今回は、京都市教育委員会生涯学習部にうかがいました。統括首席社会教育主事の稲葉弘和先生に、「みんなで考えよう、ケータイ・スマートフォン」の活用した取り組みをご紹介いただきました。
また、京都市立大枝中学校で授業を行われた情報モラル市民インストラクターのみなさまにも、感想をうかがいました。
統括首席社会教育主事 稲葉弘和先生
今回は、京都市教育委員会生涯学習部にうかがいました。統括首席社会教育主事の稲葉弘和先生に、「みんなで考えよう、ケータイ・スマートフォン」の活用した取り組みをご紹介いただきました。
また、京都市立大枝中学校で授業を行われた情報モラル市民インストラクターのみなさまにも、感想をうかがいました。
統括首席社会教育主事 稲葉弘和先生
A:以前から、保護者を対象にした「ケータイ講座」を実施していました。一昨年から、小学生や中学生を対象にした授業のプログラムを開発して、授業を受けた児童・生徒を通じて保護者にも考えてもらうための事業を始めました。それが「スマホ学習『みんなで考えよう!スマートフォン・ゲーム機とのつきあい方』」です。
学年や内容によっていくつかのプログラムがありますが、中学生を対象にした2時間展開の「SNSのトラブル」と題した授業で「みんなで考えよう、ケータイ・スマートフォン」のドラマ教材を活用しています。学年は1年生から3年生まで、各学校に決めてもらって、授業を実施しています。
A:授業は基本的に担任の先生が進行します。情報機器やSNSに関する知識、トラブル事例などの解説は、情報モラル市民インストラクターが担当します。市民インストラクターは一定の研修を受けた方が派遣されます。元PTA役員の方が多いです。授業の1~2週間前には活用している機器や使用時間などにまつわるアンケート調査をして実態の把握をしています。
授業の冒頭で、担任の先生からこの授業の目標が提示されます。次に、市民インストラクターがSNSの基本的な知識について解説したあと、ドラマ「学校で考えよう、スマホのコミュニケーション」を視聴します。ドラマの中で出てくる行動の問題点を、ワークシートにメモします。
その後、生徒個人のメモをもとに意見交流を促して、グループごとに2つの問題点に絞ります。各グループの意見を発表して共有した後、さらに学級全体で討議するべき問題点を2つ選定します。
問題点について、生徒個人が解決策を考え、付箋に書き出します。それをグループごとに意見交換した後、学級全体で共有して、解決策についてみんなで話し合います。
最後に、市民インストラクターがSNS利用上の注意点について、スライドを用いて解説します。教室での話し合いを経ているため、生徒たちは問題意識を持ちながら解説を聞いてくれるようになりました。
また、話し合われた内容が、学級通信や個人懇談会などの場を通じて保護者などに周知されます。
A:「みんなで考えよう、ケータイ・スマートフォン」のドラマ教材は、SNSのコミュニケーションだけでなく、使い過ぎによる生活習慣の問題、歩きスマホなど、様々な要素が描かれていますので、多彩な論点で議論を発展させることができます。また、教材の雰囲気が明るいことも理由です。
この事業では、子どもたち自ら問題解決に向かう姿勢と心構えを育成していくことが目標です。ドラマ教材は、省庁が作成したものや企業が作成したものなどをいろいろ探して視聴しましたが、この学習内容に適していると判断したのが、「みんなで考えよう、ケータイ・スマートフォン」でした。
A:単なる知識注入型の授業では、子どもたちは聞き流してしまいがちです。「みんなで考えよう、ケータイ・スマートフォン」を使った授業では、問題解決の方法を、子どもたち自ら考えて、みんなで共有できます。このような主体的な学びから、自ら考えて、行動につなげられるようになってもらいたいです。
ドラマの中では、日常で子供がやってしまいがちなケータイ・スマホ利用にまつわる行動が扱われているため、問題点を見つけ出しやすいですね。
モデル指導案では1コマ(50分)で授業を行う形を示していただいていますが、この授業では、主体的に深め合う話し合いを行うために、2コマ(100分)扱いで授業を行っています。
A:中学生は、どちらかというと、あまり話したがらない生徒も多く、自分を表現することが少ないという印象を持っていました。しかし、この授業を通して、問題解決の方法を考えて書く力や、集団で討議する力があることに気がつきました。こちらが予期していないような回答をして、深く質の高い議論ができるということもわかりました。
生徒が討議し合う授業形態に慣れていない先生にとっては、普段の学びの姿勢を考えるきっかけになると思います。生徒が主体的に話し合う授業を体験することで、対話しながら学習することの意義を感じ取っていただけるのではないでしょうか。
A:スマートフォンが普及した現在は、大人と子どもが同時に「小型コンピューター」を利用するようになった状態と言えます。子どもたちだけではなく、教員や保護者もまだ使いこなせていない状況が課題です。
インターネットの特性を理解したうえで、人の気持ちを大切にしながら情報機器を使いこなす能力を積極的に指導していく必要があると考えます。現状では、情報機器の利活用で生じる問題を改善するための授業となることが多いですが、さらに情報化が進む未来に向け、単に道具に使われるのではなく、正しい価値観のもとで機器を使いこなせることができるようにしていきたいです。
A:インターネットを楽しく利用している時間は、ついつい長くなってしまいがちです。しかし、それは同時に何か別のことができた時間でもあると思います。今後、行動の選択による機会費用(オポチュニティコスト)についても考えさせる場面を組み入れた教材が開発されていくことに期待しています。
情報モラル市民インストラクターの團野さん
・以前、市内の小学校でPTA会長をさせて頂いて、市教委からの勧めもあり市民インストラクターの活動をしています。大枝中学校のみなさんは、普段から話し合い活動がしっかりとされていると感じました。(團野さん)
情報モラル市民インストラクターの岡田さん
・普段は絵本・読書・わらべうたの普及などを通じた、子育て支援活動も行っていますが、メディアと子供の成長や言葉の発達に関しての学びも行ってきました。そこから、市民インストラクターの活動をしています。授業では、様々な意見を持って議論をしてもらいました。補足の話も真剣に聞いてもらうことができました。書き込まれた感想を見ると、本日の学びがきちんと伝わっていると思いました。(岡田さん)
情報モラル市民インストラクターの永田さん
・京都市PTA連絡協議会で常任理事を務めたご縁から、市民インストラクターの活動を行っています。インターネットに詳しくない自分が、インストラクターなんてありえないと思いました。しかし、自分自身が学びたいと思って研修を受けたところ、ハード面の使い方ではなく、子供たちが危険を回避するための心のお話をするのだとわかり、ぜひ活動したいと思うようになりました。中学1年生の授業では、みなさん熱心に課題に取り組んでいました。ドラマの登場人物の問題点を指摘する場面では、こちらからはお手本のような回答ばかりでなく「そこが気になったの?」とツッコミをいれながら対話ができたので、今日の学習の事を印象づけられたと思います。(永田さん)
以上、京都市教育委員会の取り組みに関するインタビューでした。この記事に対するお問い合わせはこちらよりお聞かせ下さい。