公民連携によるリノベーションまちづくりから

探究的な学びを考える

2026年5月16日(土)、本年度2回目となる第176回「千葉授業づくり研究会」を開催いたしました。

現在、文部科学省・中央教育審議会では、次期学習指導要領の改訂に向けて「探究的な学び」を中心にさまざまな議論がなされています。子どもたちが自ら課題を見つけ、正解のない問いに向かって学習を進めるこの学びにおいて、地域社会に関するテーマは、重要な位置を占めるようになってきました。

こうした背景を踏まえ、今回は「公民連携によるリノベーションまちづくりから探究的な学びを考える」をテーマに設定しました。

講師は、行政や民間企業・団体が連携し、市内のJR3駅を中心に「人材、空き家、空き店舗など」を活用した駅周辺のリノベーションを進める 市原市役所 都市整備課 まちなか再生係 係長 三澤 正幸さまです。

研究会では、市原市が進める「公民連携によるリノベーションまちづくり」の背景や具体的事例についてご講演いただき、その視点を「探究的な学び」にどう活用できるか参加者全員でディスカッションしました。 

当日は多くの教育関係者にご参加いただき、このテーマに対する関心の高さがうかがえました。「探究的な学び」や「地域社会の課題」の学習において、行政との連携やまちづくりのアプローチがどう活かせるか、ぜひ参考にしていただければ幸いです。 


理事長・藤川教授によるメッセージ

はじめに、弊会理事長の藤川大祐教授(千葉大学大学院教育学研究院長)が登壇し、このテーマを取り上げた背景や、これからの学校教育における地域連携の大切さについて、次のようにお話しになりました。 

「この研究会は20年以上続けてきましたが、普段は企業の方を招くことが多く、行政の方をお招きするのはかなり珍しいと思います 。三澤さんには以前に別の形でお世話になっており、アントレプレナーシップ教育の勉強会に来ていただいたのがきっかけです 。

当時、小学校での実践において、学校側の思いはあっても『地域にどんな面白い話や可能性があるのか』について、先生方が見通しを持ちにくいという課題があり、三澤さんをご紹介いただきました 。

今、学校では探究的な学びが議論されていますが、教育側だけの枠組みではなかなか進みません 。ですが、行政の方であれば産業界とも教育界ともルートがつながっていますので、ご協力いただくことで教育実践がとても円滑に進んでいくのではと思います 。

本日は、いろいろな行政の方と皆さんがつながって、どんな連携ができるのか視野を広げる機会になれば幸いです 。」


ご講演:公民連携によるリノベーションまちづくりから探究的な学びを考える

(市原市役所・三澤さん)

市原市役所 都市整備課 まちなか再生係 係長 三澤 正幸さん

続いて、市原市役所 三澤さんによる講演へと進みました。

三澤さんは地元・市原市の出身で、市役所に勤務して20年目になります。プライベートでは3人のお子さんの父親でもあり、ご自身の子育てについて「それほどかっちりした思いはないんですけども、できるだけ子どもたちにはいろいろな経験をさせてあげたいなと思っています」と話されており、穏やかなお人柄が伝わってきます。

お仕事では、2020年に新設された駅周辺のまちづくりを担当する部署への異動を機に、公民連携事業やリノベーションまちづくりの担当を務めてこられました。

まずは、三澤さんが日々向き合っている市原市の現状と、なぜ今「公民連携」が必要なのかという背景からお話がありました。

市原市の現状と『公民連携』が必要な理由

市原市は、千葉県で最も広い面積を持つ自治体です。海岸沿いはコンビナートが広がる工業都市ですが、内陸部へと進むとのどかな田園地帯や里山が広がっています。近年では、養老渓谷の自然を活かした「チームラボ」による夜間野外アート展が開催されたり、世界的建築家である隈研吾氏がデザインを手がけたチバニアンガイダンス施設のオープンを控えていたりと、多彩な地域資源を持つ魅力的な地域です。

このように多くのポテンシャルがある一方で、市原市でも2003年をピークに人口減少が進んでいます。主要駅である五井駅の周辺には、駐車場などの「低未利用地」が広がっており、あまり有効利用されていません。駅前がそのような状況であることから、都市としての魅力が低下してしまうという課題も抱えています。

かつてのようにインフラを整備すれば人が増える時代は終わり、現代は人口減少による建物の余剰や、原油高にともなう新築コストの高騰に直面しています。そのため、従来のような行政主導のやり方だけでは「まちづくり」が難しくなっています。

そこで市原市が2020年からスタートしたのが、地域の課題解決を目的とした、民間主導・行政支援による「公民連携のリノベーションまちづくり」です。今ある空き家や空き店舗を資源として捉え直し、民間の創造性やスピード感を活かして、低リスク・低コストでスピーディーに事業を生み出していくアプローチです。

その第一歩として、まずは「街のために何か始めてみたい」という人材を発掘するため、実際の駅前物件を題材にビジネスプランを企画・提案する「リノベーションスクール」を開催しています。

市原市の市長は、こうした新しい挑戦に積極的に参加し応援してくれる方だそうで、スクール最終日の公開プレゼンテーションにも自ら足を運ばれています。トップ自らが熱意を持って民間の提案を応援する姿勢が、行政全体で新しい挑戦をバックアップする温かいムード作りに繋がっています。

【事例1】五井朝市:夜のまちに朝食を

リノベーションスクールをきっかけに、市民メンバーのアイデアから誕生したのが、毎月第3日曜日に開催されている「五井朝市」市原市公式ウェブサイト 市民特派員記事市原市公式YouTube紹介)です。

舞台となった五井駅西口エリアは、工場勤務者向けの居酒屋などが多く夜間は賑わう反面、昼間はシャッターが閉まる店舗が多く、人通りが少なく閑散としていることが課題でした。ここに目をつけたメンバーたちが「夜のまちに朝食を」をコンセプトに、朝食マルシェの企画を立ち上げました。

いきなり実店舗を構えるリスクを避けるため、まずは月1回朝方のマルシェとしてスモールステップで開始しました。民間の「やりたい」という熱意から始まり、市民が主体的に関わる形を体現したプロジェクトです。この取り組みは着実に地域に根付き、2026年4月時点で57回を数える継続的な活動となっています。

現在では、近隣にある千葉県立生浜高校の「ビジネス研究部」も定期出店しており、生徒が開発した海苔餃子や海苔チョコレートなどを販売しています。

さらにこの取り組みを続けていく中で、子育て世帯から「朝の時間だけでは子どもたちが楽しみきれず、もったいないからもっと長くやってほしい」という声が聞こえてくるようになりました。そこで、五井駅西口のすぐ近くにある「梨の木公園」を舞台に、気候の良い5月と10月の年2回、朝市を少し拡大したイベント「梨の木市」も開催されるようになりました。

この「梨の木市」では、来場者が各店舗のカレーを食べ比べて投票する「カレーグランプリ」などの人気企画も誕生し、イベントは大盛況となっています。

💡 朝市を発端として始まった「民間の動き」の連鎖

この五井朝市での成功や熱量を発端として、五井駅周辺では次々と民間の主体的な動きが連鎖しています。

  • シェアキッチン「SOMARU(ソマル)」の開設 

元は魚屋だった空き店舗をリノベーションし、時間貸しのシェアキッチンを提供する。個人シェフや生産者が集まり、共に食を通じた交流や地域づくりに取り組む。

  • 佐川ビルのリノベーション 

築50年のビルオーナーが、若者たちの熱意に触発され自らビル内を改修。アート空間「シアターブレイク」など、個性的な個人店舗がオープンしました。オーナー自身も居住空間をリノベーションし、飲食店をオープン。週末には自ら店頭に立って料理を振る舞っています。 

💡 チェーン店ではなく「個店」が五井に通う理由を作る

最初の3年間、五井駅西口エリアに絞ってリノベーションスクールを重ねてきた結果、この5年間で駅周辺には10店舗近くの小さな「個店」がオープンしました。

よく地元の高校生から「駅前にマックやスタバが欲しい」という声も聞かれますが、もし駅前がチェーン店ばかりになってしまうと、「市原市でなければならない理由」がなくなり、市外への人口流出の歯止めにはなりません。「どこでも同じ生活ができるなら、より便利な千葉市や木更津市がいい」ということになってしまうからです。

だからこそ、ここにしかない個性的なお店が増えることで、「この街がちょっと好きかも」という地域への愛着へと繋がっていく…。三澤さんは、五井駅周辺で民間主導の小さなお店を増やしていく重要性について、そのように語りました。

【事例2】姉ヶ崎駅周辺:

 公園予定地」や「昼の駐車場」を活動の舞台に

五井駅に続いて、隣の姉ヶ崎駅周辺でもリノベーションスクールを開催しました。

💡 背景:更地のまま残された4つの公園予定地

姉ヶ崎駅の西口周辺には空き物件もありますが、それ以上に「公園予定地」が多く存在していました。区画整理自体は終わっているものの、市の予算の関係でまだ遊具などを整備できず、何も整備されていない更地(原っぱ)の状態の場所が西口だけで4箇所もあったそうです。

周辺には新しい住宅も建ち始めていましたが、子どもたちからすると、そこに入って遊んでいい場所なのかが少し分かりにくい状態になっていました。

💡活動 1年目:DIY屋台から始まった定期マルシェ

スクールに参加したメンバーの中に、公園予定地を使いたいという班がありました。そこで、スクール終了後に講師の指導のもと、自分たちの手でオリジナルの移動式屋台(タイヤ付き)をDIYで製作。保健所の許可も正式に取得し、食品販売ができる体制を整えました。

屋台が完成したときには、周辺の住民の皆さんに「今度こんなことを始めます!」と挨拶に回り、そこから定期的なマルシェの開催へと繋げていきました。

普段はただの原っぱですが、手作りの屋台が並んでお店が開かれると、近所の子どもたちもすごく喜んでくれて、大勢の人が集まる賑やかな場所になりました。

💡活動 2年目:日常の遊び場づくりと「畑作り」への挑戦

2年目は、イベント時だけでなく「子どもたちが日常的に公園で遊びたくなる仕掛けを作っていきたい」という方向へと取り組みが進みました。

その一環として、「クリスマスを自分たちで作っちゃおう」というイベントを開催。子どもたちが公園で手作りした様々な作品を飾り、全体を上から見ると大きなクリスマスツリーになっているような仕掛けのあるイベントです。

本来誰もが出入りできる公園に、こうした私物を3週間も常設(占用)することは行政的にハードルが高いことですが、かつて拠点形成課に所属していた三澤さん自身に他部署との調整に関する知見があったことから、間を取り持ち、正規に使用料を支払うことでこの課題をクリアしました。

また、「公園の地面を掘って畑を作り、トウモロコシを育てる」という、これまでにない大胆なトライアルにも挑戦しました。子どもたちの手で土を掘り、種を植えてトウモロコシを育てるという体験、そして、そこで大切に育てたトウモロコシからポップコーンを作り、みんなで「公園映画祭」を開いて味わう…。

子どもたちがこうした体験を重ね、そこで育ったものを使ってまたお祭りをやることで、その場所が地域が、愛着を持つ場所になっていくのではないかという思いのもとで取り組まれています。

💡 将来の公園整備に向けた「意見の蓄積」

これらイベントが開催されているのは公園予定地ですが、行政が公園に遊具を設置する際は、町会へ確認の後、滑り台やブランコなどを設置するのが一般的な流れだそうです。

姉ヶ崎での取り組みでは、「何もない今だからこそ、様々なトライアルを重ねながら、この公園に本当に必要な機能は何かを、地域のみんなと一緒に考えていきたい」という思いのもとで進められています。

4箇所の公園はそれぞれ特性が異なるため、それぞれの予定地に「ダンスができるステージがあると良い」、「キッチンカーを入れやすいように一部分だけ舗装をかけておくべき」といった、実際の使い手としての具体的な意見をみんなで出し合っています。2〜3年後に控える正式な公園整備の際に、管理・活用していく民間団体側から実践的な提案ができるよう、今からノウハウを蓄積しています。

💡 駅前駐車場の活用:「姉崎ガーデンマーケット」

公園の活用に加え、駅前にあるバーの駐車場を舞台にした「姉崎ガーデンマーケット(ローカルチャレンジマーケット)」という新たな動きも始まっています。

夜間しか車が停まらない駐車場の、昼間のデッドスペースを活用した取り組みです。小さなスペースですが、地域に密着し子どもたちとワークショップを開いたり、子どもたちが出店側として開催する「わたあめ」や「かき氷」などの体験会も人気です。

その場で食材を買うバーベキューイベントなども開催され、姉ヶ崎の駅前でも「自分たちの手でまちを楽しむ」動きが着実に広がっています。

【事例3】八幡宿駅周辺:

「お祝い」も「平日」もみんなで楽しむ場へ

市原市では、五井駅・姉ヶ崎駅に続き、八幡宿(やわたじゅく)駅周辺での活性化にも取り組んでいます。八幡宿地域では、まちづくりの実績がある民間団体「むすびあい」を2025年4月に都市再生推進法人に指定し、行政のパートナーとして共にまちづくりを進めています。

💡 式典だけではない、まちぐるみで施設オープン

2026年3月1日、八幡宿駅の西口に、古い公民館や支所などを1箇所に集約した新しい公共施設「やわたパレット」がオープンしました。この日、パートナーである「むすびあい」の皆さんは施設誕生を応援しようと、「八幡にぎわい横丁」イベントを同日に合わせて企画してくれました。

イベントでは、駅から「やわたパレット」へ向かう道路を歩行者天国にし飲食店などを出店したほか、地域の皆さんの心の拠り所である「飯香岡八幡宮」の境内でお囃子を演奏したり、移転によって空き建物となる「八幡公民館」を活用してダンスを披露したりと、エリア全体を巻き込んだ場を作り上げました。

行政だけでは施設内での式典(セレモニー)だけで終わってしまいがちなオープンが、多くの地域団体が連携する形へと広がりました。

💡 福祉との連携:1回目の反省を活かした誰もが楽しめるイベントへ

この「八幡にぎわい横丁」では、幅広い団体との連携も特徴的でした。開催メンバーの中では、「1回目は健常者目線になりがちだった」という反省があったそうです。そこで2回目となる今回は、障害を持つ方や福祉作業所、産婦人科協会などとも連携を図りました。

当日は、地元の中学校の子どもたちと一緒に視覚障害の方の歩行体験を行ったり、妊婦さんの疑似体験、福祉作業所の事業紹介ブースなどを設置。特定の層だけでなく、地域の多様な人たちが一緒になって楽しめるイベントへと進化させました。

💡 日常の賑わいへ:平日の夕方に寄り道できる「エキチカチャレンジ」

イベントによる一時的な賑わいにとどまらず、日常的な居場所を作る「エキチカチャレンジ」という試みも進められています。これは駅の東口前や、線路沿いのオープン前の道路を活用し、キッチンカーやテントに出店してもらうものです。

この試みは、あえて「平日火・水・木の夕方5時から9時頃」という時間帯で開催されました。学校帰りの中高生や仕事帰りの会社員が、日常の中でちょっと寄れる場所を作りたいという思いから始まった取り組みだからです。今年度は、にぎわい横丁の舞台となった西口側へ場所を変えて展開していくことが検討されています。


講演のまとめ

事例紹介の後、三澤さんは、次のようにまとめました。

「今日ご紹介した事例は市が直接やっているものではなく、すべて民間が主体です。

リノベーションまちづくりにおける行政の役割は、その地域で何かをしたい「人の発掘」をメインに、裏方としてサポートすることだと考えています。そのサポートとは、例えば行政の立場を活かした場所の確保、役所との間に入った事業化支援、プロモーションなどです。

皆さん自分の地域への愛着が強く、それぞれの地域で多くの方が活発に動いています。そうした人たちをさらに繋ぐため、毎月「いちはら会議」という交流会も開いています。

「まちづくり」と「探究学習」には、どちらも正解やゴールがないという共通点があるように思います。他市を含めいろいろな事例の中には完璧に見えるものもありますが、まちづくりにゴールはありません。常に挑戦し続けなければ現状維持すら難しいのが現実ですし、人口が増えたら増えたでまた違う課題が出てくるように、終わりはないのです。

若いうち、学生のうちに地域に触れて関わっておくことが、深い愛着に繋がっていくはずです。そうしてまちづくりと教育がつながっていくと、地域がもっと面白くなっていくんじゃないかなというふうに思います。」


ディスカッション

研究会の後半には、前半のお話を受けてディスカッションが行われました。オンライン上で質問ができるサービス「Slido」も使いながら、参加者と登壇者で議論を行いました。

ディスカッションを通して「まちづくりによる地域活性化と学校教育の連携」について多くの意見が交わされました。
ここからは、ディスカッションの内容を一部抜粋・要約して、Q&A形式でご紹介します。

Q.まちづくりの実行委員会は、どのようにメンバーを集めたのですか?

市原市の事例で言いますと、市が特定のメンバーを「選定した」わけではありません 。きっかけは市が開催したリノベーションスクールですが、これは有料で3日間を費やす非常にハードルの高い取り組みです 。だからこそ、そこに参加される時点で、まちづくりに対する強い思いや覚悟を持った方ばかりでした 。行政が採用したというよりも、熱量を持って自発的に集まった地域の方々に、市が伴走していったという形です 。

ただ、行政の立場や「仕事」として関わりすぎると、ルールや枠組みに縛られてかえって動きづらくなってしまう場面もあります 。そのため、私自身も一人の人間として、プライベートでもこの活動に参加しています 。

実は、立ち上げの時から小学生の長女を朝市の現場に連れていってお手伝いをさせていました 。長女が地域の人にかわいがられ、楽しそうに過ごす姿を見て 、下の子たちも「楽しそうだぞ」と一緒に行きたがるようになり 、今では家族ぐるみでこの活動を楽しんでいます 。

Q.実行委員会の方向性がばらばらにならないようにするには、どうすればよいのでしょうか?

大切にしているのは、行政や私自身が「こうしてください」と言いすぎないことです。

もちろん、取り組みが本来の目的から大きく外れそうなときには、「他の地域ではこうしていますよ」と事例を紹介したり、必要なアドバイスをしたりすることはあります。しかし、行政が主導しすぎて指示を出してしまうと、なかなか活動が続かなくなったり、参加者の主体性やモチベーションが下がったりしてしまいます。

実は、これまでにスクールで提案されたチームの中には、方向性の違いによって解散してしまったり、途中で辞めてしまったりしたケースもありました。すべてがうまくいくわけではありませんが、本日の事例は、今も活動が続いているケースとしてご紹介させていただきました。


ディスカッションでは、学校との連携について話が広がりました。登壇者からの回答にとどまらず、行政の担当者からの投げかけに対してフロアの先生方が複数名回答するなど、学校現場の実態に即した議論が大いに盛り上がりました。 

Q.行政の目線から、学校やクラス、授業といった大きな単位で動いてもらうのは、スケジュール調整や現場の負担を考えると難しいと感じています。一方で、地域としてはもっと関わりを持ちたいのですが、どのくらいの規模やタイミングであればスムーズな入り口になるでしょうか。 

この質問については、次に示すように、参加者の様々な実践事例や経験談が寄せられました。

【参加者の先生方より】

  • 「学校側のニーズを起点にすれば、学年単位でもスムーズに連携できる」 小学校6年生の『総合的な学習の時間』での事例ですが、市役所の担当課の方々を学校にお招きし、地域の現状や課題について講義をしていただきました。学校側に「これを学びたい、解決したい」という明確な目的さえあれば、学年単位のような大きな規模であっても、自然と地域を巻き込んだ連携が成立しやすいと感じています。
  • 「地域連携に積極的な先生ばかりではない」というリアルな声 関心はあっても、具体的に誰にどうアプローチすればよいか分からないという先生も多いのが現実です。日々の業務に追われる中で、自らアンテナを張って地域の活動に飛び込むだけの余裕が現場にないのではと感じる面もあります。
  • 「学校の置かれた周辺環境によって、地域連携の格差が大きい」という指摘 すべての学校の近くに商店街や協力的な企業があるわけではありません。一律の形を求めるのではなく、それぞれの学校や地域特性に応じた柔軟な関わり方を考えていく必要があると感じます。

行政と学校の連携には様々な課題があることが窺えましたが、学校側の目的意識や地域の特性に応じて、柔軟にコミュニケーションをとることがポイントになるようです。

Q.地域の活動を学校に知ってもらうには、どうすればよいのでしょうか?

以前は学校を通じて紙のチラシを一括配布できましたが、近年は教員の負担軽減などのルールにより制限されるようになりました。

かといって、デジタル配信に切り替えても、今度は大量の情報の中に埋もれてしまうというジレンマがあります。

地域の魅力的な活動をそもそも先生方に知ってもらう機会自体が少なくなっている現状をどう打破し、双方をどうマッチングさせていくかが今後の大きな課題だと感じています。

Q.高校生と地域が連携する事例には、どのようなものがありますか?

市原市青葉台では、地域の町会協議会と高校が連携し、高校生が作成した新聞を町会協議会のホームページに掲載したり、高校生と一緒に空き店舗をDIYしてカフェを運営したりしている事例があります。

地域にとっては、高校生の力を借りることで新しい動きが生まれますし、高校生にとっては、地域の中で自分の役割を持ち、社会と関わる貴重な経験になります。

一方で、最初に大きな熱量で立ち上がった取り組みも、続けていくのが難しい場面も出てきます。高校生自身の日常が忙しすぎるという問題もあります。

「立ち上げること」以上に難しいのは「続ける仕組みをつくること」です。そのためには、学校、地域、行政だけでなく、大学や企業など、外部の力をうまく組み合わせていく必要があると考えています。

Q.まちづくりにおいて、「お金」や「収益」はどのように考えればよいのでしょうか?

まちづくりや公共的な活動というと、「無償で行うもの」「誰かが利益を得てはいけないもの」と考えられがちです。 しかし、活動を継続するためには、資金が必要です。ボランティアだけでは続かないこともあります。

地域課題を解決するためには、自立した事業をつくり、きちんと収益を得ることも大切です。 人口減少や財政の厳しさが進む中では、地域の中で事業を生み出し、持続可能な形で活動を続けていくことが必要になります。 

「公共」と「収益」は対立するものではなく、活動を続けるためにどう設計するかが問われていると思います。

Q.学校教育の中で、子どもたちが「お金を稼ぐ」活動をしてもよいのでしょうか?

学校現場に関わる参加者からも、さまざまな事例が紹介されました。

【参加者の先生方より】

  • 高校の文化祭の例:高校では、文化祭で販売活動を行っても、利益は生徒会費に入れたり、寄付したりすることが一般的です。
  • 農業高校の例:農業科のある高校では、地域に農作物を販売し、その売上収入を学校の経費に充てることもあります。 
  • 小学校の実践例:小学校でも、授業で栽培したサツマイモを販売したり、子どもたちが作った作品を保護者に購入してもらったりする実践があります。

大切なのは、お金を扱うことを避けるのではなく、「何のために売るのか」「得た利益をどう使うのか」を子どもたち自身が考えることだという意見も出ました。

利益が出た場合、そのお金はどう扱えばよいのか

利益の扱いについて、藤川教授より、以下のような指摘もありました。

「学校にお金が入ってくること自体は、決して否定されるものではありません。しかし、そこで得られた利益を自分たちだけで、私的な利益として扱うのは適切ではないと考えています。学校という場は税金や地域のご支援によって成り立っている公共的な場だからです。

一つ重要なのは、お金には『人と人を結びつける媒介』という機能がある点です。お金が動くからこそ、地域の人と子どもたちとの間に確かなつながりが生まれます。

むしろ、そこからお金を排除してしまうと、持続的な関係づくりは難しくなってしまいます。だからこそ、教育現場でお金をいたずらにタブー視せず、お金がうまく回る仕組みを子どもたちの学習に取り入れた方が、活動も持続しやすくなるのではと考えます。」

まちづくりの考え方を、学校づくりに生かす

「行政を学校に読み替えると、まちづくりの考え方は学校づくりにも生かせるのではないか」という議論も起こりました。

ある先生からは、学校の中庭をリノベーションする実践構想が紹介されました。
普段あまり使われていない中庭に、子どもたちがベンチなどを配置し、どのように人の動きが変わるのかを検証するというものです。

さらに、AIカメラを用いて人の動きをヒートマップとして可視化し、子どもたちが「どこに置けば人が集まるのか」「どうすれば過ごしやすい空間になるのか」を考える計画もあるそうです。

これは、まさに学校の中に「まちづくり」の視点を取り入れる実践です。

子どもたちにとって、学校は最も身近な社会の一つです。
その学校を自分たちの手でよりよくしていく経験は、将来、地域や社会をよりよくしていく学びにもつながるはずだという意見があがりました。


まとめ(理事長·藤川教授)

研究会の最後に藤川教授は、 

「人口が増加している時代であれば、それぞれのセクションで頑張っていればよかったかもしれません。しかし、これから人口が減少していくなかで、社会をどうつなげていくかというと、やはり連携が非常に重要になってくるように思います。

学校教育においても、学校だけでやれる時代はもう終わりつつあるのではないでしょうか。

ですので、いろいろな人と手を組み、力を借りつつ、子どもたちも地域に貢献するという双方向の互恵関係のようなものを作っていかないと、学校も地域も生き残れないのではと感じます。

本日の研究会を通して、学校にまちづくりの発想を取り入れ、立場を超えて融合しながら連携していくという、一つの大きなヒントをいただいたと思っております。このようなテーマも取り上げながら、実践につなげていきたいと思います。」

と話を結びました。


今回の研究会では、公民連携によるまちづくりの具体例を通じて、学校と地域が単に協力するだけでなく、双方向に貢献する「探究的な学び」の可能性について深く考える機会となりました。

地域の大人が探究学習にボランティアとして協力するのではなく、学校や子どもたちが探究学習を通して、「社会の一員」としてまちづくりに参加していくという形は、非常に新鮮に感じました。

子どもたちが、自身が住んでいる地域への愛着を育めるような企画、イベント、生活環境があることは、とても魅力的に映ります。一方で、関心の高い一部の児童生徒ではなく「教室・学校単位」で、しかも用意された範囲の授業や課題ではなく、本物の地域課題に挑むとなると…

学校の先生方が実践に尻込みしてしまう気持ちもよく分かります。リアルな実践に伴う数々の想定外や準備の大変さは、日々の子育ての経験からも容易に想像ができるからです(笑)。

それこそ、学校のみに任せるのではなく、家庭が学校教育へ参加することや、学校の先生方の時間的余裕の確保など、現状では、学校単位で、子どもたちがまちづくりの一員として探究活動を行うには、クリアすべきネック(課題)も多く存在するとも感じました。

だからこそ、これらのハードルをどう乗り越えていくのか、さまざまな実践例に注目しつつ、ACEとしてどのような支援や活動が可能なのか、私たちも真摯に考えていきたいと思います。

最後になりましたが、ご登壇いただいた三澤さん、そしてご参加いただいた皆さま、ありがとうございました。


千葉授業づくり研究会の参加方法

千葉授業づくり研究会にはどなたでも参加できます。

興味がある方は、こちらの開催情報をチェックしてくださいね!Zoomを用いたオンライン配信による参加もできるので、遠方の方も大歓迎です。

【執筆担当 古谷成司(研究会担当・ディスカッション部分執筆)、篠崎実穂(広報)】
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