2026年4月22日(水)、本年度第1回目となる第175回「千葉授業づくり研究会」を開催いたしました。今回のテーマは「生成AI時代のSNSの安全利用と情報モラル教育 〜子どもたちをめぐる最新動向と、学校・家庭・SNS事業者の役割を考える〜」です。
生成AIの普及で情報の生成・拡大のあり方が大きく変わるなか、子どもたちがどうすれば安全にSNSを利用できるのか。そして、その力をどう育てるかは、今の教育現場や家庭にとって本当に大切な課題になっています。
それを受け、今回の研究会では、Instagramなどを運営するMeta日本法人(Facebook Japan、以下Meta)の栗原さあやさんにお越しいただきました。世の中の最新のデジタル環境に精通されているMetaと弊会(ACE)は、これまでも出張授業「みんなのデジタル教室」や、VR(バーチャルリアリティ)教員研修会など、継続して連携させていただいています。
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当日は、Metaが進めている安全対策の最新情報や、新しく始まった「ティーンアカウント」にどのような思いが込められているのかなど、詳しくお話しいただきました。学校関係者や保護者など、子どもたちとSNSとの関係や安全な使い方に関心のある方は必見です!ぜひ、ご一読ください。
はじめに、弊会理事長の藤川大祐教授(千葉大学大学院教育学研究院長)が登壇。20年にわたり、この問題に携わってきた経験を交えてお話がありました。
「SNSの歴史を振り返ると、2007年頃から普及が始まり、2013年頃のスマホの爆発的な普及とともにFacebookやTwitterが定着しました。その後、InstagramやTikTok、YouTubeなど、動画や写真を中心とした今の形へと大きく広がってきた流れがあります。
現在、世界中で議論されているのは、SNSの長時間利用や犯罪被害、そしてメンタルヘルスへの深刻な影響です。私自身、2005年頃に警察庁が初めて設置した会議の委員を務めて以来、約20年にわたり国のレベルでこの問題に関わってきましたが、今、状況はかつてない『新たな局面』を迎えていると感じています。
オーストラリアやフランスでの法規制、日本でのこども家庭庁による議論など、世界情勢も大きく変化しています。こうした中、Metaが他社に先駆けて導入した『ティーンアカウント』のように、事業者が若い世代の安全を守る本格的な仕組みを整えることは非常に重要です。
事業者が自らの責務を果たす一方で、私たち教育側は何をすべきなのか。これまでの『ネットから遠ざける』といった議論から一歩進み、それぞれの役割を整理した上で、どう子どもたちを支え導くか。今日は本音で、かつ率直に議論を深めたいと思います。」
続いて、Meta日本法人の公共政策本部で、ネット上の安全対策やリテラシー教育を担当されている栗原さあやさんにお話しいただきました 。栗原さんは、政府や自治体、NPOや学校関係者と連携しながら、子どもたちのネット上の安全や、リテラシー教育の普及に日々力を注いでいらっしゃいます 。
今回の講演テーマは、『青少年保護の取り組みについて』 。Metaがプラットフォームとして何よりも大切にしている、「10代の利用者に、安全で年齢に合った体験を届ける」という目標を、実際の機能にどのように反映させているのか 。最新の設計思想や具体的な仕組みについて、詳しく解説していただきました。
SNSが子どもたちの生活に深く浸透し、日々当たり前のように使われている今、そこには新しい関心事の発見や、多様なつながりといったポジティブな側面が数多くあります。その一方で、利用に伴う新たな課題が浮き彫りになっていることもまた事実です。
その安全な環境を支える「土台」としてまず紹介されたのが、すべてのサービスの根底にある「コミュニティ規定」です。この「コミュニティ規定」は、インターネットで一般公開されており、どなたでも確認することができます。
「コミュニティ規定」は、FacebookやInstagram等において、コンテンツとして「何が認められ、何が認められないか」の共通ルールを定めたものです。テクノロジーや人権の専門家からの助言に基づいて策定されており、全世界で一貫して適用されます。ルールに違反した場合には、投稿の削除やアカウントの停止といった措置が取られます。
栗原さんは、この規定について「ルールをいかに実効性のあるものにするかが大切だ」と話され、通常の報告機能による監視に加えて稼働しているという、最新のAI技術を活用した取り組みについても解説しました。その内容について以下に紹介します。
続いて、Metaの事前リサーチに基づき、多くの保護者が懸念を持っているとされた3つの点。
子どもたちがSNS上で「誰とやり取りしているか」「どんな内容を見ているか」「利用時間は?」といった不安に直接応えるために開発された「ティーンアカウント」を紹介しました 。会場のみなさんに伺うと、ティーンアカウントの認知度は3割程度の様子です。

こちらは、保護者の見守りのもとで安全にInstagramを利用できるよう、Instagramが利用可能な13歳から17歳の子どもたちにおいては、初期設定において自動的に設定がなされるものです。
日本では2025年1月から導入され、既設アカウントを含む全対象者が移行済みです。
13歳から17歳の中でも設定を緩和する方法などには違いがあり、年齢によるニーズの変化も考慮した仕様になっています。

こうした数々の安全機能について、栗原さんは「デフォルト(初期設定)」で自動的に適用されることの重要性を強調されていました。
背景にあるのは、日々多忙な時間を送る子どもたちや保護者、そして先生方への配慮です。多くのアプリを使いこなす中で、複雑な設定を一つひとつ手動で確認し、変更していくのは決して容易ではありません。
だからこそ、ユーザー側の操作を必要とせず、何もしなくても最初から安全な設定がオンになっていること。この「最初から守られている状態」こそが重要であるという考えに基づき、機能開発を進めているとのことでした。
年齢詐称を防ぐための対策も徹底されています。AIによる動画での年齢推定や、公的身分証明書の確認など、外部サービスも組み合わせた多角的な方法で、利用者の年齢を正しく判別する工夫がなされています。
現在、子どものスマートフォンには数十個ものアプリがインストールされていると言われており、保護者がそのすべてを個別に把握し、設定を管理し続けるのは現実的に非常に困難です。
こうした負担を解消するためには、個々のアプリ単位での対策だけでなく、スマートフォンの土台であるOS、アプリストアレベルで、一括して年齢確認や保護者の同意管理ができる仕組みが求められます。
栗原さんは、アプリごとの対策を徹底する一方で、業界全体でOSレベルの共通基盤を整えることが、結果として保護者の負担を減らし、より確実な子どもの保護につながるという点にも言及されました。
保護者が子どものSNS利用により深く関わり、安心を見守るための「ペアレンタルコントロール(見守り機能)」についても詳しく紹介されました。こちらは、保護者のアカウントと子どものアカウントを連携させて使用する仕組みで、子どものプライバシーを尊重しながら、家庭ごとのルールに合わせて活用できる機能が整っています。

さらに、万が一深刻なトラブルに直面してしまった際の具体的な救済策として、専用ツール「Take It Down(テイクイットダウン)」についても紹介されました。これは、Metaが支援する外部の専門プラットフォームで、望まない性的画像の拡散を未然に防ぐための仕組みです。
そもそも「セクストーション(性的脅迫)」とは、「セクシャル(性的)」と「エクストーション(強請・脅迫)」を組み合わせた言葉です。言葉巧みに送らせた裸の画像などを「ネットにばらまくぞ」と脅し、金銭やさらなる画像を要求する卑劣な犯罪を指します。
こうした脅迫に対し、「Take It Down」は以下のような仕組みで子どもたちの将来を守ります。


講演の最後に、栗原さんは次のように締めくくりました。
「SNSや生成AIにはリスクもありますが、リスクを最小限に抑えつつ、テクノロジーが持つポジティブな側面を最大限に引き出していきたいと考えています 。
多くの専門家の先生方が共通しておっしゃるのが、『まずは子どもの声に耳を傾けること』の大切さです 。トラブルが起きたとき、大人はどうしても『なぜこんなことになったのか』と原因を問い詰めてしまいがちですが、そうするとお子さんは心を閉ざしてしまいます 。
お子さんが安心して相談できる環境を、皆さまと一緒に作っていければと願っています 。」
研究会の後半は、千葉授業づくり研究会では定番のディスカッションの時間です。最新の安全機能や世界的な動向をふまえ、学校・家庭・事業者がどう連携して子どもたちを支えるべきか、活発な議論が行われました。
ここからは、ディスカッションの内容を一部抜粋要約してご紹介します。
Q.いわゆる「裏アカ」や、生年月日を偽って登録することについて、プラットフォームではどのように対応していますか?
A.Instagramでアカウントを作成する時には、生年月日の入力が必要になります。
複数のアカウントを作ること自体はできますが、それぞれのアカウントで生年月日を入力する必要があります。13歳から17歳の利用者であれば、ティーンアカウントの対象になります。
生年月日を偽って登録している場合でも、閲覧しているコンテンツなど、利用状況に関する複数のシグナルから年齢に関する判断が行われる可能性があります。
また、趣味やコミュニティごとにアカウントを使い分けること自体は、必ずしも否定されているわけではありません。家族、友人、趣味のつながりなど、関係性に応じてアカウントを分ける使い方はあり得ます。
一方で、別のアカウントを使って悪口を書いたり、匿名性を利用して過激な発言をしたりするリスクもあります。そのため、複数アカウントの利用そのものよりも、それを悪用した誹謗中傷などをどう防ぐかが課題になります。
Q.ティーンアカウントはどのように導入され、どのように受け止められていますか?
A.2025年4月時点で、世界中のティーンアカウントの数は5400万を超えていました。
日本の13歳から17歳の利用者についても、ティーンアカウントへの移行がすでに完了しています。そのため、該当する年齢の利用者は、基本的にティーンアカウントを利用していることになります。
また、13歳から15歳のティーンアカウント利用者の97%が保護設定をデフォルトのままオンにしているという数値が出ています。このことから、保護設定は、子どもたちにとって強い抵抗があるわけではなく、自然に受け止められていると考えています。
Q.不適切なコンテンツを通報した後は、どのようなプロセスを経て対応がなされるのでしょうか?
A.通報されたコンテンツは、AIや人の目を用いて確認されます。
対応状況については、透明性レポートとして四半期ごとに公開されています。レポートでは、いじめや子どもの性的搾取など、カテゴリーごとの対応状況を見ることができます。ただし、日本だけの数字は個別には出ておらず、基本的には全世界の数字として公開されています。
一方で、通報されたコンテンツが必ず削除されるわけではありません。コミュニティ規定に違反しているかどうか判断が難しい、いわゆるグレーなコンテンツもあります。
また、著名人や政治家などに関する投稿では、表現の自由との関係から、判断の条件が異なる場合もあります。そのため、不快に感じるコンテンツであっても、規定に違反していなければ削除されないことがあります。
なお、誤って削除された場合には、異議申し立てができます。さらに、判断が難しいコンテンツについては、Metaとは別の第三者機関であるオーバーサイトボードが扱う場合もあります。オーバーサイトボードでは、有識者による議論やパブリックコメントなどを踏まえ、Metaに勧告を行う仕組みがあります。
また、通報以外の方法として、「非表示」機能もあります。Instagramでは、見たくないコンテンツを非表示にすることで、そのコンテンツが表示されなくなるだけでなく、似たようなコンテンツがなるべくおすすめに出ないように調整できます。
保護者からは、最初から保護機能が入っていることに安心感があるという声があります。一方で、家庭内での話し合いや、ペアレンタルコントロールを使った見守りについては、さらに認知を広げていく必要があります。
Q.学校教員です。SNSトラブルの指導で悩んでいます。例えば、子ども同士で不適切な動画を撮影・拡散してしまった場合、学校はどこまで指導してよいのでしょうか?
A.学校としてどこまで踏み込むべきかについては、非常に難しい問題です。
プラットフォーム側では、家庭で設定できる機能や、保護者向けの情報提供を行っています。一方で、保護者も忙しく、機能や設定を一つひとつ確認することが難しい場合があります。
ただいずれにしても、学校が家庭に対してどこまで強く求めるかについては、簡単に答えを出せる問題ではありません。
また、保護者の情報モラルへの関心や理解には大きな差があります。家庭でSNSやメッセージアプリの使い方をきちんと話し合っている保護者もいる一方で、そうすることが難しいご家庭もあると思います。
そのため、学校だけで対応を完結させるのではなく、家庭での話し合いを促すための資料や、保護者に届きやすい情報提供の方法を考えていく必要があります。
Q.保護者にSNSや情報モラルに関する情報を届けるには、どのような工夫が必要ですか?
A.デジタルリテラシーへの関心が高い家庭では、家庭内で一定のルールづくりや見守りが行われています。一方で全てのご家庭に知っていただくことはなかなか難しいという課題があります。
そのため、保護者会や入学説明会など、学校と保護者が接点を持つ機会で使える教材があるとよいのではないかという話がありました。特に、小学校から中学校へ進学する際の入学説明会は、多くの保護者が参加するため、スマートフォンやSNSの使い方について伝える機会として活用しやすいと考えられます。
また、忙しい保護者の方にもご関心を持っていただきやすいよう、短い動画や漫画形式のコンテンツなど、形式も工夫して伝える必要があります。
Metaでは実際に、ティーンアカウントの機能を30秒程度で紹介する動画や、保護者クリエイターと連携した発信も行われています。
ディスカッションの中では、学校の先生方へ安全対策の情報が届きにくいという課題も浮き彫りになりました 。また、総務省が行うデジタルポジティブアクションサイトから一括で各社・団体の教材にアクセスできることも紹介されました。
先生方が授業や指導で活用しやすいように情報を整理し、直面しているトラブルや悩みをキーワードとして入力すれば、現場で最適な教材が即座に提案されるような仕組みづくりも、今後の重要となってくるのではという意見も出ました 。

研究会の締めくくりとして、理事長の藤川教授より、本日の議論を総括する挨拶がありました。
「今日の議論を通じて改めて感じたのは、SNSに対する『過度な規制』はマイナス面が大きいということです 。一律に禁止をしてしまえば、子どもたちの活動はかえって大人の目が届かない『闇』へと隠れてしまい、結果としてリスクを高めてしまいます 。私たちは子どもの権利を尊重し、守らなければなりません 。
現在、オーストラリアなどでは非常に厳しい法規制が進んでいますが、日本はそれとは異なる道を模索すべきではないでしょうか 。問題を直視し、適切に対応しながら、安全な利用を促進しつつ権利も守られる。そうした日本ならではの形を、これからも様々な場面で議論し、形にしていければと思います 。」
今回の研究会を通じ、立場を問わず子どもを支える大人に必要なのは、子どもの声に耳を傾ける姿勢と「対話」だと改めて感じました。
一方で、親としての葛藤も尽きません。中高生の娘がいるわが家でも、最近は学習に生成AIを使う場面が増え、スマホの使用時間について制限時間を延ばしたり、その流れでついSNSも見てしまったりと、時間の管理はより難しくなりました。
見守り機能についても、OSの違いによる連携のしにくさや、親側のアカウント作成が必要な点など、使いにくさを感じることがあります。また、子どもに問われてもフェイクを見抜くのが難しく、進化のスピードに親が追いつけているのかという不安も正直あります。こうした親子で模索している状況下で、トラブルに対応される先生方の負担は相当なものと想像します。
しかし、これまで子どもの自制心に頼るしかなかった部分が、今回のような技術の力で支援可能になってきていることに、解決への明るい兆しを感じました。私たちACEも、出張授業を通じて一人ひとりに寄り添い、安全で主体的な活用をサポートする活動に、より一層前向きに取り組んでまいります。
以上で、第175回千葉授業づくり研究会のレポートのご報告とします。ご講演いただきました栗原さん、そして参加者のみなさん、ありがとうございました。
千葉授業づくり研究会にはどなたでも参加できます。
興味がある方は、こちらの開催情報をチェックしてくださいね!Zoomを用いたオンライン配信による参加もできるので、遠方の方も大歓迎です。

企業教育研究会(ACE)は2020年からMetaと協働し、中高生向けのデジタルリテラシー教育プログラム「みんなのデジタル教室」を全国に届けています。
2026年3月18日(水)には、千葉県立松戸向陽高等学校にて、1・2年生(12クラス・約480人)の生徒の皆さんを対象に、「デジタルアイデンティティを考える」の出張授業を実施しました。
自分たちの日常に欠かせないSNSをテーマにしていることもあり、参加した多くの生徒が授業内容に真剣に耳を傾けている様子でした。さらに、実践的なワークを通して「自分ごと」として深く捉えている姿が印象的でした。本Blogでは、授業当日の様子を、授業内容の紹介も合わせてお伝えします。
本プログラムの対象は中・高校生で、「総合的な学習(探究)の時間」や「道徳」、「情報Ⅰ」などと関連しています。通常オンライン会議システム(Zoom等)を使用して双方向型のオンライン授業として実施していますが、今回は学校を訪問し対面形式で行いました。
プログラムには3つのテーマがあります。
①デジタルアイデンティティを考える
②フェイクニュースの見分け方
③デジタルシチズンシップと情報発信
今回ご紹介する授業は「①デジタルアイデンティティを考える」です。単にSNSの危険性を説くのではなく、インターネット上での「自分自身の見せ方」や「他者からの見え方」を客観的に捉える「デジタルアイデンティティ」の概念を理解することをねらいとしています。
普段意識しにくい「履歴」も含め、一般的な「個人情報」だけでなく、他者から見られる可能性があることを認識し、インターネットを「安心」「安全」「前向き」に利用するための対策とポイントを理解します。
授業の冒頭では、インターネットの広がりについて解説しました 。全世界で約45億人が利用するインターネットでは、1分間に膨大なデータが生成されています 。
そこで重要になるのが「デジタルアイデンティティ」という考え方です 。これは、氏名や顔写真といったいわゆる「個人情報」だけでなく、日々の「いいね!」やシェア、検索・購入履歴などの「活動の積み重ね」が組み合わさって形作られる、オンライン上の「あなた」の人格を指します 。

デジタルアイデンティティについて具体的に理解するために、架空のSNSアカウントからその人物について推測するワークを行いました 。
まず、導入として架空のSNSアカウントから人物像を推測するワークを行いました。そのうちの1つである料理研究家のInstagramアカウントを見た生徒からは、「写真を撮るのがうまい」「料理がおいしそう」といった意見のほかに「承認欲求が強そう」といった鋭い指摘も出ていました。

また、実在するインフルエンサー「のえのん」さんのInstagramアカウントの投稿を見た後、実際のインタビュー映像を視聴し、画像から受けた印象と、本人のリアルな姿との間にあるギャップを体感しました 。

架空の青年のSNSプロフィールやタイムラインから、名前、所属、年齢などの明文化された情報に加え、シェアした記事や投稿の積み重ねからその人物像を考えました。その後、これらの情報の断片から、どのように一人のデジタルアイデンティティが構成されるかを隣の人と話し合いました。
このワークを通じて、「アルバイト先から徒歩数分の距離に住んでいる」「〇〇区に住んでいる」「アルバイト先で撮影されたと推測される写真」といった投稿から断片的な情報が集まり、結果として自宅を特定できてしまう危険性についても考察しました。

架空の青年のSNS上で行った言動や投稿履歴を見て、その「デジタルアイデンティティ」が周囲にどのような先入観を与えるか、特に「人格や印象」の形成に焦点を当てて予測しました。具体的には、この少年が迷惑行為を行うインフルエンサーの投稿を積極的に共有し、根拠のない誹謗中傷を拡散するといった振る舞いが、周囲からどのように受け止められるかについて考えました。
ある生徒は「調子に乗っているように感じた」と発言していました。良くも悪くも本人の意図とは関係なく「その人らしさ」として定着してしまい、時に周囲との信頼関係やその後の人生にまで影響します。
これらのワークを通じ、発信一つひとつが簡単に消せない「自分」を作っていることを強調して伝えました。
授業の後半では、デジタルアイデンティティを守るための具体的なコツを学びました 。
インターネットには「世界が広がる」「自分の作品を公開できる」といった大きなメリットがあります。この可能性を最大限に引き出すためには、リスクへの理解や自己防衛、そして他者への配慮が不可欠です。
本日の授業はデジタルアイデンティティという概念を軸に、インターネット上の自分を自らの力でコントロールする術を学ぶきっかけとして位置づけています。SNSを利用する際、一つひとつの行動を自分自身で正しく判断できるようになることこそが、これからの社会をたくましく生き抜く力へとつながっていくはずです。
授業の最後には、代表生徒さんから素敵なメッセージをいただきました.
「その場の楽しいという気持ちだけで行動せず、ひとつの行動でたくさんの人を傷つけてしまう可能性があるということを自覚し、楽しくSNSを活用できる人ができる人が増えたらいいなと思いました。」

SNSを全く使わずに過ごすことが難しい現代だからこそ、使い始めた段階でその利点とリスクの両面を理解することが不可欠です。
大人が一方的に「禁止」するのではなく、生徒たちが自ら「どう使えば自分や他人を大切にできるか」を考え、自分の判断で身を守れるようになることが大切だと考えています。今回の授業が、SNSを活用したこれからの社会を賢く生き抜くための最初の一歩になればと願っています。この授業をきっかけに、学校や日常生活において継続的にSNSの利用に関する議論の機会が生まれることを期待しています。
生徒一人一人が主体的に考えデジタルアイデンティティについて考える姿を見ることができました。
私たち教員では踏み込みきれないSNSの使い方ついても、分かりやすく説明をしてくださりとても良い時間を過ごすことができていたと思います。
・断片的な情報の積み重ねが「インターネット上の自分」を形作り、現実の自分にも大きな影響を及ぼすという責任の重さを強く実感しました。
・SNSは想像以上に多くの人に見られているという自覚を持ち、自分や誰かを傷つけないよう、投稿前に一歩立ち止まって内容を確認する習慣を大切にしたいです。
・パスワードの管理や個人情報の保護を徹底し、自分だけでなく周囲にも被害を及ぼさないよう、高いリテラシーを持って安全に利用していこうと思いました。
(執筆者:宮﨑理央)
2026年3月10日、Meta主催のラウンドテーブル「国内外の専門家と10代利用者の安全なSNS体験を考える」が港区にあるMeta東京オフィスにて開催されました。
ACEは2020年からMetaと協働し、中高生向けのデジタルリテラシー教育プログラム「みんなのデジタル教室」を全国に届けています。本イベントには、ACE理事長であり千葉大学大学院教育学研究院長である藤川大祐教授(以下、「藤川先生」)もパネリストとして登壇するということで、この日は職員5名で参加してきました。


「子どもたちのSNSとの向き合い方」については、当人たちやその保護者はもちろんのこと、教育関係者にとって避けては通れないトピックです。
また、最近オーストラリアで 16歳未満のSNS利用を規制する法律が制定されたことが大きな話題となり、社会全体でどう向き合っていくべきか国内外で議論が繰り広げられています。そんなホットな話題をテーマとした本イベントの様子をレポートできればと思います。



このイベントは、10代の利用者の安全なSNS体験について考える場として、こども家庭庁が実施する「令和8年春の安心ネット・新学期一斉行動」に合わせると共に、総務省が推進する官民連携プロジェクト「DIGITAL POSITIVE ACTION」の一環として展開されました。
イベントの幕開け、Metaのミア・ガーリック氏は、世界的な「SNS利用禁止」の議論に触れつつも、「最も根本的な解決策は制限ではなく、若者に安全な環境で学び、つながり、成長するためのツールを与える『エンパワーメント』にあります」と話しました。
そういった想いから誕生したのがInstagramの「ティーンアカウント」という取り組みだそうです。最大の特徴は、安全機能が最初から「デフォルト(初期設定)」で自動適用されていること。守られた環境の中でSNSを使い始められる仕組みになっています。
私たちが実施している「みんなのデジタル教室」の事後アンケートからは、生徒たちのリアルな現状が見えてきます。多くの生徒たちは「SNSで気をつけるべきこと」を知識としては理解しているものの、具体的にどう設定し、どう行動すべきかという「実践」の段階で足が止まっているという課題があります。こうした現状を鑑みると、利用する本人や保護者だけに安全利用の全責任を委ねることには限界があると言わざるを得ません。
だからこそ私たちは、今回の「ティーンアカウント」のように、事業者側が安全機能をデフォルト(初期設定)で組み込む仕組みを構築することは、教育現場にとっても極めて意義深いものだと捉えています。あらかじめ安全な土台が整っていれば、子どもや保護者、そして私たち教育関係者は、「どうリスクを避けるか」という守りの議論に終始することなく、「機能をどう生かして安全に使いこなすか」という、より前向きな利活用の対話に注力できるようになるからです。
続いて、オーストラリアから来日したルーシー・トーマス氏が代表を務める、いじめ防止教育団体「PROJECT ROCKET」の紹介がありました。
この活動の最大の特徴は、ファシリテーターが学生と年齢の近い若者であること。専門家ではなく「仲間」としての信頼関係があるからこそ、若者たちの主体的な変革が促されるのだそうです。最近では、国会の公聴会やメディア出演などを通じて、実際の政策決定の場にも若者の声を届けているといいます。

「若者は社会課題を解決していくためのパートナーである」というトーマス氏の言葉がとても印象的でした。若者のためにと言いながら、肝心の若者が不在のまま議論が進んでしまうことも少なくありません。彼らの声を主役にした活動が社会を変えていく、そんな力強い実例に触れられた貴重な時間となりました。
イベント後半は、Metaの栗原氏をモデレーターに、トーマス氏と藤川先生によるパネルディスカッションが行われました。国内外のSNSを取り巻く「今」や、家庭・教育現場での向き合い方など、それぞれの立場からの深い知見が交わされ、非常に興味深い議論が繰り広げられました。

その中から、特に私たちが注目したポイントをピックアップしてご紹介します。
トーマス氏によると、現地でも様々な受け止め方があるそうです。 保護者の間では、子どもの安全のために歓迎する声がある一方で、「自己表現やコミュニティとのつながり、教育の機会を奪ってしまうのでは?」と過剰な規制を心配する声も根強くあるようです。
また、当事者である10代の子どもたちは、法の趣旨は理解しつつも「決まるプロセスに自分たちの意見が反映されていない」と、不満や喪失感を抱いている子も少なくないとのこと。海外の友人との交流や、大切な相談の場を失ってしまうという課題も浮き彫りになっているそうです。
藤川先生は、2007年から続く「青少年インターネット環境整備法」による取り組みが、スマホの普及によって形骸化している点を指摘。今の時代に合った再構築が必要だと訴えました。 また、「こども基本法」はあるものの、若者の意見が十分に政策に反映されていないことにも触れ、当事者の声をしっかり組み込む仕組み作りを強調しました。
これに対しトーマス氏も、一律の禁止は「大人になってから突然デジタルの荒波に放り出されるリスク」を生むと同意。一方的な排除ではなく、事業者が協業してスキルや経験を積めるようサポートしていくことが重要だと話しました。
藤川先生は、トラブルが急増しやすい「中学1年生前後」の時期に注目。家庭内だけでなく、保護者同士や学校とも連携した環境づくりを提案しました。大人が違法行為のリスクをしっかり伝える責任を持つ一方で、それ以外の部分では子どもの主体性を尊重し、丁寧に話し合っていくことが大切だといいます。
トーマス氏が強調したのは、根底にある「信頼関係」です。問題が起きてから動くのではなく、日頃から子どもが楽しんでいる世界に大人が好奇心を持って関わることが第一歩。「それ楽しそうだね、教えて」というリスペクトのある姿勢が、思春期の難しい時期でもオープンに対話できる土壌を育んでくれるはず、と保護者に向け、心強いアドバイスを送ってくれました。
最後は参加者の皆さんからの質疑応答タイムです。こちらも印象的だったトピックをご紹介します。

海外でも話題の「無限スクロール」や「自動再生」といった機能。 Meta側は、日常生活に支障をきたす可能性を考慮し、利用時間のリマインダーやスリープモードなどの対策をすでに導入している現状を説明。 これに対し藤川先生は、「子どものネット利用時間が倍増している」という深刻な実態を指摘しました。アルゴリズムの影響も大きいため、Metaだけでなく、サービスを提供するすべての事業者が一定の基準で利用を抑制する仕組みを整えてほしい、と強く訴えました。
トーマス氏は、かつての「みんなで責任を分かち合おう」という前向きな議論が、今は「誰のせいでこうなったか」という責任追及に変わってしまっていると指摘しました。 もう一度、社会全体で役割を見つめ直すべき。その点、日本は若者の視点を大切にした丁寧な議論ができる位置にあり、世界的なリーダーになれるはずだ、と期待を寄せていました。
藤川先生も、これまで学校や保護者が過度な負担を強いられてきた実態に触れ、「ティーンアカウントのような仕組みがもっと早くから普及していれば、現場の状況も違っていたかもしれない」と、事業者側のさらなる主体的なアクションに期待を寄せてコメントしました。
今回のラウンドテーブルを通じて改めて実感したのは、10代のSNS利用を支えるためには、「周りの大人の温かい関わり」と「国や事業者による仕組みのサポート」が、どちらも欠かせないということです。
もちろん、子どもをリスクから遠ざけるための制限は必要です。しかし、それが「一方的な禁止」に偏りすぎてしまえば、将来子どもたちが自分の身を守り、道具を使いこなすための大切なスキルを学ぶ機会を奪うことにもなりかねません。子どもを単に「守られる対象」として縛るのではなく、システムの仕組みで優しく制御しつつ、段階的にデジタル環境に慣れ、主体的にスキルを身につけていける環境を社会全体で整えていくことが重要だと強く感じました。
また、議論の中で「子どもたちの声」が置き去りにされがちだという指摘も印象的でした。大人の都合だけでルールを決めてしまう風潮は、子どもたちの主体性を削ぎ、結果として「自分でリスクを判断できずトラブルに巻き込まれる」という悪循環を生んでしまうかもしれません。子どもたちが「どう活用すれば、より自分らしく生きられるか」を自ら考え、アクションしていく姿を私たちは応援していきたいです。
私たちがお届けしている「みんなのデジタル教室」では、SNSのネガティブな側面を伝えるだけでなく、その先にあるポジティブな可能性を大切にしたいという思いで日々実践を重ねています。教育現場の先生方からは、SNSトラブルへの指導に対する戸惑いや、「リスクとその対策を重点的に話してほしい」という切実な声を伺うことも少なくありません。私たちの授業が、先生や保護者の皆さんが子どもたちと一歩踏み込んだ「対話」を始めるきっかけになれば、これほど嬉しいことはありません。
本イベントで得た数々の気づきを糧に、これからも最新の技術動向にアンテナを張り続けてまいります。めまぐるしく変化するデジタルの世界において、子どもたちが安全に、そして自分らしく歩んでいけるよう、これからも全力でサポートを続けていきたいと思います。
(執筆者:脇坂亜希)