昨年度も卒業を迎えた学生スタッフたちが、それぞれの新しい道へと進んでいきました。その中の一人、千葉大学4年(当時)の岡田雪寧(ゆきね)さんは、自身が活動を通じて培った経験やノウハウを後輩へ繋ぐため、自主的なプロジェクトを立ち上げました。

彼女が挑んだのは、生成AIツール「NotebookLM」を用いたチャットボットの作成です。

試行錯誤の結果、最終的には別の形での引き継ぎとなりましたが、本記事ではその挑戦の舞台裏に迫るべく、岡田さん本人が綴ってくれた当時の文章をそのまま掲載します。
記事の最後には、担当職員から見たプロジェクトの背景や補足コメントも合わせてお届けします。

まずは、岡田さんがしたためてくれた振り返りの記事をぜひご覧ください。

岡田雪寧さん本人の言葉で振り返る: :

AIボット作成への挑戦と、後輩へ託す想い

NPO法人企業教育研究会(ACE)では、学生が研修を経て授業を担当するプロジェクトがある。私自身も、授業者として学校を訪れる機会を多くいただいた。授業者としてデビューするまでにはレクチャーや模擬授業などオフィスで活動する機会もあるが、一方で練習やデビュー後の自己研鑽など、自分で時間を設けて一人で向き合う時間も多かった。

そこで、あらたに ACEで授業者としてデビューする学生や、さらに授業者としてレベルアップしたい学生の不安や疑問を解消するチャットボットを制作している。具体的な使用場面例は、授業が近づいて不安になったときには「あと〇分で最終チェックをしようと思うのだけど、優先順位は?」、「〇〇というようなトラブルが起こったらどうしよう」などと投げかけると返ってくるようなものである。ACEの授業者としての準備やトラブルに対する対応という限定的な状況に関する情報を、正確かつアクセスしやすく提供するため、授業者の先輩から収集した情報を読み込ませたNotebookLMを用いている。

(※NotebookLM:自分がアップロードした資料やデータだけを元に、AIが的確に質問に答えてくれるGoogleのツールです) 

「授業者デビューする前日に、作成したNotebookLMへ質問を投げた例」

つくった理由は「学生スタッフがACEでの活動を通じて培ってきたノウハウを、学生の間で繋いでいきたい。」から。でも、初めはそんな前向きな気持ちではなかった。

2025年3月、先輩方が卒業されて自分がACEで活動できるのもあと1年。あと1年で授業をたくさんしたいと思ったときに、急に寂しくなった。たくさんのことを教えていただいた先輩方の背中が急に遠くなって、「もっと教えてよ。その経験、ACEに残していってよ。」と赤子のように思った。(学生が入れ替わる組織で卒業という門出に際して抱く感情としては、非常に幼いですね。)

新たに授業者としてデビューする学生の模擬授業に出て、経験者面して何か話すたびに、「私これ、先輩たちに教えてもらったものなんだけどな。」とか、「その時の状況によっても授業者によっても策は変わるから、私の経験以外についても詳細に伝えられたらいいのに。」と思うことが多くなった。授業実践を重ねても毎回緊張する自分に頼りなさを感じるとともに、頼もしい先輩方の背中を思い浮かべて学校に着く直前で必死に背筋を伸ばした。

でも、形にするアイデアはなくて。いろいろな先輩や同期や職員さんに「私のACEへの恩返しとしても、ACEの学生の経験をみんなで共有したいな、という思いがあるんだけど、どうしていいか分からなくて」と言い続けた。いいね。って、協力するよ。って言ってくれる人は多かった。一方で、具体的なアイデアにたどり着くのは10月を待つことになる。

10月の千葉授業づくり研究会後の懇親会で、職員の明石さんと篠崎さんに上記の願望をこぼしたとき、「授業前夜の不安に寄り添ってくれたり、こんなことが起こったらどうしよう。に答えてくれるチャットボットをつくったらいいのでは。」というアイデアをいただいた。盛り上がる中で、「授業前夜に急に不安になったりするからこそ、人間には連絡しにくい時間にも答えてくれるAIがいいかもね。」「〇〇先輩はこうした、って分かると心強いね。」などの言葉に「それかも」と思った。様々な方法を比較検討できたわけではない。

とはいえ、AIのことも知らないし、先輩方の連絡先を持っているわけでもない。完璧な構想を立てられるわけでもない。仲間づくりからだ、と思った。

「初期の段階から協力してくれた、心強い味方の菅谷さん(左)と」 

早い段階で協力するよ、と伝えてくださった同じく学生スタッフの菅谷さんに一緒に構想を考えていただいた。その際、菅谷さんから「学生担当職員の山田さんに、早めに相談しておくといいんじゃないかな、同期や一つ下の学年なら連絡回せるよ、でも卒業生に回す前に同級生に協力してもらって情報収集の方法を揉んでおくといいかもね」と様々なアドバイスをいただいた。

そこで、実際に職員の山田さんに相談してみたところ、「使ってもらうための動線まで考えられるとより面白くなると思うよ」と、私への期待があることを示しながら、もっともで的確な助言をいただいた。

AIについては、生成AIの教育活用について研究されている職員の岡野さんに相談した。細かい運用は工夫の余地があるけど、NotebookLMを使えばおおむね目的は達成されると思うよ、フォームで情報集めるとしても、スプレッドシートで読ませるよりはドキュメントに起こしたほうが正確に出力される可能性は高くなると思うよ、と私の漠然とした疑問に対して詳細に答えてくださった。

同時期に卒業する学生の皆さんには、先輩方に記入していただくフォームの設計について助言をいただいた。「自分が経験したことだけでなく、『〇〇みたいなことがあったらどのように対応するのがいいと思う?』という想像を膨らませて回答できる問われ方をしたほうが、協力できる範囲が大きい」という意見をもらって、反映させた。すごく心強かった。

授業者をしている他の学生にはモニターをお願いし、チャットボットの使用感に関するフィードバックをいただいた。「全体的によく励ましてくれるから不安の解消にはいいと思うけど、トラブル等に対する具体的対応については『直接的な記述は見つからない』という回答が多くて、解決しないことも多かった」という指摘もあった。さらにソースを集める必要を痛感するとともに、具体的な対応を想定するためにこのツールを使用しようとしてくれたことに頼もしさを感じた。応えられるものを作りたい、とも思った。

諸先輩方にはきっとご多忙だったのに、ACEでの経験をたくさんたくさんご共有いただいた。私が想像していたよりもよほど多くの先輩方が協力してくださった。激励の言葉までいただいたりもした。先輩方の気持ちを無駄にはできないと、気が引き締まった。

そして今、私の手元には先輩方や今年で卒業していく学生の知見が集まっている。これを無駄にはできないという使命感もある。でもまだまだ未熟で成長の余地が多々あるチャットボット。みんなの経験が蓄積されるほどに真価が発揮されるだろう。(カッコつけています笑)

授業後の振り返りフォームも作成し、NotebookLMへのソースの追加を引き続き所属する学生スタッフにお願いしている。自分の授業力向上に向けた振り返り、あるいはACE全体の授業力向上に関心を持ってくれる熱心で素敵な人がいたらぜひ、経験を共有してくれるととても嬉しい。

押しつけがましいが、先輩方に回答いただく中で多かったのは、授業や教材の開発に興味があって入ったけれど、それほど関われなかったなぁというもの。主体となって授業開発をされていた先輩たちに話を聞けるうちに、学生主体の授業開発についても情報を集め、アクセスしやすい形にまとめてみたかったなと思う。必要があれば熱意のある誰かがやってくれるだろうという期待を込めて、ここに記しておく。


ノウハウ引き継ぎの裏側で浮かび上がった、技術的・管理上の課題

後輩を想う岡田さんの一連の活動について、いかがでしたでしょうか。その純粋な熱意に、深く心を動かされた方も多いのではないでしょうか。

岡田さんが振り返りのなかで「みんなの経験が蓄積されるほどに真価が発揮される」と後輩へ託してくれたチャットボットですが、いざ組織として継続運用していく段階になり、アカウント管理や管理責任という情報システム上の課題が浮上しました……。

検討の結果、ツールとしてのNotebookLMの導入は残念ながらいったん見送ることとなりましたが、岡田さんが周囲を巻き込んで集めたデータや、授業後の振り返りフォームという仕組み自体は非常に貴重なものでした。

こうして集まった16名分の卒業生アンケートデータは「ACEの共有データベース」へと保存され、現在は新入会員向けの研修資料(学生用資料)にする案もあり、その活用法を検討中です。

学生担当職員(山田さん)より

ACEでは学生の主体的な活動を応援しています。組織の成り立ちやこれまでを振り返っても、学生スタッフが中心となって周りの学生や大人を巻き込みながら成長を遂げてきました。

しかし近年、コロナ禍によって授業のメインがオンラインへと移行した際、これまでの対面を中心とした授業ノウハウの継承が難しくなりました。同時期に激減した学生スタッフが再び増え始め、授業が再び対面へと戻り始めた頃に入会した岡田さんたちは、途絶えかけていた対面での授業実施ノウハウを手探りで集めていく必要に迫られていたことと思います。

だからこそ、ノウハウの価値を深く理解し「後輩へ引き継ぎたい」と立ち上がってくれたことは、先輩の姿として非常に頼もしいものでした。今回は運用見送りとなりましたが、岡田さんの挑戦は授業ノウハウの引き継ぎだけでなく、「誰かのために、組織のために何かをしたい」と思い、行動していく姿勢も次の世代へ引き継いでくれたのではないかと思います。岡田さんだけでなく、岡田さんの背中をみていた後輩たちのこれからも楽しみです。

最後に

AIボットという当初の形からは変わりましたが、岡田さんが残してくれたバトンは新年度へと引き継がれました。 

岡田さんが記事の中で触れてくれていた10月の懇親会で、直接「ACEに恩返しがしたい、後輩に経験を繋ぎたい」という相談を受けたうちの一人が、広報担当である私(篠崎)でした。彼女のその気持ちが本当に嬉しく、そこから多くの人を巻き込んでここまで形にしてくれたことに、深く感動しています。

学生担当職員の山田さんは、学生発案の自主的な活動を心から喜びつつも、手取り足取り教えるのではなく、その主体性を重んじて寄り添う姿勢を大切にしているように感じています。

そのおかげもあり、自ら仲間づくりに奔走したり、いろいろな職員に声を掛けたりする姿を見て、「岡田さんにとって、卒業前に、より濃いACEの活動ができたのでは?」と想像し、心ひそかに喜んでいます。

実際には、職員にとっても不慣れな、世に出たばかりの新しいツールを使う試みだったため、いざ運用する段階で想定通りに進まない難しさがありました。最終的にボットという形で実装させてあげられなかった申し訳なさも残っています。

それでも、思い通りには進まないというリアルも含めて、後輩のために自発的に動き、試行錯誤を重ねてくれたプロセスそのものに、何よりの価値があると感じています。

卒業後もACEの授業づくり研究会へ参加したりと、今でも顔を見せてくれている岡田さん! 

ACEでの活躍の日々、本当にありがとうございました。新天地でのこれからの挑戦を、心から応援しています。


岡田 雪寧(おかだ ゆきね)さんの紹介

千葉大学園芸学部 食料資源経済学科4年(当時)

ACE学生スタッフとして、マイナビやソニー等、数多くの出張授業現場を経験。「自分の中にあるものと外の情報がつながる瞬間」を愛し、生徒たちへ“気づきの種”をまくことに情熱を注ぐ。高校農業の教員免許を取得する傍ら、在学中から農業スタートアップでのインターンやサークル活動など、多方面から「食と農」にアプローチしてきた 。好きな漢字は「砕」。思い入れのある物事を語る人の目の輝きをこよなく愛す。趣味は「い・ろ・は・す」の採水地別飲み比べ。現在は農業スタートアップの道へ。

 

【企画・構成:篠崎実穂(広報)】
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