するために新しい知識やスキルを学ぶこと、という意味をもつ言葉です。しかしアデコでは、「人財躍動化」というビジョンに基づき、スキルを身につける人の内面にもアプローチをしながら「リスキリング」を推進していくことを大事にされています。
今回の研究会では、そんなアデコの「リスキリング」について、3つのトピックに分けてお話しいただきました。
まず、今回のキーワードである「リスキリング」の定義を改めて整理するところから研究会がスタート。
2020年の定義(経済産業省HPより)によると、リスキリングとは、「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する・させること」であるとご紹介いただきました。
すると、武井さまから「2024年の今、この定義に最も重要な言葉を足すとしたら何を追加しますか」と問いが投げかけられました。参加者同士で話し合いながら、「誰もがよりよい社会にしていく」「人材を確保する」「古いスキルを捨てて」など意見を交わしました。
参加者の意見を確認した後、武井さまは、「デジタルリテラシー、持続可能性(持続可能なビジネス実践・持続力)、柔軟な思考力」の3つ、特に持続力が重要ではないかと指摘されました。一度リスキリングをすればいいわけではなく、新しい技術や社会の変化に応じて、自分の技術を何度も何度も磨き続ける力が必要と感じていると話されました。
では、現代社会で必要とされる、もしくは今後必要とされるスキルを身につけ、そのスキルを磨き続けるためのリスキリングの持続力はどのようにすれば維持できるのでしょうか。
アデコでのリスキリングにおいて武井さまが常々大切にされていることは、「まずは自分のビジョンを考えること」だそうです。はじめにもお話があった通り、リスキリングをしていく上での大事な要素のひとつに持続力があります。持続力を担保するために重要な要素となるのがモチベーションです。そして、そのモチベーションを維持していくためには、「自分のビジョン」を明確にすることが重要であると武井さま。
そこで、自分自身のことや社会とのつながりに目を向けながら、ビジョンを明確にするためのツールのひとつとして「IKIGAI」をご紹介いただきました。
「IKIGAI」はアデコが提供するフレームワークの一種です。このワークでは、好きなこと、得意なこと、やりたいことをまず考え、その上で社会が求めていることを考えます。そして下図のように、それらの重なりから、自分なりの仕事へのビジョンを見出します。ワークの中心「IKIGAI」に位置できれば、モチベーションを維持し得る、楽しく生きがいが伴った仕事になります。
武井さまが仰るには、このワークで大事なこともやはり、持続力。このワークでは、必ずしも、常にIKIGAIの真ん中に自分が位置していなくてもよく、社会や自分自身の変化に応じ、何度でも見直し、自分のIKIGAIを考え続けることが重要とのご紹介でした。
3つ目のトピックは、どのように上記IKIGAIを意識し、組織として、もしくは個人としてリスキリングを実際におこなっていくのかです。武井さまからは5つのポイントをお話しいただきました。
【リスキリングをおこなうための5つのポイント】
1.ビジョンを掲げる
組織として何を目指していくのか、その中で個人としてどこを目指していくのかゴールを決める。
2.具体性のあるプランを示す
リスキリングにどれくらいの期間をかけ、何を、どのように進めていくのか具体的に決める。
3.(リスキリングに)投資を続ける
すぐに結果が見えなくても、スキルアップなど目標達成に必要な投資は継続する。
4.わかりやすい目標にチャレンジする
こんな資格を取るとよいなど、目指す方向性が具体化されることでモチベーションの向上にもつながる。
5.言葉だけでなく仕組みと紐づける
資格取得をした人への報酬などはよく見られる例ですが、それだけではなく、得たスキルや資格を活かす実践の場の提供までをセットにすることがスキリング及びリスキリングで重要なノウハウ。
武井さま自身も、エンジニアからコンサルタントになられたという経験をお持ちであり、当時のリスキリング体験も交えながらお話しいただきました。研究会に参加していた方々も自分自身を振り返りながら、リスキリングとどのように向き合っていくのかを考える時間になりました。
この5つのポイントを伺いながら、大きな目標を立て、その目標を達成するためにスモールステップの目標を立てるという手立ては、学校でもよく行われていることだなと、リスキリングと学校教育の共通点を感じました。
武井さまからお話をいただいた後、参加者とのディスカッションを行いました。
ディスカッションの内容を一部ご紹介します。
Q:生涯学習とリスキリングの違いは何でしょうか?リスキリングは既有のスキルと対極のものを身につけていくという認識でよいのでしょうか?
武井さま:基本的には共通のもので、変化に応じたスキルを身につけていくというニュアンスが、リスキリングには強いという捉え方がよいのではないかと思います。組織に個人を捧げるのではなく、社会の変化に対応し世の中を生き抜くために必要なスキルを身につけていくことが求められています。
Q:リスキリングはこれからの世の中を生き抜くためにとても重要なことだということを感じましたので、(自身が受け持つ)生徒に伝えていきたいと思います。世の中を生き抜くとはどういうことかを生徒にわかりすく伝える言葉を考えると、「生き抜くこと=稼ぐこと」と感じましたが武井さまはどのようにお考えでしょうか?
武井さま:世の中を生き抜くことをよりわかりやすく伝えるとするならば、「稼ぐ」よりは「柔軟性」に重きを置いて伝えることが大事ではないかと思っています。高校生に世の中を生き抜くということを考えてもらうには、「柔軟性」という言葉だけではイメージがわかないと思うので、具体例を挙げて考えてもらうしかないのではと感じます。
Q:実践の場を与える重要性の話があったが、失敗が続く不安定さ・悩みへの対応は何ができますか?
武井さま:失敗の過程がとても重要で、次どうしたら良いと思う?とサポートをしていくことで混沌が良い学びの場になるのではないか。それと同じくらい、成功体験を積むことも重要です。
Q:リスキリングを考えるキーワードの中に、「持続力」があったと思うが、手間をかけないと良いものができないのに、手間をかけたくない子ども・教員も多いと感じています。
武井さま:今まで解決していない問題を解決しようとしているので、初めから上手くいくわけがないと思うことがまず大事です。一時的に負荷がかかるのは当たり前ですが、教員の負担が大きくなりすぎるのは良くないので、何か業務を捨てるか、デルタル化のリスキリングを先生が進めて効率化していく必要があると思います。先生の役割を再定義すると、教師がどのようなスキルを身につけるべきかが見えてくるのではないかと思います。
1時間半があっという間に感じるディスカッションとなりました。 結びになりますが、ご講演いただきました武井さま、ご参加いただきました皆さま、誠にありがとうございました。