東京都にある文教大学付属中学校・高等学校の進路指導をご担当している井口先生による実践のご紹介です。

本実践は「ひな社長の挑戦」の実施と、出張授業「ゆら社長のジレンマ※」を組み合わせたアレンジが特徴となっています。

中学3年生を対象に4クラスの担任教諭と井口先生が連携し、各クラスの担任教諭がそれぞれのクラスの生徒に向けて「ひな社長の挑戦」の授業を実施いただきました。
学習の進度に合わせて3つのミッションを6時間で実施し、最後に「ゆら社長のジレンマ」の出張授業で学習を締めくくっていただきました。

※出張授業「ゆら社長のジレンマ」についてはこちらをご参照ください。

  2023年度の実施スケジュール

<アレンジのポイント>

・年度末に新年度の導入に向け、実施する目的や時期を検討
・起業の「体験」ということを重視した無理のない進行
・教員ガイドをもとにクラス担任教諭へデータ格納場所などを事前に共有
・Googleスプレッドシートは使用せずExcelで作成
・「ゆら社長のジレンマ」を実施することで起業後の経営とつなげたまとめ


※下記よりクラス担任教諭間で共有したプリントをダウンロードいただけます。

「ゆら社長のジレンマ」授業の様子

「ひな社長の挑戦」を実施していたので、その25年後を舞台とした授業の設定にも慣れた様子で授業に参加していました。

<導入の動画を見ている様子> 
 <弊会講師による進行の様子>

6つの部署に分かれて議論する際には、ゲスト講師がサポートに入り経営判断に必要な情報の見方や意見を集約する際のアドバイスをしました。

<ゲスト講師が議論をサポート> 
 <各選択肢について議論>

企画をした井口陽子先生より

 中学2年生までの「総合的な学習・探究の時間」の取り組みに新たな視点を加える教材を探していた2023年3月初旬、東京新聞の「教室で起業を疑似体験」という記事を見つけたことが、「ひな社長の挑戦」と「ゆら社長のジレンマ」を企画したきっかけでした。企業教育研究会のホームページより教材をダウンロードし、年間計画の中でどの時期に実施するのが良いか考えをまとめた上で進路指導部で案を出し、学年の状況を見ながら夏休みに入る前の学年会で大まかな計画を示しました。

 職業人講演会などを間にはさみながら、修学旅行後の11月から1月の間に「ひな社長の挑戦」に各クラス6時間取り組み、2月に「ゆら社長のジレンマ」の出前授業を2時間受けました。私は学年の副担任を務めていたので、実際の授業を展開するクラス担任へ授業ごとの進め方を伝え、資料の印刷や準備を行いました。実施するにあたって重視したことは、ひな社長の世界観・ストーリーを理解してタスクに取り組むこと、全てのタスクをガイダンス通り終わらせることよりもタスクを通して起業を体験することを優先したことでした。

「ひな社長の挑戦」での活動があったからこそ「ゆら社長のジレンマ」で部署ごとの話し合いができたように思います。中学生にとって「ゆら社長のジレンマ」のテーマとなった「ワークライフバランス」は身近な言葉ではなかったようですが、議論していく中で実感を伴った理解につながったように思います。生徒たちの反応の中でも「心身ともに健康で働くことがとても大切だ」という感想が印象的でした。
 計8時間の活動の中で、生徒たちは起業を体験し、働くことは様々な人々とのつながりで成立していることに気づけたのではないでしょうか。

「ひな社長の挑戦」を実施し
「ゆら社長のジレンマ」を参観した先生方より

「ゆら社長のジレンマ」の出張授業では、生徒たちが部署(グループ)に分かれて責任感を持ち、活発に取り組む姿が見られました。一見難しそうな資料にも真剣に向き合い、各部署内外での話し合いが活発に行われ、それぞれの意見を尊重しながら討論が進められました。意思決定の場面では、各部署が意見をまとめ、メリットとデメリットを整理するなど、本格的なビジネス体験をした様子が伺えました。中学生でも自分の知識や発想を活かせる内容であり、学びの幅が広がったと感じられる一方で、コンサルティングの本質的な一部を取り扱った内容であることから、偏った理解を防ぐ工夫が必要な場合があると感じました。全体を通して生徒たちが主体的に取り組める貴重な学びの場となりました。

2024年12月21日(土)に開催された第167回「千葉授業づくり研究会」。今回のテーマは、「テレビドラマ制作から学ぶ多様性の視点〜教育現場での活かし方とは〜」です。授業づくりや教育コンテンツを作るとき、特定のマイノリティを描くときには描かれ方が固定的にならないように工夫を行う必要があります。

  

今回の研究会では、NHKエンタープライズ第1制作センター社会文化部 シニア・プロデューサーの坂部 康二さんをゲストにお迎えし、講演いただきました。坂部さんは、これまでNHKにて同性愛者や障害のある人を描くテレビドラマの制作に携わってきました。

本研究会では「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」や「デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士」、「作りたい女と食べたい女」等のドラマ作品の制作現場にて、多様性のあるキャストとともに実践した取り組みや試行錯誤した経験を中心にご紹介いただきました。

  
研究会の後半は、千葉授業づくり研究会では定番のディスカッションの時間。今回は第165回千葉授業づくり研究会にて「授業づくりにおける表現と差別・ステレオタイプを考える ~想像と創造のサイクルの中でジェンダーや人種をどう考えるか~」のテーマでご講演いただいた山本 恭輔さんも加わり、大盛り上がりでさまざまな視点から意見が交わされました。

  

※山本 恭輔さんに登壇いただいた第165回研究会のレポートはこちら

坂部 康二さん講演「テレビドラマ制作から学ぶ多様性の視点~教育現場での活かし方とは~」

NHKエンタープライズ第1制作センター社会文化部 シニア・プロデューサー 坂部 康二さん

坂部さんは、「最近のNHK、攻めてる?」と問われることがあるそうです。

  

2024年には、日本史上初、女性の立場で法曹の世界で道を切り開く佐田 寅子たちの姿を描く連続テレビ小説「虎に翼」が大きな話題となりました。作中では、女性の生きづらさを中心に朝鮮人留学生や同性愛者、異性装などの声を上げることが難しかった人の姿も描かれています。

  

また、ドラマ「%(パーセント)」は作中の若手プロデューサーが、「障害のある俳優を起用する」条件でドラマ制作に奔走するお話です。本作では、実際に障害のある方をキャストに起用しています。

  

坂部さんは、現在のNHKのドラマ制作では「なぜ今これをやるのか」が求められ、そのため、何らかの問題提起がされることやドラマを通して気づきを得ることもドラマ制作の大切な要素だと話しました。また、社会的な意義を求めるだけではなく、エンターテインメントとしておもしろいものを作る姿勢もドラマ作りでは重要です。

  

本講演会では、坂部さん自身が作品制作に携わったドラマ作品「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」「デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士」「作りたい女と食べたい女」での取り組みを例に、そこから得た気づきや経験をご紹介いただきました。

ダウン症当事者をキャストに迎えたドラマ制作

「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」は作家・岸田奈美さんの家族について書かれたエッセイを原作にした連続ドラマです。

  

ベンチャー企業家の父は他界、母親は突然車いす利用者となり、弟はダウン症、祖母にはものわすれの症状が出始めている。そんな情報過多な家族のできごとが、原作同様にドラマでもあたたかく描かれています。

  

本作のドラマ化では、ダウン症の弟役の「草太」に、自身もダウン症である俳優・吉田葵さんを起用しています。本作ではダウン症のある「草太」が重要な役柄となります。ダウン症がある方の起用について、坂部さんは「むしろ、なぜダウン症の方を起用しないと思うのか」という考えで、ダウン症の当事者である俳優を集めたオーディションを実施しました。NHKにはマイノリティーをテーマにしたバラエティ番組『バリバラ』を手掛けるなど、障害に対し知見を持つ福祉班があります。今回のオーディションでは福祉班のスタッフにも相談し、日本ダウン症協会にオーディションに興味がある俳優の紹介を依頼することになりました。

  

坂部さんは「ダウン症のある人という括りでつい考えてしまっていたが、実際にお会いするとダンスや絵が得意な人、シャイな人、障害の程度など、オーディション参加者一人ひとりに当然ながら個性がある。その中で役柄に合うのは誰かということを考えた」とオーディションの様子を振り返ります。さらに、作中に登場する草太の子ども時代の回想シーンや草太の同僚役にもダウン症のあるキャストを起用しました。

  

撮影現場ではダウン症に対する考証や監修の専門家とは別に草太役の吉田さん専属のサポート担当も配置されました。専属のサポーターがいることで、脚本の解釈や演技指導のサポートに加えて、ドラマの撮影に慣れていない吉田さんに、現場のルールや他のスタッフへのコミュニケーションの方法を繰り返し時間をかけて伝えることができました。また、送迎や家での台本の読み合わせなど、家族による支えもありました。

  

オーディションでは、実在の岸田奈美さんの弟である良太さんに見た目や知的レベルを合わせることは考えず、あくまでもフィクションであることを念頭に選考が行われました。また、原作で良太さんが好きなコーラを飲むシーンがあるのですが、ドラマ撮影では演じる吉田さんの好みに合わせてリンゴジュースに変えたといいます。作中でコーラが重要な意味を持つわけではないので、古田さんにわざわざ苦手なコーラを飲んでもらい、おいしそうな演技をしてもらう必要がないことが理由です。また、草太がコーラではなくリンゴジュースが好きな役となっても、作中にはデメリットはないとも判断されました。

  

坂部さんは、ダウン症がある人でも、ない人であっても「その人が何を求めているのか」が大切だときづいたと語ります。これは、教育現場でも1人1人に向き合う際に通じる視点なのではないでしょうか。

『デフヴォイス』ではろう者やコーダの当事者とともに撮影

「デフ・ヴォイス」は、草彅剛さん演じる、コーダの手話通訳士がろう者の法廷通訳に奮闘する様子を描いたミステリー作品です。コーダとは、「きこえない親を一人以上もつ(きこえる)人」を指します。本作では、主役の草彅剛さんら主要なキャスト以外には、役柄に応じてコーダやろう者、難聴者が起用されました。

約80人もの人が参加したオーディションでは「ろう者・難聴者の俳優向けのオーディションがあること自体がうれしい」との声があったようです。このようなコメントの背景にはメインの配役にろう者や難聴者が出ることが少ない事情があります。

  

ここでも、撮影の際には、専門知識のあるスタッフによるサポートや演技指導が行われたそうです。

俳優に声かけが通じない課題があるため、撮影の前に模擬撮影が行われました。声ではなく合図を送る人が役者の見える位置に立ち、手を上から下げることで「撮影スタート」を伝達する形になりました。模擬撮影をすることで、1つの撮影を作るチームとして団結することができたそうです。

  

また、撮影期間中には、とあるスタッフが「草彅剛さんのような有名人と共演することをどう思うか」と、ろう者の俳優に尋ねると「同じ俳優として学ぶことがありますよね」と対等な俳優としてのコメントが返ってくる場面があったそうです。ついつい「ろう者なのに草彅さんと共演できてうれしい」という回答になると思い込んでしまう偏見があると気づいた例として紹介していだきました。「スターと共演できる場を作ってあげた」という認識ではなく、プロの俳優として接することが大切なのです。

当事者が演じることの正しさとは

ここまで当事者が自分に近い役柄を演じる撮影の例を紹介しましたが、坂部さんはこのようなキャスト起用をすべてのドラマに当てはめるべきだとは考えていません。

  

「当事者が演じればそれでいいのか」

「当事者が頑張っていることに感動していないか」

「当事者に合意を取れているのか」

など、常に自らに問い続ける必要があります。

  

特に、当事者が自分に近い役柄を演じる場合には、当事者性の開示が生じます。性的マイノリティの役柄を演じる人が、自分自身の性的指向を開示する必要性があるのかというと、そうは言えません。あらゆるマイノリティにはそれぞれ固有の背景や歴史があることを考慮する必要があるのです。

  

講演では、坂部さんが携わった「作りたい女と食べたい女」のドラマの例をご紹介いただきました。この作品では、料理が趣味の女性・野本さんが、同じマンションの女性・春日さんと2人で料理を作って食べることで交流を深めていきます。次第に、野本さん自身が、自分はレズビアンで春日さんに恋心を持っていることに気づきます。

「作りたい女と食べたい女」の撮影ではレズビアンの俳優の起用には至りませんでしたが、ジェンダー・セクシュアリティについて俳優・スタッフに向けて講習会を行ったそうです。同性愛を描く作品を扱うため、関係者全員が安心安全な環境で撮影に臨みたいよねということで実施されました。

坂部さんは、現在は長期的な「移行期間」であると捉え、今後は当事者の人が演じる機会となるバトンをつなげたいと考えています。

また、「多様性やコンプラによってテレビが息苦しくなったのか」と坂部さん自身に問うと、答えは「NO」であるそうです。多様な人がドラマに登場することは、これまで語られなかった人の声が聴こえるコンテンツを生み出せる社会であるためです。むしろ、これまでは言葉遣いや言い方に配慮がされずに、誰かが嫌な思いをして作られているコンテンツがあったとも考えられます。

坂部さんは「テレビドラマの力で生きづらい人をエンパワーメントし、理解を広げるきっかけにしていきたい」とお話してくださいました。

◆通行人Aやスタッフにも多様性を反映させてはどうだろうか

講演の締めくくりには、坂部さんがこれからの展望として考えていることを3つお話いただきました。

  

1つ目は、「通行人A」のような人物に多様性を反映させることです。例えば、「背後を通り過ぎるだけの人物が車いす当事者である」「主人公の恋人の弟が障害のある人や性的マイノリティの人物である」などのように、物語に直接的に寄与しない役柄にも多様性を反映させられるのが理想です。

  

2つ目は、俳優以外に制作スタッフにも多様性のある方に入ってもらうことです。マイノリティの方にもメインのスタッフとしてかかわってもらうことで、「『彼ら』の物語から『私たち』の物語」へと意識を変容できるのではないかと考えます。

  

3つ目は、「Race&Ethnicity」がキーワードになります。今は、海外ルーツの人が増えているけれども、ドラマやテレビではそこまで反映できていません。人種と民族に注目し、「ミックスルーツ(いわゆる”ハーフ”の方)」が主人公のドラマなどを作りたいとお話いただきました。

  

ここまでの3つの指摘を受け、学校教育でも多様性のある方への接し方を見直す必要があるように感じました。多様性のある方への配慮も大切ですが、多様性を反映させる環境づくりも重要な視点となるのではないでしょうか。


◆表現のリスクや多様性の受け入れ方を考えるディスカッション

研究会の後半は、千葉授業づくり研究会定番のディスカッションの時間です。オンライン上で質問ができるサービス「Slido」を使用して、参加者と登壇者で議論を行います。今回は、第165回研究会の講師・山本 恭輔さんにも司会やコメントをしていただきました。

ここからは、ディスカッションの様子を一部抜粋要約してご紹介します(敬称略)。

Q(山本)講演会の最後に表象頻度の話があったのが気になりました。表象される頻度が少ない属性はステレオタイプ化しやすいので、自分が他者をどうまなざすのかを知ることが大事だと思います。

しかし、多様性やマイノリティを扱った作品を打ち出すことには意味があるものの、そういう人物像としてラベリングされる可能性もあります。プロデューサーとしてどう向き合っていますか?

  

(坂部)ラベリングされることはあるかもしれません。自分の打ち出し方は、「女性同士の恋愛を描いた物語です」「ダウン症の家族が出てくる話です」などの事実の情報だけを出すように心がけています。ただし、見られ方としてラベリングだと捉えられてしまう可能性はあります。それでも、お説教や学習ツールだけではなく、「エンターテインメントとしての面白さ」を伝えることも意識しているので、そこが伝わらないのならば残念ですし自戒する部分になります。

  

  

Q(参加者)最近いじめ防止の教材づくりに携わることが多いです。意味があると思っていじめの描写を入れることがあるのですが、心のどこかで「自分の作った表現で傷つく子どもたちがいるのではないか」と考えてしまいます。

番組作りでも同様のリスクがあると思うのですが、何か対策していることがあれば教えてください。

  

(坂部)全く誰も傷つけないというのは非常に難しい話になります。例えば「作りたい女と食べたい女」の原作の漫画では、作品の冒頭で「〇〇な描写があります」という注意書きがなされており、体調や気持ちに応じて読むかどうかを選択できます。また、ドラマでもそういう注意書きを出すこともあります。ただし、今回のドラマ制作では、漫画よりも表現が弱まっている面があることや、1つ入れると他の場面でも多く注意を出す必要が出ることなどを踏まえて、注意書きを入れない判断をしました。注意書きをいれなかったことは最終的に大きなトラブルにつながってはいないものの、もしかすると人によっては傷ついてしまったかもしれません。

一方、いじめの教材づくりの場合を考えると、いじめる側のキャスティングに難しさを感じます。男性と女性どちらにするのか、体格はどうするのか、など。もし、「一般的にいじめる人はこういうルックスだろう」のようなステレオタイプがあるとすれば、あえて外してみるのが良いのではないでしょうか。

  

  

Q(参加者)坂部さんのお話を伺って、「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」の現場でダウン症の方とお仕事をする中でいろいろな学びがあったのだと感じました。

坂部さん自身に多様性を受け入れようという人柄がある印象を受けたのですが、他のスタッフの方には研修などがあったのですか?

  

(坂部)ドラマ「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」の現場では特にNHKとして研修があったわけではありません。ただ、2〜3か月と長期の撮影の中でほぼ毎日顔を合わせる中で、スタッフと俳優の関係性が結ばれたように思います。

  

【記事担当:千鳥あゆむ】

NPO法人企業教育研究会(以下、ACE)は、IBMとパートナーシップを結び、大学生を対象とした無料の学習プラットフォーム「IBM SkillsBuild」を大学教育の中で活用するサポートを行っています。

  

2024年10月から11月にかけて、千葉大学の全学副専攻プログラム「環境サステナビリティ実践学」の必修科目として「企業における環境サステナビリティ」が開講されました。

  

持続可能な社会の実現に向けて、特に、環境・サステナビリティの観点から、企業等がどのような取組を行っているか、それが組織経営にどのように関わっているのか、業界にどのような影響があるのか、企業経営者や企業に所属する社会人をゲスト講師として招き、千葉大学教員とのディスカッション等を通じて実践的な学びを深める講座になっています。

  

千葉大学「環境サステナビリティ実践学」

  

この講義の中のオンデマンド型メディア教材として、IBM SkillsBuildのサステナビリティに関する学習コース「保全を超えたサステナビリティーへ」を活用していただきました。持続可能な社会のために、「保全」だけでなくより広い視野に立って、データ分析などの情報技術を活用することの重要性が学べる点が講座のテーマと合致しているということで、受講生に学習していただきました。

履修登録した学生が500名を超える中で、ACEはIBM SkillsBuildの一括ユーザー登録や、学習結果の情報提供をサポートさせていただきました。

  


  

【 千葉大学大学院国際学術研究院  片桐大輔 教授より 】

  

環境・サスティナビリティを考える場合、ともすると、環境サスティナビリティとは「環境保全」の側面だけが強調されがちさかもしれません。しかし、「企業における“サスティナビリティ”」を考えますと、実際に企業が取り組んでいる活動は多種多様ですので、ゲスト講師の生の声をお聞きし、具体的な事例から学ぶことに大きな意味がありました。

  

一方で、どの企業や団体の環境サステナビリティ活動も、理化学、工学、医学、社会科学や、データサイエンスの活用など、横断的に知識や技術を活用しつつ、それぞれの得意な分野を活かしながら行われている点は共通しています。

その視点をストーリーに沿って学べるWeb教材として「保全を超えたサステナビリティーへ」はぴったり当てはまる内容でした。学習の最後にはそれまでのコンテンツで学んできた内容を理解していないと解けない確認テストもあり、大学の講義のオンデマンド教材として、ぜひ活用したいと考えました。

  

IBM SkillsBuildの中には、他にも魅力的なプログラムがあります。今後も学習目的と合致すれば、他の講義でも教材として採用して、学生の学びを豊かにしたいと思います。

  


  

IBM SkillsBuildでは無料で最新のIT技術を学べるだけでなく、コース修了後に取得できるデジタルバッジを通じてその成果を証明でき、将来のキャリアにとって非常に有益です。この取り組みにご興味のある全国の大学教育関係者のみなさまは、まずは以下のお問い合わせ先にご連絡ください。

  

本件に関するお問い合わせは以下までお願いいたします。

NPO法人企業教育研究会 IBM SkillsBuild事務局 MAIL:info@ace-npo.org

2024年11月16日(土)に開催された、第166回「千葉授業づくり研究会」。今回のテーマは、近年注目のメタバースとも関連する「学校教育におけるVRの活用を考える」です。VRを用いてインターネット上の仮想空間に入ると、その場にいるかのような没入感を感じることができます。今では、学校教育の場でもメタバースやVRの活用が検討されています。

今回は、Meta日本法人Facebook Japanの栗原さあやさんにメタバースのビジョンやVRの教育活用などをお話いただきました。さらに、VRヘッドセットである「Meta Quest」の体験会や横浜市立東高等学校の黒木京子副校長による実践のご紹介も行われました。

この記事では、研究会の様子をレポートしていきます。VRやメタバース、最新技術を用いた教育に関心のある方は、ぜひチェックしてくださいね。

◆栗原さあやさん講演「学校教育におけるVRの活用を考える」

今回の千葉授業づくり研究会は、「学校教育におけるVRの活用を考える」がテーマ。

Meta日本法人Facebook Japanの栗原さあやさんにMetaの考えるメタバースのビジョンやVRの教育活用などをお話いただきました。さらに、横浜市立東高等学校の黒木京子先生にはメタバースモデル校での実践の様子や課題もご紹介いただきました。

ここからは、研究会の様子を抜粋しながらまとめていきます。

◆メタバースのビジョン

Metaは「人と人の“つながり”の未来とそれを可能にするテクノロジーの構築」をミッションとしています。同社のFacebookやInstagramなどの提供サービスには人々のつながりを大切にしたものが多く、今では全世界で32.9億人ものユーザーに利用されています。

「メタバース」は、SNSやコミュニティなどソーシャルテクノロジーの次なる進化の形を指します。Metaとしては、メタバースを「人と人をつなぐソーシャルテクノロジーの次なる進化」だととらえており、物理的な世界ではできないことを可能にして大切な人とより深くつながる、相互接続されたデジタル空間だと考えているそうです。

メタバース空間であれば、離れた場所にいる人たちでも相互にコミュニティに参加できます。加えて、没入感のある体験や相互運用性もメタバースの特徴です。

数年前だとテキストや画像が中心だったデジタルコンテンツの共有も、今では動画の割合が高くなっているようです。そして、今後は、VRやARのような没入感のあるコンテンツの共有が増えることをビジョンとして考えているともお話いただきました。
そして、Metaではメタバースの実現をテクノロジーやツールの強化でサポートしているそうです。たとえば、VRヘッドセット「Meta Quest」シリーズやソーシャルVRプラットフォームである「Meta Horizon Worlds」の開発もMetaが担っています。

VRの教育利用・活用事例

栗原さんにはVRの教育利用や活用事例もご紹介いただきました。Metaでは、新しいテクノロジーを教員の代替手段とするのではなく、教員が得意な「教える」方法を技術でサポートすることを目指しています。技術には正解の使い方があるわけではないので、先生たちや開発者などで一緒に考えていくのが理想的です。

また、メタバースの没入型の体験は、動物の解剖実験のシミュレーションにVRを使うなどの「コスト削減」や登校が難しくても遠くから授業に参加できる「アクセシビリティの向上」、さまざまな学習者が同じ土俵で学べる「公平性の向上」などの利点をもたらします。

このようなメタバース空間を利用することで、より多くの人たちの学習へのアクセス向上が期待できます。また、VRの没入感で集中しやすくなる例や語学学習でデスクトップよりもVRのほうが高い定着率であった事例など、VRによる教育的なメリットも紹介されました。

さらに、栗原さんには、実際の教育現場でのVR活用の例として、角川ドワンゴ学園でのVRを使った教科学習や部活動の様子をご紹介いただきました。Metaと同校の連携のもと、XRクリエイター育成の取り組みの一環として、「メタバース学園ドラマ制作プロジェクト」というプロジェクトも実施されたそうです。


加えて、横浜市消防局での活用事例もお話いただきました。近年では、知識や経験を積んだベテランの消防隊員が減り、経験の浅い若年層の隊員が増えているそうです。若年層が経験を積むためには訓練が必要ですが、火災件数自体が減る中、火を使った訓練はCO2を排出するため頻繁に実施できません。このようなときにVRを使えば、火を使わずに現場に近いシチュエーションで若年層が経験を積むことができます。

◆黒木京子先生による取り組み紹介
「未来の学びに挑戦 メタバースモデル校の取り組み」

横浜市立東高等学校 黒木京子先生

横浜市立東高等学校 副校長の黒木京子先生にも勤務校での実践をお話いただきました。

横浜市立東高等学校では、メタバースモデル校として実際の教育現場でのVR活用を試行錯誤しています。今年8月にVR授業用の部屋の改装を終え、9月以降にはPTAや他校の校長先生、一部の生徒にヘッドセットをつけてVRの体験会を実施したそうです。

また、横浜市では「グローバルモデル校」という国際的な人材を育てるためのプロジェクトも実施されており、横浜市立東高等学校では国際交流の中でメタバースを活用する準備を進めている段階です。ですが、その準備を進めつつも、国際交流の用途に限らず、通常の授業や学校生活などでもVRを活用しています。

講演のなかでは、社会科の授業で「囚人のジレンマ」を行った際にVRでアバターを用いるとアナログの時と比べてゲームの結果に性差がなくなった事例や、家庭科の授業で消費者庁のVR動画を臨場感たっぷりに視聴した様子をご紹介いただきました。

実際に教育現場でVRを使用することで、子どもたちは大人よりもVRへの慣れが早かったそうです。Meta Questの使い方を教員から軽くレクチャーされた高校生が、2時間後の中学生見学会では中学生に教えてしまうほどの対応力だとか。

とはいえ、閲覧コンテンツの把握方法やネット環境・ヘッドセットの管理、教員研修、機器の準備、VR酔いなどの課題もあります。

ヘッドセットとコントローラーの管理の面では、複数台数のMeta Questヘッドセットとコントローラーが混在しないように、機器に番号が書かれたテープを貼ってアナログで管理しているという話や、授業にMeta Questを導入する際に、初回は子どもたちが大盛り上がりで体験に時間がかかるため、授業の進行を試行錯誤しながら実践を進めているとのお話もありました。

今後、実際にヘッドセット等を授業で取り入れる際、事前に把握しておくとよいヒントをたくさんお話しいただきました。

◆Meta Questを使ってVR体験会!離れた部屋からハイタッチ

「Meta Quest」の体験会

研究会の中では、「Meta Quest」を用いて「Meta Horizon Workrooms」というバーチャル会議室アプリの体験会も行われました。「Meta Horizon Workrooms」はバーチャル空間の中で会議やおしゃべりができるアプリです。体験会では「Meta Quest」を初めて体験する参加者が多く、大盛り上がりの時間となりました。

体験会の参加者は3つの教室に分かれて各部屋の「Meta Quest」ヘッドセットを装着します。同じバーチャル空間に別の部屋から集合し、各々のアバターとのハイタッチやおしゃべりを楽しみました。参加者からは「それぞれのアバターのいる場所から声が聞こえるので、その場で話しているかのような臨場感がある!」との感動の声も。

「Meta Quest」をつけている参加者が見ている景色をモニターで共有

また、体験会では会場のWi-Fiが不安定で接続に時間がかかる場面もありました。実際に教育現場に導入する場合には、機材の導入に加えて必要台数が問題なくネット接続できる環境整備も重要となりそうですね。黒木先生によると、横浜市の勤務校でも接続環境が万全とは言い切れない場面もあるようです。

◆VRを使ったアイデアが飛び交うディスカッション

研究会の後半では、千葉授業づくり研究会では定番のディスカッションを実施しました。オンライン上で質問ができるサービス「Slido」を使用して、参加者と登壇者で議論を行います。今回は、学校でのVR活用についてのアイデアも多く、活発な議論が行われる時間となりました。

 

ここからは、ディスカッションの様子を一部抜粋要約してご紹介します(敬称略)。

 

QVRを学校と家庭で繋いで使う場合、児童生徒の各家庭にヘッドセットなどの機器が貸与されるのですか?

(黒木)メタバースの空間に入るだけであれば、ヘッドセットがなくてもパソコンやスマホから入室し、チャットなどを楽しめるアプリもあります。

QVRを使えば子どもたちが保健室などで悩みを相談しやすくなりますか? 実際に養護教諭として勤務をしていると、悩みを相談するために保健室に来ることができずに不登校になってしまう子を見ます。

(栗原)学校とは別ですが、精神科医の方がアバターを使って相談を受けている事例があります。相談者が自宅からアバターの姿で話すことができるという面で、相談のハードルが下がる部分もあると考えます。

(黒木)ちょうど勤務校の養護教諭からもそのようなリクエストが来ていました。子どもたちの中には悩みがあっても「保健室に行く様子をほかの人に見られたくない」と感じる子もいるので、VRでの相談室があるとよさそうですね。

VRを活用した教育利用や活用事例の豊富な説明やモデル校の取り組みのご紹介、「Meta Quest」の体験会などを経て、議題や提案が次々と出てくるディスカッションとなりました。

黒木先生からは、横浜市立東高等学校で検討したことのある案として「音楽の授業で、オーケストラの楽団に入り込んだように感じられる空間で楽器を演奏できないか」「物理の授業で、光の速さをどのくらいの速さなのかを体感できる」「化学の授業で、危険な薬品を使う実験をVRで体験する」などのアイデアもご紹介いただきました。

最後に、ディスカッションで出てきたアイデアの一例をご紹介します。ぜひ、参考にしてくださいね。

・数学で立体物をバーチャル空間でつくる

・建物の高さをバーチャル空間で測定できるようにする

・心理的に厳しい動物の解剖などをVRで行う

・職業体験や修学旅行をVRで行い、体験の格差を補う

・アバターを使った自己表現や面接練習

・物理の光の速さの授業で、VRを使って月と地球でテニスをして光の速さを体感できる教材

・VRを使ってエンジンや細胞の中などに入ってみる教材 など

結びになりますが、ご講演いただきました栗原さん、黒木先生、参加者のみなさま、誠にありがとうございました。

【記事担当:千鳥あゆむ】

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