仮想世界への没入から得られる学びとは

2025年11月19日、船橋市立若松小学校の体育館にて、教員の方を対象とした研修会「VRを活用した新たな教育の可能性」を開催しました。今回は、Meta日本法人の皆さまとNPO法人企業教育研究会(ACE)が共同で企画・運営を行い、当日は48名の先生方にご参加いただきました。

当日は、ACEの学生スタッフも運営に加わり、VR機材のセッティングや操作のサポートを担当しました。先生方が実際に機材に触れ、活発に意見を交わす様子から、VRへの関心の高さと新しい可能性を感じる一日となりました。

このブログでは、講演の概要をはじめ、実機体験での先生方の反応や、教育現場への導入に向けたディスカッションの内容をまとめました。VRの教育活用に関心をお持ちの先生方のヒントになるよう、当日の様子をありのままにお伝えします。

VRは教室の学びをどう変化させ得るのか

まずは職員の明石さんから、VRやヘッドマウントディスプレイ(HMD)について概要を説明しました。

1.VR(バーチャルリアリティ/仮想現実)とは

VRとは、デジタル技術で構築された仮想空間を、あたかも現実であるかのように体感する技術です 。ヘッドマウントディスプレイ(以下HMD)を用いることで、立体的なグラフィック、ステレオ音声、コントローラーの振動などを通して視覚・聴覚・感覚を人工的に再現し、仮想世界に完全に入り込んだような没入体験を可能にします。また、ユーザーはアバターとして仮想世界に登場し、活動することができます 。

2.進化するデバイスと教育活用の潮流:HMDの歴史

VR体験に不可欠な機器の歴史についても解説しました。

VRの研究は1950年代の巨大な固定装置「センソラマ」から始まりましたが、2012年の「Oculus Rift」の登場や、2016年の「VR元年」を経て、技術は飛躍的に軽量化・高精度化しました。かつては数十万円の予算と高性能パソコンが必要だった環境ですが、現在はパソコンに繋ぐ必要がなく単体で動く「スタンドアロン型」が主流です。今回体験会に用いた「Meta Quest」シリーズのように、5万円程度から導入可能なモデルも出てきており、学校現場でも現実的な導入が検討できるフェーズに入っています。

3.VRの教育活用事例

VRやメタバースの活用は、教育現場や地域活性等へと広がっています。

【国内の活用事例】

地域連携・探究学習:

兵庫県養父市では吉本興業株式会社と連携し、市の観光資源を再現した「バーチャルやぶ」を公開。HMDやPCからイベントに参加できる交流拠点として活用されています。また、長野県松本市の「ばーちゃるまつもと」では、自治体や企業、市民が連携し、商店街や観光名所を再現。一部のコンテンツは松本工業高校の生徒が探究学習で制作しました。

不登校支援・学校運営:

広島市と立命館大学は、VR機器を用いた「メタバース不登校学生居場所支援プログラム」を実施。アバターを用いてワールド体験や制作者へのインタビューを行っています。また、学校法人角川ドワンゴ学園 N高等学校・S高等学校では、メタバース上に教室や校庭を再現し、離れた場所にいる生徒同士がグループワークや行事を行っています。

【海外の活用事例】

第二言語学習(スペイン):

イリノイ大学(米)とImmerse社が連携し、スペインの小学校6年生を対象にVRを活用した英語学習を実施。VR空間上のアイテムに直接触れられることで、英単語の学習が促進されました。

ユニバーサルデザインの学習(韓国):

デジタルリテラシー協会が公開している授業案を活用。ユニバーサルデザインの概念を学んだ後、児童生徒がオリジナルのデザイン案を作成し、それを3Dモデル化して発表に活用しています。

4.文部科学省の動向

文部科学省はGIGAスクール構想の下、先端技術の教育活用が推進されています。VRについては、ガイドブック等でVR・ARの解説や事例紹介を行うとともに、VR技術を活用した探究学習、国際交流、バーチャル教室等における不登校支援の実証実践なども進められており、VRは学びのための「新たな選択肢」として位置付けられつつあります。

5.VRで得られる体験とは ~体験会の様子~

実際の機材(HMD)を装着していただいた研修会では、以下のようなアプリを体験しました。

機材についてはMeta日本法人に提供をいただき、Meta職員のみなさま、ACE学生スタッフが手厚くフォローする体制にて進めました。


【体験したアプリ一覧】

けん玉VR: 仮想空間上でけん玉の技を練習するアプリ。
オーシャンリフト: 深海の生態系を360度視点で観察できるコンテンツ。
Multi Brush: 3D空間上に光の筆で立体的な絵を描くことができるアプリ。
       描いた作品の中を歩き回る体験も可能。
Art Quest VR: 美術館など、普段とは異なる別の世界に没入できる体験アプリ。
Safety VR: 危機的な状況を安全な環境で体験し、危険予測を行うことで安全意識を高める学習アプリ。
Cosmic XR: 宇宙空間を体験するコンテンツ。広大なスケール感を直感的に理解できる。
World Lens: 世界を視覚的に学ぶことができる体験型アプリ。
Math World VR: 図形を空間的に操作し、立体的な概念を直感的に理解するための学習アプリ。
IMMERSE: 英語学習用アプリ。
      仮想空間のキッチンやお店を再現し、AIアバターとの英会話を通じて、
      場面に応じた英語表現を練習することができます。

先生方に体験いただいたアプリは、事前に職員と学生スタッフで教材研究を重ねた上で厳選したアプリです

体験の時間が始まると、会場の体育館は驚きや感嘆の声が響き、みなさん大変な盛り上がり。

HMDの慣れない操作ということもあり、使いたいアプリを起動して体験を始めるまではスムーズではない場面も見受けられましたが、HMDを装着すること自体にも新鮮味を感じ、周りの先生方と和気あいあいと参加して下さっている様子でした。 

事後アンケートを見ると、92.5%の先生方が没入感を体験できたことが示されていました。「思っていたよりも没入感があり驚きだらけで楽しかった」「使ってみたいと思っていたので初めて体験できてよかった」などの意見がありました。

一方、約半数の方が操作の難しい場面があったと回答しており、さらに、HMDの重さへの懸念や、導入時には子どもが興奮しすぎてしまうのでは?と心配を感じる先生もいらっしゃるようでした。

6.VRがあるからこそ実現する学習について(VR特有の学習)

実際にHMDによるアプリを体験していただいた後、VRだからこそ可能となる学習について以下4点を紹介しました。

(1)VRタイムシフト(記録・再生)

VR空間での活動を記録し、後から好きなタイミングでその場にいるかのように追体験できる仕組みです 。欠席した児童生徒が後から授業に参加する際、クラスの状況を疑似体験することで孤独感を和らげる効果などが期待されています 。

(2)プロテウス効果(心理・行動の変容)

アバターの見た目によって、ユーザーの心理や行動が変化する現象です 。ドラゴンの姿になると高所への恐怖が抑制されるという研究や、アバターをまとうことで苦手意識のある児童が積極的にダンスの授業に参加できた事例があります 。

(3)分身

少数派の意見を持つ参加者1名の発話を、複数のアバターに分割して提示する技術です 。メタバース上での見かけの人数差を縮小することで、周囲の同調圧力を緩和し、多様な意見交換を促進できる可能性が示されています 。

(4)融合身体

1つのアバターを2人で同時に操作する技術です 。例えば、先生と生徒が同時に操作すると、従来の学習よりも習得速度が向上する事例があります。効率的な技能習得への活用が注目されています 。

VR技術がより身近になり、これらの学び方が教室の選択肢に加わることで、子どもたちの学びの幅はこれまで以上に大きく広がりそうです。

7.ディスカッションについて

当日のディスカッション及び、記載いただいたディスカッションシートより、VR教育を授業へ定着させるための具体的なヒントが見えてきました。以下に、先生方よりいただいた感想や意見を紹介します。

(1)体験を補足する活用アイデア

先生方からは、既存の教材ではリーチしきれない「体験の不足」を補うための具体的な活用案が多数提案されました。

・空間と量感を直感的に掴む(理科・算数)

理科では、月と太陽の位置関係(半月や三日月の仕組み)や、地層の掘削体験など、平面の図面や模型ではイメージの共有が難しい内容に対し、VRを用い「中に入り込む」ことで、直感的な空間把握を助けたいという声が挙げられました 。算数(空間図形)や、天体の動き、微生物の世界など、「ミクロからマクロまで」の視点を教室に持ち込みたいという期待が寄せられていました。

・歴史や地理を「追体験」する(社会科)

歴史上の出来事へのタイムスリップや、戦国・縄文時代の生活、あるいは国内外の遠隔地への校外学習など、「実際に行くことが困難な場所・時代」をバーチャルで体験することに対し、意見が交わされました。

・身体性と技能の指導(体育・技術・英語)

「けん玉VR」のスローモーション機能等を例に、鉄棒やダンスなどの動きを視覚的に見て真似る、あるいは自分の動きを客観視するという指導への応用に関心が集まりました。また、英語学習における「AIアバターとの会話」など、対話のハードルを下げる試みも注目されていました。

(2)メタバースが拓く「包摂的な学び」

ディスカッションとシート記述において、多くの先生がメタバースを評価していました。

・「参加のハードル」を下げるアバターの力

不登校支援や別室登校において、アバターという「姿」を介すことで、対人コミュニケーションの不安を軽減し、学びの場へ参加しやすくなる可能性に期待が寄せられました 。

特に、外国籍児童が多い学校では「言語に対応したアバターとの会話」により、メタバースを介すことで「誰もが参加できる空間」になり得ることが示唆されました。

・失敗を恐れない「実験室」としての価値

災害時の避難訓練や防災体験など、「現実ではリスクを伴う体験」を、教室という安全な場所で何度でも失敗しながら学べる環境は、VR空間ならではの大きな価値として共有されました 。

(3)導入の現実的ハードル

一方で、VRを「日常の授業」に落とし込むための現実的な課題も浮き彫りになりました。

・目的か、手段か

多くの回答に共通していたのが、「VRを使うこと自体が目的になってはいけない」という冷静な視点です。「現行の学習指導要領や単元内容との整合性(相性)」を重視し、本当に必要な場面でのみ効果的に使うべきだという意見が共有されました。

・運用負荷と環境への懸念

授業準備の煩雑さ、限られた時間内での機材セットアップ、さらには低学年における機材の耐久性・衛生管理など、日常のルーティンにどう組み込むかという「運用の負荷」に対しては慎重な意見も多かったです。また、「登校している児童生徒と、VR参加の児童生徒をどう両立させるか」といった、日々の運営に直結する切実な悩みも提示されました 。

8.アンケート結果・概要紹介

研修会後に実施したアンケート(有効回答42名)では、先生方の率直な反応と現場の視点が浮き彫りになりました。

今回の研修結果をデータで振り返ると、VRという言葉自体は95.1%の先生方が知っていたものの、実際に体験したことがある方は3割未満(28.6%)にとどまっていました。研修を通じて92.5%の先生方が「仮想世界への没入を体験できた」と回答し、約7割が「現実ではできない体験ができる」ことを実感されました。

一方で、導入の障壁については9割以上の先生が「機器導入コスト」を懸念しており、実現に向けては「教材パッケージの提供(76.2%)」や「教職員向け研修(69%)」といった、実質的な運用のサポート体制が強く求められていることが分かりました 。

9.全体を通した感想について

アンケートに寄せられた感想について、一部ご紹介します。

「大人がとても楽しくできたので、児童たちは本当に夢中になると思います。」 

「今日の研修の前にクラスの子に、『VRの研修に行くんだ』というと、『いいな~!!』『うらやましい!!』といわれました。子どもたちの関心が高いので。学校でも活用できるように考えていきたいと思いました。」 

「既存の教育活動にどう取り入れていくのかが課題になるとはと思いました。ICTもそうでしたが、目的ではなく手段としてVRを活用する以上、現行の学習内容、単元の特徴との相性が良くないと難しいとは感じました。」 

「校外学習の下見をVRで行えるのは楽になりそうだが、つきつめてもはや校外学習もVRでいいのでは?となりそう…VRではなく、実際の体験を行う意味が薄れていくのは怖いような。」 

「メタバースは課題のある児童に有効だと感じるが、メタバースだけで生きていくのは今のところ難しく、生きずらさの解消に本当につながる?と疑問を持ちました。」

10.まとめ:担当職員・岡野さんより

今回の研修は、先生方が実際にVRを体験いただいた上で、「教室でどのようにVRを活用できるか」を一緒に考える時間をたっぷり取ることができました。実際に機材に触れていただく中で、驚きや楽しさとともに、授業での可能性について多くのアイデアが生まれていたことがとても印象的でした。 

VRは、これまで教室では体験することが難しかった空間や状況を疑似的に体験できる技術であり、学びの幅を広げる新しい選択肢の一つになり得ます。一方で、授業への導入には機材の扱いや運用面などの課題も存在します。今回の研修を通じて、そうした可能性と課題の双方を共有しながら、現場の先生方と共に実践のヒントを探ることができたことは大きな意義だったと感じています。 


「実際に見たり聞いたりできないものを経験できる。自分自身もどんな風に使えるかワクワクした」という宮本小学校・佐々木先生の言葉に、かねてよりワクワクする授業を届けたいと日々活動する私たちも、VRの大きな可能性を改めて強く感じました。

もちろん、実際の教室への導入にはコストや管理、安全面など高いハードルがあることも重々承知しております 。私たちACEは、先端技術と学校現場の橋渡し役として、子どもたちへ質の高い学びを届けるための活動を、これからも地道に続けてまいります。

なお、こうした一連の研究成果をまとめ、職員の岡野さんが発表いたしました『VRの教育活用に関する教員研修のデザインと実践』が、日本デジタルゲーム学会 第16回年次大会にて「学生大会奨励賞」を受賞いたしました。本受賞は、Meta日本法人の皆さま、研修の場で率直なご意見や貴重な気づきをくださった先生方のご協力があってこそ成し得たものです。この場を借りて、改めて心より感謝申し上げます。

これからも、現場の先生方に少しでもお役に立てるよう、活動を続けてまいります。

受賞詳細については以下ご参照ください。

【文・篠崎実穂(広報)】

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