~ 開発者に聞く、授業づくりの裏側ストーリー ~

2024年にスタートし、すでに全国の中学校で多くの生徒が体験している出張授業「カードゲームで学ぶキャリア図鑑」。

「もっと幅広い職業に、子どもたちが目を向ける機会をつくれないだろうか」…そんな想いから、パートナー企業である株式会社マイナビとNPO法人企業教育研究会(ACE)が共同開発したキャリア教育プログラムです。

こちらの出張授業では、カードゲームやワークを通して、子どもたちが楽しみながら多様な職業や価値観に触れ、自分の将来やキャリアについて主体的に考える姿勢を育むことを目指しています。

さて、そこでこのブログでは、改めてこの授業が開発された背景や経緯を紹介します。

ブログ作成にあたっては、カードゲームおよび授業プログラムのメイン開発者・明石さんをはじめ、教育工学を専門とする職員・岡野さん現場で実践を担った学生スタッフの岡田さんにお集まりいただき、座談会方式で企画段階での発想や教材デザインへのこだわり、改訂に込めた意図など、授業づくりの裏側について語っていただきました。

また、記事の中では、メイン授業開発担当であった明石さんの授業づくりの想いスタンスがどこで育まれたのか、そのルーツとなる内面も深く掘り下げます。

今回手掛けた「キャリア図鑑」をはじめ、明石さんが担当する全ての授業開発の根っこに流れる信念が、人生経験と一本の線でつながる様子を、ちょっとした伝記気分で覗いてみてください!

座談会進行は、広報を担当し本記事の執筆も担う篠崎が務めました。 和やかな雰囲気の中で交わされた対話の様子を、ぜひお楽しみください。

左から、岡田さん、明石さん、岡野さん


◆ 座談会メンバー紹介 🎤

🗣️ 明石萌子さん(教材・授業開発担当)

高校教員を経て、2018年に千葉大学大学院教育学研究科に進学。
ゲームの手法を取り入れた授業デザインをテーマに研究を進め、2019年からは企業教育研究会の授業開発研究員として、企業と連携した授業の企画・実施・研究に携わっています。

授業プログラム「カードゲームで学ぶキャリア図鑑」では、カードゲームと授業の開発を担当。

「子どもたちは一人一人、自分なりの現実を生きている。多くの子どもたちに当てはまる正解やストーリーに、共感しづらさを感じる子もきっといるはず。一人一人が、何か、自分の現実に持ち帰れるものがある授業をつくりたい。」
この考え方は、これまでに手がけてきた授業にも一貫して流れており、明石さんの授業づくりの根っこにある想いとなっています。
詳しくは、このあとご本人の言葉で。



🗣️ 岡野健人さん(研究視点から議論を深める担当)

学生時代からACEの活動に深く関わり、現在は教育工学や授業開発を専門とする研究者への道を歩んでいます。
最近の主な関心の一つは生成AI。授業での活用方法だけでなく、その存在そのものが社会や子どもたちにどのような影響を与え、学びをどのように変えていくのか…という問いに取り組む。

また、ゲームを取り入れた教育(ゲーミフィケーション)にも関心が高く、教材設計に込められた意図や、明石さんの教育的思想についてじっくり話を聞けることを楽しみにしているそう。
今回は、客観的で研究的な視点から議論に参加していただきます。



🗣️ 岡田雪寧さん(授業現場を支える学生スタッフ)

ACEの学生スタッフとして、マイナビ出張授業の現場で多くの授業実践を経験しています。
授業者の育成に向けた模擬授業実施にも積極的に参加し、後輩スタッフに現場での知見を伝えてきました。

「自分の中にあるものと、外からの情報がふっとつながる瞬間が好き」と話す岡田さん。
人にその“気づきの種”をまくことも好きで、どうすればたくさん種をまけるのかと考えているそう。
園芸学部で農業科の教員免許取得を目指しており、授業の場では、「目の前の生徒たちにたくさんの気づきを与えるために、どう組み立てたらいいのかを考えるのがすごく好きなんです」と語ります。


◆明石さんの授業づくり ~原点とスタンス~

篠崎:
それでは、ここから座談会を始めていきたいと思います。
今回のテーマは、「キャリア図鑑」の授業がどのように生まれ、どんな想いで形づくられていったのか…の、授業開発の裏側です。

ACEの授業を広報している立場から感じるのは、どの授業にも、開発担当者それぞれの個性や思想が色濃く反映されているということ。
そこでまずは、授業開発を担当した明石さんの「授業づくりの原点」について伺いたいと思います。

明石:
はい。では、どういう経緯で今の仕事をしているのかというところからお話しさせてください。

私の専門性や興味関心、そして教材開発の考え方の根っこは、小学校時代の経験に遡ります。

小学生の頃の私は、まわりの子どもたちと興味の方向性や深さがかなり違っていました。
たとえば「校庭で花を探す」という学習活動でも、大好きな図鑑で見た“あの花”を見つけたい一心で、時間を忘れて夢中になってしまう。
気づくと授業時間が終わっていて、慌ててその辺の花を摘んだら、今度はその花のことを調べたくなって、勝手に図書室へ行ってしまうような子でした(笑)。
先生から見たら、こだわりが強くて、ちょっと個性的で扱いが難しいタイプだったと思います。

でもある日、理科室の掃除当番でのこと。
配管の後ろのほこりが気になって、ずっと一人でそこを掃除していたら、理科のおじいちゃん先生が「僕もずっとここ気になってたんだよね」と声をかけてくれたんです。
その瞬間、初めて「同じ所にこだわっている人がいた」と感じて、その先生が大好きになったのを覚えています。もしかしたら、それまでずっと、子ども心に「自分が見て、こだわっている現実」と「他の人が見ている現実」の違いに心細さがあったのかもしれません。

自分と他の人は違う現実を生きているけれど、時々、近い現実を見ている人もいるんだ、1人じゃないんだ、とものすごく安心しました。

中学校でも、印象的な先生との出会いがありました。
やはり理科の先生が「(某アニメで)○○が宇宙征服を目指しているの、すごいよね。だって、宇宙征服したら、全ての宇宙人の事情に合わせて政治をしなきゃいけない。自分ならそんな大変なことやりたくない!」なんて授業中に言う方で(笑)。
「そういう見方もあるんだ!」と驚いて、同時に、そうした自由な発想や、柔軟な視点の置き方に興味を持ちました。

高校においては、進学した高校がとても自由な校風で、研究者としても活動している先生が何人もいらっしゃいました。

高校生活では、多様な考え方に触れることができましたし、ムササビの研究をしている生物の先生や、ヨーロッパの貴族の家系の研究をしている世界史の先生など、多様な専門性を持つ先生が、楽しそうに授業をしてくださる姿に憧れました。

そこで、私も「専門分野を持った先生になりたい」と思うようになっていました。

でも、理科と社会科が両方とも好きすぎて選べなくて、最後まで悩みました(笑)。そこで、「どちらかを選ぶ」という視点の置き方を変えてみて、「両方学ぶなら、どんな分野がある?」という発想に至り、最終的に「動物の骨の考古学なら、生物と世界史の両方に関われるかも!」と専攻を決めることができました。

大学時代は、国内外の遺跡で発掘調査に関わらせていただいて、出土したモノを様々な視点で分析し、当時の人々の生活を考察するという研究に夢中になっていました。

今でも身の回りの事象が、どのような要素から、どのような構成で成り立っているのかを無意識的に分析してしまうのは、この経験があるからだと思います。小学校から大学までを通して、人ぞれぞれの現実のあり方や、物事を見る視点の柔軟性、身の回りの物事を分析する視点などを学び、卒業後に念願の高校教員になりました。

高校教員になってからは、毎日が授業づくりの特訓でした(笑)。

教育学部出身ではなかったこともあり、どうすれば分かりやすく伝わるのか、どうすれば興味関心を惹けるのか、ほとんどノウハウがなかったんです。色々な教材をつくっては、生徒や周囲の先生方に率直な感想をもらって改善を図りました。週刊誌の漫画家みたいで大変でしたが、反応を受けながらトライアンドエラーができたのは、貴重な経験でした。2年目からは少しずつ、自分なりに「こんな授業をつくりたい!」という形が見えてきたと思います。

しかし、教育の現場では、自分自身が小学校から大学までを通して考えてきた多様性が、必ずしも”安心”につながるとは限らないことにも直面しました。

「多くの人に当てはまる正解やストーリー」に安心感を持ったり、「このまま進めば大丈夫」という道筋が見えないと漠然とした不安を抱えたりする人もたくさんいる。そんな当たり前のことを、教員になって初めて実感を持って理解したんです。

一方で、私と似たような、私と近い現実を持っている生徒や、自由な考えが性に合う生徒も、確かに学校にいました。

それならば、「多くの生徒が共感できるメインルート」を中心に起きつつ、そこに共感しづらい生徒や、反発を覚える生徒が自分なりに考えられるような「サブルート」いくつか絡めた、複線的な授業をつくれば良いかなと考えるようになりました。

例えば、ゲームは設計の工夫次第では、プレイヤーが自分の好みに応じて、いくつかの遊び方を選択できます。

教員時代から、自己流でゲーム教材を授業に取り入れて、生徒が自分に合った学び方を選べるような工夫を模索し始めていました。

その後、大学院でちゃんとゲーム教材の研究をしたい!と考えるようになり、学費が貯まったタイミングで千葉大学大学院教育学研究科に進学しました。そしてACEの基盤になっている藤川大祐研究室に所属したご縁で、現在は職員として、ゲームなどの手法を取り入れた授業開発などを担当しています。

このような経緯の中で、メインストーリー・サプストーリーを複線的に設計し、多様な現実を生きている子どもたちが、自分なりに考え、自分の現実に何かを持ち帰れるような授業をつくりたい、というスタンスが成立しました。

このことは 今回のテーマだけでなく、授業開発担当者としての根源的なこだわりになっていると思います。

篠崎:

明石さんが授業開発者に至るまでの経験、そこから育まれた授業づくりへの信念について伺いました。


では、ここからは、そんな明石さんが開発にメインで関わったマイナビのカードゲームについて掘り下げていきます。


◆授業内容とカードゲーム教材のご紹介

まずは、読者の皆さまへ向けた授業の概要説明から。

◇出張授業 『 カードゲームで学ぶキャリア図鑑 』について

・授業のねらい

カードゲーム教材を用いた学習活動を通して、マイナビ社員の解説を交えながら、様々な業種・職種があることを知り、様々な仕事を通した社会参加について学びます。

仕事に関する知識を増やし、生徒の職業観・勤労観の視野を広げ、職業調べ等今後のキャリア教育に主体的に取り組む姿勢の涵養を目指します。

・授業の概要

鉱山閉山後、少子高齢化と人口減少が進んだ“まいひな市”という架空の市を舞台にしたストーリー性のある授業です。この状況を打破するため、4人の市民が立ち上がりました。4人の市民は、様々な業種を連携させ仕事上の課題を解決することでバーチャル鉱山を充実させていくという設定でゲームを進めていきます。

子どもたちは授業を通して、世の中に17,000以上もの職種があり、100以上もの業種に分かれているということや、社会は様々な業種が連携して成り立っているという事を学びます。また、キャリア支援事業を行うマイナビ社員による解説など実社会の事例紹介を通して、子どもたちはより現実に即した学びの機会を得ることができます。

・授業進行とその特徴について

1時間目:
カードゲームを通して多様な業種を知り、社会と仕事のつながりを学ぶ

2時間目:
職業の連携や仕事を通した多様な社会参画について学び、自己の生き方・キャリアを考える

特徴は、楽しみながら多様な職業の知識を獲得できるようカードゲーム型の教材を用い、授業進行にはアニメーションにて、授業の世界観に子どもたちがスムーズに入れるような仕掛けを取り入れている点です。

アニメーションに出てくるキャラクターについては、多様な価値観をもつ子どもたちが、それぞれ誰かに共感できるよう、ストーリーにも創意工夫を散りばめました。

【カードゲーム教材や子どもたちの活動の様子】

授業概要から、どのような授業なのかイメージを掴んでいただけましたでしょうか。

いよいよ、授業の肝であるカードゲームや、このキャリア教育をテーマにした出張授業について深堀りをしていきます。


◆授業と教材の開発について「キャリア図鑑」が生まれた背景

◇キャリア教育への問題意識と、授業開発に込めた想い

篠崎:
授業開発を進めることが決まったとき、何を大切に、どんなことを意識して授業を作ろうと思いましたか?
その時点で、キャリア教育全体についてどんな課題意識を持っていたのかも伺いたいです。

この授業のねらいとして職業探索の視野を拡げるというポイントがありますが、そうした授業が当時はあまりなかった印象もあったのでしょうか。

明石:
まず、自分として大切にしていたのは、複線的に授業をつくるということです。
これは今回に限らず、授業開発のときにいつも意識しているスタンスです。

もう一つは、当時のキャリア教育の流れへの問題意識でした。
当時は「自己分析」や「適性診断」などの自己理解に焦点を当てたプログラムが多かったです。

もちろん、自己理解も大切な要素なのですが、同時に、世の中の多様な仕事に目を向けるプログラムも必要ではないかと感じていました。自己の内面を掘り下げつつ、幅広い視野で職業を調べる姿勢を育むことができれば、より自分に合ったキャリア形成を促せるのではないかと思いました。

その中で、マイナビさんから「社会全体を見渡しながらキャリアを考えるような授業をつくりたい」
というお話をいただいて、すごく腑に落ちたんです。
視野を広げる”“俯瞰的に見る”というのをキーワードに、開発を進めることになりました。

篠崎:
職業調べについては、GIGA端末の導入などで現場の様子も変わってきていますよね。実際、キャリア教育について、皆さんはどんな印象を持っていますか?

岡田:
私が中学生のときは、サイトでいくつかの職業を調べて、ワークシートにまとめる形でした。正直、「何を調べたか、あまり覚えていない」というのが本音で……。教室を回る先生の声が、悲観的で厳しく感じられた場面もありました。


今振り返ると、調べているサイトに載っている職業一覧が、どういう基準で掲載されているのか認識するのが難しかったと感じます。だからこそ、「キャリア図鑑」のようにまず視野を広げる入り口があるのは、当時の自分にとっても助けになったかもしれません。一方で、業種からどこまで具体的にイメージできるかは、難しさもあると思っています。

岡野:
キャリア教育って、本当に難しい領域ですよね。
自分の経験からも、「正解がない」学びだと感じます。
だからこそ、視野を広げること自体が価値になるのだと思います。
ただ、その先で“どんな支援ができるのか”を考え続ける必要もあると感じています。

明石:
高校の現場でも、「やりたいことや夢がない自分はダメなのかもしれない」と感じる生徒が少なくありませんでした。成績から逆算して無理に進路を決めさせるのも良くないし、“夢を持つことが良い”を強く押し出しすぎることも実は危険なのではないかと思っています。

そもそも、「望ましいキャリア」は、一人一人の「現実」のあり方によって多様であるはずです。

その人の過去から未来に続く道筋や、その道を進む中で積み重ねていく経験などがキャリアということかなと私は捉えています。そうであれば、一人一人が今まで生き、積み重ねてきた「現実」によって、今後の望ましい道筋は様々だと思うのです。

だから、今回の授業では「夢を探す」ではなく、自分なりの「現実」を起点に、これまでの道のりや積み重ねを振り返りながら、将来のキャリアを考える授業にしたいと言う想いを込めました。キャリアは、その後ろにできていくんだよという視点を伝えたいと思っていました。このような想いから、今回の授業設計では、まず展望化(視野を拡げる)を大切にし、深堀りする深度の調整をしています。

◇開発作業 ~授業デザインと教材設計でねらったこと~

篠崎:
なるほど、「視野を拡げる」をメインテーマに、キャリア教育はそもそも多様であるはずという視点にたつと、明石さんの根源的なこだわりである「複線的な授業」というのがとても活きてきそうと感じます。

ここからは、実際の授業で“視野を拡げる”“俯瞰的に見る”ことや、「望ましいキャリア」は、一人一人の「現実」のあり方によって多様であるはずという想いを具体的にどのように授業に落とし込んでいったのかについて伺っていきます。

 ◇◇複線的な授業デザインについて

篠崎:

具体的に複線的な授業とはどのようなことなのでしょうか。

明石:

今回の授業では、多くの生徒が共感しやすいであろうメインストーリーをアニメーションで提示しました。

職業調べの進め方に困っている主人公の「ようた」が、正反対にやりたいことが明確で、色々な活動にチャレンジしている姉の「はるか」の勧めで、地域課題の解決に関わる多様な職業の人々と出会うストーリーです。

教材研究では、キャリアに関する意識調査をいくつも参照しました。

すると、職業調べの進め方がわからない生徒、明確な夢を持っている生徒、その中間の生徒がいることが示唆されました。

そこで、「ようた」と「はるか」という両極端の登場人物をメインに据えることで、自分に近い登場人物に共感できるストーリーにしたいと考えました。

昨年、広島のある学校で、1人の生徒が「知らない人に会いに行って大丈夫なのかな!?」と授業中に突然発言したことがありました。心配になるほど、「ようた」に共感してくれたようです。「ようた」は最終的に職業調べに少し前向きになるのですが、その生徒も一緒に前向きな気持ちになってくれたら嬉しいなと思いました。

一方で、多数派ではないかもしれませんが、起業を考えているような生徒や、お金を稼ぐよりもアーティストなど文化活動に関わる仕事に就きたい生徒、家庭や地域社会でキャリアを積みたい生徒、企業ではなく公務員になりたい生徒もいるはずです。

そこで、サブストーリーとして、カードゲームの登場人物は「高校生起業家」「地域活動家」「公務員」「学芸員」という設定にしました。

私はこれまでに30回くらい授業を実施していますが、その中でも2~3名の生徒が「高校生でも起業できるんだ」とゲーム中に発言しているのを聞きました。数は多くありませんが、確かにサブストーリーに共感する生徒の存在を感じています。

ゲーム中、生徒は4人の登場人物の役になって様々な業種のカードを集めます。

業種のカードを集めることは、様々な職業の人々との出会いを表しています。

「ようた」に共感する生徒は職業の知識を増やして視野を拡げ、

「起業家」に共感する生徒は事業を興すために多様な職業と連携する重要性を知る。

一人一人の生徒が、自己の「現実」に応じたストーリーで学習を進められるよう、複線的に授業デザインをしています。

このような授業を開発するときは、まずはストーリーや登場人物のモデルとなる実社会の事例の収集から始めます。

今回は、地域課題の解決をテーマにしたので、実際の町おこしにおいてトラブルの解決に関わった人々の実例を、書籍やインターネットで集めました。

何人かの学生スタッフが手伝ってくれたので、職員と手分けして事例を探し、日本全国津々浦々、たくさんの人々のストーリーが集まりました。いくつかのストーリーを統合して、最初は7人の登場人物を考えたのですが、授業中のゲームとして7人班だと人数が多すぎるので、最終的に4人に絞りました

学生スタッフも私も、登場人物には深い思い入れがあったので、4人に絞るときはちょっと切なかったです(笑)。

 ◇◇視野を拡げるカードゲームの設計について

篠崎:

次に、教材がカードゲームになった経緯を伺いたいです。最初は「すごろく形式」という案だったと聞いていますが…

明石:
はい。最初にマイナビさんからご相談をいただいたのは「すごろく形式のゲーム教材」についてでした。
でも私は、仕事のつながりを学ぶには、カードで集めてつなげていく方が良いと思ったんです。
あまり悩んだ記憶がなくて、ほとんど直感的に決めました。

すごろくはどうしても一本道のストーリーになりやすいけれど、キャリア教育はそうじゃない。
「望ましいキャリア」に一つの正解はなく、価値観も環境も人それぞれです。
だから、カードを並べ替えながら、違う角度で考えたり、何度でもやり直せるようにしたかったんです。
自己の価値観に応じたストーリーで学習を進められる教材という点では、カードゲーム形式が適していました。

また、ゲーム内で次々とカードをめくることにより、まずは知らない職種を含め多くの職業を目にするように設計しています。

カードゲームでは、1枚1枚のカードにある程度情報が記載できるというメリットもあります。

ゲーム中は制限時間があるので読み込みが難しい生徒もいますが、ゲームで興味関心を高めた上で振り返りを行うと、文章を読むのが苦手な生徒も普段よりもカードの情報を読み込んでくれることもあります。様々な職業の概要を知ってもらうことも授業の目的の1つなので、カードを使った情報の提示も取り入れました。

篠崎:

ゲームがすごろくか、カードゲームになるかで、子どもたちの活動や学びに違いが出てくるんですね。

 ◇◇解釈の一部を生徒に委ねる教材設計について

篠崎:

ゲームで集めた業種のつながりについて、生徒に一部の解釈を委ねるとありましたが、具体的にどのようにその設計をしているのですか。

下部の写真のように、ピクトグラムのようなマークがたくさん使われているところでしょうか?

明石:

カードゲーム教材自体の、抽象度をかなり高くしています。

カードゲームで集めた業種の連携のあり方を具体的に示しすぎると、生徒は「これが正解なんだ」と思ってしまったり、個別の事例を「連携ってこういうものなんだ」と過度に一般化したりしてしまう可能性があります。そうなると、世の中には様々な業種連携があるのに、かえって視野を狭めてしまうかもしれないと考えました。

そうではなく、あえて業種を記号的に示して、業種同士のつながり、つまり記号同士のつながりの意味を生徒が自分で意味を見つけ出す作りにしています。

つまり、生徒が自己の知識や経験、講師のアドバイスなどをふまえつつ業種同士のつながりを考えることで、業種連携には色々なあり方が考えられることに気づくプロセスを意識しました。

今回のカテゴリ構成は、厚生労働省の日本標準産業分類をもとにしていますが、
そのままだと数が多すぎるので、中学生でも使いやすいように統合・表現を調整し、マイナビさまに監修していただいてカード教材の内容を確定しました。


あえて抽象度を少し高めにして、業種カードでは具体的なキャラクターやモデル像をあまり設定しなかったのもポイントです。
生徒一人ひとりが、自分なりのイメージを膨らませながら学べる余地を残したかったんです。
その分、授業での先生方のサポートや解釈も、とても大切になってくると思っています。

岡田:

実際に授業をしてみると、子どもたちの「引っ掛かりポイント」が本当に違うんです。

ある子は「デザインが気になる」とか、「地元に関係があるから」とか、

その理由がみんなバラバラで、でもそれぞれがちゃんと意味を持っている。

そういう場面に立ち会うと、この教材の設計がうまく活きていると感じます。

明石:

実は、この設計は、複線的な授業という狙いにも寄与しています。

例えば、カードゲームで扱っている業種連携の中に、農業・漁業・畜産業・道路貨物運送業の連携があります。

抽象的には食品を作る仕事と運ぶ仕事が連携することでお店に材料が届くということを示しているのですが、福岡県のある学校で「明太子の加工工場でもこのような業種連携が見られるのでは?」と議論を始めた班がありました。

その班では、どんどん話が広がり、最終的には「加工工場が運営できれば地元の雇用も増えて、地域活性化につながるかも」というアイディアまで考えていました。このアイディアを既存のストーリーとして提示したのではなく、生徒自身が4つの業種の記号を地元産業の知識をふまえて解釈して描いたことが重要だと考えています。

このような過程を経ることで、「身近な社会を様々な業種が支えている」ことを、より実感を持って理解できるのではないかと思います。

ワークシートやカード内で、敢えてピクトグラムのような抽象度の高い表現にとどめ、生徒自身が自分なりのイメージを膨らませることができる余地を残しデザインしている。

◇◇◇教材の抽象度を高めるとは? ~明石さんの頭の中をのぞき見👀~

私の授業づくりは、いつもまずテーマを一度バラバラに分解して眺めることから始まります。
例えばキャリアという言葉の中には、語源である「荷車の通り道」という意味や、就活・転職などとの関連、学校で重視されるようになった経緯、実社会からの要請など、様々な要素が折り重なっています。
それらをいったん分解していくと、意味が入り混じった“カオス”のような状態になります。

でも、その混沌の中にこそ、新しいつながりの芽があると感じています。
自分の中には、これまでに見たり読んだり感じたりした膨大な「記号」がアーカイブされていて、
それらがある瞬間に自然と結びついて、新しい形をつくり出す。
それは意図的というより、直観的に起こることなんです。
この「要素分解 → 混沌 → 再構築」という流れが、私の教材づくりの根幹にあります。

今回の「キャリア図鑑」も、そのプロセスの中で生まれました。
“キャリア”というのは、個々の生徒の価値観や環境によって、望ましい形がまったく違うテーマです。
そのため、今回は、意味の再構築を“途中で止める”という選択をしました。

この教材では、生徒に「自分で具体化していく」という結びつけの作業を促したいと考えました。
抽象的なものを理解するためには、具体的な事例を通して自分で腹落ちさせるプロセスが必要なんです。
完成された答えを提示するのではなく、生徒自身がその続きを考え、
自分の中で意味をつくり上げていく…その余白を残したかったんです。

また、キャリアというテーマは、すべての生徒が生涯をかけて向き合うものです。
だから、誰でも楽しみながら学べるように、エンタメ的な要素も意識して設計しました。

学力や特性に関わらず、カードをめくりながら、
それぞれの感覚で「面白い」「気になる」と感じられるようにしています。

私が大学院で研究していたのは、「構成主義」という立場での教材開発です。
簡単に言うと構成主義とは、知識や経験は、個人や集団の内面で構成されるという考え方です。
私たちが見ている社会や現実は、外に客観的に存在するものではなく、一人ひとりの内面でつくり上げた“世界のモデル”にすぎない。
この考えに立つと、私たちは一人一人、自己の内面につくった別々の世界を生きていることになる。

その意味で、この教材には、私自身の教育観が強く反映されています。

◇ゲーム設計時に意識している4つの要素

篠崎:

もう少し、ゲーム教材そのものに意識した点についても教えてください

明石:

マクゴニガル氏によると、ゲームには自発的参加、ゴール、ルール、フィードバックという4つの要素があるといわれています。私は、その中でもフィードバック(プレイヤーの行動に対する反応や評価など)を一番重視してゲームを設計しています。

学習者が「自分は今うまく進めている」と感じられることが、集中を保つ鍵になります。

だから、カードを引く・考える・また選ぶというテンポが一定のリズムで循環するように設計しました。
フィードバックが多すぎると疲れるし、少なすぎても飽きる。
程よいタイミングで“進めている感”を得られるように、学生スタッフと一緒に何度もテストプレイをしました。


テストプレイでは、学生スタッフから「トラブルが多すぎると萎える」「ルールに納得感がない」「ポイントのバランスがイマイチ」など率直な意見をもらいました。それぞれの意見を私が修正して、再びテストプレイをして適切なリズム・フィードバックのバランスを探って行きました。授業全体の中でゲームの時間は30分程度、ルール等の説明を含めても集中が切れないように計算しています。

(参考: 幸せな未来は「ゲーム」が創る ジェイン・マクゴニガル(著)早川書房)

さらに、上記のような教材からのフィードバックに加えて、授業ではマイナビ社員からの直接的なフィードバックも大切にしています。事前に、ゲーム中は各班を回って、質問に応答したり、「良い感じで進んでいるね!」と前向きな声かけをしていただくようにお願いしています。現地でのフィードバックがあることで、さらにゲームに没入して活動しやすい環境をつくることができるのです。

◇ゲームにおけるリズムの良さとは? 
 ~ 明石さん独自の開発検討過程について

篠崎:
先ほどのお話しの中で、「直感で決めた」という言葉が出てきたのも、とても印象的でした。
明石さんの授業づくりは、ロジカルに構築されているようでいて、どこか感覚的でもありますよね。
そのあたり、もう少し詳しく教えてください。

明石:
少し変な話かもしれませんが、私は授業をつくるとき、最初に音楽を決めるんです。
教材づくりの中で最も時間をかけるのがBGM探しです(笑)

授業のテンポや転換点を、音のリズムで感じ取るんです。
そのBGMのリズムと授業の流れがぴたりと合ってきたときに、
「あ、これはいい方向に進んでいるな」と感覚的に分かる。
理屈というより、音の流れで授業の完成度を判断している部分が大きいですね。

(筆者・心の声)この話を聞いたとき、岡田さんとは「わけわかんない!」って盛り上がりました。
明石さんご本人は「職人肌」とおっしゃるけれど、私にはどうしても天才肌のアーティストに見えてしまいます(笑)。

◇現場を見据えた授業デザインについて

篠崎:
教材の構造的な設計のほかにも、実際の授業現場を意識し考えていたことなどを教えてください。

明石:
はい。設計段階から意識していたのが、「偶発的な学び」と「設計された自由」のバランスです。
教育の中では、意図していない気づき…いわゆる偶発的な学びが大切だとよく言われます。
私もまったく同感です。


ただ、時間が限られた出張授業では、偶発性だけに頼ると着地点が見えにくくなってしまう。
かといって、すべてをコントロールしてしまうと、生徒が考える余白がなくなる。

だから私は、複線的な授業設計を大切にしています。

メインルートについてこられなかった子も、別のルートで気づきを得られるようにする。
“偶発性を設計する”という感覚に近いですね。

 

岡田:
その考え方は、授業をしていてもすごく感じます。
同じカードでも、子どもたちが着目する部分が全然違う。
「家族」「ロボット」「地元」など、思いがけない角度から話が広がることもあって、
偶発性と構成が両立している感じがします。

明石:
もう一つ意識していたのが、教員の視野を広げる授業にするということです。
高校教員時代、進路指導で「文系・理系どっちに行くべきか」と生徒に問われて答えに詰まったことがありました。


教員自身が社会の多様さを知らない。
だからこの授業では、先生も生徒と一緒に「こんな仕事もあるんだね」と驚ける時間にしたかった。
先生も学びの当事者になる…そんな構造を意識しました。


そして、設計の背景にはもう一つ、コロナ禍がありました。
ちょうど開発を始めた頃、職場体験が中止になっていて、「もう元には戻らないかもしれない」と思っていました。
だからこそ、職場体験に代わる新たなキャリア教育の提案、もしくは職場体験が復活した際にはそれと兼ね合わせてできるような授業を構想していました。

◆プログラム改修の舞台裏 

◇授業プログラム見直しのきっかけと課題意識

篠崎:
一年の授業実施を経て、今回の授業プログラムを見直しがなされました。これは、どんなきっかけからだったのでしょうか?

明石:
きっかけは、年度の切り替わりのタイミングで、マイナビ側からご相談をいただいたことです。

翌年度以降、マイナビの社員の方のみで授業実施をする構想もあったため、より広く普及するにあたり、授業進行をやりやすくするための改修作業も目的の一つでした。

岡田:
そうですね。初期版はボリュームがあって、どのテーマも魅力的なんですけど、(授業を実施する中で、効果的に授業を進行するには)整理が必要かなとは感じていました。

明石:

ただ、ACEの出張授業では他のプログラムでも、実際の生徒の反応などを見て授業リリース後、必ず見直し作業をしています。そこまで開発担当が実施した後、完全に運営チームに任せるという動きになることが多いです。

したがって、授業プログラムの見直しをすること自体は自然な流れだったと思います。

◇具体的な改修内容について

篠崎:
ありがとうございます。では、今回の授業を改訂する上で、特に大事にされたポイントはどこでしたか?

明石:
一番大きかったのは、「抽象度」と「指導の安定性」のバランスですね。
私は、抽象度が高い教材が好きなんですが、ガイドがない状態で授業を進めるのが不安な方も多いと思います。


だから今回は、ワークシートを一部穴抜きにしたり、抽象度を少し下げたり、指導の補助線を加えたりして、講師の方が安心して扱え、授業進行をサポートしやすくなるように調整しました。

また、初年度は、「職業の視野を広げ、職業調べの方法を学ぶ」「仕事と社会のつながりを学ぶ」「地域課題の解決例を知る」という3つのテーマを同じくらいの比重で扱っていました。今年度では、マイナビ側と検討した結果、「仕事と社会のつながりを学ぶ」というテーマに絞り込み、授業の流れをよりシンプルにしました。

内容を削るのではなく、全体の構成を整理した形です。
日頃から授業に慣れていない講師でも、流れをつかみやすく、安定して授業進行できるようにしています。


今回の改修全体を通して、複線的な設計思想を保ちながらも、メインルートを明確にして見通しを立てやすくしました。

一部穴抜き式に修正した新ワークシート

◇改修による変化と手応え

篠崎:
改修後、みなさんはどんな変化を感じましたか?

岡野:
改修後は、全体の流れがだいぶ整理された印象です。
講師の方も、「このあたりまでは共通で進められるな」という感覚を持てるようになって、
生徒が途中で話を広げても、それを自然に受け止めやすくなった気がします。

岡田:
そうですね。授業を見ていても、全体の雰囲気が落ち着いていて、
講師も生徒も安心してやり取りしている感じがあります。
以前よりも、場の一体感が生まれているのを感じました。

明石:
まさに、それが狙いでした。
自由なやりとりを支えるには、安心できる“土台”が必要なので、想定通りの結果になったと感じています。

◇多様性への対応と指導の安定性の両立へ

篠崎:
今回の授業開発から改訂作業までの全体を通して、明石さんが改めて感じていることはありますか。

明石:
私が授業やゲーム設計に込める「複線的な授業デザイン」と「自分なりの解釈の幅を持たせた教材設計」による多様性が反映された授業プログラムに対して、講師が安心して進めることができる「指導の安定性」を両立することはとても難しいポイントだと思います。


そのどちらかを優先すると、もう片方が揺らぐんですよね。

従って、この両立のためには、開発側の工夫だけでなく、企業の人や学校の先生方の理解も不可欠だと考えています。

そのためには、多様性に応じたキャリア教育の実践例を増やしていくことも重要だと思います。本授業プログラムでは事後学習用の指導案も提供しているので、ぜひ、学校や生徒の実態に応じて活用していただき、事例を増やしていけたら嬉しいです。


今回、授業の開発背景や、授業開発者担当者の明石さん自身について深く掘り下げてきました。

読者のみなさんにご紹介してきた、さまざまな想いや知見、技の詰まったマイナビ✖ACEのキャリア教育授業プログラム。

これらのねらいを最大限発揮するためには、実際の授業実施の知見や手腕も求められます。

授業実施に向けての工夫や、授業実施担当者の思いは、次回“授業実施編”ブログ記事にて紹介します。

こちらもお楽しみに‼

文・構成:篠崎実穂(ACE広報)

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