公民連携によるリノベーションまちづくりから

探究的な学びを考える

2026年5月16日(土)、本年度2回目となる第176回「千葉授業づくり研究会」を開催いたしました。

現在、文部科学省・中央教育審議会では、次期学習指導要領の改訂に向けて「探究的な学び」を中心にさまざまな議論がなされています。子どもたちが自ら課題を見つけ、正解のない問いに向かって学習を進めるこの学びにおいて、地域社会に関するテーマは、重要な位置を占めるようになってきました。

こうした背景を踏まえ、今回は「公民連携によるリノベーションまちづくりから探究的な学びを考える」をテーマに設定しました。

講師は、行政や民間企業・団体が連携し、市内のJR3駅を中心に「人材、空き家、空き店舗など」を活用した駅周辺のリノベーションを進める 市原市役所 都市整備課 まちなか再生係 係長 三澤 正幸さまです。

研究会では、市原市が進める「公民連携によるリノベーションまちづくり」の背景や具体的事例についてご講演いただき、その視点を「探究的な学び」にどう活用できるか参加者全員でディスカッションしました。 

当日は多くの教育関係者にご参加いただき、このテーマに対する関心の高さがうかがえました。「探究的な学び」や「地域社会の課題」の学習において、行政との連携やまちづくりのアプローチがどう活かせるか、ぜひ参考にしていただければ幸いです。 


理事長・藤川教授によるメッセージ

はじめに、弊会理事長の藤川大祐教授(千葉大学大学院教育学研究院長)が登壇し、このテーマを取り上げた背景や、これからの学校教育における地域連携の大切さについて、次のようにお話しになりました。 

「この研究会は20年以上続けてきましたが、普段は企業の方を招くことが多く、行政の方をお招きするのはかなり珍しいと思います 。三澤さんには以前に別の形でお世話になっており、アントレプレナーシップ教育の勉強会に来ていただいたのがきっかけです 。

当時、小学校での実践において、学校側の思いはあっても『地域にどんな面白い話や可能性があるのか』について、先生方が見通しを持ちにくいという課題があり、三澤さんをご紹介いただきました 。

今、学校では探究的な学びが議論されていますが、教育側だけの枠組みではなかなか進みません 。ですが、行政の方であれば産業界とも教育界ともルートがつながっていますので、ご協力いただくことで教育実践がとても円滑に進んでいくのではと思います 。

本日は、いろいろな行政の方と皆さんがつながって、どんな連携ができるのか視野を広げる機会になれば幸いです 。」


ご講演:公民連携によるリノベーションまちづくりから探究的な学びを考える

(市原市役所・三澤さん)

市原市役所 都市整備課 まちなか再生係 係長 三澤 正幸さん

続いて、市原市役所 三澤さんによる講演へと進みました。

三澤さんは地元・市原市の出身で、市役所に勤務して20年目になります。プライベートでは3人のお子さんの父親でもあり、ご自身の子育てについて「それほどかっちりした思いはないんですけども、できるだけ子どもたちにはいろいろな経験をさせてあげたいなと思っています」と話されており、穏やかなお人柄が伝わってきます。

お仕事では、2020年に新設された駅周辺のまちづくりを担当する部署への異動を機に、公民連携事業やリノベーションまちづくりの担当を務めてこられました。

まずは、三澤さんが日々向き合っている市原市の現状と、なぜ今「公民連携」が必要なのかという背景からお話がありました。

市原市の現状と『公民連携』が必要な理由

市原市は、千葉県で最も広い面積を持つ自治体です。海岸沿いはコンビナートが広がる工業都市ですが、内陸部へと進むとのどかな田園地帯や里山が広がっています。近年では、養老渓谷の自然を活かした「チームラボ」による夜間野外アート展が開催されたり、世界的建築家である隈研吾氏がデザインを手がけたチバニアンガイダンス施設のオープンを控えていたりと、多彩な地域資源を持つ魅力的な地域です。

このように多くのポテンシャルがある一方で、市原市でも2003年をピークに人口減少が進んでいます。主要駅である五井駅の周辺には、駐車場などの「低未利用地」が広がっており、あまり有効利用されていません。駅前がそのような状況であることから、都市としての魅力が低下してしまうという課題も抱えています。

かつてのようにインフラを整備すれば人が増える時代は終わり、現代は人口減少による建物の余剰や、原油高にともなう新築コストの高騰に直面しています。そのため、従来のような行政主導のやり方だけでは「まちづくり」が難しくなっています。

そこで市原市が2020年からスタートしたのが、地域の課題解決を目的とした、民間主導・行政支援による「公民連携のリノベーションまちづくり」です。今ある空き家や空き店舗を資源として捉え直し、民間の創造性やスピード感を活かして、低リスク・低コストでスピーディーに事業を生み出していくアプローチです。

その第一歩として、まずは「街のために何か始めてみたい」という人材を発掘するため、実際の駅前物件を題材にビジネスプランを企画・提案する「リノベーションスクール」を開催しています。

市原市の市長は、こうした新しい挑戦に積極的に参加し応援してくれる方だそうで、スクール最終日の公開プレゼンテーションにも自ら足を運ばれています。トップ自らが熱意を持って民間の提案を応援する姿勢が、行政全体で新しい挑戦をバックアップする温かいムード作りに繋がっています。

【事例1】五井朝市:夜のまちに朝食を

リノベーションスクールをきっかけに、市民メンバーのアイデアから誕生したのが、毎月第3日曜日に開催されている「五井朝市」市原市公式ウェブサイト 市民特派員記事市原市公式YouTube紹介)です。

舞台となった五井駅西口エリアは、工場勤務者向けの居酒屋などが多く夜間は賑わう反面、昼間はシャッターが閉まる店舗が多く、人通りが少なく閑散としていることが課題でした。ここに目をつけたメンバーたちが「夜のまちに朝食を」をコンセプトに、朝食マルシェの企画を立ち上げました。

いきなり実店舗を構えるリスクを避けるため、まずは月1回朝方のマルシェとしてスモールステップで開始しました。民間の「やりたい」という熱意から始まり、市民が主体的に関わる形を体現したプロジェクトです。この取り組みは着実に地域に根付き、2026年4月時点で57回を数える継続的な活動となっています。

現在では、近隣にある千葉県立生浜高校の「ビジネス研究部」も定期出店しており、生徒が開発した海苔餃子や海苔チョコレートなどを販売しています。

さらにこの取り組みを続けていく中で、子育て世帯から「朝の時間だけでは子どもたちが楽しみきれず、もったいないからもっと長くやってほしい」という声が聞こえてくるようになりました。そこで、五井駅西口のすぐ近くにある「梨の木公園」を舞台に、気候の良い5月と10月の年2回、朝市を少し拡大したイベント「梨の木市」も開催されるようになりました。

この「梨の木市」では、来場者が各店舗のカレーを食べ比べて投票する「カレーグランプリ」などの人気企画も誕生し、イベントは大盛況となっています。

💡 朝市を発端として始まった「民間の動き」の連鎖

この五井朝市での成功や熱量を発端として、五井駅周辺では次々と民間の主体的な動きが連鎖しています。

  • シェアキッチン「SOMARU(ソマル)」の開設 

元は魚屋だった空き店舗をリノベーションし、時間貸しのシェアキッチンを提供する。個人シェフや生産者が集まり、共に食を通じた交流や地域づくりに取り組む。

  • 佐川ビルのリノベーション 

築50年のビルオーナーが、若者たちの熱意に触発され自らビル内を改修。アート空間「シアターブレイク」など、個性的な個人店舗がオープンしました。オーナー自身も居住空間をリノベーションし、飲食店をオープン。週末には自ら店頭に立って料理を振る舞っています。 

💡 チェーン店ではなく「個店」が五井に通う理由を作る

最初の3年間、五井駅西口エリアに絞ってリノベーションスクールを重ねてきた結果、この5年間で駅周辺には10店舗近くの小さな「個店」がオープンしました。

よく地元の高校生から「駅前にマックやスタバが欲しい」という声も聞かれますが、もし駅前がチェーン店ばかりになってしまうと、「市原市でなければならない理由」がなくなり、市外への人口流出の歯止めにはなりません。「どこでも同じ生活ができるなら、より便利な千葉市や木更津市がいい」ということになってしまうからです。

だからこそ、ここにしかない個性的なお店が増えることで、「この街がちょっと好きかも」という地域への愛着へと繋がっていく…。三澤さんは、五井駅周辺で民間主導の小さなお店を増やしていく重要性について、そのように語りました。

【事例2】姉ヶ崎駅周辺:

 公園予定地」や「昼の駐車場」を活動の舞台に

五井駅に続いて、隣の姉ヶ崎駅周辺でもリノベーションスクールを開催しました。

💡 背景:更地のまま残された4つの公園予定地

姉ヶ崎駅の西口周辺には空き物件もありますが、それ以上に「公園予定地」が多く存在していました。区画整理自体は終わっているものの、市の予算の関係でまだ遊具などを整備できず、何も整備されていない更地(原っぱ)の状態の場所が西口だけで4箇所もあったそうです。

周辺には新しい住宅も建ち始めていましたが、子どもたちからすると、そこに入って遊んでいい場所なのかが少し分かりにくい状態になっていました。

💡活動 1年目:DIY屋台から始まった定期マルシェ

スクールに参加したメンバーの中に、公園予定地を使いたいという班がありました。そこで、スクール終了後に講師の指導のもと、自分たちの手でオリジナルの移動式屋台(タイヤ付き)をDIYで製作。保健所の許可も正式に取得し、食品販売ができる体制を整えました。

屋台が完成したときには、周辺の住民の皆さんに「今度こんなことを始めます!」と挨拶に回り、そこから定期的なマルシェの開催へと繋げていきました。

普段はただの原っぱですが、手作りの屋台が並んでお店が開かれると、近所の子どもたちもすごく喜んでくれて、大勢の人が集まる賑やかな場所になりました。

💡活動 2年目:日常の遊び場づくりと「畑作り」への挑戦

2年目は、イベント時だけでなく「子どもたちが日常的に公園で遊びたくなる仕掛けを作っていきたい」という方向へと取り組みが進みました。

その一環として、「クリスマスを自分たちで作っちゃおう」というイベントを開催。子どもたちが公園で手作りした様々な作品を飾り、全体を上から見ると大きなクリスマスツリーになっているような仕掛けのあるイベントです。

本来誰もが出入りできる公園に、こうした私物を3週間も常設(占用)することは行政的にハードルが高いことですが、かつて拠点形成課に所属していた三澤さん自身に他部署との調整に関する知見があったことから、間を取り持ち、正規に使用料を支払うことでこの課題をクリアしました。

また、「公園の地面を掘って畑を作り、トウモロコシを育てる」という、これまでにない大胆なトライアルにも挑戦しました。子どもたちの手で土を掘り、種を植えてトウモロコシを育てるという体験、そして、そこで大切に育てたトウモロコシからポップコーンを作り、みんなで「公園映画祭」を開いて味わう…。

子どもたちがこうした体験を重ね、そこで育ったものを使ってまたお祭りをやることで、その場所が地域が、愛着を持つ場所になっていくのではないかという思いのもとで取り組まれています。

💡 将来の公園整備に向けた「意見の蓄積」

これらイベントが開催されているのは公園予定地ですが、行政が公園に遊具を設置する際は、町会へ確認の後、滑り台やブランコなどを設置するのが一般的な流れだそうです。

姉ヶ崎での取り組みでは、「何もない今だからこそ、様々なトライアルを重ねながら、この公園に本当に必要な機能は何かを、地域のみんなと一緒に考えていきたい」という思いのもとで進められています。

4箇所の公園はそれぞれ特性が異なるため、それぞれの予定地に「ダンスができるステージがあると良い」、「キッチンカーを入れやすいように一部分だけ舗装をかけておくべき」といった、実際の使い手としての具体的な意見をみんなで出し合っています。2〜3年後に控える正式な公園整備の際に、管理・活用していく民間団体側から実践的な提案ができるよう、今からノウハウを蓄積しています。

💡 駅前駐車場の活用:「姉崎ガーデンマーケット」

公園の活用に加え、駅前にあるバーの駐車場を舞台にした「姉崎ガーデンマーケット(ローカルチャレンジマーケット)」という新たな動きも始まっています。

夜間しか車が停まらない駐車場の、昼間のデッドスペースを活用した取り組みです。小さなスペースですが、地域に密着し子どもたちとワークショップを開いたり、子どもたちが出店側として開催する「わたあめ」や「かき氷」などの体験会も人気です。

その場で食材を買うバーベキューイベントなども開催され、姉ヶ崎の駅前でも「自分たちの手でまちを楽しむ」動きが着実に広がっています。

【事例3】八幡宿駅周辺:

「お祝い」も「平日」もみんなで楽しむ場へ

市原市では、五井駅・姉ヶ崎駅に続き、八幡宿(やわたじゅく)駅周辺での活性化にも取り組んでいます。八幡宿地域では、まちづくりの実績がある民間団体「むすびあい」を2025年4月に都市再生推進法人に指定し、行政のパートナーとして共にまちづくりを進めています。

💡 式典だけではない、まちぐるみで施設オープン

2026年3月1日、八幡宿駅の西口に、古い公民館や支所などを1箇所に集約した新しい公共施設「やわたパレット」がオープンしました。この日、パートナーである「むすびあい」の皆さんは施設誕生を応援しようと、「八幡にぎわい横丁」イベントを同日に合わせて企画してくれました。

イベントでは、駅から「やわたパレット」へ向かう道路を歩行者天国にし飲食店などを出店したほか、地域の皆さんの心の拠り所である「飯香岡八幡宮」の境内でお囃子を演奏したり、移転によって空き建物となる「八幡公民館」を活用してダンスを披露したりと、エリア全体を巻き込んだ場を作り上げました。

行政だけでは施設内での式典(セレモニー)だけで終わってしまいがちなオープンが、多くの地域団体が連携する形へと広がりました。

💡 福祉との連携:1回目の反省を活かした誰もが楽しめるイベントへ

この「八幡にぎわい横丁」では、幅広い団体との連携も特徴的でした。開催メンバーの中では、「1回目は健常者目線になりがちだった」という反省があったそうです。そこで2回目となる今回は、障害を持つ方や福祉作業所、産婦人科協会などとも連携を図りました。

当日は、地元の中学校の子どもたちと一緒に視覚障害の方の歩行体験を行ったり、妊婦さんの疑似体験、福祉作業所の事業紹介ブースなどを設置。特定の層だけでなく、地域の多様な人たちが一緒になって楽しめるイベントへと進化させました。

💡 日常の賑わいへ:平日の夕方に寄り道できる「エキチカチャレンジ」

イベントによる一時的な賑わいにとどまらず、日常的な居場所を作る「エキチカチャレンジ」という試みも進められています。これは駅の東口前や、線路沿いのオープン前の道路を活用し、キッチンカーやテントに出店してもらうものです。

この試みは、あえて「平日火・水・木の夕方5時から9時頃」という時間帯で開催されました。学校帰りの中高生や仕事帰りの会社員が、日常の中でちょっと寄れる場所を作りたいという思いから始まった取り組みだからです。今年度は、にぎわい横丁の舞台となった西口側へ場所を変えて展開していくことが検討されています。


講演のまとめ

事例紹介の後、三澤さんは、次のようにまとめました。

「今日ご紹介した事例は市が直接やっているものではなく、すべて民間が主体です。

リノベーションまちづくりにおける行政の役割は、その地域で何かをしたい「人の発掘」をメインに、裏方としてサポートすることだと考えています。そのサポートとは、例えば行政の立場を活かした場所の確保、役所との間に入った事業化支援、プロモーションなどです。

皆さん自分の地域への愛着が強く、それぞれの地域で多くの方が活発に動いています。そうした人たちをさらに繋ぐため、毎月「いちはら会議」という交流会も開いています。

「まちづくり」と「探究学習」には、どちらも正解やゴールがないという共通点があるように思います。他市を含めいろいろな事例の中には完璧に見えるものもありますが、まちづくりにゴールはありません。常に挑戦し続けなければ現状維持すら難しいのが現実ですし、人口が増えたら増えたでまた違う課題が出てくるように、終わりはないのです。

若いうち、学生のうちに地域に触れて関わっておくことが、深い愛着に繋がっていくはずです。そうしてまちづくりと教育がつながっていくと、地域がもっと面白くなっていくんじゃないかなというふうに思います。」


ディスカッション

研究会の後半には、前半のお話を受けてディスカッションが行われました。オンライン上で質問ができるサービス「Slido」も使いながら、参加者と登壇者で議論を行いました。

ディスカッションを通して「まちづくりによる地域活性化と学校教育の連携」について多くの意見が交わされました。
ここからは、ディスカッションの内容を一部抜粋・要約して、Q&A形式でご紹介します。

Q.まちづくりの実行委員会は、どのようにメンバーを集めたのですか?

市原市の事例で言いますと、市が特定のメンバーを「選定した」わけではありません 。きっかけは市が開催したリノベーションスクールですが、これは有料で3日間を費やす非常にハードルの高い取り組みです 。だからこそ、そこに参加される時点で、まちづくりに対する強い思いや覚悟を持った方ばかりでした 。行政が採用したというよりも、熱量を持って自発的に集まった地域の方々に、市が伴走していったという形です 。

ただ、行政の立場や「仕事」として関わりすぎると、ルールや枠組みに縛られてかえって動きづらくなってしまう場面もあります 。そのため、私自身も一人の人間として、プライベートでもこの活動に参加しています 。

実は、立ち上げの時から小学生の長女を朝市の現場に連れていってお手伝いをさせていました 。長女が地域の人にかわいがられ、楽しそうに過ごす姿を見て 、下の子たちも「楽しそうだぞ」と一緒に行きたがるようになり 、今では家族ぐるみでこの活動を楽しんでいます 。

Q.実行委員会の方向性がばらばらにならないようにするには、どうすればよいのでしょうか?

大切にしているのは、行政や私自身が「こうしてください」と言いすぎないことです。

もちろん、取り組みが本来の目的から大きく外れそうなときには、「他の地域ではこうしていますよ」と事例を紹介したり、必要なアドバイスをしたりすることはあります。しかし、行政が主導しすぎて指示を出してしまうと、なかなか活動が続かなくなったり、参加者の主体性やモチベーションが下がったりしてしまいます。

実は、これまでにスクールで提案されたチームの中には、方向性の違いによって解散してしまったり、途中で辞めてしまったりしたケースもありました。すべてがうまくいくわけではありませんが、本日の事例は、今も活動が続いているケースとしてご紹介させていただきました。


ディスカッションでは、学校との連携について話が広がりました。登壇者からの回答にとどまらず、行政の担当者からの投げかけに対してフロアの先生方が複数名回答するなど、学校現場の実態に即した議論が大いに盛り上がりました。 

Q.行政の目線から、学校やクラス、授業といった大きな単位で動いてもらうのは、スケジュール調整や現場の負担を考えると難しいと感じています。一方で、地域としてはもっと関わりを持ちたいのですが、どのくらいの規模やタイミングであればスムーズな入り口になるでしょうか。 

この質問については、次に示すように、参加者の様々な実践事例や経験談が寄せられました。

【参加者の先生方より】

  • 「学校側のニーズを起点にすれば、学年単位でもスムーズに連携できる」 小学校6年生の『総合的な学習の時間』での事例ですが、市役所の担当課の方々を学校にお招きし、地域の現状や課題について講義をしていただきました。学校側に「これを学びたい、解決したい」という明確な目的さえあれば、学年単位のような大きな規模であっても、自然と地域を巻き込んだ連携が成立しやすいと感じています。
  • 「地域連携に積極的な先生ばかりではない」というリアルな声 関心はあっても、具体的に誰にどうアプローチすればよいか分からないという先生も多いのが現実です。日々の業務に追われる中で、自らアンテナを張って地域の活動に飛び込むだけの余裕が現場にないのではと感じる面もあります。
  • 「学校の置かれた周辺環境によって、地域連携の格差が大きい」という指摘 すべての学校の近くに商店街や協力的な企業があるわけではありません。一律の形を求めるのではなく、それぞれの学校や地域特性に応じた柔軟な関わり方を考えていく必要があると感じます。

行政と学校の連携には様々な課題があることが窺えましたが、学校側の目的意識や地域の特性に応じて、柔軟にコミュニケーションをとることがポイントになるようです。

Q.地域の活動を学校に知ってもらうには、どうすればよいのでしょうか?

以前は学校を通じて紙のチラシを一括配布できましたが、近年は教員の負担軽減などのルールにより制限されるようになりました。

かといって、デジタル配信に切り替えても、今度は大量の情報の中に埋もれてしまうというジレンマがあります。

地域の魅力的な活動をそもそも先生方に知ってもらう機会自体が少なくなっている現状をどう打破し、双方をどうマッチングさせていくかが今後の大きな課題だと感じています。

Q.高校生と地域が連携する事例には、どのようなものがありますか?

市原市青葉台では、地域の町会協議会と高校が連携し、高校生が作成した新聞を町会協議会のホームページに掲載したり、高校生と一緒に空き店舗をDIYしてカフェを運営したりしている事例があります。

地域にとっては、高校生の力を借りることで新しい動きが生まれますし、高校生にとっては、地域の中で自分の役割を持ち、社会と関わる貴重な経験になります。

一方で、最初に大きな熱量で立ち上がった取り組みも、続けていくのが難しい場面も出てきます。高校生自身の日常が忙しすぎるという問題もあります。

「立ち上げること」以上に難しいのは「続ける仕組みをつくること」です。そのためには、学校、地域、行政だけでなく、大学や企業など、外部の力をうまく組み合わせていく必要があると考えています。

Q.まちづくりにおいて、「お金」や「収益」はどのように考えればよいのでしょうか?

まちづくりや公共的な活動というと、「無償で行うもの」「誰かが利益を得てはいけないもの」と考えられがちです。 しかし、活動を継続するためには、資金が必要です。ボランティアだけでは続かないこともあります。

地域課題を解決するためには、自立した事業をつくり、きちんと収益を得ることも大切です。 人口減少や財政の厳しさが進む中では、地域の中で事業を生み出し、持続可能な形で活動を続けていくことが必要になります。 

「公共」と「収益」は対立するものではなく、活動を続けるためにどう設計するかが問われていると思います。

Q.学校教育の中で、子どもたちが「お金を稼ぐ」活動をしてもよいのでしょうか?

学校現場に関わる参加者からも、さまざまな事例が紹介されました。

【参加者の先生方より】

  • 高校の文化祭の例:高校では、文化祭で販売活動を行っても、利益は生徒会費に入れたり、寄付したりすることが一般的です。
  • 農業高校の例:農業科のある高校では、地域に農作物を販売し、その売上収入を学校の経費に充てることもあります。 
  • 小学校の実践例:小学校でも、授業で栽培したサツマイモを販売したり、子どもたちが作った作品を保護者に購入してもらったりする実践があります。

大切なのは、お金を扱うことを避けるのではなく、「何のために売るのか」「得た利益をどう使うのか」を子どもたち自身が考えることだという意見も出ました。

利益が出た場合、そのお金はどう扱えばよいのか

利益の扱いについて、藤川教授より、以下のような指摘もありました。

「学校にお金が入ってくること自体は、決して否定されるものではありません。しかし、そこで得られた利益を自分たちだけで、私的な利益として扱うのは適切ではないと考えています。学校という場は税金や地域のご支援によって成り立っている公共的な場だからです。

一つ重要なのは、お金には『人と人を結びつける媒介』という機能がある点です。お金が動くからこそ、地域の人と子どもたちとの間に確かなつながりが生まれます。

むしろ、そこからお金を排除してしまうと、持続的な関係づくりは難しくなってしまいます。だからこそ、教育現場でお金をいたずらにタブー視せず、お金がうまく回る仕組みを子どもたちの学習に取り入れた方が、活動も持続しやすくなるのではと考えます。」

まちづくりの考え方を、学校づくりに生かす

「行政を学校に読み替えると、まちづくりの考え方は学校づくりにも生かせるのではないか」という議論も起こりました。

ある先生からは、学校の中庭をリノベーションする実践構想が紹介されました。
普段あまり使われていない中庭に、子どもたちがベンチなどを配置し、どのように人の動きが変わるのかを検証するというものです。

さらに、AIカメラを用いて人の動きをヒートマップとして可視化し、子どもたちが「どこに置けば人が集まるのか」「どうすれば過ごしやすい空間になるのか」を考える計画もあるそうです。

これは、まさに学校の中に「まちづくり」の視点を取り入れる実践です。

子どもたちにとって、学校は最も身近な社会の一つです。
その学校を自分たちの手でよりよくしていく経験は、将来、地域や社会をよりよくしていく学びにもつながるはずだという意見があがりました。


まとめ(理事長·藤川教授)

研究会の最後に藤川教授は、 

「人口が増加している時代であれば、それぞれのセクションで頑張っていればよかったかもしれません。しかし、これから人口が減少していくなかで、社会をどうつなげていくかというと、やはり連携が非常に重要になってくるように思います。

学校教育においても、学校だけでやれる時代はもう終わりつつあるのではないでしょうか。

ですので、いろいろな人と手を組み、力を借りつつ、子どもたちも地域に貢献するという双方向の互恵関係のようなものを作っていかないと、学校も地域も生き残れないのではと感じます。

本日の研究会を通して、学校にまちづくりの発想を取り入れ、立場を超えて融合しながら連携していくという、一つの大きなヒントをいただいたと思っております。このようなテーマも取り上げながら、実践につなげていきたいと思います。」

と話を結びました。


今回の研究会では、公民連携によるまちづくりの具体例を通じて、学校と地域が単に協力するだけでなく、双方向に貢献する「探究的な学び」の可能性について深く考える機会となりました。

地域の大人が探究学習にボランティアとして協力するのではなく、学校や子どもたちが探究学習を通して、「社会の一員」としてまちづくりに参加していくという形は、非常に新鮮に感じました。

子どもたちが、自身が住んでいる地域への愛着を育めるような企画、イベント、生活環境があることは、とても魅力的に映ります。一方で、関心の高い一部の児童生徒ではなく「教室・学校単位」で、しかも用意された範囲の授業や課題ではなく、本物の地域課題に挑むとなると…

学校の先生方が実践に尻込みしてしまう気持ちもよく分かります。リアルな実践に伴う数々の想定外や準備の大変さは、日々の子育ての経験からも容易に想像ができるからです(笑)。

それこそ、学校のみに任せるのではなく、家庭が学校教育へ参加することや、学校の先生方の時間的余裕の確保など、現状では、学校単位で、子どもたちがまちづくりの一員として探究活動を行うには、クリアすべきネック(課題)も多く存在するとも感じました。

だからこそ、これらのハードルをどう乗り越えていくのか、さまざまな実践例に注目しつつ、ACEとしてどのような支援や活動が可能なのか、私たちも真摯に考えていきたいと思います。

最後になりましたが、ご登壇いただいた三澤さん、そしてご参加いただいた皆さま、ありがとうございました。


千葉授業づくり研究会の参加方法

千葉授業づくり研究会にはどなたでも参加できます。

興味がある方は、こちらの開催情報をチェックしてくださいね!Zoomを用いたオンライン配信による参加もできるので、遠方の方も大歓迎です。

【執筆担当 古谷成司(研究会担当・ディスカッション部分執筆)、篠崎実穂(広報)】

生成AI時代のSNSの安全な利用と情報モラル教育

 〜子どもたちをめぐる最新動向と、学校・家庭・SNS事業者の役割を考える〜

2026年4月22日(水)、本年度第1回目となる第175回「千葉授業づくり研究会」を開催いたしました。今回のテーマは「生成AI時代のSNSの安全利用と情報モラル教育 〜子どもたちをめぐる最新動向と、学校・家庭・SNS事業者の役割を考える〜」です。

生成AIの普及で情報の生成・拡大のあり方が大きく変わるなか、子どもたちがどうすれば安全にSNSを利用できるのか。そして、その力をどう育てるかは、今の教育現場や家庭にとって本当に大切な課題になっています。

それを受け、今回の研究会では、Instagramなどを運営するMeta日本法人(Facebook Japan、以下Meta)の栗原さあやさんにお越しいただきました。世の中の最新のデジタル環境に精通されているMetaと弊会(ACE)は、これまでも出張授業「みんなのデジタル教室」や、VR(バーチャルリアリティ)教員研修会など、継続して連携させていただいています。

当日は、Metaが進めている安全対策の最新情報や、新しく始まった「ティーンアカウント」にどのような思いが込められているのかなど、詳しくお話しいただきました。学校関係者や保護者など、子どもたちとSNSとの関係や安全な使い方に関心のある方は必見です!ぜひ、ご一読ください。


理事長・藤川教授によるメッセージ

はじめに、弊会理事長の藤川大祐教授(千葉大学大学院教育学研究院長)が登壇。20年にわたり、この問題に携わってきた経験を交えてお話がありました。

「SNSの歴史を振り返ると、2007年頃から普及が始まり、2013年頃のスマホの爆発的な普及とともにFacebookやTwitterが定着しました。その後、InstagramやTikTok、YouTubeなど、動画や写真を中心とした今の形へと大きく広がってきた流れがあります。

現在、世界中で議論されているのは、SNSの長時間利用や犯罪被害、そしてメンタルヘルスへの深刻な影響です。私自身、2005年頃に警察庁が初めて設置した会議の委員を務めて以来、約20年にわたり国のレベルでこの問題に関わってきましたが、今、状況はかつてない『新たな局面』を迎えていると感じています。

オーストラリアやフランスでの法規制、日本でのこども家庭庁による議論など、世界情勢も大きく変化しています。こうした中、Metaが他社に先駆けて導入した『ティーンアカウント』のように、事業者が若い世代の安全を守る本格的な仕組みを整えることは非常に重要です。

事業者が自らの責務を果たす一方で、私たち教育側は何をすべきなのか。これまでの『ネットから遠ざける』といった議論から一歩進み、それぞれの役割を整理した上で、どう子どもたちを支え導くか。今日は本音で、かつ率直に議論を深めたいと思います。」


ご講演:青少年の安全を守るSNSの仕組み(Meta・栗原さま)

続いて、Meta日本法人の公共政策本部で、ネット上の安全対策やリテラシー教育を担当されている栗原さあやさんにお話しいただきました 。栗原さんは、政府や自治体、NPOや学校関係者と連携しながら、子どもたちのネット上の安全や、リテラシー教育の普及に日々力を注いでいらっしゃいます 。

今回の講演テーマは、『青少年保護の取り組みについて』 。Metaがプラットフォームとして何よりも大切にしている、「10代の利用者に、安全で年齢に合った体験を届ける」という目標を、実際の機能にどのように反映させているのか 。最新の設計思想や具体的な仕組みについて、詳しく解説していただきました。

1.安全の土台「コミュニティ規定」とAI技術

SNSが子どもたちの生活に深く浸透し、日々当たり前のように使われている今、そこには新しい関心事の発見や、多様なつながりといったポジティブな側面が数多くあります。その一方で、利用に伴う新たな課題が浮き彫りになっていることもまた事実です。

その安全な環境を支える「土台」としてまず紹介されたのが、すべてのサービスの根底にある「コミュニティ規定」です。この「コミュニティ規定」は、インターネットで一般公開されており、どなたでも確認することができます。

「コミュニティ規定」は、FacebookやInstagram等において、コンテンツとして「何が認められ、何が認められないか」の共通ルールを定めたものです。テクノロジーや人権の専門家からの助言に基づいて策定されており、全世界で一貫して適用されます。ルールに違反した場合には、投稿の削除やアカウントの停止といった措置が取られます。

栗原さんは、この規定について「ルールをいかに実効性のあるものにするかが大切だ」と話され、通常の報告機能による監視に加えて稼働しているという、最新のAI技術を活用した取り組みについても解説しました。その内容について以下に紹介します。

  • AIが自動で見つける: 膨大な投稿を人の目だけで確認するのは限界があるため、利用者から報告が来る前に、AI(機械学習)を用いて違反投稿を能動的に見つけ出しています 。
  • 子どもを守る: 特に子どもに害がある深刻な投稿(性的搾取など)については、誰の目にも触れる前に、AIなどが自動でキャッチし対処しています(2025年10-12月には、人々からの報告前に97.3%の児童の性的搾取コンテンツを削除) 。
  • 怪しい動きをチェック: データの分析などにより、アカウント作成直後に面識のない多くの子どもたちにリクエストを送るような「怪しい挙動」をシグナルとして検知し、未然に防ぐ工夫もされています 。

2.「Instagramのティーンアカウント」とは

続いて、Metaの事前リサーチに基づき、多くの保護者が懸念を持っているとされた3つの点。

子どもたちがSNS上で「誰とやり取りしているか」「どんな内容を見ているか」「利用時間は?」といった不安に直接応えるために開発された「ティーンアカウント」を紹介しました 。会場のみなさんに伺うと、ティーンアカウントの認知度は3割程度の様子です。

こちらは、保護者の見守りのもとで安全にInstagramを利用できるよう、Instagramが利用可能な13歳から17歳の子どもたちにおいては、初期設定において自動的に設定がなされるものです。

日本では2025年1月から導入され、既設アカウントを含む全対象者が移行済みです。

13歳から17歳の中でも設定を緩和する方法などには違いがあり、年齢によるニーズの変化も考慮した仕様になっています。

  • 知らない人に見せない: 13歳から15歳の子どものアカウントは自動的に「非公開」になります 。フォロワー以外は投稿を見られず、新しいフォローリクエストも都度承認が必要です 。
  • DM(メッセージ)の制限: 子どもがフォローしている人や、既につながっている相手からしかDMを受け取れない設定になっています 。
  • ふさわしくない内容を抑える:「不適切なコンテンツ」が表示されにくく設定されています 。
  • 「非表示ワード」でトラブルの激化を防ぐ:いじめや誹謗中傷に使われる言葉を自動で隠す機能です。最大の特徴は、「書いた本人には見えていても、他の人には見えない」こと。削除やブロックで相手を逆上させるリスクを避け、加害者を刺激せずに被害者を守るための工夫です。標準設定のほか、自分で見たくない言葉を追加してカスタマイズすることも可能です。
  • 使いすぎの防止: 1日の利用が60分を超えるとアプリを閉じるよう通知が届くほか、保護者による時間制限も可能。また、夜10時から朝7時までは「スリープモード」が適用され、通知がミュートになります。
  • ライブ配信の制限、ヌード保護: 13歳〜15歳はライブ動画の配信が制限されるほか、DMにヌードと疑われる画像が含まれる場合に自動でぼかす「ヌード保護」機能も追加されています 。
  • 映画レーティングを参考にしたコンテンツ基準の導入: 保護者に理解しやすい基準として、13歳以上向けの映画レーティングを参考にコンテンツ表示を見直しており、過激な言葉遣いや危険な行為の投稿も制限するようポリシーを厳格化しています 。(米国等は導入済み。日本でも5月上旬から導入開始。)

こうした数々の安全機能について、栗原さんは「デフォルト(初期設定)」で自動的に適用されることの重要性を強調されていました。

背景にあるのは、日々多忙な時間を送る子どもたちや保護者、そして先生方への配慮です。多くのアプリを使いこなす中で、複雑な設定を一つひとつ手動で確認し、変更していくのは決して容易ではありません。

だからこそ、ユーザー側の操作を必要とせず、何もしなくても最初から安全な設定がオンになっていること。この「最初から守られている状態」こそが重要であるという考えに基づき、機能開発を進めているとのことでした。

年齢詐称を防ぐための対策も徹底されています。AIによる動画での年齢推定や、公的身分証明書の確認など、外部サービスも組み合わせた多角的な方法で、利用者の年齢を正しく判別する工夫がなされています。

現在、子どものスマートフォンには数十個ものアプリがインストールされていると言われており、保護者がそのすべてを個別に把握し、設定を管理し続けるのは現実的に非常に困難です。

こうした負担を解消するためには、個々のアプリ単位での対策だけでなく、スマートフォンの土台であるOS、アプリストアレベルで、一括して年齢確認や保護者の同意管理ができる仕組みが求められます。

栗原さんは、アプリごとの対策を徹底する一方で、業界全体でOSレベルの共通基盤を整えることが、結果として保護者の負担を減らし、より確実な子どもの保護につながるという点にも言及されました。

3.保護者による見守り(ペアレンタルコントロール)

保護者が子どものSNS利用により深く関わり、安心を見守るための「ペアレンタルコントロール(見守り機能)」についても詳しく紹介されました。こちらは、保護者のアカウントと子どものアカウントを連携させて使用する仕組みで、子どものプライバシーを尊重しながら、家庭ごとのルールに合わせて活用できる機能が整っています。

  • 設定の緩和には「保護者の承認」が必須 :13歳から15歳の子どもが、初期設定の安全制限を緩めようとする場合には、必ず保護者の承認が必要な仕組みになっています。
  • 対話を支える見守りツール :保護者は、子どもが過去1週間に誰とチャットをしたか(※プライバシー保護のためメッセージの内容自体は閲覧不可)や、現在のフォロー状況を確認できます。また、1日の利用時間に上限を設けるといったコントロールも可能です。

4.性的脅迫(セクストーション)から子どもを守るツール

さらに、万が一深刻なトラブルに直面してしまった際の具体的な救済策として、専用ツール「Take It Down(テイクイットダウン)」についても紹介されました。これは、Metaが支援する外部の専門プラットフォームで、望まない性的画像の拡散を未然に防ぐための仕組みです。

そもそも「セクストーション(性的脅迫)」とは、「セクシャル(性的)」と「エクストーション(強請・脅迫)」を組み合わせた言葉です。言葉巧みに送らせた裸の画像などを「ネットにばらまくぞ」と脅し、金銭やさらなる画像を要求する卑劣な犯罪を指します。

こうした脅迫に対し、「Take It Down」は以下のような仕組みで子どもたちの将来を守ります。

  • 一括で加盟アプリ上での拡散を防ぎ、以後ネットに公開される前に「先回り」してブロック: 拡散するおそれのある写真のデータを登録しておくことで、一括で加盟アプリ上での削除等の対処が行われ、犯人がその画像をFacebookやInstagramなどのTake It Downの加盟アプリにアップロードしようとした瞬間にシステムが検知し、公開される前に自動でブロックします。
  • 写真は送らず「デジタル指紋」だけで照合: 「自分の写真をどこかに送る(アップロードする)」必要は無く、写真の「デジタル指紋(ハッシュ値)」という記号だけを登録します。画像の内容を誰かに見られることなく、プライバシーを守ったまま、複数のSNSで拡散を止めることが可能です。
  • 啓発キャンペーンの実施: 技術的な対策と同時に、「もし被害に遭ってしまっても、悪いのはあなたではない」というメッセージを伝える啓発キャンペーンも実施されています。

前半のまとめ:講演を終えて

講演の最後に、栗原さんは次のように締めくくりました。

「SNSや生成AIにはリスクもありますが、リスクを最小限に抑えつつ、テクノロジーが持つポジティブな側面を最大限に引き出していきたいと考えています 。

多くの専門家の先生方が共通しておっしゃるのが、『まずは子どもの声に耳を傾けること』の大切さです 。トラブルが起きたとき、大人はどうしても『なぜこんなことになったのか』と原因を問い詰めてしまいがちですが、そうするとお子さんは心を閉ざしてしまいます 。

お子さんが安心して相談できる環境を、皆さまと一緒に作っていければと願っています 。」


ディスカッション

研究会の後半は、千葉授業づくり研究会では定番のディスカッションの時間です。最新の安全機能や世界的な動向をふまえ、学校・家庭・事業者がどう連携して子どもたちを支えるべきか、活発な議論が行われました。

ここからは、ディスカッションの内容を一部抜粋要約してご紹介します。

Q.いわゆる「裏アカ」や、生年月日を偽って登録することについて、プラットフォームではどのように対応していますか?

A.Instagramでアカウントを作成する時には、生年月日の入力が必要になります。

複数のアカウントを作ること自体はできますが、それぞれのアカウントで生年月日を入力する必要があります。13歳から17歳の利用者であれば、ティーンアカウントの対象になります。

生年月日を偽って登録している場合でも、閲覧しているコンテンツなど、利用状況に関する複数のシグナルから年齢に関する判断が行われる可能性があります。

また、趣味やコミュニティごとにアカウントを使い分けること自体は、必ずしも否定されているわけではありません。家族、友人、趣味のつながりなど、関係性に応じてアカウントを分ける使い方はあり得ます。

一方で、別のアカウントを使って悪口を書いたり、匿名性を利用して過激な発言をしたりするリスクもあります。そのため、複数アカウントの利用そのものよりも、それを悪用した誹謗中傷などをどう防ぐかが課題になります。

Q.ティーンアカウントはどのように導入され、どのように受け止められていますか?

A.2025年4月時点で、世界中のティーンアカウントの数は5400万を超えていました。

日本の13歳から17歳の利用者についても、ティーンアカウントへの移行がすでに完了しています。そのため、該当する年齢の利用者は、基本的にティーンアカウントを利用していることになります。

また、13歳から15歳のティーンアカウント利用者の97%が保護設定をデフォルトのままオンにしているという数値が出ています。このことから、保護設定は、子どもたちにとって強い抵抗があるわけではなく、自然に受け止められていると考えています。

Q.不適切なコンテンツを通報した後は、どのようなプロセスを経て対応がなされるのでしょうか?

A.通報されたコンテンツは、AIや人の目を用いて確認されます。

対応状況については、透明性レポートとして四半期ごとに公開されています。レポートでは、いじめや子どもの性的搾取など、カテゴリーごとの対応状況を見ることができます。ただし、日本だけの数字は個別には出ておらず、基本的には全世界の数字として公開されています。

一方で、通報されたコンテンツが必ず削除されるわけではありません。コミュニティ規定に違反しているかどうか判断が難しい、いわゆるグレーなコンテンツもあります。

また、著名人や政治家などに関する投稿では、表現の自由との関係から、判断の条件が異なる場合もあります。そのため、不快に感じるコンテンツであっても、規定に違反していなければ削除されないことがあります。

なお、誤って削除された場合には、異議申し立てができます。さらに、判断が難しいコンテンツについては、Metaとは別の第三者機関であるオーバーサイトボードが扱う場合もあります。オーバーサイトボードでは、有識者による議論やパブリックコメントなどを踏まえ、Metaに勧告を行う仕組みがあります。

また、通報以外の方法として、「非表示」機能もあります。Instagramでは、見たくないコンテンツを非表示にすることで、そのコンテンツが表示されなくなるだけでなく、似たようなコンテンツがなるべくおすすめに出ないように調整できます。

保護者からは、最初から保護機能が入っていることに安心感があるという声があります。一方で、家庭内での話し合いや、ペアレンタルコントロールを使った見守りについては、さらに認知を広げていく必要があります。

Q.学校教員です。SNSトラブルの指導で悩んでいます。例えば、子ども同士で不適切な動画を撮影・拡散してしまった場合、学校はどこまで指導してよいのでしょうか?

A.学校としてどこまで踏み込むべきかについては、非常に難しい問題です。

プラットフォーム側では、家庭で設定できる機能や、保護者向けの情報提供を行っています。一方で、保護者も忙しく、機能や設定を一つひとつ確認することが難しい場合があります。

ただいずれにしても、学校が家庭に対してどこまで強く求めるかについては、簡単に答えを出せる問題ではありません。

また、保護者の情報モラルへの関心や理解には大きな差があります。家庭でSNSやメッセージアプリの使い方をきちんと話し合っている保護者もいる一方で、そうすることが難しいご家庭もあると思います。

そのため、学校だけで対応を完結させるのではなく、家庭での話し合いを促すための資料や、保護者に届きやすい情報提供の方法を考えていく必要があります。

Q.保護者にSNSや情報モラルに関する情報を届けるには、どのような工夫が必要ですか?

A.デジタルリテラシーへの関心が高い家庭では、家庭内で一定のルールづくりや見守りが行われています。一方で全てのご家庭に知っていただくことはなかなか難しいという課題があります。

そのため、保護者会や入学説明会など、学校と保護者が接点を持つ機会で使える教材があるとよいのではないかという話がありました。特に、小学校から中学校へ進学する際の入学説明会は、多くの保護者が参加するため、スマートフォンやSNSの使い方について伝える機会として活用しやすいと考えられます。

また、忙しい保護者の方にもご関心を持っていただきやすいよう、短い動画や漫画形式のコンテンツなど、形式も工夫して伝える必要があります。

Metaでは実際に、ティーンアカウントの機能を30秒程度で紹介する動画や、保護者クリエイターと連携した発信も行われています。


ディスカッションの中では、学校の先生方へ安全対策の情報が届きにくいという課題も浮き彫りになりました 。また、総務省が行うデジタルポジティブアクションサイトから一括で各社・団体の教材にアクセスできることも紹介されました。

先生方が授業や指導で活用しやすいように情報を整理し、直面しているトラブルや悩みをキーワードとして入力すれば、現場で最適な教材が即座に提案されるような仕組みづくりも、今後の重要となってくるのではという意見も出ました 。 


まとめ(理事長・藤川教授)

研究会の締めくくりとして、理事長の藤川教授より、本日の議論を総括する挨拶がありました。

「今日の議論を通じて改めて感じたのは、SNSに対する『過度な規制』はマイナス面が大きいということです 。一律に禁止をしてしまえば、子どもたちの活動はかえって大人の目が届かない『闇』へと隠れてしまい、結果としてリスクを高めてしまいます 。私たちは子どもの権利を尊重し、守らなければなりません 。 

現在、オーストラリアなどでは非常に厳しい法規制が進んでいますが、日本はそれとは異なる道を模索すべきではないでしょうか 。問題を直視し、適切に対応しながら、安全な利用を促進しつつ権利も守られる。そうした日本ならではの形を、これからも様々な場面で議論し、形にしていければと思います 。」 


今回の研究会を通じ、立場を問わず子どもを支える大人に必要なのは、子どもの声に耳を傾ける姿勢と「対話」だと改めて感じました。

一方で、親としての葛藤も尽きません。中高生の娘がいるわが家でも、最近は学習に生成AIを使う場面が増え、スマホの使用時間について制限時間を延ばしたり、その流れでついSNSも見てしまったりと、時間の管理はより難しくなりました。

見守り機能についても、OSの違いによる連携のしにくさや、親側のアカウント作成が必要な点など、使いにくさを感じることがあります。また、子どもに問われてもフェイクを見抜くのが難しく、進化のスピードに親が追いつけているのかという不安も正直あります。こうした親子で模索している状況下で、トラブルに対応される先生方の負担は相当なものと想像します。

しかし、これまで子どもの自制心に頼るしかなかった部分が、今回のような技術の力で支援可能になってきていることに、解決への明るい兆しを感じました。私たちACEも、出張授業を通じて一人ひとりに寄り添い、安全で主体的な活用をサポートする活動に、より一層前向きに取り組んでまいります。

以上で、第175回千葉授業づくり研究会のレポートのご報告とします。ご講演いただきました栗原さん、そして参加者のみなさん、ありがとうございました。


千葉授業づくり研究会の参加方法

千葉授業づくり研究会にはどなたでも参加できます。

興味がある方は、こちらの開催情報をチェックしてくださいね!Zoomを用いたオンライン配信による参加もできるので、遠方の方も大歓迎です。

【執筆担当 岡野健人(研究会担当・ディスカッション部分執筆)、篠崎実穂(広報)】

2026年3月10日、Meta主催のラウンドテーブル「国内外の専門家と10代利用者の安全なSNS体験を考える」が港区にあるMeta東京オフィスにて開催されました。

ACEは2020年からMetaと協働し、中高生向けのデジタルリテラシー教育プログラム「みんなのデジタル教室」を全国に届けています。本イベントには、ACE理事長であり千葉大学大学院教育学研究院長である藤川大祐教授(以下、「藤川先生」)もパネリストとして登壇するということで、この日は職員5名で参加してきました。

「子どもたちのSNSとの向き合い方」については、当人たちやその保護者はもちろんのこと、教育関係者にとって避けては通れないトピックです。

また、最近オーストラリアで 16歳未満のSNS利用を規制する法律が制定されたことが大きな話題となり、社会全体でどう向き合っていくべきか国内外で議論が繰り広げられています。そんなホットな話題をテーマとした本イベントの様子をレポートできればと思います。

このイベントは、10代の利用者の安全なSNS体験について考える場として、こども家庭庁が実施する「令和8年春の安心ネット・新学期一斉行動」に合わせると共に、総務省が推進する官民連携プロジェクト「DIGITAL POSITIVE ACTION」の一環として展開されました。

当日のイベント詳細についてはMetaによる公式レポートをぜひご覧ください。

 国内外の専門家と10代利用者の安全なSNS体験を考えるラウンドテーブルを開催

◆◆ 規制ではなく「エンパワーメント」を ◆◆

イベントの幕開け、Metaのミア・ガーリック氏は、世界的な「SNS利用禁止」の議論に触れつつも、「最も根本的な解決策は制限ではなく、若者に安全な環境で学び、つながり、成長するためのツールを与える『エンパワーメント』にあります」と話しました。

そういった想いから誕生したのがInstagramの「ティーンアカウント」という取り組みだそうです。最大の特徴は、安全機能が最初から「デフォルト(初期設定)」で自動適用されていること。守られた環境の中でSNSを使い始められる仕組みになっています。

私たちが実施している「みんなのデジタル教室」の事後アンケートからは、生徒たちのリアルな現状が見えてきます。多くの生徒たちは「SNSで気をつけるべきこと」を知識としては理解しているものの、具体的にどう設定し、どう行動すべきかという「実践」の段階で足が止まっているという課題があります。こうした現状を鑑みると、利用する本人や保護者だけに安全利用の全責任を委ねることには限界があると言わざるを得ません。

だからこそ私たちは、今回の「ティーンアカウント」のように、事業者側が安全機能をデフォルト(初期設定)で組み込む仕組みを構築することは、教育現場にとっても極めて意義深いものだと捉えています。あらかじめ安全な土台が整っていれば、子どもや保護者、そして私たち教育関係者は、「どうリスクを避けるか」という守りの議論に終始することなく、「機能をどう生かして安全に使いこなすか」という、より前向きな利活用の対話に注力できるようになるからです。

◆◆ 若者の声を主役に「PROJECT ROCKET」 ◆◆

続いて、オーストラリアから来日したルーシー・トーマス氏が代表を務める、いじめ防止教育団体「PROJECT ROCKET」の紹介がありました。

この活動の最大の特徴は、ファシリテーターが学生と年齢の近い若者であること。専門家ではなく「仲間」としての信頼関係があるからこそ、若者たちの主体的な変革が促されるのだそうです。最近では、国会の公聴会やメディア出演などを通じて、実際の政策決定の場にも若者の声を届けているといいます。

「若者は社会課題を解決していくためのパートナーである」というトーマス氏の言葉がとても印象的でした。若者のためにと言いながら、肝心の若者が不在のまま議論が進んでしまうことも少なくありません。彼らの声を主役にした活動が社会を変えていく、そんな力強い実例に触れられた貴重な時間となりました。

◆◆ パネルディスカッション:

現場のリアルとこれからの課題 ◆◆

イベント後半は、Metaの栗原氏をモデレーターに、トーマス氏と藤川先生によるパネルディスカッションが行われました。国内外のSNSを取り巻く「今」や、家庭・教育現場での向き合い方など、それぞれの立場からの深い知見が交わされ、非常に興味深い議論が繰り広げられました。

その中から、特に私たちが注目したポイントをピックアップしてご紹介します。

Q. オーストラリアのSNS禁止法、現地の受け止めは?

トーマス氏によると、現地でも様々な受け止め方があるそうです。 保護者の間では、子どもの安全のために歓迎する声がある一方で、「自己表現やコミュニティとのつながり、教育の機会を奪ってしまうのでは?」と過剰な規制を心配する声も根強くあるようです。

また、当事者である10代の子どもたちは、法の趣旨は理解しつつも「決まるプロセスに自分たちの意見が反映されていない」と、不満や喪失感を抱いている子も少なくないとのこと。海外の友人との交流や、大切な相談の場を失ってしまうという課題も浮き彫りになっているそうです。

Q. 日本のSNS規制、今後はどうあるべき?

藤川先生は、2007年から続く「青少年インターネット環境整備法」による取り組みが、スマホの普及によって形骸化している点を指摘。今の時代に合った再構築が必要だと訴えました。 また、「こども基本法」はあるものの、若者の意見が十分に政策に反映されていないことにも触れ、当事者の声をしっかり組み込む仕組み作りを強調しました。

これに対しトーマス氏も、一律の禁止は「大人になってから突然デジタルの荒波に放り出されるリスク」を生むと同意。一方的な排除ではなく、事業者が協業してスキルや経験を積めるようサポートしていくことが重要だと話しました。

Q. 家庭では、どう子どもと関わればいい?

藤川先生は、トラブルが急増しやすい「中学1年生前後」の時期に注目。家庭内だけでなく、保護者同士や学校とも連携した環境づくりを提案しました。大人が違法行為のリスクをしっかり伝える責任を持つ一方で、それ以外の部分では子どもの主体性を尊重し、丁寧に話し合っていくことが大切だといいます。

トーマス氏が強調したのは、根底にある「信頼関係」です。問題が起きてから動くのではなく、日頃から子どもが楽しんでいる世界に大人が好奇心を持って関わることが第一歩。「それ楽しそうだね、教えて」というリスペクトのある姿勢が、思春期の難しい時期でもオープンに対話できる土壌を育んでくれるはず、と保護者に向け、心強いアドバイスを送ってくれました。

◆◆ 質疑応答◆◆

最後は参加者の皆さんからの質疑応答タイムです。こちらも印象的だったトピックをご紹介します。

Q. 「中毒性のある動画」への対策は?

海外でも話題の「無限スクロール」や「自動再生」といった機能。 Meta側は、日常生活に支障をきたす可能性を考慮し、利用時間のリマインダーやスリープモードなどの対策をすでに導入している現状を説明。 これに対し藤川先生は、「子どものネット利用時間が倍増している」という深刻な実態を指摘しました。アルゴリズムの影響も大きいため、Metaだけでなく、サービスを提供するすべての事業者が一定の基準で利用を抑制する仕組みを整えてほしい、と強く訴えました。

Q. なぜ世界中で「一律規制」の流れになっているの?

トーマス氏は、かつての「みんなで責任を分かち合おう」という前向きな議論が、今は「誰のせいでこうなったか」という責任追及に変わってしまっていると指摘しました。 もう一度、社会全体で役割を見つめ直すべき。その点、日本は若者の視点を大切にした丁寧な議論ができる位置にあり、世界的なリーダーになれるはずだ、と期待を寄せていました。

藤川先生も、これまで学校や保護者が過度な負担を強いられてきた実態に触れ、「ティーンアカウントのような仕組みがもっと早くから普及していれば、現場の状況も違っていたかもしれない」と、事業者側のさらなる主体的なアクションに期待を寄せてコメントしました。

◆◆ あとがき◆◆

今回のラウンドテーブルを通じて改めて実感したのは、10代のSNS利用を支えるためには、「周りの大人の温かい関わり」と「国や事業者による仕組みのサポート」が、どちらも欠かせないということです。

もちろん、子どもをリスクから遠ざけるための制限は必要です。しかし、それが「一方的な禁止」に偏りすぎてしまえば、将来子どもたちが自分の身を守り、道具を使いこなすための大切なスキルを学ぶ機会を奪うことにもなりかねません。子どもを単に「守られる対象」として縛るのではなく、システムの仕組みで優しく制御しつつ、段階的にデジタル環境に慣れ、主体的にスキルを身につけていける環境を社会全体で整えていくことが重要だと強く感じました。

また、議論の中で「子どもたちの声」が置き去りにされがちだという指摘も印象的でした。大人の都合だけでルールを決めてしまう風潮は、子どもたちの主体性を削ぎ、結果として「自分でリスクを判断できずトラブルに巻き込まれる」という悪循環を生んでしまうかもしれません。子どもたちが「どう活用すれば、より自分らしく生きられるか」を自ら考え、アクションしていく姿を私たちは応援していきたいです。

私たちがお届けしている「みんなのデジタル教室」では、SNSのネガティブな側面を伝えるだけでなく、その先にあるポジティブな可能性を大切にしたいという思いで日々実践を重ねています。教育現場の先生方からは、SNSトラブルへの指導に対する戸惑いや、「リスクとその対策を重点的に話してほしい」という切実な声を伺うことも少なくありません。私たちの授業が、先生や保護者の皆さんが子どもたちと一歩踏み込んだ「対話」を始めるきっかけになれば、これほど嬉しいことはありません。

本イベントで得た数々の気づきを糧に、これからも最新の技術動向にアンテナを張り続けてまいります。めまぐるしく変化するデジタルの世界において、子どもたちが安全に、そして自分らしく歩んでいけるよう、これからも全力でサポートを続けていきたいと思います。

(執筆者:脇坂亜希)

千葉大学教育学部・藤川大祐教授の研究室と共にACEが開催している「千葉授業づくり研究会」は、年間を通じて(年7回)、教育界に留まらない幅広い知見を取り入れる研究会です。

今話題の業界や教育トピックスに関わる企業の方など、その道の専門家やプロを講師としてお迎えし、専門的な講話の提供と、それを教育に活かすための参加者によるディスカッションを実施しています。

その「千葉授業づくり研究会」では、千葉大学教育学部および千葉県教育委員会との連携のもと、高校生インターンシップ参加者の皆さまを受け入れました。令和5年度から継続しているこの連携イベント。今年度は11月開催の第173回研究会にて実施いたしました。

インターンシップに参加してくれた高校生は、将来、教員になることに関心のある皆さんです。

私たちは、参加する高校生たちに、研究会運営への参加を通じて、「教員になっても学び続ける現役教員の姿」や、「新しい教育を追求する大人の熱意」を直接感じてもらい、また、教育学部の大学生との交流が、高校生たちの将来のイメージを具体的にする機会となることを期待し、受け入れを行っています。

さまざまなテーマで実施している研究会ですが、11月研究会のテーマは「探究的な学びに活かす『街歩き×宝探し』を考える」。

国内で「街歩き×宝探し」のユニークな事業を展開する株式会社タカラッシュ様を講師にお招きし、学校で実施されている地域課題の探究学習を、より創造的で魅力的なものにするためのヒントを探りました。謎解きというテーマは、高校生にとっても関心が高く、イメージしやすい内容です。

このブログでは、高校生インターンの皆さんの活動の様子をレポートします。

(研究会自体の詳細レポートはコチラに紹介しています)


◆研究会でのお仕事と参加の様子

1. イベント運営をサポート!

研究会準備のため、研究会開始前に集まってくれた高校生の皆さん。千葉県各地から集まってくれた初めて会う高校生同士でしたが、互いに声を掛けあい、会場はすぐに温かい雰囲気になりました。研究会がスムーズに進むように、準備や片付けといったお仕事で運営にご協力いただきました。

2. 研究会への参加

講演中は、他の参加者の方々と同じく、一参加者として研究会に参加。

後半のディスカッションでも、臆することなく質問する姿は頼もしく、私たちも嬉しくなりました。

教員志望であるインターン参加者の一人は、大学では地域活性化と謎解きのゼミに入りたいと考えているとのこと。そこで、タカラッシュの講師へ、「地域の方々と話し合う時に大切にしていること」を質問していました。

タカラッシュの講師は

「自治体との雑談を大切にしていて、特に、ロケハンの時など、地域の方々が、本当はここをこだわって欲しかったなどの心残りが無いようにコミュニケーションに注力しています。」というお話や、

「目標の共有を大切にしています。楽しい謎も大切だけど、100人来てもらいたいなど、指標を一緒に定めています。また、上手くいかなかったらすぐ悪いということではなく、改善点を探ったり共有化したりして、次に活かすようにしています。」と、真摯にお返事してくださいました。

この高校生にとって、このインターンの参加がとても貴重な機会になったのでは?と感じ、気持ちが熱くなりました。

◆千葉大学教育学部と企業教育研究会(ACE)を紹介

研究会活動の時間とは別に、千葉大学教育学部とACEを紹介する時間も設けました。

1.千葉大学教育学部長(ACE理事である藤川教授)によるキャンパスツアー

千葉大学教育学部長の藤川大祐教授が、なんと自らの案内でキャンパスを紹介してくださいました。

千葉大学の敷地は広く、教育学部では、各教科に関わる研究室や建物がある他、隣接して教育学部附属の小学校・中学校があることは珍しい特徴の一つであることが紹介されました。立地を活かして大学の授業(90分)の時間内に隣接の附属小中学校で授業実践をすることもあるなど、研究と共にある大学の学びについて教えていただきました。

また、この日は土曜日でしたが、構内を回っていると教職大学院の講義をしている教室が…

講義を実施されていた伊藤裕志特任教授は快く高校生を教室内に招き入れて下さり、「教職大学院の学生は現職の教員が多いので、大学教員が教えるというよりも、協議を通して互いに学び合う活動を大切にしています。」と説明してくださいました。

さらに、教育学部には教員を目指す大学生の支援として「教職サポートルーム」があり、退職した元教員の方に日中相談ができ、教員採用試験に向け、模擬授業の練習などに付き添ってくれる体制があることも説明いただきました。

大学の先生方から直接、教育学部の役割や、教員を目指す皆さんに向けた期待のメッセージをいただき、大学のキャンパスを体感できたことは、大きな刺激になったことと思います。

2.ACEの事務所見学、大学生や職員との交流タイム

企業と連携した教育支援を実施しているACEの団体説明や授業づくり、オススメ書籍などについての紹介と、ACEに所属する学生スタッフでもある教育学部の大学生や、職員との交流の時間も設けました。

高校生インターンのみなさんにとって、将来や、教員、教育学部への進学に対して不安や疑問が和らぎ、より教育に対して関心が高まる時間になっていたら嬉しいです。

参加高校生の感想

参加した高校生の皆さんからいただいた感想を一部抜粋して紹介します。

・企業の人などの講演を聞けてとても面白かった。難しい質問がきても、すぐに想像以上の回答をしていて、そのような人になりたいと思った。その裏にはたくさんの知識があるからこそ上手く言語化出来ているのだと思った。
 
・教育に強い思いを持つ方々のお話を聞いて、教師だけではなくこんな教育を受ける側のことをたくさん考え、時には研究して教育というものをより良くしていこう、新しくしていこうとしていく人達が凄くかっこいいなと思いました!
 
・自分ではなかなか知ることが出来ない日常のエンタメをどう教育に活かしていくべきかという観点から学びを深めることができた。
 
・今まで教員としての目線でしか将来を考えたことがなかったのですが、宝探しを作るという目線で教員の仕事との共通性を考えることができ、視野が広がったと感じます。
 
・普段の自分が受けている授業などを違った視点から見るきっかけになったので、よかった。
 
・進学先では観光映像や地域活性化事業を専攻します。元々教員志望で、教育に関わって行きたいと今でも考えています。今回の企画を通してより一層教育に関わっていたいと思いました。企業の方や教育現場で働いている現役の先生とお話しできたことは貴重な場だと思います。
 
・授業をよりよくしようと企業が活動してくれていたことを知ってもっと他の活動も知っていきたいなと思いました。
・千葉大学教育学部がどのようなつくりになっているのか、またどんなことをしていてどんな雰囲気なのか、どんな魅力があるのかを見学の中で藤川先生や教育学部の学生にフラットな雰囲気で聞くことができた。
 
・現役の中学校教員の方から話を聞いたり、授業づくりの新しい見方を知れてとても良い経験になったと思います!
 
・自分のなかにあった固定観念が大きく変わった。特に大人同士のディスカッションって何か堅苦しいというか、すごく真面目なイメージがあったが、実際はふとした雑談も交えられてて、むしろその雑談からひらめきやアイデアが生まれるんだなと知れた。こういった企画には今まで参加したことがなかった身だが、とても勉強になったし、楽しかった。ぜひまた機会があればこういったイベントや企画に参加してみようと思えました。

一生懸命活動してくれた高校生インターンの皆さんありがとうございました。

未来の教育を担う皆さんの今後のご活躍を、ACE一同、楽しみにしています!

2025年10月18日(土)に第172回「千葉授業づくり研究会」が開催されました。今回のテーマは「テクノロジーで拓く、誰もが暮らしやすい社会 〜視覚障害者支援の最前線から考える〜」コンピュータサイエンス研究所 営業企画・企画開発統括部長 髙田 将平さんを講師にお招きして講演いただきました。

  

今回の研究会では、株式会社コンピュータサイエンス研究所の先進的な取り組みをご紹介いただくとともに、視覚に障害のある方の歩行を支援するアプリ『EyeNavi』を参加者で実際に体験しました。『EyeNavi』はAIの画像認識技術を用いて、進路上の障害物や信号の色などを検出して、音声で情報を伝えるアプリです。

  

講演の中では『EyeNavi』を用いた千葉大学との連携や東京都立大学などの事例もたくさんご紹介いただきました。

  

本レポートでは、講演会やアプリの体験会の様子を詳しくお伝えします。先進的な福祉教育やAI技術の活用に関心のある方は、ぜひ最後までお読みください。

前職では位置情報サービス制作。留学、起業などを経て、視覚障がい者歩行支援アプリ制作へ

髙田 将平さん

今回の研究会では、株式会社コンピュータサイエンス研究所 営業企画・企画開発統括部長 髙田 将平さんに講演いただきました。

  

髙田さんは、前職の株式会社ゼンリンデータコムでは位置情報サービス制作を担当され、また、退職後にはアイルランド留学や起業経験、インド・バンガロールのIT企業にて内部統制に従事していたご経験もあるそうです。

  

その後、2015年に株式会社コンピュータサイエンス研究所に参画した髙田さん。現在は、視覚障がい者歩行支援アプリ『EyeNavi』に関わり、国の支援事業の統括・プロマネを担当しています。

  

講演の前半では、視覚障がい者が抱える課題やアプリ『EyeNavi』の説明をしていただきました。

ヘルパーの利用制限や盲導犬の限界。視覚障がい者が抱える課題をテクノロジーで解決

髙田さんは講演の前半で、視覚障がい者を取り巻く課題についてお話くださいました。

  

まず、移動のためのヘルパー利用についてです。視覚障がい者が家族ではないヘルパーと外出する際には、事前に予約が必要で、さらに利用時間にも制限があります。このため、視覚障がい者にとって、健常者のように「今すぐ出かけたい」と思ったときに外出することは困難です。加えて、ヘルパーは通勤や通学といった日常的な移動の際に使用できないというルールもあります。

  

また、視覚障がい者が利用する盲導犬にも課題があります。盲導犬の仕事は、「角を教える」「段差を教える」「障害物を教える」の3つに限定されています。そのため、たとえば「コンビニまで」と指示しても道案内はできません。盲導犬ユーザーは、目的地までの道のりをすべて頭の中で把握しておく必要があるのです。

  
さらに、盲導犬は歩行者信号の色を判別できません。「周りの人が横断歩道を渡っているから安全」という状況判断をするため、信号の色を確実に認識できるわけではないのです。

  

2025年3月31日現在で実働している盲導犬は768頭ですが、盲導犬を希望して待機している人は3,000人ほどいます。盲導犬は1頭あたり訓練に2~3年かかり、訓練費用に500万円ほどかかるので、希望数の確保が難しい現状があります。

  

また、盲導犬は大切な歩行パートナーですが、活動期間はおおむね4〜5年とされ、引退後には新しい犬との出会いが必要になります。このほか、盲導犬の日々の世話が必要であることや、すべての店で盲導犬を連れて入れるわけではない課題があることも踏まえると、視覚がい者の方々が気軽に外出できるという状態にはまだほど遠いといえるでしょう。

AIがカメラで信号の色を判断!スマホ用アプリ『EyeNavi』とは

このように、現状課題が多い視覚障がい者の外出について、力強くサポートするのが、スマートフォン用アプリ『EyeNavi』です。

『EyeNavi』は、スマートフォンのカメラを通してAIが20種類の物体を瞬時に判断し音声出力して、ユーザーに伝えてくれるアプリです。歩行時には、ネックポーチにiPhoneを入れてカメラを進行方向に向けることが推奨されています。アプリは1秒間に複数回の処理を行っているため、多少スマホのブレがあっても問題なく動作するそうです。


このアプリは特に信号機の色を判別できる機能が画期的で、盲導犬の課題を克服してくれます。全盲の方だけでなく、弱視や色弱の方にも役立ちます。

また、『EyeNavi』には、外出時のトラブルに備える「歩行レコーダー機能」が搭載されています。これは、自動車のドライブレコーダーのように歩行中の映像を自動で保存する機能です。これにより、外出先で何かの被害に遭った際などには記録された映像を支援者に確認してもらうことができます。今までは、残念ながらいたずらを受けるなどの被害があっても、状況が分からず泣き寝入りせざるを得ないことも多かったそうです。

  

『EyeNavi』は、視覚障がい者の約8割がiPhoneを利用しているという背景から、iPhoneのみに対応しています。

  

『EyeNavi』は、基本機能を無料で提供しており、協賛企業からの支援で運営されています。しかし、安定的な開発のために、月額1,000円のプレミアム機能も搭載されました。プレミアム機能では、ChatGPTが連動し、撮影した写真から「入口はどこにあるか」「レストランのメニューを読み上げてほしい」といった、より複雑な質問にも回答してくれるようにもなっています。

  

開発当初は、AIの色の識別精度が低く、駐車場の満車・空車表示や店の看板を信号機だと間違えてしまうといった課題もありました。しかし、技術的な見直しを重ね、具体的な対象物との関連付けによって精度を向上させています。

  

『EyeNavi』はあくまで「歩行時の参考になるもの」という位置づけですが、利用者からは「外出時には常に動作させており、使わないと不安になるぐらい」「今や、なくてはならないもの」といった声が寄せられています。また、盲導犬ユーザーの方々も盲導犬と『EyeNavi』を併用することで、より安全かつ便利に移動できるそうです。

  

研究会参加者による『EyeNavi』の体験会の様子

実際に、千葉大学西千葉キャンパス内を『EyeNavi』を起動させながら歩く

講演の合間には、千葉大学西千葉キャンパス内で、『EyeNavi』体験会が実施されました。

  

アプリを実際に起動すると、画面に映る物体を即座に解析し、「人、人、自転車…」などと音声で、画面内の障害物や目標物の情報を伝えてくれます。白線や自転車、植え込み、縁石など20種類を検出できるようです。単に人がいることだけを伝えるのではなく、「正面に人がいる」といった情報も伝えてくれるため、衝突防止にも役立ちます。

筆者撮影。体験会中のアプリ『EyeNavi』の画面

『EyeNavi』の大きな特長として、利用者自身が使いやすいように調整できる点が挙げられます。デフォルト設定では検出する障害物や範囲が絞られていますが、「自転車」「人」など音声出力する障害物を自分で選ぶことで、利用者が必要な情報だけを取捨選択できる仕組みになっているのです。

  

また、アプリ内の設定画面は極力シンプルに作られており、体験会の参加者も直感的に操作できるようでした。また、主に視覚障がい者の方が使うアプリであるため、自分がどの画面を操作しているのかも音声で案内してくれます。

  

さらに、単にアプリが目的地への道案内をするだけではなく、「お散歩モード」も搭載されています。視覚障がい者にとって外出は大きなハードルになりますが、このアプリを使いこなせば、目的の場所に移動するだけでなく、気ままに自由に散歩する楽しみにも役立ちそうです。

  
基本機能は無償で提供されているため、多くの人が外出を楽しむきっかけになり得るアプリだと感じました。

『EyeNavi』の技術を産官学民の多くの団体と連携。新たな視覚障がい者支援へつなげる

『EyeNavi』の開発チームは、産官学民の多様な団体との連携を進めているそうです。ここでは、講演中に髙田さんに説明いただいた取り組みのうち、いくつかピックアップしてご紹介します。

まずは、アルプスアルパイン株式会社の当事者社員の発案による「ウェアラブル(方向認知)デバイス」を共同開発中であるとお話いただきました。

  

これは頭にセンサーを装着することが想定された商品です。頭の方向転換のたびに9軸センサーで方位を認知し、『EyeNavi』のナビ情報やセンサーによる障害物検知を振動で知らせてくれます。

  

センサーを帽子につけることで、視覚障がい者が遭遇しやすい、顔や頭に物が当たる事故を防ぐことができるそうです。

次に、三重県伊勢市との取り組みを紹介します。「多様な主体を受け入れる観光バリアフリー支援調査」の依頼を受け、株式会社コンピュータサイエンス研究所では2022年12月に実証実験を行いました。

  

実証実験は、対象地域である伊勢神宮外宮参道を視覚障がい者に『EyeNavi』を使用しながら歩いてもらうというもの。この際に使用するアプリは、対象地域の観光情報を音声案内できるようになっています。

  

髙田さんによると、視覚障がい者が自分自身で観光情報を得られるようになることで、介助者も観光を楽しめる余裕が出てくるそうです。

  

今後は、アプリの中で観光用のパッケージをダウンロードできるようにも準備を進めているそうです。視覚障がい者が自分ひとりで旅ができるようになる未来にも期待ができそうですね。

また、千葉大学との連携「チームあいなび」についてもお話いただきました。これは『EyeNavi』の「マイルート」機能を使って、大学内の建物の入り口まで案内するナビを準備する取り組みです。

  

最適なルートや歩行支援情報を、視覚障がい者や歩行訓練士の方と検証しながらルートを作成します。千葉大学は広いキャンパスであるものの、点字ブロックが一部にしかないことが視覚障がい者の歩行にとって大きな課題となります。『EyeNavi』の音声出力によって、大学内の移動の助けとなることが期待されます。

  

千葉大学に限らず、全国の大学にも広めたい取り組みであると、髙田さんはお話してくださりました。

さらに印象的な事例として、小学三年生の男の子との協働エピソードも紹介されました。
NHKのニュースで『EyeNavi』を見た彼は、「視覚障害の方の役に立つ電子白杖を自分でも作りたい」と連絡をくれたそうです。

  
髙田さんのチームによるオンラインでのアドバイスをもとに、彼は距離センサーを組み合わせた電子白杖を完成させました。障害物に近づくと光と音で知らせる仕組みの作品で、表彰も受けたといいます。
「子どもの自由な発想が新しい技術の原点になる」と髙田さん。
社会課題を自分ごととして考え、行動に移した象徴的なエピソードとして紹介されました。

「視覚障害という概念がない世の中にしたい」-これからの展望-

『EyeNavi』開発チームは、「視覚障害という概念がない世の中にしたい」という大きな目標を掲げ、さらなる技術開発を進めています。

  

現在検討されているのは、物体検出だけではなく「領域検出」の導入です。これを実現することで、AIが路面を面として捉えられるようになり、例えば横断歩道をよりまっすぐ、安全に歩けるようになることが期待されます。さらに、2030年には、高度な案内が可能な犬型ロボットの実現を目指しています。

  

また、スマートフォンアプリの枠を超え、スマートグラスとの連携も視野に入れています。例えば、「Ray-Ban × Meta スマートグラス」のようなデバイスとAIを連携させれば、目の前にある物体を説明してもらうことができ、より日常生活が便利になるでしょう。これは、ユーザーからの「知り合いの顔を覚えて、自分から声をかけられるようにしたい」という要望に応えるものでもあります。

  

現在、世界には視覚障がい者が約3億4,000万人いるとされています。そして、身体障がい者手帳の取得に至らないものの、見えにくさを抱えている人は日本国内だけで160万人いると見られています。さらに健康寿命が伸びるにつれ、この数は200万人に増えると予想されています。

  

このような状況の中、『EyeNavi』をはじめとするテクノロジーの活用を通して、誰もが暮らしやすい社会を実現するための開発が行われています。少し先の「視覚障害」の概念がない社会の実現への期待が高まる講演でした。

ディスカッション

研究会の後半には、千葉授業づくり定番のディスカッションが行われました。オンライン上で質問ができるサービス「Slido」を使い、参加者と登壇者で議論を行います。

  

ディスカッションの中では、『EyeNavi』を用いたアイデアもたくさん生まれました。ここからは、ディスカッションの内容を一部抜粋要約してご紹介します。


  

Q.学校教育の中で活用することはできますか?

はい。児童生徒が地域を歩きながら、横断歩道や建物などの情報を撮影し、『EyeNavi』の地図上に入力していくという学習が考えられます。アプリには歩行中にコメントを残せる機能もあるため、地域の安全マップづくりや総合的な学習の時間での探究活動にも活かせそうです。

  

Q.GIGAスクール端末で子どもたちに地域の画像を撮影してもらい、データ収集に協力することもできそうですね。データの収集の際に気をつけることはありますか?

撮影の際に対象物を画面に収める位置をある程度統一させたいので、ルール作りをしています。

例えば、横断歩道の撮影であればマーカーとして白黒の枠をアプリに表示させれば、誰でも枠に合わせて撮影できるようになります。

  

Q.どんな学びの効果が期待できますか?

視覚障害の理解にとどまらず、地域の課題を自分たちで発見し、解決策を考える「社会とつながる学び」になることが期待されます。自分たちの調査データがアプリを通して誰かの役に立つことで、子どもたちの探究心や社会参画意識を育む授業に発展できそうです。

  

Q.視覚障害の支援だけでなく、ほかの人にも役立ちますか?

はい。外国にルーツを持つ子どもや高齢者など、さまざまな人にとって使いやすいアプリとしての可能性もあります。多言語での音声案内や振動によるサインなど、より包摂的な社会づくりへの応用も議論されました。

  

Q.ユーザーからの要望がたくさんあると思いますが、御社のリソースが限られている中で優先して解決したい課題はありますか

領域検出で横断歩道をまっすぐ歩けるようにすることです。

また、音声を前提としている現在の仕様だと使いにくく感じる人もいることも課題です。振動で障害物の存在を教えてほしいという声もあります。

  

Q.『EyeNavi』の精度で物体を判別できるのなら、車や自転車などに搭載されれば視覚障害がない人の事故防止にも役立ちそうだと感じました

はい。自転車や電動車いす、シニアカーなどでも役立つのではないかと考えております。


  

ディスカッションでは、福祉的な視点とICT/テクノロジーを融合させることの大切さや、それが教育テーマとして非常に有効で、高い教育効果を生むという点について議論が深まりました。

  

特に、「地域の課題を発見するだけでなく、その場で解決策を入力し、解決に向けて具体的に取り組める」という仕組みは、総合的な学習の時間としても画期的であるという意見が出され、大きな盛り上がりを見せました。

  

テクノロジーを活用した社会課題の理解や探究的な学びなど、授業づくりの新たな可能性が見えてきたディスカッションとなりました。

  

以上で、第172回千葉授業づくり研究会のレポートのご報告とします。ご講演いただきました髙田さん、参加者のみなさま、誠にありがとうございました。


千葉授業づくり研究会の参加方法

千葉授業づくり研究会にはどなたでも参加できます。

  

興味がある方は、こちらの開催情報をチェックしてくださいね!Zoomを用いたオンライン配信による参加もできるので、遠方の方も大歓迎です。

  

【記事担当:千鳥あゆむ】

10月19日(土)に開催された、第165回「千葉授業づくり研究会」。 

 

今回のテーマは、「授業づくりにおける表現と差別・ステレオタイプを考える ~想像と創造のサイクルの中でジェンダーや人種をどう考えるか~」です。 

 

昨今、テレビや映画、漫画からポスターまであらゆるコンテンツにおいて、その表現が人種やジェンダー、セクシュアリティの観点から差別的であると批判の対象になることがあります。これは教材や掲示物など、実は日常的に教育コンテンツを制作している教育現場にも起き得ることで、自分が意図せず差別的な表現をしていることがあるかもしれません。多様な子どもたちが存在する教育現場で、私たちはこれらにどのように向き合っていけばよいのでしょうか。

 

それらの課題を考えるため、今回の研究会では、ハリウッド映画における多様性やフェミニズムなどを中心に研究される東京大学大学院博士課程の山本恭輔さんをお招きしました。

 

まずは山本さんより、エンターテイメント産業におけるコンテンツ制作という視点を中心に、ジェンダーや人種の多様性と差別についての基礎的な内容から、最近の多様性やフェミニズムに関する世界動向まで幅広くお話しいただきました。そして後半、教育コンテンツ制作という視点でそれらの知見をどう活かしていくのか、参加者全員で議論しました。

 

タイトルにある『想像と創造のサイクルの中でジェンダーや人種をどう考えるか』とはどういう意味なのでしょうか。

 

本blog記事では、山本さんの講演とその後のディスカッションの中から、教育に関わる方々にお届けしたい内容を抜粋し、ボリューム多めですが、レポート風に紹介することにしました。広く深い知見を要するこの難しい課題に対し、この記事が教育現場の方々の一参考になれば幸いです。

山本恭輔さんについて

東京大学大学院博士課程で「メディア表象」を研究される傍ら、都内私立高校でも社会学の教員として男子校の高校生に多様性について教えている山本恭輔さん。

  

実は山本さんは、企業教育研究会(ACE)に深いかかわりのある方で、山本さんとACEの出会いは12年前まで遡ります。当時中学生且つデジタルネイティブ世代であった山本さんに、ACEで開催したメディアリテラシー研究会の講師をお願いしたことも。その後もずっと活動に関わって下さり、現在は、ACEが関わるドラマ教材制作等にて配慮事項について監修や、ACEの理事もしていただいています。


創造のCG画像を、なぜ世界中の人が特定の都市「東京」と想像できるのか

~私たちの認識の特徴と、偏見・差別との関係性について~

まず山本さんは、CGアニメーション映画で使用された東京、ロンドン等がイメージされるCG画像を示し、なぜこれらを特定の都市だと感じるのでしょうかと問いかけました。なぜ、CGで作られた画像を、私たちは例えば東京だと認識するのでしょうか。実際に行ったことが無くても、万人に東京という同じものを想起させるということは、どういうことなのか。

 

私たちは、何かを表現して伝える時、複雑なすべてをそのまま伝えることはできないため、意識的(半意識的)に大量の情報の中からどんな要素を抽出するか選択をしています。また逆に、私たちは何かを見た時、複雑なすべてをそのまま知覚することはできないため、「想像」し認識を「創造」しています。

 

このように、あるものを、別のなにか(記号)に置き換えて表現することを「表象(ひょうしょう)・representation」と言います。

 

例えば、東京タワーや富士山、ネオン街といった記号が東京らしさを特徴づけるものとして使われ、その表象が流通することで、人々の想像力の中で「東京」というイメージが広く共有されていきます。すると、逆にその記号がある表象に対し、人々は東京を想起するようになります。

 

ハリウッド映画などで東京を描く際には、この現象を利用しているということになります。もちろん東京以外のあらゆるものを描く際にも同様なことが起きています。

東京をイメージするCG画像例 映画『カーズ2』予告編映像より

ではなぜ、このような記号で特定のものごとを表象できるのでしょうか、そしてなぜ、我々はそれを認識することができるのでしょうか。

 

われわれの認知機能は、知覚する人や物を、一定の特徴に基づいて「カテゴリー」に分類します。

そして、特定のカテゴリーが共通して持っていると信じられている特徴のことをステレオタイプと言い、そのステレオタイプを用いて他者を判断するステレオタイプ化は、人間の認知機能の節約として無意識で行ってしまいます。

 

つまり、例えば東京タワーはカテゴリーとしては「都市東京」を特徴づける記号であり、CG画像に東京タワーを描くことで他者に東京と判断させることができます(ステレオタイプ化)。

 

ステレオタイプ自体はニュートラルなものですが、そこに否定的な感情や評価が結びつくと偏見となり、偏見が元になった否定的な判断が相手に対する言動や行動として現れると差別となります。

 

ステレオタイプによる判断が無意識に出てしまう以上、そのステレオタイプを偏見や差別へ繋げないためには、自分自身が他の人や物を、どのようなステレオタイプで眺めているかについて自覚的になることが必要です。

山本さん講演資料より

※ジェンダー・フェミニズム・セクシャリティ・人種に対する基礎的講義もありました。その内容についての参考資料はコチラ(配布資料より)。


想像と創造のサイクルの中でジェンダーや人種をどう考えるか

~私たちが意識すべきこと~

山本さんより、「自分自身が他の人や物を、どのようなステレオタイプで眺めているかについて自覚的になることが必要です。」との指摘がありました。それに対し私たちは、『いろいろな選択肢の中から個人で自由に選択しているように見えても、実は自分が見聞きしてきたものに影響を受けている。』ということを、今以上に意識する必要があります。

 

例えば、山本さんの紹介事例によると、フリー素材を提供するWebサイトいらすとやで「監督」を検索すると、女性に見える選択肢は監督官の1つしか出てきません。

 

このように画像検索した際、検索結果において性別により就いている職業に偏りがあったり、そもそも検索にヒットする頻度が低いとなればどのような印象を引き起こすでしょうか。これらが繰り返し使用されたり、また使用する選択肢のなかに用意されないことにより、人々はその選択肢がないことを当たり前に感じるようになってしまいます。 

 

このように、制限された表象は、社会の特定のイメージを維持・再生産します。それが、想像と創造のサイクルです。

 

従って、制作者が意図するかに関わらず、それがどういう社会的意味合いを持つのか、どう解釈されるのか、その解釈によりどういう社会的認識に繋がっていくのか(他者をどのように判断することに繋がっていくのか)を意識し、ステレオタイプ化から偏見差別に繋げないことを意識的に行うことが大切です。

 

だからこそ、映画・テレビ・漫画などを「ただのフィクションだから」とは扱えません。

たかがイラストではないかとは言えないのです。

山本さん講演資料より

◆ハリウッド映画業界の動きと女性の描かれ方の変化

~最近の動向と、多様性に対する企業のスタンスについて~

山本さんより、映画『カーズ』3部作を事例に、2006年、2011年公開の2作目までは、ほとんどの女性は「男性との関係性」の中でのみ登場していたものの、2017年の3作目で新しく登場した女性は恋愛や結婚など男性との関係性が提示されず、必ずしも女性が異性愛的な関係における従属的な存在ではない、主体性持った存在として描かれるように変化したことが紹介されました。

 

また、ディズニー・プリンセスを事例に、かつて受動的で、男性の助けが必要な「白人」として描かれがちであったプリンセスが、現在は、活発で、必ずしも恋愛(結婚)せず、多様なバックグラウンドを持ったプリンセスとして描かれるようになっていることも紹介しました。

 

ただ、これらの多様化された描写は、企業にとっては、必ずしも社会的意義のみを目的としてはおらず、商業的な面でこれらに配慮していること自体が、ブランド化し利する面もあることにも触れました。また、時に利(売れるか売れないか)が優先され、例えば日本においては、未だに白人で女性性が強い旧来的なプリンセスを前面に押し出し商品展開をしており、そこに人種差別の意図があってもなくても、プリンセスにおける非白人の表象頻度が低くなることで、社会のイメージが旧来的なまま固定化されてしまっている現状についても触れました。

山本さん講演資料より
※表紙画像出典元:
Disney Princess The Essential Guide New Edition Victoria Saxon (著) DK Children
ディズニープリンセス パーフェクトガイドブック DK(編)増井彩乃(訳)Gakken

ディスカッションより

~教育コンテンツ制作を考える上で留意できること、すべきこと~

後半のディスカッションでは、前半の講演を踏まえ、教育現場で用いる教材・題材で留意すべきことや、それだけではなく学校生活での子どもたちへの影響など、幅広く意見交換する時間となりました。その内容について、いくつか紹介します。

 

◆参加者より◆

Q:学校において、生徒指導は男性教諭、教育相談は女性教諭、大きな行事は男性、そのサブは女性がやるものみたいなことを、子どもたちはこういうものだろうと感じながら日々成長しているかと思うと怖い気がしました。

(山本さん)目にするものが当たり前になってしまう面は否めないので、そうではないあり方もあることを、(生徒に)目にしてもらうだけでも違うと思います。また、そういうコンテンツを生徒に見せる際には、必ずしも共感を促すのではなく、こういう視点や声があることを意識して欲しいから見せるのだと、一定の客観性を担保して示すことは入りやすさもあり有効だと感じています。

Q:学校内でこれらのテーマを話し合える土壌を作るには?

(参加者の中には、学校でこのような話題を全く話したことが無い(話せる雰囲気ではない)という方もいれば、結構話題に上がるという方もいました。)

(山本さん)偏見や差別といった話題で会話するにあたり、個人の内面や思想の統制ではないという認識が必要だと思います。そういった認識をお互いにもった上で議論をしないと、「私は差別をしているつもりはない」、「思いやりが解決する」という方向になってしまいます。そうすると(日常生活における自分の言動について)「これは駄目なのか」的な話になりやすく、人によってはすごく統制されていると感じてしまう。

そうではなく、公共の場で差別を表出しないために最低限の線引きはこのぐらいになるということや、表現においてここは最低限守らないと、ということを議論する。その前提に立てるかが重要だと感じます。

Q:教材を作るにあたり、何に気をつければいいですか?

(山本さん)難しいですけれど、元も子もないことを言うと、何をやっても問題は起き得ます。問題が起きない選択はないです。その中で、どういう意義を持ってその選択をしたのか、その判断について説明可能かどうかということが大切なのではないかと考えます。

Q:意義をもって何かを選択するには、広く深い知見が必要かと思います。専門家ではない人が、留意できることはありますか。

(山本さん)専門家に頼ってくださいというのがまず一つですね。アクセス可能な専門家がいるかということはありますが、やはり、ACEや先生方といった授業をつくる方が、全てのことを100%把握できるわけではないので。だからこそ、専門家に頼るのが一番かと思います。

◆基礎的なことを学ぶに適した山本さんお薦めの書籍2点

 ・フェミニズム大図鑑 ハンナ・マッケン ほか (著) 三省堂
 ・クリティカル日本学 ガイタニディス・ヤニス (著, 編集) 明石書店

最後に山本さんより

結局、ディスカッションしていくしかないと思います。一方で、教材はどこかで折り合いをつけて完成させなければいけないので、実践一つ一つにどう折り合いをつけ、どう責任を持つのかは、すごく心が暗くなることもあります。

そこに関しては100%自信を持って何かを出すということは、正直できないということを受け入れる前提に立つしかないのかなと思います。

でも、例えば日本におけるディズニー・プリンセスの商品展開にあるように、どういうものが受け入れられると思うのかということに対して、やはり子どもたちに対して選択肢がある程度広がっていくことの大切さはあると考えています。


明るく活発な研究会となりましたが、今回のテーマは、とても根が深い問題を内包しており、例えばジェンダーという視点では、世間を賑わしたジェンダー・ギャップ指数や、女性管理職のクウォーター制などがあるように、これらは学校教育現場に限らず、日本社会が抱える課題でもあると思います。

 

私たちが日ごろ意識せず表現している様々なコンテンツが、これらの問題を固定化し、再生産している現状もきっとあるのだろうと感じますし、もし意識したとしても、自身の表現からその問題を完全に排除することも難しい。山本さんの話を聞き、大人である私たちが、既に子どもたちがニュートラルに捉えているものを、意識せず旧来的に選択肢を示してしまうこともあり得るという危険性も感じました。

 

そのような中で、これから社会に出ていく子どもたちに、どういう選択肢があり得ると示していくのか。子どもたちに日々接するACEとしても、葛藤を持ちながらも日々向き合っていきたいと思います。

 

と…、約20年前、新社会人1年目に感じたモヤモヤの解を求めて当時フェミニズム系の書籍を読み漁り、現在も一人の妻として親として模索を続ける本blog記事担当が感じたことを少しだけ吐露させていただき記事を結びたいと思います。

 

次々回、12月の千葉授業づくり研究会では、実際に葛藤を抱えながらも世に映像作品を発信し続けているスペシャルゲストをお招きし、さらにディスカッションをしていきます。

6月15日(土)に開催された、163回目を迎える「千葉授業づくり研究会」。

テーマは『「リスキリング」から、これからのキャリア教育を考える』です。

人生100年時代とも言われ、定年制度もなくなるかもしれない昨今、「リスキリング」への関心はどんどん高まっています。リスキリングと聞くと、社会人向けのような印象もあります。しかし、学校で実施するキャリア教育において、育成を目指す項目のひとつに「キャリアプランニング能力」があるように、今の子どもたちには生涯にわたり自分のキャリアを考えていく力が求められています。となると、学校でのキャリア教育に「リスキリング」の考え方を入れることも重要ではないでしょうか。

今回の研究会では、リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業を手掛けるアデコ株式会社(以下アデコ)の武井森さまを講師にお招きし、自分たちが望むキャリアを継続して実現していくスキルを身につけるため、アデコさまが取り組む事例武井さま自身の経験についてお話しいただきました。

アデコ株式会社・武井森さまによる講

「リスキリング」から、これからのキャリア教育を考える』

『「人財躍動化」を通じて世界を変える』をビジョンに掲げるアデコは、ただ人と仕事をマッチングさせるだけでなく、働く人の思いや企業のビジョンとのマッチング、さらには社会で求められているスキルと個人のスキルをマッチングさせスキルアップを支援するなど、人財が躍動するような「ビジョンマッチング」を推進しています。

 

その中で武井さまは、リスキリングを中心とするさまざまなキャリア支援や研修事業をご担当。一般的に「リスキリング」とは、技術革新や社会の変化に対応するために新しい知識やスキルを学ぶこと、という意味をもつ言葉です。しかしアデコでは、「人財躍動化」というビジョンに基づき、スキルを身につける人の内面にもアプローチをしながら「リスキリング」を推進していくことを大事にされています。

今回の研究会では、そんなアデコの「リスキリング」について、3つのトピックに分けてお話しいただきました。


◆リスキリングとは何か

まず、今回のキーワードである「リスキリング」の定義を改めて整理するところから研究会がスタート。

2020年の定義(経済産業省HPより)によると、リスキリングとは、「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する・させること」であるとご紹介いただきました。

 

すると、武井さまから「2024年の今、この定義に最も重要な言葉を足すとしたら何を追加しますか」と問いが投げかけられました。参加者同士で話し合いながら、「誰もがよりよい社会にしていく」「人材を確保する」「古いスキルを捨てて」など意見を交わしました。

 

参加者の意見を確認した後、武井さまは、「デジタルリテラシー、持続可能性(持続可能なビジネス実践・持続力)、柔軟な思考力」の3つ、特に持続力が重要ではないかと指摘されました。一度リスキリングをすればいいわけではなく、新しい技術や社会の変化に応じて、自分の技術を何度も何度も磨き続ける力が必要と感じていると話されました。

 

では、現代社会で必要とされる、もしくは今後必要とされるスキルを身につけ、そのスキルを磨き続けるためのリスキリングの持続力はどのようにすれば維持できるのでしょうか。

 

アデコでのリスキリングにおいて武井さまが常々大切にされていることは、「まずは自分のビジョンを考えること」だそうです。はじめにもお話があった通り、リスキリングをしていく上での大事な要素のひとつに持続力があります。持続力を担保するために重要な要素となるのがモチベーションです。そして、そのモチベーションを維持していくためには、「自分のビジョン」を明確にすることが重要であると武井さま。

 

そこで、自分自身のことや社会とのつながりに目を向けながら、ビジョンを明確にするためのツールのひとつとして「IKIGAI」をご紹介いただきました。

 

自分を発見するために考えるべき4つのステップ(IKIGAI)

「IKIGAI」はアデコが提供するフレームワークの一種です。このワークでは、好きなこと、得意なこと、やりたいことをまず考え、その上で社会が求めていることを考えます。そして下図のように、それらの重なりから、自分なりの仕事へのビジョンを見出します。ワークの中心「IKIGAI」に位置できれば、モチベーションを維持し得る、楽しく生きがいが伴った仕事になります。

 

武井さまが仰るには、このワークで大事なこともやはり、持続力。このワークでは、必ずしも、常にIKIGAIの真ん中に自分が位置していなくてもよく、社会や自分自身の変化に応じ、何度でも見直し、自分のIKIGAIを考え続けることが重要とのご紹介でした。

https://www.adeccogroup.jp/pressroom/story/005 (アデコ株式会社HPより)
和気あいあいと活発に意見を交わす参加者たち

組織と個人はどうすればリスキリングができるか

3つ目のトピックは、どのように上記IKIGAIを意識し、組織として、もしくは個人としてリスキリングを実際におこなっていくのかです。武井さまからは5つのポイントをお話しいただきました。

 

【リスキリングをおこなうための5つのポイント】

1.ビジョンを掲げる

組織として何を目指していくのか、その中で個人としてどこを目指していくのかゴールを決める。

 

2.具体性のあるプランを示す

リスキリングにどれくらいの期間をかけ、何を、どのように進めていくのか具体的に決める。

 

3.(リスキリングに)投資を続ける

すぐに結果が見えなくても、スキルアップなど目標達成に必要な投資は継続する。

 

4.わかりやすい目標にチャレンジする

こんな資格を取るとよいなど、目指す方向性が具体化されることでモチベーションの向上にもつながる。

 

5.言葉だけでなく仕組みと紐づける

資格取得をした人への報酬などはよく見られる例ですが、それだけではなく、得たスキルや資格を活かす実践の場の提供までをセットにすることがスキリング及びリスキリングで重要なノウハウ。

 

 

武井さま自身も、エンジニアからコンサルタントになられたという経験をお持ちであり、当時のリスキリング体験も交えながらお話しいただきました。研究会に参加していた方々も自分自身を振り返りながら、リスキリングとどのように向き合っていくのかを考える時間になりました。

 

この5つのポイントを伺いながら、大きな目標を立て、その目標を達成するためにスモールステップの目標を立てるという手立ては、学校でもよく行われていることだなと、リスキリングと学校教育の共通点を感じました。

研究会参加者とディスカッション ー「リスキリング」を学校教育で活かすにはー

武井さまからお話をいただいた後、参加者とのディスカッションを行いました。

ディスカッションの内容を一部ご紹介します。

 

Q:生涯学習とリスキリングの違いは何でしょうか?リスキリングは既有のスキルと対極のものを身につけていくという認識でよいのでしょうか?

武井さま:基本的には共通のもので、変化に応じたスキルを身につけていくというニュアンスが、リスキリングには強いという捉え方がよいのではないかと思います。組織に個人を捧げるのではなく、社会の変化に対応し世の中を生き抜くために必要なスキルを身につけていくことが求められています。

 

Q:リスキリングはこれからの世の中を生き抜くためにとても重要なことだということを感じましたので、(自身が受け持つ)生徒に伝えていきたいと思います。世の中を生き抜くとはどういうことかを生徒にわかりすく伝える言葉を考えると、「生き抜くこと=稼ぐこと」と感じましたが武井さまはどのようにお考えでしょうか?

武井さま:世の中を生き抜くことをよりわかりやすく伝えるとするならば、「稼ぐ」よりは「柔軟性」に重きを置いて伝えることが大事ではないかと思っています。高校生に世の中を生き抜くということを考えてもらうには、「柔軟性」という言葉だけではイメージがわかないと思うので、具体例を挙げて考えてもらうしかないのではと感じます。

 

Q:実践の場を与える重要性の話があったが、失敗が続く不安定さ・悩みへの対応は何ができますか?

武井さま:失敗の過程がとても重要で、次どうしたら良いと思う?とサポートをしていくことで混沌が良い学びの場になるのではないか。それと同じくらい、成功体験を積むことも重要です。

 

Q:リスキリングを考えるキーワードの中に、「持続力」があったと思うが、手間をかけないと良いものができないのに、手間をかけたくない子ども・教員も多いと感じています。

武井さま:今まで解決していない問題を解決しようとしているので、初めから上手くいくわけがないと思うことがまず大事です。一時的に負荷がかかるのは当たり前ですが、教員の負担が大きくなりすぎるのは良くないので、何か業務を捨てるか、デルタル化のリスキリングを先生が進めて効率化していく必要があると思います。先生の役割を再定義すると、教師がどのようなスキルを身につけるべきかが見えてくるのではないかと思います。

 

1時間半があっという間に感じるディスカッションとなりました。 結びになりますが、ご講演いただきました武井さま、ご参加いただきました皆さま、誠にありがとうございました。

 2024年7月20日(土)「授業づくりハッカソン2024」が、企業教育研究会(以下ACE)と千葉大学教育学部藤川研究室との共同で開催されました。企業と連携して授業をつくる楽しさや教育の面白さを、教員を目指す高校生・大学生・大学院生と味わいたい!と開催された本イベント。昨年度に引き続き2回目となる今回は、株式会社ZOZO、株式会社千葉銀行、株式会社ディレクションズ、LINEヤフー株式会社の4社にご協力いただき、学生参加者も合わせ総勢53名が千葉大学に集まりました。短期間で集中的に開発を行うハッカソン形式で、グループで協力しながら、企業と連携する授業プランを考えました。

 また、ACEでは、学生スタッフも活動に参加しており、本イベントは私たち学生スタッフが中心となって企画・運営を行いました。その様子も含め、本blogでは、イベントの模様を学生スタッフ・木村がお届けします!

授業づくりハッカソン2024 開幕!

司会進行ももちろん学生スタッフです!
暑さに負けず、明るく元気に、「授業づくりハッカソン2024」 開幕です!

コラボレーション企業の発表!

今年も、ご協力いただく企業はサプライズで当日に発表しました。

各グループがコラボレーションする企業は、くじ引きで決定します!
どこの企業と連携した授業づくりをするのか、ドキドキです!

いよいよ授業づくり開始!

 コラボレーションする企業が決まり、早速授業づくりの始まりです。まずはヒアリングタイム。自分たちがコラボレーションする企業にどんな特色があるのかを知るため、企業の方から説明を聞いたり、いただいた資料の気になるポイントを質問したりしながら理解を深めました。

 次に、ヒアリングの内容を活かし、授業アイデアを考えます。ACE学生スタッフ が特別仕様で用意した授業づくりシート を活用して、「企業との連携の意義」や「企業の特性を活かせているか」を意識しながら、子どもたちに何を伝える授業にするかを考えます。

昨年度の反省を活かし、敢えてA3紙と付箋のアナログ式にブラッシュアップした授業づくりシート

湧き出るアイデアを付箋で貼り付け、チームで共有&整理!

高校生の参加者も積極的に議論に参加し、チーム全員で授業をつくり上げていきます!

審査員である藤川教授やACE職員による中間フィードバックでは、「今風で新しい視点だ」「活動が面白そう!」とポジティブなコメントが。一方で、「楽しさと学びは別物」「その企業と連携することの良さは?」といった鋭い指摘をいただくこともありました。

審査員からのフィードバックを受け、授業を練り直すために再度企業の方にヒアリングを開始!

ハッカソンタイム前半は企業の方々とのコミュニケーションに緊張していた参加者たちも、後半では積極的に質問している姿が多く見られました。チームメンバーのみならず企業の方も交えながら活発な議論が繰り広げられ、時間ギリギリまで、チームの思いを指導案に反映させるにはどうすればよいかを考えていました。

いざ!授業案を発表!

完成した指 導案をもとに、 グループごとの授業案を発表。
各チームより、日頃の教科学習との関連も意識した上で、連携する企業のよさを引き出す素敵な授業がたくさん誕生しました!以下に、ハッカソンで生まれた8つの授業案をご紹介します!

<株式会社ZOZO と連携した授業>
「将来の想像を創造しよう!〜デザイナーになるの巻〜」
・ZOZOのロゴコンセプトである「Be unique. Be equal.」が伝わるような採用ページをWebデザイナーとして考える。多様性についての理解を深めることができる授業。
(関連キーワード:総合的な学習の時間・キャリア教育・多様性)

「ファッションショーで自己を知る、他者を知る、世界を知る」
・ZOZO GLASSやZOZO MATでの計測を生徒自身も体験しながら、自分の「似合うと好き」について考える。 ファッションを通して、自己理解を深める学習。
(関連キーワード:総合的な学習の時間・キャリア教育・自己理解)

<株式会社千葉銀行 と連携した授業>
「銀行のヒミツ 〜お金の世界を探検しにいこう〜」
・身近だが意外と知らない銀行業について知ることができるロールプレイングゲームを取り入れた学習。
銀行の役割を地域貢献の視点もふまえて理解することができる授業アイデア。
(関連キーワード:社会科(公民)・金融教育・地域貢献)

「千葉銀行と地域おこし大使で作る住みよい街づくり」
・地域おこし大使として、4人の市民の立場を考えながら、千葉県が抱える地域課題の解決プランを作成する。企業と連携するからこそ、リアルな探究につながる学習。
(関連キーワード:総合的な学習の時間・探究学習・アントレプレナーシップ教育)

 

<株式会社ディレクションズ と連携した授業>
「映像制作を通して、地域のSDGsの取組を知ろう」
・職場体験先の企業が実践しているSDGsに関する活動を取材し、映像にまとめる。プロの取材方法を学んだ上で職場体験先を取材するという、主体的な体験学習につながるアイデア!
(関連キーワード:社会科・総合的な学習の時間・キャリア教・職場体験・SDGs)

「CGやARで理想の公園を作ろう!」
・普段利用している公園の課題を見つけ、CGでアイデアをかたちにしながらよりよい公園を考える活動。イラストや言葉にCGが加わることでリアルな課題解決ができる授業アイデア。
(関連キーワード:社会科、総合的な時間の学習、アントレプレナーシップ教育)

 

<LINEヤフー株式会社 と連携した授業>
「企業と連携してLINEの回答自動 生成AIを作ろう!」
・SNSでのコミュニケーションの問題点を考え、回答自動生成AIに学習させる条件を考える学習。トラブルを自身のリテラシーのみで防ぐのではなく、新サービスを考えるという新しい視点 でSNSトラブルの学習ができる授業アイデアでした!
(関連キーワード:国語、総合的な学習の時間、生成AI、SNS)

「賢くモノを買おう」
・学級に必要なものを考え、オンラインショッピングで購入する学習。オンラインショッピングの普及に目をつけ、利点と注意点を学びながら消費者として適切に買い物をする体験ができる授業アイデアでした!
(関連キーワード:家庭科、社会科、学級活動、消費者教育)

連携した企業の特色や思いを生かし、現代社会の教育課題と向き合った授業案ばかりで、「この授業受けてみたい!」とワクワクするものばかりでした!

そして今回、発表される授業案に対して4つの賞を準備していました。

その賞とは、授業を受ける立場でもある参加者の投票による「学び手賞」、企業と連携した授業づくりを専門とするACE事務局長・竹内さんが選ぶ 「企業賞」、教員として学校現場に長年携わってきたACE授業開発担当・古谷さんが選ぶ「学校ニーズ賞」、現代の教育課題の解決策になっているか、授業に新規性はあるか等を総合的な観点で藤川教授が選出する「ハッカソン大賞」 です。

 

これらの4つの受賞授業案は以下の通り。

 

「学び手賞」を受賞したのは…
「銀行のヒミツ 〜お金の世界を探検しにいこう〜」でした!
お金とアイデアの「価値」に共通点を見出し、お金をアイデアに置き換えたロールプレイの独創性には、コラボレーションした千葉銀行さまも驚かれていました!

「企業賞」を受賞したのは…
「映像制作を通して、地域のSDGsの取組を知ろう」でした!
ディレクションズの映像制作のノウハウを生徒たちが体験できるようにしているところが評価ポイントでした!

「学校ニーズ賞」を受賞したのは…
「CGやARで理想の公園を作ろう!」でした!
公園の活用という子どもたちが考えやすい内容、かつ、ゲーム感覚で楽しむことのできるCGをつかった方法で地域貢献を体験できる授業は、子どもの身近なものから学習に入ることができる素敵なアイデアでした!

そして、見事「ハッカソン大賞」を受賞したのは…
「企業と連携してLINEの回答自動生成AIを作ろう!」でした!

生成AIによるLINE回答の自動生成機能を考えるというアイデアは、LINEヤフーの特性と教育課題を絡めた見事な授業案でした!

 今回のイベントを通し、限られた時間ではありましたが、企業の方々と協力して授業をつくり上げました。これらの体験を通して、教育の魅力とその可能性を再発見することができたのではないかと思います。

◆◆主催者・千葉大学教育学部 藤川教授より◆◆

 社会が変化していく中で、授業研究をして新しい授業を作っていくことはとても大事なのではないかと思っています。そのためには、普段からどんな新しいことをしようかと意識をもつことができるかどうかが非常に重要です。企業の方とたくさんコミュニケーションをとれるようになると、どんどんアイデアが出てくるようになったと思います。ぜひ、今日の経験を生かして欲しいと思います。
 限られた時間内で、完成度の高い授業案を仕上げることができたことは、自信に繋げて欲しいと思います。

◆◆参加者の声◆◆

アンケート内容から一部抜粋・要約したものをご紹介します。

・企業と連携することで、普段とは違った授業づくりが体験でき、貴重な経験になりました。企業の特性を子どもたちに伝えるのは難しかったですが、その分深い学びになったと思います。
・初めての経験が多く楽しかったです。また、授業をつくるには多くの試行錯誤が必要であり、先生方の苦労や授業に込めた思いを少しばかりだが知ることが出来たのではないかと思います。
・色々な立場の人と同じ目的で熱く授業づくりをできて楽しかったです!
・授業を受ける立場では見つけられない大切なポイントや大学生の先輩達が授業作りで大事にしている点を知ることができ、他の企業と協力して授業を作る事が楽しかったです。
・企業の方とコミュニケーションを取りつつ、他学年、高校生も含めて色々な人と協力しながら授業をつくることができ、非常に有意義な時間が過ごせました。

◆◆ご協力いただいた企業の方より◆◆

いただいたご感想から一部抜粋・要約したものをご紹介します。

・アイデアが煮詰まった時にお互い模索する感じや、軌道に乗ってコミュニケーションが盛んになる時など仕事も同じだよなと思いながら心の中で応援していました。
・学生さん同士でアイデアを形にしていく姿を間近で見ることができて刺激をもらいました。
・本気でディスカッションできて、とても心地の良い疲労感でした。
 

昨年度同様、本イベントは企業の皆様や審査員の方々の多大なご協力のもと実現しました。また、教育に関心の高い学生たちが積極的に参加してくれたことを大変嬉しく思います。学生スタッフとして私たちは、昨年度以上のものを創り上げようとイベントの企画から運営までのプロセスに尽力し、それを通じて、実践的な経験と貴重な学びを得ることができました。
イベントに関わっていただいた皆様にとっても、このイベントが特別なものになったと信じています!


結びになりますが、ご協力いただいた株式会社ZOZO、株式会社千葉銀行、株式会社ディレクションズ、LINEヤフー株式会社をはじめとする、本イベントにご協力いただいたみなさま、ありがとうございました。

記事担当:学生スタッフ 木村優太

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