2025年11月15日(土)に第173回「千葉授業づくり研究会」が開催されました。今回のテーマは「探究的な学びに活かす『街歩き×宝探し』を考える」。株式会社タカラッシュ 専務取締役 安福 久哲さん、プロデューサー部 アカウントプランニングチーム 課長 石丸 菜々さんを講師にお招きして講演いただきました。
近年、「探究的な学び」が教育現場で話題となっています。これは、子どもたちが自ら課題を見つけ、決まった正解のない問いに向かって学習を進める、新しい学びの形です。子どもたちが取り組むテーマはさまざまですが、「自分たちの住む地域のよさを知ってもらいたい」といった、地域を課題とした授業づくりも重要なテーマの一つとして考えられます。

今回の研究会では、株式会社タカラッシュが手掛ける「街歩き×宝探し」に焦点を当て、この事業を手掛けた背景や意図、そして国内での具体的な事例をご紹介いただきました。また、参加者全員でスマートフォンを使った宝探しの体験も行いました。
この「街歩き×宝探し」には「探究的な学び」の授業づくりのヒントが数多く詰まっており、研究会後半のディスカッションでも様々な意見やアイデアが交わされました。
本レポートでは、この講演会と宝探し体験会、ディスカッションの様子を詳しくお伝えいたします。探究的な学びや地域課題の解決をテーマにした授業に関心のある方は、ぜひ最後までお読みください。


今回の研究会では、株式会社タカラッシュ 専務取締役 安福 久哲さん、プロデューサー部 アカウントプランニングチーム 課長 石丸 菜々さんに講演いただきました。
はじめに、安福さんより株式会社タカラッシュの設立の背景や事業の説明をしていただきました。
株式会社タカラッシュは、2001年に創業した日本で唯一の宝探し専門会社です。同社の原点は、代表取締役の齊藤 多可志さんが、小学生のころに友人と行った宝探しごっこにあるそうです。それは、牛乳瓶の蓋を校庭に隠して地図を作り、友達と探したというもの。「さいちゃんの宝探しおもしろい」と言われた子供のころの経験が、同社の根幹にあるといいます。
そして、タカラッシュ設立のきっかけは、代表の齊藤さんが、同僚であった安福さんとともに旅行会社に勤務していた頃に遡ります。
当時、企業の職場旅行向けに「誰もやったことのないオリジナルの企画」を求められた齊藤さんが大人の宝探しを初めて企画・実施。これが「これまでの団体旅行で一番面白かった」と大成功を収めました。
この成功から宝探しの可能性を確信し、本格的な事業を立ち上げるため、2001年4月に会社を設立しました。

続いて、株式会社タカラッシュが手掛ける宝探しは「トレジャーテインメント」と定義されており、現実社会を舞台にしたRPGであると説明いただきました。
宝探しとは、参加者が自ら主人公になることで、非日常の感動や発見が生まれるもの。様々な面倒な障害を乗り越えるからこそ得られる本物の宝探しが「挑戦したいワクワク」につながるといいます。
同社は、「挑戦したいワクワク」を日本全国に広めて、いつでも誰でも宝探しができる社会を目指しています。数字で見ると、株式会社タカラッシュは25年目の会社で、年間参加者は250万人以上、年間導入実績は7,200件以上、参加者満足度は94%、会員数は44万人以上という実績を誇っています。参加者は性別や男女問わず、年齢層もさまざまで、企画によって若者やファミリーなど対象が変わるそうです。

宝探しイベントは「Hunter’s Village」に掲載されています。サイト内には、日本全国の宝探しイベントがたくさん掲載されており、今すぐ参加できるイベントがすぐにわかります。
自宅で参加できるイベントや、北海道や九州などの首都圏以外のエリアでも参加できるイベントもたくさんあるので、誰でも日本全国から宝探しに挑戦できます。

株式会社タカラッシュの事業の柱は二つあり、一つはBtoC事業(主催・共催型宝探し)です。ユーザーは、会員登録をすると「ハンター」となり、さまざまな宝探しイベントにチャレンジできます。ここでは、クリアすると自分のハンターとしてのレベルが上がっていきます。成長してプロハンターとなれば、賞金や大会に出る機会もあるなど、人々の成長に貢献する仕組みになっています。本当にゲームの主人公になったような仕掛けで、何度もイベントに参加したくなりますね。
また、宝探しの会社ということで無人島を所有しており、企業の研修にも活用されるそうです。
もう一つは、BtoB事業(課題解決型宝探し)。これまでに、地域自治体、企業、商業施設、テーマパーク、博物館などとの多数の協業実績があります。
例えば、校外学習や修学旅行、社員研修などを想定した宝探しを提供しています。様々なロケーションでの宝探しプログラムは、懇親イベントやチームビルディングの場として活用されています。
関連して、テーマパークや観光施設以外に、通っている学校そのものを宝探しの舞台にする「トレジャーコレクションin School」もご紹介いただきました。中学校や高校以外にも、大学でキャンパスがわからない新入生向けのレクリエーションとして実施されることもあるそうです。

続いて、石丸さんより地域を舞台にした宝探しについてお話いただきました。石丸さんによると、宝探しイベントの参加者の約半数が宝探しや謎解きの経験者であるそうです。イベントの参加フローとしては、「告知→冊子入手→謎解き→宝箱発見→報告・賞品獲得」という流れで行われることが多いとのことです。

講演会の中では、2022年に兵庫県の相生市を舞台に開催された宝探しゲーム「あいのまち調査団」を体験しました。
「あいのまち調査団」では、参加者が謎を解きながら、相生市に隠された秘宝である「11の鍵」を探索します。この11の鍵とは、相生市独自の11の子育て支援事業のこと。また、謎解きの中では相生市の様々な観光名所を訪れることとなります。宝探しを通して、相生市の子育て支援とまちの名所の両面に触れ、魅力を再発見する機会となるのですね。


このイベントはLINEを使ってスマホでも参加できるそうです。今回の体験会では研究会会場の千葉大学にて謎解きに挑戦しました。
冊子に書かれている謎を見ながら、謎を解き、LINE上に回答を入力します。正解すると、映像で相生市の観光スポットの様子が送られ、宝箱への手がかりが手に入ります。
今回の研究会での謎解き経験者は約3分の1ほど。経験者と未経験者で相談しながら和気あいあいと宝探しに挑戦する様子も見られました。
正解すると思わず喜びの声や笑みがこぼれる場面もあり、多くの参加者が夢中になって謎解きに挑戦しました。現地で実際に宝箱に出会うと、さらに達成感を感じられそうですね!

体験会の後、宝探しを企画するうえで安福さんが大切にされている点を紹介していただきました。
まず、参加者が宝探しの世界に引き込まれるようにタイトルとストーリーを工夫しているとのこと。メインターゲットに応じてデザインやストーリーを変えることも工夫の1つだそうです。たとえば、「あいのまち調査団」では謎解き初心者やファミリーの参加が考えられることもあり、難易度を簡単に設定して企画を進めたと紹介いただきました。

次に、謎解きに難易度や仕掛けを設けることで、解読できたときの達成感を高められるともお話いただきました。冊子を折ると次のターゲットができるような謎解きもあり、参加者の探究心を刺激するとのことでした。
また、街歩きが目的の宝探しでは、舞台となる地域の魅力の再発見につながる必要があります。企画を進める上で、プランナーが現地を入念にロケハンし、宝を置く場所の許可を得るなどの細やかな調整を行うそうです。

さらに、宝箱を見つける演出でも、「発見の感動」にしっかりとこだわるとのこと。本物の宝箱のように何かを動かさないと開かないデザインにしたり、世界観に合わせて宝箱をデザインしたりと工夫を凝らすそうです。宝箱を現地に溶け込ませることもあるそうです。謎を解いた後に、さらに宝箱を探す楽しみを増やすのですね。

また、デジタルとの融合についてもお話いただきました。単に冊子をもって謎解きするのではなく、スマートフォンやタブレットなどとのデジタルツールと融合することで、没入感による体験価値を高めることができるそうです。

続いて、宝探しと地域活性化について紹介いただきました。安福さんによると、宝探しが地域に人を呼び込み滞在時間の向上をもたらす効果がでているそうです。
その地域への滞在時間が向上すると、参加者が宝探し中にその地域で観光や買い物、食事などの消費活動を行う経済効果にもつながります。特に2021年以降、この地域活性化の効果は大幅に増加しているとのことでした。宝探しを通じて、地域の魅力の再発見や知名度向上、消費活動にも貢献できるのですね。

最後に、安福さんに、宝探しを通じて伝えたいことをお話いただきました。株式会社タカラッシュの「『宝』を探し出す喜びを、全ての人に!」の企業理念の通り、発見の感動を味わうことで、苦労して手に入れる喜びを再認識してもらいたいと考えているそうです。
単なるエンターテインメントではなく、普段やらないことに挑戦することで、人々の成長に貢献することも目標とされています。遊びと成長に貢献する「トレジャーテインメント」には無限の可能性があり、この楽しさを世の中に広く伝えていきたいという展望もお話いただきました。


研究会の後半には、千葉授業づくり定番のディスカッションが行われました。オンライン上で質問ができるサービス「Slido」を使い、参加者と登壇者で議論を行います。
今回はインターンシップで参加している高校生からもたくさんの質問が出ましたよ。
また、宝探しのストーリーをどこまで詳細に決めるかについて説明いただいたときには、ACE(企業教育研究会)スタッフが「ACEで作る授業でもストーリーを作る授業があって、設定をどこまで決めるかを毎回調整しています」と嬉しそうに語る場面もありました。
他にも、「地理の授業にぴったり」「授業で宝探しを採用するときに指導者として気をつけるべきポイントは?」など、教育現場での活用も話題として挙がり、大いに盛り上がる時間となりました。
ここからは、ディスカッションの内容を一部抜粋要約してご紹介します。ぜひ最後まで読んでくださいね。
Q.地理の教員です。今回の講演を聞いて、地域への親しみや地図の読解など、まさに地理の授業とぴったりな活動だと感じました!
鳥観図や絵が多めの地図、Googleマップのような地図など、宝探しの地図の表現の仕方がイベントによって異なるようですね。地図の作成の際に、参加者を楽しませるための仕掛け作りや工夫されていることはありますか?
デザイナーと相談しながらイベントに合わせた地図を作るようにしています。
地域活性化の宝探しであれば、実際にその場所に行ってもらう必要があるので、本物の地図を採用します。逆に、架空の地図でよい場合はイベントの世界観を意識した地図を作成しています。
Q.宝探しのストーリーはどのように決めていますか
宝探しイベントの内容によって違いを持たせています。
例えば、ファミリー向けで気軽に参加できるようなイベントでは、ストーリーを最初に出し、謎解きが終わったら、エンディングを出す形で展開することが多いです。途中から参加しても楽しめるように工夫をしています。
対して、何日もかけて多くのスポットを巡る有料で参加していただくようなイベントでは、1つ1つのスポットでストーリーを展開していく形にすることもあります。
Q.宝探しの難易度はどのように設定していますか
先にターゲットを決めて難易度を調整することが多いです。
社内で難易度の基準が決まっており、宝探しのファンの方向けには難しいもの、地域活性化目的だと初心者向けの難易度にするなど調整しています。
また、世の中に出す前にテストプレイを重ねることを大切にしています。社内の謎解きが得意な人・苦手な人を呼んで、実際に解いてもらいます。
Q.ターゲット年齢に応じて難易度を変えているのでしょうか?小中学生がターゲットのときに気をつけていることはありますか?
一番気をつけるのは難易度です。小学生をすべてのターゲットにするのではなく、低学年/中学年/高学年くらいに絞って分類しています。
また、習っていない漢字があると、謎解きの内容を読めない場合があるので注意しています。
Q.高校生に地域を知ってもらうために謎解きを活用するとして、アドバイスはありますか?
複雑にストーリーやタイトルを考えるのではなく、自分が楽しそうなところからスタートするのがよいのではないでしょうか。
宝探しを作る人はゴールから決めるので、「どこに隠すか」から始めるのもよさそうですね。
Q.中学生が宝探しに参加するだけではなく、宝探しを作る場合に、指導者として何を気をつけたらよいでしょうか
フォーマットを作って、「この部分にストーリーを入れましょう」と指導をすると、その枠組みでしか考えられなくなってしまいますね。フォーマットにこだわるのではなく、中学生に一度自由に考えてもらい、みんなで意見を出し合う形がよいのではないでしょうか。多様な意見が出て、良い形にまとまりやすいと考えます。
Q.私は大学入学後に、地域活性化のために謎解きを活用しているゼミに入りたいと考えています。地域活性化を目的とした宝探しを企画する際、コラボ先の方々とお話しするうえで大切にしていることはありますか。
最も重視しているのは、「雑談」です。
例えば、兵庫県相生市とコラボレーションした宝探しでは、お問い合わせの時点では、移住・定住の増加が目的であることは把握できます。しかし、そのうえで、具体的にこれまでどのような施策を実施し、何が良かったのか、あるいは何が悪かったのかといった経緯を詳しく知るようにしています。
特に、ロケハンを行う中での「この地域はお子さんが多いんだよね」など、何気ない雑談の中から、企画のヒントとなる新たな情報を得る機会が多いですね。
加えて、コラボ先のお客様と達成すべき明確な目標をしっかり設定することと、その目標に向けた定期的なアクションを取ることも、大切にしています。また、イベントの結果が思うようにいかなかったから「悪い」と判断するのではなく、改善点を探ったり共有したりして、次に活かすようにしています。
以上で、第173回千葉授業づくり研究会のレポートのご報告とします。ご講演いただきました安福さん、石丸さん、参加者のみなさま、誠にありがとうございました。

また、今回の研究会の運営は千葉県内の高校生インターンシップのみなさまにご協力いただきました。高校生の活躍の様子は別のブログでご紹介!高校生のみなさん、ご参加いただき、ありがとうございました!
千葉授業づくり研究会にはどなたでも参加できます。
興味がある方は、こちらの開催情報をチェックしてくださいね!Zoomを用いたオンライン配信による参加もできるので、遠方の方も大歓迎です。
【記事担当:千鳥あゆむ】
2025年10月18日(土)に第172回「千葉授業づくり研究会」が開催されました。今回のテーマは「テクノロジーで拓く、誰もが暮らしやすい社会 〜視覚障害者支援の最前線から考える〜」。コンピュータサイエンス研究所 営業企画・企画開発統括部長 髙田 将平さんを講師にお招きして講演いただきました。
今回の研究会では、株式会社コンピュータサイエンス研究所の先進的な取り組みをご紹介いただくとともに、視覚に障害のある方の歩行を支援するアプリ『EyeNavi』を参加者で実際に体験しました。『EyeNavi』はAIの画像認識技術を用いて、進路上の障害物や信号の色などを検出して、音声で情報を伝えるアプリです。
講演の中では『EyeNavi』を用いた千葉大学との連携や東京都立大学などの事例もたくさんご紹介いただきました。
本レポートでは、講演会やアプリの体験会の様子を詳しくお伝えします。先進的な福祉教育やAI技術の活用に関心のある方は、ぜひ最後までお読みください。

今回の研究会では、株式会社コンピュータサイエンス研究所 営業企画・企画開発統括部長 髙田 将平さんに講演いただきました。
髙田さんは、前職の株式会社ゼンリンデータコムでは位置情報サービス制作を担当され、また、退職後にはアイルランド留学や起業経験、インド・バンガロールのIT企業にて内部統制に従事していたご経験もあるそうです。
その後、2015年に株式会社コンピュータサイエンス研究所に参画した髙田さん。現在は、視覚障がい者歩行支援アプリ『EyeNavi』に関わり、国の支援事業の統括・プロマネを担当しています。
講演の前半では、視覚障がい者が抱える課題やアプリ『EyeNavi』の説明をしていただきました。

髙田さんは講演の前半で、視覚障がい者を取り巻く課題についてお話くださいました。
まず、移動のためのヘルパー利用についてです。視覚障がい者が家族ではないヘルパーと外出する際には、事前に予約が必要で、さらに利用時間にも制限があります。このため、視覚障がい者にとって、健常者のように「今すぐ出かけたい」と思ったときに外出することは困難です。加えて、ヘルパーは通勤や通学といった日常的な移動の際に使用できないというルールもあります。
また、視覚障がい者が利用する盲導犬にも課題があります。盲導犬の仕事は、「角を教える」「段差を教える」「障害物を教える」の3つに限定されています。そのため、たとえば「コンビニまで」と指示しても道案内はできません。盲導犬ユーザーは、目的地までの道のりをすべて頭の中で把握しておく必要があるのです。
さらに、盲導犬は歩行者信号の色を判別できません。「周りの人が横断歩道を渡っているから安全」という状況判断をするため、信号の色を確実に認識できるわけではないのです。

2025年3月31日現在で実働している盲導犬は768頭ですが、盲導犬を希望して待機している人は3,000人ほどいます。盲導犬は1頭あたり訓練に2~3年かかり、訓練費用に500万円ほどかかるので、希望数の確保が難しい現状があります。
また、盲導犬は大切な歩行パートナーですが、活動期間はおおむね4〜5年とされ、引退後には新しい犬との出会いが必要になります。このほか、盲導犬の日々の世話が必要であることや、すべての店で盲導犬を連れて入れるわけではない課題があることも踏まえると、視覚がい者の方々が気軽に外出できるという状態にはまだほど遠いといえるでしょう。

このように、現状課題が多い視覚障がい者の外出について、力強くサポートするのが、スマートフォン用アプリ『EyeNavi』です。

『EyeNavi』は、スマートフォンのカメラを通してAIが20種類の物体を瞬時に判断し音声出力して、ユーザーに伝えてくれるアプリです。歩行時には、ネックポーチにiPhoneを入れてカメラを進行方向に向けることが推奨されています。アプリは1秒間に複数回の処理を行っているため、多少スマホのブレがあっても問題なく動作するそうです。
このアプリは特に信号機の色を判別できる機能が画期的で、盲導犬の課題を克服してくれます。全盲の方だけでなく、弱視や色弱の方にも役立ちます。

また、『EyeNavi』には、外出時のトラブルに備える「歩行レコーダー機能」が搭載されています。これは、自動車のドライブレコーダーのように歩行中の映像を自動で保存する機能です。これにより、外出先で何かの被害に遭った際などには記録された映像を支援者に確認してもらうことができます。今までは、残念ながらいたずらを受けるなどの被害があっても、状況が分からず泣き寝入りせざるを得ないことも多かったそうです。
『EyeNavi』は、視覚障がい者の約8割がiPhoneを利用しているという背景から、iPhoneのみに対応しています。
『EyeNavi』は、基本機能を無料で提供しており、協賛企業からの支援で運営されています。しかし、安定的な開発のために、月額1,000円のプレミアム機能も搭載されました。プレミアム機能では、ChatGPTが連動し、撮影した写真から「入口はどこにあるか」「レストランのメニューを読み上げてほしい」といった、より複雑な質問にも回答してくれるようにもなっています。
開発当初は、AIの色の識別精度が低く、駐車場の満車・空車表示や店の看板を信号機だと間違えてしまうといった課題もありました。しかし、技術的な見直しを重ね、具体的な対象物との関連付けによって精度を向上させています。
『EyeNavi』はあくまで「歩行時の参考になるもの」という位置づけですが、利用者からは「外出時には常に動作させており、使わないと不安になるぐらい」「今や、なくてはならないもの」といった声が寄せられています。また、盲導犬ユーザーの方々も盲導犬と『EyeNavi』を併用することで、より安全かつ便利に移動できるそうです。

講演の合間には、千葉大学西千葉キャンパス内で、『EyeNavi』体験会が実施されました。
アプリを実際に起動すると、画面に映る物体を即座に解析し、「人、人、自転車…」などと音声で、画面内の障害物や目標物の情報を伝えてくれます。白線や自転車、植え込み、縁石など20種類を検出できるようです。単に人がいることだけを伝えるのではなく、「正面に人がいる」といった情報も伝えてくれるため、衝突防止にも役立ちます。

『EyeNavi』の大きな特長として、利用者自身が使いやすいように調整できる点が挙げられます。デフォルト設定では検出する障害物や範囲が絞られていますが、「自転車」「人」など音声出力する障害物を自分で選ぶことで、利用者が必要な情報だけを取捨選択できる仕組みになっているのです。
また、アプリ内の設定画面は極力シンプルに作られており、体験会の参加者も直感的に操作できるようでした。また、主に視覚障がい者の方が使うアプリであるため、自分がどの画面を操作しているのかも音声で案内してくれます。
さらに、単にアプリが目的地への道案内をするだけではなく、「お散歩モード」も搭載されています。視覚障がい者にとって外出は大きなハードルになりますが、このアプリを使いこなせば、目的の場所に移動するだけでなく、気ままに自由に散歩する楽しみにも役立ちそうです。
基本機能は無償で提供されているため、多くの人が外出を楽しむきっかけになり得るアプリだと感じました。
『EyeNavi』の開発チームは、産官学民の多様な団体との連携を進めているそうです。ここでは、講演中に髙田さんに説明いただいた取り組みのうち、いくつかピックアップしてご紹介します。

まずは、アルプスアルパイン株式会社の当事者社員の発案による「ウェアラブル(方向認知)デバイス」を共同開発中であるとお話いただきました。
これは頭にセンサーを装着することが想定された商品です。頭の方向転換のたびに9軸センサーで方位を認知し、『EyeNavi』のナビ情報やセンサーによる障害物検知を振動で知らせてくれます。
センサーを帽子につけることで、視覚障がい者が遭遇しやすい、顔や頭に物が当たる事故を防ぐことができるそうです。

次に、三重県伊勢市との取り組みを紹介します。「多様な主体を受け入れる観光バリアフリー支援調査」の依頼を受け、株式会社コンピュータサイエンス研究所では2022年12月に実証実験を行いました。
実証実験は、対象地域である伊勢神宮外宮参道を視覚障がい者に『EyeNavi』を使用しながら歩いてもらうというもの。この際に使用するアプリは、対象地域の観光情報を音声案内できるようになっています。
髙田さんによると、視覚障がい者が自分自身で観光情報を得られるようになることで、介助者も観光を楽しめる余裕が出てくるそうです。
今後は、アプリの中で観光用のパッケージをダウンロードできるようにも準備を進めているそうです。視覚障がい者が自分ひとりで旅ができるようになる未来にも期待ができそうですね。

また、千葉大学との連携「チームあいなび」についてもお話いただきました。これは『EyeNavi』の「マイルート」機能を使って、大学内の建物の入り口まで案内するナビを準備する取り組みです。
最適なルートや歩行支援情報を、視覚障がい者や歩行訓練士の方と検証しながらルートを作成します。千葉大学は広いキャンパスであるものの、点字ブロックが一部にしかないことが視覚障がい者の歩行にとって大きな課題となります。『EyeNavi』の音声出力によって、大学内の移動の助けとなることが期待されます。
千葉大学に限らず、全国の大学にも広めたい取り組みであると、髙田さんはお話してくださりました。

さらに印象的な事例として、小学三年生の男の子との協働エピソードも紹介されました。
NHKのニュースで『EyeNavi』を見た彼は、「視覚障害の方の役に立つ電子白杖を自分でも作りたい」と連絡をくれたそうです。
髙田さんのチームによるオンラインでのアドバイスをもとに、彼は距離センサーを組み合わせた電子白杖を完成させました。障害物に近づくと光と音で知らせる仕組みの作品で、表彰も受けたといいます。
「子どもの自由な発想が新しい技術の原点になる」と髙田さん。
社会課題を自分ごととして考え、行動に移した象徴的なエピソードとして紹介されました。

『EyeNavi』開発チームは、「視覚障害という概念がない世の中にしたい」という大きな目標を掲げ、さらなる技術開発を進めています。
現在検討されているのは、物体検出だけではなく「領域検出」の導入です。これを実現することで、AIが路面を面として捉えられるようになり、例えば横断歩道をよりまっすぐ、安全に歩けるようになることが期待されます。さらに、2030年には、高度な案内が可能な犬型ロボットの実現を目指しています。
また、スマートフォンアプリの枠を超え、スマートグラスとの連携も視野に入れています。例えば、「Ray-Ban × Meta スマートグラス」のようなデバイスとAIを連携させれば、目の前にある物体を説明してもらうことができ、より日常生活が便利になるでしょう。これは、ユーザーからの「知り合いの顔を覚えて、自分から声をかけられるようにしたい」という要望に応えるものでもあります。
現在、世界には視覚障がい者が約3億4,000万人いるとされています。そして、身体障がい者手帳の取得に至らないものの、見えにくさを抱えている人は日本国内だけで160万人いると見られています。さらに健康寿命が伸びるにつれ、この数は200万人に増えると予想されています。
このような状況の中、『EyeNavi』をはじめとするテクノロジーの活用を通して、誰もが暮らしやすい社会を実現するための開発が行われています。少し先の「視覚障害」の概念がない社会の実現への期待が高まる講演でした。


研究会の後半には、千葉授業づくり定番のディスカッションが行われました。オンライン上で質問ができるサービス「Slido」を使い、参加者と登壇者で議論を行います。
ディスカッションの中では、『EyeNavi』を用いたアイデアもたくさん生まれました。ここからは、ディスカッションの内容を一部抜粋要約してご紹介します。
Q.学校教育の中で活用することはできますか?
はい。児童生徒が地域を歩きながら、横断歩道や建物などの情報を撮影し、『EyeNavi』の地図上に入力していくという学習が考えられます。アプリには歩行中にコメントを残せる機能もあるため、地域の安全マップづくりや総合的な学習の時間での探究活動にも活かせそうです。
Q.GIGAスクール端末で子どもたちに地域の画像を撮影してもらい、データ収集に協力することもできそうですね。データの収集の際に気をつけることはありますか?
撮影の際に対象物を画面に収める位置をある程度統一させたいので、ルール作りをしています。
例えば、横断歩道の撮影であればマーカーとして白黒の枠をアプリに表示させれば、誰でも枠に合わせて撮影できるようになります。
Q.どんな学びの効果が期待できますか?
視覚障害の理解にとどまらず、地域の課題を自分たちで発見し、解決策を考える「社会とつながる学び」になることが期待されます。自分たちの調査データがアプリを通して誰かの役に立つことで、子どもたちの探究心や社会参画意識を育む授業に発展できそうです。
Q.視覚障害の支援だけでなく、ほかの人にも役立ちますか?
はい。外国にルーツを持つ子どもや高齢者など、さまざまな人にとって使いやすいアプリとしての可能性もあります。多言語での音声案内や振動によるサインなど、より包摂的な社会づくりへの応用も議論されました。
Q.ユーザーからの要望がたくさんあると思いますが、御社のリソースが限られている中で優先して解決したい課題はありますか
領域検出で横断歩道をまっすぐ歩けるようにすることです。
また、音声を前提としている現在の仕様だと使いにくく感じる人もいることも課題です。振動で障害物の存在を教えてほしいという声もあります。
Q.『EyeNavi』の精度で物体を判別できるのなら、車や自転車などに搭載されれば視覚障害がない人の事故防止にも役立ちそうだと感じました
はい。自転車や電動車いす、シニアカーなどでも役立つのではないかと考えております。
ディスカッションでは、福祉的な視点とICT/テクノロジーを融合させることの大切さや、それが教育テーマとして非常に有効で、高い教育効果を生むという点について議論が深まりました。
特に、「地域の課題を発見するだけでなく、その場で解決策を入力し、解決に向けて具体的に取り組める」という仕組みは、総合的な学習の時間としても画期的であるという意見が出され、大きな盛り上がりを見せました。
テクノロジーを活用した社会課題の理解や探究的な学びなど、授業づくりの新たな可能性が見えてきたディスカッションとなりました。
以上で、第172回千葉授業づくり研究会のレポートのご報告とします。ご講演いただきました髙田さん、参加者のみなさま、誠にありがとうございました。
千葉授業づくり研究会にはどなたでも参加できます。
興味がある方は、こちらの開催情報をチェックしてくださいね!Zoomを用いたオンライン配信による参加もできるので、遠方の方も大歓迎です。
【記事担当:千鳥あゆむ】
2025年9月4日(木)、女子聖学院中学校高等学校 中学3年生の生徒のみなさんへ、ソニー株式会社(以下、ソニー)と企業教育研究会(ACE)とでお届けしている「カメラで学ぼう! ~光の原理と画像処理技術~」の出張授業を実施しました。
授業では、たくさんの活動や実験をするのですが、生徒のみなさんがキラキラした目で体験してくれている様子が印象的でした。
またこの日は、午後の授業がメディアに向けて公開され、テレビや新聞社など3社の取材が入りました‼
和やかに楽しく実施された授業。このブログ記事では、当日の授業の様子を紹介します。
誰もがスマートフォンやタブレットを手にし、美しく素敵な写真や動画が簡単に撮影できる時代になりました。言うまでもないことかもしれませんが、何気なく使っているこれらを支える高い技術力は、関連する基礎的な教科学習が存在します。
私たちACEは、学校での日々の学びが社会とどのように繋がっているのか、そしてその先にどんな世界が広がっているのか、子どもたちがワクワクした気持ちで学ぶ時間を大切にしています。
ソニーと連携し、カメラを入り口にした本授業プログラムでは、「理科・光の性質」との関連に注目し開発しました。授業の中で生徒たちは、凸レンズや凹レンズを使った実験を通して、光の性質やレンズの役割を体感し、カメラのレンズが複数のレンズの組み合わせでできていることを学びます。また身近なスマートフォンを取り上げ、レンズで集めた光がどのようにデータとして記録されるのかや、最近の画像処理技術等について知り、私たちの豊かな日常生活に活かされていることを学びます。
学校の授業においては、総合的な探究の時間、キャリア教育、理科(第一分野・身近な物理現象「光の性質やレンズの役割」)の発展学習として、授業1コマ(50分)で活用いただける内容になっています。ソニーで実際にカメラに関わる仕事を担当する社員の方と共に、美しい写真たっぷりのスライドを携え授業に伺います。
さっそく授業が始まりました。本日の授業はクラス毎4回実施。講師はソニーのソフトウェア技術部・大倉さんと商品設計部・高橋さん。進行役はACE職員の山田さん、学生スタッフ神崎さんが順番に担当しました。
授業はまず、鳥、イルミネーション、プリンの3つの異なる写真が提示され、「皆さんは、3枚の写真の中で、どれが『良い写真』だと思いますか?」という問いかけから始まりました。


食欲をそそったのか、女子聖学院のみなさんにはプリンの写真が大人気の様子です!
そして選んだ写真について、班ごとにそれぞれその写真が良いと感じた点について「奥まできれいに撮れている」「ボカシが入っていて雰囲気がいい」「すごくおいしそう」など意見を交わしました。
それに対し、ソニー講師の大倉さん、高橋さんは「実はこのなかで、これがいい写真ということは決められません。皆さんがそれぞれいいと思った理由があるように、撮る人や見る人によっていい写真は様々です。ソニーでは撮影者が楽しんで望む写真を取れるように色々と製品の工夫をすることを大切にしています」と説明しました。
今日の授業では、レンズ、イメージセンサー、画像処理の3つの工夫について、実際のカメラの部品を見たり、実験を交えたりしながら、学びを深めていきます
さあ、まずはカメラの重要な部分であるレンズの役割と仕組みについての学習です。
「皆さん、小学生の頃、虫眼鏡で光を集めたことを覚えていますか?」とスライドを見せると、「おおー!」と反応が。
虫眼鏡で紙を燃やした経験について印象強く記憶がある様子です。

さらに、「虫眼鏡の役割は覚えていますか?」と問いかけると、生徒たちは「光を集める」「光を屈折させる」などの発言をしてくれます。凸レンズは光を屈折させ、一点に集めることができるという特徴をふりかえりました。
次に、カメラにも光を集めるレンズが入っていることを紹介し、「カメラのレンズを通して見る像、つまり写真として見る像と、凸レンズで見る像とでは、どんな違いがあるでしょうか?」と、カメラのレンズと凸レンズで見たそれぞれの像の画像を提示しました。
生徒たちは「凸レンズは拡大されているが少しぼやけている」「カメラの画像は画質がいい」「カメラの画像はピントが合っている」など、具体的な違いを挙げています。
ではカメラのレンズと凸レンズではなぜ見え方が違うのか…それはカメラレンズの中身に秘密が‼
その秘密を説明するため、この授業には特別に「切断されたカメラ用のレンズ」を用意しています。
真っ二つのレンズは、この授業のためにソニーが用意してくれた特別教材です‼
普段見ることのできないレンズの内部構造に、生徒たちは興味津々といった様子。
大倉さん、高橋さんは各班を回って切断されたレンズを直接見せてくださり、凹レンズとも凸レンズとも判断のつかない形のレンズについて質問するなど、生徒たちはその構造を熱心に観察していました。


生徒たちにレンズを見た感想を聞いてみると、「カメラレンズの中にこんなにたくさんのレンズが入っているとは知らなかったので驚きました」「デジタルカメラやインスタントカメラはどうなっているのか気になります!」などと教えてくれました。
また、なぜこんなにもたくさんのレンズをカメラレンズの中で重ねているのか考えてもらいました。
すると、「いろいろな距離の撮りたいものにピントを合わせるため?」「きれいな写真を撮るため?」「調節?」「レンズが一枚しかないと像が反転してしまうのかな?」などと生徒たち。
その意見に対し、ACE進行役の山田さん、神崎さんは各班を回りながら、「いいね。たとえば、どんな写真がキレイな写真だと思う?それはレンズがたくさんあることで可能になること?」「調節とは何を調節すると考えたのかな?」など、子どもたちの学びを深める声掛けを欠かしません。


ソニー講師より、「カメラのレンズの中には、凸レンズの他に凹レンズなど、様々な形をした複数のレンズが組み合わさっています。凸レンズは光を一点に集め、凹レンズは光を拡散する性質を持ちます。カメラのレンズは、撮影者が望むように像を映す必要があります。複数のレンズを組み合わせることで狙った光を集めているのです。」と解説がありました。
さらに、この光の集め方は中学校・理科で学習する(レンズの)「焦点」と関係していることが説明されました。
ちなみにこの焦点の位置はレンズによって変わります。複数のレンズを組み合わせこの焦点の位置を調整することで、望む写真が撮れるようになるのですね。
そしてこの原理を体験するため、生徒たちは実際に凸レンズと凹レンズを組み合わせて遠くを見る実験を行いました。
目から手前に凹レンズ、奥に凸レンズを持ち、凸レンズを動かしてレンズ間の距離を変えると焦点の距離が変わり、光の集まり方(像)が変わります。
実験中は「めっちゃ見える―!」「大きく見える!」などとレンズを2枚使うことで起きる変化をしっかりと実感しています。
レンズが1枚だけの時よりもレンズが複数になることで、しっかりとピントを合わせ見たいものを捉えられることを体感しました。



そうなると、実際のカメラのレンズにも興味がわきますよね。
そこで、さまざまなレンズの工夫によって撮影できる写真の違いについても紹介しました。
まずは望遠レンズです。
望遠レンズは、遠くのものを拡大して撮影できるレンズ。
ソニー講師は「小さな範囲の光を効率的に集めるため、複数の凸レンズを組み合わせています。」と紹介。
「では実際に撮ってみましょう!」と、大倉さん、高橋さんはバズーカ砲のような迫力あるレンズをカメラに付け、カメラをみんなに向けます!
生徒たちは、「待って!待って!」と言いつつポーズをしてくれる生徒や、「変に映ったら黒歴史!」とワイワイ楽しそう!
生徒さんと年齢の近いACE学生スタッフ神崎さんからも、「表情管理は大丈夫ですか?」と大盛り上がりです。
さてさて、どんな写真が撮れたのか結果は…
なんと、望遠で鮮明に撮ったのは教室最奥に位置する棚の中のメスシリンダーのメモリでした‼
これには生徒さんたちも拍子抜け。
その後、ズームレンズの紹介を踏まえ、広角に撮影すると手前から広く画角を取れることを紹介がてら、今度こそ生徒のみなさんを被写体とした写真も撮影しました。
他にも撮りたいシーンに合わせて様々なレンズがあることを紹介しつつ、カメラレンズも凸レンズと同じように光を集めており、様々なレンズを組み合わせることで光の集まり方を変え、目的に合った写真を撮れるようにしていることが理解できました。



授業前半では、カメラに欠かせないレンズについて理解を深めました。
では、レンズで集められた光は、どのようにして画像として記録されるのでしょうか。
次に学んだのは、イメージセンサーについてです。
今、私たちの身の回りにあるほとんどのカメラはデジタルカメラといい、映像や画像をデジタルデータとして記録しています。
そしてその撮影した画像を拡大してみると、一つ一つの色のブロックで表現されています。
イメージセンサーとは、このレンズで集めた光(像)をデジタルデータに変換するための部品です。
大倉さん、高橋さんは、実際にカメラからレンズを外して内部にあるイメージセンサーを見せ、また、部品として別に持ってきているイメージセンサーを班ごとに配ってくださいました。
イメージセンサーは、ホコリや指紋がつくとそれが映像として反映されてしまうので、普段は絶対触ったりできない部品とのこと‼一生触ることがないかもしれない貴重な部品を間近で観察します。中にはレンズで拡大して観察している生徒も!
「イメージセンサーは、フォトダイオードと呼ばれる無数の半導体が集まってできています。フォトダイオードに光が当たると電気が流れ、光の強弱を電気信号に変えることができます。しかし、フォトダイオードだけでは色の種類を判別できません。
光の色を情報として得るために、イメージセンサーではフォトダイオードの上に3種類の色分けされたカラーフィルターを置いています。」と説明し、フィルターの色の組み合わせは、光の三原色で構成され、全ての可視光はこの3種類の組み合わせで表現できることを伝えました。
レンズから入ってきた光は、カラーフィルターで光の三原色に分解され、それぞれの色ごとの光の強さを数値情報に変えて写真として記録されているのです。イメージセンサーの大きさが写真撮影に与える影響についての解説もあり、生徒のみなさんはイメージセンサーが要となる重要な部品であることを実感できたと思います。


いよいよ最後の要素、最新のカメラを支える画像処理技術について学びます。
私たちにとってもっとも身近なカメラであるスマートフォン。ソニーでもXperia™というスマートフォンを製造しています。
では、このスマートフォンの小さなボディに、これまで見てきたレンズやイメージセンサーはどのように収まっているのでしょうか?
実は、非常に小さい空間ですが、スマホにも複数枚のレンズとイメージセンサーが入っています。大きなレンズやセンサーをそのまま搭載することは難しいので、さまざまな工夫をしています。その一つが『複眼』といって、カメラを複数つける点です。

実際にXperiaの背面を見ると、3つのカメラレンズが見えます。
生徒たちはカメラアプリを起動し、スマホに搭載されている3つのカメラレンズのうちの1つを指で隠し、カメラアプリ内で倍率を変える実験を行いました。すると、とある倍率になるとスマホ画面が指で隠している暗い画面に。
実は、被写体が映らず、隠した指が画面に表示される時に選択していたカメラのズーム倍率は、自分たちが指で隠したカメラレンズが担当している倍率なのです!
普段スマホのカメラを使う時、何気なくズーム機能を使っていますし、その動きはとても滑らかですね。
しかし、ズームインアウトを繰り返している時、スマートフォンでは使用しているカメラが切り替わっているのですね。
その仕組みについて理解すると、「初めて知った知識だ!」と深く感心している生徒さんもいました。


さらに、スマートフォンならではの画像処理技術についても解説がありました。
一眼レフカメラでは大きなレンズで表現されているボカシについて、スマートフォンではコンピューターの処理によってボカシの要素を表せるようデータを変換しているという点や、スマートフォンには小さなイメージセンサーしかなくても明るく鮮明な画像を作り出せるのは画像処理の効果が大きいとの説明がありました。
スマートフォンで画像映像をたくさん撮るお年頃のみなさん、その技術に関心を持ち、驚いている様子でした。
生徒たちは普段何気なく使っているスマートフォンのカメラが、たくさんの技術に支えられていることを実感していました。
授業の最後は、ソニーの大倉さん、高橋さんからご自身の普段のお仕事について紹介がありました。
大倉さんは、私たちがスマホやカメラで簡単にピントを合わせられる「オートフォーカス」のソフトウェア制御開発を担当されています。動き回るJリーグの選手や、高速で走るバイクレースの撮影現場にも出張して性能を確認することもあるそうです。「改善した性能を、実際のカメラマンから『すごく良かった』と言っていただけるのが嬉しい」と、仕事のやりがいを話してくれました。
高橋さんは、バッテリー設計などカメラの電気設計を担当されています。例えば、バッテリーの持ちをよくすることと、カメラの性能を最大限に引き出す電気を十分に供給するという、一見矛盾する要素をどう両立させるかの検討などをしているとのこと。「この2つのバランスをどう最適化するか、その答えを導き出すのが私たちの役割です」とお話しくださいました。
最後にACEの山田さんから、「今日の授業で、学校で習ったことが、世の中のさまざまな仕事と深く関わっていることを感じてもらえたら嬉しいです」と授業を締めくくりました。
・フォトダイオードやカラーフィルターなどはじめて見る実は身近にあるものを見られて楽しかったです!
・最新のスマホのレンズの数が多い理由がわかりました。
・中学生で習うことが企業の製作で使われていると知って基礎的なことでもしっかり覚えておこうと思いました。
・今まであまり理科に興味がなかったけれど今回の授業を受けて理科も意外と面白いなと思えました。
・普段の授業とは違い、基礎知識を応用させる授業が楽しかったです。これからもいろんな人の話を聞きたいと思いました。
・私はこれまで、写真を単にそのまま貼り付けるように記録しているだけだと思っていたので、複雑な仕組みによって1枚の写真が成り立っていると知りとても驚きました。たくさんのセンサーが協力して情報を処理していることに、技術のすごさを実感しました。
中高一貫の本校では、近く高校進学判定テスト(主要5教科)が予定されているため少しでも既習項目への復習になれば…と2学期早々の実施を依頼しました。想像よりも生徒たちは現代の技術に関心を寄せ、快適さや便利さは日々の学習に基本があると関連付けられたようです。外部講師による実験授業も非常に新鮮で、沢山の見学者の存在も刺激的だった様子でした。授業1コマでは勿体ない内容で、様々な実物を手に取れたことも貴重な体験となりました。
私たちは、理系人材の育成を目的に、ACEさんと本授業を実施していますが、理系人材の育成には、理科に関する興味関心の向上とともに、学んだ知識を生かす職業に対する認知の向上も大切です。
授業開発にあたっては、まずは皆さんが興味を持てるよう、題材を馴染み深い「カメラ」にすることに加え、講義を聞くばかりにならないよう「体験」の時間を重視しました。今日の授業でも、凸レンズ・凹レンズを使った実験や、切断したレンズの観察、望遠レンズの実演などを通して、何度も「すごい!」という驚きの声を聞くことができたので、今日を機に、理科への興味を高めてもらえると嬉しく思います。
また、今回講師を務めた2名は、実際にカメラの開発に関わっているエンジニアと呼ばれる社員です。中学生の皆さんには、もしかすると馴染みの薄い職業かもしれませんが、身近な製品に理科で学ぶ知識が生かされていることに加え、その知識を生かした職業があることを知ってほしいと思います!
この日の授業ではメディア3社が取材に訪問されました。
取材体験も、生徒のみなさんにとってよい思い出になったのではないでしょうか。


2025年7月19日(土)に第171回「千葉授業づくり研究会」が開催されました。今回のテーマは「人生100年時代のウェルビーイングとは? 〜『100年人生ゲーム』を通して考える〜」。博報堂100年生活者研究所の副所長、田中卓さんを講師にお招きして講演いただきました。
また、1万人以上の実体験をもとに開発されたボードゲーム「100年人生ゲーム」の体験会も実施しました。「100年人生ゲーム」は、お金ではなく「ウェルポ」という幸福やウェルビーイングを表すポイントを集めて幸福長者を目指すのが最大の特徴です。「年代ごとのイベントコマ」や「価値観カード」などを通して、人生の多様なイベントを疑似体験しながら、参加者全員でウェルビーイングについて深く考えました。
そもそもウェルビーイングとは、身体的・精神的・社会的に良い状態にあることをいい、短期的な幸福のみならず、生きがいや人生の意義などの将来にわたる持続的な幸福を含む概念です。
経済先進諸国において、GDPに代表される経済的な豊かさのみならず、精神的な豊かさや健康までを含めて幸福や生きがいを 捉える考え方が重視され、OECD「Learning Compass2030(学びの羅針盤2030)」では、個人と社会のウェルビーイングは 「私たちが望む未来(Future We Want)」であり、社会のウェルビーイングが共通の「目的地」とされています。
文部科学省においても「日本社会に根差したウェルビーイングの向上」を次期教育振興基本計画に掲げており、日本社会に根差したウェルビーイングを教育を通じて向上させていくことが求められています。
[参考:中央教育審議会教育振興基本計画部会(第13回)会議資料 【資料8】ウェルビーイングの向上について より]
そのような背景を踏まえ、「幸せに生きるとは何か」「どう生きるか」。人生100年時代を迎えるにあたり、この根源的な問いを改めて見つめ直す必要があると考え、職員の古谷さんが本テーマの研究会を企画しました。
今回の研究会では、ゲームの体験会のほかに「100年人生ゲーム」の開発に込めた思いや背景に存在する課題、100年生活者研究所様の取り組みの紹介が行われました。これらを通して、参加者自身が長寿社会である日本でウェルビーイングをどのように教育に取り入れるかを考えるきっかけとしていきたいと考えています。
本レポートでは、講演会やゲーム体験会の様子を詳しくお伝えします。学校教育にウェルビーイングを取り入れたい方はもちろん、ボードゲームや長寿社会における生き方に関心がある方も、ぜひ最後までお読みください。

今回の研究会では、博報堂100年生活者研究所の副所長、田中卓さんに講演いただきました。田中さんは1995年に博報堂に入社し、マーケターとして幅広い業種のコミュニケーション開発、新ブランド開発、事業開発に携わってきました
2023年からは、博報堂100年生活者研究所にて「人生100年時代のウェルビーイング」に関する研究に取り組んでおり、今回ご紹介いただいた「100年人生ゲーム」の開発にも中心的に携わっています。
講演のはじめでは「100年人生ゲーム」の開発に至るまでの背景やその目的についてお話しいただきました。

「100年人生ゲーム」は、博報堂100年生活者研究所とタカラトミーが共同開発したボードゲームです。従来の「人生ゲーム」と大きく異なるのは、お金ではなく、幸福度を競う点にあります。
ゲーム内で発生するイベントには、1万人以上から集められた実際の体験談が採用されています。プレイヤーはゴールである100歳の誕生日までの人生を疑似体験することで、「自分の人生に起こりうる幸せな体験」に触れ、これから続く長い人生のポジティブな側面に気づくことができます。
また、このゲームの大きな特徴として、「ゲーマー」「勉強家」「健康マニア」といった「価値観カード」が割り振られる点が挙げられます。同じイベントを体験しても、自分の価値観によって幸福度(ウェルポ)の増減が変わる仕組みになっています。

続いて、田中さんに「100年人生ゲーム」開発の背景をお話いただきました。開発には、日本・アメリカ・中国・フィンランド・韓国・ドイツで実施した調査結果がきっかけとなっているそうです。

今では「人生100年時代」という言葉がなじむほど、日本は長寿大国として知られています。しかし、調査の結果、日本人では「100歳まで生きたい」と考える人は3割に届かないことがわかりました。これは各国と比べてもかなり低い水準です。

さらに、日本の平均寿命は84.3歳にもかかわらず、日本人が希望する寿命は81.1歳と平均寿命より短命を希望していることも判明しました。

これからの日本では、超高齢化社会になることは確実でしょう。全米経済研究所が世界132か国で実施した調査では、50歳弱の幸福度が最も低く、そこから年齢を重ねて長く生きるにつれて、幸せを感じる人が多くなる傾向がみられました。
また、他の国では年齢を重ねても人生のネガティブな面とポジティブな面の両方に注目する傾向がありますが、日本ではネガティブな面にのみ注目し、ポジティブな面に注目する人が少ない傾向があるともお話いただきました。
日本人は、年齢を重ねることに対して必要以上に不安を感じているのかもしれません。「100年人生ゲーム」はこのような課題意識をもとに、人生が長くなることで生まれる「体験のチャンス」に目を向けて、開発されました。長い人生のポジティブな面に気づく体験ができるようなゲームになっています。


研究会の中では、実際に「100年人生ゲーム」を体験させていただきました。オリジナルの「人生ゲーム」が有名であることもあり、スムーズにゲームを進められるグループがほとんどでした。
ゲームでは、100年の人生の中で、幸福度を示す「ウェルポ」を集めていきます。お金とは異なる指標のため、家族と過ごす時間、価値観の変化、健康状態などによってもウェルポは増減します。
特に印象的だったのは、外食や趣味といったお金を使うイベントでも、心が満たされればウェルポを獲得できる点です。お金のやり取りが中心だった従来の人生ゲームのイメージが強かったため、プレイ中には「なるほど!」と納得の声があがる場面も見られました。


また、ゲーム終盤の年齢を重ねた状態では、ウェルポの増減が激しくなるのも大きな特徴です。このゲームでは定年後にも多くのライフイベントが用意されています。仕事に励む期間を終えた後でも幸福を感じられるイベントがたくさんあることが伝わります。
ゲームのマスには実際の体験談が採用されていることもあり、参加者の間で「わかる〜、これはうれしいよね」などと共感が生まれる場面も。約1時間の体験会は盛況のうちに終了しました。
「100年人生ゲーム」の体験後には、田中さんの所属する100年生活者研究所の紹介やウェルビーイングを生活に取り込むためのヒントをお話いただきました。

2023年に設立された100年生活者研究所は、「長くなる人生を、前向きに生きていく人を増やす」ことを目指し、「日本を、前向きな100年生活者の社会にする」ために活動しています。
研究所の主要な研究テーマは「人生100年時代のウェルビーイング」です。研究スタイルには生活空間(Living)と実験室(Lab)を組み合わせた「リビングラボ方式(Living Lab)」を採用しています。リビングラボは、生活者を中心に企業や行政、大学などと社会課題の解決や新しい価値を生み出す方法論です。
研究開発の場を生活空間の近くに置くことで、「多様な視点を持つ多様な生活者の多様な幸福」に向き合う研究スタイルを実現しています。この研究スタイルを支えるために、100年生活研究所では、生活者と直接つながる2つの場の運営も行っているそうです。
1つ目は、巣鴨のカフェ「Sei-katsu-sha Cafe かたりば」の運営です。シニアも若者も暮らしている町である巣鴨が研究拠点として選ばれました。来店した幅広い年代のお客さんを相手に、生活の中での生の声を聴くインタビューを実施し、2023年度には1000人以上の生活者の声を収集できたそうです。
2つ目は、約13000人が登録するLINEの会員組織の運営です。ほぼ毎週配信するアンケートには2000人を超える会員が参加しているそうです。回答者の5割以上から「自分の生き方や考え方を見つめなおすいい機会になった」と評価されているとのことです。
これらの取り組みは、100年生活者研究所設立からわずか2年で多くのテレビや新聞、ウェブメディアに取り上げられています。
続いての講演では、実際の研究結果を交えながら、100年人生をウェルビーイングに生きるためのヒントをご紹介いただきました。
前述のように、一般的に「身体的・精神的・社会的に良好な状態」を指し、広義の「幸福」とも訳されるウェルビーイング。日本ではこの言葉の認知が高まり、現在では50%以上に達しています。直近5年間での検索数も増加傾向で、社会的に注目度の高い言葉であるとうかがえます。


しかし、日本の幸福度は昨年より変化しておらず、他国と比べても低い結果となっています。この原因について、ウェルビーイングや幸せが生活の中に取り込まれていないからではないかと、お話いただきました。
調査によると、他の国ではおよそ3人に2人が幸福を普段から意識し、2人に1人が幸せについて対話をしています。一方、日本ではどちらも低い水準にとどまっています。
田中さんによると、日本でも、自分の幸せを意識して言葉にして対話する人は幸福度が高い傾向にあるそうです。
ウェルビーイングの概念を生活に取り入れるための一歩として、日頃の生活の中で自分の幸せを意識し、言葉にして対話することが大事ではないかと、田中さんは考えます。これにより「自分の幸せの解像度」を高め、世間一般ではなく自分の幸せを意識できるようになるのではないかとお話しいただきました。
そして、日々変化する「自分の幸せ」が何なのかを意識する時間を取り、幸せのアップデートの回数を増やすことも重要だとまとめていただきました。今、自分にとって何が幸せなのかを見つめなおすことに自覚的になることが大切なのですね。


研究会の後半には、千葉授業づくり定番のディスカッションが行われました。オンライン上で質問ができるサービス「Slido」を使い、参加者と登壇者で議論を行います。
今回は、「100年人生ゲーム」を体験したこともあり、ゲーム設計に関する質問が多くありました。ここからは、ディスカッションの内容を一部抜粋要約してご紹介します。
Q.「100年人生ゲーム」の体験会、楽しかったです。特に、60歳以上でウェルポが増える機会が多かったことが楽しく感じました。これは60歳以上で幸福感を覚える人が多いという調査データに依拠しているのでしょうか。
調査データに依拠しています。
加えてもともとの人生ゲームの「後半になると得失の金額が大きくなる」というゲームとしての盛り上がりの設計を踏襲する意味もあります。
ウェルポの得失に関しては、価値観カードで増減するのでゲームバランスを崩さないように利得の期待値を、プログラム上で1億回くらい試行して決めました。
Q.キャリアデザインや生涯発達心理学の授業でも活用できそうに感じました。ゲーム内の同じイベントでも人によって幸福の感じ方は多様だと思いますが、ゲーム上ではどのようにしてイベントごとに獲得するポイント数を決定したのでしょうか?
それぞれのイベントに付与するウェルポの数値に関しては、当初はゲーム制作メンバーの中で合意を取ろうとしたのですが、なかなか決まりませんでした。しかし、その数値の議論の過程でメンバーごとの幸せに対する考え方や価値観が明らかになっていきました。そこで、みんなが納得できるウェルポ数値を目指すのではなく、あえて、違和感のあるイベントやウェルポの値を入れてプレイヤー同士の対話を促し、プレイヤーがウェルポ数値に疑問を呈したり、突っ込んだりすることで、自分たちの幸せに対する考え方を意識しやすくなるように設計の視点を変えました。
Q.「100年人生ゲーム」の対象年齢はどのくらいの人を考えていますか
ゲームの対象年齢は15歳以上としています。実際の購入者は40〜50代が多く、わたしが実際に見たところでも、ある程度人生経験を積んだ人の方がより楽しめるようでした。
50代は定年が近づき、ともすると「自分の人生も終盤」だと考えがちな年代だと思います。しかし、100年人生ゲームで遊ぶと50代はまだ人生の中盤であることが実感できる。この年代の方に「人生はまだまだ長い。これらの人生も案外悪くなさそうだ」と感じていただきたいと思います。
Q.年齢層が高い人の「100年人生ゲーム」の感想を教えてください
40代や50代の方は、ゲーム内のイベントに対して「そういえばうちの伯母さんにこれに近い話があって!」と雑談で盛り上がる人が見られました。そこでは、自分の人生に引き付けて、ゲームの体験談を楽しんでいる様子がうかがえました。
おそらく、自分のリアルな人生と重なる部分が少しでもあると、このゲームの体験談が単なるゲーム上のエピソードではなく、自分にもあったかもしれないこと、今後起こるかもしれないこととして捉えられて、面白さが増すのかもしれません。
感覚的には、20代後半くらいからこのゲームをより楽しめるようになるのでは、と思います。
最後のあいさつで藤川大祐教授は
「日本人と他の国の人の幸福観の違いを踏まえると、私たちは日本の文化の中で、どのようにウェルビーイングを教育するのか考えなおす必要があると感じました。特に、人々が生きる希望を持てていない状態は望ましくないと思います。
また、今回の研究会でゲームを使った手法の価値も感じました。
「100年人生ゲームは」ゲームがあえて完成されていないところがうまく作られていて、議論を喚起する形になっていたと思います。これは、教材づくりの面でもとても勉強になります。
私たちも課題を持ち帰り、今後につなげていきたいです。」
とコメントしました。
以上で、第171回千葉授業づくり研究会のレポートのご報告とします。ご講演いただきました田中さん、参加者のみなさま、誠にありがとうございました。
千葉授業づくり研究会にはどなたでも参加できます。
興味がある方は、こちらの開催情報をチェックしてくださいね!Zoomを用いたオンライン配信による参加もできるので、遠方の方も大歓迎です。
【記事担当:千鳥あゆむ】
2025年7月17日(木)、船橋市立船橋小学校6年生の児童のみなさんへ、「生成AIってなんだろう?」の出張授業を実施しました。
この授業プログラムは、急速に社会に浸透する生成AIに対し、子どもたちが適切に生成AIを活用する力を育むことを目指しています。
したがって、単に生成AIの使用方法や注意点を伝えるだけでなく、子どもたちが考えたプロンプトを講師がその場で入力し、リアルタイムで文章が作成される様子を教室のみんなで体験するなどの時間を取り入れ、子どもたちが生成AIの仕組みや可能性を知り、活用のコツや注意点を考えるなど、生成AIリテラシーの向上に重点を置いた授業構成になっています。
この授業プログラムは小学校5、6年生を対象にしており、総合的な学習の時間等の時間に、授業1コマ(45分×1)にて活用いただける内容です。
開発にあたっては、アクセンチュア株式会社より社会貢献活動の一環として支援をいただき、開発への助成および、生成AIに関する最先端の専門的知見を提供いただきました。
本年度6月より千葉県内にパイロット授業として開始した新しい授業プログラム。将来的には全国に広く生成AIリテラシーの授業が普及することを目指し、学校の先生に活用いただけるダウンロード教材としての提供を視野に進めています。
このblog記事では、職員古谷が授業者を担当し報道機関向けに公開したパイロット授業の様子を紹介します。
「生成AIってなんだろう?」 指導案等の詳細はコチラ

公開授業ということもあり、子どもたちは少し緊張した様子で授業が始まりました。
まず、授業者の古谷は、緊張をほぐすように優しく「AIってなに?知ってる?」と質問します。
すると、子どもたちは、「コンピュータ?」「情報?」など、知っている言葉をそれぞれ口にし始めます。
そして、子どもたちから「人工知能」という言葉も出たところで、古谷はAIがコンピュータの中に組み込まれた、人間の考え方に近い働きをするプログラムであることを説明。AIは約70年前から存在し、2017年には日本でも会話システムが導入されたと紹介すると、「Siri!!」「アレクサ知っている‼」と子どもたちも口々に発言し、教室は一気に和やかな雰囲気に包まれました。
その後、クイズを交えながら、コンピューターのオセロゲームやYouTube、お掃除ロボットなどを例に、それぞれどのような設定でAIが使われているのか説明しました。例えばオセロでは「挟むと色が変わる」「石を反転できる場所に置く」「角を取ると勝率が上がる」などのルールや戦略がコンピュータに設定されており、AIはそれを理解してゲームを進めていることなどを紹介しました。YouTubeの字幕にAIが使われているという話では、子どもたちから「字幕かー‼」と強い反応が見られました。


AIのイメージを掴んだところで、古谷は「もっとすごいAI、生成AIというものが世の中に出てきたから、今日はその話をしよう」と切り出しました。
しかし、生成AIという言葉を知っているかと尋ねると、手を挙げた子どもはあまりいません。まだ小学生にとって身近な言葉ではないようです。ChatGPTという言葉も、聞いたことはあるけれど…という子どもがちらほらいる程度でした。
そこで、古谷は生成AIが、事前に設定された内容だけでなく、コンピュータに話しかけるように質問をすると、文章や画像を生成する技術であることを紹介しました。ただし、小学生は13歳以上で保護者の許可を得てからしか使えないというルールがあることも説明し、「中学生になったら使えるようになるから、その時のために今日一緒に勉強しよう!」と語りかけました。
古谷は、子どもたちが生成AIへの興味を高めたところで、早速使ってみよう!とChatGPTを立ち上げました。
まずは小学校のことを聞いてみようかと、「船橋小学校の特徴は?」と入力。しばらくすると、小学校の写真や説明が出てきます。子どもたちは、文章が生成されていく様子を見て大盛り上がり。その回答をみて「一部の写真が違う」などと、周りの子どもたちと生成AIの回答について確認し、話し合っています。
古谷も、「ここはちょっと違いそうだね。」などと、子どもたちの反応を見ながら共感したり、回答の正誤について確認していきます。
子どもたちも、ほとんど合っていてすごいけど、おかしい部分もあるという実感を得ているようでした。
古谷は続けて「船橋小学校のゆるキャラをつくって」と入力しました。すると生成AIは、船橋の「船」のイメージか水夫の服を着用した画像を生成しました。 生成AIは、全く関係ないゆるキャラを適当につくるのではなく、きちんと船橋小学校の情報と関係がありそうな画像をつくってくれることも、子どもたちと共に確認しました。


生成AIは何ができるのかのイメージを掴み始めたところで、古谷は、この生成AIがすでに会社で仕事をする人の間で便利に活用されていることを、アクセンチュア社員が生成AIの活用について説明するビデオ映像を用いて紹介しました。
ビデオの中では、かつては人間の頭で絞り出していたキャッチコピーについて、今は生成AIがたくさんのアイデアを出してくれること、そしてキャッチコピーを出すだけではなく、どれが良いか分析した結果まで提案してくれることが説明されました。ただ、最終的にどのキャッチコピーが良いのか判断するのは、やはり人間であることも紹介しました。
そしてこの日は、特別にビデオの中で生成AIについて説明をしているアクセンチュア社員の木寺さんが教室に!
古谷から「実際にお仕事の中で生成AIを使用しますか?」と質問されると、「そうですね。例えば、今まで一日悩んでいたようなアイデアも、数分でたくさん出してもらえるので効率よく仕事ができます。」と、実際の仕事で生成AIが役立っていることを紹介してくれました。
古谷は、生成AIの活用について、生成AIは便利なツールだけれども、生成AIが全てを決めるのではなく、人間が最後に選ぶことが大切だと伝えました。
ここからは、ChatGPTを実際に動かしながら、アドバイスを求める形で3つの使い方のコツを学びます。古谷は、子どもたちと会話しながら、大型モニターに映しているChatGPTのプロンプトを実際に修正すると回答がどう変化するのかを見せていきます。
| 1.『どんな人に向けた回答かを示す』 こと。 ChatGPTに「計算が速くなる方法を教えて」と入力し、子どもたちとChatGPTの回答を確認しました。すると、九九を覚えましょう、見直しをしましょう、などのアドバイスが出ました。そこで、「これが小学1年生ならどうかな?」と古谷は子どもたちに考えさせます。そして、1年生は漢字が読めないという子どもたちの意見も取り入れ、「小学1年生です。計算を早くする方法をひらがなで教えてください」とプロンプトを修正し、対象を明確にした場合の回答の変化を確認しました。 2.『具体的に書く』 こと。 次に、教室で今後予定しているテストについて聞きながら、「小学6年生です。2か月後の漢字50問テストで100点を取れる方法を教えて」と入力してみました。すると、ChatGPTはテスト本番へ向け8週間前からテスト当日までの具体的な克服ポイントや勉強スケジュールまで提案してくれました。さらに生成AIからの提案に乗って、問題も作成してみました。ただ、作ってくれた問題に子どもたちの反応はひまひとつ。小学6年生用というよりは、小学1年生から6年生までの漢字が問題になっているようでした。すかさず古谷は、小学6年生で習う漢字で問題を作ってと付け加えるといいかもしれないねと、具体的に書く大切さについて伝えました。 3. 『回答の形式を指定する』こと。 次に、社会科のテスト勉強を例に、「勉強の方法を10個教えてください」と、例えば個数を指定すると、指定通りに回答することを確認しました。 |
実際に回答が様変わりする様子を見て、子どもたちもプロンプトの内容が生成AIの回答を左右することについて実感を得ているようでした。


体験の後、生成AIのしくみについても解説しました。
あまり事細かく説明すると難しくなってしまうので、イメージができるよう易しくを意識し、おばけの話の生成を例にしました。
生成AIは、ある言葉があれば、その次に続く可能性が高い言葉を選んで文章を生成しています。感情があるわけではなく、嘘をつくつもりもありません。ただ言葉をつないでいるだけで、考えて文章を作っている訳ではないということを説明しました。
例えば『おばけ』ときたら、次にどういう言葉を想像する?と問いかけつつ、生成AIが『おばけ』をテーマにつくった文章を見せ、子どもたちが口々に発した「こわい」「お墓」「暗い」など、イメージした言葉が、実際に生成AIのつくった文章にもたくさん反映されていることを確認しました。


最後は生成AIの使用において気をつけることを考えました。
古谷は「おすしをかいて」というプロンプトに対し、日本人がイメージするにぎり寿司ではなくカルフォルニアロールの画像が生成された例を示し、「どうしてにぎりずしではなく巻きずしの画像になったのかな?」と問いかけました。
すると、子どもたちから、「外国からきた技術だから、海外の人が食べるカルフォルニアロールのイメージにひっぱられて描いたのでは?」と、的を得た回答が!


続いてピロシキを例に、お寿司のような知っているものの間違いには気づくことができるけれど、例えばピロシキのようなよく知らないことの間違いには気づけないよね、と示唆しました。子どもたちも、その点について、しっかりと理解し納得している様子でした。
そして、「個人情報を入れてもいと思う?」「読書感想文を書いてもらってもいいと思う?」など、具体的な注意点を、質問形式で話題にしました。
ChatGPTの仕組みを理解した後だからか、子どもたち自身から「AIがその言葉を学んで、他の人の回答に出しちゃうかもしれない」「もし生成AIの読書感想文が賞を取ったら罪悪感がある」「頼ってしまうので自分で考えなくなる」などの意見が出ていました。
古谷は、車は便利だけど、間違った使い方をすると事故を起こす。車もそうだし、スマホもそう、もちろん生成AIもそう。便利だけれど、いろいろな便利なものはいい使い方と悪い使い方があり、どう使うかについて考えていくことが大事だと締めくくりました。
・生成AIがどのように学習をしてどんな風に答えを出すのかがよく知れておもしろかった。
・私は本を読むのが好きなので「小学六年生にオススメな本を紹介して」と質問して読んでみたいと思いました。また、夏休み中に漢字の復習をしようと思うので、AIに「小学六年生の夏休みまでの漢字テストを作って」と頼もうと思います。
・授業が始まる前は「生成AIってまちがえた回答をしたり難しい言葉しか使わないからあまり使えないんだよね」と思っていたけど、(略)その人に合った分かりやすい説明で回答を出してくれることが分かりました。
・生成AIで個人情報をプロンプトに言えるのは何となくダメだろうなーとは思っていましたが、生成AIの中で学習して答えを出してしまう可能性があるから入れてはいけないという理由を知って、やっぱりだめなのだと改めて感じることができました。
・これからたくさん使っていくと思うけど、上手に付き合っていきたいです。
・生成AIが船小のゆるキャラを描いてくれたりをしていてすごくびっくりしました。
・AIというものは今まで怖いもので頼りすぎてはだめという印象があったのですが、今日の授業を受けてみて(生成AIは)頼りになり、困った時は助けてくれるものなのだと知りました。
・今までChatGPT(お父さんのもの)を使っていて、あまりコツを意識していなかったので、今回の授業を受けてコツを意識することが大切なのだと分かりました。
生成AIは、日進月歩の勢いで進化しています。わからないことが多くある中で、今日の授業では生成AIの仕組みや活用方法を具体的に学ぶことができました。いろいろな情報により、生成AIを使うことに不安を感じている児童も多くいる中で、どのようなことができるのか、どのようなことに注意すればよいのか、そして最終的には、自分が考え、決定する必要性があるということがわかったことと思います。我々教員も過度に恐れず、積極的に使い方を学び、一つのツールとして、効率よく仕事を進められるよう上手に活用していきたいと思います。
これから先、必要になっていく技術だと感じているので児童たちはとてもよい経験ができたと思います。
予測困難な未来になると言われているが、本質的なところは変わらないと思うので、ツールの使い方、リテラシーなどはしっかりと学校現場も柔軟に対応し、伝えていくことが大切だと感じました。
これから学校現場に求められることも変化していくのではないかと改めて感じました。
小学生は規約上、生成AIツールを直接利用できない場合がありますが、日常生活で大人の利用を目にすることで、その存在は既に認知しています。
ゆえに、早期から生成AIに関する正しい知識を身につけることが不可欠です。
生成AIは有用な一方、リテラシーなく利用すると、本質的な効果は得られないほか、法令違反のリスクも伴います。
本授業の受講を通して、生成AIを安全で効果的に利用し、自分の能力をより高めるために活用してもらうことを期待しています。
7/17の授業では講師とのインタラクティブなコミュニケーションを通して、児童のみなさんが生成AIをどのように使えば効果的なのか、どのようなリスクがあるのかを自分の立場に置き換えて言語化できている点が印象的でした。
本授業を十分に理解されている様子が見られたため、今後は自分で活用しつつ、他者に効果的な使い方を広げていく役割もぜひ担っていただきたいと思っております。
支援協力:アクセンチュア株式会社
アクセンチュアは、世界を代表する総合コンサルティング会社です。社会貢献活動の一環として、STEAM人材の育成に取り組んでいるアクセンチュアは、2015年より企業教育研究会の教材開発を支援しています。今回の授業に用いる教材の開発にあたっては、開発への助成及び生成AIに関する最先端の専門的知見を提供いただきました。



2025年6月21日(土)に第170回「千葉授業づくり研究会」が開催されました。今回のテーマは、「メタバース世界のものづくりを通した、創造的な探究活動とは!? 〜産官学民プロジェクト・ばーちゃるまつもとにおける高校生の挑戦事例から〜」です。
「ばーちゃるまつもと」とは、2023年度から産官学民連携で進めてきた実証事業「“ばーちゃるまつもと”による市民主体のシティプロモーション」にて構築され、コンテンツ制作においては、地元の中高大学生など長野県・松本市の若手クリエイターが中心となって制作したメタバース空間です。地元の高校生がメタバース空間でのコンテンツ制作やイベント企画に挑戦するなど先進的なプロジェクトを進めています。
本研究会では、そのばーちゃるまつもと推進プロジェクト代表の渋谷透さんをお招きし、メタバース世界でのものづくりから得られる体験や「ばーちゃるまつもと」プロジェクトの背景をお話いただきました。講演会に加え、参加者向けのメタバースコンテンツ制作体験会や、登壇者と参加者による活発なディスカッションも行われました。
このレポートでは、研究会全体の様子を詳しくお伝えします。学校教育に関心がある方はもちろん、メタバース空間でのものづくりや探究活動の授業に興味をお持ちの方にも、ぜひご一読いただきたい内容です。
今回の講演会では、ばーちゃるまつもと推進プロジェクト代表の渋谷透さんにお話しいただきました。
元々日立システムズの会社員であった渋谷さんは、60代を迎えて「これをやらないと後悔する」という強い思いを胸に、新たな挑戦を始めました。それが、「ばーちゃるまつもと」のプロジェクトです。
渋谷さんは、自身の父親の存在が「ばーちゃるまつもと」立ち上げの大きな後押しになったと語っています。教員であった渋谷さんの父親は「60代はハナタレ」をモットーに、教職を退職した後も地元でスキージャンプの少年団を立ち上げ、70代にしてスキーを教える環境を地域に作り上げました。年齢を言い訳にせずいくつになっても挑戦を続ける父親の姿は、渋谷さんにも影響を与えたといいます。
そもそも「ばーちゃるまつもと」の立ち上げは、日立システムズの業務の中で携わったデジタルシティ松本推進機構での仕事がきっかけとなりました。現在では、渋谷さん自身が個人事業「nakama」を立ち上げ、松本市に移住しています。
また、松本への移住は、以下の3つが絶妙なタイミングで重なったことが決め手であるそうです。
今回は、これらの要素が関わりあって生まれた「ばーちゃるまつもと」を活用した子どもたちの学習事例や運営についての話をご紹介します。これからデジタル技術を教育現場に導入したいと考えている方々にとっても、具体的なヒントと実践の足がかりとなるでしょう。

続いて、「ばーちゃるまつもと」について詳しくお話いただきました。「ばーちゃるまつもと」によって、地域事業者や若手クリエイターとのつながりも生まれたといいます。
「ばーちゃるまつもと」とは、長野県・松本市の若手クリエイターが中心となって制作した、松本の魅力を発信するメタバース空間です。六九商店街や井上百貨店本店など、松本の風景をバーチャル空間に再現しています。
松本市の工業高校や地元の中学生、地域事業者など幅広い関係者が携わり、ものづくりを楽しむ空間・つながりを生み出す空間として活用されています。
「ばーちゃるまつもと」には産官学民に幅広いステークホルダーがいます。市民主体の運営組織を中心として、井上百貨店や丸正醸造などの企業、松本大学や信州大学、松本工業高等学校などの学術機関、さらに教育委員会や松本観光コンベンション協会などもかかわっています。
渋谷さんは、「ばーちゃるまつもと」を、完成したバーチャル空間の中に入って楽しむというよりも、市民の力で創ること自体を楽しむことに重きを置いています。その特徴について、「ものづくりを楽しむ空間」と「つながりを生み出す空間」の2つのキーワードで説明しました。
「ものづくりを楽しむ空間」とは、「ばーちゃるまつもと」がメタバース空間で実際に若手クリエイターや子どもたちが創作を楽しむことができる場であることを指します。渋谷さんは、3D空間が可能にする幅広い表現方法は感性を磨くことや、表現対象への探究心がテキスト情報を超え直感的理解を磨くこと、年齢や立場関係なく開かれたクリエイターのコミュニティであることで互いにコミュニケーションを取る必要に駆られることなどを挙げ、「ばーちゃるまつもと」における活動は教育効果があるのではないかと注目します。
「つながりを生み出す空間」としては、若手クリエイターや地域事業者とのマッチングが行われているとご紹介いただきました。「ばーちゃるまつもと」は地元の中学生や高校生、大学生、フリーの3DCGクリエイターなどが、地域事業者や大学、行政とマッチングするきっかけづくりに寄与しています。若者の松本への関心を高めるとともに、若者の目線でのビジネスアイデアや事業者間コラボも生まれ、松本の新たな地域ブランディングを狙っています。
渋谷さんに地域事業者との連携や「ばーちゃるまつもと」の活用事例もご紹介いただきました。
「ばーちゃるまつもと」内には、長年市民に愛されながら2025年3月31日に閉店した井上百貨店本店が再現されています。単にメタバース上に井上百貨店本店を再現するだけではなく、店舗の中に美鈴湖畔を作成するなど、松本工業高校の生徒の柔軟な発想で作成されています。
ほかにも、鬼ごっこやかくれんぼなどで遊べる松本城や講義室が再現された信州大学なども作成されています。
また、井上百貨店と松本の味噌メーカーが連携して、「まつもとMISOめぐり」という商品開発も行われたとお話いただきました。信州松本の味噌を6種類、150gずつ楽しめる商品です。松本のブランド力をアピールすることを目指して企画されました。
「ばーちゃるまつもと」の日々の運営にはコミュニケーションサービス「Discord」が活用されています。Discord上では開発者のコミュニティもあり、雑談だけでなく、質問を投稿できるチャンネルを通じてノウハウが活発に共有されているとのことです。
ただ、「ばーちゃるまつもと」には地元の高校生が深く関わっているため、高校3年生の卒業に伴う継続性が課題となっています。この課題に対し、現状では卒業した高校生に後輩のメンターとして活動してもらうよう依頼し、プロジェクトの運営を継続していく工夫をしているそうです。
渋谷さんが松本市との取り組みで目指すゴールは、松本発のイノベーションを松本市民で引き起こし、新たなブランディングとして確立していくことです。
「ばーちゃるまつもと」や現在進行中の松本の魅力を紹介する「AIコンシェルジュ」のプロジェクトなどもその一環で、市民がテクノロジーを活用して社会課題を解決する「Civic Tech」を大切にしているそうです。

松本市には、自宅から参加できるオンライン教育支援センター「まつとも」があります。「ばーちゃるまつもと推進プロジェクト」に関わる人材が環境整備に携わりサポートしています。
研究会の中では、実際に運営に携わるスタッフの方にビデオ通話で「まつとも」の様子をご紹介いただきました。
「まつとも」は、学校に直接通うことが難しい松本市の小中学生のために作られたバーチャル空間の居場所です。自宅にいながら、オンラインで学習したり、仲間と交流したりすることができます。
現在、毎日10人程度の子どもたちが利用しており、そのうち4〜5人の子どもたちは毎日アクセスしているそうです。「まつとも」では匿名性を大切にし、利用者はニックネームのみで気軽に参加でき、相手の学年や学校などの情報がわからない中で、同じ空間で過ごしながら交流を深めていきます。
また、「まつとも」への来訪には特別な高性能パソコンは必要なく、子どもたちが学校から支給されている一人一台端末で十分に利用できるように配慮もされています。
運営や空間づくりには、スタッフのほかに高校生や大学生が協力しており、スタッフや教育学部の学生が子どもたちと同じ目線でかくれんぼやラジオ体操をするなど、積極的に子どもたちと関わっています。
「まつとも」のメインルームから他の空間へはクリック一つで移動でき、信州大学工学部の学生や松本工業高校の生徒が遊び場を制作しました。子どもたちが飽きないよう、季節ごとにレイアウト変更も行われています。
「まつとも」には、子どもたちが自分で見つけてきたコンテンツを貼り付けられる自由度の高い空間もあります。「まつとも」では、プロによるデザイン的に洗練された空間ではなく、子どもたちや学生が創りあげる手作り感のある温かい空間が定着しているそうです。
中には、不登校の一部の子どもたちに空間づくりの権限を渡し、運営として関わってもらうこともあったといいます。子どもたちは、コンテンツ制作のやり方を教わっていないにもかかわらず、マニュアルを見て自分で操作を覚え、宇宙空間をイメージした独自の空間を作り上げました。
制作には高度な技術を要するわけではあませんが、大人では思いつかない空間デザインへの発想力にはスタッフも目を見張るものがあるそうです。ほかにも小学生や中学生でも空間づくりやコンテンツづくりに挑戦する子がおり、その吸収力の高さにスタッフも驚きの連続だともお話いただきました。


研究会の中では、実際にメタバースにおけるコンテンツ制作体験会が行われました。今回は、ブラウザ上でメタバース空間を制作できる「Vket Cloud」を使用し、4~5人のグループで作業しました。
体験会ではアバターの見た目を編集し、メタバース空間の中でアバターを動かすところまでを実施。アバターの編集ができるのは研究会の都合上15分のみ。身長や足の長さ、瞳、髪、耳の形や色まで幅広く調整できるので、こだわるとすぐに時間が過ぎてしまいます。直感的な操作性も手伝ってか、多くのグループが楽しみながら作業しているようでした。


アバターが完成したら、メタバース空間に入室します。お気に入りの姿でワールドを駆け回れるのはうれしいですね。ジャンプやアバターが動くエモートアクションを試すグループも見られ、参加者それぞれの楽しみ方が見受けられました。
今回は、アバターの編集が中心となりましたが、メタバース上のワールドを制作することもできるようです。プログラミングの知識がなくても、すぐにアバターやワールドを制作ができることに驚きました。


研究会の後半には、千葉授業づくり定番のディスカッションが行われました。オンライン上で質問ができるサービス「Slido」を使い、参加者と登壇者で議論を行います。
「ばーちゃるまつもと」を使う子どもたちの実態についての質問が多数寄せられました。ここからは、ディスカッションの内容を一部抜粋要約してご紹介します。
Q.学校じゃないと学べない人間関係をバーチャル空間で学べるのが良いと感じました。空間を使用するだけではなく作ることもできるため、子どもたちの自信につながると考えました。子どもたちの将来につながるような事例があれば教えてください。
現在は、自分たちの空間で遊ぶことに注力しています。利用者は、不登校で対面で会ったことがない子どもたちが多いです。いずれ、バーチャルだけではなく、実際に対面で交流ができると良いなと考えています。
また、高校生については、イベントで200人くらいの市民の前で成果発表をしてもらい、メディアでも取り上げられることがありました。かなり刺激になったようです。
Q.特別支援学級に在籍している子がオンライン教育支援空間に参加している例はあるのですか?
現在は把握していないです。
ただ、学校の勉強が簡単に感じて不登校になってしまった小学生が、メタバース空間で飛行機の映像を集めた部屋を作り、自分を表現する方法として活用する事例はありました。
Q.オンライン教育支援センターの利用ルールを教えてください
平日の9:00〜17:00と利用時間を定めています。保護者の許可を得た場合に教育支援センターで指定したアカウントを利用して利用可能です。バーチャル空間への入室が許可されていない人は入れないようにしています。
不登校の子の場合は、保護者の申し込みの後に、教育委員会を通して「ばーちゃるまつもと」の入室URLを共有するようにしています。
現在は個別チャットの使われ方の状況把握や管理方法を模索しているところです。
Q.バーチャル空間が居場所になることで、リアルな交流に心理的な抵抗を持ってしまうのではないでしょうか
専門家の立場ではないので私見となりますが、バーチャル空間には必ず大学生や大人が入るようにしています。子どもだけにせず、大人が伴走する形をとることが大切だと考えています。
以上で、第170回千葉授業づくり研究会のレポートのご報告とします。ご講演いただきました渋谷さん、参加者のみなさま、誠にありがとうございました。
千葉授業づくり研究会にはどなたでも参加できます。
興味がある方は、こちらの開催情報をチェックしてくださいね!Zoomを用いたオンライン配信による参加もできるので、遠方の方も大歓迎です。
【記事担当:千鳥あゆむ】
2025年1月22日(水)、千葉県立幕張総合高等学校・看護科3年生の皆さんへ、「数学がわかると未来が見える!」 の出張授業を実施しました。
こちらの出張授業は、IBMが全世界の高校生向けに提供しているWeb学習コンテンツ「IBM SkillsBuild」を活用頂いている高校の方へ、「IBM SkillsBuild」と組み合わせて活用いただく授業プログラムです。
「IBM SkillsBuild」には、STEAM技能の育成にも活用できる「人工知能(AI)の利活用」「データサイエンス(データと分析)」「ブロックチェーン」「モノのインターネット(IoT)」などの解説や、それらの世の中での活用、関連する職業人のインタビュー映像などが掲載されています。


NPO法人企業教育研究会(ACE)はIBMとパートナーシップを結び、希望される高校へ「IBM SkillsBuild」の活用サポートをしています。
「IBM SkillsBuild」に登録しeラーニングの形で学びを進めていただきながら、この組み合わせ授業プログラムは出張授業形式で、生徒はワークシートの演習問題を通してデータの活用や分析を体験します。総合的な探究の時間で扱う、データの収集や分析を実施する際の、きっかけの授業としても活用いただける内容です。
具体的には、アニメーション教材を活用しながら、とある架空の学園における生徒会会長選挙を舞台に、無理なくステップを踏みながら調査データを分析して選挙動向を予測します。
製品の開発や街づくり、選挙結果や気象変動の予測など、社会・経済の問題解決において情報(データ)が活用されていることを知り、ビッグデータが社会でどのように活用されているか理解するとともに、日常の学習との結びつきについて実感することを目的としています。
「数学がわかると未来が見える!」 の詳細はコチラ
講師と生徒のみなさんは、別の授業で既に顔合わせをしていた関係もあってか、和やかに授業がスタートしました。
まず講師を務めた職員の市野より、世の中には情報が溢れているが、さまざまな場所で示されているデータには根拠があることや、その情報の根拠はデータサイエンティストが担っていることなどを説明。
世の中のデータが日常生活の中で活用されていることに対し、生徒たちに理解を促します。
その後、今日の授業では、グローバル化がさらに進んだ西暦2200年、未来のとある学園の新聞部部員になるという設定で授業を進めること。具体的には、その学園の生徒会会長選挙を舞台に、調査データを分析し選挙動向を予測してもらうことを伝えました。
その世界観へはアニメーション教材の視聴を通して誘います。
生徒たちはアニメーションを見ながら、登場する3名の立候補者を見て、「かっこいいー♪」とつぶやいたり、ちょっと笑ったり…
また、舞台となる学園で導入されている成績階級システム(ATシステムといい、成績応じ学園生活でさまざまな優遇が受けられる制度)について周りと話すなど、その世界観に違和感なく入り込み、活動の課題となっている生徒会会長選挙について思考をめぐらせている様子でした。

アニメーションの設定を振り返りながら、さっそくワークシートを用いてMISSION1に取り組みます。
MISSION1は、グラフを参考に今年の選挙結果を予想することです。
配布するワークシートには、今年の支持者数調査のグラフと、過去3年間における支持者数調査結果を示しています。
生徒たちは、グラフを見、周りとも相談しながら、立候補者の誰が選挙に当選するかについて理由とともに予測します。
ちなみに立候補者は、3度目出馬で知名度抜群 『エリ―・ベネット』、タレント活動により校内ファンクラブ乱立の人気者 『戸田隼人』、誠実な性格でATシステム撤廃を公約とする『リカルド・太郎』の3名。
生徒同士の話し合いでは、知名度が関わるんじゃない?支持層はどう?気持ちとしてはリカルドに頑張って欲しいけど…など、議論が盛り上がっている様子です。
手を挙げてもらいみんなの予想を確認すると、この段階では『戸田隼人』が選挙に勝つと予想した生徒が多そうです。
講師より、過去の傾向を読み解くと、投票者未定の割合が多いと最後にどんでん返しが起こり得るという予測ができることや、複数回の出馬は当選しやすいことが予測されることなど、いくつか考えられる予測の根拠について説明しました。
MISSION2へ続きます。


学園内における投票日約1か月半前から投票日までの動きを、生徒たち自身も新聞部部員として共に追っているという想定で進むこの授業。生徒たちの予想から1週間後、新聞部部長から「事件が起きた」との知らせが!?!?


それは、成績による優遇制度ATシステムの不平等な状況を暴露した動画が公開されたというニュース。
そのニュースを踏まえ、新聞部部員として各候補者のATシステムへの考え方について演説を聞き(アニメーション視聴)、さらに成績レベル別の支持数データも活用しながら、さらに予測に変化があるか再検討します。
MISSION2では、データを読み取り、支持者の傾向の説明として正しい記述を選び、投票者未定の人が今後誰を支持しそうか予測します。
ワークの後には、今回提示したデータより予測できることについて、講師よりいくつか解説を行いました。
その後も、時間の経過とともに支持者層の変動を追う生徒たち。
各候補者支持数の増減を見て、「アー!」、「おぉー!」など反応があり、没入感をもって授業の進行を楽しんでいる様子です。
最後、MISSION3では、投票日1週間前にとった投票者未定の生徒への緊急アンケートのデータを分析。生徒たちが固唾をのんで見守った選挙結果はいかに?
講師は投票結果が判明したあと、「計算上と実際の結果が一致しない理由として考えられることは?」と問いかけます。それに対し、直前の調査のサンプル数が少なかった可能性や、1週間前のデータからさらに何か予測しきれな状況の変化があった可能性など、データを用いる際に留意するポイントについて紹介しました。


最後にまとめとして、「授業では少ないデータで手計算を行って分析していましたが、今は大量のデータを機械で処理できるようになっています。また、実社会のあらゆる判断の裏に、データを分析している仕事をしている人たちがいます。日ごろからデータをもとに自分の意見を考えることを、この授業をきっかけに意識してみてください。」と伝えました。
幕張総合高等学校看護科の生徒のみなさんは、高校卒業後の2年間、引き続き看護専攻科として同じ学び舎に通います。
『IBM SkillsBuild』 については、大学生向けの学習内容へ進み引き続きご活用いただく予定です。
2025年5月24日、「第169回 千葉授業づくり研究会」が開催されました。今回のテーマは「生成AIを活用したこれからの授業のあり方」です。
生成AIについては、この授業づくり研究会でも繰り返し取り上げています。
【第161回】千葉授業づくり研究会のようすをご紹介します:「生成AIを活用した創造的な授業とは?!」【20周年記念イベントレポート】⑦生成AIの活用
開会のあいさつでACE理事長・藤川教授からも「生成AIはインターネット以来の人間の重要な発明であり、我々の生活を大きく変化させていくことでしょう。そんな変化していく社会を生きていく子供たちを育てる教育現場が、生成AIによってどう変わっていくのかを考えることはとても重要なテーマです。」と話がありました。
これから、学校教育に生成AIはどのような影響を与えるのでしょうか。
講師には、教育現場での生成AI活用において先駆的な取り組みを進めるNPO法人みんなのコードより、竹谷正明さん(元・みんなのコード)、永野直さんをお招きしました。お二人からは、小学校から高校までの具体的な実践事例を交えながら、生成AIという存在をどう捉え授業に活用しているのかなど、示唆に富むお話をいただきました。
竹谷さんは、まず、生成AIに関する国の動きについて分かりやすく解説されました。
生成AIについて、文部科学省の対応は「早かった」と竹谷さんはおっしゃいます。
2023年7月のガイドライン公表、9月のパイロット校指定と続き、さらに、2024年12月の次期学習指導要領へ向けた諮問では「生成AIという言葉が7か所も記載」されるなど、文部科学省が生成AIを今後「積極的に利活用することが有用」という方針を、明確に示していると説明しました。
しかし、その活用については児童生徒に「突然使わせても難しい」ため、生成AIそのものを学ぶこと、利活用することを学ぶことなど、活用の意味を考え、それぞれの教科等を関連付けていく必要があると指摘しました。
さらに、文部科学省が示す「情報活用能力の育成強化」に触れ、今後は生成AIの存在を前提とした教育になっていくと思われることや、東京都では全ての都立学校に生成AIが導入されるなど(都立AI)、すでに教育現場へ生成AIが大規模、かつ加速的に導入されていることも紹介しました。

また、ベネッセ2024年6月の調査データから、「1割の小学生が生成AIを使っている」という実態を紹介し、この状況を踏まえ、「小学校段階からのAIリテラシー教育」を「公教育でやっていく必要性」と、子どもたちが生成AIに対して「実感を伴い自律的に判断できる力」を得るには、個々人で使っていてもひとりでに学ぶことは難しく、学校で、安全な場で仲間や教師と学ぶことが必要だと考えていることを教えてくださいました。
日本教育新聞:次期学習指導要領で「情報活用能力育成」を一層強化
東京都教育委員会・都立AIについて
ベネッセコーポレーション 「生成AIの利用に関する調査」2024
このような状況を解決するため、みんなのコードでは、教育現場向けの「みんなで生成AIコース」を提供しています。
このコースは、送信データが生成AIの学習に利用されないなどの一般的な安全性に加え、「教師が児童の会話履歴を確認することが可能」「利用に際し生徒児童の個人情報が不要」「教師がアカウントを作成する」「アクセス可能時間を設定できる」といった特徴が備わっています。「先生が監督責任を持つことで年齢制限なく使用できる」ことで、使用に年齢制限がある生成AIを小学校でも安心して活用できるようになっています。
次に、「みんなで生成AIコース」を活用した小学校5年生への実践事例が紹介されました。
授業はAIに“学ばせる”体験から。
Googleが提供する「Teachable Machine」を使用し、子どもたちが撮影した国旗写真より、AIに国旗の種類を学ばせるという活動からスタートしました。
竹谷さんは、「国旗は誤認識が少ない」ため、機械学習の基本的な原理をスムーズに理解できると言います。そして基本的な原理を学んだ後、子どもたちは「自分が認識させたいもの」を自ら考えました。
これらの体験を通した授業を進める中で、教科書を認識させ、持ち物を確認する「忘れ物防止」アプリを作成する子どももでてきたそう。竹谷さんは、こういう体験を通して、子どもたちが自分もAIを使って何かできそうだ!という感覚を作っていけると良いのではとお話しされました。
生成AIを前に子どもたちがどう反応するかの傾向としては、まずはインターネットのキーワード検索のように、検索的にAIを活用し、そのうちしりとりなどして生成AIと遊びだすとのこと。そして、だんだん物語や音楽を作らせるなど、自然とクリエイティブな使い方をしていくそう。もちろんこの小学校での実践においては、子どもたちは生成AIと遊ぶ以外にも、国語で意見文の添削をお願いするなど、さまざまな教科の学習場面で生成AIを使う体験を重ねました。
そして、この実践を1年間継続した子どもたちが6年生に進級した際には、「生成AIを相棒にしよう」をテーマに、さらに活用を進めました。
例えば国語の単元では、「学校のお昼ご飯は給食と弁当のどちらがいいのか」と議論する場で、生成AIに意見を添削してもらう形で生成AIを活用しました。その際、子どもたちが、自分たちの主張をより説得力のあるものにするため、どんな資料を追加すべきかアドバイスを求める例も見られました。そして、だんだん給食費や栄養バランスなど、生成AIのアドバイスを参考にしつつも、生成AIを離れて調べる子どもの様子も見えたとのことです。
授業のふりかえりや感想では、「算数は、答えを教えてもらうんじゃなくて解き方を教えてもらうのが必要」「なんのために使うのか、それを使って何になるのかを考える」「出てきたものが本当に正解か一度考えることが大事」「自分が正しい使い方をしているのか自問自答しながら使っていきたい」等の意見が出ました。
竹谷さんは、「全員こういうこと気づくわけではないけれど、クラスの中にそういう子がいることが大事」と言います。アンケートでも、「みんなと使ったから自信ついた」と7割の子どもが回答したと紹介しました。
実践紹介の後、小学校段階で生成AIに触れる上で、小学生に意識させるべき「留意点」についても説明しました。
次に、永野さんから、高校における生成AI活用の具体的な実践事例をご紹介いただきました。
2011年当初、日本初一人一台端末を導入した情報科教員であったという永野さん。 永野さんは、「すでに産業界では、生成AIは当然に使われている。便利であるからこそ、教育界でどう使っていくにはというところは議論がありますが、ただ、インターネットが生まれた時と同じで、生成AIを今後使っていく未来は確定なので、本当に子どもたちをそこから隔離することは良いことだとは思いません。危なさがあるのであれば、それを知らせ、どう対処するか伝えることが教育なのでは」とおっしゃいます。使う心配も、使わない心配もあるものの、生成AIを避けるのではなく、過信も不信も防ぐことが重要であると説明しました。

そして、永野さんが、生成AIの活用について現場の先生方へ伝えていることを紹介くださいました。

対象年齢の違いにより表現は違いますが、小学生向けの留意点を説明された竹谷さんと大枠は同じことを指摘されている気がします。これらのポイントは、どの年齢に対しても、生成AIを活用する大きなヒントとして参考になりそうです。
続いて、高校における具体的な実践事例について4つの事例を紹介されました。
1.生成AIと生徒のディベート:生成AIを反対の立場に立たせて活用する事例。「友達と反対意見を言い合う」のは生徒にとってハードルが高くても、生成AIを活用して「喧嘩をするのではなく意見を聞く、反論する」という経験を積むことができます。永野さんは、生徒が自分のことを伝えられるようになるには、ある程度経験が必要だと考えていらっしゃり、その機会を多く得ることに生成AIを活用。
2.時事問題を読んで考察文を書く:朝学習などで、その日の新聞記事について短い考察文を書き生成AIに添削してもらう活動。この実践では、「先生が小論文の添削をするのは大変だけれど、生成AIならたくさんできる」という教育現場の負担軽減と、生徒の学習機会の増大という両面で大きなメリットがある事例。
3.探究学習での活用:探究は調べ学習と違い、問いを立てる必要があります。生成AIは、その際に、「考えを整理するのに使うのが有効」だと紹介。生徒と生成AIとで、興味のあることなどを会話させテーマを決めたり、仮説の反対意見を聞いたり、そのテーマで進めると何が分かるのか、困難な点は何かを問うなど、探究学習の各段階で生成AIを活用。
4.生成AIとプログラミング:生成AIとプログラミングは「親和性が高い」分野であるものの、AIはプロが使うような効率的な正解を提示してしまい、学習としては意図が違ってしまう場合もあります。みんなのコードでは、高校情報向けのプログラミング教材に生成AI機能を追加し、生成AIが正解のコードをそのまま生徒に提示しない工夫をしています。また、プログラミングの授業では生徒が基礎的な質問を躊躇う場面や、先生への質問待ちで作業が進まない場面もあり、そういう時にも生成AIは質問先の1つとして有効。
授業としての情報、プログラミングなどは、例えば自由課題として何か作りたいと思っても、知識技能の習得が壁となり、楽しさに行きつくまでに嫌になってしまうこともありました。ですが生成AIが登場した今は、まずは作ってみてから、生成AIの助けを借りつつ修正するなど、学習の順序が変換する可能性があるとのこと。永野さんは、技術系の授業のあり方が変わるのではないかと期待しているとお話しされました。
また最後に、生成AIは使い方に大きく左右され、AIをより良い方向に活用するためには、単にAIの使用を禁止するのではなく、学校現場がより良い使い方を、(生徒が)自ら考えられるようなヒントを与え、関わっていく必要がある。
AIが簡単に「それらしいもの」を作れるようになる現代において、人間が何かを創造する際に最も大切なのは、あなた自身の経験、感情、「これが好きだ」というこだわりを持っているか、またそれが作品に表現されているかどうかだと思うと締めくくりました。


研究会の後半は、千葉授業づくりでは定番のディスカッションの時間です。生成AIの教育現場への導入に際し、参加者から活発なディスカッションが行われました。
ここからは、ディスカッションの内容を一部抜粋要約してご紹介します(敬称略)。



今回の研究会を通じて、生成AIが教育現場にもたらす可能性と課題、そしてこれからの授業のあり方について多角的に知ることができました。生成AIの進歩は目覚ましく、数か月後には状況が変わっているかもしれません。今後もその動向を注視し、教育への最適な導入方法を模索していく必要があると感じました。
以上で、第169回千葉授業づくり研究会のレポートのご報告とします。ご講演いただきました竹谷さんと永野さん、そして参加者のみなさま、ありがとうございました。
千葉授業づくり研究会にはどなたでも参加できます。
興味がある方は、こちらの開催情報をチェックしてくださいね!Zoomを用いたオンライン配信による参加もできるので、遠方の方も大歓迎です。